アジア / 制度動向
台湾専利法改正(2013年6月11日公布)の概要
2014年06月10日
■概要
2013年6月11日に公布された改正専利法では、二重出願、損害賠償及び実用新案(新型専利)の権利行使に関する規定についての改正が行われている。■詳細及び留意点
【詳細】
2013年6月13日に専利法改正法が施行された(同年6月11日公布。以下「新法」という。)。今回の改正ポイントは以下の通りである。
(1) 特許及び実用新案の二重出願について
同一出願人が「同一発明」について、特許出願と実用新案出願を同日に行った結果、特許出願が係属中で、実用新案が登録査定を受けている場合において、特許出願について特許査定を行う際、台湾知的財産局(TIPO)は、期限を定めて特許権と実用新案権の何れかを選択するように、出願人に要求する。
改正前の専利法では、出願人が特許権を選択した場合、実用新案権を「最初から存在しないものとみなす」(遡及消滅制)としていたが、この度改正された新法では、実用新案権は遡及消滅せず、特許権が付与される公告日に消滅したものとみなすことになった(新法第32条第2項)。
実用新案権が遡及消滅しなくなると、特許査定公告前の他人による発明実施行為に対し、特許出願に基づく補償金請求と実用新案権に基づく損害賠償請求の両方を行うことが可能となり、二重利得になる。そこで、改正新法では、特許出願による補償金請求権と実用新案権による損害賠償請求権について、何れかを選択して行使しなければならないと規定した(新法第41条第3項、中央法規標準法第13条)。
(2) 合理的ロイヤルティを基とした損害賠償額の計算について
改正前の専利法では、損害賠償額の計算について、「当該特許の実施許諾により受取ることができるロイヤルティに相当する額をその損害額にできる」と規定されていた。
しかし、権利侵害に対して請求された損害賠償額がロイヤルティと同額となると、実施権者はライセンス締結により、ロイヤルティに加え取引コスト(例:会計検査義務)を負担しなければならないが、侵害者はこのようなコストを負担しておらず、合理的ロイヤルティ相当額を支払うのみとなる結果、ライセンスを事前に締結する意欲を失わせる虞がある。また、ライセンスを事前に締結しなければ、専利権者は追加コスト(例:訴訟費用、弁護士費用)を負担しなければならない。
そこで、許諾関係におけるロイヤルティより損害賠償額が高くなる可能性があることを明記するため、「当該特許の実施許諾により受取ることができるロイヤリティーを基礎として損害を計算する」と改正された(新法第97条第1項第3号)。
(3) 懲罰的損害賠償制度の復活
改正前の専利法第85条第3項には、「侵害行為が故意である場合、裁判所は侵害の状況により損害額以上の賠償を斟酌裁定できる。ただし、損害額の3倍を超えてはならない。」とする懲罰的損害賠償規定があった。同規定は2011年11月29日の改正により削除され、専利損害賠償は民事損失補填原則となったが、知的財産権は無体財産権であるという特性によって損害賠償額を計算することが困難であることから、特許権者が適正な賠償を得られないことが問題となった。
そこで、台湾におけるその他の法令及び海外の立法例も鑑み、特許権者の権益保護のために、2013年改正によって「侵害行為が故意である場合、裁判所は被害者の請求に基づき、侵害の状況により損害額以上の賠償を斟酌裁定できる。ただし、証明された損害額の3倍を超えてはならない。」とする懲罰的損害賠償規定が復活した(新法第97条第2項)。
(4) 実用新案技術評価書について
実用新案権をもって警告を行う場合、実用新案技術評価書を提示しなければならず、旧法第116条においても、実用新案権を行使する際に、「実用新案技術評価書を提示し警告を行わなければならない」と規定されていた。しかし、旧法の立法理由においては実用新案技術評価書の提示を起訴の要件とするわけではないということを容認しており、あくまで訓示規定とされていた。
しかし、2013年改正により、実用新案権を行使する際の実用新案技術評価書の重要性を明示するため、権利者が実用新案技術評価書を提示しない場合、警告を行ってはならないと明記された(新法第116条)。
【留意事項】
- 中央法規標準法第13条によると、新法は公告日の2013年6月11日より3日目、即ち2013年6月13日より施行すべきとされている。旧法施行(2013年1月1日)後、新法施行日(2013年6月13日)までに出願された専利については、旧法が適用される(新法第159条第2項)。
- 旧法施行日以降(2013年1月1日)から新法施行日(2013年6月13日)にまたがって継続的に専利侵害行為が行われていた場合、2013年1月1日から6月13日の間に行われた侵害行為については、懲罰的損害賠償額の計算からの対象外となることに注意すべきである。
■本文書の作成者
聖島国際特許法律事務所■協力
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻■本文書の作成時期
2014.01.20