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両岸経済枠組協力機構の協定(ECFA)の台湾知的財産権制度にもたらす影響
2019年05月09日
■概要
中国と台湾の両岸の協力・交流に関して、2010年に両岸経済枠組協力機構の協定(Economic Cooperation Framework Agreement: ECFA)並びに海峡両岸知的財産権保護協議(the Cross-Straits Intellectual Property Protection Cooperation Agreement)が締結された。これらは台湾の知的財産権制度に大きな改革をもたらし、とりわけ優先権、紛争協議および著作権の認証等手続きに対して大きな影響を及ぼした。■詳細及び留意点
【詳細】
(1) 両岸経済枠組協力機構の協定(以下、「ECFA」という)とは
ECFAは一種の「機構」における協定であり、中国と台湾間の特殊な関係を考慮して設立されたものである。大部分の貨物およびサービス業者が貿易協定の協議および契約締結に長時間を要する問題を解消するため、実際の需要を考慮して、まず、下記条項を含む主な事項における処理原則を定めた「機構協定」を締結し、解決を図った。
・今後の貨物貿易およびサービス貿易の商業上の協議
・投資における保証制度
・経済協力の推進
・貨物とサービスの貿易における早期成果の獲得
・貿易救済規則(ダンピング対策、防衛措置等)
・貿易に関する争議(原因)の解決制度
・ECFAの有効および終了期間
すなわち、ECFA機構協定は両岸貿易の協力制度におけるひとつの起点であり、将来双方が推進する貨物貿易、サービス貿易、投資等業務の制度化の基礎となるものである。
(2) ECFAと知的財産権の関連性
両岸の貿易関連交流がますます密接になっていることに伴って発生した知的財産権の出願および権利侵害等関連争議は枚挙にいとまがない。これらの問題は両岸の貿易関連投資活動が日々増加していることに起因する他、両岸で同一の言語が使用されていることも原因の一つであり、知的財産権の保護が両岸共通の課題であることが明らかである。ECFA第6条にも、両岸がECFA締結後、知的財産権の保護および協力関係を強化することが明記されている。締結は2010年6月29日、重慶で行われた第5回江陳会にてなされた。またECFAの締結と同時に、「海峡両岸知的財産権保護協議」(以下、「IPR」という)も締結された。
(3) IPRの主な規定内容
(i) 優先権(IPR第2条)
台湾と中国は2002年、同時にWTOに加盟したが、中国はそれまで優先権の基礎出願と認めるための基本要件として、パリ条約の加盟国への出願であることを求めていた。そして、台湾は中国のひとつの省であって国ではないとして、台湾の優先権を認めようとしなかった。しかし、IPR第2条において、先方の専利、商標および品種権における最初の出願日の効力を確認することに同意し、両岸人民の優先権権益の保障に対する相互対応を積極的に進めるようになった(下記の「執行の効果」を参照)。
(ii) 植物品種の保護(IPR第3条)
両岸政府は各自公告した植物種類(植物品種保護リスト)の範囲内で先方の品種権の出願を受理し、申請できる品種権の植物における種類(植物品種保護リスト)の拡大について、協議することに同意した。
(iii) 審査と業務協力(IPR第4、5、6条)
審査作業の迅速な進行のため、双方は専利の検索および審査結果、品種権審査と検査等の情報の相互利用に対して積極的に協力することに同意した(IPR第4条)。
また、専利、商標の分野の更なる交流を促すため、両岸の専利、商標等業界における協力体制を拡大することにも同意した(IPR第5条)。
この他、両岸の文化創作である映像製品の交流を推進するため、著作権の認証についての共同体制が確立され、一方の映像製品が他方で出版されるとき、一方が指定する関連協会または団体にて受けた著作権の認証が他方でも認められるようになった(IPR第6条)。
(iv) 共同体制(IPR第7条)
法の執行にあたっても共同体制が確立され、下記の知的財産権保護事項について各自の規定によって適宜に処理することができる。
・海賊版および模倣品に対する取締り。特にインターネットを介して海賊版の書物、映像およびコンピュータシステム等を提供し、または提供に協力する権利侵害ウェブサイトや市場に流通している海賊版および模倣品。
・著名商標、地理的表示または著名な産地名称の保護
・悪意による先取り登録行為の防止。
・権利者が先取り登録された著名商標、地理的表示または著名な産地名称について取消請求する権利を保障する。
・果物およびその他農産品における虚偽の産地標示に対する市場での監督・管理および調査・取締り措置の強化。
(4) 執行の効果
(i) 優先権について
IPRは両岸主務機関の協議によって発効後、内部関連作業の調整を経て2010年11月22日から両者機関による受理が開始された。2010年11月22日より2018年6月30日までに中国で台湾出願を基礎とする優先権が主張された専利は計38,288件、商標は406件、品種権は3件であった。一方、台湾で中国出願を基礎とする優先権が主張されたのは専利が計22,719件で、商標は792件であった。両岸が双方の優先権を認めた後、権利者の両岸の出願日が異なるためにその両出願日の間に第三者に不法に先取り出願される事態を回避できるようになった。このように、当該措置は優先権の保障について成果が上がっている。
(ii) 版権認証について
従来、台湾の映像・文筆産業が中国市場に参入するときは、先ず香港を通じて著作権の認証を行い、次に中国の関連機関による出願審査を経た後、中国での発行が可能となった。このため、上記手続きに時間がかかり、中国での発行が遅れる他、当該手続きの間に他者に模倣される傾向があった。IPR署名後は、ビジネス交流の迅速化を図るために認証業務の共同体制を確立する必要に迫られた。
台湾特許庁はこれを受けて2010年11月17日、社団法人台湾著作権認証機構(以下、「TACP」という)を、台湾当該業界が中国市場への映像・音楽製品を出版する際の著作権認証機構として指定した。さらにTACPも2010年12月16日、中国の国家版権局の認可を得たため、台湾著作権保護協会は台湾の映像・音楽出版業者がより迅速に中国市場に参入できるよう、現在のように台湾の映像・音楽製品の中国市場参入時における著作権の認証作業を行い、作業工程を簡略にしている。TACPが2018年7月末までに受理した台湾の映像・音楽業者の認証請求案件は、録音製品1,099件、映像製品38件の計1,137件である。
(iii) 協力・処理について
ECFAおよびIPRの署名前に、両岸政府は主に民間機構を通じて、毎年輪番で専利、商標および著作権についての論壇を設け、両岸知的財産権保護問題について討論および意見交換を行った。このような交流を通じて、次第に特定の議題に対する解決方法または協力方法が確立されていった。しかしながら、民間機構に協力してもらって行う処理は間接的なもので、処理スピードも非常に遅く、煩雑であった。例えば、「台湾ビール」の商標を中国で登録出願したときは登録まで10年を要した。両岸知的財産権事務の協力関係を強化するため、IPR署名後は「専利」「商標」「著作権」および「品種権」の4つの作業チームが設置され、毎年定期的に作業チーム会議が開かれ、お互いの共通認識を模索するため、双方の重要事項および問題について話し合いが行われた。
IPR協議の発効時から2018年7月末までに、台湾特許庁は当該協議機関が確立したコミュニケーション形態と協力・処理体制を通じて、台湾人の、海賊版、模造、音楽・映画等を不法にダウンロードするウェブサイトに対する取締り、および、著名商標または著名な産地名称の先取り登録と台湾の果物の偽物等に対する取締りを含む知的財産権問題の解決に協力した。近年成果が上がった案件としては、「曼黛瑪蓮」、「女人我最大」、「CSBC(台湾国際造船股份有限公司の略称)」、「新東陽」、「吉園圃」、「欧萊徳」、「MSI微星科技」、「台銀」、「台塩生技」等の商標、および「CAS」証明標章の中国で受けた侵害、または救済を求める際に遭遇した困難に対して早期解決できたこと等が挙げられる。
【留意事項】
(1) 知的財産権の保護についても属地主義が採用されているので、両岸が協定に署名した場合でも、中国で専利、商標または植物品種権の保護を受けたいときは、中国の法律規定に従って登録出願または登録をしなければならない。また、両岸のECFA署名後も、台湾で取得した専利、商標または植物品種権は自動的に中国で保護を受けられるということはない。同様に、中国人が台湾で保護を受けたい場合は、台湾の関連法律規定に従って登録出願または登録しなければならない。
(2) IPRは台湾企業と台湾国民の保護を重視しているため、台湾の会社法人であれば、中国で優先権を主張することができる。出願人が複数である場合、中国は出願人のうちの一人が台湾国民で、その台湾国民を筆頭出願人としていれば、その他の出願人の国籍がどこであっても、その台湾案件に対する優先権の主張を受理する。外国企業の台湾支社については、当該会社が台湾の関連法律によって認可されており、関連技術開発が台湾でなされていれば、同様にその台湾案件に対する優先権の主張を受理する。
(3) 商標の先取り登録取消審判請求の成功案例に対する台湾特許庁の分析によると、当該請求を成功させるためには以下の要件を満たしていなければならない。
・明らかに悪意による先取り登録であり、当該証拠を積極的に提出できること。
・中国で実際に商標を使用し、知名度を有すること。
・公益に係わり、または民衆への影響が比較的大きい案件は注目を浴びやすい。
■ソース
・両岸経済枠組協力機構の協定(Economic Cooperation Framework Agreement: ECFA)全文http://www.ecfa.org.tw/RelatedDoc.aspx ・両岸経済合作委員会Q&A
http://www.ecfa.org.tw/Download.aspx?No=41&strT=ECFADoc ・台湾特許庁の告知
https://www.tipo.gov.tw/np.asp?ctNode=6787&mp=1 ・台湾特許庁の広報資料
https://www.tipo.gov.tw/ct.asp?xItem=641185&CtNode=7809&mp=1
■本文書の作成者
聖島国際特許法律事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2018.09.20