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南アフリカにおける商標制度概要

〔詳細〕
 南アフリカの知的財産法は、1916年に商標法が制定されたのが最初である。現在は、パリ条約、ベルヌ条約およびTRIPS協定を含む様々な国際条約や協定を基盤としている。現行の商標法は、1993年法律第194号の商標法、施行規則およびコモンローにより規定されている。商標法および施行規則は、商標の所有者に法律上の権利を与える商標の登録および権利行使について定めている。コモンローは、未登録商標に関する権利を保護しており、詐称通用や不正競争といった権利行使の手段が使える。

1.保護可能な商標
 商標法第2条において、「「標章」とは、図により表示することができるすべての標識をいい、図案、名称、署名、語、文字、数字、形状、外形、模様、装飾、色彩、商品の容器又はこれらの組合せを含む。」と定義されている。また、商標とは、「ある者が、標章を使用し若しくは使用しようとする商品又はサービスを他人との取引の過程で関連する同種の商品・役務から識別する目的で、当該商品・役務に使用し又は使用しようとする標章をいう。」と定義されている(商標法第2条)。

 登録可能な商標の種類は、上記にて全てが網羅されている訳ではなく、伝統的および非伝統的商標を含み、識別性を有し(商標法第9条)、図により表示することができる標章を全て含んでいる。また、登録可能な非伝統的商標として、立体形状、色彩、ホログラム、動き/マルチメディア、位置、ジェスチャー、音、匂い、味、触感の商標が挙げられている(商標出願審査ガイドライン附則G)。

 非伝統的商標の登録可能性の判断基準に関して、登録官は、明瞭性、正確性、自己完結性、利用容易性、理解容易性、永続性および客観性を挙げている、「Sieckmann v Deutsches Patent und Markenamt事件(欧州司法裁判所C-273/00,2002年12月12日)」の判決を考慮すべきとされている。
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:62000CJ0273

 企業知的所有権委員会(Companies and Intellectual Property Commission、以下「CIPC」という。)は、2009年1月に非伝統的商標の出願および審査に関するガイドラインを発表した(商標出願審査ガイドライン2.5.2、附則G)。ガイドラインでは、非伝統的商標を出願する際の要件が、商標の態様ごとに定められている。また、非伝統的商標の登録審査のためのさらなる要件として、例えば、証拠の提出などが登録官より求められる場合があるとされている。

 商標法第42条および第43条に従い、証明商標および団体商標を登録することも可能である。

 証明商標は、商品または役務の種類、品質、数量、意図される用途、価値または原産地といった特定の特徴に関して、当該商標所有者により証明される商品または役務と、その証明対象ではない商品または役務とを識別できるものでなければならない(商標法第42条(1))。証明商標は、登録を求める商品または役務について事業を営む者の名義で登録することはできない(商標法第42条(1))。そのような者は、独立した認証機関として行動できないためである。証明商標の登録出願において、出願人は、求めている登録の対象である商品または役務について取引を行っていない旨の陳述書および商標の使用を管理する規約を添付しなければならない(商標規則56(3))。

 団体商標は、団体の構成員である者の商品または役務と、構成員ではない者の商品または役務とを識別できなければならない(商標法第43条(1))。団体商標は、当該商標を使用する団体の管理機関として行動する者または事業体が所有できる。地理的名称その他の原産地表示も、団体商標として登録することができる(商標法第43条(2))。団体商標出願には、商標を管理する規約を添付し、規約には商標を使用することを許可された者、団体の構成員の資格の条件および該当する場合は濫用に対する制裁措置を含む商標の使用の条件を明記しなければならない(商標規則57(3))。

2.分類
 南アフリカでは、指定する分類ごとに別々の出願を提出する必要があり、複数分類の出願は認められていない(商標規則11条(3)、商標出願審査ガイドライン1.3)。商品および役務の分類に関して、南アフリカはニース協定には加盟していないが、世界知的財産機関(WIPO)の商品およびサービスの国際分類(ニース分類第11版)を採用している(商標出願審査ガイドライン2.2.2)。
https://www.cipc.co.za//wp-content/uploads/2021/04/CLASS_HEADINGS_19_NICE_V20.pdf

 実務経験によると、南アフリカの登録官は、類見出し(クラスヘディング)による出願を認めており、南アフリカではかなり広範な指定商品または役務で出願されるのが一般的である。しかし、かかる指定商品または役務により保護されるすべての商品または役務に関して所有者が商標を使用しない場合、または使用する意思がない場合は、部分的に取り消されるおそれがある(商標法第27条(1))。

3.手続および必要書類
3-1.調査

 一般に、商標出願する前に、使用可能性および登録可能性を確認するための調査を行うことが推奨される。調査を行う際には、誤認混同が生じる商標を特定するために考慮すべき様々な要素が存在するため、南アフリカの商標専門の代理人に調査の実施と報告を依頼することが望ましい。下記のリンクを通してCIPCにアカウントを登録することにより検索が可能である。簡易検索または図形要素検索ができ、簡易検索では、出願番号、称呼またはニース分類記号を入力することにより検索することができる。図形要素検索では、ウィーン分類による検索が可能となっている。
https://iponline.cipc.co.za/Account/Login.aspx?pb=d78/xsNSyRPmvb0BDOobBeX86fQXlkZcqbQotRNxOG+12jOcoHNxD8NdjQTlCxms

3-2.出願
 出願に際して、出願人は出願用の書式TM1を作成する必要がある(商標規則11、商標出願審査ガイドライン附則C)。書式TM1は、CIPCに書面で提出するかまたは電子的手段により提出することができる。出願人の選任した代理人が書式TM1を提出する場合は、委任状も必要となる(商標規則11(2)、商標出願審査ガイドライン3.5.2および附則L2)。審査の時点で委任状が提出されていない場合、提出を要求される(商標出願ガイドライン3.5.2)。委任状提出遅延の追加料金を支払わなくても済むように、委任状のコピーを出願書類に添付して提出することもできる。ただし、商標登録を許可される前に、署名済み委任状の原本を登録官に提出しなければならない(商標出願審査ガイドライン3.2.2および4.1)。

 パリ条約に基づく優先権主張を伴う南アフリカ出願を行う場合、他の条約加盟国における出願日から6か月以内であれば、当該条約加盟国における出願の優先権を主張することが可能である。優先権主張を行う場合は、優先権の証明は、南アフリカ出願と同時にまたは南アフリカ出願の出願日から3か月以内に提出しなければならない(商標法第63条(3)(a)、商標規則12)。

3-3.審査
 出願は、絶対的拒絶理由および相対的拒絶理由の双方について審査される(商標法第16条(2)(c)~(d)、商標規則15(2)、商標出願審査ガイドライン3.3、3.4)。登録されるためには、商標は少なくとも以下の要件を満たしていなければならない。

(1) 識別性がなければならない(本来的識別性または使用により獲得された識別性のいずれか)(商標法第9条、第10条(2)(a))
(2) 第三者の先行権利に抵触してはならない(商標法第10条(12)~(17))

 実務において、登録官から審査報告書を受領するまでに、出願日から約9‐12か月を要している。

 商標が審査され拒絶理由がなかった場合、登録官は商標登録を許可する(商標法第16条(2)(a)、商標規則15(3))。条件付で登録を許可する場合には、追加の条件(色彩の説明文、委任状の提出など)を満たすよう通知する(商標法第16条(2)(b)、商標規則15(3)、(5))。また、拒絶理由がある場合(主に商標に識別性がない、または第三者の先行権利と抵触する場合)、登録官は拒絶理由通知書を送付する(商標法第16条(2)(c)、(d)、商標規則15(4))。

3-3-1 無条件の登録許可
 拒絶理由がない場合、登録官は無条件に登録を許可する(商標規則15(3)、商標出願審査ガイドライン3.2.1)。

3-3-2 条件付の登録許可
 拒絶理由はないが、変更または修正に従うことを条件として、登録官が出願を登録許可する場合、出願人に条件付の登録許可を通知する(商標規則15(3)、(5)、商標出願審査ガイドライン3.2.2)。通知に対して、出願人は応答するか、または応答期限を3か月延長することができる(商標規則15(5)、商標出願審査ガイドライン4.2.1)。出願人が応答、または期間延長の申請のいずれもしない場合は、出願は放棄したものとみなされる(商標法第20条(2))。

3-3-3 拒絶理由通知
 拒絶理由がある場合、登録官は拒絶理由通知書を書面で出願人に送付する(商標規則15(4)、商標出願審査ガイドライン3.2.3)。拒絶理由通知から3か月以内に、出願人は自らの主張を書面で提出するかまたは聴聞若しくは期間延長を申請することができる(商標規則15(4)、商標出願審査ガイドライン4.2.2)。出願人が拒絶理由通知への応答、または期間延長の申請のいずれもしない場合は、出願は放棄したものとみなされる(商標法第20条(2))。

 登録許可の後、当該商標出願は、異議申立のために特許公報において公告される(商標法第17条、商標規則18)。南アフリカでは商標も「The Patent Journal」で公告され、毎月最後の週に発行される。出願人は公告申請しなければならず、登録官により自動的に公告されることはない。

 何れの利害関係人は、出願の公告日から3か月以内にまたは登録官が認めることがあるこれより長い期間内に、当該出願に対して異議を申立てることができる(商標法第21条)。3か月の異議申立期間の満了後、または出願に対して異議申立が行われたが登録許可が維持されたときは、登録官は商標を登録し、商標庁の印章で捺印した所定の方式による商標登録の証明書を出願人に交付する(商標法第29条)。

3-4.権利維持
 商標登録は出願日から10年間有効であり、登録を維持するためには10年ごとに更新しなければならない(商標法第37条(1)、(2))。更新登録出願の遅延については、満了後6か月間の猶予期間が与えられる(商標規則25(1))。登録の満了前に更新手数料を納付しなかった場合は、追加手数料が課される。また、満了後6か月の期限内に納付しなかった場合は、さらなる追加手数料が課される(商標規則25(2))。

 満了後6か月以内に更新手数料が納付されなかった場合は、登録官は、直ちにこの事実を特許公報に公告する。満了から1か月以内に、追加手数料と共に更新手数料が様式TM5(https://www.cipc.co.za//wp-content/uploads/Forms/Trade_mark/TM5.pdf)により納付された場合は、登録官は、登録簿から当該標章を抹消することなく、登録を更新することができる(商標規則26)。1か月の期間の満了後、当該手数料が納付されない場合は、登録官は、最終登録の満了日に当該標章を登録簿から抹消することができるが、追加手数料と共に更新手数料が様式TM5により納付され、登録官が、適切な条件の下で商標を回復することが公正であると判断する場合は、登録官は当該商標を登録簿に回復することができる(商標規則27、CIPCウェブサイト「MAINTAIN A TRADE MARK “RESTORATION OF TRADE MARK”」)。

4.異議申立手続
 出願の公告日から3か月間に、あらゆる利害関係人は当該出願に対して異議を申立てることができる(商標法第21条)。異議申立における利害関係人は、異議申立期間の満了前に、書面での通知により、当該期間の満了日から3か月間は登録証を発行しないよう登録官に請求することができ、この場合には登録官は登録証を発行してはならない(商標法第45条(3)、商標規則52(1))。異議申立手続の流れは、以下のとおりである。

(1) 申立人が、依拠する事実についての宣誓供述書により裏付けられた異議申立書を提出する。異議申立書は、商標規則の附則2の様式TM3による(商標規則19(1)、(2))。
(2) 出願人は、異議申立通知の送達後1か月以上の申立人に指定された何れかの日までに出願人が申立人および登録官に対し、書面で、当該申立てを防御する意図を有するか否か通報する。当該通報がなされない場合は、1月の期間の満了後10日以上の日に、申立てに係る聴聞が設定される(商標規則19(2)(d))。
(3)出願人は、申立てを防御する意図を有する通報から、2か月以内に答弁宣誓供述書を提
出しなければならない(商標規則19(2)(f))。
(4) 申立人は、答弁宣誓供述書の送達を受けてから1か月以内に、反対訴答宣誓供述書を提出することができる。登録官は、裁量により、さらなる宣誓供述書の提出を認めることができる(商標規則19(2)(g))。

 商標庁における未処理件数が多いため、登録官はすべての異議申立事件のヒアリングを南アフリカ高等裁判所に付託する方針を取っていることに注意が必要である(商標法第59条(2)、CIPCウェブサイト「MAINTAIN A TRADE MARK “OPPOSITIONS”」)。このような状況において、異議申立事件がヒアリング段階になると、登録官は付託書を含む事件ファイルの写しを異議申立人に提供し、登録官は高等裁判所に異議申立事件を付託する。高等裁判所に付託した際には、主張の要点を作成し、裁判所において論争するための法廷弁護士または顧問弁護士を選任することが慣行となっている。

5.取消手続
 商標登録は不使用を理由に、全部または一部が取り消される場合がある(商標法第27条)。下記の場合、不使用とみなされる。
(1) 指定商品および指定役務に関して商標を使用する出願人の善意の意思がないままに商
標が登録され、実際にこの意味で使用されなかった場合(商標法第27条(1)(a))
(2) 取消請求日の3月前までに、登録証の発行日から5年以上にわたり商標が使用されなかった場合(商標法第27条(1)(b))
(3) 2年以上前に商標の所有者が死亡した(自然人)、または解散しており(法人)、商標を譲渡する申請もされなかった場合(商標法第27条(1)(c))

 上記以外にも、商標登録が商標法第10条に記載されたいずれかの理由に該当するという事実により、商標が不当に登録された場合、または登録後に普通名称化する等で、本来の登録要件を満たさなくなっている場合は、商標の取消しを請求することができる(商標法第10条柱書)。取消手続の流れは、異議申立手続と同じである。

6.その他
 停電、抗議行動およびストライキ行動といった不測の事態のために、審査結果の入手や書類入手などに遅延が生じることもある。しかし、現在では手続の多くを電子化することで、手続遅延を回避し、未処理案件の解決に取り組んでいる。
 登録官は未処理件数の解消に努めているが、現時点では商標出願が登録されるまで実務において約24か月を要している。