南アフリカにおける特許出願の出願書類
〔詳細〕
1.特許出願およびPCTに基づく国内移行特許出願の出願書類に関する規定
パリ条約に基づく各国への直接出願(パリルート)の要件は、南アフリカの特許法(the South African Patents Act No. 57 of 1978)の第30条ならびに特許規則22、23および25に規定されている。
特許協力条約に基づく出願(PCTルート)に基づく国内移行特許出願の要件は、特許法第43A条~第43F条および特許規則67A~67Iに規定されている。
2.出願書類
出願書類は以下のとおりである。各Formは、Form P26を除き、特許規則に附則2として掲載されている。また、Form P26は、CIPC(Companies and Intellectual Property Commission:企業・知的財産委員会)ウェブサイトの「PATENTS FORMS AND FEES」から入手できる。
Form P1: 出願の願書(パリルートの場合)
Form P25: 国際出願移行書面(PCTルートの場合)
Form P2: 登記シート
Form P7: 完全明細書
Form P8: 公開事項および要約
Form P3: 宣誓書および委任状
Form P26: 固有の生物資源や遺伝資源の利用、伝統的知識またはその利用に関する供述書
譲渡証
以下に、各書類について説明する。
2-1.Forms P1, P25, P2, P7およびP8
これら全ての書類は、出願人に代わって特許出願を提出する権限が与えられた特許弁理士によって作成される場合が多い。Form P1またはP25の写しには、受領日および出願番号が記録され、出願書類の受領証としての役目を果たす。
Form P2は出願の登記シートであり、記載した内容が、特許登録簿に登録される。特許登録簿はオンライン・サイト「CIPC Intellectual Property Online」(https://iponline.cipc.co.za/Account/Login.aspx?pb=aVMvEDtYJoBv4STTqmvCTpb7MWDx2eY0ESHMO1dLY8+DkrV5ADDUPw==)で閲覧可能である。当該サイトへの閲覧には、登録してアカウントを作成することが必要であるが、詳細の手順については「南アフリカにおける特許公報の調べ方」の2. 公報検索(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/33729/)を参照されたい。
Form P8は書誌情報を含むものであり、南アフリカ特許公報において登録時に公開される出願の基礎情報として使用される。Form P8は要約(150字以内)および代表図(Form P8には記載欄がなく、必須ではない)とともに提出される。
Form P7は、(1)明細書およびクレームならびに(2)必要な図面とともに提出される(特許法第32条(3))。PCTに基づく国内移行特許出願については、国際公開の明細書、クレームおよび図面ならびにPCT規則第19条および/または第34条に基づく補正が南アフリカ特許庁において自動的に記録されるため、明細書、クレームおよび必要な図面を提出する必要はない(特許法第43F条(3))。
(1) 明細書およびクレーム
特許法第32条は、明細書の記載要件として、(a) 所定の要約を伴うこと、(b) 当該発明に係る技術に熟練した者が当該発明を実施できるよう、発明及び発明を実施する方法を十分に説明し、確認し、かつ、必要な場合は図示し又は例示すること、(d) 保護請求の対象である発明を明示するクレームを最後に記載すること、(e) クレームは、単一の発明に係るものでなければならず、明確でなければならず、また明細書で開示される事項に適切に基づくものでなければならないことなどを規定している。
特許法第43F条(3)(e)(i)は、特許協力条約第3条(2)でいう明細書、請求の範囲、必要な図面および要約は、完全明細書であるとみなすことを規定している。
南アフリカ特許庁の公式言語は英語である。最初の明細書として非英語の明細書も提出可能ではあるが、公式言語は英語であるため、英語の明細書が要求される。特許出願の書類として非英語の明細書が提出された場合には、その出願日から3月以内に宣誓書付き英文翻訳を提出しなければならない(特許法第30条(6)(c))。英語以外の言語で公開された国内移行特許出願の場合には、その移行日から6月以内に、公開された明細書およびクレーム(図面がある場合には、図面中のテキスト)の英訳、ならびに、PCT規則第19条および/または第34条に基づく補正の英文翻訳を提出しなければならない(特許法43E条(1)(b)、特許規則67B(2))。この場合の英文翻訳には翻訳者による宣誓は不要である。
(2) 図面(任意形式)
図面は、A4サイズ、白黒で、複製が可能なように十分に明確なものを提出しなければならない(特許規則20、21)。図面中に含まれる全てのテキストは英語でなければならない(当初に英語以外の言語で提出された場合には、英文翻訳をその後提出しなければならない)。
なお、パリ条約上の優先権が主張されている場合、優先権書類の認証付きコピーの提出が必要である(*)。優先権書類の言語が非英語である場合、その宣誓書付き英文翻訳の提出も必要である。しかし、PCTに基づく国内移行特許出願の場合には、優先権書類がWIPOの国際事務局に提出されており、優先権書類の受領を確認するForm PCT/IB/304が発行されていれば、上述の手続は不要である(特許法第30条(6)(b))。
(*) 2022年12月現在、南アフリカ知財当局は、デジタルアクセスサービスに参加していない。
2-2.宣誓書および委任状(Form P3)
Form P3は、南アフリカにおける各々の特許出願に必要である(特許法第30条(6)(a)(ii)、特許規則8、22(1)(c))。包括委任状は使用できない。Form P3は、通常の特許出願または国内移行特許出願の出願日から6月以内に提出しなければならない(特許規則33)。当該提出期限は、要求により延長できる。
Form P3は、以下に説明するいくつかの重要な取扱いを含む。すなわち、“特許出願に関して提出した所定の宣言が,重大な虚偽の陳述又は表示であって,宣言がなされた時に特許権者が虚偽であると知っていたものを包含している”場合には、南アフリカ特許の取消理由となる(特許法第61条(1)(g))。従って、Form P3中でなされる全ての宣誓は、真正かつ事実であると信じられるものでなければならない。
発明者が特許出願人である場合は、発明者により真正な発明者である旨等の宣誓がなされる(特許規則 附則2 Form P3)。特許出願人が発明者ではない場合、出願人は発明者から出願する権利を譲り受けた旨を含めて宣誓し、譲渡の経緯を示すため、後述の譲渡証等を提出しなければならない場合がある。
また、宣誓書には、「私が知り得る限り、当該出願人に特許が付与されたときに、当該特許の取消となる法律的な根拠は存在しない」という宣誓が含まれる(特許規則 附則2 Form P3第4項)。従って、特許が付与されるときまでに、特許出願人が知っている事情に照らして、特許出願は有効な状態にならなければならない。すなわち、明細書および/またはクレームに特許無効理由が含まれる場合には、特許付与までに自発補正により解消されなければならない。南アフリカの特許出願は先願発明に対する実体的な審査がなされないことから(特許法第36条)、特許付与の時にクレームが有効と考えられるものであり、かつ、権利行使可能なものであると確認する義務は出願人に課されており、無効理由の解消は特に重要である。
さらに、宣誓書には、優先権主張に関する宣誓も含まれる(特許規則 附則2 Form P3第5項)。優先権主張の基礎となる特許出願が、先の出願の継続または一部継続出願である場合に注意が必要である(特に米国出願を基礎として優先権を主張する場合にこのような状況が生じる可能性がある)。すなわち、南アフリカ特許出願の独立クレームの主題が、当該南アフリカ特許出願の出願日から一年より前に関連する出願の中で最初に開示されている場合、優先権を主張しようとする出願は優先権主張の目的においてパリ条約の同盟国でなされた最初の出願とはみなされない(特許法第31条(1)(c)(iii))。そのような後の出願に対する優先権の主張は無効であり、付与された特許は、上述のように宣誓書が虚偽の供述を含んでいることを理由に取り消される。この問題に対する解決方法としては、優先権の主張が無効となる発明の主題に基づく全てのクレームを南アフリカ特許出願から削除すること、または、自発補正により優先権の主張が有効となる範囲にクレームを減縮することがあげられる。
2-3.固有の生物資源や遺伝資源の利用、伝統的知識またはその利用に関する供述書(Form P26)
Form P26は技術分野に関わらず全ての特許出願について必要であり(特許法第30条(3A))、通常の特許出願または国内段階への移行書面の提出日から6月以内に提出しなければならない(特許規則33A(1))。当該提出期限は、公式の要求により延長できる。また、特許法第30条(3A)に関して提出された陳述が、重大な虚偽の陳述又は表示であって、陳述又は表示がなされた時点で特許権者が虚偽であると知っていた、若しくは虚偽であると知っていたはずである場合には、特許の取消申請の理由とされる(特許法第61条(1)(g))。
Form P26は、生物資源もしくは遺伝資源および伝統的知識に基づくもの、もしくは由来するものであるか否かの宣言を含むが、ほとんどの場合、南アフリカの固有の生物資源、遺伝資源または伝統的知識が発明の主題に使用されることはなく、フォームはそれに従って作成される。
クレームされた発明が実際に南アフリカの固有の生物資源もしくは遺伝資源、または伝統的知識もしくはその利用に基づくまたは由来するとの宣誓をForm P26が含む場合、South African National Environmental Management: Biodiversity Act No. 10 of 2004(生物学的多様性に関する法律)のいくつかの規定が適用される。そのような場合、特許出願人は生物資源もしくは遺伝資源の利用、または、伝統的知識の利用の権限を示す一つ以上の証拠の提出が必要である(特許法第30条(3B)、特許規則33A(2))。これらの証拠が提出されない限り、特許は付与されない。
2-4.発明の譲渡証(任意形式)
特許出願人が発明者から出願する権利を譲り受けている場合、出願する権利を譲り受けていることを証明するのに十分な書類、すなわち、譲渡証やその他の証拠を提出しなければならない(特許規則22(d)、23)。通常、各発明者によって署名された確認譲渡証が提出される。
譲渡証の提出に関してCIPCは2023年1月に実務通知を公表した(Practice Notice No.01 of 2023: Patent and Design Stakeholders)。これによれば、Form P3第3項において、発明が発明者から出願人に譲渡される旨を規定した雇用契約等を記載すれば、譲渡証の代替とされ得る(Practice Notice No.01 of 2023 5.(b)、P342)。また、その他の場合として、登録官を納得させ得る他の証拠の提出がある(Practice Notice No.01 of 2023 5.(c) 、P342)。例えば、発明者が譲渡証への署名を拒む場合に、出願人の会社における権限が付与された役員による宣誓書の提出がこれに該当する。ただし、このような場合であっても、発明者は雇用契約の範囲においてなされた発明を雇用主(出願人)に譲渡する義務を負うことを規定した譲渡契約の写しなど譲渡を立証する補足資料を必要とするのが一般的である。
出願日から18か月以内に完全明細書が受理されない場合は、出願は失効するが(特許法第40条)、譲渡証もこれと同じく通常の特許出願の日から18月以内に提出しなければならない。PCTルートの場合は国内段階への移行日から12月以内に提出しなければならないので(特許法第43F条(3)(h))、譲渡証も当該期間内に提出しなければならない。
〔留意点〕
南アフリカの特許出願の際に必要となる書類のほとんどは、特に作成が煩雑なものではないが、宣誓書および委任状等への署名には特別な注意が必要である。特に、特許を受ける権利の譲渡や優先権主張などの点で、虚偽の宣誓を含まないことが重要である。
南アフリカにおける特許出願の補正の制限
【詳細】
1.関連条項
南アフリカ特許出願において、特許明細書の補正(amendment)および訂正(correction)は、特許の存続期間中いつでも自発的に行うことができる。南アフリカ特許法(以下、「特許法」)の第50条および第51条は、係属中の出願または付与後の特許に対して可能な補正および訂正(以下、広義の意味で「補正」として取り扱う)について規定している。
1-1.南アフリカ特許法第50条(1)項
特許法第50条(1)項(a)は、あらゆる出願書類における誤記は、出願係属中または特許付与後に訂正可能なことを規定している。裁判所の判断では、記載または複写する際に、故意ではなく不注意により生じた誤りは、誤記であるとしている。
特許法第50条(1)項(b)は、特許法に明確な規定のないあらゆる文書の補正について定めている。この条項では、例えば出願の提出時に省かれてしまった発明者の名前、南アフリカ出願時には入手できなかった二番目もしくはそれ以降の優先権基礎出願の詳細情報が含まれており、補正によって追加することができる。
1-2.南アフリカ特許法第51条
特許法第51条は、特許出願の係属中および特許付与後の双方における、特許明細書の補正、または誤記以外の誤りの訂正(広義の補正)について規定している。出願係属中、明細書およびクレームは、下記を条件として、補正することができる。
(a)新規事項を追加するものではないこと。
(b)補正後の各クレームが、補正前の明細書に含まれていた事項に適正に基づいていること。
特許が付与された後の明細書およびクレームは、上記(a)および(b)に加え、下記(c)が満たされることを条件として、補正することができる。
(c)補正後の各クレームが、補正前の明細書に含まれていたクレームの範囲内に完全に含まれていること。
また、付与された特許に対する補正の申請は公告され、その後二ヶ月間が異議申立期間となる。一方、出願係属中の補正申請については公告されることはない。
2.新規事項の追加
補正を通して新規事項を追加することはできないが、特許法第51条(8)項は、出願当初の明細書に記載された事項と適正に関連づけられる新規事項は、その出願係属中であれば、補足開示(出願時の明細書およびクレームを補足するために、発明の更なる説明を加えた書面)により提出することができると規定している。なお、特許の付与後は、補足開示を提出することはできない。補足開示にのみ記載される事項については、その新規性判断の基準日は当該補足開示の提出日として取り扱われる。すなわち、あるクレームの根拠となる記載が、補足開示にしかない場合、そのクレームの新規性は、補足開示の提出日を基準として判断されることとなる。
3.補正の手続
特許法第51条の要件として、補正、または誤記以外の誤りの訂正の申請は、その補正または訂正の「十分な理由」を明記しなければならない。最高裁判所の最近の判決によれば、第三者および登録官に、その補正または訂正の理由が明らかになるように、補正の申請において十分な情報を提示しなければならない。
特許明細書の補正の申請には、下記(1)~(3)がなければならない。
(1)特許代理人により署名され、補正の十分な理由が明記された所定の申請書式。
(2)明細書のうち補正を要求するページのコピーであって、必要な補正を赤で示したコピー。
(3)補正が組み込まれた、補正ページの清書または再入力された写し。
4.無効なクレームを含む特許の扱い
南アフリカ特許のいずれかのクレームに無効理由が含まれる場合、その無効理由を含むクレームを補正して無効理由が解消されるまでは、その特許権全体を無効かつ権利行使不可と取り扱われる。特許権者が補正を行う場合でも、特許法第51条(10)項に基づき、提出された補正が、特許法第51条の規定に反する明細書の補正にあたると特許庁長官が判断する場合、その補正を無効とすることができる。したがって、このような場合、特許権者は、補正が適法に受け入れられるまで無効とされる可能性のある特許を有することになる。明細書の補正がなされた場合、その補正の結果、新たに侵害と認められる行為が生じた際には、特許庁長官は自己の裁量で、補正が行われる前の当該行為に関して損害賠償の認定を拒否することができる。さらに、その裁量による判断を下すにあたり、明細書の作成過程とこれまで補正がなされなかったことに関して特許権者の対応が適切であったか否かを考慮ことができる。
5.自発補正のすすめ
南アフリカの特許出願制度には、特許庁による先行例調査、実体審査、付与前異議申立はない。したがって方式審査で要件が満たされると、その特許出願はその時点で南アフリカ特許庁に係属している明細書およびクレームの通り自動的に特許付与段階へ進むことになる。それゆえ南アフリカにおける特許出願人は、他の審査主義国において、対応する出願の手続中に知った先行技術を考慮して、南アフリカ出願の明細書またはクレームを補正する必要がある。
特許存続期間中のあらゆる時点で、第三者は新規性の欠如および自明性を含む様々な理由により、特許の取消を特許庁長官に請求することができる。これに関して、南アフリカ特許法は英国特許法およびヨーロッパ特許法と同様、公知(文献公知を含む)、公用の事実に基づく新規性の喪失の基準として、特に南アフリカ国内外を問わないとする絶対新規性要件を採用している。それゆえ出願人が他の審査主義国において、対応する出願をしており、引用された先行技術による新規性欠如の結果として当該外国出願のクレーム補正が必要になった場合には、かかる新規性欠如を避けるために南アフリカ出願のクレームも補正する必要がある。南アフリカにおける新規性要件を満たすには、発明は当該発明の優先日前の時点における技術水準の一部を構成するか否かで判断され、新規性を判断する目的上、このような技術水準としては、当該発明の優先日の時点で未公開の南アフリカ出願に開示される事項も含まれる。
したがって、ある出願が、特許性を備えた1つ以上のクレームを含む一方、他のクレームは無効になる可能性がある場合には、これらのクレームの削除や補正(可能な場合)、または分割出願を提出することが望ましい。分割出願は、親出願の特許査定より以前に提出しなければならない。南アフリカ出願では通常、方式要件が満たされている場合、出願からおよそ9~12か月ほどで特許査定がおりる。
6.まとめ
南アフリカ特許出願において、自発的補正は、係属中の特許出願または付与された特許に対して行うことができるが、特許の付与後に行われる補正には、より厳しい制限が課せられる。
南アフリカ特許において、一つの無効クレームはその特許全体を無効にし、補正によって無効理由が解消されるまで権利行使できない。
第三者は特許存続期間中のあらゆる時点で、特許の取消を特許庁長官に請求することができる。
南アフリカでは、先行技術調査、実体審査、ならびに付与前異議申立制度はない。したがって方式審査を通過すると、その特許出願は特許査定がおりる。
【留意事項】
南アフリカ特許は特許の存続期間中いつでも補正できるものの、付与後補正は付与前補正より厳しい制限が課せられるので、瑕疵により特許が無効とされないために、また、既に認識している関連先行技術を回避して特許性を担保するため、特許付与前に補正することが望ましい。
南アフリカにおける特許出願の出願書類
【詳細】
1. 特許出願およびPCTに基づく国内移行特許出願の出願書類に関する規定
パリ条約に基づく各国への直接出願(パリルート)の要件は、南アフリカの特許法(the South African Patents Act No. 57 of 1978)の第30条および特許施行規則の第22、23および25条に規定されている。
特許協力条約に基づく出願(PCTルート)に基づく国内移行特許出願の要件は、特許法第43A条~第43F条および特許施行規則の第67A条~第67I条に規定されている。
2. 出願書類
出願書類は以下のとおりである。
- Form P1: 出願の願書(パリ条約に基づく各国への直接出願);または Form P25: 特許協力条約に基づく国際出願の南アフリカ国内段階への移行書面(国内移行特許出願)
- Form P2: 登記シート
- Form P7: 完全明細書
- Form P8: 公開事項および要約
- Form P3: 宣誓書および委任状
- Form P26: 固有の生物資源や遺伝資源の利用、伝統的知識またはその利用に関する供述書
- 譲渡証(任意形式)
以下に、各書類について説明する。
2-1. Forms P1, P25, P2, P7およびP8
これら全ての書類は、出願人に代わって特許出願を提出する権限が与えられた特許弁理士によって作成される。Form P1またはP25の写しには、受領日および出願番号が記録され、出願書類の受領証としての役目を果たす。
Form P2は出願の登記シートであり、記載した内容が、特許登録簿に登録される。特許登録簿はオンライン(http://patentsearch.cipc.co.za/patents/patentsearch.aspx)で閲覧可能である。
Form P8は書誌情報を含むものであり、南アフリカ特許公報において登録時に公開される出願の基礎情報として使用される。Form P8は要約(150字以内)および代表図(必須ではない)とともに提出される。
Form P7は、(a)明細書およびクレームならびに(b)必要な図面とともに提出される。PCTに基づく国内移行特許出願については、国際公開の明細書、クレームおよび図面、ならびに、PCT規則第19条および/または第34条に基づく補正が南アフリカ特許庁において自動的に記録されるため、明細書、クレームおよび必要な図面を提出する必要がない。
(a) 明細書およびクレーム
特許法第32条は明細書の記載要件として、発明が属する技術分野における当業者が発明を実施可能なように発明を十分に記載すること(必要により発明を図解または実証すること)、ならびに、保護を請求する発明を定義するクレームで終えることを規定している。
特許法第43F条第(3)項第(e)(i)号は、国際出願の国際公開における明細書、クレーム、図面および要約書は、明細書として見なされることを規定している。
南アフリカ特許庁の公式言語は英語である。最初の明細書として非英語の明細書も提出可能ではあるが、公式言語は英語であるため、英語の明細書が要求される。特許出願の書類として非英語の明細書が提出された場合には、その出願日から3月以内に宣誓書付き英文翻訳を提出しなければならない(特許法第30(c)条)。英語以外の言語で公開された国内移行特許出願の場合には、その移行日から6月以内に、公開された明細書およびクレーム(図面がある場合には、図面中のテキスト)の英訳、ならびに、PCT規則第19条および/または第34条に基づく補正の英訳を提出しなければならない(特許施行規則第67B条第(2)項)。この場合の英訳には翻訳者による宣誓は不要である。
(b) 図面(任意形式)
図面は、A4サイズ、白黒で、複製が可能なように十分に明確なものを提出しなければならない(特許施行規則第20条および第21条)。図面中に含まれる全てのテキストは英語でなければならない(当初に英語以外の言語で提出された場合には、英文翻訳をその後提出しなければならない)。
なおパリ条約上の優先権が主張されている場合、優先権書類の認証付きコピーの提出が必要である。優先権書類の言語が非英語である場合、その宣誓書付き英語訳の提出も必要である。しかし、PCTに基づく国内移行特許出願の場合には、優先権書類がWIPOの国際事務局に提出されており、優先権書類の受領を確認するForm PCT/IB/304が発行されていれば、上述の手続は不要である。
2-2. 宣誓書および委任状(Form P3)
Form P3は、南アフリカにおける各々の特許出願に必要である。包括委任状は使用できない。Form P3は、通常の特許出願または国内移行特許出願の出願日から6月以内に提出しなければならない。当該提出期限は、要求により延長できる。
Form P3は、以下に説明するいくつかの重要な宣誓を含む。特許法第61条第(1)項第(g)号には、“Form P3中の宣誓が、重大、かつ、宣誓時に特許権者が虚偽であると知っていた、もしくは、虚偽であると合理的に知られていた宣誓を含む”場合には、南アフリカ特許の取消理由となる。従って、Form P3中でなされる全ての宣誓は、真正かつ事実であると信じられるものでなければならない。
発明者が特許出願人である場合は、発明者により宣誓される。特許出願人が発明者ではない場合、出願人は発明者から出願する権利を譲り受けた旨を含めて宣誓し、譲渡の経緯を示すため、後述の譲渡証も提出しなければならない。
また、宣誓書には、「私が知り得る限り、当該出願人に特許が付与されたときに、当該特許の取消となる法律的な根拠は存在しない」という宣誓が含まれる。従って、特許が付与されるときまでに、特許出願人が知っている事情に照らして、特許出願は有効な状態にならなければならない。すなわち、明細書および/またはクレームに特許無効理由が含まれる場合には、特許付与までに自発補正により解消されなければならない。南アフリカの特許出願は実体的に審査されないことから、特許付与の時にクレームが有効と考えられるものであり、かつ、権利行使可能なものであると確認する義務は出願人に課されており、無効理由の解消は特に重要である。
さらに、宣誓書には、優先権主張に関する宣誓も含まれる。優先権が主張されている特許出願が、先の出願の継続または一部継続出願である場合に注意が必要である(特に米国出願に対して優先権を主張する場合にこのような状況が生じえる)。すなわち、南アフリカ特許出願の独立クレームの主題が、当該南アフリカ特許出願の出願日から一年より前に関連する出願の中で最初に開示されている場合、優先権を主張しようとする出願は優先権主張の目的においてパリ条約の同盟国でなされた最初の出願とはみなされない。そのような後の出願に対する優先権の主張は無効であり、そのような出願に対して付与された特許は、上述のように宣誓書が虚偽の供述を含んでいることを理由に取り消される。このような問題に対する解決方法としては、優先権の主張が無効となる発明の主題に基づく全てのクレームを南アフリカ特許出願から削除すること、または、自発補正により優先権の主張が有効となる範囲にクレームを減縮することがあげられる。
2-3. 固有の生物資源や遺伝資源の利用、伝統的知識またはその利用に関する供述書(Form P26)
Form P26は技術分野に関わらず全ての特許出願について必要であり、通常の特許出願または国内段階への移行書面の提出日から6月以内に提出しなければならない。当該提出期限は、公式の要求により延長できる。
Form P26は、生物資源もしくは遺伝資源および伝統的知識に基づくものもしくは由来するものであるか否かの宣言を含むが、ほとんどの場合、南アフリカの固有の生物資源、遺伝資源または伝統的知識が発明の主題に使用されることはなく、フォームはそれに従って作成される。
クレームされた発明が実際に南アフリカの固有の生物資源もしくは遺伝資源、または伝統的知識もしくはその利用に基づくまたは由来するとの宣誓をForm P26が含む場合、South African National Environmental Management: Biodiversity Act No. 10 of 2004(生物学的多様性に関する法律)のいくつかの規定が適用される。そのような場合、特許出願人は生物資源もしくは遺伝資源の利用、または、伝統的知識の利用の権限を示す一つ以上の証拠の提出が必要である。これらの証拠が提出されない限り、特許付与はされない。
2-4. 発明の譲渡証(任意形式)
特許出願人が発明者から出願する権利を譲り受けている場合、出願する権利を譲り受けていることを証明するのに十分な書類、すなわち、譲渡証やその他の証拠を提出しなければならない。通常、各発明者によって署名された確認譲渡証として提出される。
譲渡証は通常の特許出願の日から18月以内または国内段階への移行日から12月以内に提出しなければならない。
発明者が譲渡証への署名を拒む場合、出願人の会社における権限が付与された役員による宣誓書の提出が通常認められる。そのような宣誓書は、発明者は雇用契約の範囲においてなされた発明を雇用主(出願人)に譲渡する義務を負うことを規定した譲渡契約の写しなど譲渡を立証する補足資料が必要となる。
【留意事項】
南アフリカの特許出願の際に必要となる書類のほとんどは、特に作成が煩雑なものではないが、宣誓書および委任状等への署名には特別な注意が必要である。特に、特許を受ける権利の譲渡や優先権主張などの点で、虚偽の宣誓を含まないことが重要である。
南アフリカにおける知的財産権関連制度の運用実態
【詳細】
アフリカ諸国における知的財産権制度運用実態及び域外主要国による知財活動に関する調査研究報告書(平成26年2月、日本国際知的財産保護協会)4-(1)
(目次)
4 各調査対象国の知的財産権関連制度の運用実態
(1) 南アフリカ P.92