ベトナムにおける特許制度のまとめ-手続編
1.出願に必要な書類
特許出願について、願書、クレームを含む明細書、所定の手数料および料金の納付証が、出願受理のために必要な最低限の書類とされる(ベトナム知的財産法第108条、科学技術省通達01/2007/TT-BKHCNを改正する通達16/2016/TT-BKHCN(2018年1月15日付発効)(以下「通達」という)7.1 a))。最低限の書類がそろっている場合には、出願を受理し、出願日を認定する(通達12.2 a))。
関連記事:「ベトナムにおける特許・実用新案出願制度概要」(2019.06.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17469/
2.記載が認められるクレーム形式
(1) 認められるクレーム形式
特許審査ガイドライン(QUY CHẾ THẨM ĐỊNH ĐƠN ĐĂNG KÝ SÁNG CHÊ 5.7.3.2 a)には、保護を主張する各請求項は、製品(構造、装置、化合物、医薬品、化粧品、食品など)または工程(製造工程、調製工程、通信方法、加工方法など)の形で、保護が必要な1つの対象物についてのみ言及し、一文で記述しなければならない、と記載されている。
(2) 認められないクレーム形式
原則として、各請求項は独立しており、他の請求項を参照することはできない。ただし、その参照によって、他の請求項の全内容の繰り返しを避けることができる場合を除く。参照する請求項は、参照される請求項の直後に記載しなければならない(通達23.6 c)(viii))。
関連記事:「ベトナムにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務」(2017.05.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13679/
3.出願の言語
提出書類はベトナム語により作成されていることが必要である(ベトナム知的財産法第100条第2項、通達7.2 b)(ii))。委任状、特許等を受ける権利の承継を証明する書類、優先権証明書は外国語の原本にベトナム語の翻訳を付すことも可能である。外国語書面出願はない。
関連記事:「日本とベトナムにおける特許出願書類の比較」(2020.04.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18403/
4.グレースピリオド
ベトナム知的財産法第60条第3項に規定されているが、特許を受ける権利を有する者またはその者から直接もしくは間接に当該発明について情報を取得した者によって公開されているときは、発明登録出願がベトナムにおいて公開の日から12か月以内に行われることを条件として、グレースピリオドが認められる。
5.審査
(1) 実体審査:あり
(2) 審査請求制度:あり(ベトナム知的財産法第113条)
(a) 審査請求期間:特許出願の場合には出願日または優先日から42か月以内に、出願人またはいかなる第三者も審査請求をすることができる。実用新案出願の場合には、出願日または優先日から36か月以内に同様に審査請求をすることができる。
(b) 請求人:出願人またはいかなる第三者も審査請求をすることができる。
(3) 早期審査(優先審査):あり
日本出願に基づく日ベトナム間の特許審査ハイウェイ(「PPH」)試行プログラムに基づいて、申請要件を満たすベトナム国家知的財産庁(以下、「知的財産庁」という)への出願につき、関連する書類の提出を含む所定手続を行うことで早期審査を申請することができる。
関連情報:日ベトナム特許審査ハイウェイ試行プログラムについて
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/pph/japan_vietnam_highway.html
(4) 出願を維持するための料金:不要
関連記事:「ベトナムにおける特許審査基準関連資料」(2016.01.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/10250/
関連記事:「ベトナムにおける特許の早期権利化の方法」(2015.03.31)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8498/
6.出願から登録までのフローチャート
(1) 出願から登録までの特許出願のフローチャート
(2) フローチャートに関する簡単な説明
(A) 方式審査の期間は出願から1か月であり、知的財産庁は出願人にその結果を通知しなければならない。方式審査において不備が認められた場合、出願人に対し2か月の応答期間が与えられ、補正書や意見書の提出が可能である(通達13.6 a))。提出期間は2か月延長が可能である(通達9.2)。
(B) 公開前に審査請求がされた場合は公開の日から18か月の期間内に、公開後に審査請求がされた場合は審査請求の日から18か月の期間内に実体審査を行うと規定されている(ベトナム知的財産法第119条)。ただし、実務上は必ずしも上記の期限内に終わるわけではない。
法の定める保護要件を満たしていない場合、または法の定める保護要件を満たしているが不備がある場合には、実体審査報告を出願人に対して通知する。拒絶理由を明示したうえで、補正の提案を含むこともできる。応答期間は通知から3か月である(請求により3か月の延長可)(通達15.7 a)(i)および(ii)、9.2)。
(C) 登録許可通知から3か月の期間内に、登録料、公報発行手数料、第1年目の特許料の納付などをすべき旨を、出願人に対して通知する(通達15.7 a)(iii))。
関連記事:「ベトナムにおける特許・実用新案出願制度概要」(2019.06.27)
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[権利設定前の争いに関する手続]
7.拒絶査定に対する手続
拒絶理由に対し反論や補正を行わない場合、あるいは行ったが拒絶理由が解消しない場合には拒絶査定となる。一般的には、出願人は知的財産庁に対する審判請求を査定受領から90日以内に行い、知的財産庁長官が審決を確定する。審決に不服のある場合には、科学技術省への不服申立を審決受領後30日以内に行い、科学技術大臣が不服申立への決定を行う(政府決議第14条、通達22、Luật khiếu nại(日本語「不服申立法」))。
また、改正された通達22.1において、知的財産庁の処分への審判請求に関し、対象となる決定等の範囲が明確化され、出願の補正や審査段階で提出されなかった新規資料などは、拒絶査定不服審判では検討の対象外となることが規定された(通達22.1 c))。
さらに、改正された通達15.7 b)の第2段落において、「新規資料(審査段階で検討されていない)であって審査結果に影響を与えうるもの」を出願人が提出した場合には、拒絶査定を取り消して、審査を再開すると規定している。ただし、何がここでいう「新規資料」に該当しうるのかといった詳細な規定はないこと、拒絶査定を受けてからいつまでそのような提出が可能なのか規定されていないこと、常にそのような新規資料の提出が可能であれば権利関係の安定性に疑問もあること、といった検討すべき課題もある。
関連記事:「ベトナムにおける特許出願に関する方式審査上の拒絶理由通知」(2015.03.31)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8516/
8.権利設定前の異議申立
あり。出願が公報に掲載された日から登録証付与に関する決定の日までは、如何なる第三者も、当該出願に関する登録許可または拒絶に関して知的財産庁に意見を提示する権利を有する(ベトナム知的財産法第112条)。
9.上記7の判断に対する不服申立
行政訴訟法(Luật tố tụng hành chính)に基づく訴訟により、裁判所で争うことも可能であるが、一般的にはあまり利用されていない。
[権利設定後の争いに関する手続]
10.権利設定後の異議申立
なし
11.設定された特許権に対して、権利の無効を申し立てる制度
(1) 特許は、次の場合に完全に無効とされる。
(i) 出願人が発明の特許を受ける権利を有しないか、または譲渡されていなかった場合
(ii) 発明が特許付与日において保護要件を満たしていなかった場合
(2) 特許の保護対象の一部が保護要件を満たしていないときは、一部無効とされる。
(3) 特許の有効期間中、第三者は所定の手数料の納付を条件として、(1)および(2)の場合、特許の無効を知的財産庁にいつでも請求することができる(ベトナム知的財産法第96条)。
無効理由:特許を受ける権利(ベトナム知的財産法第86条)、特許の一般的要件(同第58条)、特許の保護の対象とならないもの(同第59条)
12.権利設定後の権利範囲の修正
特許権者は、特許請求の範囲を訂正することができる。
ただし、請求項の削除による権利範囲の減縮のみ可能である(通達20.1 b)(iii))
日本の訂正審判に相当する制度は存在しない。
13.その他の制度
産業財産権に関する侵害鑑定等を行う専門機関(VIPRI、http://vipri.gov.vn/)がある(ベトナム知的財産法第201条)。
ベトナムにおける特許の審査手続
1 方式審査
書誌的事項に不備がある場合、補正のための期間として通知の発行日から2か月を設定する(16/2016/TT-BKHCN(以下「通達16/2016」)第12条đ))。
出願人は、手数料を支払うことによって、当該期間を2か月延長するよう、1回に限り請求することができる(通達16/2016第9条)。
2 実体審査請求
実体審査請求は出願日(優先日)から42か月以内に行う必要があり、実体審査は実体審査請求が行われた出願に対してのみ行われる。実体審査請求は第三者であっても行うことができる。期間内に実体審査請求が行われない場合、出願は取下げられたものとみなされる(知的財産法第113条)。
実体審査請求は所定のフォーマットを用いて申請する(知的財産法第114条)。
なお、実体審査期限は、不可抗力事象(自然災害、戦争等)や客観的障害(病気、出張など)が存在する場合には延長することができるが、6か月を超えてはならない(通達16/2016第23条a))。
3 実体審査
実体審査請求がなされた場合、実体審査請求(出願公開前に実体審査請求したときは公開日)から18か月以内に(知的財産法第119条(2)(a))、ベトナム国家知的財産庁(IP Viet Nam)の審査官による実体審査が行われる。
出願人が実体審査中に、自発的またはIP Viet Namの要求に応じて補正した場合、実体審査の期間は補正期間に応じて延長される(知的財産法第119条(4))。
4 通知
IP Viet Namは、実体審査が終了するまでに、出願人に次の通知を送達しなければならない。
・特許要件を満たさない場合(ベトナム特許審査基準(以下、「審査基準」)第27条27.1.1)
拒絶理由を明記し、可能ならば変更すべきクレーム内容を示唆し、補正のための期間として通知の発行日から3か月を設定する(通達16/2016第14条b))。
出願人は、手数料を支払うことによって、当該期間を3か月延長するよう、1回に限り請求することができる(通達16/2016第9条)。
・クレームの対象は特許要件を満たすが、出願に誤記等の不備がある場合
誤りを明記し、補正のための期間として通知の発行日から3か月を設定する(通達16/2016第14条b)、上述のとおり通達16/2016第9条に従い、出願人は、手数料を支払うことによって、補正期間の延長を請求できる)。
・クレームの対象が、上記期間内に適正に補正された結果、特許要件を満たした場合
特許査定を通知し(審査基準第27条27.1.3)、出願人に登録料を支払うように求める。
5 拒絶査定
出願人がIP Viet Nam通知の拒絶理由を解消できなかった場合、IP Viet Namは拒絶査定を通知する(審査基準第27条27.1.4)。
出願人は審査中に考慮されなかった審査結果に影響がある新たな事実/詳細を提出することができる。この場合IP Viet Namは再度審査を行い、拒絶査定の可否を検討するため、審判の申立てをせずに拒絶査定を克服できる可能性がある(審査基準第32条)。
また、出願人は、IP Viet Nam長官に審判を提起するか(通達16/2016第21条)、裁判所(provincial court)に訴訟提起できる(不服申立法第7条)。しかし、技術的な専門的知見を持つ裁判官は多くはないので、実務上、裁判所に提起することは稀である。通常は、IP Viet Nam長官に審判を提起し、それでも不服の場合は科学技術省(Ministry of Science and Technology;MOST)に、再度不服申立をするのが一般的である。なお、不服申立の申立先として裁判所を選択することはできるが、同じ理由から実務上は裁判所が選ばれることはあまりない。
6 登録料支払い
特許査定がされるとIP Viet Namは出願人に対し、通知の発行日から3か月以内に公告料、登録料および1年目の維持年金の支払いを求める(通達16/2016第14条c))。
7 特許の付与
出願人が諸費用を支払った場合、IP Viet Namは15日以内に特許付与の手続を行う(通達16/2016第17条a))。
8 登録および特許公報の発行
特許は登録となり、公報発行後2か月以内に出願人が公告手数料を支払った後、IP Viet Namにより特許公報が発行される(通達16/2016第18条d))。
9 早期権利化の手段
ベトナムでの早期権利化の手段とし、特許審査ハイウェイ(PPH)、ASEAN特許審査協力(ASPEC)プログラム、対応外国特許の審査結果の利用、早期公開請求がある。PPH出願の審査期間は通常出願の審査期間よりも9か月短縮される(海外庁における特許審査ハイウェイの実効性に関する調査研究報告書、P22.「2 各国地域のPPH及び他の主な早期権利化手段概要一覧(続き) ベトナム(VN))。
ベトナムにおける特許制度のまとめ-手続編
1. 出願に必要な書類
特許出願について、願書、クレームを含む明細書、所定の手数料および料金の納付証が、出願受理のために必要な最低限の書類とされる(知的財産法第108条、科学技術省通達01/2007/TT-BKHCNを改正する通達16/2016/TT-BKHCN(2018年1月15日付発効)以下、通達7.1 a))。最低限の書類がそろっている場合には、出願を受理し、出願日を認定する(通達12.2 a))。
関連記事:「ベトナムにおける特許・実用新案出願制度概要」(2019.6.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17469/
2. 記載が認められるクレーム形式
(1)認められるクレーム形式
特許審査ガイドライン(QUY CHẾ THẨM ĐỊNH ĐƠN ĐĂNG KÝ SÁNG CHÊ 5.7.3.2 a)には、クレームの1項ずつは、保護されるべき製品型の発明(構造、設備、化合物、薬品、化粧品、食物など)またはプロセス型の発明(生産方法、調整方法、通信方法、処理方法など)の1つのみに言及されるべきことが説明されている。
(2)認められないクレーム形式
相互に異なる対象についての独立クレームは、他のクレームを援用できない。ただし、その援用によりその他の項の内容全部の繰り返しを回避できる場合を除く(通達23.6 c) (viii))。
関連記事:「ベトナムにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務」(2017.5.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13679/
3. 出願の言語
提出書類はベトナム語により作成されていることが必要である(知的財産法第100条第2項、通達7.2 b)(ii))。委任状、発明特許等を受ける権利の承継を証明する書類、優先権証明書は外国語の原本にベトナム語の翻訳を付すことも可能である。外国語書面出願はない。
関連記事:「日本とベトナムにおける特許出願書類の比較」(2020.04.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18403/
4. グレースピリオド
知的財産法第60条第3項に規定されているが、グレースピリオドが認められるのは、出願が公開から6か月以内に行われ、かつ以下の(a)~(c)のいずれかの条件を満たす場合である。
(a)特許を受ける権利を有する者の許可なしに他人により公開された
(b)特許を受ける権利を有する者により科学的提示の形態で公開された
(c)特許を受ける権利を有する者によりベトナム国内博覧会または公式若しくは公認の国際博覧会で展示された
関連記事:「ベトナムにおける特許出願の新規性喪失の例外」(2015.5.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8630/
5. 審査
(1)実体審査:あり
(2)審査請求制度:あり(知的財産法第113条)
(a)審査請求期間:発明特許出願の場合には出願日または優先日から42か月以内に、出願人またはいかなる第三者も審査請求をすることができる。実用新案特許出願の場合には、出願日または優先日から36か月以内に同様に審査請求をすることができる。
(b)請求人:出願人またはいかなる第三者も審査請求をすることができる。
(3)早期審査(優先審査):あり
日本出願に基づく日ベトナム間の特許審査ハイウェイ(「PPH」)試行プログラムに基づいて、申請要件を満たすベトナム国家知的財産庁(以下、知的財産庁)への出願につき、関連する書類の提出を含む所定手続を行うことで早期審査を申請することができる。
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/pph/document/japan_vietnam_highway/shinsei_tetsuzuki_20190401.pdf
(4)出願を維持するための料金:不要
関連記事:「ベトナムにおける特許審査基準関連資料」(2016.1.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/10250/
関連記事:「ベトナムにおける特許の早期権利化の方法」(2015.3.31)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8498/
6. 出願から登録までのフローチャート
(1)出願から登録までの特許出願のフローチャート
(2)フローチャートに関する簡単な説明
(A)方式審査の期間は出願から1か月であり、知的財産庁は出願人にその結果を通知しなければならない。方式審査において不備が認められた場合、出願人に対し2か月の応答期間が与えられ、補正書や意見書の提出が可能である(通達13.6 a))。提出期間は2か月延長が可能である(通達9.2)。
(B)公開前に審査請求がされた場合は公開の日から18か月の期間内に、公開後に審査請求がされた場合は審査請求の日から18か月の期間内に実体審査を行うと規定されている(知的財産法第119条)。ただし、実務上は必ずしも上記の期限内に終わるわけではない。
法の定める保護要件を満たしていない場合、または法の定める保護要件を満たしているが不備がある場合には、実体審査報告を出願人に対して通知する。拒絶理由を明示したうえで、補正の提案を含むこともできる。応答期間は通知から3か月である(請求により3か月の延長可)(通達15.7 a)(i)および(ii)、9.2)。
(C)登録許可通知から3か月の期間内に、登録料、公報発行手数料、第1年目の特許料の納付などをすべき旨を、出願人に対して通知する(通達15.7 a)(iii))。
関連記事:「ベトナムにおける特許・実用新案出願制度概要」(2019.6.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17469/
[権利設定前の争いに関する手続]
7. 拒絶査定に対する手続
拒絶理由に対し反論や補正を行わない場合、あるいは行ったが拒絶理由が解消しない場合には拒絶査定となる。一般的には、出願人は知的財産庁に対する審判請求を査定受領から90日以内に行い、知的財産庁長官が審決を確定する。審決に不服のある場合には、科学技術省への不服申立を審決受領後30日以内に行い、科学技術大臣が不服申立への決定を行う(政府決議第14条、通達22、Luật khiếu nại(日本語「不服申立法」))。
また、通達で改正された22.1において、知的財産庁の処分への審判請求に関し、対象となる決定等の範囲が明確化され、出願の補正や審査段階で提出されなかった新規資料などは、拒絶査定不服審判では検討の対象外となることが規定された(通達22.1 c))。
さらに、通達で改正された15.7 b)の第2段落において、「新規資料(審査段階で検討されていない)であって審査結果に影響を与えうるもの」を出願人が提出した場合には、拒絶査定を取り消して、審査を再開すると規定している。ただし、何がここでいう「新規資料」に該当しうるのかといった詳細な規定はないこと、拒絶査定を受けてからいつまでそのような提出が可能なのか規定されてないこと、常にそのような新規資料の提出が可能であれば権利関係の安定性に疑問もあること、といった検討すべき課題もある。
関連記事:「ベトナムにおける特許出願に関する方式審査上の拒絶理由通知」(2015.3.31)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8516/
8. 権利設定前の異議申立
あり。出願が公報に掲載された日から登録証付与に関する決定の日までは、如何なる第三者も、当該出願に関する登録許可または拒絶に関して知的財産庁に意見を提示する権利を有する(知的財産法第112条)。
9. 上記7の判断に対する不服申立
行政訴訟法(Luật tố tụng hành chính)に基づく訴訟により、裁判所で争うことも可能であるが、一般的にはあまり利用されていない。
[権利設定後の争いに関する手続]
10. 権利設定後の異議申立
なし
11. 設定された特許権に対して、権利の無効を申し立てる制度
(1)特許は、次の場合に完全に無効とされる。
(i)出願人が発明の特許を受ける権利を有しないか、または譲渡されていなかった場合
(ii)発明が特許付与日において保護要件を満たしていなかった場合
(2)特許の保護対象の一部が保護要件を満たしていないときは、一部無効とされる。
(3)特許の有効期間中、第三者は所定の手数料の納付を条件として、(1)および(2)の場合、特許の無効を知的財産庁にいつでも請求することができる(知的財産法第96条)。
無効理由:特許を受ける権利(知的財産法第86条)、特許の一般的要件(知的財産法第58条)、特許の保護の対象とならないもの(知的財産法第59条)
12. 権利設定後の権利範囲の修正
特許権者は、特許請求の範囲を訂正することができる。
ただし、請求項の削除による権利範囲の減縮のみ可能である(通達20.1 b)(iii))
日本の訂正審判に相当する制度は存在しない。
13. その他の制度
産業財産権に関する侵害鑑定等を行う専門機関(VIPRI、http://vipri.gov.vn/)がある(知的財産法第201条)。
ベトナムにおける特許制度のまとめ-手続編
1. 出願に必要な書類
特許出願について、願書、クレームを含む明細書、所定の手数料および料金の納付証が、出願受理のために必要な最低限の書類とされる(知的財産法第108条、科学技術省通達01/2007/TT-BKHCNを改正する通達16/2016/TT-BKHCN(2018年1月15日付発効)以下「通達」7.1 a))。最低限の書類がそろっている場合には、出願を受理し、出願日を認定する(通達12.2 a))。
関連記事:「ベトナムにおける特許・実用新案出願制度概要」(2019.6.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17469/
2. 記載が認められるクレーム形式
(1)認められるクレーム形式
特許審査ガイドライン(QUY CHẾ THẨM ĐỊNH ĐƠN ĐĂNG KÝ SÁNG CHÊ 5.7.3.2 a)には、クレームの1項ずつは、保護されるべき製品型の発明(構造、設備、化合物、薬品、化粧品、食物など)またはプロセス型の発明(生産方法、調整方法、通信方法、処理方法など)の1つのみに言及されるべきことが説明されている。
(2)認められないクレーム形式
相互に異なる対象についての独立クレームは、他のクレームを援用できない。ただし、その援用によりその他の項の内容全部の繰り返しを回避できる場合を除く(通達23.6 c) (viii))。
関連記事:「ベトナムにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務」(2017.5.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13679/
3. 出願の言語
提出書類はベトナム語により作成されていることが必要である(知的財産法第100条第2項、通達7.2 b)(ii))。委任状、発明特許等を受ける権利の承継を証明する書類、優先権証明書は外国語の原本にベトナム語の翻訳を付すことも可能である。外国語書面出願はない。
関連記事:「日本とベトナムにおける特許出願書類の比較」(2015.11.13)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/9429/
4. グレースピリオド
知的財産法第60条第3項に規定されているが、グレースピリオドが認められるのは、出願が公開から6か月以内に行われ、かつ以下の(a)~(c)のいずれかの条件を満たす場合である。
(a)特許を受ける権利を有する者の許可なしに他人により公開された
(b)特許を受ける権利を有する者により科学的提示の形態で公開された
(c)特許を受ける権利を有する者によりベトナム国内博覧会または公式若しくは公認の国際博覧会で展示された
関連記事:「ベトナムにおける特許出願の新規性喪失の例外」(2015.5.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8630/
5. 審査
(1)実体審査:あり
(2)審査請求制度:あり
(a)審査請求期間:発明特許出願の場合には出願日または優先日から42か月以内に、出願人またはいかなる第三者も審査請求をすることができる。実用新案特許出願の場合には、出願日または優先日から36か月以内に同様に審査請求をすることができる。
(b)請求人:出願人またはいかなる第三者も審査請求をすることができる。
(3)早期審査(優先審査):あり
日本出願に基づく日ベトナム間の特許審査ハイウェイ(「PPH」)試行プログラムに基づいて、申請要件を満たすベトナム国家知的財産庁(以下、知的財産庁)への出願につき、関連する書類の提出を含む所定手続を行うことで早期審査を申請することができる。
(4)出願を維持するための料金:不要
関連記事:「ベトナムにおける特許審査基準関連資料」(2016.1.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/10250/
関連記事:「ベトナムにおける特許の早期権利化の方法」(2015.3.31)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8498/
6. 出願から登録までのフローチャート
(1)出願から登録までの特許出願のフローチャート
(2)フローチャートに関する簡単な説明
(A)方式審査の期間は出願から1か月であり、知的財産庁は出願人にその結果を通知しなければならない。方式審査において不備が認められた場合、出願人に対し2か月の応答期間が与えられ、補正書や意見書の提出が可能である(通達13.6 a))。提出期間は2か月延長が可能である(通達9.2)。
(B)公開前に審査請求がされた場合は公開の日から18か月の期間内に、公開後に審査請求がされた場合は審査請求の日から18か月の期間内に実体審査を行うと規定されている(知的財産法第119条)。ただし、実務上は必ずしも上記の期限内に終わるわけではない。
法の定める保護要件を満たしていない場合、または法の定める保護要件を満たしているが不備がある場合には、実体審査報告を出願人に対して通知する。拒絶理由を明示したうえで、補正の提案を含むこともできる。応答期間は通知から3か月である(請求により3か月の延長可)(通達15.7 a)(i)および(ii)、9.2)。
(C)登録許可通知から3か月の期間内に、登録料、公報発行手数料、第1年目の特許料の納付などをすべき旨を、出願人に対して通知する(通達15.7 a)(iii))。
関連記事:「ベトナムにおける特許・実用新案出願制度概要」(2019.6.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17469/
[権利設定前の争いに関する手続]
7. 拒絶査定に対する手続
拒絶理由に対し反論や補正を行わない場合、あるいは行ったが拒絶理由が解消しない場合には拒絶査定となる。一般的には、出願人は知的財産庁に対する審判請求を査定受領から90日以内に行い、知的財産庁長官が審決を確定する。審決に不服のある場合には、科学技術省への不服申立を審決受領後30日以内に行い、科学技術大臣が不服申立への決定を行う(政府決議第14条、通達22、Luật khiếu nại(日本語「不服申立法」))。
また、通達で改正された22.1において、知的財産庁の処分への審判請求に関し、対象となる決定等の範囲が明確化され、出願の補正や審査段階で提出されなかった新規資料などは、拒絶査定不服審判では検討の対象外となることが規定された(通達22.1 c))。
さらに、通達で改正された15.7 b)の第2段落において、「新規資料(審査段階で検討されていない)であって審査結果に影響を与えうるもの」を出願人が提出した場合には、拒絶査定を取り消して、審査を再開すると規定している。ただし、何がここでいう「新規資料」に該当しうるのかといった詳細な規定はないこと、拒絶査定を受けてからいつまでそのような提出が可能なのか規定されてないこと、常にそのような新規資料の提出が可能であれば権利関係の安定性に疑問もあること、といった検討すべき課題もある。
関連記事:「ベトナムにおける特許出願に関する方式審査上の拒絶理由通知」(2015.3.31)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8516/
8. 権利設定前の異議申立
あり。出願が公報に掲載された日から登録証付与に関する決定の日までは、如何なる第三者も、当該出願に関する登録許可または拒絶に関して知的財産庁に意見を提示する権利を有する(知的財産法第112条)。
9. 上記7の判断に対する不服申立
行政訴訟法(Luật tố tụng hành chính)に基づく訴訟により、裁判所で争うことも可能であるが、一般的にはあまり利用されていない。
[権利設定後の争いに関する手続]
10. 権利設定後の異議申立
なし
11. 設定された特許権に対して、権利の無効を申し立てる制度
(1)特許は、次の場合に完全に無効とされる。
(i)出願人が発明の特許を受ける権利を有しないか、または譲渡されていなかった場合
(ii)発明が特許付与日において保護要件を満たしていなかった場合
(2)特許の保護対象の一部が保護要件を満たしていないときは、一部無効とされる。
(3)特許の有効期間中、第三者は所定の手数料の納付を条件として、(1)および(2)の場合、特許の無効を知的財産庁にいつでも請求することができる(知的財産法第96条)。
無効理由:特許を受ける権利(知的財産法第86条)、特許の一般的要件(知的財産法第58条)、特許の保護の対象とならないもの(知的財産法第59条)
12. 権利設定後の権利範囲の修正
特許権者は、特許請求の範囲を訂正することができる。
ただし、請求項の削除による権利範囲の減縮のみ可能である(通達20.1 b)(iii))
日本の訂正審判に相当する制度は存在しない。
13. その他の制度
産業財産権に関する侵害鑑定等を行う専門機関(VIPRI、http://www.english.vipri.gov.vn/)がある(知的財産法第201条)。