日本とベトナムにおける特許実体審査の拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する比較
日本の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長
(1)特許出願に対する拒絶理由通知への応答期間
・出願人が在外者でない場合(国内出願人)は、意見書および補正書の提出期間は60日
・出願人が在外者である場合(外国出願人)は、意見書および補正書の提出期間は3ヶ月
条文等根拠:特許法第50条、第17条の2第1項、方式審査便覧04.10
日本特許法 第50条 拒絶理由の通知
審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし、第十七条の二第一項第一号または第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあっては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)において、第五十三条第一項の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。
日本特許法 第17条の2 願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面の補正
特許出願人は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面について補正をすることができる。ただし、第五十条の規定による通知を受けた後は、次に掲げる場合に限り、補正をすることができる。
一 第五十条(第百五十九条第二項(第百七十四条第一項において準用する場合を含む。)および第百六十三条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定による通知(以下この条において「拒絶理由通知」という。)を最初に受けた場合において、第五十条の規定により指定された期間内にするとき。
二 拒絶理由通知を受けた後第四十八条の七の規定による通知を受けた場合において、同条の規定により指定された期間内にするとき。
三 拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る第五十条の規定により指定された期間内にするとき。
四 拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にするとき。
日本方式審査便覧 04.10
1 手続をする者が在外者でない場合
(3)次に掲げる書類等の提出についての指定期間は、特許および実用新案に関しては60日、意匠および商標に関しては40日とする。ただし、手続をする者またはその代理人が、別表に掲げる地に居住する場合においては、特許および実用新案に関しては60日を75日と、意匠および商標に関しては40日を55日とする。
ア 意見書
・特50条{特67条の4、159条2項〔特174条1項〕、特163条2項、意19条、50条3項〔意57条1項〕}
・商15条の2{商55条の2第1項〔商60条の2第2項(商68条5項)、商68条4項〕、商65条の5、68条2項、商標法等の一部を改正する法律(平成8年法律第68号)附則12条}
2 手続をする者が在外者である場合
(3)次に掲げる書類等の提出についての指定期間は、3月とする。ただし、代理人だけでこれらの書類等を作成することができると認める場合には、1 (3)の期間とする。
ア 意見書
イ 答弁書
ウ 特許法第39条第6項※5、意匠法第9条第4項または商標法第8条第4項の規定に基づく指令書に応答する書面
エ 特許法第134条第4項もしくは実用新案法第39条第4項の規定により審尋を受けた者または特許法第194条第1項の規定により書類その他の物件の提出を求められた者が提出する実験成績証明書、指定商品の説明書等、ひな形・見本、特許の分割出願に関する説明書等
オ 命令による手続補正書(実用新案法第6条の2および第14条の3の規定によるものに限る。)
(2)特許出願に対する拒絶理由通知への応答期間の延長
・出願人が在外者でない場合(国内出願人)は、最大1ヶ月まで延長可能
ただし、拒絶理由通知書で示された引用文献に記載された発明との対比実験を行うとの理由(理由(1))を付して応答期間の延長を請求する必要がある
・出願人が在外者である場合(外国出願人)は、最大3ヶ月まで延長可能
ただし、拒絶理由通知書や意見書・手続補正書等の手続書類の翻訳を行うとの理由または上記理由(1)を付して応答期間の延長を請求する必要がある
条文等根拠:特許法第5条第1項、方式審査便覧04.10
日本特許法 第5条 期間の延長等
特許庁長官、審判長または審査官は、この法律の規定により手続をすべき期間を指定したときは、請求によりまたは職権で、その期間を延長することができる。
2 審判長は、この法律の規定により期日を指定したときは、請求によりまたは職権で、その期日を変更することができる。
日本方式審査便覧 01.10
1 手続をする者が在外者でない場合
(16)特許法第50条の規定による意見書または同法第134条第4項の規定による審尋に関しての回答書等の提出についての指定期間は、「拒絶理由通知書で示された引用文献に記載された発明との対比実験のため」という合理的理由がある場合、1月に限り、請求により延長することができる。
2 手続をする者が在外者である場合
(11)特許法第50条の規定による意見書または同法第134条第4項の規定による審尋に関しての回答書等の提出についての指定期間は、合理的理由がある場合に限り、請求により延長することができる。合理的理由と延長できる期間は以下のとおりとする。ただし、同法第67条の4に係る拒絶理由通知については、下記ア 対比実験のため)の理由による延長請求は認められない。
ア 「拒絶理由通知書で示された引用文献に記載された発明との対比実験のため」という理由により1月単位で1回のみ期間延長請求をすることができる。
イ 「手続書類の翻訳のため」という理由により1月単位で3回まで期間延長請求することができる。
ウ アおよびイの組み合わせによる期間延長請求は、合計3回までとする。
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ベトナムの実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間延長
(1)特許出願に対する拒絶理由通知への応答期間
・応答期間は2ヶ月
条文等根拠:科学技術省・省令第01/2007/TT-BKHCN号 規則15.7a(i)
ベトナム科学技術省・省令 第01/2007/TT-BKHCN号 規則15.7 実体審査終了業務
- a) 実体審査結果の通知
国家知的財産庁は、遅くとも本省令の規則15.8に規定する実体審査期限の満了日に、下記の通知書のいずれかを出願人に送付する。
(i) 申請書に記述する対象が保護要件に該当しない場合に、国家知的財産庁は、拒絶の理由を明確にした保護証書付与拒絶の予定通知書を発出する。当該通知書においては、保護範囲(量)の補正を指示し、かつ出願人が意見を出し、要求に対応するのに、通知書の発出日から2ヶ月の期間を設定することができる。出願人は、本省令の規則9.2の規定に基づき、上記の期間の延長を請求することができる。
(2)特許出願に対する拒絶理由通知への応答期間の延長
・1回のみ2ヶ月の延長が可能
条文等根拠:科学技術省・省令第01/2007/TT-BKHCN号 規則9.2
ベトナム科学技術省・省令第01/2007/TT-BKHCN号 規則9 期間
9.2 出願人および関係者による書類もしくは意見の提出、または補正もしくは補足の期間は、設定期間と同じ期間で、1回のみ延長することができる。ただし、期間延長の請求者は、設定した期間の満了日の前に、期間延長請求書を提出し、規定の通りに料金を納付しなければならない。
日本とベトナムにおける特許の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する比較
日本 |
ベトナム |
|
応答期間 |
60日(ただし在外者は3月) |
2ヶ月 |
応答期間の 延長の可否 |
条件付きで可 |
可 |
延長可能期間 |
最大1ヶ月(在外者は最大3ヶ月) |
最大2ヶ月 |
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新興国等知財情報データバンク 調査対象国・地域における拒絶理由通知への応答期間の延長の可否等については、下記のとおりである。
特許の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する各国比較
国 |
応答期間 |
応答期間の延長の可否 |
延長可能期間 |
延長のための庁費用の要否 |
JP |
60日 |
可*1 |
最大1ヶ月 |
要 |
BR |
90日 |
不可 |
- |
- |
CN |
4ヶ月*2 |
可 |
最大2ヶ月 |
要 |
HK*3 |
- |
- |
- |
- |
ID |
通常3ヶ月 |
可 |
審査官の裁量による |
不要 |
IN |
*4 |
不可*5 |
- |
- |
KR |
通常2ヶ月 |
可 |
最大4ヶ月 |
要 |
MY |
2ヶ月 |
可 |
最大6ヶ月 |
要 |
PH |
通常2ヶ月 |
可 |
通常4ヶ月 |
要 |
RU |
2ヶ月*6/3ヶ月 |
可 |
最大10ヶ月 |
要 |
SG |
5ヶ月/3ヶ月*7 |
不可 |
- |
- |
TH |
90日 |
可 |
最大120日 |
不要 |
TW |
3ヶ月 |
可 |
最大3ヶ月 |
無 |
VN |
2ヶ月 |
可 |
最大2ヶ月 |
要 |
*1(JP):延長の条件は上述の詳細を参照
*2(CN):再度の拒絶理由通知書の場合は2ヶ月
*3(HK):実体審査制度なし
*4(IN):アクセプタンス期限(最初の拒絶理由通知から12ヶ月)が設定される
*5(IN):ヒアリングの申請を行うことで係属状態は維持可能
*6(RU):旧法適用出願(2014年10月1日より前に出願されたもの)が2ヶ月、改正法適用出願(2014年10月1日以降に出願されたもの)が3ヶ月。
*7(SG):シンガポール特許庁に審査を請求した場合、応答期間は5ヶ月。シンガポール特許庁に補充審査を請求した場合、応答期間は3ヶ月。
ベトナムにおける特許出願に関する方式審査上の拒絶理由通知
【詳細】
ベトナム知的財産法の下では、方式審査段階で特許出願に不備が認められた場合、方式上の拒絶理由通知が出願日から1ヶ月以内に発行される(省令01/2007/TT-BKHCN、規則13.8.a)。方式上の拒絶理由通知に対する応答期限は、当該拒絶理由通知の署名日から1ヶ月間である(省令01/2007/TT-BKHCN、規則13.3)。出願人が応答内容の検討にさらに長い時間を必要とする場合、1ヶ月の延長申請を書面により一度だけ行うことができる。実務上は、ベトナム国家知的財産庁(National Office Of Intellectual Property Of Vietnam : NOIP)副長官により承認されれば二度目の延長申請が認められる場合がある。出願人が期限内に応答しなかった場合、または応答によっても拒絶理由通知に示された要件が充足されなかった場合、NOIPは当該出願の受理を拒絶することができる。
方式審査は省令01/2007/TT-BKHCN、規則13.1に定める手続に従って行われる。方式審査では、出願に含まれる全ての書類の方式が審査され、それら書類の内容について予備審査が行われる。出願時に必要な書類、出願する権利、優先権、明細書の書式、クレームの書式等に関する様々な方式上の拒絶理由が存在する。
ここでは、出願時に必要な書類、明細書の書式、クレームの書式等、方式審査段階で通常取り上げられる主な内容について説明する。
(1)出願時の必要書類
特許出願時に求められる書類としては以下のものが挙げられる。
願書、明細書、要約、委任状、出願する権利を証明する書類もしくは(優先権を主張する場合には)優先権を証明する書類、出願費用の領収書(省令01/2007/TT-BKHCN、規則7.1、7.2.b、13.2、13.3)
提出される書類はベトナム語で作成されなければならない(出願する権利を証明する書類や優先権を証明する書類は例外であるが、審査官の要請によりこれら書類のベトナム語訳が要求されることがある)。
上記のいずれかの書類が不足している場合、または書類がベトナム語以外の言語で作成されている場合、審査官は出願人に対し、不足書類もしくはベトナム語訳の提出を要求する。
実務上は、委任状など複数の書類を出願後に提出することができる。特許協力条約に基づく出願(PCT出願)に関しては、最先の優先日から34ヶ月以内に委任状を提出する。その他の特許出願の場合、委任状は、委任状提出を要求する拒絶理由通知をNOIPの審査官が発行した日から起算して1ヶ月以内に提出しなければならない。
さらに、方式上の拒絶理由通知に記載されるその他の不備としては、出願人や発明者の名称や住所に関する誤記もしくは不明瞭性、書誌データに関わる不備等が挙げられる。このような不備は、情報の説明や訂正、追加書類の提出によって解消される。
(2)明細書の書式
ベトナム知的財産法および規則の下では、特許出願の明細書は発明の説明、クレーム一式、要約、図面(図面がある場合)から構成されていなければならない。
発明の説明には、次の事項が含まれていなければならない。
発明の名称、発明の技術分野、発明の背景技術(先行技術)、発明の要約、図面に関する簡潔な説明(図面がある場合)、実施形態に関する詳細な記述、発明の実施例および有益な効果(省令01/2007/TT-BKHCN、規則23.6)
上記事項のいずれかが発明の説明から欠落している場合、NOIPの審査官は方式上の拒絶理由通知を発行し、欠落している事項を追加するよう出願人に求める。
さらに、NOIPの審査官は発明の名称について異議を唱える場合が多い。ベトナム知的財産法によれば、発明の名称は特許出願の発明内容を簡潔に説明するものでなければならず、誇大な名称ないし宣伝的な名称であってはならない。発明の名称に関する異議を解消するためには、主たる発明内容を反映する名称に変更する必要がある。
(3)クレームの書式
特許出願におけるクレームの書式がベトナム知的財産法および規則に適合しているか否かを判断するにあたり、審査官はクレーム一式を吟味し、以下のいずれかに該当するクレームがある場合には、当該クレームについて方式上の拒絶理由通知を発行する。
・以下の不特許事由に関連するクレーム。
(1)科学的な発見もしくは理論、数学的方法、(2)精神活動の遂行、ペットの訓練、ゲームの実行および事業の遂行に関する計画、規格、規則および方法、コンピュータプログラム、(3)情報の提示、(4)審美的特徴のみの解決、(5)植物および動物の品種、(6)植物および動物の生産方法であって主として生物学的な性質を有するもの(微生物学的な方法を除く)、(7)ヒトおよび動物の疾病予防、診断および治療に関する方法(知的財産法第59条)
これらの不特許事由を含むクレームは、適宜形式を変更する、または削除する必要がある。
不特許事由について実務上、論議の的になるのは、「用途」および「疾病の治療に関わる方法」に関するクレームである。これらクレームの問題を回避するため、クレームを別の形式に書き換えることが考えられる。たとえば、「用途(use)」に関するクレームは「用途のための化合物(a compound for use)」に関するクレームに書き換えることができ、「疾病の治療方法(method of treatment disease)」に関するクレームは「治療に使用される化合物(a compound for use in treating)」に関するクレームに書き換えることができる。ただし、「用途のための化合物」ないし「治療に使用される化合物」という形式への書き換えにより既存のクレームとの重複が生じる場合には、不特許事由を含むクレームを削除すべきである。このような補正は方式審査上では認められるが、実体審査においては書き換えられた用途クレームが拒絶される可能性もあるので注意が必要である。
クレームの技術的解決手段が政府の規制に反している(麻薬使用のための機器、偽造通貨製造のための装置等)、社会道徳および公の秩序に反しており、公共の利益にとって有害である(クローニングによる複製方法等)、または国防もしくは安全保障を損なうものである(知的財産法第8条(1))として拒絶された場合、これを解消することはできず、これらに該当するクレームを全面的または部分的に削除する必要がある。
クレームに関するその他の拒絶理由としては、1つのクレームに複数の発明が含まれているという指摘がある(省令01/2007/TT-BKHCN、規則23.6.k)。このような拒絶理由を解消するためには、1クレーム1発明となるように問題のクレームを分割すべきである。
さらに、クレームが発明の説明や図面に言及している場合、当該クレームは拒絶される(ただし、ヌクレオチドとアミノ酸の配列表、屈折率チャート、状態フローチャートなど言語では正確に説明できない部分について言及がなされている場合を除く)(省令01/2007/TT-BKHCN、規則23.6.g)。このような拒絶を解消するためには、発明の説明および図面に言及したクレームを削除すべきである。
方式上の拒絶理由がすべて解消されると、方式上の受理決定が発行される。方式上の受理決定の受領により、方式審査段階は終結する。その後、(パリ条約に基づいて提出された特許出願の場合には)最先の優先日もしくは(優先日が存在しない場合には)出願日から19ヶ月以内、もしくは(PCT出願の場合には)当該出願が正式に受理された日から2ヶ月以内のいずれか遅い方の期間内に、特許出願は「工業所有権官報」に公開される(省令01/2007/TT-BKHCN、規則14.2)。その後、実体審査請求がされると、当該特許出願について実体審査が行われる。
ベトナムにおける分割特許出願
【詳細】
○特許出願および実用新案出願の分割の時期的制限
ベトナムの特許実務に基づき、出願人は審査係属中、拒絶査定または特許査定通知の発行日より前であればいつでも、親出願から分割出願をすることができる。また、審査官の拒絶査定に対する不服審判請求の結果、審査官への差戻し審査となった場合の審査中においても分割出願できる。
一つの技術的解決策について特許保護を求める企業にとって、その出願を複数の分割出願に分けることで有利になる場合が多いが、出願人は、その親出願がベトナム国家知的財産庁(Intellectual Property office of Vietnam: IP VIET NAM)に係属している間に限り、分割出願できることに注意しなければならない。
○発明の単一性の欠如を理由とする分割出願
出願の審査中に発明の単一性の欠如が指摘された場合に分割出願をすることが、最も一般的ケースといえる。
単一性の欠如は、予備審査段階または実体審査において指摘される。予備審査において、発明概念として技術的に密接に関係していない複数の独立クレームが出願に含まれている場合、発明の単一性は満たされていないと見なされる。このような単一性に対する拒絶理由通知は、実体審査で行われる先行技術に基づく審査をせずに提起される。逆に、発明の解決手段が既に先行技術において教示されていると推定された後に単一性が判断される場合には、実体審査において複数の独立クレームで共通する技術的特徴が顕著な特徴かどうかが判断される。
例えば、独立クレームに記載された発明が新規性または進歩性の要件を満たしていない場合、その従属クレームに記載された発明の単一性を慎重に検討する必要がある。その場合、当該独立クレームの一つの従属クレームに記載された発明の「顕著な技術的特徴」が、別の従属クレームに記載された発明に存在しない場合がある。そのような場合、単一性の欠如に関する拒絶理由が通知される可能性がある。
上記のような単一性の欠如に対して、出願人は、親出願において審査対象として選択されかった発明の数に応じて一つ以上の分割出願に分けることができる。このような場合、出願人は、単一性の欠如の拒絶理由を解消するために、当該オフィスアクションへの応答時に一つ以上の分割出願をすることが要求される。
これにより親出願の手続が続行され、より速やかな特許許可が可能になる。一方、出願人は、単一性の欠如が指摘されているクレームが単一性を満たしているという理由を陳述した意見書を提出することもできる。そのような意見書が、単一性の欠如による拒絶理由を撤回するよう審査官を説得できるほど十分な根拠を示していない場合には、更なるオフィスアクションが発行され、出願人は一つの発明を選択し、一つ以上の分割出願をすることが要求される。
さらに、出願人は、一つの分割出願において残り全部の発明をクレームすることもできる。依然として単一性が満たされない場合、単一性の欠如に関する更なるオフィスアクションが出されるだろう。その場合、出願人はオフィスアクションへの応答時に、残りのいずれかの主題に関するさらなる分割出願をするよう要求される。特許法には明確に規定されていないものの、先に出願された分割出願から更なる分割出願をすることが可能である(いわゆる孫分割出願が許される)。
なお、実務上この孫分割出願は、分割出願(子分割)が係属中であり、最初の親出願がまだ権利期間内にあるという制約下でのみ行うことができる(最初の親出願と全ての分割出願は同じ出願日を有し、特許が付与された場合、これらの特許は同じ権利期間が与えられる。この権利期間は、特許の場合は出願日から20年、実用新案の場合は出願日から10年である)。
○出願人による自発的な分割出願
特許法の規定に従い、IP VIET NAMが拒絶査定、または特許査定通知を発行する前に、出願人は自発的に自己の出願を分割することができる。先述したように発明の単一性に関する拒絶理由通知に対する分割出願に加え、出願人は、拒絶されたクレームを含むクレームの審査を継続させる目的で、自発的に分割出願することもできる。
例えば、ベトナム国内において、「用途」を主題とする発明は製品でも方法でもないため、特許付与可能な発明ではないという理由により、IP VIET NAMは「用途」に関する全ての発明を拒絶できる。ベトナムにおいて用途クレームが特許適格性を有するかどうかは論争の対象となっているものの、今のところこのような用途クレームを含む特許出願に対して特許は付与されていない。そのため係属中の出願から用途クレームを削除し、分割出願することにより、残りのクレームの特許性審査を長引かせないようにする方が可能である。分割出願を利用する他の場合として、権利の移転や実施許諾の対象となる発明のみを個別に権利化するために行うことなどが考えられる。
○分割出願のクレーム
ベトナム特許規則に基づき、分割出願のクレームは、下記(a)および(b)の要件を満たさなければならない。(a)分割出願のクレームに記載された発明は、最初に出願された親出願に開示されていなければならない。つまり、出願人は権利範囲の狭いクレームを出願した後に、より広いクレームの分割出願をすることができるが、後の分割出願のクレームは、原出願の明細書の開示の範囲に含まれていなければならない。(b)分割出願のクレームに記載された発明は、分割後の親出願のクレームに記載された発明と異なるものでなければならない。つまり、親出願と分割出願が同一の発明をクレームすることはできない。
○分割出願に関する二重特許
ベトナムにおいて、一つの発明には一つの特許のみが許可される。同一の発明を保護するために二つの特許は認められない。言い換えると、複数のクレームが同一の範囲または重複した範囲を有することは許されない。出願当初の一つ以上のクレームを分割出願することができる。しかし、出願人が先の親出願または分割出願において実体審査を受けたクレームと全体的または部分的に同等である一つ以上のクレームを分割出願に含めた場合、IP VIET NAMは、二重特許問題を理由に、特に当該分割出願のクレームに記載された発明が先の親または分割出願の発明と同じであるという理由で拒絶する。
実際、先の親出願において既に特許付与された発明を、その分割出願に含めることはできない。しかし、親出願において削除されたクレームを分割出願することはできる。それ故、ベトナムにおいて分割出願する場合には、先の親出願または分割出願において実体審査を受けたクレームを考慮して分割出願のクレームを慎重に検討すべきである。
○分割出願に際しての留意事項
分割出願には新たな出願番号が付与され、親出願と同じ出願日、および親出願と同じ優先権が与えられる。分割出願に際しては、優先権主張に関する料金を除き、親出願と同じ出願料および各所定料金を支払わなければならない。分割出願は、新たな特許出願として扱われる。
分割出願の実体審査は、所定の期間内(特許出願の場合は、出願日または「優先日から42か月以内、実用新案出願の場合は、出願日または優先日から36か月以内)に実体審査が請求された場合に限り行われる。上記の期間後に分割出願する場合は、分割出願時に実体審査請求しなければならない。実際に、分割出願時に実体審査を請求することは珍しくない。
ベトナムにおける特許出願に関する実体審査上の拒絶理由通知
【詳細】
ベトナムにおける特許出願の実体審査の拒絶理由通知は、新規性、進歩性および産業上の利用可能性といった保護要件に基づき発明の特許性に関する判断を示すために審査官により発行される。ベトナム知的財産法に基づき、実体審査の拒絶理由通知は実体審査請求日または公開日のうち、いずれか遅い方の日から18か月以内に発行される (知的財産法第119条)。実体審査の拒絶理由通知に対する応答期限は、当該拒絶理由通知の署名日から2か月である(省令01/2007/TT-BKHCNの規則15.7)。出願人が応答するためにより多くの時間を必要とする場合、期間延長請求書により1回のみ2か月の期間延長を請求することができる。実際には、国家知的財産庁(National Office of Intellectual Property of Vietnam : NOIP)の副長官(Vice Director)により承認されれば、2回目の延長申請も認められる。出願人が応答期限を遵守しない場合、または応答により拒絶理由を解消できない場合、NOIPは当該出願を拒絶することができる。
ベトナムの特許実務において、拒絶理由の主な内容は通常、以下に説明する問題に関するものである
(1)新規性および進歩性に関する評価
請求項に記載された発明が新規性および進歩性の要件を満たしているかどうかを判断するために、NOIPの審査官は通常、PCT出願の国際段階で作成された国際調査報告(ISR)および特許性に関する国際予備報告(IPRP)を参照するか、または外国の対応出願の審査結果を参照する。IPRPまたは対応出願の審査結果は、実体審査の最初の拒絶理由通知の際に使用されることが多い。しかし、これらの審査結果が、特許性に関する審査官の最終決定に大きな影響を及ぼすことはない。
このような拒絶理由通知に対応するために通常使われる手段として、下記に示す3つの方法がある。
・請求項に記載された発明の新規性および進歩性を裏付ける議論を提出する。
・特許請求の範囲を補正し、補正した請求項の新規性および進歩性について説明する。
・既存の特許請求の範囲を、外国において、特に欧州特許庁(EPO)、日本国特許庁(JPO)または米国特許商標庁(USPTO)において権利付与された対応特許の特許請求の範囲に一致させる。中国、オーストラリア、ロシア、韓国、ユーラシア特許庁、またはドイツにおいて付与された対応特許に一致させる補正が、特許性を検討する際に用いられることもある。
対応特許のない特許出願については、NOIPの審査官自身が、先行技術調査に基づく実体審査を行う。先行技術には、当該出願の出願日より前に公開された全ての発明および情報が含まれる。当該特許出願の出願日または優先日より前に国内または国外で、使用により、または書面もしくは口頭での説明、その他の形式により公然に開示されていない発明は、新規性を有すると判断される(ベトナム産業財産法第60条および省令01-2007/BKHCNの規則25.5)。請求項に記載された発明が先行技術と同一である場合、その請求項に記載された発明は新規性の欠如を理由に拒絶される。新規性に関する拒絶理由を解消するには、出願人は、先行技術と比較して区別される当該発明の技術的特徴を明らかにし、当該発明が新規であると主張しなければならない。それができない場合、出願人は拒絶理由を通知された請求項を削除または補正し、特許請求の範囲が先行技術と競合しないようにする。
進歩性に関しては、当該特許出願の出願日または優先日より前に国内または国外で、使用により、または書面もしくは口頭での説明その他の形式により既に開示されていた全ての技術的解決策に照らして、独創的な進歩をもたらし、当業者により容易に創出可能ではない発明は、進歩性を有すると判断される(知的財産法第61条および省令01-2007/BKHCN の規則25.6)。発明が引用文献(先行技術)と相違する特徴を備えていても、NOIPの審査官が、引例の組合せにより当業者が当該発明を容易に着想できると判断する場合には、拒絶理由通知が発行される。
進歩性に関する見解は、主観的な場合が多い。これは、自明性の概念は人によって異なるためである。したがって、進歩性に関する主張が認められるかどうかは予測できない。一般的に進歩性に関して審査官を納得させるには、出願人は、発明の予測できない効果を中心に分析を行い、請求項に記載された発明の技術的特徴によりもたらされる新しい有益な技術的効果を立証することにより、請求項に記載された発明の非自明性を証明しなければならない。それができない場合、出願人は、非自明性を有するように特許請求の範囲を補正する。
しかし実際問題として、対応出願のない出願に関する審査の質は、各審査官の技術分野および経験によって異なる。また、化学または医薬分野に属する出願の審査には、より多くの時間を必要とする。これは、かかる発明が新規性および進歩性を満たしていることを確認するために必要な、請求項に記載された発明および化学試験または臨床試験に関する評価が、ベトナムの審査官にとって難しいためである。このような場合、ベトナムの審査官は通常、外国の特許庁に支援を求める。
(2)外国の対応出願に対応させる形での補正要求
ベトナムでの特許出願が外国で登録された対応特許を有する場合、NOIPの審査官は通常、審査手続を促進するため、外国で登録された対応特許を考慮する。ただし、ベトナムの審査官は、特にEPO、JPOおよびUSPTOにより付与された特許を重要視する傾向がある。登録された対応特許があって、出願人が審査を促進させたい場合、特に早く特許権を取得したい場合には、外国で登録された対応特許に一致させる補正が必要となる。
一方、ベトナム知的財産法に基づき特許を受けることができない発明、特に「用途」および「疾病の治療方法」に関する主題は、特許請求の範囲から削除しなければならない。一般的にベトナムの審査官は、外国で登録された特許の特許請求の範囲のうち、ベトナム特許出願の現在の特許請求の範囲と比べて同一または狭いものだけを考慮する。特許請求の範囲を減縮する補正が望ましくない状況では、出願人は補正を行わず、望ましい特許請求範囲を有する対応特許の登録を待たなくてはならない。
(3)発明の単一性に関する評価
発明の単一性に関する要件は、ベトナム知的財産法第101条および省令01/2007-BKHCNの規則23.3に規定されている。特許出願が単一の発明について保護を求めている場合、または技術的に関連した単一の発明概念を示す一連の発明について保護を求めている場合、当該出願は発明の単一性の要件を満たしているとみなされる。
実体審査段階における発明の単一性に関する評価は、通常、発明の新規性に関する評価と並行して行われる。単一性の評価は、請求項に記載された一連の発明に共通する技術的特徴が新規かどうかによって左右される。共通する技術的特徴が新規である場合、当該発明は新規性の要件を満たしている。稀にではあるが、一連の発明に共通する技術的特徴が新規ではないために、単一性を満たさなくなることもある。つまり、その発明には異なる技術的解決策が含まれているということになる。この場合、単一性違反を回避するためには、分割出願を行う必要がある。