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ベトナムにおける特許の早期権利化の方法

1.特許の審査期間に関する規定と運用実務
 ベトナムにおける特許出願は、出願日から1か月以内に方式について審査され(ベトナム知的財産法(以下、「知的財産法」という。)第119条第1項)、実体審査の期限は、出願の審査請求が公開日前に行われたときは出願の公開日から,または審査請求が公開日後に行われたときは,出願の審査請求の日から18か月以内とされている(知的財産法第119条第2項a)。しかし、実務的には法律で定められたとおりには進まず、2021年に登録された特許では、出願日から登録日までの平均期間が5.0年とされている※1
※1 「ASEAN 産業財産権データベースから得られる特許および実用新案の統計情報」JETRO 2022年3月 https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/asean/ip/pdf/report_202203_asean.pdf

(1) 特許審査ハイウェイ
 日本国特許庁(以下、「JPO」という。)とベトナム国家知的財産庁(以下、「IP VIET NAM」という。)は、特許審査ハイウェイ試行プログラム(以下、「PPH試行プログラム」という。)を2016年4月1日より実施し、2022年4月1日より、試行期間を3年間延長した。新しい試行期間は2025年3月31日で終了予定となるが、必要に応じて延長される予定である。
 出願人は、日本-ベトナム間のPPH試行プログラムにおける申請要件を満たす日本出願に基づくIP VIET NAMへの特許出願につき、関連する書類の提出を含む所定手続を行うことで早期審査を申請することができる。PPH 試行プログラムを申請する場合には、出願人は、IP VIET NAMに申請様式を提出する。
 なお、2022年4月1日から2023年3月31日までの期間にIP Viet NamとJPOとの間の協力協定に基づき、IP Viet Namで受理されたPPH申請の総数は132件である※2
※2 「【ベトナム】ベトナム、特許審査ハイウェイ(PPH)プログラムによる特許出願の早期審査申請受付に関する報告について」JETRO 2023年4月 https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/asia/2023/vn/20230411.pdf

(2) 早期公開の請求
 前述のとおり、実体審査の期限は、出願の審査請求が公開日前に行われたときは出願の公開日から,または審査請求が公開日後に行われたときは,出願の審査請求の日から18か月以内とされている(知的財産法第119条第2項a)。したがって、特許出願の公開時期を早めることは、早期権利化のための有効な手段の一つである。
 通常、特許出願は、出願日、もしくは優先権を主張している場合は優先日から19か月、または方式審査承認通知日から2か月以内のいずれかのより遅い期日に公開される(知的財産法第110条第2項、科学技術省・省令第01/2007/TT-BKHCN号(以下、「省令」という。)14.2a.i)。
 一方、出願人が所定の手数料を支払って、早期公開請求書を提出すれば、特許出願は、その請求の受領日から2か月以内に公開される(知的財産法第110条第2項、省令14.2.a.iii)。
 よって、出願と同時に早期公開請求と実体審査請求を行うことが、早期権利化に有効である。

 また、ベトナムを指定した国際出願の場合は、早期の国内段階への移行手続と早期公開請求を行うことが、早期権利化に有効である。
 ベトナムを指定した国際出願の処理の開始時点は、優先日から32か月であるが、出願人は、より早い時点での国内段階移行を文書で請求することができる(省令27.7b)。ベトナム国内段階に移行した国際出願は、通常の特許出願に係る手続に従い、方式審査および実体審査を受ける(省令27.7c)。国内段階への移行とともに出願人が所定の手数料を支払って、早期公開請求書を提出すれば、特許出願は、その請求の受領日から2か月以内に公開される(知的財産法第110条第2項、省令14.2.a.iii)。よって、出願人が、ベトナム国内段階への早期の移行手続と早期公開の請求を行うことで、ベトナムを指定した国際出願の早期権利化につながる。
 実務上、国際出願が国際公開される前のような極めて早い段階でベトナム国内段階に移行する場合がある。しかし、前述のとおり、通常はベトナム国内段階に移行した国際出願は優先日から32か月後に方式審査が開始される。国内段階への早期の移行手続と早期公開のための申請書を提出しIP VIET NAMがこれに同意したとしても、国際段階での国際公開がなされていないかぎりベトナムでの方式審査は始まらない。したがって出願人が、国際出願がベトナム国内段階に移行してすぐ方式審査を望む場合は、特許協力条約(以下、「PCT」という。)第21条(2)(b)およびPCTに基づく規則(以下、「PCT規則」という。)第48.4条に基づき、国際出願の早期公開請求を行う必要がある。

(3) 国際出願の審査の早期開始の請求
 国内段階に移行した特許出願の出願人は、PCT第23条(2)に基づいて、早期審査請求を書面で提出し、所定の費用を支払うことで、審査の早期開始を請求することがきる(省令27.7c)。よって、前述のベトナム国内段階への早期の移行手続と早期公開の請求と合わせて請求すれば、早期権利化の手段となる。
 この省令27.7cの規定は、出願人が書面で請求し所定の費用を払えば、所定の期限の前に手続を行うようにIP VIET NAMに請求できると規定する省令9.3によって裏付けられていると解釈できるが、同規定が定めるとおり、IP VIET NAMは具体的な理由を示した通知を行えば、この請求を拒絶できることに留意が必要である。

(4) 外国対応出願の審査結果の活用
 IP VIET NAMは、特許出願の審査をするとき、特許出願の内容について外国の特許庁の審査結果を参考にすることができる(知的財産法第114条(3))。また、科学技術大臣は、この規定が定める特許出願の審査結果の使用について、その詳細を定める(知的財産法第114条(4))※3。また、従前より、IP VIET NAMが実体審査を行う際、対応する外国出願の引例と審査結果から得られる情報を活用できるとされていた(省令15.2)。
※3 知的財産法第114条(3)は、2023年1月1日の施行であるが、科学技術大臣が定める詳細については、現時点で未公表である。

 実務的には、IP VIET NAMの審査官は、特許性を判断する際、カナダ、アメリカ、日本、ロシア、英国、スウェーデン、オーストリア、スペイン、韓国、中国、ドイツ、EPO(欧州特許庁)、EAPO(ユーラシア特許庁)といった国・地域、なかでもEPO、日本、米国、中国、韓国における対応する出願の審査結果をしばしば参考にしている。

 特許査定が下される多くのケースでは、ベトナムでの実体審査において対応する外国特許と同様となるようにクレームと発明の詳細な説明を補正するよう命じる指令書が発行されている。したがって、外国とりわけ日本、EPO、米国で対応する特許が付与されている場合、出願人は特許性を確保するために対応する外国出願にあわせて自発的にクレームを補正するほうがよい。通常、対応する外国特許に準拠するための基本条件は、補正された請求範囲が先の出願の保護請求の範囲を超えていないことである。

(5) ASEAN特許審査協力(ASPEC)プログラム※4
 ASPECは、参加国の特許庁間で特許審査および審査結果を共有して審査を早期化するとともに、審査の質を向上させる制度であり、2009年6月15日に運用が開始された。
 実務的に、ASPECは審査早期化の非常に有効なツールとして活用できる。これまでのところASPECを利用した特許出願の件数はあまり多くないが、ASPECがもたらす審査早期化というメリットは否定できない。通常の実体審査では、1回目のオフィスアクションが出されるまでには、少なくとも審査開始から18か月程度を要する。しかし、ASPECを利用した初の事案では、実体審査に要したのはわずか2か月程度だった。
※4 ASPECの概要や申請の要件については、下の関連記事に解説がなされているので参照されたい。
「ASEAN特許審査協力(ASPEC)プログラム」https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/24171/

(6) 審査官との面接
 審査官とベトナムの弁理士の間で審査を円滑・迅速に進めるための面接が行われる場合がある。この面接は、電話、あるいは対面での面談で行うことができ、審査官と弁理士は、当該出願が特許性を獲得するための有効な手段(例えば、対応する特許にあわせて補正した場合に特許査定を得られる可能性など)を協議する。

2.特許の早期権利化を実現するベストプラクティス
 特許を早期権利化するために取り得る手段を紹介してきたが、最善の方法は、出願内容を対応する外国特許に沿ったものにするとともに、特許審査ハイウェイ、またはASPECの申請を組み合わせることである。経験上も、対応する外国特許に合わせることで特許性が満たされて特許付与の条件が整うと、ASPEC制度等の申請により、ASPEC等を申請していない出願よりも、当該出願の審査を早期化することができる。

ベトナムにおける特許制度のまとめ-手続編

1.出願に必要な書類

 特許出願について、願書、クレームを含む明細書、所定の手数料および料金の納付証が、出願受理のために必要な最低限の書類とされる(ベトナム知的財産法第108条、科学技術省通達01/2007/TT-BKHCNを改正する通達16/2016/TT-BKHCN(2018年1月15日付発効)(以下「通達」という)7.1 a))。最低限の書類がそろっている場合には、出願を受理し、出願日を認定する(通達12.2 a))。

関連記事:「ベトナムにおける特許・実用新案出願制度概要」(2019.06.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17469/

2.記載が認められるクレーム形式

(1) 認められるクレーム形式
 特許審査ガイドライン(QUY CHẾ THẨM ĐỊNH ĐƠN ĐĂNG KÝ SÁNG CHÊ 5.7.3.2 a)には、保護を主張する各請求項は、製品(構造、装置、化合物、医薬品、化粧品、食品など)または工程(製造工程、調製工程、通信方法、加工方法など)の形で、保護が必要な1つの対象物についてのみ言及し、一文で記述しなければならない、と記載されている。

(2) 認められないクレーム形式
 原則として、各請求項は独立しており、他の請求項を参照することはできない。ただし、その参照によって、他の請求項の全内容の繰り返しを避けることができる場合を除く。参照する請求項は、参照される請求項の直後に記載しなければならない(通達23.6 c)(viii))。

関連記事:「ベトナムにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務」(2017.05.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13679/

3.出願の言語

 提出書類はベトナム語により作成されていることが必要である(ベトナム知的財産法第100条第2項、通達7.2 b)(ii))。委任状、特許等を受ける権利の承継を証明する書類、優先権証明書は外国語の原本にベトナム語の翻訳を付すことも可能である。外国語書面出願はない。

関連記事:「日本とベトナムにおける特許出願書類の比較」(2020.04.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18403/

4.グレースピリオド

 ベトナム知的財産法第60条第3項に規定されているが、特許を受ける権利を有する者またはその者から直接もしくは間接に当該発明について情報を取得した者によって公開されているときは、発明登録出願がベトナムにおいて公開の日から12か月以内に行われることを条件として、グレースピリオドが認められる。

5.審査

(1) 実体審査:あり

(2) 審査請求制度:あり(ベトナム知的財産法第113条)
 (a) 審査請求期間:特許出願の場合には出願日または優先日から42か月以内に、出願人またはいかなる第三者も審査請求をすることができる。実用新案出願の場合には、出願日または優先日から36か月以内に同様に審査請求をすることができる。
 (b) 請求人:出願人またはいかなる第三者も審査請求をすることができる。

(3) 早期審査(優先審査):あり
 日本出願に基づく日ベトナム間の特許審査ハイウェイ(「PPH」)試行プログラムに基づいて、申請要件を満たすベトナム国家知的財産庁(以下、「知的財産庁」という)への出願につき、関連する書類の提出を含む所定手続を行うことで早期審査を申請することができる。

関連情報:日ベトナム特許審査ハイウェイ試行プログラムについて
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/pph/japan_vietnam_highway.html

(4) 出願を維持するための料金:不要

関連記事:「ベトナムにおける特許審査基準関連資料」(2016.01.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/10250/

関連記事:「ベトナムにおける特許の早期権利化の方法」(2015.03.31)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8498/

6.出願から登録までのフローチャート

(1) 出願から登録までの特許出願のフローチャート

(2) フローチャートに関する簡単な説明
(A) 方式審査の期間は出願から1か月であり、知的財産庁は出願人にその結果を通知しなければならない。方式審査において不備が認められた場合、出願人に対し2か月の応答期間が与えられ、補正書や意見書の提出が可能である(通達13.6 a))。提出期間は2か月延長が可能である(通達9.2)。

(B) 公開前に審査請求がされた場合は公開の日から18か月の期間内に、公開後に審査請求がされた場合は審査請求の日から18か月の期間内に実体審査を行うと規定されている(ベトナム知的財産法第119条)。ただし、実務上は必ずしも上記の期限内に終わるわけではない。
 法の定める保護要件を満たしていない場合、または法の定める保護要件を満たしているが不備がある場合には、実体審査報告を出願人に対して通知する。拒絶理由を明示したうえで、補正の提案を含むこともできる。応答期間は通知から3か月である(請求により3か月の延長可)(通達15.7 a)(i)および(ii)、9.2)。

(C) 登録許可通知から3か月の期間内に、登録料、公報発行手数料、第1年目の特許料の納付などをすべき旨を、出願人に対して通知する(通達15.7 a)(iii))。

関連記事:「ベトナムにおける特許・実用新案出願制度概要」(2019.06.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17469/

[権利設定前の争いに関する手続]
7.拒絶査定に対する手続

 拒絶理由に対し反論や補正を行わない場合、あるいは行ったが拒絶理由が解消しない場合には拒絶査定となる。一般的には、出願人は知的財産庁に対する審判請求を査定受領から90日以内に行い、知的財産庁長官が審決を確定する。審決に不服のある場合には、科学技術省への不服申立を審決受領後30日以内に行い、科学技術大臣が不服申立への決定を行う(政府決議第14条、通達22、Luật khiếu nại(日本語「不服申立法」))。
 また、改正された通達22.1において、知的財産庁の処分への審判請求に関し、対象となる決定等の範囲が明確化され、出願の補正や審査段階で提出されなかった新規資料などは、拒絶査定不服審判では検討の対象外となることが規定された(通達22.1 c))。
 さらに、改正された通達15.7 b)の第2段落において、「新規資料(審査段階で検討されていない)であって審査結果に影響を与えうるもの」を出願人が提出した場合には、拒絶査定を取り消して、審査を再開すると規定している。ただし、何がここでいう「新規資料」に該当しうるのかといった詳細な規定はないこと、拒絶査定を受けてからいつまでそのような提出が可能なのか規定されていないこと、常にそのような新規資料の提出が可能であれば権利関係の安定性に疑問もあること、といった検討すべき課題もある。

関連記事:「ベトナムにおける特許出願に関する方式審査上の拒絶理由通知」(2015.03.31)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8516/

8.権利設定前の異議申立

 あり。出願が公報に掲載された日から登録証付与に関する決定の日までは、如何なる第三者も、当該出願に関する登録許可または拒絶に関して知的財産庁に意見を提示する権利を有する(ベトナム知的財産法第112条)。

9.上記7の判断に対する不服申立

 行政訴訟法(Luật tố tụng hành chính)に基づく訴訟により、裁判所で争うことも可能であるが、一般的にはあまり利用されていない。

[権利設定後の争いに関する手続]
10.権利設定後の異議申立

 なし

11.設定された特許権に対して、権利の無効を申し立てる制度

(1) 特許は、次の場合に完全に無効とされる。
 (i) 出願人が発明の特許を受ける権利を有しないか、または譲渡されていなかった場合
 (ii) 発明が特許付与日において保護要件を満たしていなかった場合
(2) 特許の保護対象の一部が保護要件を満たしていないときは、一部無効とされる。
(3) 特許の有効期間中、第三者は所定の手数料の納付を条件として、(1)および(2)の場合、特許の無効を知的財産庁にいつでも請求することができる(ベトナム知的財産法第96条)。
 無効理由:特許を受ける権利(ベトナム知的財産法第86条)、特許の一般的要件(同第58条)、特許の保護の対象とならないもの(同第59条)

12.権利設定後の権利範囲の修正

 特許権者は、特許請求の範囲を訂正することができる。
 ただし、請求項の削除による権利範囲の減縮のみ可能である(通達20.1 b)(iii))
 日本の訂正審判に相当する制度は存在しない。

13.その他の制度

 産業財産権に関する侵害鑑定等を行う専門機関(VIPRI、http://vipri.gov.vn/)がある(ベトナム知的財産法第201条)。

ベトナムにおける特許の審査手続

1 方式審査
 書誌的事項に不備がある場合、補正のための期間として通知の発行日から2か月を設定する(16/2016/TT-BKHCN(以下「通達16/2016」)第12条đ))。
 出願人は、手数料を支払うことによって、当該期間を2か月延長するよう、1回に限り請求することができる(通達16/2016第9条)。

2 実体審査請求
 実体審査請求は出願日(優先日)から42か月以内に行う必要があり、実体審査は実体審査請求が行われた出願に対してのみ行われる。実体審査請求は第三者であっても行うことができる。期間内に実体審査請求が行われない場合、出願は取下げられたものとみなされる(知的財産法第113条)。
 実体審査請求は所定のフォーマットを用いて申請する(知的財産法第114条)。
 なお、実体審査期限は、不可抗力事象(自然災害、戦争等)や客観的障害(病気、出張など)が存在する場合には延長することができるが、6か月を超えてはならない(通達16/2016第23条a))。

3 実体審査
 実体審査請求がなされた場合、実体審査請求(出願公開前に実体審査請求したときは公開日)から18か月以内に(知的財産法第119条(2)(a))、ベトナム国家知的財産庁(IP Viet Nam)の審査官による実体審査が行われる。
 出願人が実体審査中に、自発的またはIP Viet Namの要求に応じて補正した場合、実体審査の期間は補正期間に応じて延長される(知的財産法第119条(4))。

4 通知
 IP Viet Namは、実体審査が終了するまでに、出願人に次の通知を送達しなければならない。

・特許要件を満たさない場合(ベトナム特許審査基準(以下、「審査基準」)第27条27.1.1)
 拒絶理由を明記し、可能ならば変更すべきクレーム内容を示唆し、補正のための期間として通知の発行日から3か月を設定する(通達16/2016第14条b))。
 出願人は、手数料を支払うことによって、当該期間を3か月延長するよう、1回に限り請求することができる(通達16/2016第9条)。

・クレームの対象は特許要件を満たすが、出願に誤記等の不備がある場合
 誤りを明記し、補正のための期間として通知の発行日から3か月を設定する(通達16/2016第14条b)、上述のとおり通達16/2016第9条に従い、出願人は、手数料を支払うことによって、補正期間の延長を請求できる)。

・クレームの対象が、上記期間内に適正に補正された結果、特許要件を満たした場合
 特許査定を通知し(審査基準第27条27.1.3)、出願人に登録料を支払うように求める。

5 拒絶査定
 出願人がIP Viet Nam通知の拒絶理由を解消できなかった場合、IP Viet Namは拒絶査定を通知する(審査基準第27条27.1.4)。
 出願人は審査中に考慮されなかった審査結果に影響がある新たな事実/詳細を提出することができる。この場合IP Viet Namは再度審査を行い、拒絶査定の可否を検討するため、審判の申立てをせずに拒絶査定を克服できる可能性がある(審査基準第32条)。
 また、出願人は、IP Viet Nam長官に審判を提起するか(通達16/2016第21条)、裁判所(provincial court)に訴訟提起できる(不服申立法第7条)。しかし、技術的な専門的知見を持つ裁判官は多くはないので、実務上、裁判所に提起することは稀である。通常は、IP Viet Nam長官に審判を提起し、それでも不服の場合は科学技術省(Ministry of Science and Technology;MOST)に、再度不服申立をするのが一般的である。なお、不服申立の申立先として裁判所を選択することはできるが、同じ理由から実務上は裁判所が選ばれることはあまりない。

6 登録料支払い
 特許査定がされるとIP Viet Namは出願人に対し、通知の発行日から3か月以内に公告料、登録料および1年目の維持年金の支払いを求める(通達16/2016第14条c))。

7 特許の付与
 出願人が諸費用を支払った場合、IP Viet Namは15日以内に特許付与の手続を行う(通達16/2016第17条a))。

8 登録および特許公報の発行
 特許は登録となり、公報発行後2か月以内に出願人が公告手数料を支払った後、IP Viet Namにより特許公報が発行される(通達16/2016第18条d))。

9 早期権利化の手段
 ベトナムでの早期権利化の手段とし、特許審査ハイウェイ(PPH)、ASEAN特許審査協力(ASPEC)プログラム、対応外国特許の審査結果の利用、早期公開請求がある。PPH出願の審査期間は通常出願の審査期間よりも9か月短縮される(海外庁における特許審査ハイウェイの実効性に関する調査研究報告書、P22.「2 各国地域のPPH及び他の主な早期権利化手段概要一覧(続き) ベトナム(VN))。

ベトナムにおける特許制度のまとめ-手続編

1. 出願に必要な書類

 特許出願について、願書、クレームを含む明細書、所定の手数料および料金の納付証が、出願受理のために必要な最低限の書類とされる(知的財産法第108条、科学技術省通達01/2007/TT-BKHCNを改正する通達16/2016/TT-BKHCN(2018年1月15日付発効)以下、通達7.1 a))。最低限の書類がそろっている場合には、出願を受理し、出願日を認定する(通達12.2 a))。

関連記事:「ベトナムにおける特許・実用新案出願制度概要」(2019.6.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17469/

2. 記載が認められるクレーム形式

(1)認められるクレーム形式
 特許審査ガイドライン(QUY CHẾ THẨM ĐỊNH ĐƠN ĐĂNG KÝ SÁNG CHÊ 5.7.3.2 a)には、クレームの1項ずつは、保護されるべき製品型の発明(構造、設備、化合物、薬品、化粧品、食物など)またはプロセス型の発明(生産方法、調整方法、通信方法、処理方法など)の1つのみに言及されるべきことが説明されている。

(2)認められないクレーム形式
 相互に異なる対象についての独立クレームは、他のクレームを援用できない。ただし、その援用によりその他の項の内容全部の繰り返しを回避できる場合を除く(通達23.6 c) (viii))。

関連記事:「ベトナムにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務」(2017.5.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13679/

3. 出願の言語

 提出書類はベトナム語により作成されていることが必要である(知的財産法第100条第2項、通達7.2 b)(ii))。委任状、発明特許等を受ける権利の承継を証明する書類、優先権証明書は外国語の原本にベトナム語の翻訳を付すことも可能である。外国語書面出願はない。

関連記事:「日本とベトナムにおける特許出願書類の比較」(2020.04.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18403/

4. グレースピリオド

 知的財産法第60条第3項に規定されているが、グレースピリオドが認められるのは、出願が公開から6か月以内に行われ、かつ以下の(a)~(c)のいずれかの条件を満たす場合である。
 (a)特許を受ける権利を有する者の許可なしに他人により公開された
 (b)特許を受ける権利を有する者により科学的提示の形態で公開された
 (c)特許を受ける権利を有する者によりベトナム国内博覧会または公式若しくは公認の国際博覧会で展示された

関連記事:「ベトナムにおける特許出願の新規性喪失の例外」(2015.5.29)
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5. 審査

(1)実体審査:あり

(2)審査請求制度:あり(知的財産法第113条)
 (a)審査請求期間:発明特許出願の場合には出願日または優先日から42か月以内に、出願人またはいかなる第三者も審査請求をすることができる。実用新案特許出願の場合には、出願日または優先日から36か月以内に同様に審査請求をすることができる。
 (b)請求人:出願人またはいかなる第三者も審査請求をすることができる。

(3)早期審査(優先審査):あり
 日本出願に基づく日ベトナム間の特許審査ハイウェイ(「PPH」)試行プログラムに基づいて、申請要件を満たすベトナム国家知的財産庁(以下、知的財産庁)への出願につき、関連する書類の提出を含む所定手続を行うことで早期審査を申請することができる。
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/pph/document/japan_vietnam_highway/shinsei_tetsuzuki_20190401.pdf

(4)出願を維持するための料金:不要

関連記事:「ベトナムにおける特許審査基準関連資料」(2016.1.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/10250/

関連記事:「ベトナムにおける特許の早期権利化の方法」(2015.3.31)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8498/

6. 出願から登録までのフローチャート

(1)出願から登録までの特許出願のフローチャート

(2)フローチャートに関する簡単な説明
(A)方式審査の期間は出願から1か月であり、知的財産庁は出願人にその結果を通知しなければならない。方式審査において不備が認められた場合、出願人に対し2か月の応答期間が与えられ、補正書や意見書の提出が可能である(通達13.6 a))。提出期間は2か月延長が可能である(通達9.2)。

(B)公開前に審査請求がされた場合は公開の日から18か月の期間内に、公開後に審査請求がされた場合は審査請求の日から18か月の期間内に実体審査を行うと規定されている(知的財産法第119条)。ただし、実務上は必ずしも上記の期限内に終わるわけではない。
 法の定める保護要件を満たしていない場合、または法の定める保護要件を満たしているが不備がある場合には、実体審査報告を出願人に対して通知する。拒絶理由を明示したうえで、補正の提案を含むこともできる。応答期間は通知から3か月である(請求により3か月の延長可)(通達15.7 a)(i)および(ii)、9.2)。

(C)登録許可通知から3か月の期間内に、登録料、公報発行手数料、第1年目の特許料の納付などをすべき旨を、出願人に対して通知する(通達15.7 a)(iii))。

関連記事:「ベトナムにおける特許・実用新案出願制度概要」(2019.6.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17469/

[権利設定前の争いに関する手続]

7. 拒絶査定に対する手続

 拒絶理由に対し反論や補正を行わない場合、あるいは行ったが拒絶理由が解消しない場合には拒絶査定となる。一般的には、出願人は知的財産庁に対する審判請求を査定受領から90日以内に行い、知的財産庁長官が審決を確定する。審決に不服のある場合には、科学技術省への不服申立を審決受領後30日以内に行い、科学技術大臣が不服申立への決定を行う(政府決議第14条、通達22、Luật khiếu nại(日本語「不服申立法」))。
 また、通達で改正された22.1において、知的財産庁の処分への審判請求に関し、対象となる決定等の範囲が明確化され、出願の補正や審査段階で提出されなかった新規資料などは、拒絶査定不服審判では検討の対象外となることが規定された(通達22.1 c))。
 さらに、通達で改正された15.7 b)の第2段落において、「新規資料(審査段階で検討されていない)であって審査結果に影響を与えうるもの」を出願人が提出した場合には、拒絶査定を取り消して、審査を再開すると規定している。ただし、何がここでいう「新規資料」に該当しうるのかといった詳細な規定はないこと、拒絶査定を受けてからいつまでそのような提出が可能なのか規定されてないこと、常にそのような新規資料の提出が可能であれば権利関係の安定性に疑問もあること、といった検討すべき課題もある。

関連記事:「ベトナムにおける特許出願に関する方式審査上の拒絶理由通知」(2015.3.31)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8516/

8. 権利設定前の異議申立

 あり。出願が公報に掲載された日から登録証付与に関する決定の日までは、如何なる第三者も、当該出願に関する登録許可または拒絶に関して知的財産庁に意見を提示する権利を有する(知的財産法第112条)。

9. 上記7の判断に対する不服申立

 行政訴訟法(Luật tố tụng hành chính)に基づく訴訟により、裁判所で争うことも可能であるが、一般的にはあまり利用されていない。

[権利設定後の争いに関する手続]

10. 権利設定後の異議申立

 なし

11. 設定された特許権に対して、権利の無効を申し立てる制度

(1)特許は、次の場合に完全に無効とされる。
 (i)出願人が発明の特許を受ける権利を有しないか、または譲渡されていなかった場合
 (ii)発明が特許付与日において保護要件を満たしていなかった場合
(2)特許の保護対象の一部が保護要件を満たしていないときは、一部無効とされる。
(3)特許の有効期間中、第三者は所定の手数料の納付を条件として、(1)および(2)の場合、特許の無効を知的財産庁にいつでも請求することができる(知的財産法第96条)。
 無効理由:特許を受ける権利(知的財産法第86条)、特許の一般的要件(知的財産法第58条)、特許の保護の対象とならないもの(知的財産法第59条)

12. 権利設定後の権利範囲の修正

 特許権者は、特許請求の範囲を訂正することができる。
 ただし、請求項の削除による権利範囲の減縮のみ可能である(通達20.1 b)(iii))
 日本の訂正審判に相当する制度は存在しない。

13. その他の制度

 産業財産権に関する侵害鑑定等を行う専門機関(VIPRI、http://vipri.gov.vn/)がある(知的財産法第201条)。

ベトナムにおける特許制度のまとめ-手続編

1. 出願に必要な書類

 

特許出願について、願書、クレームを含む明細書、所定の手数料および料金の納付証が、出願受理のために必要な最低限の書類とされる(知的財産法第108条、科学技術省通達01/2007/TT-BKHCNを改正する通達16/2016/TT-BKHCN(2018年1月15日付発効)以下「通達」7.1 a))。最低限の書類がそろっている場合には、出願を受理し、出願日を認定する(通達12.2 a))。

 

関連記事:「ベトナムにおける特許・実用新案出願制度概要」(2019.6.27)

https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17469/

 

2. 記載が認められるクレーム形式

 

(1)認められるクレーム形式

特許審査ガイドライン(QUY CHẾ THẨM ĐỊNH ĐƠN ĐĂNG KÝ SÁNG CHÊ 5.7.3.2 a)には、クレームの1項ずつは、保護されるべき製品型の発明(構造、設備、化合物、薬品、化粧品、食物など)またはプロセス型の発明(生産方法、調整方法、通信方法、処理方法など)の1つのみに言及されるべきことが説明されている。

 

(2)認められないクレーム形式

相互に異なる対象についての独立クレームは、他のクレームを援用できない。ただし、その援用によりその他の項の内容全部の繰り返しを回避できる場合を除く(通達23.6 c) (viii))。

 

関連記事:「ベトナムにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務」(2017.5.23)

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3. 出願の言語

 

提出書類はベトナム語により作成されていることが必要である(知的財産法第100条第2項、通達7.2 b)(ii))。委任状、発明特許等を受ける権利の承継を証明する書類、優先権証明書は外国語の原本にベトナム語の翻訳を付すことも可能である。外国語書面出願はない。

 

関連記事:「日本とベトナムにおける特許出願書類の比較」(2015.11.13)

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4. グレースピリオド

 

知的財産法第60条第3項に規定されているが、グレースピリオドが認められるのは、出願が公開から6か月以内に行われ、かつ以下の(a)~(c)のいずれかの条件を満たす場合である。

(a)特許を受ける権利を有する者の許可なしに他人により公開された

(b)特許を受ける権利を有する者により科学的提示の形態で公開された

(c)特許を受ける権利を有する者によりベトナム国内博覧会または公式若しくは公認の国際博覧会で展示された

 

関連記事:「ベトナムにおける特許出願の新規性喪失の例外」(2015.5.29)

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5. 審査

 

(1)実体審査:あり

 

(2)審査請求制度:あり

(a)審査請求期間:発明特許出願の場合には出願日または優先日から42か月以内に、出願人またはいかなる第三者も審査請求をすることができる。実用新案特許出願の場合には、出願日または優先日から36か月以内に同様に審査請求をすることができる。

(b)請求人:出願人またはいかなる第三者も審査請求をすることができる。

 

(3)早期審査(優先審査):あり

日本出願に基づく日ベトナム間の特許審査ハイウェイ(「PPH」)試行プログラムに基づいて、申請要件を満たすベトナム国家知的財産庁(以下、知的財産庁)への出願につき、関連する書類の提出を含む所定手続を行うことで早期審査を申請することができる。

https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/pph/document/japan_vietnam_highway/shinsei_tetsuzuki_20190401.pdf

 

(4)出願を維持するための料金:不要

 

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6. 出願から登録までのフローチャート

 

(1)出願から登録までの特許出願のフローチャート

01VN12_1

(2)フローチャートに関する簡単な説明

(A)方式審査の期間は出願から1か月であり、知的財産庁は出願人にその結果を通知しなければならない。方式審査において不備が認められた場合、出願人に対し2か月の応答期間が与えられ、補正書や意見書の提出が可能である(通達13.6 a))。提出期間は2か月延長が可能である(通達9.2)。

 

(B)公開前に審査請求がされた場合は公開の日から18か月の期間内に、公開後に審査請求がされた場合は審査請求の日から18か月の期間内に実体審査を行うと規定されている(知的財産法第119条)。ただし、実務上は必ずしも上記の期限内に終わるわけではない。

法の定める保護要件を満たしていない場合、または法の定める保護要件を満たしているが不備がある場合には、実体審査報告を出願人に対して通知する。拒絶理由を明示したうえで、補正の提案を含むこともできる。応答期間は通知から3か月である(請求により3か月の延長可)(通達15.7 a)(i)および(ii)、9.2)。

 

(C)登録許可通知から3か月の期間内に、登録料、公報発行手数料、第1年目の特許料の納付などをすべき旨を、出願人に対して通知する(通達15.7 a)(iii))。

 

関連記事:「ベトナムにおける特許・実用新案出願制度概要」(2019.6.27)

https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17469/

 

[権利設定前の争いに関する手続]

 

7. 拒絶査定に対する手続

 

拒絶理由に対し反論や補正を行わない場合、あるいは行ったが拒絶理由が解消しない場合には拒絶査定となる。一般的には、出願人は知的財産庁に対する審判請求を査定受領から90日以内に行い、知的財産庁長官が審決を確定する。審決に不服のある場合には、科学技術省への不服申立を審決受領後30日以内に行い、科学技術大臣が不服申立への決定を行う(政府決議第14条、通達22、Luật khiếu nại(日本語「不服申立法」))。

また、通達で改正された22.1において、知的財産庁の処分への審判請求に関し、対象となる決定等の範囲が明確化され、出願の補正や審査段階で提出されなかった新規資料などは、拒絶査定不服審判では検討の対象外となることが規定された(通達22.1 c))。

さらに、通達で改正された15.7 b)の第2段落において、「新規資料(審査段階で検討されていない)であって審査結果に影響を与えうるもの」を出願人が提出した場合には、拒絶査定を取り消して、審査を再開すると規定している。ただし、何がここでいう「新規資料」に該当しうるのかといった詳細な規定はないこと、拒絶査定を受けてからいつまでそのような提出が可能なのか規定されてないこと、常にそのような新規資料の提出が可能であれば権利関係の安定性に疑問もあること、といった検討すべき課題もある。

 

関連記事:「ベトナムにおける特許出願に関する方式審査上の拒絶理由通知」(2015.3.31)

https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8516/

 

8. 権利設定前の異議申立

 

あり。出願が公報に掲載された日から登録証付与に関する決定の日までは、如何なる第三者も、当該出願に関する登録許可または拒絶に関して知的財産庁に意見を提示する権利を有する(知的財産法第112条)。

 

9. 上記7の判断に対する不服申立

 

行政訴訟法(Luật tố tụng hành chính)に基づく訴訟により、裁判所で争うことも可能であるが、一般的にはあまり利用されていない。

 

[権利設定後の争いに関する手続]

 

10. 権利設定後の異議申立

 

なし

 

11. 設定された特許権に対して、権利の無効を申し立てる制度

 

(1)特許は、次の場合に完全に無効とされる。

(i)出願人が発明の特許を受ける権利を有しないか、または譲渡されていなかった場合

(ii)発明が特許付与日において保護要件を満たしていなかった場合

(2)特許の保護対象の一部が保護要件を満たしていないときは、一部無効とされる。

(3)特許の有効期間中、第三者は所定の手数料の納付を条件として、(1)および(2)の場合、特許の無効を知的財産庁にいつでも請求することができる(知的財産法第96条)。

無効理由:特許を受ける権利(知的財産法第86条)、特許の一般的要件(知的財産法第58条)、特許の保護の対象とならないもの(知的財産法第59条)

 

12. 権利設定後の権利範囲の修正

 

特許権者は、特許請求の範囲を訂正することができる。

ただし、請求項の削除による権利範囲の減縮のみ可能である(通達20.1 b)(iii))

日本の訂正審判に相当する制度は存在しない。

 

13. その他の制度

 

産業財産権に関する侵害鑑定等を行う専門機関(VIPRI、http://www.english.vipri.gov.vn/)がある(知的財産法第201条)。

 

ベトナムにおける特許審査基準関連資料

【詳細】

 ASEAN主要国及び台湾における特許及び商標の審査基準・審査マニュアルに関する調査研究報告書【特許編】(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)第Ⅲ部4

 

(目次)

第Ⅲ部 調査対象国・地域の審査基準関連資料の詳細

 4 ベトナム P.95

参考 調査対象国・地域の知的財産権担当官庁及び、ウェブサイト公開されている関連法規、審査基準関連資料の情報

 4 ベトナム P.212

ベトナムにおける特許の早期権利化の方法

【詳細】

(1)理論と実務

ベトナムにおける特許出願は、規則上は出願から約2年で審査段階における査定が下される。この2年との期間は、出願日から方式審査までの1ヶ月、方式審査承認通知日から公開までの2ヶ月、公開日もしくは審査請求日から最初の指令書の発行までの18ヶ月、そして特許付与手続きのための3ヶ月が含まれている。また早期審査を受ける場合は、出願日から査定日までの期間を短縮可能である。

 

しかし、実務的には理論上には進まず、通常、特許付与までに平均3~4年を要する。また、早期審査が科学技術省・省令第01/2007/TT-BHKCN号の第9.3条および第27.7.c条に規定されているが、ベトナム国家知的財産庁が抱える滞貨案件(バックログ)を理由として、早期審査の受け入れは一時的に停止されている。

 

(ⅰ)早期公開の請求

2009年に改正された知的財産法第15条によれば、実体審査の期限は、出願公開前に審査請求された場合は公開日から18ヶ月、出願公開後に審査請求された場合は審査請求の日から18ヶ月である。すなわち早期権利化の効果的手段は早期公開である。

 

省令第01/2007/TT-BHKCN号第14.2.a.i条が定める通り、特許出願は優先日から19ヶ月目、または優先主張していない場合は出願日から19ヶ月目、または方式審査承認通知日から2ヶ月以内のいずれか最先に到来する日に公開される。つまりパリ条約に基づく出願は、優先日から19ヶ月目まで公開されない。ただし出願人は所定の料金を支払い、早期公開請求書を提出することができる。

 

一方、ベトナム国内段階に移行した国際出願は方式審査アクセプタンス日から2ヶ月以内に公開される。この方式審査の手続きは優先日から32ヶ月目に始まる。ただし出願人は、省令第01/2007/TT-BKHCN号(ベトナム国内段階に移行した国際出願の早期審査に関する2010年7月30日付省令第13/2010/TT-BKHCN号および2011年7月22日付省令第18/2011/TT-BKHCN号により改正/追加)第27.7.b)条に基づき、早期処理に関する申請書を提出して、ベトナム国内段階に移行した国際出願の方式審査と公開を早期化することができる。

 

実務上、国際出願が国際公開される前であるような極めて早い段階でベトナム国内段階に移行する場合がある。しかし特許規則の下では、ベトナム国内段階に移行した国際出願は優先日から32ヶ月後に方式審査が開始される。方式審査についての早期審査と早期公開のための申請書を提出し、国家知的財産庁(NOIP)がこれに同意したとしても、国際段階での国際公開がなされていないかぎりベトナムでの方式審査は始まらない。したがって出願人が、国際出願がベトナム国内段階に移行してすぐの方式審査を望む場合は、特許協力条約(PCT)第21.2.b条およびPCTに基づく規則第48.4条に基づき、国際出願の早期公開請求を行う必要がある。さらに出願人は、特許協力条約第23.2条に基づき、ベトナム国家知的財産庁(NOIP)に国際出願の早期審査を請求することもできる。

 

早期公開に加えて、出願人は実体審査が速やかに行われるように、できるだけ早く(最も望ましいのは出願時)に実体審査請求を行うことが望ましい。

 

(ⅱ)早期審査の請求

省令第01/2007/TT-BKHCN号第27.7.c条(2010年7月30日付省令第13/2010/TT-BKHCN号と2011年7月22日付省令第18/2011/TT-BKHCN号により改正)、および特許協力条約第23(2)は、出願人が早期審査請求を書面で行い、所定の費用を支払った場合、国際出願の早期審査が行われると規定している。この規定は、出願人が書面で請求し所定の費用を払えば、所定の期限内に審査手続きを取るよう国家知的財産庁(NOIP)に請求できるとする、省令01/2007/TT-BKHCN号第9.3条によって強化されている。しかし同条が定めるとおり、国家知的財産庁(NOIP)は具体的な理由を示した通知を行えば、この請求を拒絶できる。

 

前述の通り、国家知的財産庁(NOIP)は現在、滞貨案件(バックログ)を理由として早期審査を一時的に認めていない。したがって、この手続きはあくまで参考までの理解とし、現時点ではこの運用は期待できない。

 

(ⅲ)外国対応出願の審査結果の活用

省令第01/2007/TT-BKHCN号第15.2条は、国家知的財産庁(NOIP)が実体審査を行う際、外国対応出願の引例と審査結果から得られる情報を活用できると明記している。実務的には、国家知的財産庁(NOIP)の審査官は特許性を判断する際、カナダ、アメリカ、日本、ロシア、英国、スウェーデン、オーストリア、スペイン、韓国、中国、ドイツ、EPO(欧州特許庁)、EAPO(ユーラシア特許庁)といった国・地域、なかでもEPO、日本、米国、中国、韓国における対応出願の審査結果をしばしば参考にしている。

 

特許査定が下される多くのケースでは、ベトナムでの実体審査において外国対応特許と同様となるようにクレームと発明の詳細な説明を補正するよう命じる指令書が発行されている。したがって、外国とりわけ日本、EPO、米国で対応特許が付与されている場合、出願人は特許性を確保するために外国対応出願にあわせて自発的にクレーム補正をするほうがよい。通常、外国対応特許に準拠するための基本条件は、補正された請求範囲が原出願の保護請求の範囲を超えていないことである。

 

(ⅳ)ASEAN特許審査協力(ASPEC)プログラム

ASPECは、参加国の特許庁間で特許審査および審査結果を共有して審査を早期化するとともに、審査の質を向上させる制度である。

 

実務的に、ASPECは審査早期化の非常に有効なツールとして活用できる。これまでのところASPECを運用した特許出願の件数はあまり多くないが、ASPECがもたらす審査早期化というメリットは否定できない。通常の実体審査では、1回目のオフィスアクションが出されるまでには、少なくとも18ヶ月程度を要する。しかしASPECを運用した初の事案では、実体審査に要したのはわずか2ヶ月程度だった。

 

(ⅴ)審査官との面接

審査官とベトナムの弁理士の間で面接が行われる場合がある。この面接は電話、あるいは直接の面談で行うことができ、審査官と弁理士は当該出願が特許性を獲得するための有効な手段(例えば対応特許にあわせて補正した場合に特許査定を得られる可能性など)を協議する。

 

(2)特許の早期権利化を実現するベストプラクティス

特許を早期権利化するために取り得る手段を紹介してきたが、最善の方法は、出願内容を外国対応特許に沿ったものにすることと、ASPECを申請することの2点を組み合わせることである。経験的にも、外国対応特許に合わせることで特許性が満たされて特許付与の条件が整うと、ASPEC制度の申請により、ASPECを申請していない出願よりも、当該出願の審査を早期化することができる。。