台湾におけるロイヤルティ送金に関する法制度と実務運用の概要
台湾においては、ロイヤルティ送金について、特別の規制はない。そこで、以下では、ロイヤルティに課される営利事業所得税を中心に紹介する。
1. 営利事業所得税
台湾において業務上の活動を行っている営利事業者には、所得税法に従って営利事業所得税が課される(所得税法第3条第1項)。営利事業所得税は、日本では概ね法人税に相当する税金である。
本社が台湾域外にある営利事業者については、台湾源泉所得がある場合、営利事業所得税が課税される(同条3項)。専利権、商標権、著作権、ノウハウ(中国語原文:秘密方法)および各種特権(中国語の原文は「特許」。なお、日本語の知的財産の「特許」とは意味が異なる。)を台湾域内において他人の使用に供することで取得するロイヤルティは、台湾源泉所得となる(同法第8条第6号)。そのため、日本企業が、台湾におけるこれらの権利の使用の対価として台湾企業からロイヤルティを受領した場合、営利事業所得税の対象となる。ロイヤルティは、源泉徴収の対象となっており、ロイヤルティを支払う台湾企業は、支払額から20%を控除し、日本企業に代わって国庫に納める必要がある(同法第88条第1項第2号及び各種所得にかかる源泉徴収税率基準第3条第1項第6号)。支払企業は、税金を控除の上、支払をした日から10日以内に、控除した税金を国庫に納付し、源泉徴収票を発行し、管轄税務当局に申告し審査を受けた後、納税義務者に交付しなければならない(同法第92条第2項)。
以上が原則であるが、以下のような減免制度が活用できる可能性がある。
2. 免税制度
営利事業者が新たな生産技術または製品の導入のため、または製品の品質向上、生産コスト削減のため、外国の営利事業者が有する専利権、商標権および各種特権を使用する場合において、主務官庁によりプロジェクトが承認された場合、その外国事業者に支払うロイヤルティに関する所得税の納付が免除される(所得税法第4条第1項第21号前段)。この免税の適用を受けるためには、主務官庁に申請し承認を得た後、税務当局に申請し審査を受けなければならない)(所得税法施行細則第8条の7)。
よって、日本企業が収受するロイヤルティは、一定の要件が満たされる場合、免除を受けることができる可能性がある。免税申請の流れの概要は、以下のとおりである。
(1) 申請者(ロイヤルティを受領する企業)は、必要書類を揃え、経済部産業発展署に免税承認書の発行を申請する。
経済部産業発展署は、「外国営利事業者が収受する製造業・技術サービス業および発電業のロイヤルティおよび技術サービス報酬に関する免税案件の審査原則」(中国語:外國營利事業收取製造業技術服務業與發電業之權利金及技術服務報酬免稅案件審查原則)に従い審査する。
なお、必要書類および審査原則は、以下の経済部産業発展署の「0048外国営利事業に対する技術サービス報酬およびロイヤルティの免税証明申請」のページで詳しく説明されている。https://www.ida.gov.tw/ctlr?PRO=application.rwdApplicationView&id=50
免税期間の上限は、3年であるが、期間が満了する前に同様の手続で再申請することができる(同審査原則第11条の1)。
(2) 経済部産業発展署から免税承認書を取得した後、申請者は、国税局に免税を申請する。北部国税局が公告している「営利事業所得税の処理期間」によれば、当該免税申請の処理期間は60日である。
なお、この申請については、以下の北部国税局の「ロイヤルティおよび技術サービス報酬の免税専区」のページで詳しく説明されている。
https://www.ntbna.gov.tw/multiplehtml/f43a4d51d79c4e9e9690b2748d6cb2e3#gsc.tab=0
3. 日台民間租税取り決め
日台民間租税取決め(正式名称は「所得に対する租税に関する二重課税の回避および脱税の防止のための公益財団法人交流協会と亜東関係協会との間の取決め」である。)では、「一方の地域内において生じ、他方の地域の居住者に支払われる使用料」の限度税率が10%と規定されている(日台民間租税取決め第12条第1項、2項)。日台民間租税取決めについては、以下の日本国税庁「日台民間租税取決めに定める相互協議手続について」のページで詳しく説明されている。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/nichitai/01.htm
また、「所得税協定適用審査準則」第25条では以下の旨が規定されている。
(1) 他方締約国(即ち、日台民間租税取決めの日本)の居住者が台湾からロイヤルティを取得し、その者が台湾域内に常設の機構または固定の場所を有しない、またはその権利とその台湾域内に常設の機構または固定の場所が実際には関連がない場合、源泉徴収義務者は支払時に、所得税協定(即ち、日台民間租税取決め)に規定する限度税率に基づき税金を控除することができる(第1項)。
(2) 他方締約国の居住者が、前項の規定に基づき限度税率を適用する場合、適用法令に従い、他方締約国の税務機関が発行した居住者証明およびその居住者が当該所得の受益所有者であることの証明を、源泉徴収義務者が源泉徴収申告を行うための証明として提供しなければならない。税務当局に源泉徴収申告する際、適用する所得税協定の条文を記載し、前記の所得者に提供された証明書類および所得計算に関する証明書類を提出しなければならない(第2項)。
以上のように、日本企業は、台湾企業からのロイヤルティを収受する場合において、源泉税率を20%から10%への軽減を受けるためには、支払者の協力が必要であり、かつ一定の書類の提出が要求される。したがって、契約締結の段階から、日台民間租税取り決めを考慮した上で双方の権利義務を規定しておくべきである。
なお、申告に必要な書類は、以下の国税局の「租税取り決めの限度税率適用申請書(源泉徴収義務者が源泉徴収申告を行う場合専用)」のページでも説明されている。
4. 送金手続
最後に、海外送金に関連する中央銀行の規制を紹介する。
まず、新台湾ドル両替がない外貨資金の出入りは、特に規制の対象とはならない。一方、新台湾ドル両替を伴う外貨資金の出入りについては、以下のように、一定の場合「外国為替収支又は取引申告弁法」第2条第1項および第5条第1号に基づく申告が必要である(銀行を通じて中央銀行に提出。なお、以下の説明は、支払人が会社である場合を想定した内容である。)
(1) 毎回の為替決済金額が50万新台湾ドル相当未満の場合
申告書を提出する必要はない。
(2) 毎回の為替決済金額が50万新台湾ドル相当以上の場合
申告書を提出する必要がある。この申告書については、以下の中央銀行の「外国為替収支または取引申告書(2021.6.29改正公布)」のページで詳しく説明されている。
https://www.cbc.gov.tw/tw/cp-378-50430-F7FFA-1.html
(3) 1回あたりの為替決済金額が100万USドル相当以上である場合
申告の際に、当該回の外国為替収支または取引に関する契約書、承認書またはその他の証明書類を添付する必要がある。これらの添付書類は、銀行に提出して、申告書の記載事項と一致することについて確認を受ける必要がある。
5. 注意事項
(1) 以上はロイヤルティについての説明であるが、支払が、ロイヤルティであるか、技術サービス報酬であるか、あるいは知的財産権の購入代金に該当するか、すなわち給付の性質によって扱いが異なる。また、給付の性質の認定は、主に双方が締結した契約の実質的な提供サービスの内容および提供方法により決まる。どれに該当するか疑義がある場合には、予め専門家に相談した上で、契約における文言を決定することが望ましい。
(2) 免税の申請、日台民間租税取り決めの適用を受けるためには、双方の協力が必要となる。したがって、契約締結の段階で、十分に協議をしておくことが望ましい。
(3) ライセンス契約書において、ロイヤルティに関する税を「支払者」が負担する旨既定する場合、契約書に規定されたロイヤルティの金額が、源泉徴収後の金額であるか否かを明確に定めておくことが望ましい。また、この場合源泉徴収税を含めた支払総額を計算の上、合意しておくことが望ましい。
(4) 税務については、しばしば変更があることが一般的であり、また、以上の説明は概要の説明に過ぎない。実際の作業は、税務、法務の専門家と相談の上進めることを推奨する。また、以上の説明は、台湾法の観点からの主にロイヤルティに特有の規制を説明したものであり、日本法の観点からの説明は含まない。
台湾における知的財産保護マニュアル
「台湾知的財産保護マニュアル(旧 台湾模倣対策マニュアル)」(2022年3月、日本台湾交流協会)
目次
第1章 台湾の知的財産の概況 P.5
(台湾の知的財産権制度を理解するための基本的な用語、制度および関連する法令の概要を紹介している。また、主な知的財産関連機関、知的財産の動向(出願件数および模倣品取締まり件数の統計情報、意匠法改正の経緯、営業秘密漏洩の事例紹介)、知的財産分野における国際条約および他国との取決め等の締結状況、日本と台湾の知的財産制度の相違について紹介している。)
第1節 保護される知的財産と関連法規 P.5
一、はじめに P.5
二、専利法(特許・実用新案・意匠) P.10
三、商標法 P.14
四、著作権法 P.17
五、営業秘密を保護する法律 P.20
六、公平交易法 P.24
七、トレードドレスを保護する法律 P.27
第2節 主な知的財産関連当局 P.28
一、知的財産局 P.28
二、税関 P.29
三、警察・法務部調査局、検察庁 P.29
四、裁判所 P.30
五、公平交易委員会 P.31
六、小括 P.32
第3節 最近の台湾の知的財産の動き P. 32
一、コロナ禍における出願動向 P.32
二、修理条項導入に係る議論 P.34
三、営業秘密の漏洩事件等 P.35
四、統計情報から見る最近の模倣品取締の動向 P. 37
第4節 知的財産分野における他国・地域との関係 P.38
一、国際条約への加盟状況 P.38
二、他国・地域との間での覚書・取決め等の締結状況 P.39
三、他国・地域との会議・イベント等の実施状況 P.40
第5節 日本と台湾の知的財産制度の違い P.41
第2章 権利取得手続き P.43
(商標法、専利法(発明専利(特許)・新型専利(実用新案)・設計専利(意匠))の各法令に基づく保護対象の範囲、登録要件について説明している。また、商標、特許、実用新案、意匠の出願手続(必要書類、特許庁手数料、優先権主張、特殊な出願、方式審査、補正、実体審査、権利維持など)について解説している(出願から権利取得までの手続概要および必要書類の一覧表、フローチャートあり)。さらに著作権の保護要件、営業秘密についての保護要件や漏洩対策およびドメイン名の申請や紛争解決の流れについて関連する法令とともに解説している。)
第1節 商標 P.43
一、登録要件 P.43
二、出願手続きの流れ P.52
三、手続き P.56
第2節 特許 P.76
一、登録要件 P.76
二、出願手続きの流れ P.78
三、手続き P.84
第3節 実用新案 P.102
一、登録要件 P.102
二、出願手続きの流れ P.103
三、手続き P.107
第4節 意匠 P.114
一、登録要件 P.114
二、出願手続きの流れ P.120
三、手続き P.125
第5節 著作権 P.132
第6節 営業秘密 P.134
第7節 ドメイン名 P.142
一、ドメイン名の申請手続き P.142
二、ドメイン名にかかわる紛争解決の流れ P.142
第3章 知的財産権の保護・活用 P.144
(模倣品の発見から撲滅までの流れを説明している(税関登録による商標権・著作権侵害疑義物品輸出入差止め手続、刑事手続、民事訴訟のフローチャートあり)。また、権利譲渡・ライセンスの留意点について関連する法令とともに紹介している。)
第1節 模倣品対策 P.144
一、取り得る手段 P.145
(一)警告書送付 P.145
(二)税関の水際対策 P.147
(三)警察・検察庁への刑事告訴・告発 P.149
(四)民事訴訟 P.150
(五)権利種別と取り得る手段との関係 P.152
二、模倣品対策の基本的な考え方 P.152
(一)警告書送付の意義 P.152
(二)税関か警察かの選択 P.153
(三)刑事手続き又は民事手続きの選択 P.153
(四)商標権に対する侵害者からの反撃 P.154
(五)専利権に対する侵害者からの反撃 P.154
(六)自らの著作権の権利存在の立証 P.155
(七)その他、手段の選択や考慮すべき事項 P.155
第2節 権利譲渡・ライセンスの留意点 P.156
一、知的財産の譲渡 P.156
二、ライセンスの類型 P.159
三、ライセンス契約の留意点 P.161
四、ライセンスの登録要否、手続き P.169
五、ライセンス料に掛かる税金 P.169
第4章 知的財産関連の制度改正状況 P.171
(台湾の審判制度および代理人制度に関する改正案(専利法2020年12月30日、商標法2021年1月7日公表)の概要を紹介している*1。また、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)への加入に関する改正案*2、特許審査基準(コンピュータソフトウェア関連発明審査基準)の改訂について紹介している。)
*1:第4章に掲載されている内容は改正草案に基づいており、最終的に立法化される内容と相違がある可能性があることに留意されたい。2023年3月9日、「専利法」および「商標法」の一部条文改正草案は行政院会で可決された(https://www.tipo.gov.tw/en/cp-282-921973-b3023-2.html)。
*2:2022年4月15日立法院で可決された(https://www.tipo.gov.tw/en/cp-282-905020-8b515-2.html)。
第1節 審判制度改革 P.171
第2節 CPTPP加入への対応 P.176
第3節 コンピュータソフトウェア関連発明審査基準 P.178
第4節 商標代理人制度 P.179
第5章 よくある相談事例とその対応 P.180
(現地代理人選定における留意事項および実務上考えられる7つの事例についての対策や対応について紹介している。)
第1節 現地代理人選定にあたっての観点・確認事項 P.180
第2節 インターネットを介した模倣品への対策 P.181
第3節 知財の観点からの並行輸入対策 P.183
第4節 被疑侵害品発見時の対応 P.185
第5節 冒認商標出願に気づいたときの対応 P.186
第6節 他社から警告書を受け取った際の対応 P.187
第7節 現地代理店との契約問題 P.188
第8節 転職等に伴う営業秘密の流入・流出の防止 P.189
参考資料 P.191
(特許ライセンス契約見本、譲渡契約書フォーム(特許・実用新案・意匠)、委任状フォーム(特許)、台湾特許・実用新案・意匠登録出願 手数料表(2021年9月現在)を紹介している。)
索引 P.197
台湾における技術ライセンス契約
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