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台湾における小売役務の保護の現状

  1. 台湾における小売役務の保護

 

 台湾では、1997年12月23日から小売役務を指定役務とする商標登録出願の受理が開始され、1998年4月20日に、審査の根拠として「小売サービスマークの登録審査要点」が公告された。「小売サービスマークの登録審査要点」が施行された後、商標法が2回にわたり改正(2010年8月25日改正、2011年6月29日改正)されて「サービスマーク」という名称が削除されたほか、前記の「要点」に記載された小売役務の分類がニース国際分類表と異なったため、知的財産局は、「小売サービスマークの登録審査要点」に代わるものとして2012年4月に「小売役務審査基準」を制定、同年7月に実施し、小売役務の類型や小売役務とその他の商品および役務との類似関係の判断原則などについて詳しく説明し、審査の参考に供した。

 

 「小売役務審査基準」によると、小売役務は、「総合性商品の小売役務」(多様な商品を一括して取り扱う)および「特定商品の小売役務」(特定商品のみを取り扱う)の二つの類型に分けられている。しかし、審査上、「総合性商品の小売役務」「特定商品の小売役務」という指定役務は、不明確で認められないため、経済部商業司が編集した「会社商号の営業項目コード」を参考にし、市場の経営形態に合わせ、受理される具体的な指定役務を例示している。例えば、「総合性商品の小売役務」については、「スーパーマーケット、デパート」が受理される指定役務であるのに対し、「特定商品の小売役務」においては、「時計の小売役務、農産物の小売役務」などが受理される指定役務である。

 

  1. 「小売役務」と「その他の商品・役務」との類似性の認定

 

 「小売役務審査基準」で明示された類似関係の判断原則は、以下の通りである。

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(1)   「総合性商品の小売役務」vs.「総合性商品の小売役務」

 総合性商品の小売役務同士の間には、消費者のニーズを満足させるため、および役務の提供者などの要素において共通または関連するところがあるため、原則的には類似関係を有するものと認められる。

 

(2)   「総合性商品の小売役務」vs.「特定商品の小売役務」「商品」「その他の役務」

 「総合性商品の小売役務」は、「特定商品の小売役務」「商品」「その他の役務」と性質が異なるため、原則的には非類似と認められる。

 

(3)   「特定商品の小売役務」vs.「特定商品の小売役務」

 特定商品の小売役務同士の間は、取り扱う商品が違えば、原則的には非類似と認められる。例えば、「農産物の小売役務」と「家具の小売役務」の間では商品の性質がかなり異なり、明らかに市場を区別することができるので、お互い類似しないものである。しかし、取り扱う商品の種類または性質が極めて近い場合、例えば、「娯楽用品の小売役務」と「運動用品および器具の小売役務」の間は、原則的に類似関係を有するものと認められる。

 

(4)   「特定商品の小売役務」vs.「商品」

 「特定商品の小売役務」については、「特定商品」が概括的なもので範囲が広ければ、原則的には、当該概括的「特定商品」でカバーできる個別の商品まで類似扱いされることはない。例えば、「農産物の小売役務」について、「農産物」は「野菜、果物、花」などの商品をカバーできるものの、「農産物の小売役務」と「野菜、果物、花」とは、原則として非類似と認められる。しかし、一般社会通念および取引の状況に照らして、役務または商品の提供者が同一または関連性があるという誤認が生じやすい場合は、類似関係を有すると認められる。その例としては、「飲料の小売役務」と「炭酸水、清涼飲料」が挙げられる。

 

 知的財産局が公開した「『特定商品の小売役務』と『当該特定商品』の間の類似検索関係参考表」において、類似すると認められているものは、下記の通りである。

 

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(5)   「特定商品の小売役務」vs.「その他の役務」

 「特定商品の小売役務」と「その他の役務」は、互いに性質が異なるため、原則的には非類似と認められる。例えば、「販売代行」と「小売役務」は、原則として非類似と認められる。しかし、両者の出所が同一である、または同一ではないが出所の間に関係があるという誤認を容易に消費者に生じさせるものである場合、例えば、「被服の販売代行」と「被服の小売役務」は、原則的には類似するものと認めることができる。

 

  1. 商品商標、役務商標と小売役務商標の使用上の相違点

 

 商品商標と役務商標は、保護対象が商品または役務そのものであるのに対し、小売役務商標は、保護対象が出願人の提供する販売に関する一連のサービスである。したがって、商標の使用をするのはどちらに該当するか疑義が発生する可能性がある。以下に事例を挙げて説明する。

 

(1)   事例1(商品商標との相違点)

 「特定商品Aの小売」および「ネットショッピング」を指定して甲商標の登録を取得した場合、実際の甲商標を商品Aに表示し、実店舗およびインターネットで販売することが「特定商品Aの小売」あるいは「ネットショッピング」における商標使用に該当するかが問われた事例においては、商品Aに甲商標を表示し、実店舗およびネットで販売することは、甲商標の商品Aへの使用であって、「特定商品Aの小売」および「ネットショッピング」における使用には該当しないと認められた。

 

 「登録商標の特定商品における使用」とは、例えば、家具、電気製品そのもの、および商品の包装パッケージに登録商標を表示することを指す。一方、「登録商標の小売役務における使用」とは、例えば、業者が実店舗またはインターネットで各種ブランドの家具、電気製品を取り扱い、消費者に選択・購入させるサービスを提供し、当該実店舗またはホームページで登録商標を表示する行為を指す。

 

(2)   事例2(役務商標との相違点)

 「食品、飲料の小売」において商標の登録を取得し、自ら開設するレストランにおいて、客にジュースを販売するサービスを提供することは、「食品、飲料の小売」における使用とは認められない。

 

 「食品、飲料の小売」とは、ある場所で食品、飲料を揃え、消費者にこれらの商品を見せて、選択・購入の便宜を図るサービスのことであり、例えば、食料品店、飲料店がこれに該当する。一方、「レストラン」は料理(食品)、ジュース(飲料)を客に提供(販売)するものの、主には、座席が設けられた環境で、消費者が注文して、その場で食事・喫茶できるというサービスである。両者の性質、効能は異なるため、商標権者は「食品、飲料の小売」において登録を取得したものの、実際にはレストランを開いて、料理、ジュースを提供している場合、「食品、飲料の小売」における商標の使用とは認められない。

 

  1. 小売役務に関する制度における日本と台湾の相違

 

(1)   台湾における政府料金の追加

 日本では、小売役務商標を出願する場合、多くの小売役務を指定しても1区分の料金の納付で足りるが、台湾では、特定商品の小売役務を指定する場合、5個以内であれば1区分の料金で、5個を超えた場合は、料金(1個につきNT$500)が追加される。

 

(2)   日本における商標の使用または商標の使用の意思を確認するための審査

 総合小売役務を指定する場合:台湾では、出願人が個人か法人かを問わず、総合小売役務を指定することができるが、日本では、個人が総合小売役務を指定して出願した場合、個人(自然人)が総合小売役務を行うことは通常考え難いという理由により、拒絶理由通知が発せられ、商標の使用または商標の使用の意思を確認するための証拠提出が要求される。一方、法人(会社)が総合小売役務を指定して出願した場合でも、総合小売役務が特定商品の小売役務と異なる特徴があることを理由に、「自己の業務に係る商品または役務についての使用」であるか否かについて調査が行われ、出願人が総合小売等役務を行っていると認められなかった場合、同様に証拠提出が求められる。

 

 類似の関係にない複数の特定商品の小売役務を同時に指定する場合:台湾では、特定商品の小売役務をたくさん指定しても問題ないが、日本では、通常、同時に取り扱わない商品同士を取り扱う小売役務を指定した場合には(例えば、「書籍」と「魚介類」、「飲食料品」と「被服」など、類似する小売役務の分野を超えて複数の類似群に属する小売役務を同時に指定)、その商標を記載された役務に使用しているかまたは使用の意思があるかについて疑問が生じるので、商標の使用または商標の使用の意思を確認するため、拒絶理由通知が発せられ、証拠書類の提出が求められる。

台湾における商標審査基準関連資料

【詳細】

 ASEAN主要国及び台湾における特許及び商標の審査基準・審査マニュアルに関する調査研究報告書【商標編】(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)第Ⅱ部7

 

(目次)

第Ⅱ部 調査対象国・地域の審査基準関連資料の詳細

 7 台湾 P.111

【参考】調査対象国・地域の知的財産権担当官庁及びウェブサイト公開されている関連法規、審査基準関連資料の情報

 7 台湾 P.138