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台湾の意匠特許における機能性および視認性

1. 台湾の意匠特許

 

 意匠特許は台湾においては専利法に基づき保護される。そのため、意匠の創作には特許可能な特許性(新規性および独創性)がなければならない。台湾専利法の第121条(1)は、意匠とは「物品の全部又は一部の形状、模様、色彩又はこれらの結合であって、視覚に訴える創作」を指すという定義を示している。意匠特許出願が許可される前提として実体審査が実施されることになる。

 

1-1. 機能性

 

1-1-1. 機能性の定義

 

 専利法第124条(1)(1)は、専らその機能によって決定づけられる物品の形状は意匠特許付与の対象とはならないと規定している。「意匠特許審査ガイドライン」(以下「ガイドライン」と称する)の第3部第2章は、専ら機能的な意匠を含め、制定法上の特許性を持たない意匠に該当する意匠について更に詳細に述べている(上記の章の2.2条を参照)。特定の物品の特徴が単に当該物品もしくは別の物品の機能もしくは構造に対応するだけのものである場合、それらは専ら機能的な意匠とされる。更に詳しい例を挙げれば、ボルトとナットのねじ山のらせん構造、ピンタンブラー錠とロックキーの切れ込みと歯などは、専ら機能のための特徴である。これらの物品は、それぞれの機能を果たして所期の用途を実現するために、別の物品と噛み合ったり別の物品に装備されたりしなければならない。そのような相互連結的な意匠は特許性を持たない。

 

 ただし、モジュールシステムによる物品を様々な形で連結させてシステム構築を可能にすることを重視して創造された意匠の場合、それらは必然的に特許性を持たないが、個々のモジュールの構成要素は特許性を有するとされる。そのような物品の例としては、ブロック組立玩具、ロボットのプラモデル、セット文房具などが挙げられる。

 

1-1-2. 機能性の審査

 

 意匠特許出願は実体審査の対象となるため、出願された主題が特許適格な意匠の定義に合致するか否かを判断するにあたって、審査官は保護の適用範囲を示した図面を検討することになる。機能的な意匠は、制定法上の特許性を持たない主題として、審査官の拒絶理由通知書によって特許を拒絶される。

 

 過誤により意匠特許が付与された場合、特許権者以外の者は誰でも、意匠特許が専ら機能的なものであって特許性を持たない(専利法141条(1)(1))と主張して当該意匠特許に対し無効訴訟を提起することができる。更に、民事訴訟による瑕疵ある意匠特許の執行に対抗して、侵害訴訟の被告が裁判において特許無効の抗弁を提起する可能性もある。裁判所が本案に関する抗弁を認めた場合、特許権者はその裁判において意匠の特許権を行使することはできなくなる(智慧財産案件審理法第16条)。

 

1-1-3. 機能性に関する判例

 判例:104-特許行政訴訟-No.32 台湾知的財産裁判所の2015年10月22日付判決

 

 Appleは、特に機能専従性を理由としたiPadの意匠特許出願の拒絶を不服として台湾経済部智慧財産局(TIPO)を提訴した。iPadの背面にある制御ユニットは専ら機能的なものであるとTIPOは主張した。しかし、当該制御ユニットが機能を指向するものであるとしても、それらはiPadの異なるモデルで異なる構成部品となっており、それによって創出される背面の形状は同一ではないと裁判所は認定した。製造者が他の構成部品から組み立てられた異なる形状の背面を選択的に採用することによって同じ機能を実現しうるという事実を考慮すると、意匠特許出願の対象となった背面の形状は多くの選択肢の中の1つに過ぎない。問題の形状は、2つの物品の対応する部分の相互連結を規定する基本的な形状ではない。

 

1-1-4. 結言

 

 以上に述べたように、意匠特許は意匠と物品との結合を要求するが、物品とは不可避的に機能性を有するものである。それゆえ、争点となった意匠は機能的であるとはいえ、当該意匠が機能のみならず他と異なる視覚効果を提供する装飾性を作り出すのであれば、それは専ら機能的なものとは言えず、特許性を有することになる。

 

1-2. 視認性

 

1-2-1. 視認性の定義

 

 第一に、制定法の文言には、使用者が目視しえないか小さすぎて人間の目には認識できない一部の装置の内部構造について定めた規定が存在しない。視覚に関係する問題については、意匠の定義によって対処することが可能である。

 

 専利法第121条(1)に規定されている特許適格な意匠の定義は、形状、模様、色彩もしくはそれらの結合に関してなされた、視覚効果による物品の全部ないし一部の創作である。したがって特定の有形物の外部もしくは外観のみが意匠特許の保護対象となる、と「ガイドライン」の第3部第3章1.3.4条は規定している。しかし、光学機器に頼らなければ観察できない微細な物品がすべて排除されるわけではない旨が「ガイドライン」に明記されている。言い換えれば、宝石の微細なカットやLEDのように極度に微細な物品が通常は顕微鏡の利用によって目視可能となる場合、意匠特許によって保護されうる。注目すべきは、使用時には見えない物品に施された意匠(自動車の内部に取り付けられるエンジンの部品や固定具の意匠等)についても意匠特許の付与が認められるという点である。したがって、ある物品がその物品寿命のいずれかの時点で1名以上の対象となる使用者もしくは消費者によって目視される場合、その物品は「使用時に目視可能」と見なされる。最も普通に見受けられる例は、人体の内部に設置される医療機器であろう(移植用血液ポンプに関する意匠特許D146687号、骨釘に関する意匠特許D136430等)。これらの医療機器は移植に先立って患者に見せられるものであるが、ひとたび移植されてしまえば、機能を果たしている間は目に見えないものである。

 

1-2-2. 視認性の審査

 

 実体審査の過程で、目視しえない意匠に関する出願は審査官の拒絶理由通知書によって拒絶されることになる。ただし、その意匠が通常の使用状況でのみ目視しえないものである場合には特許付与の対象となりうる。

 

 目視しえない意匠に関する出願に対して、過誤により意匠特許が付与された場合、特許権者以外の者は誰でも、意匠特許が特許性を持たない(専利法141条(1)(1))と主張して当該特許に対し無効訴訟を提起することができる。更に、瑕疵ある意匠特許に対して侵害訴訟の被告が同様な特許無効の抗弁を提起することもありうる(智慧財産案件審理法第16条)。

 

1-2-3. 視認性の判例

 

 物品の内部構造の意匠に関する具体的な判例を探し出すことはできなかったが、物品が別の装置に組み込まれて使用される際には目視しえない意匠を対象とした意匠特許は数多く見受けられる。

 

1-2-4. 結言

 

 特定の物品の内部が意匠特許によって保護されないとしても、全体として意匠特許を付与されている物品が他の装置の内部に使用された場合に保護されなくなるわけではないという点を指摘しておく。ある物品が意匠特許登録されているが、その物品は他の装置に装備されるものであって、当該装置が実際に使用されている間、慣習的な使用条件の下では特許物品は隠れていて目視しえないと仮定してみよう。そのような場合にも、登録意匠が適用された物品が組み込まれた装置の使用は侵害と見なされる。たとえば、あるエンジンの外観が意匠保護の対象として登録されている場合、当該エンジンを装備した車両の販売および運転は、運転している者の目にはエンジンが見えないとしても特許侵害に相当するおそれがある。