台湾における特許権の存続期間の延長制度
(1)延長登録出願できる特許
医薬品、農薬品またはその製造方法に関する特許権の実施において、その他の法律の規定により、許可証を取得する必要があるものについて、特許権期間の延長の申請をすることができる。(専利法第53条第1項)。医薬品には、動物用のものは含まれない(専利法第53条第3項)。
延長登録をすることができる特許発明は、医薬品、農薬又はその製造方法の特許発明のみに限られている。特許発明が医薬品に属するか否かの認定については、原則的に薬事法の関連規定を参照しなければならない。実用新案権または意匠権については、医薬品または農薬に関わるものであっても、延長登録の対象とならない。(審査基準第二篇「發明專利實體審査」第11章「專利權期間延長」2.1「申請延長之發明專利種類」)。
農薬品とは、農作物を害する病害虫の防除に用いられるもの、農作物の成長を調節し、またはその生理機能に影響を与えるもの、有益な昆虫の成長に使用されるもの(農薬管理法第5条)。
(2)延長登録出願できる時期
最初の許可証を取得してから3か月以内に専利主務官庁に申請書に証明書類を添え提出しなければならない。ただし、特許権満了前の6か月間は、延長出願できない(専利法第53条第4項)。
(3)延長の回数
延長出願を行える回数は1回のみである(専利法第53条第1項)。
(4)延長登録出願の書類
延長申請の際、1.特許証の番号、2.発明の名称、3.特許権者の名前、国籍、居住地、または事業所。代表者がいる場合は、代表者の名前、4.延長理由および延長期間、5.最初の許可取得日を記載した申請書および許可証の写し、国内外の証明書類を専利主務官庁に提出する(特許権存続期間延長に関する審査規則第3条(中国語「専利権期間延長核定辦法」)。
(5)延長期間
(ⅰ)医薬品およびその製造方法の場合
医薬品またはその製造方法の延長期間については、許可証取得のために国内外で行った臨床試験期間および国内の検査試験登記申請に要する審査期間が考慮される(特許権存続期間延長に関する審査規則第4条)。
(ⅱ)農薬品およびその製造方法の場合
農薬品またはその製造方法の延長期間については、許可証取得のために国内外で行った農地試験期間および国内の検査試験登記申請に要する審査期間が考慮される(特許権存続期間延長に関する審査規則第6条)。
医薬品、農薬またはその製造方法に係る特許権の延長を許可する期間は、中央目的事業主務官庁から許可証を取得するための発明を実施できない期間を超えてはならない。許可証を取得するための期間が5年を超える場合も、その延長期間は5年までとする(専利法第53条第2項)。
(6)延長登録を認める範囲
特許権存続期間の延長範囲は、許可証に記載された有効成分及び用途で限定する範囲のみに及び、特許請求の範囲に記載され許可証に記載されていないその他の物、その他の用途またはその他の製法には及ばない(審査基準第二篇「發明專利實體審査」第11章「專利權期間延長」6「特許権存続期間の延長登録を認める範囲」(中国語「核准延長發明專利權期間之範圍」))。
(7)留意事項
延長出願について、その特許権の満了時に査定が出ていない場合、その延長出願について延長が許されたものと擬制される。その後、延長しない旨の査定が出たときは、その特許権は本来の満了時に消滅したとみなされる(専利法第54条)。延長を認める査定が出れば、延長状態が継続される。医薬品等の発明を特許権満了後に実施する場合、延長出願は公告されるので(特許権存続期間延長に関する審査規則第3条第3項)、延長出願の有無の確認を必ず行う必要がある。
台湾における医薬用途発明の特許保護
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台湾における生物材料の寄託制度
生物材料の発明または生物材料を利用した発明を特許出願する場合、当該生物材料が当該発明を実施するために必要であり、また当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が入手しにくいものであるときは、これを寄託しなければならない。寄託しなかった場合、開示不十分として特許権は付与されない(専利審査基準第1篇第8章生物材料寄託)。
新専利法においては、寄託機関が生存確認試験を行って微生物の生存を確認後、受託証を発行するので、個別に生存確認証明書を発行することはなくなった(寄託規則第7条第1項及び新専利法第27条の立法理由)。
・寄託手続きと専利出願手続きの関係図(特許生物材料寄託マニュアル第4頁)
生物材料の寄託および分譲の流れ(特許生物材料寄託マニュアル第12頁)
(1)寄託機関
台湾国内における寄託機関は、財団法人食品工業発展研究所である(専利審査基準第2篇第14章4.2.2生物材料の寄託及び提供)。
国際寄託機関は、ブダペスト条約により特許微生物国際寄託機関の資格を持つ生物材料寄託機関である。
(2)寄託期限
国内寄託
・ 出願人は遅くとも出願日までに当該生物材料を寄託しなければならない(新台湾専利法第27条第1項)。
・ 台湾はブタペスト条約に加盟していないため、台湾以外のブタペスト締約国の寄託機関に既に国際寄託をしていたとしても出願日までに台湾の寄託機関へ当該生物材料を寄託する必要があるが、新専利法においては、台湾と寄託効力を相互に認める国の場合には、互恵原則に基づき、台湾国内で再度寄託する必要がなくなった(新専利法第27条第5項)。台湾は、2015年6月18日から日本と生物材料の寄託の相互提携関係を築き、出願人が台湾において専利出願を行い、当該生物材料を日本の経済産業省特許庁(以下、特許庁という)が指定した日本国内の寄託機関に寄託した場合、法定期間中に「独立行政法人製品評価技術基盤機構・NITE特許生物寄託センター(NITE-IPOD)」または「独立行政法人製品評価技術基盤機構・特許微生物寄託センター(NPMD)」が発行した受託証を提出しなければならない。その他、日本側も台湾の寄託機関「財団法人食品工業発展研究所」を承認している(台湾専利審査基準第1篇手続審査及び専利権管理第8章生物材料寄託第4点「生物材料の受託証」、台日専利手続上生物材料寄託相互提携作業要点第4点)。
(3)台湾寄託機関へ寄託する際の必要書類等
・ 寄託請求書(中国語「寄存申請書」)
http://patent.bcrc.firdi.org.tw/manual/pdf/table02_Ch.pdf より入手可能。
・ 生物材料の基本情報(中国語「生物材料之基本資料」)
http://patent.bcrc.firdi.org.tw/manual/pdf/table03_Ch.pdf より入手可能。
・ 生物材料のサンプル
・ 寄託申請に関する委任状(外国人寄託者が寄託する場合、台湾特許代理人への委任が望ましい)
・ 輸入許可証
http://patent.bcrc.firdi.org.tw/manual/pdf/appendix03_ImportPermitServiceApplicationForm_Ch.pdfより入手可能。
代理人は、生物材料の関連資料を台湾の関連主管単位(例:衛生署、商検局、農委会)に提出し、生物材料の輸入許可書の発行を申請する(輸入許可書費用:3,500台湾元/件(辦理專利生物材料輸入委託書第4条))。
・ 費用
細菌、放線菌、酵母菌、カビ、椎茸類、プラスミド、ファージ:38,400台湾元/件
ウィルス、動物細胞株、植物細胞株及びハイブリドーマ:52,800台湾元/件
(4)特許出願に際しての手続き
(i)国内寄託
・ 出願人は出願日翌日から4ヶ月以内に、寄託機関、寄託日、寄託番号を明記した寄託証明文書を提出しなければならず、期間内に提出しなかった場合は寄託しなかったものとみなされる(新専利法第27条第2項)。専利法改正前は、出願日翌日から3ヵ月以内に寄託証明文書を提出、出願願書に寄託機関等を明記する必要があったが新専利法において改正されている。
・ 国際優先権を主張する場合は、優先権日翌日から16ヶ月が期限となる(新専利法第27条第3項)。
(ii)国際寄託
・ 出願前に、既にブダペスト締約国の寄託機関において寄託している場合、出願日翌日から4ヶ月以内、或いは優先権日翌日から16ヶ月以内に国際および国内寄託機関により発行された証明を提出しなければならない(新専利法第27条第4項)。
・ 台湾と寄託効力を相互に認める国の寄託機関へ出願日前に国際寄託をしている場合には、当該国の寄託機関より発行された証明文書を提出する(新専利法第27条第5項)。
(5)寄託物の準備・保管形態
・ 冷凍乾燥管:単層または複層ガラス管、長さ10cm以下、直径:1.6cm以下。
・ 冷凍管:ねじ口と耐凍性の材質を有するもので、長さ4~5cm、直径1.1cm以下。
・ 試験管:長さ8~16.5cm、直径:1.0~1.6cm。
(6)寄託されている生物材料の分譲
・ 特許権の公告日から、寄託されている生物材料を分譲できる状態にしておかなければならない。
・ 特許権の公告前、新専利法第41条第1項の補償金請求権の要件を満たし、書面により補償金請求通知を受けた相手方、または特許出願案が拒絶され、再審査を請求する者は、当該生物材料の分譲をうけることができる(審査基準第2篇第14章4.2.2生物材料の寄託及び提供)。
(7)再寄託・延長
・ 寄託機関が分譲できなくなった、もしくはできなかった時、寄託者は寄託機関の通知を受けた日から3ヶ月以内に再度当該生物材料を提供した場合、元寄託日を寄託日とすることができる(台湾特許出願に関する生物材料寄託規則(中国語「有関専利出願之生物材料寄託辦法」)第17条第1項。以下、「寄託規則」という)。
・ 生物材料の性質により、またはその他正当な事由がある場合、寄託機関の許可を得て前記の3ヶ月の期間を延長することができる(寄託規則第17条第2項)。
再提供した生物材料が期限内に寄託機関に送達されなかったときは、寄託機関に再度送達した日を寄託日とする(寄託規則第17条第4項)。
(8)国内寄託の取下げ
生物材料が台湾国内の寄託機関に寄託された場合、その寄託期間は30年であり、その期間中に寄託を取り下げてはならない。ただし当該寄託機関が未だ寄託証明書を発行していない場合、寄託を取下げることが可能である。寄託が取下げられた場合、寄託機関は当該生物材料廃棄するか寄託者に返還しなければならず、これを寄託者に通知しなければならない(寄託規則第7,10,11条)。
(9)寄託する必要のない生物材料
出願日前に「当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が入手しやすいもの」、または以下のいずれかの条件を満たすものは、寄託する必要がない(新専利法第27条第1項但書、審査基準第2篇第14章4.2.3当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が入手しやすい生物材料)。
・ ビジネスにおいて公衆が購入することができる生物材料(例えばパン酵母菌、酒醸麹菌)
・ 出願前、既に国内寄託機関あるいはブダペスト条約により国際特許組織が指定した特許寄託機関に寄託し、自由に分譲できる生物材料
・ 当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が明細書の説明に従って過度の実験をする必要なく製作できる生物材料
【留意事項】
・ 寄託していなかった生物材料が新専利法第27条第1項における「当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に入手できるもの」に属するかどうかについては、実体審査時に「充分に開示し、それに基づいて実施することができる」という要件を審査する段階で始めて確認できる。入手できないおそれがある場合、台湾特許庁は出願人に対し、容易に入手できることを証明するための証明書類を一定の期間内に提出するよう要請することができる。上記の期間内に提出しない場合、当該要件を満たさないという理由で、台湾特許庁から拒絶査定が下されるときには既に受託証を補正することができないため、予め生物寄託を申請し、もしくは容易に入手できる生物材料であるという証明文書を取得することが望ましい。
・ 2013年1月1日以前に出願した特許については、旧法規定が適用されるので、実体審査請求時に、生存確認証明書を提出すればよい。2013年1月1日以前に寄託したが、2013年1月1日以降に特許出願なされたものに関しては、出願日翌日から4ヶ月以内、或いは優先権日翌日から16ヶ月以内に提出した旧式受託証に生存確認証明書が添付されていなかった場合、特許庁が指定した期間内に生存に関する証明書を補正しなければならない。期限内に補正しなかった場合、寄託しなかったものとみなされる(寄託規則第24条)。
・ 財団法人食品工業発展研究所が寄託条件の整った一般案件に対し、生存確認試験を行い、受託証を発行するまでに要する時間は、約10営業日である(特許生物材料寄託マニュアル第44頁)。