トルコにおける商号の保護
<商法における商号>
トルコの法律において、商号は商法で規定されている。
商法によれば、本社がある場所の商業登記に登記されている者が商号保有者としての保護を受ける。商号は、ある事業を他の事業から識別するのに役立つものであり、商法第39条第1項によると、各商人は、事業に関する業務を商号により行い、事業に関する証書その他の書類には、商号とともに署名する必要がある。
各商人は、事業が開始された日から15日以内に、事業および選択した商号を本社所在地の商業登記に登記および公告する(商法第40条第1項)。
商号は本社所在地の商業登記に登記および公告され、適法に登記および公告された商号の使用権は、その登記された商人に属する(商法第50条)。
登記された商号が、商業上の公正さに反して他人に使用された場合、権利所有者は、使用中止、将来の使用の禁止、不当な商号登記についてはその登記の変更または削除、侵害の結果である重大な状況の除去、設備および関連商品の破棄が必要な場合にはそれらの破棄、損害がある場合は、過失の重さにより金銭的および非金銭的損害賠償を請求することができる(商法第52条)。
金銭的損害賠償として裁判所は、侵害の結果、新会社が取得することが可能であると考えられる利益相当額を決定することができる。また、裁判所は勝訴した当事者の要求により、不利な判決が下された者の費用で、判決を新聞に掲載することを決定することもできる。
本社所在地の商業登記に登記されていない商号は、商法第54条から第63条で規定されている不正競争に関する規定によって保護されうる。しかし、不正競争に関する規定が商号所有者に認められる保護範囲は、より狭いものとなっている。
<産業財産法における商号>
商号は、商人が事業に関する仕事および業務を行う際に使用する名称である一方で、商標は、事業の商品および役務を他の事業の商品および役務から識別するのに役立つ識別子といえ、商号と商標は異なる識別性を有する。しかし、商号の商業的使用も問題となりえ、この二分野が相互に関連し、または調整が必要となる状況もありえる。
商標としての登録要件を満たす限りは、商号を商標として登録することは可能である。しかし、商標として登録された商号の商標保護は、基本的に登録された商品または役務に制限される。つまり、商標として登録された商号は、登録された商品および役務の区分ならびにその範囲に含まれる商品または役務について保護される。ただし、これに対する例外として、識別性の高い商標についての保護がある。
さらに、産業財産法第6条第6項によると、登録出願が行われた商標が、他人の有する商号を含む場合、商号の権利保有者の異議申立により出願は拒絶される。これに従って、他人の商号を含むことを理由として商標の登録に異議申立が行われた場合には、その商号が登録された登記簿における事業活動内容と、商標出願が含む指定商品および役務を比較し、商標出願内容が、先行する商号の権利の範囲内に入るかどうかが調査されるものと解される。
また、産業財産法第7条第3号eによると、商標権者は、登録された商標権を、他人が商号として使用することを禁止することができる。すなわち、商標登録より後の日付で、その商標を含む商号を登記し使用することは商標権の侵害を形成しうる。
トルコにおける政府による知的財産に関する各種優遇・支援制度
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トルコにおける商標権に基づく権利行使の留意点【その2】
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トルコにおける商標権に基づく権利行使の留意点【その1】
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トルコにおける特許権の行使 – 潜在的リスクの回避方法
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トルコにおける商号の保護
【詳細】
トルコでは、商号は主に2012年7月1日施行の法律第6102号(以下、商法)によって保護されている。
商法第39条により、商人は商号のもとで商行為を成すべきであり、営利事業に関する証書に署名する場合は、商号を使用すべきである。
商法第50条により、正式に登記された商号の排他的権利は、当該商号の所有者に属する。
商法第51条の1は、裁判所、公務員、商工会議所、弁護士、またはトルコ特許庁が、商号に対する侵害行為を知った場合、直ちに商取引登記所または検察に通知する必要があると定めている。
商法は、登記された商号の所有者を広範に保護している。登記された商号が他人により商業上、不公正に使用された場合、登記された商号の所有者は、商法第52条に基づき、次の事項を請求できる。
1.使用の中止
2.将来の使用の禁止
3.不当に登記された商号の場合、当該登記の修正または抹消
4.不正行為に起因する重大な状況の除去・撤廃
5.設備および商品の破棄
6.損害が発生している場合、金銭的または非金銭的賠償。裁判所は被告に対して、侵害行為によって被告が得たであろう利益と同等の賠償金の支払い命令を出すことができる。また、原告の請求により、裁判所は被告に対して、判決および被告によって支払われるべき訴訟費用を新聞に掲載することを命ずることができる。
上記の商法第52条は、原告の商号が登記されている場合のみに適用される。
商号は、未登記でも使用することが可能であるが、未登記の商号の所有者は、商法に定められた行政的制裁措置として、商取引登記所により1000トルコ・リラの罰金を科せられる。
未登記の商号は、商法第54条から第63条に定められた不正競争規定によって保護されるが、保護範囲は狭く、未登記の商号の所有者はこれらの不正競争規定に従い、重大な損害を受けたことを立証する必要がある。
商号は、当該企業を直接示すために使用され、かつ他の企業と識別するために使用される。一方、商標は、企業自体ではなく、当該企業の商品および役務を他の企業の商品および役務から識別するために使用される。商号と商標は、別々の法律の基で保護され、異なる機能を有しているが、商号は商標としても使用可能であり、商号を商標として登録することを禁止したり義務化したりする規定はない。ただし、商号に関して商標法上の保護を得るためには、商号を商標として登録する必要がある。この例外として、商標法は下記の規定を有する。
商標法第8条の3により、未登録商標の所有者または取引上使用されている他の標識の所有者による異議申立において、次に掲げる場合は、出願された商標は登録されない。
1.他の標識の権利が、商標出願日前または当該出願につき主張されている優先日前に取得されている場合。
2.他の標識の所有者に後続の商標の使用を禁止する権利が付与されている場合。
商号は、上記の商標法第8条の3に規定されている「取引上使用されている他の標識」に含まれ、同条において、当該標識を取引において最初に使用した所有者に優先的な権利が与えられている。さらに、商標法第8条の5により、次のように規定されている。
「当該権利者からの異議申立により、出願された商標が第三者の名称もしくは写真を含む場合、または第三者の著作権もしくは産業財産権を害する場合は、登録されない。」
商号は、上記の「第三者の産業財産権」に含まれる。
トルコにおける特許権行使 -基礎編-
【詳細及び留意点】
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トルコにおける地理的表示保護制度および同保護
【詳細】
諸外国の地理的表示保護制度及び同保護を巡る国際的動向に関する調査研究(平成24年3月、日本国際知的財産保護協会)第Ⅲ部3-12
(目次)
第Ⅲ部 各国・地域における地理的表示保護制度と運用
3-12 トルコ P.281