トルコにおける第一国出願義務
【詳細】
トルコ国内でなされた発明に関する登録出願をトルコで最初に行う必要があるとする法規定は存在しない。しかし、下記の「秘密特許」と題された産業財産法第124条は、以下のとおり、一定の発明については、国防省の許可なしに他国で特許出願することができないと規定している。
・トルコ産業財産法第124条
(1)トルコ特許商標庁は、出願に係る発明が国の安全の観点から重要であると判断した場合、出願の写しを、見解を得るために国防省に送付し、状況を出願人に通知する。
(2)トルコ国防省は、出願に係る発明を秘密裏に実施することを決定した場合、通知日から3か月以内に決定を特許庁に通知する。秘密裏に行われることの決定がなされない場合または期間内に特許庁に通知しない場合、出願に関する業務は開始される。
(3)特許出願が秘密の対象となる場合、特許庁は状況を出願人に通知し、出願審査を進める前に出願を秘密特許出願として登録する。
(4)特許出願人は、秘密特許出願に係る発明を、権限がないものに開示することはできない。
(5)特許出願人の要求により、特許出願に係る発明の一部または全部使用が国防省により許可されうる。
(6)特許出願人は、特許出願の秘密保持期間について政府から補償を請求することができる。支払われる補償額に関して合意に達しない場合、補償額は裁判所により決定される。補償は、発明の重要性および出願人が自由に使用する場合取得するであろうと推定される利益の額を考慮して算出される。特許出願人の過失により秘密特許出願の対象となる発明が開示された場合、補償請求権は消滅する。
(7)秘密特許出願に関して秘密保持期間中、特許庁に特許登録料は支払われない。
(8)トルコ特許商標庁は、国防省の要求により、特許出願のために予見された秘密保持を取り消すことができる。秘密保持が取り消された特許出願は、秘密保持が取り消された日から特許出願として業務が行われる。
(9)トルコで生まれた発明が国の安全の観点から重要である場合、他国で特許出願をすることができない。トルコで生まれた発明に関して特許庁に行われた特許出願が第1項から第8項の条項の対象となる場合、国防省の許可なしに他国で特許出願をすることができない。
(10)発明者の居住地がトルコである場合、反証が行われない限り、発明がトルコで行われたと認められる。
上記の規定により、トルコ特許商標庁が出願に係る発明が国の安全の観点から重要であると判断し、国防省が出願業務を秘密裏に行うことを決定した場合、国防省の許可なしに他国で特許出願を行うことはできない。すなわち、産業財産法第124条で規定されている例外の場合、他国への出願は国防省の許可に左右される。
上記の例外に該当しないトルコでなされた発明に関する特許出願を最初にトルコで行う義務は産業財産法に規定されていない。
実務上、トルコでなされた発明は、PCTおよびEP出願として行うこともできる。産業財産法第93条によると、トルコを含むパリ条約またはWTO設立協定の加盟国である政府に対して特許または実用新案に関する出願を適法に行った出願人は、同一の発明についてトルコで出願する際に、最初の出願日から12か月以内であれば優先権を主張することができる。
【留意事項】
産業財産法において、国防省の許可なしに国の安全の観点から重要である発明を他国で出願することに関する罰則は規定されていない。
トルコでなされた、国の安全の観点から重要である発明に関する最初の特許出願をトルコ国外で行い、トルコでの出願に際して優先権を主張した場合についても、産業財産法において罰則は規定されていない。
トルコの特許・実用新案、意匠、商標関連の法律、規則等
トルコの特許・実用新案、意匠、商標関連の法律、規則等(現地語・英語・日本語)は、以下のとおりである。
No. |
法令名 |
施行日等 |
法律番号等 |
情報元 |
URL |
言語 |
1 |
産業財産法*) |
2017.1.10施行 |
SINAİ MÜLKİYET KANUNU |
トルコ特許商標庁 |
トルコ語 |
|
トルコ特許商標庁 |
https://www.turkpatent.gov.tr/TURKPATENT/resources/temp/9C806052-924A-4305-A4E9-2912B721A7B1.pdf |
英 |
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– |
– |
日 |
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2 |
産業財産法施行規則 |
2017.4.24版 |
Sayı:30047 2017.4.24
|
トルコ特許商標庁 |
https://www.turkpatent.gov.tr/TURKPATENT/resources/temp/C633D924-0B9B-4A65-80BE-FA6C55E9BE0E.pdf |
トルコ語 |
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– |
英 |
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– |
– |
日 |
*) 旧特許法(法律No.551)、旧意匠法(法律No.554)、旧地理的表示法(法律No.555)、旧商標法(法律No.556)は本法191条によって廃止されるが、本法の暫定条項1-6に従って、一定の規定が継続される。
トルコにおける特許権の行使 – 潜在的リスクの回避方法
記事本文はこちらをご覧ください。
イスラム法(シャリーア)と知的財産法
「シャリーア及びファトワーと知的財産法」(2016 年6 月、日本貿易振興機構ドバイ事務所)
(目次)
第1章 シャリーア及びファトワーの紹介及び概説 p.4
第2章 MENA地域の諸国におけるシャリーア及びファトワーの実践及び運用 p.7
アラブ首長国連邦p.7
アルジェリアp.8
イラクp.8
イランp.9
エジプトp.11
オマーンp.12
カタールp.12
クウェーp.14
サウジアラビアp.16
シリアp.19
チュニジアp.20
トルコp.20
バーレーンp.22
パレスチナp.22
モロッコp.23
ヨルダンp.23
リビアp.25
レバノンp.25
第3章 シャリーアと知的財産法の関係 p.26
第1節 シャリーアによる知的財産法の制限及び影響の態様 p.26
第2節 一部の国の知的財産法に規定された制限に伴う知的財産の対象物の制限 p.29
アラブ首長国連邦p.29
アルジェリアp.30
イランp.30
エジプトp.30
オマーンp.31
カタールp.32
クウェート p.32
サウジアラビア p.33
シリアp.34
チュニジア p.34
トルコp.35
モロッコp.35
ヨルダンp.36
ヨルダン川西岸地区 p.36
リビアp.37
第3節 登録できない項目一覧 p.38
第4章 知的財産権に関するファトワーの事例 p.39
第5章イスラム諸国において外国出願人が知的財産保護を受ける上で直面しうる障害p.41
第6章 知的財産保護の取得に際して障害に直面した場合に日本企業がとりうる措置 p.44
第7章 知的財産保護が得られない場合に利用しうる代替的な保護手段 p.44
第8章 おわりに p.45
トルコにおける第一国出願義務
【詳細】
トルコ国内で生まれた発明について、第一国出願義務があるか否か(トルコ国外に出願する前にトルコ特許庁に出願する必要があるか否か)という点について、国内で生まれた発明についていずれも最初にトルコに特許出願すべきと直接的に義務付ける規定はトルコ特許法にはない。一方、トルコ特許法第125条および第128条は、以下を規定する。
トルコ特許法第125条(秘密保持の条件):
・・・トルコ特許庁は、出願に係る発明が、国防に重要であるものとみなすに至る場合は、・・・当該状況を文書で出願人に通知するものとし、直ちにトルコ国防省に出願の複写を送達することによりトルコ国防省に伝達するものとする。・・・
トルコ特許法第128条(秘密特許の外国における出願に係る許可):
トルコにおいてなされた発明が第125条を条件として、トルコ特許庁の許可なくトルコ特許庁に対する特許出願日から2月の期間の満了前に何れの外国においても当該発明につき特許出願はできない。外国出願の許可は,トルコ国防省の具体的な許可がなければ発行されないものとする。
発明者がトルコに居住する場合で,反証を欠くときは,発明はトルコでなされたものとみなす。
これらの規定は、トルコ国内で生まれた発明がトルコの国防にとって重要である場合は、トルコ特許庁の許可がなければ、トルコ国外に特許出願することができない、ことを意味する。つまり、トルコ特許法第125条および第128条の組み合せから、トルコの国防にとって重要な発明がトルコ国内でなされた場合は、最初にトルコに出願すること(第一国出願義務)が求められる。
なお、トルコ国内で生まれたトルコ国防にとって重要性を有する発明について、トルコに第一国出願しなかった場合についての罰則は、トルコ特許法には規定されていない。
また、トルコに第一国出願した発明がトルコ特許庁によってトルコ国防に重要であるものとみなされた後に、トルコ特許庁の許可なく同一発明について外国に特許出願した場合、についての罰則も、トルコ特許法には規定されていない。
さらに、トルコ国内で生まれたトルコ国防にとって重要性を有する発明についてトルコ国外に第一国出願し、このトルコ国外出願を優先権主張してトルコに出願した場合の取り扱いについても、トルコ特許法には規定されていない。
トルコ特許法に明確な規定はないが、トルコの国防にとって重要性を有さないことが明白である場合は、トルコで生まれた発明であっても、最初にトルコ国外に特許出願してもよい、と考えられている。
実際には、トルコにおいてなされた発明について、トルコに第一国出願をするよりも、PCT出願またはEPOへ欧州特許出願(以下EP出願)がなされることが多い。PCT出願またはEP出願の場合、出願から12か月(優先権主張期間終了)よりも十分前に出願に関する調査報告書を取得することができ、出願人にとって、対応外国出願を行うべきか否かを評価することができる、というメリットがあるからである。一方、トルコ出願については、トルコ特許庁において調査報告書が作成されて出願人へ送付されるまでには、通常、出願から12ヶ月を超える。
ただし、トルコ特許法第125条および第128条の目的が有効に達成されるためには、トルコ特許庁が最初に発明を確認する必要がある。このため、トルコにおいてなされた発明についてのPCT出願またはEP出願は、たとえトルコを指定国に含んでも、トルコ特許法第125条および第128条が間接的に要求する第一国出願義務を満たすことにならない。
したがって、トルコ国内で生まれた発明がトルコ国防にとって重要性を有する場合は、PCT出願やEPC出願ではなく、トルコ特許出願または実用新案出願を最初にトルコ特許庁に行う必要がある。
また、トルコ国内で生まれた発明が、トルコ国防にとって重要性を有する可能性があるのであれば、トルコ特許出願または実用新案出願を最初にトルコ特許庁に行うべきであろう。
【留意事項】
トルコ国内で生まれた発明がトルコ国防にとって重要性を有する場合は、PCT出願やEP出願ではなく、トルコ特許出願または実用新案出願を最初にトルコ特許庁に出願する必要がある。
トルコにおける先使用権制度
【詳細】
先使用権制度に関する調査研究報告書(平成23年3月、日本国際知的財産保護協会)Ⅲ-3-「24」
(目次)
Ⅲ 調査対象国等の先使用権制度の詳細
3 調査対象国群2に属する国の詳細
「24」 トルコ P.447
資料編(諸外国の先使用権制度一覧表) P.481
諸外国の先使用権制度一覧表(No. 5) P.490