トルコにおける特許を受けることができる発明とできない発明
【詳細】
トルコ特許法(特許権保護に関する施行法令第551号および同法施行規則)第6条は、特許を受けることができない発明を規定する。
(1)発見、科学理論、数学的方法
(2)精神的活動、取引または商行為および遊戯を行うための計画、方法、枠組みおよび規則
(3)文芸的および芸術的著作物、科学的著作物、美的性格を有する創造物、コンピュータプログラム
(4)情報の収集、整理、提供および伝達のための方法であって技術的な過程を含まないもの
(5)人体または動物に適用される診断、治療および外科手術の方法
(6)その主題が公序良俗に反している発明
(7)動植物の品種、または動植物の増殖方法であって実質的に生物学的根拠に基づくもの
上記(1)~(5)に相当する場合には、発明としての特徴が欠如していることを理由として特許不適格とみなされ、上記(6)~(7)に相当する場合には、仮に発明としての特徴を備えた場合でも、特許は付与されない。
コンピュータソフトウェア、治療および診断の方法、およびビジネス管理手法に関連した発明の特許適格に関わる問題には、特に注意が必要である。
トルコ特許法第6条に規定されるように、コンピュータソフトウェアプログラムは(それ自体としては)保護を受けることができないが、コンピュータプログラムを内蔵する装置(コンピュータ機器など)は特許適格な発明となりうる。
トルコはTRIPS協定や欧州特許条約(以下EPCという)などの国際条約を批准し、国内法を整備している。もし国内法と相違する場合には国際条約の規定が優先される(トルコ憲法第90条)。TRIPS協定第27条の規定およびEPC第52条(1)の同様の規定により、コンピュータソフトウェアが実装されたコンピュータ装置に関する発明は、トルコにおいて特許適格であると考えられる。ただし、現在のところ、ソフトウェア関連発明の主題についての出願がトルコ国内ルートでなされた場合、トルコ特許庁がそうした出願の取り扱いに同意するか否かは定かでない。
トルコ憲法第90条に基づけば、トルコにおいてはEPCの諸規定が国内で採択された法の規定と同様の法的効果をもつことになるので、EPO審判部の決定は、トルコ特許庁の判断にも影響を与えるはずである。たとえばEPO審判部の審決T1173/97によれば、ソフトウェアが特許適格とされるためには、1個のソフトウェアプログラムと1個のコンピュータの間に通常の技術的相互作用を超えたさらなる技術的効果が存在しなければならないとされている。
トルコ特許法によれば、医療目的のために有用な医薬品に加えて医療関連製品(外科手術用の設備など)も特許を受けることができる。人体および動物に適用される診断、治療および手術方法は、かねてから特許保護の対象とならないとされてきた。これは、一般大衆の利益を考えて独占権を与えないことが望ましいという理由からである。一方、一般大衆の利益に影響しないと考えられるような研究施設における体外試験や、人体や動物に対して化学薬品を用いて美容効果を得る方法などについては、その方法が治療もしくは診断の性質を併せ持っているなどの場合を除き、特許保護の対象となりえる。
トルコ特許庁の審査実務では、既知の活性成分もしくは既知の活性成分の組合せを特定の疾病の治療に用いることで、以前は知られていなかった治療効果が得られるような発明に関しては、特許適格性があり、特許保護の対象となるとされている。ただし、そのような発明についての特許性が認められて特許となるためには、特許適格性があるだけでは不十分であり、活性成分もしくはその組合せの用途が新規であって進歩性を有するとともに、その発明が産業上の利用可能性を有していなければならない。
サービス分野に関連する発明については、この分野に関する技術の進歩に伴って出願数が増加しており、同時に、サービス分野に関連した発明についての特許適格性についての出願人の関心も高まってきている。トルコ特許法によれば、事業の遂行に用いられる方法に関する発明(いわゆるビジネスモデル発明)は特許保護の対象とならない。ビジネスモデル発明について特許を取得するためには、特許請求された発明が単なる人為的取り決めだけではない技術的特徴を備えていなければならない。ビジネスモデル発明の内容が技術的特徴を備えていない場合、たとえば経済的なコンセプトやデータ処理に関する記述のみによって特許請求の範囲が記述されている場合、そのような特許出願は、特許を受けられない可能性が高い。ビジネスモデル発明に関する特許出願は、個々の特許出願の具体的な請求項記述の内容に応じて審査がなされる。
バイオテクノロジー発明については、動植物の増殖に使用することができる方法は、それ自体としてはトルコにおける特許を受けることができない。トルコ特許法においては、微生物発明も特許保護の対象外とされている。TRIPS協定第27条の規定によれば、微生物学的プロセスに関する発明の特許性は加盟国の自由な発意に委ねられているが、EPC第53条(b)の規定は、微生物学的プロセスに関する発明を特許保護の対象としている。先述したトルコ憲法第90条に基づくトルコ国内法とEPCの諸規定との序列に従えば、EPCの規定により特許保護の対象となる発明は、トルコ国内においても同様とされるべきであると考えられる。しかしながら、TRIPS協定第27条(3)の適用が加盟国の選択に委ねられているという点と、トルコでは微生物学的プロセスに関する発明の保護に関する規定がない点とを考慮すると、パリルート、PCTルート、単独のトルコの国内出願いずれの場合であっても、微生物学的プロセスに関する発明は、トルコ国内では拒絶される可能性が高い。また、仮にそうした発明が特許付与されたとしても、特許保護の対象であるか否かという点が裁判によって争われる可能性がある。