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ベトナムにおける医薬品関連の特許権行使
【詳細】
権利行使の選択肢
医薬品関連の特許権者にとって、権利行使する際の目的は、侵害者による侵害行為の停止、侵害した医薬品に関する販売承認の取り下げまたは取消、発生した損害に関する損害賠償請求である。これらの目的を達成するためには、最も適切な措置を選択することが必要である。なお、ベトナムでは医薬産業における特許権の権利行使について歴史は浅いことを念頭に置く必要がある。
特許侵害者に対する権利行使の選択肢には、行政措置、税関措置および民事訴訟がある。司法当局ではなく行政当局により実施される行政措置は費用対効果が高く、時間短縮にもつながることから、最も一般的な選択である。科学技術省監査局および税関のみが、行政ルートにおいて特許権侵害を扱う権限を有する。税関措置は行政措置の一種であると考えられており、ベトナム国境(税関)において行政措置を行う。民事訴訟も選択肢の一つではあるが、地方裁判所は知的財産に関する専門知識の不足のため、民事訴訟を通じて事件を解決するためには、相当の時間と労力が必要となる。
専門家鑑定の役割
ベトナムにおいて、特許権行使における専門家鑑定の役割は、特に医薬分野においては非常に重要である。専門家鑑定を提供する機関は、その専門家意見(Expert Opinion)および侵害に関する結論を通じて、管轄当局に事件解決の指針を提供する。専門家の意見には拘束力がないが、多くの場合、こうした分野における経験が不足する執行当局は専門家意見に従うことになる。また執行措置の促進にも有用である。
専門家意見の重要性にもかかわらず、特許権者にとって専門家鑑定に関する選択肢は多くはない。これは、ベトナム知的財産研究所(Vietnam Intellectual Property Research Institute : VIPRI)が、現在のところ国家知的財産庁(National Office of Intellectual Property : NOIP)以外で専門家意見を提供可能な唯一の認可機関であるためである。なおNOIPは時々、執行当局からの要求に応じて専門家意見を発行するが、実際にはその主たる役割は、ベトナムにおける知的財産権の権利取得手続きを促進することである。
専門家鑑定を依頼すると多くの場合、VIPRIは、特許侵害の可能性を評価するため、依頼者である特許権者に対して、疑義侵害医薬品に関する事前の物理的試験を要求する。しかしながら場合によっては、パッケージや説明書に記載された含有物にのみに基づき侵害を判断することがある。
補足的・予防的措置
いくつかの国においては、後発医薬品の販売承認を与える時点で、規制当局が当該医薬品に関する特許問題がないことを要求する「パテント・リンケージ」の仕組みが存在しており、先発特許が満了するまでジェネリック医薬品に関する販売承認が下ることはない。しかしながら、ベトナムにはそのような仕組みが存在しない。したがって権利行使措置を講じるのと並行し、またはその前に、医薬産業の特許権者はベトナム医薬品管理局(The Drug Administration of Vietnam : DAV)において一定の対策を講じることが推奨される。具体的には、通達第22/2009/TT-BYT号の第15条に従い、特許権者は自らの特許についてDAVに通知することが奨励されており、一旦通知を受けると、DAVは他の申請者による薬品の販売承認に関する決定プロセスの中で、当該特許について検討するようDAVの医薬審査官に通知を送付する。
医薬品関連特許に関する書類をDAVに提出後、なんらかの医薬品の販売承認申請において潜在的な抵触または特許侵害が発見された場合、DAVは申請者に対して、1)法的状況を明らかにすること、2)抵触を解決するために特許権者に接触すること、の両方またはいずれか一方を要求する。しかしながら、このプロセスはDAVにとって義務ではない。DAVは申請者へ上記の要求をすることなくジェネリック医薬品に対して販売承認を下すことができる。これは、通達第22/2009/TT-BYT号の主たる精神が、特許に関して生じる問題は関係当事者の責任であるとしており、DAVはこうした紛争の審理、仲裁または裁定において役割を有さないためである。DAVは科学技術省監査局、税関当局または裁判所などの特許権利行使管轄当局によって、侵害を認定する決定が発行された場合に、(すでに承認されている場合は)当該医薬品に関する販売承認を取り消し、または(審査中の場合は)販売承認を拒絶するという責任を負うだけである。
現在、ベトナムは環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement : TPP)交渉に積極的に参加している。交渉の議題となっているTPP関連の協議事項の一つは、販売許可が申請された医薬品に関する特許について、事前審査メカニズムを創設すべきか否かということである。ベトナム国内では、国民が安価な薬を入手するのに必要とされる時間にネガティブな影響を与える恐れのある事前審査メカニズムの導入に反対する意見が大多数であり、ベトナム政府としても、知的財産制度における障害となるような形での事前審査メカニズムの導入には慎重である。とはいえ、今後の動向は不透明であり、引き続き注視が必要である。各医薬品メーカーにおいて、こうした動向に注視しながら、自らの特許権を効果的に保護するための長期的な戦略を立てることが推奨される。