ホーム TH-do-2440

タイにおける商品・役務の類否判断について(前編)

1. はじめに 
 日本では先行商標と出願商標は非類似とされているケースで、タイでは、同じ商標の出願について、同じ先行商標と類似と判断され、拒絶査定を受けることがある。この相違は、両国の指定商品・役務に関する審査実務の違いによって生じる場合がある。例えば、日本は「類似群」と呼ばれるグループ分けを採用しており、商品・役務が同じグループに属さない限り、原則として非類似とみなされる。しかし、タイの審査基準では、商品・役務を事前にグループ分けしていないため、判断が異なる可能性がある。そこで本稿では、タイの審査基準に基づく商品・役務の類似・非類似の判断について紹介し、日本の審査基準との相違点を明らかにし、日本の実務家が、タイの商品・役務の類否判断について理解を深めることを目的とする。
 具体的には、①商品・役務の類似・非類似を判断する基本原則、②商品間の類似・非類似、③役務間の類似・非類似、④商品・役務間の類似・非類似、の4点について比較・検討する。

2. 基本原則 
2-1. タイにおける商標登録要件 
 タイ商標法B.E.2534(以下「法」という)第6条によると、商品商標/役務商標は、以下の3つの要件をすべて満たさなければ登録とならない: 
 (1)識別力を有すること 
 (2)法に基づいて登録が禁止されていないこと 
 (3) 他人の登録済み商品商標/役務商標と類似・同一でないこと。 

 タイ知的財産局(以下「DIP」という)は、上記3つの拒絶理由を同時に審査し、すべての拒絶理由を1通の通知に記載する慣行を有する。 

2-2. 各商標登録要件についての説明 

1) 識別力を有すること 
 法第7条第1項により、一般公衆が、その商標が使用されている商品・役務が他の商品・役務とは異なることを識別できる場合、当該商標は固有の識別力を有するとみなされる。また、その商標が法第7条第2項に規定する基準を満たす場合、固有の識別力を有するとみなされる。例えば、語句は、適用される商品・役務の性質または品質を直接描写するものであってはならず(法第7条第2項第2号)、文字または数字は、様式化されたものでなければならない(法第7条第2項第4号)等である。 
 法第7条第2項の基準を満たさず、識別力がないとされる商標であっても、商標が識別力を獲得する程度にタイで広く使用されていることを出願人が証明できれば、登録可能である(法第7条第3項)。使用による識別力の証明要件に関する通知(https://www.ipthailand.go.th/images/781/criteria_for_accreditation.pdf)によると、出願人は、一般公衆または関連公衆が出願人の商標であると認識できることを証明するために、合理的な期間、出願商標と全く同じ形態で商標が使用されていることを示す証拠を提出する必要がある。証拠には、請求書や販促資料のコピーが含まれるが、これらに限定されない。 
 また、複数の要素から構成される商標の場合、識別力を有さない要素が特徴的(顕著)でないと審査官が判断した場合は、法第17条に基づき、当該要素の識別力を否認した上で登録を認める。一方、識別力を有さない要素が商標の特徴的な部分を構成していると審査官が判断した場合、その商標は識別力を有さないとして完全に拒絶される。 
 DIPは、全審査官間の効率的で調和のとれた審査を確立するため、商標審査部および裁判所の関連事例とともに、審査手続および審査の流れを詳述した商標審査基準を発行している。本稿作成時の最新の審査基準は2022年1月に導入されている(https://www.ipthailand.go.th/images/3534/2565/TM/TM_2565.pdf)。

2)法に基づいて登録が禁止されていないこと 
 商標は、法第8条に規定された特徴を含んでいる場合、例えば、国または国際組織の紋章等を含む場合(ただし、外国の管轄官庁または国際機関が許可する場合を除く。)(法第8条第1項第6号)、公序良俗に反する標章(法第8条第1項第9号)、法律により保護されている地理的表示からなる標章(法第8条第1項第12号)等を含む場合は、その商標全体が禁止され、登録することはできない。

3) 他人の登録済み商品商標/役務商標と類似・同一でないこと 
 旧法下では、同法第13条(https://www.ipthailand.go.th/images/633/ActTrademark-2-edit.pdf)に基づき、出願商標が他人の先行商標と同一または類似し、かつ、指定商品・役務が同一区分であるか、または(区分が異なる場合)同じ性質である場合、拒絶されていた。 
 つまり、商標が同一または類似する場合、同一区分であれば、指定商品・役務の種類に拘らず、拒絶され、区分が異なる場合のみ指定商品・役務の性質が考慮された。 
 2016年に改正された法第13条では、出願商標が他人の先行商標と同一または類似し、かつ、指定商品・役務について他人の先行商標と同一の性質である場合、区分に関係なく、拒絶されると規定された。つまり、指定商品・役務については、区分が同じである場合も異なる場合も、その性質が常に考慮されることとなった。 
 新審査基準では、需要者が商品・役務の由来または商標所有者に関して混同する可能性を審査官が判断する際に、関連する商標の(A)全体的な外観、(B)称呼、および(C)指定商品・役務を考慮しなければならないと規定されている。(新審査基準84頁参照)。 
 実務上、審査官は、まず、(A)全体的な外観および(B)称呼を考慮する。同一または類似する先行商標が(A)および(B)に基づいて特定された場合、審査官はそれと出願商標の(C)指定商品・役務を検討する。

(A) 全体的な外観 
 商標の類似性は、特定の要素を個別に評価するのではなく、商標全体の外観から評価する必要がある。ただし、出願商標の特徴的部分は、先行商標と同一または類似であってはならない(新審査基準84頁参照)。つまり、異なる要素が十分に特徴的でない場合、出願商標は先行商標と類似または同一であると見なされる。 
 新審査基準から以下を例示する。

外観類似 例1 
は、と類似。
理由:商標の特徴的部分は楕円形の中の「MDS」の文字であり、類似。よって商標全体の外観は類似。

 外観類似 例2 

は、と類似。
理由:馬は反対方向に向いているものの、基本的には翼を生やした馬が同じ姿勢で足を挙げている構成の商標であり、外観は類似。よって商標全体の外観は類似。

外観非類似 例1
は、と非類似。 
(商標審決番号82/2551(2008)) 
理由:どちらも鷲の図を含むが、図は異なる様式で表示されている。さらに、「INC」と「KINGJO」の異なる要素から構成されている。よって商標全体の外観は異なる。

(B) 称呼 
 商標の全体的な外観とは別に、称呼も同様に重要である。新審査基準では、外観に関係なく、称呼が先行商標と同一または類似していることのみを理由に拒絶することができることが記載された(新審査基準84頁(2)参照)。類似性の判断は、例えば、音節の数、最初の音節の音、最後の音節の音などを比較することにより行う。 
 新審査基準から以下を例示する(称呼は英文字で示す)。

称呼類似 例1 
“STRIDE”は(称呼:“strive”)と類似。(商標審決番号169/2551(2008)) 
理由:両商標は異なる言語で表記されているが、称呼は同じ頭子音と母音で類似している。従って、両商標は紛らわしいほど類似している。

称呼非類似 例1 
”(称呼:“BOFTEX”)は“”と非類似 
(商標審決番号840/2559(2016)) 
理由:主な理由に、両商標の最初の音節、すなわち「BOFT」と「BON」の発音が異なることを挙げ、両商標は非類似とされた。

(C) 商品・役務の関連性・非関連性の検討  
 最後に、(A)および(B)により商標が同一または類似すると判断された場合、審査官は当該商標の商品・役務の関連性を評価する。一般的には、特定の商品および役務に関連する分類およびその他の関連要素が考慮される。 
 区分の適用上、商品および役務は、同一区分の他、異なる区分に属する商品および役務と類似または関連していると見なされる場合がある。DIPは、区分間のクロスチェックの目的で、事前に関連性があるとみなされる区分のリストを提供している(https://search.ipthailand.go.th/)が、これによれば、区分25(被服等)は区分9、24、35、40、45と関連する可能性があるとされている(中編の第3-1項、後編の第5項参照)。 
 しかし、同サイトで指定されている以外の区分とクロスチェックを行う例も見られる。 
 上記のリストとは別に、新審査基準は、その他の関連する要素を考慮するためのアプローチを以下のように示している(新審査基準89~90頁参照)。

ⅰ) 商品または役務が同一の需要者グループを対象としているかどうか。 
 審査官は、出願商標と先行商標の商品または役務の需要者を特定し、それらが同一のグループに属するかどうかを検討する。例えば、出願商標の商品が航空車両であるのに対し、先行商標の商品が陸上車両である場合、商品が同じ区分12に分類される車両であっても、想定される需要者グループは全く異なる。このことから、関連する公衆の間で混同が生じる可能性はない。(商標審決番号1136/2565(2022)) 

ⅱ) 意図する需要者が専門家または知識のある者かどうか。 
 商品または役務が、専門家または知識を有する者が使用する場合またはその監督下で使用することを意図している場合には、混同のおそれは生じない。例えば、両商標の商品が処方箋を必要とする医薬品である場合、意図される需要者は、医薬品または医療用品に関する特定の知識を有する者、または医師若しくは薬剤師によって処方される患者であろう。したがって、混同のおそれはない。(商標審決番号713/2553(2010)) 

ⅲ) 商品または役務の目的が同じかどうか。 
 このアプローチでは、商品または役務が同じ性質のものであっても、意図する目的が異なれば、関連性がないものとすることができる。例えば、出願商標の商品は色やカラーコーティングの製造に使用する化学品であるのに対し、引用商標の商品はプラスチック接着剤の製造に使用する化学品である場合、同じ区分1に分類される化学品であっても、その使用目的は全く異なる。このことから、関係公衆の間に混同のおそれは生じないというべきである。(商標審決番号43/2560(2017)) 

ⅳ) 商品または役務が同一の流通経路を通じて販売または提供されているかどうか。 
 審査官は、両商標の商品または役務が同一の場所または同一の流通経路で販売または提供されているか否かを検討しなければならない。例えば、出願商標の商品が機械およびその部品または産業用機械であるのに対し、引用商標の商品が電気ドリルである場合、同じ区分7であっても、流通経路は異なる。具体的には、出願人の商品は販売業者からのみ購入できるのに対し、先行商標権者の商品は一般の工具店で購入できる。このことから、関係公衆の混同の可能性は生じないはずである。(商標審決番号41/2560号(2017)) 

ⅴ) 商品または役務が高価格であるかどうか。 
 商品または役務の価格の相違は、需要者が商品または役務を選択する際に払う注意の程度に対応する。具体的には、需要者が高額な商品・役務を衝動的に購入することは考えにくい。商品や役務の価格が高ければ高いほど、消費者はより高度な注意を払うことになる。このような行動を考えれば、価格が大きく異なる場合、混同を生じない、とされる。 

ⅵ) その他の考慮事項 
 上記(A)、(B)、(C)のアプローチとは別に、特徴的要素と非特徴的要素の両方から構成される商標の場合、識別力を考慮しなければならない。現行の実務では、DIPは非特徴的要素を商標の非主要部分とみなし、ある商標を他の商標と区別することができないものとする。その結果、これらの要素は無視され、残りの識別力を有する特徴的要素のみが比較の対象となる。新審査基準では、このような実務に沿い、前述の第17条により権利不要求とされる要素は、非特徴的部分とみなされ、無視されることが規定されている(新審査基準88頁参照)。 
 以下を例示する。

称呼類似 例1 
“BILLY EIGHT”(“EIGHT”は権利不要求)は、“”と類似。 
(商標審決番号803/2559(2016)) 
理由:出願商標の“EIGHT”は権利不要求であるため、特徴的要素は“BILLY”とみなされる。両商標の特徴的部分は共通しているので、混同を生じるほど類似している。

称呼非類似 例1 
”は、“”と非類似。 
(商標審決番号 368/2564(2021)) 
理由:両商標の共通する“BANGKOK DRINKING WATER”は非特徴的部分とみなされ、残りの図形が特徴的部分とみなされる。これらの図形は外観が異なるので、一般公衆および関連公衆の混同の可能性は生じない。 

(中編に続く) 

タイにおける商品・役務の類否判断について(中編)

(前編から続く)

3. 商品の類似性または非類似性
3-1. 商品の類似・非類似の判断方法
 審査官は、出願商標と同一区分および商品・役務が関連すると予備的に考えられる他の区分において、先行商標を調査する。前記「前編2-2.3)(C)商品・役務の関連性・非関連性の検討」で述べたとおり、DIPは、各区分においてクロスチェックの対象となる関連区分のリストをウェブサイトで提供している*1。下表は、商品の各区分に関連する商品区分をDIPのウェブサイトから抜粋したものである。例えば、区分1は区分5をクロスチェックする可能性が高いことを示している。出願前調査の指定区分以外の区分とのクロスチェックに活用されたい。なお、このリストで指定されている以外の区分についてもクロスチェックが行われる例もあることに留意されたい。

区分1234567
関連区分511, 51188,11,12
区分891011121314
関連区分6117,97
区分15161718192021
関連区分9
区分22232425262728
関連区分22259,2424,2524
区分293031323334
関連区分30,3229,3229,30,3332

*1 DIPのウェブサイトを閲覧する方法を後編【クロスチェックリストの閲覧方法】に示した。

審査官は、区分とは別に、新審査基準の「前編2-2.3)(C)商品・役務の関連性・非関連性の検討」に沿って、特定の商品間の関連性を検討する。具体的には、以下の点を評価する:

 (i) 商品または役務が同一の需要者グループを対象としているかどうか。
 (ii) 意図する需要者が専門家か知識ある者かどうか。
 (iii) 商品または役務の目的が同じかどうか。
 (iv) 商品または役務が同一の流通経路を通じて販売または提供されているかどうか。
 (v) 商品または役務が高価格であるかどうか。

 しかし、審決・判決例によれば、上記以外の観点も存在すると思われる。例えば、商品が生産段階で関連するかどうか、商品が完成品と部品の関係にあるかどうか等が挙げられる。
 商品間の関連性の判断に関する審判部の審決例および裁判所の判決例は、以下のとおり。

(A) 商品が関連しているとみなされた例
① 商標審決番号479/2564(2021)
出願商標:
区分33:ぶどう酒

引用商標:
区分32:果実ジュース、野菜ジュース、果実風味水

理由:引用商標の指定商品は、出願人のぶどう酒製造に使用できることから、両商標の商品は同じ性質を有している。

注目点:商品は生産段階において関連する、と判断された。

② 商標審決番号746/2565(2022)
出願商標:
区分7:ゴルフコース用土圧縮ローラー、ゴルフコースなどで使用する芝生用土壌改良用機械

引用商標:
区分7:道路ローラー用シート、道路ローラー用シート懸架装置、道路ローラー用コンソールボックス、クレーンシート、クレーンシート用懸架装置等

理由:両商標の商品は、同一区分であるだけでなく、同じ性質のものであると判断する。具体的には、機械である出願商標の商品と機械の部品である引用商標の商品は、一緒に使用できるとした。さらに、対象となる需要者グループも同一である。

注目点:区分とは別に、商品の関連要素、すなわち、完成品と部品の関係、需要者の対象グループも考慮して判断された。

(B) 商品が関連していないとみなされた例
① 商標審決番号1136/2565(2022)
出願商標:ELIMINATOR
区分12:航空機

引用商標:ELIMINATOR
区分12:オートバイ、オートバイの泥除け、オートバイのフレーム等

理由:両商標の商品は、同一区分にもかかわらず、使用目的、対象とする需要者グループ、流通経路が異なる。出願商標の商品は航空機であるのに対し、引用商標の商品は陸上車両である。また、需要者は、使用目的に応じて、商品を購入する前にある程度の調査を行うと考えられる。したがって、両商標の商品は、同じ性質のものではない。

注目点:本審決は、審判部が商品に関する様々な要素を考慮していることを示している。具体的な使用目的を考慮し、その結果、異なるタイプである車両に関連性はないと判断している。さらに、車両の特別な特性を考慮し、需要者は通常、注意して購入すると判断している。以上の理由により、混同が生じる可能性は低いとされた。

② 商標審決番号964/2564(2021)
出願商標:
区分25:スポーツに関連する全ての被服

引用商標:
区分25:上着(下着およびスポーツ用衣料は除く。)

理由:同一区分ではあるが同一商品ではなく、また、引用商標は「スポーツ用衣料」を明確に除外している。したがって、両者の商品は、同じ性質のものではない。

注目点:審判部は、商品の特定の使用目的を検討する。本審決例では、具体的な使用目的が重複していないことから、両者の商品は関連性がないとされた。

③ 商標審決番号87/2564(2021)
出願商標:
区分7:卵ベースの食品を精製するために使用される機械、卵食品加工機械、卵食品の包装に使用される機械
引用商標:
区分7:ホイールローダー(訳注:ブルドーザーの足回りがタイヤで受器が比較的大きい運搬車両)、ロードホールダンプ機械(訳注:坑内採掘に使用され比較的大きいホイールローダーの1種)、コンクリート舗装機、採掘機など

理由:出願商標の商品は、卵から食品を加工するための特別なものであるのに対し、引用商標の商品は、様々な使用目的を意図した機械であり、広範な産業に関連するものであると説明している。これらの事実を踏まえると、両商標の商品は、同じ性質のものではない。さらに、これらの商品は、高価格であり、仕様も様々である。対象となる需要者は、知識が豊富で、混乱することなく、目的に従って商品を正しく選択できる人である。

注目点:審判部は商品の種類(本審決例は、どちらも機械)とその使用目的を考慮する。特定目的の商品は、一般目的の同じ商品とは関連が生じない。また、商品が高価格で仕様が多様である場合は、対象需要者は通常、かかる商品についての知識を有しており、混同の可能性はない。

④ 商標審決番号246/2563(2020)
出願商標:VELSAN
区分1:化粧産業用化学品

引用商標:VALSAN
区分1:無菌包装用途等に使用される過酸化水素溶液

理由:両商標の商品は同一区分であっても、商品の性質は、需要者が商品の出所や所有者について混同したり誤認したりしない程度に異なっている。

注目点:本審決においては、商品間の関連性/非関連性を判断するために何を考慮したかについて明示していない。しかし、「化粧品産業用」と「無菌包装用」という使用目的は異なると考えていると思われる。

⑤ 商標審決番号 41/2560(2017)
出願商標:SANDEX
区分7:機械用精密減速機、機械用割出駆動装置、ピックアンドプレース装置(訳注:機械部品の搬送装置の1種)、シート材を他の機械に順次供給する供給装置など

引用商標:SUNDEX
区分7:電気ドリル

理由:両商標の商品が同一区分であっても、両者の商品に関連性がない。出願商標の商品が工場で使用する機械であるのに対し、引用商標の商品は電気ドリルである。両者は使用目的も形状も明らかに異なる。さらに、出願商標の機械は、特定の販売代理店を通じて販売されるのに対し、引用商標のドリルは、通常の商店で販売される。このように、想定される需要者層と流通経路が異なる。最後に、出願商標の商品は高価格であるため、購入者は使用目的に応じて慎重に商品を選択する。その結果、商品の出所や所有者に関して社会的混乱は生じない。

注目点:審判部は、対象とする需要者の相違および流通経路の相違がもたらす使用目的を検討する。本審決では、商品の外観の相違も考慮し、さらに、商品を選択する際の注意の程度に影響する商品の価格も考慮した。

⑥ 商標審決番号43/2560(2017)
出願商標:NATOROSOL PERFORMAX
区分1:塗料製造用セルロースエーテル、ワニス製造用セルロースエーテル、ステイン製造用セルロースエーテルなど

引用商標:
区分1:工業用膠(にかわ)

理由:両商標の商品は、同一区分であっても、両者の商品は関連性がない。出願商標の商品が、塗料やコーティング剤の製造に使用されるのに対し、引用商標の商品は、工業用接着剤である。使用目的も産業グループも明らかに異なる。また、出願商標の商品は一般店ではなく、特定の販売店を通じて販売されているのに対し、引用商標の商品は一般的な接着剤や貼付器具の販売店で販売されるものである。また、工業用接着剤は高価格帯の商品であるため、需要者は用途に応じて慎重に購入を検討する必要がある。

注目点:審判部では、区分だけでなく、使用目的、業界、流通経路および商品価格も考慮する。

⑦ 商標審決番号4325/2561(2018)
出願商標:
区分9:ICカード(スマートカード);暗号化されたIDカード;スマートカード読取装置
引用商標:
区分9:ワイヤレスアダプター、コンピュータデータ・信号変換装置

 審査官も審判部も、出願商標と引用商標とは、商品が同一区分であり同じ性質であるため、関連性があると判断したが、出願人はこの案件を中央知的財産権国際貿易裁判所に提訴した。同裁判所は、「当事者の両商品が第9類という同一の類に属するとしても、この類には広範な商品が分類されている。その上で、当事者の特定商品間の関連性を検討し、引用商標権者の商品が人と人との間の通信に使用されるモバイル機器であるのに対し、出願人の商品は電子カードとセキュリティ目的のカードリーダーまたはレコーダーとの間の非接触データ通信に使用されると認定する。このように、両当事者の具体的な商品は異なり、異なる消費者グループを対象としている。その結果、商品が同じ区分であるにもかかわらず、公衆が商品の出所や所有者について混乱したり誤解したりすることはないと考えられる。」との判決を下した。
 本件は最高裁判所(終審裁判所)に上告され、最高裁判所は次のような判決を下した。「出願人の商品はセキュリティ目的で使用されるため、需要者は商品の品質を検査し、需要者の使用目的を満たすかどうかを判断しなければならない。つまり、需要者はセキュリティシステムに関する知識を持ち、両当事者の商標を区別できるはずである。さらに、両当事者の商品の使用方法は異なる。結論として、公衆が商品の出所や所有者について混乱したり誤解したりすることはないと思われる。」

注目点:審判部は、単に商品の区分と性質のみを考慮した。一方、中央知的財産権国際貿易裁判所および最高裁判所は、その他の関連要素、すなわち、対象需要者、使用目的および使用方法を検討した。
 上記の判決例によれば、商品の類似性が判断される際には、様々な要素が考慮される。例えば、生産段階における商品の関連性、販売段階における商品の流通方法(取引経路)、使用目的が同一か重複するか、商品が同一需要者グループを対象としているか、商品が完成品と部品の関係で関連しているかなど、日本やタイでも同様の要素が考慮される。

3-2. ニース分類の活用
 法第9条は、欧州連合理事会規則第33条(2)および(6)と同様に、指定商品・役務の分類および明確化に関する要件を規定している。商品および役務の分類に関する告示により、商品および役務はニース分類に沿った45の区分に分類される。一方、指定商品および指定役務が十分に明確化されているかどうかを判断するため、DIPは認容する商品・役務を以下の一覧に公開している。(「タイで商標登録出願された商品・役務一覧」https://tmsearch.ipthailand.go.th/

3-3. 参照のための商品名一覧(類見出しのみの名称を含む)
 前項に示した一覧は、単なる例であり、出願時に、この一覧から商品・役務の名称を選択することは必須ではない。これは、電子システムを通じて出願する場合にも、DIPに紙で提出する場合にも適用される。
 ただし、「商標使用を緊急とする必要性についての商標審査結果の第一次通知に関する告示」および「緊急の場合における商標審査結果の第一次通知に関する告示」により導入された「早期審査」の対象となる出願については、その他の要件のうち、商品および役務は前記一覧から選択しなければならない。
 類見出しについては、一般的に広すぎて受け入れられないと考えられている。この問題については、「3-4. 商品を指定する際の留意点」で詳述する。

3-4. 商品を指定する際の留意点
 タイで商品・役務を指定する場合、出願人は以下の点に留意する必要がある。
 DIPは、指定商品・役務の記載について、かなり厳格である。一般に、出願人は、意図する商品・役務を項目ごとに明確に指定する必要がある。例えば、区分 5の「医薬品用薬剤“pharmaceutical preparations”」という記載は広すぎると考えられる。例えば、アレルギー用錠剤、循環器疾患治療用製剤のように、具体的な医薬品の種類や治療目的を特定する必要がある。
 また、通常、類見出しは広すぎるとみなされる。例えば、「被服、履物、帽子 “Clothing, footwear, headwear”」は区分25の類見出しであるが、認容されない。また、「すなわち」、「本区分に含まれるものすべて」、「前述のものすべて」のような広い範囲を示す表現も認められない。
 タイ語で記載された商品・役務の名称と英訳の一覧がDIPウェブサイトに掲載されている。(前記、「タイで商標登録出願された商品・役務一覧」)。ただし、適切な保護を確保するため、タイ語の名称と英訳の整合性を確認することが推奨される。
 なお、上記の一覧は、事前の通知なしに頻繁に更新される。審査官は、出願時ではなく、審査時に入手可能なリストに依拠する。したがって、出願時に許容された商品・役務記載が後に拒絶される可能性がある。

(後編に続く)

タイにおける商品・役務の類否判断について(後編)

(中編から続く)

4. 役務の類似性または非類似性
4-1. 役務の類似・非類似の判断方法
 前編および中編で述べたとおり、DIPは、各区分においてクロスチェックの対象となる関連区分のリストをウェブサイトで提供している*1。下表は、役務の各区分に関連する役務区分をDIPのウェブサイトから抜粋したものである。出願前調査の指定区分以外の区分とのクロスチェックに活用されたい。なお、このリストで指定されている以外の区分についてもクロスチェックが行われる例もあることに留意されたい。

区分3536373839
関連区分36354041,42
区分404142434445
関連区分373838

*1 DIPのウェブサイトを閲覧する方法を稿末【クロスチェックリストの閲覧方法】に示した。

 役務の類似・非類似の判断については、前記「前編2-2.3)(C) 商品・役務の関連性・非関連性の検討」における5つの評価点に加え、その他の関連する要素も考慮する。主な考慮点としては、役務の性質並びに特質、事業分野および需要者グループが挙げられる。

(A) 役務が関連しているとみなされた例
① 商標審決番号366/2561(2018)
出願商標:
区分36:土地・建物の鑑定評価・管理

引用商標:, COURTARD, および
区分43:ホテル・レストランにおけるサービスの提供

 出願商標の指定役務は、ホテル、リゾート、キャンプを含む広範な不動産の開発および管理であると説明している。従って、両当事者の役務は区分が異なるにも拘わらず、同じ種類の不動産に関連する同じ性質のものである。従って混同の可能性がある。

注目点:役務が提供される事業分野の関連性を考慮する。

② 商標審決番号634/2559(2016)
出願商標:
区分35:メディアに関する包括的な広告制作

引用商標:
区分38:有線テレビ放送、区分41:ラジオ・テレビ番組の企画、娯楽目的のファッションショーの企画、コンサートの企画
引用商標:
区分41:テレビおよびラジオの番組制作

 出願商標の役務が「総合的な広報媒体の制作」であるのに対し、引用商標の役務は「有線テレビ放送、ラジオおよびテレビ番組の制作、企画、娯楽目的のファッションショーの企画、コンサートの企画」であり、両商標の役務は異なる区分ではあるが関連性がある、とされた。

注目点:本審決において、役務間の関連性/非関連性を判断するために、どのような考慮事項を用いるかについて明示していない。しかし、著者は、両商標の役務が、同じ事業分野、すなわちエンターテインメント産業とメディア産業で提供されていることから、両商標の役務は、関連性があると判断されたと理解している。

③ 商標審決番号628/2563(2022)
出願商標:
区分41:不動産・不動産に関連する時事・トレンド・経済分野のオンライン・ニュースレターの提供、不動産・不動産に関連する時事・トレンド・経済分野の電子メールによるオンライン電子ニュースレターの配信等

引用商標:
区分35:インターネット上の動画再生前後の広告、モバイルメッセンジャーを通じた広告、インターネットを通じた広告、オンライン上の広告スペースのレンタル、広告資料の作成および更新、商業情報代理店、経営管理に関する助言サービス、経営管理コンサルタントなど

 両商標の役務は、異なる区分ではあるが、同じ性質、すなわち、すべて情報の提供および配布であり、両商標間には混同の可能性がある、とされた。

注目点:上記②の審決(634/2559(2016))とは異なり、本件では、両商標の役務が全く異なる分野(出願商標が不動産分野であるのに対し、引用商標は広告および経営管理分野)であるにも拘わらず、両商標の役務の性質に注目し、両商標が本質的に情報の提供と配布である点で関連している、と判断した。

(B) 役務が関連していないとみなされた例
① 商標審決番号148/2559(2016)
出願商標:
区分35:ビタミン剤等の栄養補助食品に関する小売・卸売業経営、ミネラルエキス等の小売・卸売業経営

引用商標:
区分44:医療研究センターサービス

 両商標の役務は異なる区分であり、同じ性質のものではないと説明している。

注目点:両商標の役務の関連性/非関連性の判断に考慮点は明示されていない。著者は、異なる事業分野、異なる需要者グループに対して提供される役務であることが考慮されたと理解している。特に、出願商標は一般消費者を対象とした商業分野であり、引用商標は医療関係者を対象とした医療研究産業分野であると解される。

② 商標審決番号1341/2559(2016)
出願商標:
区分43:食品・飲料の小売サービス、カクテルラウンジ、コーヒーショップ、食品・飲料のケータリング等

引用商標:
区分35:ホテルの経営管理、ホテルに関する宣伝・販売促進サービス等
区分36:不動産管理、不動産の賃貸等

 両商標の役務は異なる区分であり、同じ性質のものではないと説明している。

注目点:両商標の役務の関連性/非関連性の判断に考慮点は明示されていない。著者は、両商標の役務は異なる事業分野で提供される役務であることが考慮されたと理解している。特に、出願商標は飲食業において提供され、引用商標は不動産業および一時宿泊業において提供されている点が考慮されたと考えられる。

③ 商標審決番号805/2563(2020)
出願商標:
区分42:補聴器に関する科学研究サービス、補聴器に関する技術研究サービス等

引用商標:
区分42:農業科学研究サービス、農業に関するコンピュータプログラム作成サービス、農業に関する科学研究サービス等

 両商標の役務は異なる区分であり、同じ性質のものではないと説明している。

注目点:両商標の役務の関連性/非関連性の判断に、考慮点は明示されていない。著者は、両商標の役務は異なる事業分野および異なる需要者グループに提供される役務であることが考慮された、と理解している。特に、出願商標は、聴覚障碍者を対象とする補聴器に特定された科学分野であり、引用商標は、農業従事者を対象とする農業に特定された科学分野である点が考慮された、と考えられる。

 上記の審決例に基づけば、タイでは、例えば、対象としている需要者の範囲や需要者グループが一致しているか、事業分野のカテゴリーが一致しているかなど、日本と同様の要素が考慮されている。ただし、対象役務や対象事業分野が同一の法律で規制されている点を考慮する日本とは異なり、これらのアプローチは、タイでは採用されていない。
 また、上記の審決例から、EUIPOの商標審査基準(https://guidelines.euipo.europa.eu/1803468/1786759/trade-mark-guidelines/3-1-1-similarity-factors)における役務の非類似性・類似性を検討する際の基準(役務の性質、役務の目的、関連する公衆や需要者)をEUと共有していると思われる。

4-2. 小売役務
 前記「(中編)3-2 ニース分類の活用」で述べたように、指定役務は明確に記載しなければならず、広範であってはならない。現行の実務に基づけば、「小売」という役務表記は広範すぎて受け入れられないと考えられる。例えば、「バッグの小売店サービス」、「宝飾品の小売サービス」のように、出願人はどの商品を提供するのかを明確に特定しなければならない。
 とはいえ、DIPは現在、「小売役務」よりもさらに広範な役務記載、すなわち、役務の名称「他人の利益のために、輸送を除く様々な商品を集め、消費者がそれらの商品を便利に見て購入できるようにすること」を認めている。このことは、商標審決番号2484/2562(2019)においても採用されている。
 小売役務と商品との関連性を評価する際のアプローチを説明するため、商標審決番号2484/2562(2019)および商標審決番号1013/2564(2021)を示す。

① 商標審決番号 2484/2562(2019)
出願商標:
区分35:他人のために、様々な商品を集めること、消費者が便利に商品を見たり購入したりできるようにすること、食品の販売管理、商品の輸出入管理、他の事業者のための購買サービスなど
[重要:本出願は「小売」というサービス自体を対象とするものではない。]

引用商標:
区分30:チューインガム

引用商標:
区分30:ゼリー

理由:出願商標の役務は、商品と同じ性質を有さないビジネスの一種であるとした。したがって、混同の可能性は生じないとした。
 本審決は、出願商標の役務から保護される事業の範囲が引用商標に使用する商品と重複するか否かを検討することなく、単に事業が商品と同一性質のものではないと判断しているように思われる。
 しかし、その2年後、審判部は、対象商標の具体的な商品と役務との関連性をより詳細に検討した審決を下したので以下に紹介する。

② 商標審決番号1013/2564(2021)
出願商標:
区分35:顧客が便利に商品を見たり購入したりできるように、他人の利益のために様々な商品を集めること、化粧品の小売・卸売、トイレタリー製品の小売・卸売、歯科用品の小売・卸売、飲料などのオンライン小売

引用商標:
区分29:牛肉缶詰、魚缶詰、果物缶詰、野菜缶詰、魚介類缶詰など

理由:両商標の商品と役務とは異なる区分である。さらに、出願商標の役務は、他人の利益のために、顧客が便利にそれらの商品を見たり購入したりできるように、様々な商品をまとめることであり、引用商標の商品と同じ性質のものではない特定の商品の小売や卸売を行うことである。その結果、混同のおそれはない、とした。

注目点:上記2つの審決例から得られるポイントは以下の通りである:
・「小売」という役務よりも、「他人の利益のために、消費者が便利に商品を見たり購入したりできるようにするために、様々な商品を集めること」という役務の方が広範であるため、これらの審決から、提供される商品が表示されていない「小売役務」や「卸売役務」、「販売役務」などは(DIPによって認められる場合)、商品と同じ性質のものではないと結論づけることができると思われる。換言すれば、「小売」という広範な役務を指定する先行登録商標は、区分 1から区分 34までのいずれかに属する商品を指定する後行商標出願の登録を妨げるものであってはならない。このことは、区分35の「消費者の便宜のために種々の商品を一緒にすること」、「販売管理」および「商品のオンライン販売サービス」は、区分25の「シャツ」および「ズボン」と同一性質のものではないとする新審査基準でも確認されている(新審査基準90頁参照)。詳細は「5.商品・役務間の類似性または非類似性」で後述する。
・「小売役務“retail services”」、「卸売役務“wholesale services”」、「販売役務“sale services”」に使用する提供商品が具体的に表示されている場合は、当該商標の商品とは性質が異なる商品を提供する他の商標とは無関係とみなされる。
 例えば、「バッグの小売店舗サービス」と「化粧品の小売店舗サービス」のように、提供する商品が異なる小売サービス間の関連性を検討した前例はない。しかし、「3.商品の類似性・非類似性」に記載したようなアプローチにより、販売する特定の商品間の関連性を検討すべきであると考える。特に、商品が同じ性質のものでない場合、または同じ需要者グループを対象としていない場合は、関連性がなく、混同の可能性は生じない。同様に、関連性のない商品を提供する小売サービスも、需要者に混同を生じさせるものではないと考えられる。例えば、「化粧品産業で使用する化学薬剤の小売サービス」と「無菌包装で使用する過酸化水素水溶液の小売サービス」は、商標審決番号246/2563(2020)に基づくと、特定商品の使用目的により関連性が認められない、と考えられる。

4-3. 不使用取消
 法第63条によれば、3年間使用されていない商標登録は、不使用を理由に取消される可能性がある。しかし、実際には、不使用取消は、不使用の立証責任を申立人が負うため、非常に困難である。審判部は、商標権者が使用を証明する証拠を全く提出せず、反駁しない場合であっても、不使用の証明が不十分であるという理由で申立を却下するケースもある。不使用の場合であっても、商標権者は、不使用が特別な事情によるものであり、商標を放棄する意図によるものではないことを証明することにより、防御することができる。例えば、商標権者が特定の商品または役務に関して商標を使用している場合、商標権者に商標を放棄する意思がないと解釈することができる。法律は、特定の商品および役務に対する部分的取消の可能性も明示していない。

4-4. 役務を指定する際の考慮事項
 審査官は、指定役務記載の可否を判断する際に、中編「3-4. 商品を指定する際の留意点」で説明した基準を同様に適用する。また、出願人は、意図する役務を項目ごとに明確に指定しなければならない。しかし、区分1~34では認められない広範な商品が、役務の説明では含まれることがある。例えば、「区分5:食品サプリメント」および「区分25:衣料品」という商品は認められないが、「食品サプリメントに関する小売サービス」および「衣料品の小売サービス」というサービスの指定は、区分35で認められる。したがって、出願人は、サービスの範囲を不必要に限定しないよう、前記「タイで商標登録出願された商品・サービス一覧」に掲載されている最新の商品・役務許容リストを常に入手する必要がある。

5. 商品・役務間の類似性または非類似性
 DIPは、各区分においてクロスチェックの対象となる関連区分のリストをウェブサイトで提供している。下表は、区分1から34までの商品に対する区分35から45までの役務との関連区分と、役務に対する商品との関連区分とのリストをDIPのウェブサイトから抜粋したものである。なお、このリストで指定されている以外の区分についてもクロスチェックが行われる例もあることに留意されたい。

区分12345
関連区分353535,42,443535,42,44
区分678910
関連区分3535,373535,37,38,41,4235,44
区分1112131415
関連区分35,3735,37,393535,3735
区分1617181920
関連区分35,37,41353535,37,4235,37,43
区分2122232425
関連区分3535353535,40,45
区分2627282930
関連区分35,403535,4135,42,4335,42,43
区分3132333435
関連区分35,42,4335,42,4335,42,4335
区分3637383940
関連区分912
区分4142434445
関連区分99

 クロスチェックとは別に、審査官は、「前編2-2.3)(C)商品・役務の関連性・非関連性の検討」に記載されたアプローチに沿って、特定の商品・役務の関連性を検討する。
 上記のアプローチに加え、新審査基準では、広範な役務の記載は、狭義の商品の記載と同じ性質を有するとはみなされないことが具体的に規定されている(新審査基準90頁参照)。その例は以下の通り:
・区分35の「消費者の便宜のために各種の商品を集めること」、「販売管理」、「商品のオンライン販売サービス」は、区分25の「ワイシャツ」、「ズボン」と性質が異なる。
・区分43の「飲食店サービス」は、区分30の「茶、コーヒー、ココア」、区分32の「飲料、水(飲料)」、区分33の「酒類、蒸留アルコール飲料」と性質が異なる。
・区分44の「美容サービス」は、区分3の「皮膚栄養クリーム」と性質が異なる。

 商品と役務の関連性を判断する際のアプローチを示す商標審決例を以下に示す。

(A) 商品と役務とが関連しているとみなされた例
① 商標審決番号1617/2560(2017)
出願商標:
区分19:非金属建材、建築用硬質非金属パイプ、建築用非金属材料シート、建築用非金属板、建築用非金属ポータブル構造部品

引用商標:
区分43:倉庫の建設、工場の建設、店舗の建設、家屋の建設、倉庫の建設、工場の建設、店舗の建設、家屋の建設、建設に関するコンサルタント業など

理由:引用商標の役務は建設サービスに関するものであるため、両者の商品/役務は同じ性質のものであるとした。

注目点:建築材料である出願商標の商品が引用商標の建築サービスの提供に使用できることから、両商標の商品と役務とは同じ性質であると考えることができる。

② 商標審決番号106/2559(2016)
出願商標:
区分42:個人用電子機器に関するオンライン問題の処理、個人用電子機器の技術サポート

引用商標:
区分9:オーディオテープレコーダー、スピーカ、コンピュータ等

理由:両商標は異なる区分に属するが、両商標の商品とサービスは同じ性質であり、混同の可能性がある、とした。

注目点:両商標の商品および役務が、電子機器という同じ分野に関するものであることから、両商標の商品および役務が同じ性質のものであると考えることができる。

(B) 商品と役務が無関係とみなされた例
① 商標審決番号921/2564(2021)
出願商標:
区分11:空気濾過媒体、空気濾過装置、空気濾過装置用フィルター、音響媒体

引用商標:
区分37:車両注油、車両保守、車両整備、車両修理、車両洗浄

理由:両商標の商品と役務は異なる区分であり、それぞれの使用目的は特定されている。その結果、両商標の商品と役務は同じ性質のものではなく、混同の可能性は生じない。

注目点:両商標の商品・役務の具体的な使用目的または提供目的が重複しているかどうかを検討する。

② 商標審決番号371/2562(2019)
出願商標:
区分44:美容施術に関する助言サービス、美容コンサルタント、美容施術等

引用商標:
区分3:皮膚栄養クリーム

理由:両商標は化粧品に関連するが、異なる需要者グループを対象としており、異なる取引経路を通じて提供されている。その結果、出願商標の商品と引用商標の役務は同じ性質のものではない、とした。

注目点:区分とは別に、商品の関連要素、すなわち、需要者の対象グループと取引経路も考慮した結論となっている。本審決例と新審査基準に基づき、商品と役務の類似性・非類似性を判断する際、例えば、商品と役務の意図された目的が合致しているか、商品と役務が対象とする需要者が一致しているかなど、タイと日本は、その判断方法を共有している。
 さらに、タイは、欧州の商標審査基準に規定されている要因の一部、すなわち、商品・役務の性質や意図する目的を考慮している。

6. まとめ
 DIPおよび裁判所は、商品および役務の類似性を判断するために、商標の国際分類(区分)のみならず、例えば、商品および役務の性質、商品の使用または役務の提供の目的、生産段階における関連性、対象需要者、取引経路、商品または役務の価格等の様々な要素を考慮している。

【クロスチェックリストの閲覧方法】
(1) DIPのウェブサイト https://search.ipthailand.go.th/ に接続する。

(2) クリック

(3) クリック

(4) 何も入力せず、ここをクリック

(5) 区分    ニース分類 Class Heading       関連区分(商品・役務)
46はDIP独自分類で証明商標を、47は団体商標を示し、全区分に関連する。

タイにおける非アルファベット文字の取り扱いに関する一般的な留意点(後編)

 類否基準に関するタイ商標審査マニュアルの記載個所、標章の類否判断に関する基本的な考え方、マークの類否判断における(外観、称呼、観念)の認定、外観、称呼、観念の類否について「タイにおける非アルファベット文字の取り扱いに関する一般的な留意点(前編)」をご覧ください。

5.外国語マーク、非アルファベット文字およびカタカナの類否について
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 タイ商標審査マニュアル(第2章第1部「3. 称呼および翻訳の検討」21-22頁)によると、外国語商標の場合、翻訳(Translation)および音訳(Transliteration)/発音(Pronunciation)のほか、一般的な辞書、信頼できる翻訳機関等の信頼できる情報源からその事実を証明する書類を出願時に提出することが要求されている。さらに、審査期間中、登録官は、辞書または他の情報源と一致するように翻訳および/または音訳/発音を修正するよう出願人に指示する場合がある。出願人が誤った意味または音訳/発音を提供した場合、タイ知的財産局から修正を要求するオフィスアクションを受ける恐れがある。
(注:「音訳(Pronunciation)」とは、現地語(タイ語アルファベット)で商標の文字による単語を表現したものを意味する(例えば、日本の漢字を表現するためにタイ文字を使用して表現する)。「発音(Pronunciation)」とは、(例えば、出願した商標が出願人によって意図した)音で表現した単語の発音を意味する。

 タイ商標審査マニュアル(第2章第2部「3. 商標の同一性または類似性の検討」84-85頁)によると、商標調査の方法は次のように記載されている。

1) 図形商標調査:ウィーン分類コードにより検索する
2) 文字商標調査:以下の方法で調査し、いずれかの方法により商標と先行商標との類否判断を行う
 (a) 最初の文字と最後の音
 (b) 類似する単語・同一の単語
 (c) 最初の文字とその他の直前の音(医薬品のみ)
 (d) 各音節の響き

 タイ商標審査マニュアルには日本語文字の審査実務が規定されていないため、登録官は上記の方法に従って調査を行う。

 タイ商標審査マニュアル(第2章第1部「3. 商標の同一性または類似性の検討」21-22頁)によれば、出願人は、翻訳および音訳/発音、ならびに、その事実を証明する書類(例:一般的な辞書、信頼できる翻訳機関による翻訳)を提出しなければならないとされている。経験的に、出願人が知的財産局に提出した当該商標のタイ語の発音、辞書または翻訳機関による翻訳に基づいて、商標の外観および/または英語に加えて外国語の発音の調査が行われることに留意すべきである。また、登録官は、ウィーン分類コードNo.28.3(中国語による文字および日本語による文字)を使用して、図形/非アルファベット文字の調査を行う。このように、異なる漢字、ひらがな、カタカナで構成されている商標であっても、タイ語の音訳/発音や商標全体の外観のみが、日本語やその他の外国語の先行商標と類似または同一であれば、その商標は他の商標と類似するとみなされる。

(3) アルファベット文字、非アルファベット文字およびカタカナの類否
 タイ商標審査マニュアルでは、カタカナ、ひらがな、漢字を含む日本語文字の審査実務について具体的に示されていないため、日本語文字で構成される商標は、称呼および意味を有する文字商標とみなされる。したがって、対象商標の称呼のみが先行商標と類似している場合、商標全体を考慮し、知的財産局は対象商標が先行商標と混同するほどに類似するとみなす。さらに、上述のとおり、登録官は、日本語文字についてもウィーン分類コードを使用して、図形/非アルファベットの調査を行う。したがって、登録官は、類似する本質的要素からなる先行商標と類似する旨を理由として、商標を拒絶することができる。

6.外国語商標、非アルファベット文字商標およびカタカナ商標の識別力について
 タイ商標審査マニュアルでは、日本語や外国語で構成される商標の審査実務について具体的に説明されていないため、カタカナを含む日本語文字についても同じ識別力の審査実務が適用される。すなわち、商標がタイ商標法第7条第2段落(2)を満たしている場合、その単語が商品の特性や品質に直接表すものではなく、商標登録が認められる。

 タイ商標審査マニュアル(第2章第2部「1. 識別性のある商標の検討」37頁)によると、タイ商標法第7条第2段落(2)は、文法的に誤った綴りを使用して意図的に書かれた単語を含む、音訳された単語で構成される商標にも適用されなければならない。最後に、登録官は、インターネットなどの信頼できる情報源から商標に含まれる単語の意味を調査することができるが、その意味は登録官の不合理な個人的想像に由来するものであってはならない。

 タイ商標審査マニュアル(第2部第2部「1.識別性のある商標の検討」38頁)には、以下のいずれかの特徴を有する場合、単語または単語の組合せは、商品の性質または属性を直接記述するものとみなされると説明されている。

(1) 固有の意味
 単語に多くの意味があり、そのうちの1つが商品の性質や属性を直接説明するものである場合、その単語は識別力がないと判断される。これには、単語の省略形も含まれる。
(2) 音訳
 商標に他の言語の単語の音訳が含まれている場合、その言語の単語の意味を考慮する必要がある。

 また、タイ商標審査マニュアル(第2章第2部「1.識別性のある商標の検討」39頁)によれば、登録官は、出願人が通常はそのような単語に使用されない代替的な意味および/または発音を意図的に提供した場合であっても、その単語が商品/役務を記述するものであるか否かを判断する。同時に、登録官は、辞書の意味またはインターネット上で見つけた意味と一致するように商標の翻訳を修正するよう出願人に要求する。この一般的な審査実務は、カタカナ、ひらがな、漢字からなる商標にも適用される。

 外国語商標の識別力に関する審査の運用について、日本語を含む外国語には特定の審査基準がないため、カタカナ、ひらがな、および/または、漢字は、意味および称呼を有する文字商標とみなされる。そのため、登録官は、商標のカタカナ、ひらがなおよび漢字の翻訳、辞書、インターネットおよび/またはその他の信頼できる情報源に基づいて商標の意味を検討し、一般のタイ人が直ちにそのような言語を理解するか否かにかかわらず、識別力の欠如を理由に商標を拒絶できる。したがって、登録官は、そのような日本語(カタカナ、ひらがな、漢字)のタイ語訳が出願された商品/役務の特徴または品質を記述しているか否かを検討する。

 特にカタカナについては、登録官は、「バイバイフィーバー」の商標委員会審決No.772/2558(2015)(URL:N/A)に従って、どの英単語からカタカナの単語が派生したかを検討する。商標委員会は、対象商標の日本語文字(カタカナ)が英単語の「BYEBYE FEVER」の音訳であると判断した。第5類の商品(例えば、医薬品)に対象商標を使用する場合、対象商標は商品の特性または品質に直接記述しているため、タイ商標法第7条第2段落(2)により、識別力を有さないと判断した。

 また、商標委員会審決No.1115/2554(URL:N/A)に基づく商標の識別力に関する別の事例がある。商標委員会は、商標「丼丼亭」は、1文字目と2文字目の「丼」は、「食品をのせたご飯の丼」を意味する「DONBURI」と発音することができ、3文字目の「亭」は、通常レストランの名前で使用される「TEI」と発音することができることから、対象商標は「丼屋」を意味し、牛丼、鶏丼、刺身丼など、第30類の商品を記述するものであるため、タイ商標法第7条第2段落(2)により、識別力を有さないと判断した。

タイにおける非アルファベット文字の取り扱いに関する一般的な留意点(前編)

1.記載個所
 標章の類否基準については、「タイ商標審査マニュアル」第2章に記載されている。その概要(目次)の抜粋は以下のとおりである。

第2章 商標の審査および検討
第1部 願書様式および願書内の項目の審査
 1.登録願書(願書様式)の検討
 2.指定商品および役務の検討
 3.称呼および翻訳の検討
 4.標章の外観の検討
 5.第28条および第28条の2に基づく権利の許可の検討
 6.登録願書内の項目補正の検討
第2部 登録するべき特徴の検討
 1.識別性のある商標の検討
 2.登録を禁止しなければならない特徴のある商標の検討
 3.商標の同一性または類似性の検討

2.標章の類否判断に関する基本的な考え方
 日本の商標審査基準(日本)の第3 十「第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標」に対応する、「タイ商標審査マニュアル」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 タイ商標法第13条および同法第20条
 タイ商標審査マニュアル 第2章第2部83-89頁

(2) 異なる事項または留意点
 タイ商標審査マニュアルでは、外観や称呼の類否に関するルールは、日本の審査基準とほぼ同じである。しかしながら、「観念」については、タイ商標審査マニュアルに記載されていない。

 タイ商標審査マニュアル(第2章第2部 「3. 商標の同一性または類似性の検討」 83頁)によれば、商標が完全に同一である場合には同一であるとみなされ、商標権所有者や商品の出所について公衆が混同したり誤認したりする程度に類似している場合には類似するとみなされる。商標が同一または類似するかを判断する際、全体観察する必要があり、本質的または顕著な同一の商標要素を共有しているか否かを検討する。図形同士、単語同士、単語同士の組合せだけで比較してはならない。商標が同じ区分の商品と一緒に使用されているか、異なる区分の商品であっても性質は同じであるか、また、(商品/役務の潜在的な顧客またはユーザーになる可能性が高い者の)対象グループが同じであるか、あるいは、対象グループが商標を区別するのに十分な知識を持っているかなど、商標の称呼や商品も考慮しなければならない。

3.マークの類否判断における(外観、称呼、観念)の認定
 タイ商標審査マニュアル(第2章第2部 「3. 商標の同一性または類似性の検討」84頁)に、次のように説明されている。

3-1.外観
 商標は、全体観察されなければならず、商標の一部のみに基づいて検討してはならない。登録されるためには、商標は他人の商標と同一または類似の本質的要素を有してはならない。
(1) 商標の主要要素または本質的要素が他人の商標と同一または類似する場合、その商標は、商標の細部が異なる場合であっても、類似するとみなされる。
 図形商標:商標内の図形を検討する。
 文字商標:文字列を検討する。称呼も比較される場合がある。

(2) 2つの商標に同じ単語が含まれている場合、それらのフォント形式が異なっていても、類似するとみなされる(例:ブロック文字に対する、小文字、筆記体)。

3-2.称呼
 称呼は、単独または文字等と組み合わせで、商標が同一または類似の商標であるか否かを判断するために使用される。以下に、例を示す。

3-3.商品・役務
 商標が他人の商標と同一または類似する場合、両者の商品または役務が同一の性質を有するか否かを検討しなければならない。例えば、次の事項を検討する必要がある。

(1) 対象グループ:両者の商品が個人商品、家庭用品、農産物である場合、それらの商品が同一の顧客グループを持つ可能性があること;
(2) 工業用、農業用、家庭用および工業用製品、ならびに、医療用医薬品等の特殊製品;
(3) 産業機械部品などの使用目的;
(4) 雑貨店、百貨店、販売店など流通場所;
(5) 商品価値:高価な商品を購入する場合、顧客はより多くの注意を払い、目的を検討する可能性が高い。

 例えば、日本語の商標「白梅」=「シラウメ」「ハクバイ」のように2つの称呼が生じる場合、多くのオフィスアクションにおいて、漢字が異なる方法で発音できるときは、登録官は、標準中国語および潮州語(中国語の方言の一つ)での発音を含め、可能なすべての称呼を検討する。したがって、漢字には自然な称呼や一般的に使用されている称呼がない場合、同一の漢字からなる従前の商標と類似するか、異なる文字であっても称呼が類似するかについても検討されることが推測される。
 また、「観念」に関して、タイ商標審査マニュアルでは、類否判断における「観念」の取扱い方法が示されていない。したがって、外国語文字は、外国語の意味や称呼をすぐに認識することができない場合、外国語文字がアルファベット文字として、または意味や称呼を有する文字商標としてみなされると考えられる。これらの意味および称呼は、タイ商標審査マニュアル(第2章第1部「3.称呼および翻訳の検討」21-22頁)により、出願書類、辞書または翻訳機関の翻訳に基づくとされる。

4.外観、称呼、観念の類否について
4-1.外観の類否について

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 タイ商標審査マニュアル第2章第2部 「3. 商標の同一性または類似性の検討」83-90頁

(2) 異なる事項または留意点
 商標の外観の類否判断に関して、日本とタイとの間で大きな違いはない。タイ商標審査マニュアル(第2章第2部「3. 商標の同一性または類似性の検討」83頁)によれば、登録官は、商標を全体観察することにより、商標が先行商標と類似しており、商標権所有者や商品の出所について公衆を混同させたり、誤認させたりするおそれがあるか否か、または、本質的に類似または同一であるか否かを検討する。登録官は、各々の図形または単語のみを個別に比較するのではなく、商標の要素すべておよび商標の本質的要素が先行商標の本質的要素と類似または同一であるかを判断する。

 タイ商標審査マニュアル(第2章第2部「1.識別性のある商標の検討」60頁)によると、商標のいずれかの部分が本質的または重要であるかを判断する際には、以下の基準を考慮する。

1)要素の色、要素の配置、商標における図形の配置であって、商標の本質として支配的なもの
2)公衆や消費者に目立つように、より大きな要素の比率の比較

類似商標の例(タイ商標審査マニュアル第2章第2部85頁)

類似しない商標の例(タイ商標審査マニュアル第2章第2部86、87頁)

ラベル中の商標
 タイ商標審査マニュアル第2章第2部「3. 商標の同一性または類似性の検討」88頁

1)商標に含まれる図形やアルファベット文字の配置が先行商標と類似または同一である場合、本質的要素のいくつかが異なっていても、先行商標と類似するとみなされる。
2)商標の本質的要素が先行商標の本質的要素と類似または同一であり、他の要素が異なる場合、先行商標と類似するとみなされる。

部分放棄した(Disclaimed)要素から構成される商標
 タイ商標審査マニュアル第2章第2部「3. 商標の同一性または類似性の検討」88頁
 部分放棄した文字や図形は、商標の本質的要素ではないとみなされる。ただし、商標の全体的な外観と称呼を判断する場合、部分放棄された要素は商標の要素とみなされる。以下に、例を示す。

4-2.称呼の類否について
 称呼の類否について、タイ商標審査マニュアルは、(強弱アクセント、音質、音量、音調、音節など)商標の称呼をどのように判断するのか、詳細に規定していない。したがって、出願人は、商標に記載されている外国語の単語の翻訳(Translation)および音訳(Transliteration)/発音(Pronunciation)を提出しなければならず、登録官は、知的財産局に提出された出願書類に記載されている当該商標のタイ語の音訳/発音、または、登録官が自ら決定した翻訳および音訳/発音に基づいて判断する。登録官は、一般的な辞書や、信頼できる翻訳機関からの情報等の信頼できる情報源を検索することを含め、正しい音訳/発音を判断するために自ら調査を行うことができる。
(注:「音訳(Pronunciation)」とは、現地語(タイ語アルファベット)で商標の文字による単語を表現したものを意味する(例えば、日本の漢字を表現するためにタイ文字を使用して表現する)。「発音(Pronunciation)」とは、(例えば、出願した商標が出願人によって意図した)音で表現した単語の発音を意味する。

(例1)商標委員会審決No.769/2554(2011) (URL:N/A)

(例2)商標委員会審決No.105/2556(2013) (URL:N/A)

(例3)商標委員会審決第532/2565号 (2022年) (URL:N/A)

(例4)商標委員会審決No.247/2565号 (2022年) (URL:N/A)

 上記審決に基づいて、後願商標と先行商標は異なる言語であっても、商標がタイ語で同様に発音されている場合には、後願商標は類似する商標を引用するにより拒絶されると結論することができる。

4-3.観念の類否について
 日本の商標審査基準に示されている商標の観念の類否は、タイ商標審査マニュアルにおいて明確に説明されていない。商標の類否の審査は、商標に明確に示されているように、全体的な外観と、単語または図形の称呼のみに基づいて行われることが暗示されている。したがって、私見となるが、日本の商標審査基準十、第4条第1項第11号 3(3)に「観念類似」と判断される例として示されている「でんでんむし物語」と「かたつむり物語」は、タイの登録官は、両商標が非類似であると判断する可能性がある。

 外国語マーク、非アルファベット文字およびカタカナの類否について、外国語商標、非アルファベット文字商標およびカタカナ商標の識別力については「タイにおける非アルファベット文字の取り扱いに関する一般的な留意点(後編)」をご覧ください。

タイにおける模倣対策マニュアル

「タイ模倣対策マニュアル」(2022年3月、日本貿易振興機構バンコク事務所(知的財産権部))

(目次)
I 模倣品をはじめとした知的財産権侵害品の定義 P.1
(特許権、小特許権、意匠権、商標権、著作権について侵害と定められている行為および該当条文ならびに刑法で規定されている侵害行為および該当条文番号を紹介している。)
1 模倣品とは P.1
2 侵害行為の類型 P.1

II 権利取得 P.8
(出願から権利取得(根拠法、保護対象、出願人の要件および代理人の要否、出願手続、予備審査、異議申立、実体審査、早期審査、職務発明、審判、権利保護期間・年金、譲渡・ライセンスならびに放棄・取消)に関する手続概要をフローチャートともに紹介している。また、検索システムについて紹介している。)

1 特許権の取得 P.8
2 小特許権の取得 P.27
3 意匠権の取得 P.32
4 商標権の取得 P.40

III 管轄機関及びそれぞれの所掌範囲、権限 P.57
(タイの各知的財産関連機関が担う職務、権限および責務を紹介している。)
1 知的財産局 P.57
2 法務省特別捜査局 P.57
3 検察庁 P.59
4 税関 P.59
5 経済犯罪制圧部 P.60
6 技術犯罪制圧部 P.60
7 タイ情報技術犯罪抑制作業部会 P.61
8 知的財産侵害抑制小委員会 P.62
9 中央知的財産国際貿易裁判所 P.62
10 デジタル経済社会省 P.63
11 国家放送通信委員会 P.64

IV 知的財産権のエンフォースメント P.66
(模倣疑義品に対する権利者自らによる対策(知的財産の登録状況の確認、侵害の有無の確認、証拠の収集、警告状の送付および和解交渉)、タイ知的財産局(DIP)を利用した行政的救済、民事的救済および刑事的救済(裁判の流れ(フローチャートあり)、事例、統計情報(2016年から2021年までの裁判件数、2011年から2021年までの警察による侵害品の摘発および押収数)、税関での対策の流れ(フローチャートあり)、統計情報(2011年から2021年までの税関による侵害品の摘発および押収数)を紹介している。)
1 権利者自らによる対策 P.66
2 行政的救済 P.68
3 民事救済 P.69
4 刑事救済 P.73
5 税関における水際対策 P.82

V 政府の模倣品対策 P.86
(タイが加盟している国際条約、日本と関連がある自由貿易協定/経済連携協定、知的財産権に関する優遇・支援制度、関連機関の役割、タイ商務省が行っている知的財産侵害の抑止活動を紹介している。)

1 加盟している主な知財関係の国際条約 P.86
2 FTA/EPAにおける知財の取り扱い P.87
3 政府の政策 P.91
4 関連機関の実施能力 P.92
5 権利者との協力 P.93
6 啓発活動 P.94

VI 模倣品に対する企業の対策事例 P.96
(日系企業の対策事例を模倣品発見時の対処、対策に要した時間とコスト、成功又は失敗した理由の観点から解説している。)

1 日系企業の対策事例 P.96
2 外資系企業及び地場企業の対策事例 P.97

VII オンライン上の模倣品に対する対策 P.98
(オンライン上の模倣品に対する対策として、大手ECサイトでの模倣品排除の手続を紹介している。また、オンライン・プラットフォーマーの責任を追及する際に適用される法律を紹介している。)

1 概要 P.98
2 ECサイトにおける模倣品への対策 P.98
3 オンライン・プラットフォーマーの法的責任 P.101

VIII 模倣品が流通している企業に対するアドバイス P.104
(タイに模倣品が流通している企業が採るべき必要な対策について紹介している。)

1 知的財産権の確保 P.104
2 模倣品及び冒認出願の監視 P.104
3 一般消費者への注意喚起 P.105
4 積極的な権利行使 P.105
5 法律事務所との関係の構築 P.105

IX 所轄機関の連絡先 P.107
(10機関の所在地、電話番号、Fax番号、Webサイト、E-mailアドレス等を紹介している。)

X 参考資料 P.110
1 特許出願書 P.110
2 優先権主張申請書 P.112
3 PCT出願国内移行出願書 P.113
4 実体審査請求書 P.114
5 特許登録証 P.115
6 PPH申請書 P.116
7 ASPEC申請書 P.117
8 小特許登録証 P.118
9 意匠出願書(タイ語のみ) P.119
10 意匠登録証 P.121
11 商標出願書(タイ語のみ) P.122
12 商標登録証 P.124 

タイにおける商標審査基準について

記事本文はこちらをご覧ください。

タイにおける商標の識別性に関する調査

 「ASEAN主要国における商標の識別性に関する調査」(2020年3月、日本貿易振興機構(JETRO)バンコク事務所知的財産部)

(目次)
第2章 各国の商標審査制度
I.タイ p.3
(所管庁の概要、出願から登録までの審査手続について説明(フーロチャートあり)、商標の識別性に関する関連法規、識別性に関するガイドライン、制度・運用に関する留意点(日本語を含む外国語からなる商標は識別性を有するとされる可能性有り、外国語の意味、音が必要他)、識別性に係る審査判断に対する反論手段、ディスクレーム制度、商標権の効力範囲およびフェアユースについて紹介している。)

第3章 事例紹介及び考察
I.タイ p.77
(審査機関における審査結果(商標登録官による審査結果2件、商標委員会による審査結果10件)および最高裁判所による判決(4件)の概要を紹介している。また、審査結果および判例の考察、留意点について記載している。)