タイにおける商標権の審判等手続に関する調査
「タイにおける知的財産の審判等手続に関する調査」(2020年3月、日本貿易振興機構(JETRO)シンガポール事務所知的財産部)
(目次)
第3章 調査結果
第1 審判手続の概要と対象権利及び審判機関 p.3
1.審判手続の概要 p.3
2.対象権利及び審判機関 p.3
第4 商標権の審判手続 p.22
1.審判手続の種別 p.22
(査定系審判手続、当事者系審判手続、その他の審判手続に関連する商標法の規定を紹介している。)
2.申立人の要件 p.23
(審判手続の申立人は限定されているため、匿名での申立は認められない。規定されている申立人を手続ごとに紹介している。)
3.申立の期間 p.24
(申立の期間につき手続ごとに紹介している。)
4.申立理由・手続・単位 p.24
(査定系審判手続およびその他の審判手続、当事者系審判手続の申立手続(書類、期限、提出手段)について紹介している。)
5.申立の補正の可否 p.25
(査定系審判手続およびその他の審判手続の申立の補正について関連する規則に基づき紹介している。また、当事者系審判手続の申立の補正について、DIPおよび現地代理人へのヒアリング調査に基づき紹介している。)
6.取下手続・単位 p.26
(申立の取下げについて規則に定めがある。一部取下についても紹介している。)
7.審判手続内での出願の補正・訂正手続 p.26
(法令に定めはない。DIPおよび現地代理人へ調査し、実態について紹介している。)
8.審判方式(書面か口頭か、面接の可否、決定方法・基準の有無等) p.27
(商標委員会による審判の具体的な方式については法令に定められていない。DIPおよび現地代理人へ調査し、実態について紹介している。)
9.審判手続(審判官の体制、独立性の有無等) p.27
(商標委員会の決定については商標法に定めがある。DIPおよび現地代理人へ調査し、実態について紹介している。)
10.審判官の資格要件と除斥、忌避、回避の可否及び手続 p.28
(商標委員会の委員の資格要件には法令に定めがある。審判官の除斥、忌避、回避の手続は法令には規定されていない。)
11.審判期間 p.28
(商標委員会における審理期間に関しては法令に定めはない。DIPおよび現地代理人へ調査し、実態について紹介している。)
12.訴訟とのダブルトラックの可否 p.28
(ダブルトラック(同一の商標に関して、商標委員会での商標権取消請求と反訴としての商標権取消訴訟が同時に係属する状態)の対応について、法令の定めはない。DIPおよび現地代理人へ調査でも明確な回答はなく定まった実務は確立していないようである。)
13.審決の具体的内容 p.29
(査定系審判手続及びその他の審判手続(例:拒絶査定に対する審判手続)、当事者系審判手続(例:取消請求に関する審判手続)の審決の内容の構成を紹介している。)
14.審決の確定と効果 p.30
(査定系審判手続、その他の審判手続の確定要件と効果について紹介している。)
15.審判・審決の公開の有無 p.31
(審判手続は非公開であり、審決も原則として公開されてない。)
16.審判の件数及び取消率 p.32
(2015年から2019年の商標権の審判手続の申立件数、取消率について紹介している。)
17.審決取消訴訟の件数及び取消率 p.32
(審決取消訴訟が提起される件数は不明。現地代理人への調査結果を紹介している。)
18.料金 p.32
(手続種別ごとに料金を紹介している。)
19.手続フローチャート p.33
(査定系審判手続及びその他の審判手続、当事者系審判手続のフローチャートを紹介している。)
20.審判の利用可能性(質及びスピード等)、審判の効果的な活用策、代表的な事例
等 p.34
(商標権の審判手続は権利者にとってはやや使い辛いが、裁判所への不服申立が認められている異議申立に関する決定に対する不服申立や商標権の取消請求等は効果的であると考える理由を紹介している。)
別紙2 商標査定系審判手続申立書 vii
別紙3 商標当事者系審判手続申立書 ix
タイにおける商標制度のまとめ-手続編
1. 出願に必要な書類(1992年省令第3項~第12項の2)
① 願書
以下の情報を記載する。
・出願人情報
・商標見本(外国語からなる場合はその称呼と意味)
・指定商品・指定役務
・その他必須な内容
② 委任状
・タイ国外で署名する場合はその国の公証役場で署名認証手続が必要
③(タイ国籍以外の自然人の場合のみ)本人署名入りのパスポート写し
④(タイ企業の場合のみ)発行から6か月以内の会社登記簿謄本
優先権を主張を伴う場合は以下の書類も必要となる。
⑤ 優先権主張証明書
⑥ 優先権主張申請書(タイ出願時に基礎出願が無効になっていない旨出願人が陳述する書面)
関連記事:「タイにおける商標出願制度概要」(2019.6.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17463/
関連記事:「タイにおける商標制度の概要」(2014.11.7)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/7018/
2. 登録できる商標/登録できない商標
(1)登録できる商標の種類(タイ商標法第4条)
写真、絵画、創作された図、ロゴ、名称、語句、文、文字、数字、署名、色の集合、物体の外形(shape)もしくは形状、音、またはそれらの一つもしくは複数が結合したもの。
(2)登録できない商標の種類(タイ商標法第8条)
① 国の紋章または盾形紋章,王室の印章,公印,チャクリ王朝の紋章,王室の勲章からなる紋章および記章,官庁印,省,事務局,局または州の印章
② タイの国旗,王旗または公式な旗
③ 王室の名称,王室のモノグラム(組合せ図案文字)または王室の名称若しくは王室のモノグラムの省略形
④ 王,王妃および王位継承者の肖像
⑤ 王,王妃若しくは王位継承者または王族を表す名称,語,言葉または紋章
⑥ 他の国の紋章および国旗,国際組織の紋章および旗,他の国の首長の紋章,他の国または国際組織の公式の紋章および品質管理証,他の国または国際組織の名称およびモノグラム。ただし,当該他の国または国際組織の担当官の許可がある場合はこの限りでない。
⑦ 赤十字の公式記章および紋章または「Red Cross」若しくは「Geneva Cross」の名称
⑧ タイ政府,タイの政府機関,公共企業体若しくはタイのその他の政府組織または外国政府若しくは国際機関が主催した博覧会またはコンテストで授与されたメダル,免状または証明書の外観と同一または類似の標章またはその他の標章。ただし,このメダル,免状,証明書または標章がその描写を付した商品に関して出願人に実際に授与され,係る商標の一部として使用される場合を除く。
⑨ 公序良俗に反する標章
⑩ 登録商標であるか否かを問わず,大臣の告示で定める著名商標と同一の標章または商品の所有者若しくは出所に関して公衆を混同させる虞のある商標に類似する標章
⑪ ①,②,③,⑤,⑥または⑦に類似する商標
⑫ 地理的表示に関する法律に基づいて保護されている地理的表示
⑬ 大臣の告示で定めるその他の商標
2016年商標審査マニュアル(タイ語のみ、タイ知的財産局のウェブサイトから参照可。)には登録できない商標の例が挙げられている。
(3)通常の商標以外の制度
証明標章、団体標章も登録することが可能である。
関連記事:「タイにおける公序良俗に反する商標」(2015.6.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/9170/
関連記事:「タイにおける周知商標」(2015.5.19)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8586/
3. 出願の言語
出願手続にはタイ語を使用しなければならない(1992年省令第2項)。
商標が外国文字を含む場合はその意味を願書に記載しなければならない。(1992年省令第12項)。
関連記事:「タイにおける外国語表記を含む商標出願の識別性判断」(2015.2.16)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/7936/
4. 商標登録出願時の特例(タイ商標法第28条の2)
タイまたはタイが加盟している商標保護に関する条約または国際協定の加盟国でタイまたは当該加盟国の政府機関、公共企業体またはその他の政府組織の企画により開催された博覧会で展示された場合で、商標所有者がその商品を当該博覧会に持ち込んだ日かまたは最初の外国出願日のうち何れか早い方の日から6か月以内に当該博覧会に展示した商品について商標登録出願を行ったとき、当該商標の出願人は第28条第1段落に基づく権利(優先権)を主張することができる。
5. 審査
(1)実体審査
登録官は、その出願商標が登録要件を満たさない、または保護を受けようとする商品が明確に記載されていない等と判断した場合、拒絶理由通知または拒絶査定を発して出願人に通知する。(タイ商標法第15条、第16条)
登録官は、その出願商標が登録要件を満たすと判断した場合、公告命令をおこない、公告する。(タイ商標法第29条)
(2)早期審査
制度を定める条文は無いが、適切な理由を添えた上申書を登録官に提出することで、実務上早期審査を請求することができる。ただし、早期審査の可否は登録官の裁量による。
(3)商標の類否判断の概要
商標の外観と称呼が類似し、区分に関わらず同じ種類の商品または役務に使用するとき、公衆に対して商品または役務の所有者または出所に関して誤認混同を生じさせる恐れのある程に類似すると判断される。(タイ商標法第13条、2016年商標審査マニュアル)
関連記事:「タイの商標関連の法律、審査基準等」(2019.4.4)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16812/
関連記事:「タイにおける商標審査基準関連資料」(2016.2.26)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/10286/
6. 出願から登録までのフローチャート
(1)出願から登録までの商標出願のフローチャート
(2)フローチャートに関する簡単な説明
① 商標出願
所定の書式を整えてタイ商務省知的財産局(Department of Intellectual Property, DIP)へ提出する。
タイに居所を有していない日本企業や自然人が出願するためには、タイ国内に居所を有する者(特許代理人資格は必要ではなく、国籍も問わない)が出願行為を代理する必要があり、委任状が必要となる。
② 審査
提出書類の書式が正しいか、必要書類が揃っているかといった方式的な要件の他、指定商品または指定役務記述の登録可否判断、識別性の判断、先行商標との類否判断が行われる。
国際分類表を参考に作成された独自の商品役務リストを採用しており、全体的に細かい記述が求められる。
日本より厳しく識別性を判断する傾向にあるため、出願前に現地代理人にコメントを求めることをお勧めする。
③ 拒絶理由通知
審査の結果、指定商品または指定役務記述等に対する補正命令、権利不要求(ディスクレーマー)命令等が発出された場合、出願人は命令受領から60日以内に登録官へ応答することができる(期限の延長不可)。期日内に応答しない場合、放棄とみなされる。
④ 拒絶命令
審査の結果、識別性の不備、または先行商標と同一もしくは類似するとして拒絶命令が発出された場合、出願人は拒絶命令受領から60日以内に商標委員会へ審判請求することができる(期限の延長は不可)。期日内に応答しない場合は放棄とみなされる。
⑤ 商標委員会への審判請求
拒絶命令に不服があれば、商標委員会に審判請求をすることができる。拒絶命令の内容が解消された場合は審査に係属する。
⑥ 裁判所への提訴
商標委員会への審判請求によっても問題が解消されなければ、知的財産・国際取引中央裁判所(CIPITC)へ提訴することができる。裁判は三審制で、上級審として控訴審(Court of Appeals)、最高裁(Supreme Court)がある。
⑦ 公告
審査の結果、登録するべきと判断された場合は公告される。第三者は、公告から60日以内に異議申立をすることができる。
⑧ 登録料支払命令
異議申立期間中に第三者による異議申立がなければ登録料支払命令が発出される。出願人は命令受領から60日以内に登録料を支払う必要がある。支払わなかった場合、放棄とみなされる。
⑨ 商標登録証の発行
登録料の支払いにより登録番号が付与され、商標登録証が発行される。
[権利設定前の争いに関する手続]
7. 拒絶命令に対する不服(タイ商標法第18条)
審査の結果、識別性の不備、または先行商標と同一もしくは類似するとして拒絶命令が発出された場合、出願人は拒絶命令受領から60日以内に商標委員会へ審判請求することができる。
関連記事:「タイにおける商標権の取得」(2014.12.19)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/7426/
8. 権利設定前の異議申立(タイ商標法第35条)
第三者は、公告から60日以内に異議申立をすることができる。
9. 上記7の判断に対する不服申立(タイ商標法第38条)
商標委員会の審決に不服とする商標出願人または異議申立人は、審決の受領日から90日以内に知的財産・国際取引中央裁判所(CIPITC)に提訴することができる。
関連記事:「タイにおける商標権関連判例・審決例」(2017.3.22)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/13268/
[権利設定後の争いに関する手続]
10. 権利設定後の異議申立
条文上規定はない。
11. 設定された商標権に対して、「不使用以外」で権利の取消しを申し立てる制度
その登録商標が登録要件(第7条、第8条、第13条)を満たしていないことを証明できる場合、商標委員会へ取消請求することができる。(タイ商標法第61条)
その登録商標が公序良俗に反する場合、商標委員会へ取消請求することができる。(タイ商標法第62条)
その登録商標が通商上慣用となり、業界または公衆にとって商標としての性格を失ったことを証明できる場合、知的財産・国際取引中央裁判所(CIPITC)に取消請求することができる。(タイ商標法第66条)
請求人自らがその商標権者よりも優先する権利を有することを証明できる場合、その商標権の登録命令日から5年以内に知的財産・国際取引中央裁判所(CIPITC)へ取消請求することができる。(タイ商標法第67条)
関連記事:「タイにおける知的財産権登録に拠らない発明、意匠、商標の保護」(2014.12.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/7291/
12. 商標の不使用取消制度(タイ商標法第63条)
登録された指定商品または指定役務について取消請求を行う前の3年間に商標が使用されていないことを証明できる場合、商標委員会に対して取消請求を行うことができる。
13. その他の制度
特になし。
タイにおける「商標の使用」と使用証拠
タイ商標法に基づき登録が可能な商標は、「識別性」のある商標であり、商標法に基づき禁止されていない商標、他人が登録した商標と同一または類似でない商標である。タイでは、近年、2つ以上の定義語を含む多くの独創的な商標が、商標登録を認められず、困難に直面している。これは、登録官が商標を個々の要素ごとに分解して、当該商標出願の指定商品もしくは指定役務の特徴や品質と関連づけて、識別性の欠如を理由に、商標登録を認めないためである。しかし、当該商標が使用を通じて識別性を獲得したことを出願人が証明できれば、商標登録が認められる可能性がある。
本稿では、「使用」の判断基準および使用を通じて識別性を獲得したことを証明するために必要な証拠について論述する。また、商標の使用の認定に関する知的財産局とCIPITCの異なるアプローチについても述べる。
現行のタイ商標法の正式名称は、「B.E.2559(2016年)法律(No.3)により改正されたB.E.2534(1991年)10月28日法律」であり、旧商標法「B.E.2534」が改正され、2016年7月28日に施行されたものである。タイ商標法の第7条によれば、識別性が欠如している商標を、通商大臣が定めた規定に従い、当該商標の指定商品および指定役務について、広く販売または宣伝されている商品に使用されており、かつその規定が正しく遵守されている場合、その商標は識別性を有するとみなされることがある。
タイ商標法の第7条に加えて、2003年3月12日付商務大臣告示では、出願された商標を付した商品もしくは役務は、公衆が十分に商品および役務を認識できるようになるまで、継続して適切に販売もしくは宣伝をされなければならないと規定されていた。この2003年3月12日付商務大臣告示はその後2012年10月11日付商務大臣告示によって改正され、タイ商標法第7条における「公衆に広く知られるまでに商標,サービスマーク等が付された商品またはサービスが,販売,頒布または広告によって識別性を獲得したこと」の証明については下記のような内容となっている。
・商品または役務が,一般公衆または関連分野の公衆が当該商品または役務が他のものと異なることを認識し理解できる程度にまで,一定期間,継続的に販売されまたは頒布されなければならない。
・商品または役務の販売,頒布または広告によって標章がタイで広く知られるようになった場合,当該標章はその標章が付された商品または役務についてのみ識別性を有するものとみなす。
・この告示に基づいて識別性が証明された標章は,登録された商標と同一でなければならない。
この識別性の証明について,出願人は,登録しようとする標章が使われた商品または役務の販売,頒布または広告に関する証拠を提出しなければならず、この証拠とは,商品や役務を購入した領収書の写し,商品やサービスの広告費用の領収書の写し,請求書の写し,商品または役務の注文書の写し,工場の認可証の写し,メディアを使った広告の証拠の写し,商品のサンプルまたは必要に応じて証人(もしあれば)を含むその他の証拠などをいう。
使用証拠提出の時期は、前記2003年3月12日付商務大臣告示においては出願と同時にされなければならないとされており、その後の追加は認められていなかったが、2012年10月11日付商務大臣告示においては、商標出願に添付して期間延長請求を提出すれば出願後60日以内に使用証拠の追加提出が認められるようになり、柔軟な対応が認められるようになった。
使用証拠を審査する機関は2つある。商標委員会とCIPITCである。商標の使用の判断基準に関しては、これら2つの機関は似たような見解を示している。だが、CIPITCは、通常、商標委員会に比べて寛大でビジネス寄りのアプローチを採用する。商標委員会の決定に不服がある場合には、CIPITCへ抗告することができる。また、この抗告によって、出願人が使用を通じて識別性を獲得したことの立証に成功する可能性は高くなると考えられる。
商標委員会の近年の審決を踏まえていえば、タイにおいて商標を付した商品もしくは役務の使用、宣伝もしくは販売がなされてきた期間を出願人がはっきりと証明できない場合、商標委員会はそれを十分な使用とはみなさないと推測することができる。基本的に、継続した(3年以上)使用の証拠の量に着目する商標委員会とは異なり、CIPITCは、タイにおける商標の使用の量や期間だけに頼ることはしない。逆に、他の国での使用証拠も認容するだけでなく、掘り下げた理由付けを適用し、様々な要因(当該商標の外国での登録等)を考慮するのである。商標委員会の審決を不服としてCIPITCへ抗告を行い、そこでも主張が認められない場合には、最高裁判所へ上告するという選択肢がある。ただし、すべての申請が受理されるわけではなく、多額の費用と時間がかかることにも留意すべきである。
2017年にタイはマドリッド協定議定書への加盟を行い、これに伴う国内法の改正を行った。しかし、識別力獲得に関する商標委員会やCIPITCの判断傾向は、現在のところ、これらの改正に伴う影響は受けていないようである。
タイ商標法第7条に関する直近の判例として、商標権侵害が争われた最高裁判決2766/2559号(原告:TOA Paint (Thailand) Co., Ltd. 被告:Cera C-Cure Co., Ltd.)がある。本事件では、原告が建物用ペンキ等に「Supershield」という商標を保有していたところ、被告がこれに類似する「Super-shield」という商標を使用していたため原告が商標権侵害を主張した事案である。
本事案において被告は、「Supershield」という名称は「高い保護機能を有する」程度の内容を需要者に想起させるに過ぎないと主張し、その語について原告は専用権を独占する権利を有しないと主張した。
しかしながら最高裁判所は、2006年に出願された原告商標が出願時に1984年(B.E.2527)からの使用証拠を提出していること等を考慮し、このような長期間にわたる使用の結果、原告商標は識別力を獲得していると判断し、被告の主張を退けた上で原告の請求を認めた。
本事件は法改正前から争われていた事案ではあるが、このように使用の期間が最も重視される識別性獲得判断の傾向は、法改正後もしばらく変わらないことが予想される。
タイにおける「商標の使用」と使用証拠
【詳細】
タイ商標法に基づき登録が可能な商標は、「識別性」のある商標であり、商標法に基づき禁止されていない商標、他人が登録した商標と同一または類似でない商標である。タイでは、近年、2つ以上の定義語を含む多くの独創的な商標が、商標登録を認められず、困難に直面している。これは、登録官が商標を個々の要素ごとに分解して、当該商標出願の指定商品もしくは指定役務の特徴や品質と関連づけて、識別性の欠如を理由に、商標登録を認めないためである。しかし、当該商標が使用を通じて識別性を獲得したことを出願人が証明できれば、商標登録が認められる可能性がある。
本稿では、「使用」の判断基準および使用を通じて識別性を獲得したことを証明するために必要な証拠について論述する。また、商標の使用の認定に関する知的財産局とCIPITCの異なるアプローチについても述べる。
現行のタイ商標法の正式名称は、「B.E.2543(2000 年)法律(第 2 号)により改正された B.E.2534(1991 年)10 月 28 日法律」であり、旧商標法「B.E.2534」が改正され、2000年6月30日に施行されたものである。タイ商標法の第7条によれば、識別性が欠如している商標を、通商大臣が定めた規定に従い、当該商標の指定商品および指定役務について、大々的に広告したり、使用したりした場合、その商標は識別性を獲得したとみなされることがある。
タイ商標法の第7条に加えて、2003年3月12日付商務省告示では、出願された商標を付した商品もしくは役務は、公衆が十分に商品および役務を認識できるようになるまで、継続して適切に販売もしくは宣伝をされなければならないと規定している。
タイ商標法によれば、商標は、知的財産局に出願された態様と同一の態様で、登録出願の指定商品もしくは指定役務に使用されなければならない。提出が要求される使用証拠の種類や形式は定められていない。ある商標が、指定商品もしくは指定役務に対して実際に使用されたと証明できる限り、それは使用証拠とみなされる。一般的に、使用証拠には、商標が付された製品サンプルの写真や、商標が付された出願対象商標の指定商品もしくは指定役務の宣伝広告等が含まれる。宣伝広告には、印刷媒体(新聞、雑誌)等の各種媒体を通じた宣伝ならびに放送メディア(テレビ、ラジオ、インターネット)による宣伝が含まれる。宣伝広告が公衆に広く提供されていない場合、出願人は、年間のマーケティング予算および支出に関する情報や、その他の詳細情報(売上情報の細目、利用者のレビュー、対象となるマーケットでの認知度調査等)を宣伝広告の代わりに提出することができる。
使用証拠を審査する機関は2つある。商標委員会とCIPITCである。商標の使用の判断基準に関しては、これら2つの機関は似たような見解を示している。だが、CIPITCは、通常、商標委員会に比べて寛大でビジネス寄りのアプローチを採用する。商標委員会の決定に不服がある場合には、CIPITCへ抗告することができる。また、この抗告によって、出願人が使用を通じて識別性を獲得したことの立証に成功する可能性は高くなると考えられる。
商標委員会の最近の審決を踏まえて言えば、タイにおいて商標を付した商品もしくは役務の使用、宣伝もしくは販売がなされてきた期間を出願人がはっきりと証明できない場合、商標委員会はそれを十分な使用とはみなさないと推測することができる。基本的に、継続した(3年以上)使用の証拠の量に着目する商標委員会とは異なり、CIPITCは、タイにおける商標の使用の量や期間だけに頼ることはしない。逆に、他の国での使用証拠も認容するだけでなく、掘り下げた理由付けを適用し、様々な要因(当該商標の外国での登録等)を考慮するのである。商標委員会の審決を不服としてCIPITCへ抗告を行い、そこでも主張が認められない場合には、最高裁判所へ上告するという選択肢がある。ただし、すべての申請が受理されるわけではなく、多額の費用と時間がかかることにも留意されるべきである。
現在、タイではマドリッドプロトコルに加盟するための手続きが進められており、商標の国際登録制度に期待が寄せられている。これを契機として、商標委員会には、CIPITCのように、商標の使用を判断する際に、より寛大なアプローチを採用することが期待される。