タイにおける特許審査基準(2019年版)について
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タイにおける特許制度のまとめ-実体編
1. 特許制度の特徴
タイ特許法上規定されている制度のうち、日本特許法と異なる主な点は下記の通り。
(1)タイ特許法9条に挙げられている不特許事由は、下記のように日本で規定されている不
特許事由とは異なる。
i. 自然発生する微生物およびそれらの成分,動物,植物,または動物若しくは植物か
らの抽出物
ii. 科学的または数学的法則および理論
iii.コンピュータ・プログラム
iv. 人間および動物の疾病の診断,処置または治療の方法
v. 公の秩序,道徳,健康または福祉に反する発明
(2)出願人は、他国における対応外国特許出願の審査結果を、審査結果受領から90日以内に
提出するという対応外国特許提出義務(タイ特許法27条)がある。なお、当該期間を
過ぎて提出しても実務上罰則はない。
(3)実体審査請求は出願公開日から5年である(タイ特許法29条)。
(4)分割出願(タイ特許法26条)は、審査官が出願を分割するよう求める分割指令を発出し
た後120日以内の期間のみすることができる。出願人が自発的に出願の分割を希望する
場合には、審査官に対して分割指令を発出するように上申することが可能である。
(5)出願後、出願公開までの間に初期審査(方式審査)が行なわれるが、方式的要件以外に
不特許事由に該当するか否かも審査が行われる。
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2. 発明の保護対象
(1)発明の定義
タイ特許法3条には、「『発明』とは、新しい製品若しくは製法を生み出す技術革新若しくは発明,または既知の製品若しくは製法の改良をいう。」と規定されている。
(2)保護されない発明
タイ特許法上、上記の不特許事由(9条)に該当する発明は保護されない。日本より厳しく判断されることもあり、日本で登録を受けたものであってもタイでは登録を受けることができない場合がある。
(3)その他(医薬品の扱いなど)
医薬品についても、上記の不特許事由に該当しないものであれば登録を受けることができる。
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3. 特許を受けるための要件
(1)新規性、進歩性(創造性)、実用性(産業上利用可能性、自然法則利用性)等
発明の登録要件としては、タイ特許法5条に新規性、進歩性、産業上の利用可能性の3つを満たすことが規定されている。なお、詳細は本稿では省略するが、特に新規性の要件は日本の特許法に規定される新規性の要件とは異なり国内公知である点に注意されたい。
(2)記載要件
タイ特許法17条には、記載要件として、当該技術分野において当業者が当該発明を実施及び使用することができるような完全,簡潔,明瞭かつ正確な言葉で記されていること等が規定されている。また、省令21第4条には、クレームには,保護を求める発明の特徴を,発明の詳細な説明に沿って明確かつ正確に記載しなければならないこと等が規定されている。
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4. 職務発明の取り扱い
タイ特許法11条において、職務発明は、その契約に特に定めがない限り使用者又は業務委託者に帰属するものとされている。また、タイ特許法12条には、従業者の行った発明から使用者が利益を受ける場合は,かかる従業者は,通常の賃金の他に報酬を受ける権利を有することが規定されている。
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5. 特許権の存続期間
(1)存続期間は、タイにおける出願日から20年である。
(2)特許権の存続期間の延長制度はない。
(3)審査の遅延による存続期間の延長補償はない。タイにおける審査の遅延は、2017年からの審査官の増員により、2019年7月現在徐々にではあるが解消されつつある。