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タイにおける進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)

1.記載個所
 タイにおける進歩性(タイ特許法第7条)の審査基準は、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」第1章第3部3.実体審査「3.3.4 第5条に定める実体審査」において、新規性とともに記載されている。その概要(目次)は、以下のとおりである。

3.3.4 第5条に定める実体審査
 3.3.4.4 進歩性 (Inventive step) の審査
  3.3.4.4.1 進歩性の検討基準
   進歩性が否定される方向に働く要因の検討
    先行技術の設計変更の検討
    先行技術の単なる寄せ集め
   進歩性が肯定される方向に働く要因の検討
    先行技術よりも明らかに有利な発明の技術的な効果または結果の検討
    先行技術の障害を排除する要因の検討
    進歩性に関する検討とともに行うその他の要因の検討
  3.3.4.4.2 進歩性の判断例
    化学分野における進歩性の判断例
    電気及び物理分野における進歩性の検討例
    工学分野における進歩性の検討例

2.基本的な考え方
 日本における特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「2.進歩性の判断に係る基本的な考え方」第一段落に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準」

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」では、「基本的な考え方」に該当する審査官の検討手順に関して、次のように記載されている。

 「審査官は、一つ以上のクレームに係る発明の進歩性の有無について検討をするにあたっては、新規性の検討後、クレームにおいて明瞭に記述されている発明の技術的な重要な特徴により検討を行う。」
 「審査官は、先行技術との関係を検討した上で、先行技術の中から少なくとも一件選択し、保護を求める発明の進歩性の有無を検討する(ここでは、最も近い先行技術と他の先行技術とを組み合わせることを意味する。)。このとき、進歩性の有無について最良の検討をするために、先行技術の選択について適切であるであるかどうか、理由があるかどうかを考慮する。その技術における当業者が容易に理解または想到できるかどうかという可能性に対して理由がなければならないということである。」
 「審査官はまず、クレームにある発明の技術的要旨を第一の先行技術(最も近い先行技術)と対比し、クレームが進歩性の有無に関連しうるかどうかの理由に基づいて判断し、次に、第二の先行技術(ここでは、進歩性の検討に用いるすべての先行技術)と組み合わせて、以下のように進歩性の有無に関する理由に基づいて検討する。」として、以下「進歩性が否定される方向に働く要因の検討」「進歩性が肯定される方向に働く要因の検討」が示されている。これらの検討は、実質的に日本の審査基準における「論理付け」に等しいと解される。

 また、進歩性の検討に際して、タイを指定した国際出願の審査にあたっては、国際調査報告書(International search report)の結果を活用できることが、以下のように示されている。

 「進歩性を検討する際、調査報告書(search report)の文献のカテゴリー(category)の欄にある記号の文字を参照して検討することができる。“X”であれば、当該文献(Closest prior art)のみを用いて新規性および進歩性が欠けていると判断することができる。なぜならば、その改良点あるいは相違点は、当業者にとって容易に明らかであるためである。“Y”であれば、全く改良がない、または、その改良が当業者にとって容易に明らかであることを示す、少なくとも1件の先行技術文献の技術的特徴と共に、進歩性が無いと検討する。」

3.用語の定義
3-1.当業者

 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「2.進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「当業者」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4 進歩性 (Inventive step) の審査」

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」では、「当業者」については、次のように記載されている。

 「法律に定められる、発明の進歩性の有無を検討する際のその知識または能力を検討基準とする当該技術分野における通常の知識を有する者(person having ordinary skill in the pertinent art)とは、中位あるいは平均の知識(Average skill)または専門知識を有する者である。一般的には、普段からその分野で働いている者のことを指しているが、その者は分野によって異なった知識や専門知識を有するであろう」と記載されている。また、当業者と専門家(Expert)との比較にあたっては、「(当業者は)専門家(expert)レベルに達する必要はない。これは、そのレベルの専門知識を有する者であれば、大半の発明は、容易に明らかな発明であると判断できるからである。」

3-2.技術常識及び技術水準
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「技術常識及び技術水準」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」では、「技術常識及び技術水準」に関して、日本の審査基準のように明示されていない。
 しかし、タイ特許法第6条には、新規性の判断基準として技術水準が規定されており、技術水準には「特許出願日前に国内において他人に広く知られ、又は使用されていた発明」(第1項)および「特許出願日前に国内又は外国において文書又は印刷された刊行物に記載され、展示され、その他公衆に公開された発明」(第2項)が含まれるとされている。
 また、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」によると、「広く知られ」とは、例えば、販売もしくは頒布された製品等であるとされている(第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.3.1 新規性の検討手順」)。

3-3.周知技術及び慣用技術
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「周知技術及び慣用技術」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 「3-2. 技術常識及び技術水準」を参照されたい。

 進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明、その他の留意点については「タイにおける進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」をご覧ください。

タイにおける進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)

(前編から続く)
4.進歩性の具体的な判断
4-1.具体的な判断基準

 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3. 進歩性の具体的な判断」の第3段落に記載された「(1)から(4)までの手順」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準」、および「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準 進歩性に関する検討とともに行うその他の要因の検討」

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準」の記載事項については、前編の「2. 基本的な考え方」に記載した、審査官の検討手順を参照されたい。

 さらに、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準 進歩性に関する検討とともに行うその他の要因の検討」には、次のように、審査官は海外における進歩性に関する検討手法を採用し得ることが記載されている。

 「また、進歩性の検討には様々な方法がある。例えば、欧州特許庁のProblem-Solution-Approach、英国特許庁とシンガポール知的財産庁のWindsurfing等が挙げられる。したがって、仏暦2522年(西暦1979年)特許法第7条の規定に基づいて、審査官は、これらの方法を採用して検討することが可能である。」

4-2.進歩性が否定される方向に働く要素
4-2-1.課題の共通性

 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(2)課題の共通性」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準 進歩性が否定される方向に働く要因の検討」における「(2) 課題解決が同一又は類似であること(課題の共通性:Similarity of problems to be solved)」

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」では、「課題の共通性」に関して、次のように記載されている。

 「クレームにおける重要な技術的特徴について、第一の先行技術と第二の先行技術との間で同一の技術的課題が解決されている場合、審査官は、そのクレームにおける権利の主張と異なる技術的課題解決の思考過程の違いの理由があるか検討しなければならない。思考過程の違いの理由は、その特許の出願時に当業者が容易に発明できるという動機があるかどうかを判断する際の基礎とすることができる。発明について試行錯誤の結果、第一の先行技術と第二の先行技術を共に適用することができる技術的特徴を生み出すことで発明の権利(クレーム)を主張することもあるからである。」

4-2-2.作用、機能の共通性
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(3)作用、機能の共通性」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準 進歩性が否定される方向に働く要因の検討」における「(3) 作用、機能が同一又は類似であること(作用、機能の共通性Similarity of operations or functions)」

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」では、「作用、機能の共通性」に関して、次のように記載されている。

 「クレームにおける重要な技術的特徴について、第一の先行技術と第二の先行技術との間で作用、機能が共通する場合、審査官は、主先行技術と副先行技術を共に適用することができる発明の権利(クレーム)に対し、当業者が容易に発明できる動機付けがあるという判断の根拠にすることが可能である。」

4-2-3.引用発明の内容中の示唆
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(4)引用発明の内容中の示唆」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準 進歩性が否定される方向に働く要因の検討」における「(4) 先行技術の内容中の提案や推奨 (先行技術の内容中の示唆:Suggestions shown in the content of prior art)」

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」では、「引用発明の内容中の示唆」に関して、次のように記載されている。

 「クレームにおける重要な技術的特徴について、第一の先行技術と第二の先行技術の内容中において提案や推奨があれば、当業者にとって容易に理解でき明らかであることを伝える証拠とすることができる。審査官は、第一の先行技術と第二の先行技術を共に適用することができる発明の権利の主張(クレーム)に対し、当業者が容易に発明できる動機付
けがあるというための根拠にすることが可能である。」

4-2-4.技術分野の関連性
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(1)技術分野の関連性」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準 進歩性が否定される方向に働く要因の検討」における「(1) 同じ技術分野の関連性(Relation of technical fields)」

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」では、「技術分野の関連性」に関して、次のように記載されている。

 「クレームにおける技術的要旨(クレームで主張された発明を意味する)を検討し、第二の先行技術と置換することができる、または第二の先行技術を付加することが可能であり、同じ技術分野の発明の技術的課題の解決であると判断した場合、その技術分野に基づいて決定された手段または実施によって、創作されたものが、第一の先行技術と第二の先行技術を正しく組み合わせて適用する動機付けに欠けると判断するためには、審査官は“関連性のある技術分野かどうか”という観点で対比するべきである。このことは、その発明の技術的効果または結果に、当業者が容易に発明できる動機付けへの結果があることを判断する際に重要な要因として用いることができる。」

4-2-5.設計変更
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」の「(1) 設計変更等」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準 進歩性が否定される方向に働く要因の検討」における「先行技術の設計変更の検討(Design variations of primary prior art)」

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」では、設計変更に関して、次のように記載されている。

 「クレームにおける重要な技術的特徴において、以下の(1)から(4)のとおり、第一の先行技術と権利を求める発明との間で異なってはいるものの一致している部分が生じているが、当業者が本願発明の構成要素に想到又は選択できると検討することができる特徴を有する場合、これらは、進歩性が否定される要因となる。さらに、第一の先行技術の中に、設計変更についての示唆があることは、進歩性の否定を支持する有力な要因とみなすことができる。
(1)定められた課題を解決するための公知材料の中からの最適材料の選択
(2)定められた課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化
(3)定められた課題を解決するための均等物による置換
(4)定められた課題を解決するための技術に関連する設計変更や設計選択」

4-2-6.先行技術の単なる寄せ集め
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」の「(2)先行技術の単なる寄せ集め」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準 進歩性が否定される方向に働く要因の検討」における「先行技術の単なる寄せ集め(Mere aggregation of prior art)」

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」では、「先行技術の単なる寄せ集め」に関して、次のように記載されている。

 「当業者が、先行技術の各構成要素の単なる寄せ集めだと理解できれば、全てが先行技術の単なる寄せ集めで、当業者による通常の創作によってできたと検討することができる。これは進歩性の否定を支持する重要な要因である。」

4-2-7.その他
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」と異なるタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 日本の特許・実用新案審査基準と同じく、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」には、進歩性が否定される方向に働くその他の要素については記述がない。

(2) 異なる事項または留意点
 日本の特許・実用新案審査基準と異ならない。

4-3.進歩性が肯定される方向に働く要素
4-3-1.引用発明と比較した有利な効果
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.2.1 引用発明と比較した有利な効果」の「(1) 引用発明と比較した有利な効果の参酌」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準 進歩性が肯定される方向に働く要因の検討」における「先行技術よりも明らかに有利な発明の技術的な効果または結果(Advantageous effect) の検討」

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」では、「引用発明と比較した有利な効果」に関して、次のように記載されている。

 「発明にとって有利な進歩的な結果が生じている場合、その先行技術より優れた技術的な結果または効果は、進歩性の肯定を支持するものである。審査官は、明細書、クレーム及び図面(あれば)をもとに発明の技術的な効果または結果を評価すべきである(これは、発明の技術的効果がクレーム中の構成要素を組み合わせて得られたことを意味する)。特別な重要な技術的特徴または特定の技術的特徴が明瞭に示されていなければならず、この技術的な効果または結果は、全ての先行技術の技術的結果より有利な技術的な効果や結果でなければならず、当業者の予測や期待より上回る場合、進歩性があるとみなされる。」

4-3-2.意見書等で主張された効果の参酌
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.2.1 引用発明と比較した有利な効果」の「(2) 意見書等で主張された効果の参酌」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」には、「意見書等で主張された効果の参酌」に関する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 前述「4-3-1. 引用発明と比較した有利な効果」の「(2) 異なる事項または留意点」を参照されたい。ここでは、原則として「審査官は、明細書、クレーム及び図面(あれば)をもとに発明の技術的な効果または結果を評価すべきである」とされている。

4-3-3.阻害要因
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.2.2 阻害要因」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準 進歩性が肯定される方向に働く要因の検討」における「先行技術の障害を排除する要因の検討(Obstructive factors)」

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」では、「阻害要因」に関して、次のように記載されている。

 「第二の先行技術(Secondary prior art)を第一の先行技術(Closest prior art)と共に採用するにあたり、発明の障害であった課題(まだ先行技術では解決できていない)を排除する重要な要因を検討する。権利を主張するクレームにおける各構成要素から構成され、進歩性の肯定を支持する重要な技術的特徴を有する発明について、審査官は、その技術的な結果または重要な技術的特徴を考慮し、先行発明の障害を排除する要因が生じた後に、当事者が容易に想到できるかどうかの理由が十分にあるかどうかを検討すべきことに留意する。なお、それらの要因が進歩性に関連しない場合もあるが、それは後に進歩性を否定する根拠となる。したがって、不適切な先行技術とは以下の通りである。
(1)主先行技術に対して採用されると、第一の先行技術の目的を達成することができなくなる第二の先行技術
(2)主先行技術に対して採用されると、十分に作用、機能しない原因になる第二の先行技術
(3)適用が回避されており第一の先行技術での採用はできないと判断されている第二の先行技術
(4)印刷物で先行技術の作用及び結果と関連する他の特徴が公開されているために当業者が適用しない第二の先行技術」

4-3-4.その他
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.2 進歩性が肯定される方向に働く要素」と異なるタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準」「進歩性が肯定される方向に働く要因の検討」の「進歩性に関する検討とともに行うその他の要因の検討」

(2) 異なる事項または留意点
 日本の特許・実用新案審査基準に類似する要素とは別に、審査官は、以下のような他の要素も考慮して進歩性を判断するとの記載がある。

1.発明が、当該分野の当業者が長い間解決しようと試みてきたが達成できなかった問題(Long-felt need)を解決することを目的とし、当該発明がこの問題を解決できる場合、進歩性を肯定する方向に働く一つの要素として考慮される。

例:家畜のマーキングに関する長年の課題を解決しようとする発明であって、その目的が、動物に苦痛を与えることなく、かつ動物の皮膚を傷めないマーキングを行うことにある発明。本発明は、動物に苦痛を与えることなく、また動物の皮膚に損傷を与えることなく、動物の皮膚にマーキングをすることができる「凍結焼印」の方法を用いることにより、この問題を解決することに成功した。この発明は、進歩性を有すると判断された。

2.当該分野の従事者に、他に方法がないと思わせるような誤解や誤信が一定期間存在し、当該分野の研究開発が長期にわたり欠落している場合に、発明が技術的解決策を提起し、誤解や誤信を解くことができる場合には、進歩性を肯定する方向に働く一つの要素として考慮される。

例:電動モーターの場合、整流子とカーボンブラシの間の接合面が平滑であるほど、整流子とカーボンブラシの接続が良くなり、電流が少なくなることは以前から理解されていた。その後、整流子表面にミクロンレベルの小さな溝を刻む発明が考案された。これにより、電流がより少なくなることが判明し、従来の理解が覆ることになった。この発明は、進歩性を有すると判断された。

4-4.その他の留意事項
4-4-1.後知恵
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(1)でいう「後知恵」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」には、「後知恵」に関する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 審査官は、請求項に係る発明に引きずられてしまうことのないようにするというような記載はないが、例えば、審査官の行うべき判断として以下の説明がある。

 「審査官は前記する審査基準と規則を用いて、進歩性の有無を検討しなければならない。進歩性の否定を支持する要因を評価し、第27条に基づき、補正や理由の提出を求めるために、出願人に検討した理由と共に拒絶の通知をしなければならない。また、当業者にとって容易に明らかではない、より優れた発明の効果または技術的結果を示す進歩性の肯定を支持する要因を、場合によってその他の理由と共に評価し、その発明が進歩性を有するかどうかを判断しなければならない。」(第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準」「進歩性が肯定される方向に働く要因の検討」の「進歩性に関する検討とともに行うその他の要因の検討」)

4-4-2.主引用発明の選択
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(2)でいう「主引用発明」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準」、および「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準 進歩性に関する検討とともに行うその他の要因の検討」

(2) 異なる事項または留意点
 前編の「2. 基本的な考え方」に記載した、審査官の検討手順を参照されたい。

4-4-3.周知技術と論理付け
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(3)でいう「周知技術と論理付け」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」には、「周知技術と論理付け」に関する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 前述「4-1. 具体的な判断基準」の「(2) 異なる事項または留意点」を参照されたい。

4-4-4.従来技術
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(4)でいう「従来技術」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」には、「従来技術」に関する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 前述「4-1. 具体的な判断基準」の「(2) 異なる事項または留意点」を参照されたい。

4-4-5.物の発明と製造方法・用途の発明
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の「(5) 物自体の発明が進歩性を有している場合には、その物の製造方法及びその物の用途の発明は、原則として、進歩性を有している」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第2部3.先行技術調査の要旨「3.1 内容の調査」

(2) 異なる事項または留意点
 日本の特許・実用新案審査基準のように「物自体の発明が進歩性を有している場合には、その物の製造方法及びその物の用途の発明は、原則として、進歩性を有している」ことが、直接は記載されていないが、以下の先行技術調査の手法から同様の考え方を採用していると考えられる。

 「製品に関するクレームが既に明確で、新規性及び進歩性を有すると考えられる場合、審査官又は特許調査官は、製造工程又は当該製品の使用方法のクレームについて調査を行わなくても良い。」

4-4-6.商業的成功などの考慮
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(6)でいう「商業的成功」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準 進歩性に関する検討とともに行うその他の要因の検討」における「商業的成功(Commercial success)」

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」では、「商業的成功などの考慮」に関して、次のように記載されている。

 「商業的成功(Commercial success)について、商業的成功が発明の重要な技術的特徴による場合、その発明が今までとは別の方向に予期せぬ結果を有している指標となり、その発明は進歩性の肯定を支持する要因である明瞭な重要な特徴があるといえる。ここで審査官は、商業的成功が宣伝や販売促進による成功ではなく、発明の重要な技術的特徴によるものかどうかを常に留意しなければならない。」

5.数値限定
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」には、「数値限定」に関する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第4節6.にある、(i)から(iii)までの全てを満たす場合に、審査官が、そのような数値限定の発明が進歩性を有していると判断するというような基準は、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」には記載がなく、具体的に、数値限定の発明が例外的に進歩性を有していると判断される基準については明確にされていない。

6.選択発明
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第4節「7. 選択発明」に対応するタイの「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」には、「選択発明」に関する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第4節7.にある、(i)から(iii)までの全てを満たす場合に、審査官が、そのような数値限定の発明が進歩性を有していると判断するというような基準は「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」には記載がなく、具体的に、選択発明が例外的に進歩性を有していると判断される基準については明確にされていない。

7.その他の留意点
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第1節「新規性」に記載されている、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定、およびこれらの発明の対比については、以下のとおりである。

7-1.請求項に記載された発明の認定
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準」

(2) 異なる事項または留意点
 日本の特許・実用新案審査基準のように、進歩性における発明の認定について、「請求項に記載された発明の認定は、新規性の場合と同様にして行われる」と明確には記載されていないが、「審査官は、一つ以上のクレームに係る発明の進歩性の有無について検討をするにあたっては、新規性の検討後、クレームにおいて明瞭に記述されている発明の技術的な重要な特徴により検討を行う」とあるので、日本と同じであると考えられる。

7-2.引用発明の認定
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第2部3.先行技術調査の要旨 「3.1 内容の調査」

(2) 異なる事項または留意点
 日本の特許・実用新案審査基準のように進歩性における引用発明の認定について「新規性の場合と同様にして行われる」と明確には記載されていないが、「調査においては進歩性の技術的概念を検討しなければならず、クレームの文言のみに限定してはならないが、全てを対象とするほど広範囲であってはならない。調査のために使用する内容は、当業者による明細書及び図面から検討する。」とあることから、日本と同じであると考えられる。

7-3.請求項に記載された発明と引用発明の対比
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」の第1章第3部3.実体審査 「3.3.4.4.1 進歩性の検討基準」

(2) 異なる事項または留意点
 日本の特許・実用新案審査基準のように「請求項に記載された発明と引用発明の対比は、新規性の場合と同様にして行われる」と明確には記載されていない。しかし、以下の説明から基本的には新規性における対比と同じ手法を用いると考えられる。

 「審査官は、一つ以上のクレームに係る発明の進歩性の有無について検討をするにあたっては、新規性の検討後、クレームにおいて明瞭に記述されている発明の技術的な重要な特徴により検討を行う」「審査官はまず、クレームにある発明の技術的要旨を第一の先行技術(最も近い先行技術)と対比し、クレームが進歩性の有無に関連しうるかどうか理由に基づいて判断し、次に、第二の先行技術(ここでは、進歩性の検討に用いるすべての先行技術)と組み合わせて、以下のように、進歩性の有無に関する理由に基づいて検討する。」

8.追加情報
 これまでに記載した事項以外で、日本の実務者が理解することが好ましい事項、またはタイの審査基準に特有の事項ついては、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特に記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 特に記載はない。

タイにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)

1.記載個所
1-1.目次

 新規性の審査基準は、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」第1章第3部「3.3.4 第5条に定める実体審査」において、進歩性などとともに記載されている。その概要(目次)は以下のとおり。

3.3.4 第5条に定める実体審査
 3.3.4.1 第5条に定める検討に用いられるための先行技術の規定
  3.3.4.1.1 先行技術及びその記載に関する法令及び規則
  3.3.4.1.2 先行技術の決定に適用する出願日を決定する場合の原則
 3.3.4.2 新規性及び進歩性の審査手順
 3.3.4.3 発明の新規性(Novelty)の審査
  3.3.4.3.1 新規性の検討手順
  3.3.4.3.2 新規性の検討例

1-2.日本の審査基準との対応関係
 特許・実用新案審査基準(日本)との対応関係は、概ね、以下のとおりとなる。

特許・実用新案審査基準(日本)
第III部第2章
特許及び小特許審査マニュアル(タイ)
第1節 2. 新規性の判断
第1章第3部 3.3.4.3.1 新規性の検討手順

第3節 2. 請求項に係る発明の認定
対応する記載なし(第1章第3部 3.3.4.3に関連記載あり)

第3節 3.1 先行技術
第1章第3部 3.3.4.1.1 先行技術およびその記載に関する法令および規則

第3節 3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)
対応する記載なし(第1章第3部 3.3.4.3.1(i)に関連記載在り)

第3節 3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)

対応する記載なし
第3節 3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)

対応する記載なし
第3節 3.1.4 公然実施された発明(第29条第1項第2号)
第1章第3部 3.3.4.3.1.i 発明の新規性の検討に用いられる発明と先行技術との比較の指針

第3節 3.2 先行技術を示す証拠が上位概念又は下位概念で発明を表現している場合の取扱い

第1章第3部 3.3.4.3.2 新規性の検討例
第3節 4.1 対比の一般手法
第1章第3部 3.3.4.3.1新規性の検討手順

第3節 4.2 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法

対応する記載なし
第3節 4.3 対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法

対応する記載なし
第4節 2. 作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合

対応する記載なし
第4節 3. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合

対応する記載なし
第4節 4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合

対応する記載なし
第4節 5. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合
第5章第1部 6.3 化学的又は物理的パラメータ値又は、製造工程を説明した化学製品の新規性審査

第4節 6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合
第5章第1部 6.3 化学的又は物理的パラメータ値又は、製造工程を説明した化学製品の新規性審査

2.基本的な考え方
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第1節「2. 新規性の判断」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)(タイ)第1章第3部3.実体審査 3.3.4.3.1 新規性の検討手順

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)では、新規性の検討手順が以下のとおり、日本の審査基準と比較してより具体的に記載されている。

1. 各クレームの構成要素を分節する。
2. 第1項で分類した各構成要素の範囲を決定する。
3. 最も関連性の高い先行技術における第2項に関連する構成要素の範囲を決定する。
4. 以下の原則に従って検討を行い、クレームと最も関連性の高い先行技術との間で構成要素の範囲が相違するか比較する。
 4.1 クレームの構成要素の範囲が先行技術と同一の場合、当該構成要素は相違しないとみなす。
 4.2 クレームの構成要素の範囲が先行技術より広い場合、当該組成又は構成要素は相違しないとみなすが、クレームの構成要素が先行技術より狭い場合、当該構成要素は相違するとみなす。
 4.3 クレームの構成要素の範囲が先行技術と同一及び相違の両方がある場合は、当該構成要素は相違するが、相違する部分についてのみ保護を求めることができるとみなす。
5. 構成要素全てについて先行技術と相違する部分があるかあらゆる部分を検討する。相違する部分がある場合、クレームは新規性を有するものとし、相違する部分が無い場合、クレームは新規性を欠いていると判断する。

3.請求項に記載された発明の認定
3-1.請求項に記載された発明の認定

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第一段落に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)では、請求項に記載された発明の認定に関する記載は以下のとおりである。
「審査官は、記述されている用語又は文言に常に留意しながら、権利が発生する範囲を規定するクレームにおいて保護を受けたいと希望する発明を解釈する(特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)第1章第3部3.3.4.3)。」
 しかしながら、日本の審査基準に記載されているような「請求項に記載された発明の認定」に該当する記載はない。

3-2.請求項に記載された発明の認定における留意点
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第二段落に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)に対応する記載はないが、クレームの記載と発明の詳細な説明の記載との関係について、以下の点に留意する必要がある。
 クレームには、保護を求める発明の技術的特徴を明確かつ簡潔に記載しなければならない(タイ特許法第17条(4))。また、クレームに一般的でない技術用語が記載されている場合には、その定義や説明が、発明の詳細な説明の中に明確に記載されなければならない。
 重要なことは、クレームに記載された用語が、発明の詳細な説明の用語と一致していなければならないことである。審査官は、発明の詳細な説明に一語一句の裏付けが存在しない場合、クレームの記載不備を指摘する傾向がある。
 明確性要件の詳細については、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」第1章第3部3.3.2.2に記載されている。

4.引用発明の認定
4-1.先行技術
4-1-1.先行技術になるか

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1 先行技術」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)(タイ)第1章第3部 3.発明の審査3.3.4.1 第5条に定める検討に用いられるための先行技術の規定3.3.4.1.1 先行技術およびその記載に関する法令および規則

(2) 異なる事項または留意点
 先行技術は検討する特許出願の出願日前に存在している技術であると定義されている(「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部3.3.4.1)。また、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部3.3.4.1.1において、先行技術を具体的に次のように説明している。
 タイ特許法第6条に規定されているように、先行技術とは以下の発明を意味する。

(1) 特許出願日より前に,国内で他人に広く知られていた発明又は用いられていた発明
(2) 特許出願日より前に,国内外でその主題が文書若しくは印刷物に記載されていたか,又は展示その他の方法で一般に開示されていた発明
(3) 特許出願日より前に,国内外で特許又は小特許の付与を受けていた発明
(4) 特許出願日の18月より前に外国で特許又は小特許が出願されたが,かかる特許又は小特許が付与されなかった発明
(5) 国内外で特許又は小特許が出願され,その出願が国内の特許出願日より前に公開された発明
 特許出願日前の12月間に,非合法的に主題が取得されて行われた開示,又は発明者が国際博覧会若しくは公的機関の博覧会での展示により行った開示は,(2)でいう開示とはみなされない。

 なお、日本の審査基準では「本願の出願時より前か否かの判断は、時、分、秒まで考慮してなされる」が、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には「本願の出願時より前か否かの判断は、時、分、秒まで考慮してなされる」旨に関連するような記載はない。

4-1-2.頒布された刊行物に記載された発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 刊行物公知に関して、タイ特許法第6条(2)に規定されている。しかしながら、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「頒布された刊行物に記載された発明」、「頒布」、「刊行物」、「刊行物に記載された発明」の定義に関連する記載はない。

4-1-3.刊行物の頒布時期の推定
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節3.1.1「(2) 頒布された時期の取扱い」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、刊行物の頒布時期の推定に関する記載はないが、タイ特許法第6条(2)に規定されている先行技術を証明する書類について、「特許出願人が審査のために提出した特許文献の第一頁目におけるINID CODE(43)を検討して、(審査前の)特許出願の公開日が本願の出願日前であるか、又は公開された新聞又は公開文書、学術文書等の証拠書類は、本願の出願日前に開示されたか確認する」旨が記載されている(第1章第3部3.3.4.3.1(i))。

4-1-4.電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」に関連する記載はないが、実務上、以下の留意点がある。
 出願に対して異議申立を行う場合、実務上、申立人は開示された資料を先行技術として提出することができる。開示された資料には、電気通信回線を通じて公開されたものも含まれる。ただし、そのような先行技術の場合、公開日が明確に示されていることが必要とされる。したがって、公開日が信頼できないと判断した場合、審査官は、当該先行技術を証拠として却下する。

4-1-5.公然知られた発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「公然知られた発明」の定義に関連する記載はないが、「公然知られた発明」は、「特許出願日より前に、国内で他人に広く知られていた発明」をいう(タイ特許法第6条(1))。ただし、「公然知られる状態にある発明」が「公然知られた発明」に含まれるのか否かは不明である。

4-1-6.公然実施をされた発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.4 公然実施された発明(第29条第1項第2号)」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部 3.発明の審査 3.3.4.3.1.i 発明の新規性の検討に用いられる発明と先行技術との比較の指針

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には「公然実施をされた発明」の定義に関連する記載はないが、「公然実施をされた発明」は、「特許出願日より前に、国内で用いられていた発明」をいう(タイ特許法第6条(1))。「国内で用いられていた発明」であるか否かを証明する書類として、注文書、納品書、製品の広告宣伝チラシ等が挙げられている(第1章第3部 3.3.4.3.1.i)。

請求項に係る発明と引用発明との対比、特定の表現を有する請求項についての取扱い、その他の留意事項については「タイにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(特殊技術分野を除く)後編」をご覧ください。

タイにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)

 新規性に関する特許法および審査基準の記載個所、基本的な考え方、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定については、「タイにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)」をご覧ください。

5.請求項に係る発明と引用発明との対比
5-1.対比の一般手法

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.1 対比の一般手法」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部 3.発明の審査 3.3.4.3.1新規性の検討手順

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)では、「請求項に係る発明と引用発明との対比」ついて、以下のとおり記載されている(第1章第3部 3.3.4.3.1)。

4. 以下の原則に従って検討を行い、クレームと最も関連性の高い先行技術との間で構成要素の範囲が相違するか比較する。
 4.1 クレームの構成要素の範囲が先行技術と同一の場合、当該構成要素は相違しないとみなす。
 4.2 クレームの構成要素の範囲が先行技術より広い場合、当該組成又は構成要素は相違しないとみなすが、クレームの構成要素が先行技術より狭い場合、当該構成要素は相違するとみなす。
 4.3 クレームの構成要素の範囲が先行技術と同一及び相違の両方がある場合は、当該構成要素は相違するが、相違する部分についてのみ保護を求めることができるとみなす。
5. 構成要素全てについて先行技術と相違する部分があるかあらゆる部分を検討する。相違する部分がある場合、クレームは新規性を有するものとし、相違する部分が無い場合、クレームは新規性を欠いていると判断する。

 また、新規性の判断における「審査官は、独立した二以上の引用発明を組み合わせて請求項に係る発明と対比してはならない」に関連する記載として、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「・・・最も関連性の高い先行技術の一つを選んで、全ての発明の構成要素または工程との比較を実行し、先行技術において全ての本質な内容が開示されているかどうか検討する(第1章第3部 3.3.4.3)」と記載されており、独立した二以上の先行技術を組み合わせて対比を行うことはない。

5-2.上位概念又は下位概念の引用発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.2 先行技術を示す証拠が上位概念又は下位概念で発明を表現している場合の取扱い」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部 3.発明の審査 3.3.4.3.1新規性の検討手順、3.3.4.3.2 新規性の検討例

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)では、「上位概念又は下位概念の引用発明」ついて、以下のとおり記載されている(第1章第3部 3.3.4.3.1)。

 4. 2 クレームの構成要素の範囲が先行技術より広い場合、当該組成又は構成要素は相違しないとみなすが、クレームの構成要素が先行技術より狭い場合、当該構成要素は相違するとみなす。

 なお、タイの審査基準では、「技術常識を参酌することにより、下位概念で表現された発明が導き出される場合には、審査官は、下位概念で表現された発明を引用発明として認定することができる」か否かは不明である。
 新規性の検討例(第1章第3部3.3.4.3.2)として、「先行技術として開示されている化合物の化学式が、特許出願された発明のクレームにある化学式より広い場合、範囲の広い化学式はより範囲の狭い化学式の新規性を損なわないため、当該発明の化学式は新規性を有するとみなされる。他方、先行技術として開示されている化合物の化学式が特許出願された発明のクレームにある化学式より狭い場合、狭い化学式はより広い化学式の新規性を損なうため、当該発明の化学式は新規性に欠けているとみなされる。」旨が紹介されている。

5-3.請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.2 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「請求項に係る発明の下位概念に、発明の詳細な説明又は図面中に請求項に係る発明の実施の形態として記載された事項がある場合、実施の形態とは異なるものも、請求項に係る発明の下位概念である限り、対比の対象とすることができる」旨に関連する記載はみあたらない。

5-4.対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.3 対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

6.特定の表現を有する請求項についての取扱い
6-1.作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「2. 作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

6-2.物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「3. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、用途発明に関連する記載はみあたらない。しかしながら、実務上、医薬品の技術分野において、公知物質の第2医薬用途に基づく医薬品の発明は、医薬品が公知物質であるという理由により、審査官は発明の新規性を否定する。

6-3.サブコンビネーションの発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

6-4.製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「5. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第5章第1部6.化学分野の新規性審査 6.3化学的又は物理的パラメータ値又は、製造工程を説明した化学製品の新規性審査

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「製造工程の特徴を説明した化学製品をクレームとした場合、新規性の審査では、・・・得られた製品から審査を行う。・・・説明された製造工程が、製品の明確に特別な新規の構造又は組成物を生み出すかどうかを検討しなければならない。当業者が、前述の工程が参照文献に開示された製品と異なる構造及び/又は組成物を生み出すと結論づけることができる場合、当該クレームは新規性があるとみなされる。一方、出願人が、当該製品の構造及び/又は組成物が変化したことを示す、当該工程における従来製品とは異なる構造及び/又は組成物を有する製品を生みだす、又は異なる能力を持つ製品を生み出すことを証明できない場合、製造工程が異なる場合であっても、出願する製品が参照文献で開示された製品と比較して、構造的に又は組成において相違がなければ、当該製品は新規性を有するとはみなされない。」旨が記載されている(第5章第1部 6.3.1)。

6-5.数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ) 第5章第1部6.化学分野の新規性審査 6.3化学的又は物理的パラメータ値又は、製造工程を説明した化学製品の新規性審査

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)では、「既に説明したパラメータ値について、出願する製品と参照文献に開示された製品のパラメータ値を説明することが不可能で、又、双方の製品の間に違いを見つけることができない場合、出願する製品は新規性がないと結論づけることができる。」旨が記載されている(第5章第1部 6.3.1)。
 なお、タイの審査基準では、「請求項に係る発明の数値範囲が引用発明の数値範囲に含まれる場合」や、「引用発明が数値範囲の構成を含まない場合」に関連する記載は、見つけられない。

7.その他
7-1.特殊パラメータ発明

 特許・実用新案審査基準(日本)には特殊パラメータ発明に関する記載はないが、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)にも、特殊パラメータ発明に関する記載はない。

7-2.留意点
 実務上、優先権主張を伴う特許出願等の対応する外国出願がある場合、出願人は、対応する外国出願に対して付与された特許(対応特許)の特許文献とその審査書類 (審査報告書、意見書、拒絶理由通知) を提出する必要がある。その際、特許を受けるために、タイ特許出願の係属中のクレームを、対応特許の特許クレームにあわせるよう補正する必要がある。
 なお、審査官が提出された対応特許の審査結果が信頼できないと判断した場合、さらに調査を行うことができる。
 一方、タイ特許出願に対応する外国出願がない場合、審査官は、出願人に対し、オーストラリア特許庁またはタイ行政機関のいずれかによって行われる新規性および進歩性に関する調査請求を命令するオフィスアクションを発行する(「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部3.2.1.2および3.2.2)。