シンガポールにおける特許無効手続に関する統計データ
シンガポール特許法第82条(1)は、特許の有効性を争点とすることができる以下の手続を規定している。
(a) 特許権侵害訴訟における抗弁、または特許出願の公開により付与された権利の侵害手続における抗弁。
(b) 根拠のない脅迫に関する訴訟。
(c) 非侵害の宣言を求める手続。
(d) 取消手続。
(e) 政府の使用について争う訴訟。
さらにシンガポール特許法第82条(2)は、他のいかなる手続においても特許の有効性を争点とすることはできないこと、特に、特許法またはその他の法律に基づくかを問わず、特許の有効性または無効性に関する宣言のみを求めるいかなる手続も提起することはできないことを規定している。
1. 特許の有効性を争点とする事件の件数
シンガポール特許法は、それぞれの手続をどこに提起すべきか規定している。例えば、特許権侵害訴訟は高等裁判所に提起しなければならないことが規定されている。ただし、Sun Electric Pte Ltd v Sunseap Group Pte Ltd [2017] SGHC 232事件において、裁判官は、侵害訴訟における反訴により特許を取り消すことのできる第一審管轄権は高等裁判所にはないと判示した。
2007年から2015年にシンガポール知的財産庁に提起された取消請求に関する統計データが、シンガポール知的財産庁のウェブサイトに公表されている。公表されたデータによれば、シンガポール登録局に提出された取消請求は2016年に1件あったが、2017年(10月現在)にはなかった。
高等裁判所に提起された特許の有効性を争点とする訴訟の件数に関して、公式の統計データは公表されていない。本稿の報告は、侵害訴訟で特許の有効性を争点とする、2007年から現在までに公表された判決に基づくものである。
2007年から2017年(10月)までの特許の有効性を争点とする手続の件数に関する統計データを以下に示す。
登録局および裁判所に提起された有効性を争点とする手続の件数
2. 完全または一部無効
取消請求において特許が部分的に無効と認定された場合、登録官は、登録官が満足するように特許明細書を補正するよう命令することができる。この命令が遵守されない場合、または登録官が満足するように補正されない場合、登録官は当該特許を取り消すことができる(シンガポール特許法第80条(5))。
Sun Electric Pte Ltd v Sunseap Group Pte Ltd [2017] SGHC 232事件において、裁判官は、特許権侵害訴訟における抗弁により、侵害されたと主張されているクレーム(係争クレーム)のみの有効性を争点にできるという見解を示した。同様のことが、根拠のない脅迫の反訴についても当てはまる。
一部無効を求める手続と完全無効を求める手続の件数および比率は、以下のとおりである。
一部無効と完全無効を求める手続の件数および比率
3. 請求人および特許権者の国籍
公表されたデータに基づく、請求人および特許権者の国籍は以下のとおりである。
請求人および特許権者の国籍
4. 無効に関連する手続の結論
公表されたデータに基づく、登録局または裁判所による有効性に関する結論の統計は以下のとおりである。
有効性に関する結論の統計
*控訴裁判所への上訴において、高等裁判所による無効認定が覆された事件が1件ある。
**高等裁判所への上訴において、登録局による無効認定が覆された事件が2件ある。
5. 決定の理由
シンガポール特許法第82条(3)の規定に従い、あらゆる手続において特許の有効性を争点とするために提起できる理由は、シンガポール特許法第80条(1)に定められた以下の理由のみである。
(a) 当該発明に特許性がない。
(b) 当該特許権は付与を受ける権限のない者に付与された。
(c) 特許明細書の記載が不十分である。
(d) 新規事項の追加。
(e) 当該特許または特許出願に対して、認められるべきではなかった補正または訂正が行われた。
(f) 当該特許は、不正行為または不実表示、もしくは所定の重要な情報の不開示または不正確な開示により取得された。
(g) 二重特許。
公表された決定および判決に基づき、特許が無効と認定された根拠の内訳は以下のとおりである。
特許が無効と認定された根拠の内訳
*特許無効の理由が複数存在する可能性があり、特許性の欠如および不十分な記載を理由に係争特許が無効と認定された事件が2件あった。
**高等裁判所による特許性の欠如の認定が控訴裁判所により覆された事件が1件ある。
***登録局による無効認定が高等裁判所への上訴で覆された事件が2件ある。
発明に特許性がないことを理由に特許が無効と認定された事件の内訳は以下のとおりである。
特許性欠如を理由に特許が無効と認定された事件の内訳
*各事件において特許性の欠如に関する争点が複数存在する可能性があり、登録局により審理された1つの事件において、係争特許は新規性および進歩性が欠如していると判断された。
**高等裁判所により特許性がないと判断された3件すべてにおいて、係争特許は新規性および進歩性が欠如していると判断された。
6. 手続の所要期間
手続の所要期間に関するデータは存在しないが、事件の複雑さに応じて、特許訴訟に要する期間は約2‐4年である。
7. 司法審理および上訴
登録局の決定または裁判所の判決に対する上訴の件数および比率は、以下のとおりである。
登録局の決定または裁判所の判決に対する上訴の件数および比率
8. 他の統計データ
公表された決定および判決に基づく、有効性を争点とする手続の種類は以下のとおりである。
有効性を争点とする手続の内訳
*特許訴訟の過程において複数の手続が提起される可能性がある。例えば、特許権侵害訴訟において、被告は抗弁により、さらに同時に根拠のない脅迫の反訴により、特許の有効性を争点とすることができる。
**Sun Electric Pte Ltd v Sunseap Group Pte Ltd [2017] SGHC 232事件(控訴係属中)の判決以降は、第一審の高等裁判所において取消の反訴を提起することはできない。