シンガポールにおける特許制度のまとめ-手続編
1.出願に必要な書類
シンガポールでは特許出願時の手続の方法が「特許方式マニュアル(Patents Formalities Manual)」にまとめられており、必要な書類は「特許様式」として定められている。
・特許付与申請時-「特許様式1(Patents Form1)」を使用(特許方式マニュアル2.1.2)
必要書類は、明細書、クレーム、要約、図面および配列リスト(あれば)である(特許方式マニュアル2.1.1項を参照)。
・シンガポールでのPCT国内段階への移行時-「特許様式37」を使用(特許方式マニュアル3.1.3)
原出願の言語が英語の場合、提出が必要な書類はない。
英語以外の言語による出願の場合、明細書、クレーム、要約の英語翻訳および翻訳の確認書(特許方式マニュアル3.4.1参照)の提出が必要である。必要な文書の詳細は、特許方式マニュアル3.4に記載されている。
関連記事:「シンガポールにおける特許出願制度概要」(2019.7.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17577/
関連記事:「シンガポールの特許関連の法律、規則、審査基準等」(2021.5.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/19849/
2.記載が認められるクレーム形式
(1) 認められるクレーム形式
シンガポールの法律は、特許性のある発明のリストを提供しておらず、特許性に対する特定の限定的な除外のみを提供している。特許法第13条(1)は、特許性のある発明は、新規性、進歩性、および産業上の利用可能性の基準を満たす発明であると述べている。
製品の構造、組成、または、製造または製造方法以外の手段を参照して、製品を正確に説明できない場合は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームが許可される(特許審査ガイドライン2.72~2.75を参照)。
ソースコードに加えて、技術的特徴を有するソフトウエアに対するクレームは許可されている(特許審査ガイドライン8.34(f)を参照)。
(2) 認められないクレーム形式
許可されないクレームには、発見、科学理論と数学的方法、美的創造、精神的行為または計画、および情報の提示に関連するものが含まれる(特許審査ガイドライン8.9~8.34)。ただし、このリストはすべてを網羅しているわけではない。
さらに、医療の方法は特許法第16条「産業上の利用」(2)に規定されている除外項目であるため、医療の方法のクレームは許可されない。
また、特許法第13条(2)では、公開や活用を通じて、攻撃的、不道徳、または反社会的行為を助長すると一般に予想される発明は特許性がないとされる。
関連記事:「シンガポールにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務」(2017.5.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13683/
3.出願の言語
英語のみが出願言語として認められる。英語以外の言語の場合は、2か月以内に証明付き英訳文を提出する必要がある。(シンガポール特許方式マニュアル2.2.40)
4.グレースピリオド
出願の前に発明が開示されている場合、通常、新規性は失われているとみなされる。ただし、特許法第14条(4)に基づき、出願日から12か月前のグレースピリオドの期間内に、発明者によって直接的にまたは間接的に行われた発明の開示は、新規性を評価する目的において除外される。除外されるための特定の条件は、前記第14条で説明されている。
直接の国内出願またはパリ条約出願の場合、「出願日」はシンガポールでの特許出願の実際の出願日を指す(もしあったとしても、最も早い優先権主張日ではない)。PCT国際出願の国内移行出願の場合、国内段階の出願に割当てられる「出願日」は国際出願日となる。
法改正の施行日は2017年10月30日であるため、第14条(4)(e)に基づく現行の規定が適用されるためには、開示が同施行日以降になされたものでなければならない。
関連記事:「シンガポールにおける特許新規性喪失の例外」(2019.9.05)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17678/
5.審査
(1) 実体審査
実体審査には3つの主要なルートがある。第1は、出願人が、調査と審査を組み合わせて請求をする。第2は、出願人が、対応する出願、対応する国際出願または関連する国内段階出願の調査結果に基づいて審査請求をする。第3は、出願人が、シンガポール出願の元となるPCT国際出願の調査結果に基づいて審査請求をする。ただし、出願が特許法第86条(3)に基づいてシンガポールで国内段階に入った国際出願である場合にのみ適用される。(特許法第29条(b)および(c))。
(2) 早期審査(優先審査)
ASEAN特許審査協力(ASPEC)、特許審査ハイウェイ(PPH)およびシンガポール知財ファーストトラック(SG IP Fast Track)を介して、早期審査を請求できる(特許様式11)。ASPECはインダストリー4.0の特許出願を優先し、最初のオフィスアクションが6か月以内に発行される。また、シンガポールIPファーストトラックでは、最短6か月以内に登録される(特許法式マニュアル7.1-7.2、7.4)。
詳細については次のURLを参照のこと。
https://www.ipos.gov.sg/about-ip/patents/how-to-register/acceleration-programmes
(3) 出願を維持するための料金:不要
関連記事:「シンガポールの庁指令に対する応答期間」(2019.10.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17826/
関連記事:「シンガポールにおける特許審査ハイウェイ(PPH)の利用」(2016.1.19)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/10214/
関連記事:「シンガポールにおける特許審査基準関連資料」(2016.2.9)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/10279/
関連記事:「シンガポールのファストトラックプログラム(早期審査制度)」(2022.5.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/23381/
6.出願から登録までのフローチャート
出願から登録までの特許出願のフローチャート(特許方式マニュアルp34(図1 国内出願)、p45(図2 国内移行)参照)
出願人は、調査および審査について、①調査の請求後、実体審査の請求、②調査および実体審査の同時請求、③所定の特許庁に行われた対応外国出願またはPCT出願の調査結果に基づく実体審査の請求の3つのオプションから1つを選択できる(特許法第29条(1))。
①の場合、出願人に調査報告書が送付され、出願人はこれを基に審査請求を行う。その結果、書面による審査官の見解が送付され、出願人は、通知から5か月以内に補正等により応答することができる(特許規則46(4))。
②の場合、出願人に調査報告書および書面による審査官の見解が送付され、①と同様に、出願人は、通知から5か月以内に補正等により応答することができる。
③の場合、出願人に書面による審査官の見解が送付され、①と同様に、出願人は、通知から5か月以内に補正等により応答することができる。
審査官は上記の応答に基づいて審査報告書を作成し、登録官は、審査報告書または補充審査報告書が未解決の拒絶理由を含む場合には、特許出願を拒絶する旨の通知(Notice of Intention to Refuse)を発行する(特許法第29A条(3))。
出願人は、特許出願を拒絶する旨の通知を受けた場合、再審理(review of examination report)を請求できる(特許法第29A条(4))。再審理の請求は、通知の日から2か月以内に拒絶理由を覆すための書面を提出し、明細書の補正を含めることができる(特許法第29B条(1)~(4)、特許規則46A(2))。
再審理でも拒絶理由が解消されない場合、出願拒絶の通知(Notice of Refusal of application、日本の拒絶査定に相当)が発行される(特許法第29B条(5)(b)(ii))。
図1 シンガポール国内出願フロー
図2 国際出願シンガポール国内移行フロー
関連記事:「シンガポールにおける特許出願制度概要」(2019.7.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17577/
[権利設定前の争いに関する手続]
7.拒絶査定に対する不服
シンガポール知的財産庁(以下、「IPOS」という。)には登録官の拒絶査定を不服とする査定不服審判制度はない。
なお、以下の9.にしめすとおり、裁判所への上訴は可能である。
8.権利設定前の異議申立
書面による意見で提起された拒絶査定に対して異議申立する制度はないが、2021年9月13日の改正により「第三者情報提供制度(Third Party Observations)」が導入され、第三者が係属中(出願公開後特許付与前)の特許出願に対し、その特許性についての情報を公式に提供できる(特許法第32条、特許規則45A、特許法式マニュアル6.5)。
9.上記7.の判断に対する不服申立
登録官の決定に不服がある場合、裁判所へ上訴することができる(特許法第90条)。
[権利設定後の争いに関する手続]
10.権利設定後の異議申立
シンガポールでは、特許出願または登録特許に対する異議申立の制度はない。
11.設定された特許権に対して、権利の無効を申立てる制度
a)無効申立が可能な者
何人も、シンガポール特許法第80条(1)に記載のいずれかの理由により、IPOSに対して発明の特許の無効化または取消しを求める申立てを行うことができる。
b)時期および手順(特許法第83条、特許規則80-85、88、88B)
特許の無効を求める申請書(特許様式35)は、特許付与日以降いつでも提出可能であり、申請理由の陳述とともに提出する必要がある。申請書を提出する場合、申請書および申請理由の陳述の両方のコピーを特許権者に送付する。特許権者は、申請に異議を唱える場合、3か月以内に反論文(様式HC6)を提出しなければならず、そのコピーを申請者に送付する(特許規則80)。IPOSは、反論を受け取った後、最初の事件処理会議を開催し、事件処理の実施方法を議論する。申請者は、反論を受け取ってから3か月以内に申請を裏付ける証拠を示す法定宣言書を提出し、権利者にコピーを送付する。権利者は、申請者の法定宣言書を受け取ってから3か月以内に特許付与を裏付ける証拠を示す法定宣言書を提出し、同時に写しを申請者に送付する。その後2回目の事件処理会議が開催され、事件処理の進め方について議論する。必要に応じて、登録官は、指示の日から2か月以内に再審査を要求するように再審査請求(特許様式36)の提出を指示することができる。再審査が請求された場合、再審査報告書に照らし、3回目の事件処理会議が開催される。聴聞が行われる場合があり、その場合、聴聞の決定に対して不服がある場合、決定後6週間以内に上訴することができる。
関連記事:「シンガポールにおける特許無効手続に関する統計データ」(2018.2.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/14561/
12.特許付与後の再審査請求制度
特許が付与された後、いつでも、特許の明細書の再審査を登録官に依頼することができる。提起された取消申請に正当な理由がある場合、登録官は特許を取り消すことができる。(特許法第38A条、特許規則第52A)
13.権利設定後の権利範囲の訂正
権利者は特許様式17とともに訂正の理由をサポートする文書を提出することにより、特許の付与後に明細書を訂正することができる。訂正を行う場合には、訂正に至る状況およびそれを裏付ける証拠を含む訂正の理由を完全に説明する十分な証拠を提出する必要がある。なお、訂正の申請に不当な遅延が認められる場合、権利者は修正が遅れた理由を提出することを求められる(特許方式マニュアル9.3)。
訂正の承認は、登録官による裁量権の行使に依存する。訂正申請は、2か月間、異議申立のために公示される。登録官は通常、第三者から異議が申立てられていない場合、訂正を許可する裁量権を行使する(特許法第38条、特許規則52)。
ただし、特許の有効性が争点となる可能性のある手続が裁判所または登録官の下で係属中である場合、上記手続による訂正は許可されない(特許法第38条(2))ので、特許法第83条に基づいて訂正を行う必要がある。
14.その他の制度
補充審査ルートは、2020年1月1日以降の出願日を有する特許出願では利用できなくなった。
日本とシンガポールにおける特許審査請求期限の比較
1.日本における審査請求期限
日本においては、審査を受けるためには出願審査請求を行う必要がある。出願審査請求は出願の日から3年以内に行うことができ、この期限内に出願審査請求がされない場合は、正当な理由があるものを除き、その特許出願は取り下げられたものとみなされる。
出願が国内優先権の主張を伴う場合や、パリ条約による優先権の主張を伴う場合においても、請求期間の起算日は実際に特許出願がされた日である。
PCTルートの場合は、国内書面を提出し、手数料の納付を行った後(外国語特許出願である場合はさらに翻訳文を提出した後)でないと、出願審査請求をすることができない(特許法第184条の17)。
なお、審査請求は出願人だけでなく、第三者も行うことができる。(特許法第48条の3第1項)。
条文等根拠:特許法第48条の2、第48条の3第4項、特許法施行規則第31条の2第4項、特許法第184条の17
日本特許法 第48条の2 特許出願の審査
特許出願の審査は、その特許出願についての出願審査の請求をまって行なう。
日本特許法 第48条の3 出願審査の請求
特許出願があったときは、何人も、その日から3年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。
2 第44条第1項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第46条第1項もしくは第2項の規定による出願の変更に係る特許出願または第46条の2第1項の規定による実用新案登録に基づく特許出願については、前項の期間の経過後であっても、その特許出願の分割、出願の変更または実用新案登録に基づく特許出願の日から30日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。
3 出願審査の請求は、取り下げることができない。
4 第1項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかったときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす。
5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、第1項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をすることができなかったことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、出願審査の請求をすることができる。
6 前項の規定によりされた出願審査の請求は、第1項に規定する期間が満了する時に特許庁長官にされたものとみなす。
7 前3項の規定は、第2項に規定する期間内に出願審査の請求がなかつた場合に準用する。
8 第5項(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定により特許出願について出願審査の請求をした場合において、その特許出願について特許権の設定の登録があつたときは、その特許出願が第4項(前項において準用する場合を含む。)の規定により取り下げられたものとみなされた旨が掲載された特許公報の発行後その特許出願について第5項の規定による出願審査の請求があつた旨が掲載された特許公報の発行前に善意に日本国内において当該発明の実施である事業をしている者またはその事業の準備をしている者は、その実施または準備をしている発明および事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有する。
日本特許法施行規則 第31条の2第4項
4 特許法第48条の3第5項(同条第7項において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の経済産業省令で定める期間は、同条第5項に規定する正当な理由がなくなった日から2月とする。ただし、当該期間の末日が同条第1項に規定する期間(同条第7項において準用する場合にあっては、第2項に規定する期間。以下この項において同じ。)の経過後1年を超えるときは、同項に規定する期間の経過後1年とする。
日本特許法 第184条の17 出願審査の請求の時期の制限
国際特許出願の出願人は、日本語特許出願にあっては第184条の5第1項、外国語特許出願にあっては第184条の4第1項または第4項および第184条の5第1項の規定による手続をし、かつ、第195条第2項の規定により納付すべき手数料を納付した後、国際特許出願の出願人以外の者は、国内書面提出期間(第184条の4第1項ただし書の外国語特許出願にあっては、翻訳文提出特例期間)の経過後でなければ、国際特許出願についての出願審査の請求をすることができない。
2.シンガポールにおける審査請求期限
改正特許法が施行された2014年2月14日以降になされた、シンガポール出願、シンガポール国内移行および分割出願を前提として以下に説明する。
シンガポールにおいては、審査を受けるためには出願審査請求を行う必要がある。シンガポールでは調査および審査請求の内容およびタイミングにより、以下の(i)~(ⅳ)の4つの審査請求オプションがあり、それぞれについての審査請求期間を以下に示す(特許法第29条(1)(b)~(d)、(3)、特許規則38(1)、43(1)~(3))。
<シンガポールにおける審査請求オプションと審査請求期限>
(i)シンガポールで調査請求を行い、その後審査請求→優先日から36か月(特許法第29条(3)、特許規則43(1))(調査請求は優先日から13か月、特許法第29条(1)(a)、特許規則38(1))
ただし、審査請求期限前1月以内に登録官が出願人に調査報告を送付した場合には、同調査報告を伴った登録官の通知の日から1月を特許法第29条(3)に基づく審査請求期間とする(特許規則43(2))
(ⅱ)シンガポールで調査と審査を同時に請求→優先日から36か月(特許法第29条(1)(b)、特許規則43(1))
(ⅲ)他国の調査結果に基づきシンガポールで審査→優先日から36か月(特許法第29条(1)(c)、特許規則43(1))
(ⅳ)対応国の審査結果に基づく補充審査*1→優先日から54か月(特許法第29条(1)(d)、特許規則43(3))[本条項による「補充審査」は2020年1月1日以降の出願には適用されない]
ここで、審査請求期間の起算日は、優先権主張を伴う場合には優先日、優先権主張を伴わない場合にはシンガポール出願日である(特許規則38(1)、43(1)および(3))。また、分割出願の場合には、優先権主張を伴う場合には優先日、優先権主張を伴わない場合にはその分割出願の出願日である(特許規則43(3)(b))。上記前提の下、日本の読者の便宜のため、ここでは「優先日」を起算日として記載した。優先権主張を伴わない場合には、「出願日」と読み替える。
また、延長費用の支払いにより(i)~(ⅳ)全てについて審査請求期限の延長が可能である(特許規則108(4)(a)、同(7))。
期間内に審査の請求がなかったときは、特許出願は放棄されたものとみなす(特許法第29条(12)、(13))。
また、実体審査請求を行うことができるのは、出願人のみである(特許法第29条(1)、(3))。
条文等根拠:特許法第29条(1)(a)~(d)、(3)、(12)、(13)、特許規則38(1)、43(1)~(3)、108(4)、(7)
シンガポール特許法 第29条 調査および審査
(1)特許出願(本項において「当該出願」という)に係る出願人は、所定の期間内に、以下の項のうちの1つに従うこと。
(a)調査報告書を求める所定の様式の請求書を提出する。
(b)調査および審査報告を求める所定の様式の請求書を提出する。
(c)出願人が下記に示す最終的な結果を依拠する場合、所定の様式で審査報告を求める所定の書類と請求書を提出する。
(i)対応出願、対応する国際出願または関連する国内段階出願における調査、若しくは
(ii)国際段階の当該出願の調査
(当該出願が第86条(3)に基づいてシンガポールで国内段階に移行した国際出願である場合)
(d)(11A)に従うことを条件として、所定の様式で補充審査報告を求める所定の文書と請求書を提出する。ただし
(i)出願人が以下の最終的な報告に依拠する場合、特許出願がすべての方式要件を満たしている場合は、登録官は、出願人に通知する。
(A)対応する出願、対応する国際出願または関連国内段階出願の実体の調査および審査、もしくは
(B)国際段階における当該出願の実体の調査および審査(当該出願が第86条(3)に基づいて国内段階に移行した国際特許出願(シンガポール)である場合)
(ii)当該出願における各クレームが、少なくとも対応する出願、対応する国際出願または関連する国内段階出願若しくは国際段階における当該出願におけるクレームの1つに関連する。
および
(iii)これらの結果により、当該出願における各クレームが新規性、進歩性(または非自明性)、産業上の利用可能性(または有用性)の要件を満足する。
(2)出願人が(1)(a)に従う場合、登録官は-
(a)当該出願を審査官に調査させ、かつ、
(b)審査官が作成した調査報告書を受領したときは,当該調査報告書の写しを出願人に送付する。
(3)登録官は(2)(b)に基づき調査報告を受領したとき、審査報告を求める所定の様式の請求書を提出する。
(略)
(11A)(1)(d)および(10)(b)は,次の場合を除いて適用されない。
(a)当該出願が第20条(3)、第26条(11)または第47条(4)にいう新規出願である場合-当該出願の実際の出願日が所定の日より前である、または
(b)その他の場合-当該出願の出願日が所定の日より前である。
(12)以下の場合、出願は放棄されたものとして扱われる。
(a)(13)に従うことを条件として、出願人が次の1つを行わなかった場合、
(i)(1)の(b)、(c)もしくは(d)における所定の期間内に従うこと。
(ii)(3)が適用される場合、その項に従うこと。
(b)(10)が適用される場合において、出願人が(10)(b)に規定する所定の期間内に、(1)(d)に基づく補充審査の請求を行わなかった場合、または
(c)(11)が適用される場合において、出願人が(1)(b)に基づく調査および審査報告の請求、または(11)(b)に規定する所定の期間内に(1)(c)に基づく審査報告の請求を行わなかった場合。
(13)(a)登録官から(2)(b)に基づき調査報告を受け取った後、出願人が(3)に従いその項に規定する期間内に審査報告を求める請求を行わなかった後、および
(b)改正特許法2017の第3(f)条の開始日前、若しくは開始後3か月以内に、(3)に規定する期間延長の請求を提出する期間が満了する時、
出願人が、その日から6月以内に(3)に基づく審査報告の請求を行わなかった場合、出願は、放棄されたものとして扱われる。
シンガポール特許規則38 調査報告請求書の提出に係る期間
(1)第29条(1)(a)に基づく請求提出の所定の期間は、次のとおりとする。
(a)当該出願に宣言された優先日が記載されていない場合は、出願日から13月、または
(b)当該出願に宣言された優先日が記載されている場合は、当該宣言された優先日から13月
シンガポール特許規則43 調査および審査報告の請求、審査報告の請求または補充審査報告の請求*1の提出期間
(1)(2)に従うことを条件として、第29条(1)(b)に基づく調査および審査報告の請求または第29条(1)(c)若しくは(3)に基づく審査報告の請求の提出についての所定の期間は、
(a)(b)に従うことを条件として、
(i)出願の宣言された優先日、若しくは
(ii)宣言された優先日が存在しない場合は当該出願の出願日、
から36月、または
(b)第20条(3)、第26条(11)または第47条(4)に基づいて新規出願が行われる場合は、当該新規出願が実際に出願された日から36月とする。
(2)(1)(a)または場合により(b)にいう所定の期間の満了前1月以後に、登録官により第29条(2)(b)に基づいて調査報告の写しが出願人に送付される場合は、第29条(3)に基づく審査報告の請求の提出についての所定の期間は、第29条(2)(b)に基づく調査報告の写しを送付する登録官書簡の日付から1月とする。
(3)第2条(1)(d)に基づく補充審査報告の請求の提出についての所定の期間は、次のとおりとする。
(a)(b)に従うことを条件として、
(i)当該出願の宣言された優先日、もしくは
(ii)宣言された優先日が存在しない場合は当該出願の出願日、
から54月、または
(b)第20条(3)、第26条(11)または第47条(4)に基づいて新規出願が行われた場合は、新規出願が実際に出願された日から54月
(4)第29条(11A)(a)および(b)の所定の日は2020年1月1日
シンガポール特許規則108 期限の延長一般
(1)-(3) (略)
(4)次の何れかの規則に定める期日または期間については、延長の求められる期日または期間の最初の満了後18月以内に特許様式45の提出があった場合は、延長の求められる期日または期間の最初の満了直後に始まる計18月を超えない期間で延長される。
(a)規則18(1)、規則19(11)、規則26(2)、規則28(f)、規則34(1A)、規則38、規則42(3)、規則43、規則47(1)、規則86(1)、(6)、(8)若しくは(8A)、または
(b)規則26(3)(規則26(4)(a)および(b)に定める書類の提出に関する場合に限る)
(5)、(6) (略)
(7)(a)登録官から第29条(2)(b)に基づく調査報告を受け取った後、審査請求するための規則43(1)もしくは(2)(どちらか適用可能な方)に規定する期間内に、第29条(3)に基づく審査報告の請求を出願人が行わなかった後、および
(b)2017年10月30日より前もしくは3月以内に満了する期間延長の様式45の提出に対する(4)に規定する期間、
その日から6月、様式提出に関する(4)の期間は延長される。
◆日本の基礎出願に基づく優先権を主張しシンガポールに出願した場合には、以下のようになる。
日本とシンガポールにおける特許審査請求期限の比較
|
日本 |
シンガポール |
提出期限 |
3年 |
シンガポールで審査 (36か月)
|
基準日 |
日本の出願日 |
優先権を伴う場合には、 シンガポール出願日では なく、日本の基礎出願日 |
審査請求できる者 |
出願人または第三者 |
出願人のみ |
*1:2017年10月30日付けで改正された特許法により、2020年1月1日以降の出願から補充審査は利用できなくなった。(シンガポール特許法第29条(11A)、およびシンガポール特許規則43(4))。
シンガポールにおける特許制度のまとめ-手続編
1. 出願に必要な書類
シンガポールでは特許出願時の手続の方法が「シンガポール特許方式マニュアル」にまとめられており、必要な書類は「特許様式」として定められている。
・特許付与申請時-「特許様式1/8」を使用
必要書類:明細書、クレーム、要約、図面、配列リスト(あれば)(シンガポール特許方式マニュアル2.1.1項を参照)。
・シンガポールでのPCT国内段階への移行時-「特許様式37」を使用
原出願の言語が英語の場合、提出が必要な書類はない。
英語以外の言語による出願の場合、明細書、クレーム、要約の英語翻訳および翻訳の確認書(特許方式マニュアル3.4.2参照)の提出が必要である。必要な文書の詳細は、特許方式マニュアル3.4に記載されている。
関連記事:「シンガポールにおける特許出願制度概要」(2019.7.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17577/
関連記事:「シンガポールの特許関連の法律、規則、審査基準等」(2019.2.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16562/
2. 記載が認められるクレーム形式
(1)認められるクレーム形式
シンガポールの法律は、特許性のある発明のリストを提供しておらず、特許性に対する特定の限定的な除外のみを提供している。特許法第13条(1)は、特許性のある発明は、新規性、進歩性、および産業上の利用可能性の基準を満たす発明であると述べている。
製品の構造、組成、または、製造または製造方法以外の手段を参照して、製品を正確に説明できない場合は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームが許可される(調査および審査ガイドラインの2.72項~2.75項を参照)。
ソースコードに加えて、技術的特徴を有するソフトウェアに対するクレームは許可されている(調査および審査ガイドラインの8.34(f)項を参照)。
(2)認められないクレーム形式
許可されないクレームには、発見、科学理論と数学的方法、美的創造、精神的行為または計画、および情報の提示に関連するものが含まれる(調査および審査ガイドラインの8.9項~8.34項)。ただし、このリストはすべてを網羅しているわけではない。
さらに、医療の方法は特許法第16条「産業上の利用」(2)に規定されている除外項目であるため、医療の方法のクレームは許可されない。
また、特許法の第13条(2)では、公開や活用を通じて、攻撃的、不道徳、または反社会的行為を助長すると一般に予想される発明は特許性がないとされる。
関連記事:「シンガポールにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務」(2017.5.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13683/
3. 出願の言語
英語のみが出願言語として認められる。
4. グレースピリオド
通常、出願の前に発明が開示されている場合、新規性は失われているとみなされる。ただし、特許法第14条(4)に基づき、出願日から12か月前のグレースピリオドの期間内に、発明者によって直接的にまたは間接的に行われた発明の開示は、新規性を評価する目的において除外される。除外されるための特定の条件は、前記第14条で説明されている。
出願日は常に優先出願の出願日とは限らない。直接の国内出願またはパリ条約出願の場合、「出願日」はシンガポールでの特許出願の実際の出願日を指す(もしあったとしても、最も早い優先権主張日ではない)。PCT国際出願の国内移行出願の場合、国内段階の出願に割り当てられる「出願日」は国際出願日となる。
法改正の施行日は2017年10月30日であるため、第14条(4)(e)に基づく現行の規定が適用されるためには、開示が同施行日以降になされたものでなければならない。
関連記事:「シンガポールにおける特許新規性喪失の例外」(2017.6.22)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13824/
5. 審査
(1)実体審査
実体審査には3つの主要なルートがある。第1は、出願人が、調査と審査を組み合わせて請求をする。第2は、出願人が、対応する出願、対応する国際出願または関連する国内段階出願の調査結果に基づいて審査請求をする。第3は、出願人が、シンガポール出願の派生元であるPCT国際出願の調査結果に基づいて審査請求をする。ただし、出願が特許法第86条(3)に基づいてシンガポールで国内段階に入った国際出願である場合にのみ適用される。(特許法第29条(b)および(c))。
(2)早期審査(優先審査)
ASEAN特許審査協力(ASPEC)および特許審査ハイウェイ(PPH)を介して、早期審査を請求できる。シンガポールで最初に提出された特許出願であって、調査と審査を同時に請求された場合、調査報告は調査および審査請求の提出日から60日以内に発行される(特許様式11)(特許法式マニュアル段落 7.4.1-7.4.3)。
シンガポールの知的財産庁は、the FinTech Fast Trackや人工知能のためのthe Accelerated Initiative for Artificial Intelligenceなど、技術分野に特化した加速プログラムも提供している。
詳細については次のURLを参照のこと。
https://www.ipos.gov.sg/about-ip/patents/how-to-register/acceleration-programmes
(3)出願を維持するための料金:不要
関連記事:「シンガポールの庁指令に対する応答期間」(2016.6.7)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/11281/
関連記事:「シンガポールにおける特許審査ハイウェイ(PPH)の利用」(2016.1.19)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/10214/
関連記事:「シンガポールにおける特許審査基準関連資料」(2016.2.9)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/10279/
6. 出願から登録までのフローチャート
出願から登録までの特許出願のフローチャート(シンガポール知的財産庁(IPOS)特許方式マニュアルp21(国内出願)、p32(国内移行)より)
出願人は、調査および審査について、①調査の請求後、実体審査の請求、②調査および実体審査の同時請求、③所定の特許庁に行われた対応外国出願またはPCT出願の調査結果に基づく実体審査の請求、④所定の特許庁に行われた対応外国出願またはPCT出願の審査結果に基づく補充審査の請求、の4つのオプションから1つを選択できる(特許法第29条)。
①の場合、出願人に調査報告書が送付され、出願人はこれを基に審査請求を行う。その結果、書面による審査官の見解が送付され、出願人は、通知から5月以内に補正等により応答することができる(特許規則46(4))。
②の場合、出願人に調査報告書および書面による審査官の見解が送付され、①と同様に、出願人は、通知から5月以内に補正等により応答することができる。
③の場合、出願人に書面による審査官の見解が送付され、①と同様に、出願人は、通知から5月以内に補正等により応答することができる。
④の場合、③と同様に、出願人に書面による審査官の見解が送付されるが、出願人は、通知から3月以内に補正等により応答することができる(特許規則46(4A))。
審査官は上記の応答に基づいて審査報告書を作成し、登録官は、審査報告書または補充審査報告書が未解決の拒絶理由を含む場合には、特許出願を拒絶する旨の通知(Notice of Intention to Refuse)を発行する(特許法第29A条(3))。
出願人は、特許出願を拒絶する旨の通知を受けた場合、再審査を請求できる(特許法第29A条(4))。再審査の請求は、通知の日から2月以内に拒絶理由を覆すための書面を提出し、明細書の補正を含めることができる(特許法第29B条、特許規則46A(2))。
再審査でも拒絶理由が解消されない場合、出願拒絶の通知(Notice of Refusal of application、日本の拒絶査定に相当)が発行される(特許法第29B条(5))。
シンガポール国内出願フロー
国際出願シンガポール国内移行フロー
関連記事:「シンガポールにおける特許出願制度概要」(2019.7.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17577/
[権利設定前の争いに関する手続]
7. 拒絶査定に対する不服
IPOSには登録官の拒絶査定を不服とする査定不服審判制度はない。
なお、以下の9.にしめすとおり、裁判所への上訴は可能である。
8. 権利設定前の異議申立
書面による意見で提起された拒絶査定に対して異議申立する制度はない。
ただし、出願人は、書面による拒絶理由の明確化を求めることに関して、特許審査官との直接のコミュニケーションを要求することができる。コミュニケーションを開始するために、出願人が審査官事務局に電子メールにより要求を送信すると、事務局は審査官と連絡を取るための希望時間を協議し、出願人に伝える。その後、出願人は審査官事務局の助言に従って審査官に連絡することができる。
関連記事:「シンガポールにおける登録特許の取消手続と特許出願に対する第三者情報提供について」(2016.6.7)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/11283/
9. 上記7.の判断に対する不服申立
登録官の決定に不服がある場合、裁判所へ上訴することができる(特許法第90条)。
[権利設定後の争いに関する手続]
10. 権利設定後の異議申立
シンガポールでは、特許出願または登録特許に対する異議申立の制度はない。
11. 設定された特許権に対して、権利の無効を申し立てる制度
a)無効申立が可能な者
何人も、シンガポール特許法第80条(1)に記載のいずれかの理由により、IPOSに対して発明の特許の無効化または取消を求める申立を行うことができる。
b)時期および手順(関連条項:特許法第83条、特許規則80-85、88、88B)
特許の無効を求める申請書(特許様式35)は、特許付与日以降いつでも提出可能であり、申請理由の陳述とともに提出する必要がある。申請書を提出する場合、申請書および申請理由の陳述の両方のコピーを特許権者に送付する。特許権者は、申請に異議を唱える場合、3か月以内に反論文(様式HC6)を提出しなければならず、そのコピーを申請者に送付する(特許法第83条)。IPOSは、反論を受け取った後、最初の事件処理会議を開催し、事件処理の実施方法を議論する。申請者は、反論を受け取ってから3か月以内に申請を裏付ける証拠を示す法定宣言書を提出し、権利者にコピーを送付する。権利者は、申請者の法定宣言書を受け取ってから3か月以内に特許付与を裏付ける証拠を示す法定宣言書を提出し、同時に写しを申請者に送付する。その後2回目の事件処理会議が開催され、事件処理の進め方について議論する。必要に応じて、登録官は、指示の日から2か月以内に再審査を要求するように再審査請求(特許様式36)の提出を指示することができる。再審査が請求された場合、再審査報告書に照らし、3回目の事件処理会議が開催される。聴聞が行われる場合があり、その場合、聴聞の決定に対して不服がある場合、決定後6週間以内に上訴することができる。
関連記事:「シンガポールにおける登録特許の取消手続と特許出願に対する第三者情報提供について」(2016.6.7)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/11283/
関連記事:「シンガポールにおける特許無効手続に関する統計データ」(2018.2.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/14561/
12. 権利設定後の権利範囲の訂正
特許の付与後に明細書を訂正するには、権利者は特許様式17を使用して申請する必要がある。評価を容易にするために、付与後の訂正の申請書には、訂正に至る状況および証拠を含む訂正の理由を完全に記載する必要がある。
訂正の承認は、登録官による裁量権の行使に依存する。訂正申請は、2か月間、異議申立のために公示される。登録官は通常、第三者から異議が申し立てられていない場合、訂正を許可する裁量権を行使する(特許法第38条、特許規則52)。
ただし、特許の有効性が争点となる可能性のある手続が裁判所または登録官の下で係属中である場合、上記手続による訂正は許可されない(特許法第38条(2))ので、特許法第83条に基づいて訂正を行う必要がある。
訂正が他の国または地域で行われた場合、訂正申請をさらにサポートするために、対応する文書を提出することができる。
13. その他の制度
1)補充審査ルートは、2020年1月1日以降の出願日を有する特許出願では使用できなくなる。これは、すべての特許出願がシンガポールで実体審査を受けることを保証するためである。
2)2019年7月、知的財産(紛争解決)改正法が議会で可決された。この改正法には、特許出願が公開された後、その付与前に、第三者が発明の特許性について観察できるようにする提案が含まれている。もう1つの大きな変更点は、付与後の特許再審査プロセスの導入であり、これにより、特許が付与された後、いつでも、特許の明細書の再審査を登録官に依頼することができる。提起された取消申請に正当な理由がある場合、登録官は特許を取り消すことができる。
シンガポールにおける特許制度のまとめ-実体編
1. 特許制度の特徴
シンガポールでは、直接または特許協力条約(PCT)を通じて特許を出願できる。出願後、方式審査に合格したのち、出願人は、①調査請求、調査結果確認後に審査請求、②調査および審査の同時請求、③審査請求、④補充審査請求、をすることができ、その調査報告または拒絶意思(理由)通知に対して応答する必要がある(ただし、補充審査(修正実体審査請求、いわゆる外国ルート)は2020年1月1日以降の出願からは利用不可)。実質的または補充的な審査手続中に、審査官は、「書面による意見書」を発行することにより、特許出願に対する拒絶理由を通知することができる。出願人は、「書面による意見書」に応じて、出願書類を修正する機会、および/または意見を提出する機会を持つ。審査官のすべての拒絶理由が解決された場合、シンガポール知的財産庁(IPOS)が適格通知を発行し、出願人は特許の付与を取得するために付与料を支払うように請求される。
シンガポール特許法第34条に基づき、シンガポールの居住者は、シンガポール国外に発明の特許を出願する前に、登録官によって付与された書面による権限を取得する必要がある。
シンガポールの特許制度は、他の国とは異なり、前記①~④のとおり調査審査のさまざまなルートを提供している。出願人は、他の国からの調査レポートに依存することも、対応する出願に依存することも可能であるが、修正実体審査(上記の補充審査、いわゆる外国ルート)は2020年1月1日以降の出願から利用できなくなる。
シンガポールの特許制度は、実用新案登録を提供していない。
関連記事:「シンガポールにおける特許出願制度概要」(2019.7.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17577/
関連記事:「シンガポールの特許関連の法律、規則、審査基準等」(2019.2.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16562/
関連記事:「シンガポールにおける特許年金制度の概要」(2018.10.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15963/
関連記事:「シンガポール知的財産庁の特許審査体制」(2018.9.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15739/
関連記事:「シンガポールにおける特許を受けることができる発明と特許を受けることができない発明」(2016.5.26)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/11247/
関連記事:「シンガポールにおける特許審査ハイウェイ(PPH)の利用」(2016.1.19)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/10214/
関連記事:「日本とシンガポールにおける特許出願書類・手続の比較」(2019.11.7)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17897/
関連記事:「日本とシンガポールにおける特許審査請求期限の比較」(2019.11.7)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17900/
関連記事:「シンガポールにおける特許審査迅速化の方法」(2019.10.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/17822/
関連記事:「シンガポールにおける特許出願の補正の制限」(2019.10.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17824/
関連記事:「シンガポールの庁指令に対する応答期間」(2019.10.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17826/
関連記事:「シンガポールにおける特許出願制度」(2019.10.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/17804/
関連記事:「シンガポールにおけるパリ条約ルートおよびPCTルートの特許出願の差異」(2019.10.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17808/
関連記事:「シンガポールにおける特許法改正の概要(2014年2月14日施行、2017年10月30日一部改正)」(2019.10.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17810/
2. 発明の保護対象
シンガポールの法律は、「発明(invention)」という言葉の定義を提供していない。ただし、IPOSの審査ガイドラインの8.9~8.38項では、「主題(subject matter)」が「発明」と見なされないものについてのガイダンスを提供している。
関連記事:「シンガポールにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.1.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16391/
関連記事:「シンガポールにおける医薬用途発明の保護制度」(2018.2.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/14586/
3. 特許を受けるための要件
法第13条(1)によれば、特許性のある発明は、新規性、進歩性、および産業上の利用可能性という3つの基準を満たすものである。第13条(2)および(3)は、攻撃的、不道徳、または反社会的行為を助長する発明は特許性がないと規定している。
関連記事:「シンガポールにおける特許新規性喪失の例外」(2017.6.22)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13824/
4. 職務発明の取り扱い
法第49条は、従業員の発明に対する権利を扱っている。発明が従業員の通常の職務の過程で行われた場合、または従業員に特別に割り当てられた義務で行われた場合、または職務の性質および責任のために発明が生じた場合、従業員によってなされた発明は雇用者に属するものとみなされる。それ以外の従業員が行った発明は、従業員のものとみなされる。
関連記事:「シンガポールにおける職務発明・職務創作制度」(2013.12.3)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/4819/
5. 特許権の存続期間
(1)存続期間
付与された特許の保護期間は、特許の出願日から20年である(法第36条(1))。特許は、その期間内に更新料が支払われなかった場合、更新料の支払について規定された期間の終了時に効力を失うものとする(第36条(2))。
(2)特許権の存続期間の延長制度
特許の所有者は、特許の期間を延長するために登録官に申請することができる。その条件は、法第36A条に記載されている。
(3)審査の遅延による存続期間の延長補償
審査が予想よりも長くかかった場合、特定の種類の合理的な遅延があったと登録官が認めれば、保護期間が延長される。シンガポール特許規則の規則51A(5)は、不合理な遅延を構成するものをさらに詳しく説明している。
(4)その他
拒絶理由の通知が発行されると、これに応答するため、出願人には2か月が与えられる(法第29A条(2)(a))。この期限は、特許様式45を提出することにより、規則108(4)(a)に基づいて18か月までさらに延長できる。
法第36条(3)によれば、特許の存続期間の満了後6か月の猶予期間があり、更新料と所定の追加料金を支払うことができる。その後、特許は、期限が切れていないかのように扱われる。
日本とシンガポールにおける特許審査請求期限の比較
1.日本における審査請求期限
日本においては、審査を受けるためには出願審査請求を行う必要がある。出願審査請求は出願の日から3年以内に行うことができ、この期限内に出願審査請求がされない場合は、正当な理由があるものを除き、その特許出願は取り下げられたものとみなされる。
出願が国内優先権の主張を伴う場合や、パリ条約による優先権の主張を伴う場合においても、請求期間の起算日は実際に特許出願がされた日である。
PCTルートの場合は、国内書面を提出し、手数料の納付を行った後(外国語特許出願である場合はさらに翻訳文を提出した後)でないと、出願審査請求をすることができない(特許法第184条の17)。
なお、審査請求は出願人だけでなく、第三者も行うことができる。(特許法第48条の3第1項)。
条文等根拠:特許法第48条の2、第48条の3第4項、特許法施行規則第31条の2第6項、第184条の17
日本特許法 第48条の2 特許出願の審査
特許出願の審査は、その特許出願についての出願審査の請求をまって行なう。
日本特許法 第48条の3 出願審査の請求
特許出願があったときは、何人も、その日から3年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。
2 第44条第1項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第46条第1項もしくは第2項の規定による出願の変更に係る特許出願または第46条の2第1項の規定による実用新案登録に基づく特許出願については、前項の期間の経過後であっても、その特許出願の分割、出願の変更または実用新案登録に基づく特許出願の日から30日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。
3 出願審査の請求は、取り下げることができない。
4 第1項または第2項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかったときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす。
5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、第1項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をすることができなかったことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、出願審査の請求をすることができる。
日本特許法施行規則 第31条の2第6項
6 特許法第48条の3第5項(同条第7項において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の経済産業省令で定める期間は、同条第5項に規定する正当な理由がなくなった日から2月とする。ただし、当該期間の末日が同条第1項に規定する期間(同条第7項において準用する場合にあっては、第2項に規定する期間)の経過後1年を超えるときは、同項に規定する期間の経過後1年とする。
日本特許法 第184条の17 出願審査の請求の時期の制限
国際特許出願の出願人は、日本語特許出願にあっては第184条の5第1項、外国語特許出願にあっては第184条の4第1項または第4項および第184条の5第1項の規定による手続をし、かつ、第195条第2項の規定により納付すべき手数料を納付した後、国際特許出願の出願人以外の者は、国内書面提出期間(第184条の4第1項ただし書の外国語特許出願にあっては、翻訳文提出特例期間)の経過後でなければ、国際特許出願についての出願審査の請求をすることができない。
2.シンガポールにおける審査請求期限
改正特許法が施行された2014年2月14日以降になされた、シンガポール出願、シンガポール国内移行および分割出願を前提として以下に説明する。
シンガポールにおいては、審査を受けるためには出願審査請求を行う必要がある。シンガポールでは調査および審査請求の内容およびタイミングにより、以下の(i)~(ⅳ)の4つの審査請求オプションがあり、それぞれについての審査請求期間を以下に示す(特許法第29条(1)(b)~(d)、(3)、特許規則38(1)、43(1)~(3))。
<シンガポールにおける審査請求オプションと審査請求期限>
(i)シンガポールで調査請求を行い、その後審査請求→優先日から36か月(特許法第29条(3)、特許規則43(1))(調査請求は優先日から13か月、特許法第29条(1)(a)、特許規則38(1))
ただし、審査請求期限前1月以内に登録官が出願人に調査報告を送付した場合には、同調査報告を伴った登録官の通知の日から1月を特許法第29条(3)に基づく審査請求期間とする(特許規則43(2))。
(ⅱ)シンガポールで調査と審査を同時に請求→優先日から36か月(特許法第29条(1)(b)、特許規則43(1))
(ⅲ)他国の調査結果に基づきシンガポールで審査→優先日から36か月(特許法第29条(1)(c)、特許規則43(1))
(ⅳ)対応国の審査結果に基づく補充審査*1→優先日から54か月(特許法第29条(1)(d)、特許規則43(3))
ここで、審査請求期間の起算日は、優先権主張を伴う場合には優先日、優先権主張を伴わない場合にはシンガポール出願日である(特許規則38(1)、43(1)および(3))。また、分割出願の場合には、優先権主張を伴う場合には優先日、優先権主張を伴わない場合にはその分割出願の出願日である(特許規則43(3)(b))。上記前提の下、日本の読者の便宜のため、ここでは「優先日」を起算日として記載した。優先権主張を伴わない場合には、「出願日」と読み替えてください。
また、延長費用の支払いにより(i)~(ⅳ)全てについて審査請求期限の延長が可能である(特許規則108(4)(a)、同(7))。
期間内に審査の請求がなかったときは、特許出願は放棄されたものとみなす(特許法第29条(12)、(13))。
また、実体審査請求を行うことができるのは、出願人のみである(特許法第29条(1)、(3))。
条文等根拠:特許法第29条(1)(a)~(d)、(3)、(12)、(13)、特許規則38(1)、43(1)~(3)、108(4)、(7)
シンガポール特許法 第29条 調査および審査
(1)特許出願(本項において「当該出願」という)に係る出願人は、所定の期間内に、以下の項のうちの1つに従うこと。
(a)調査報告書を求める所定の様式の請求書を提出する。
(b)調査および審査報告を求める所定の様式の請求書を提出する。
(c)出願人が下記に示す最終的な結果を依拠する場合、所定の様式で審査報告を求める所定の書類と請求書を提出する。
(i)対応出願、対応する国際出願または関連する国内段階出願における調査、若しくは
(ii)国際段階の当該出願の調査
(当該出願が第86条(3)に基づいてシンガポールで国内段階に移行した国際出願である場合)
(d)(11A)に従うことを条件として、所定の様式で補充審査報告を求める所定の文書と請求書を提出する。ただし
(i)出願人が以下の最終的な報告に依拠する場合、特許出願がすべての方式要件を満たしている場合は、登録官は、出願人に通知する。
(A)対応する出願、対応する国際出願または関連国内段階出願の実体の調査および審査、若しくは
(B)国際段階における当該出願の実体の調査および審査(当該出願が第86条(3)に基づいて国内段階に移行した国際特許出願(シンガポール)である場合)
(ii)当該出願における各クレームが、少なくとも対応する出願、対応する国際出願または関連する国内段階出願若しくは国際段階における当該出願におけるクレームの1つに関連する。
および
(iii)これらの結果により、当該出願における各クレームが新規性、進歩性(または非自明性)、産業上の利用可能性(または有用性)の要件を満足する。
(3)登録官は(2)(b)に基づき調査報告を受領したとき、審査報告を求める所定の様式の請求書を提出する。
(略)
(12)以下の場合、出願は放棄されたものとして扱われる。
(a)(13)に従うことを条件として、出願人が次の1つを行わなかった場合、
(i)(1)の(b)、(c)もしくは(d)における所定の期間内に従うこと。
(ii)(3)が適用される場合、その項に従うこと。
(b)(10)が適用される場合において、出願人が(10)(b)に規定する所定の期間内に、(1)(d)に基づく補充審査の請求を行わなかった場合、または
(c)(11)が適用される場合において、出願人が(1)(b)に基づく調査および審査報告の請求、または(11)(b)に規定する所定の期間内に(1)(c)に基づく審査報告の請求を行わなかった場合。
(13)(a)登録官から(2)(b)に基づき調査報告を受け取った後、出願人が(3)に従いその項に規定する期間内に審査報告を求める請求を行わなかった後、および
(b)改正特許法2017の第3(f)条の開始日前、若しくは開始後3か月以内に、(3)に規定する期間延長の請求を提出する期間が満了する時、
出願人が、その日から6月以内に(3)に基づく審査報告の請求を行わなかった場合、出願は、放棄されたものとして扱われる。
シンガポール特許規則38 調査報告請求書の提出に係る期間
(1)第2条(1)(a)に基づく請求提出の所定の期間は、次のとおりとする。
(a)当該出願に宣言された優先日が記載されていない場合は、出願日から13月、または
(b)当該出願に宣言された優先日が記載されている場合は、当該宣言された優先日から13月
シンガポール特許規則43 調査および審査報告の請求、審査報告の請求または補充審査報告の請求*1の提出期間
(1)(2)に従うことを条件として、第29条(1)(b)に基づく調査および審査報告の請求または第29条(1)(c)若しくは(3)に基づく審査報告の請求の提出についての所定の期間は、
(a)(b)に従うことを条件として、
(i)出願の宣言された優先日、若しくは
(ii)宣言された優先日が存在しない場合は当該出願の出願日、
から36月、または
(b)第20条(3)、第26条(11)または第47条(4)に基づいて新規出願が行われる場合は、当該新規出願が実際に出願された日から36月とする。
(2)(1)(a)または場合により(b)にいう所定の期間の満了前1月以後に、登録官により第29条(2)(b)に基づいて調査報告の写しが出願人に送付される場合は、第29条(3)に基づく審査報告の請求の提出についての所定の期間は、第29条(2)(b)に基づく調査報告の写しを送付する登録官書簡の日付から1月とする。
(3)第2条(1)(d)に基づく補充審査報告の請求の提出についての所定の期間は、次のとおりとする。
(a)(b)に従うことを条件として、
(i)当該出願の宣言された優先日、若しくは
(ii)宣言された優先日が存在しない場合は当該出願の出願日、
から54月、または
(b)第20条(3)、第26条(11)または第47条(4)に基づいて新規出願が行われた場合は、新規出願が実際に出願された日から54月
シンガポール特許規則108 期限の延長一般
(4)次の何れかの規則に定める期日または期間については、延長の求められる期日または期間の最初の満了後18月以内に特許様式45の提出があった場合は、延長の求められる期日または期間の最初の満了直後に始まる計18月を超えない期間で延長される。
(a)規則18(1)、規則19(11)、規則26(2)、規則28(f)、規則34(1A)、規則38、規則42(3)、規則43、規則47(1)、規則86(1)、(6)、(8)若しくは(8A)、または
(b)規則26(3)(規則26(4)(a)および(b)に定める書類の提出に関する場合に限る)
(7)(a)登録官から第29(2)条(b)に基づく調査報告を受け取った後、審査請求するための規則43(1)もしくは(2)(どちらか適用可能な方)に規定する期間内に、第29条(3)に基づく審査報告の請求を出願人が行わなかった後、および
(b)2017年10月30日より前もしくは3月以内に満了する期間延長の様式45の提出に対する(4)に規定する期間、
その日から6月、様式提出に関する(4)の期間は延長される。
◆日本の基礎出願に基づく優先権を主張しシンガポールに出願した場合には、以下のようになる。
日本とシンガポールにおける特許審査請求期限の比較
日本 | シンガポール | |
提出期限 | 3年 | ・シンガポールで審査
(36か月) ・補充審査(54か月)*1 |
基準日 | 日本の出願日 | 優先権を伴う場合には、
シンガポール出願日では なく、日本の基礎出願日 |
審査請求できる者 | 出願人または第三者 | 出願人のみ |
*1: 2017年10月30日付けで改正された特許法により、2020年1月1日以降の出願から補充審査は利用できなくなる。(シンガポール特許法第29条(11A)、およびシンガポール特許規則43(4))。
日本とシンガポールにおける特許審査請求期限の比較
1. 日本における審査請求期限
日本においては、審査を受けるためには出願審査請求を行う必要がある。出願審査請求は出願の日から3年以内に行うことができ、この期限内に出願審査請求がされない場合は、正当な理由があるものを除き、その特許出願は取り下げられたものとみなされる。
出願が国内優先権の主張を伴う場合や、パリ条約による優先権の主張を伴う場合においても、請求期間の起算日は実際に特許出願がされた日である。
PCTルートの場合は、国内書面を提出し、手数料の納付を行った後(外国語特許出願である場合はさらに翻訳文を提出した後)でないと、出願審査請求をすることができない(特許法第184条の17)。
なお、審査請求は出願人だけでなく、第3者も行うことができる。(特許法第48条の3第1項)。
条文等根拠:特許法第48条の2、第48条の3第4項、特許法施行規則第31条の2第6項、第184条の17
日本特許法 第48条の2 特許出願の審査
特許出願の審査は、その特許出願についての出願審査の請求をまって行なう。
日本特許法 第48条の3 出願審査の請求
特許出願があったときは、何人も、その日から3年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。
2 第44条第1項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第46条第1項もしくは第2項の規定による出願の変更に係る特許出願または第46条の2第1項の規定による実用新案登録に基づく特許出願については、前項の期間の経過後であっても、その特許出願の分割、出願の変更または実用新案登録に基づく特許出願の日から30日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。
3 出願審査の請求は、取り下げることができない。
4 第1項または第2項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかったときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす。
5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、第1項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をすることができなかったことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、出願審査の請求をすることができる。
日本特許法施行規則 第31条の2第6項
6 特許法第48条の3第5項(同条第7項において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の経済産業省令で定める期間は、同条第5項に規定する正当な理由がなくなった日から2月とする。ただし、当該期間の末日が同条第1項に規定する期間(同条第7項において準用する場合にあっては、第2項に規定する期間)の経過後1年を超えるときは、同項に規定する期間の経過後1年とする。
日本特許法 第184条の17 出願審査の請求の時期の制限
国際特許出願の出願人は、日本語特許出願にあっては第184条の5第1項、外国語特許出願にあっては第184条の4第1項または第4項および第184条の5第1項の規定による手続をし、かつ、第195条第2項の規定により納付すべき手数料を納付した後、国際特許出願の出願人以外の者は、国内書面提出期間(第184条の4第1項ただし書の外国語特許出願にあっては、翻訳文提出特例期間)の経過後でなければ、国際特許出願についての出願審査の請求をすることができない。
2. シンガポールにおける審査請求期限
改正特許法が施行された2014年2月14日以降になされた、シンガポール出願、シンガポール国内移行および分割出願を前提として以下に説明する。
シンガポールにおいては、審査を受けるためには出願審査請求を行う必要がある。シンガポールでは調査および審査請求の内容およびタイミングにより、以下の(i)~(ⅳ)の4つの審査請求オプションがあり、それぞれについての審査請求期間を以下に示す(特許法第29条(1)(b)~(d)、(3)、特許規則38条(1)、43条(1)~(3))。
<シンガポールにおける審査請求オプションと審査請求期限>
(i)シンガポールで調査請求を行い、その後審査請求→優先日から36か月(特許法第29条(3)、特許規則43条(1))(調査請求は優先日から13か月、特許法29条(1)(a)、特許規則38条(1))
ただし、審査請求期限前1月以内に登録官が出願人に調査報告を送付した場合には、同調査報告を伴った登録官の通知の日から1月を特許法29条(3)に基づく審査請求期間とする。(特許規則43条(2))
(ⅱ)シンガポールで調査と審査を同時に請求→優先日から36か月(特許法第29条(1)(b)、特許規則43条(1))
(ⅲ)他国の調査結果に基づきシンガポールで審査→優先日から36か月(特許法第29条(1)(c)、特許規則43条(1))
(ⅳ)対応国の審査結果に基づく補充審査→優先日から54か月(特許法第29条(1)(d)、特許規則43条(3))
ここで、審査請求期間の起算日は、優先権主張を伴う場合には優先日、優先権主張を伴わない場合にはシンガポール出願日である(特許規則38条(1)、43条(1)及び(3))。また、分割出願の場合には、優先権主張を伴う場合には優先日、優先権主張を伴わない場合にはその分割出願の出願日である(特許規則43条(3)(b))。上記前提の下、日本の読者の便宜のため、ここでは「優先日」を起算日として記載した。優先権主張を伴わない場合には、「出願日」と読み替えいただきたい。
また、延長費用の支払いにより(i)~(ⅳ)全てについて審査請求期限の延長が可能である(特許規則108条(4)(a)、同条(7))。
期間内に審査の請求がなかったときは、特許出願は放棄されたものとみなす(第29条(12)、(13))。
また、実体審査請求を行うことができるのは、出願人のみである(特許法第29条(1)、(3))。
条文等根拠:特許法第29条(1)(a)~(d)、(3)、(12)、(13)、特許規則38条(1)、43条(1)~(3)、108条(4)、(7)
シンガポール特許法 第29条 調査及び審査
(1)特許出願(本項において「当該出願」という)に係る出願人は,所定の期間内に,以下の項のうちの1つに従うこと。
(a)調査報告書を求める所定の様式の請求書を提出する。
(b)調査及び審査報告を求める所定の様式の請求書を提出する。
(c)出願人が下記に示す最終的な結果を依拠する場合,所定の様式で審査報告を求める所定の書類と請求書を提出する。
(i)対応出願,対応する国際出願又は関連する国内段階出願における調査,若しくは
(ii)国際段階の当該出願の調査
(当該出願が第86条(3)に基づいてシンガポールで国内段階に移行した国際出願である場合)
(d)(11A)に従うことを条件として、所定の様式で補充審査報告を求める所定の文書と請求書を提出する。ただし
(i)出願人が以下の最終的な報告に依拠する場合,特許出願がすべての方式要件を満たしている場合は,登録官は,出願人に通知する。
(A)対応する出願,対応する国際出願又は関連国内段階出願の実体の調査及び審査,若しくは
(B)国際段階における当該出願の実体の調査及び審査(当該出願が第86条(3)に基づいて国内段階に移行した国際特許出願(シンガポール)である場合)
(ii)当該出願における各クレームが,少なくとも対応する出願,対応する国際出願又は関連
する国内段階出願若しくは国際段階における当該出願におけるクレームの1つに関連する。
及び
(iii)これらの結果により,当該出願における各クレームが新規性,進歩性(又は非自明性),産業上の利用可能性(又は有用性)の要件を満足する。
(3)登録官は(2)(b)に基づき調査報告を受領したとき,審査報告を求める所定の様式の請求書を提出する。
(12)以下の場合,出願は放棄されたものとして扱われる。
(a)(13)に従うことを条件として、出願人が次の1つを行わなかった場合,
(i)(1)の(b)、(c)もしくは(d)における所定の期間内に従うこと。
(ii)(3)が適用される場合、その項に従うこと。
(b)(10)が適用される場合において,出願人が(10)(b)に規定する所定の期間内に,(1)(d)に基づく補充審査の請求を行わなかった場合,又は
(c)(11)が適用される場合において,出願人が(1)(b)に基づく調査及び審査報告の請求,又は(11)(b)に規定する所定の期間内に(1)(c)に基づく審査報告の請求を行わなかった場合。
(13)(a)登録官から(2)(b)に基づき調査報告を受け取った後、出願人が(3)に従いその項に規定する期間内に審査報告を求める請求を行わなかった後,及び
(b)改正特許法2017の第3(f)条の開始日前、若しくは開始後3か月以内に、(3)に規定する期間延長の請求を提出する期間が満了する時,
出願人が、その日から6月以内に(3)に基づく審査報告の請求を行わなかった場合、出願は、放棄されたものとして扱われる。
シンガポール特許規則38 調査報告請求書の提出に係る期間
(1)第2条(1)(a)に基づく請求提出の所定の期間は,次のとおりとする。
(a)当該出願に宣言された優先日が記載されていない場合は,出願日から13月,又は
(b)当該出願に宣言された優先日が記載されている場合は,当該宣言された優先日から13月
シンガポール特許規則43 調査及び審査報告の請求,審査報告の請求又は補充審査報告の請求の提出期間
(1)(2)に従うことを条件として,第29条(1)(b)に基づく調査及び審査報告の請求又は第29条(1)(c)若しくは(3)に基づく審査報告の請求の提出についての所定の期間は,
(a)(b)に従うことを条件として,
(i)出願の宣言された優先日,若しくは
(ii)宣言された優先日が存在しない場合は当該出願の出願日,
から36月,又は
(b)第20条(3),第26条(11)又は第47条(4)に基づいて新規出願が行われる場合は,当該新規出願が実際に出願された日から36月とする。
(2)(1)(a)又は場合により(b)にいう所定の期間の満了前1月以後に,登録官により第29条
(2)(b)に基づいて調査報告の写しが出願人に送付される場合は,第29条(3)に基づく審査報告の請求の提出についての所定の期間は,第29条(2)(b)に基づく調査報告の写しを送付する登録官書簡の日付から1月とする。
(3)第2条(1)(d)に基づく補充審査報告の請求の提出についての所定の期間は,次のとおりとする。
(a)(b)に従うことを条件として,
(i)当該出願の宣言された優先日,若しくは
(ii)宣言された優先日が存在しない場合は当該出願の出願日,
から54月,又は
(b)第20条(3),第26条(11)又は第47条(4)に基づいて新規出願が行われた場合は,新規出願が実際に出願された日から54月
シンガポール特許規則108 期限の延長一般
(4)次の何れかの規則に定める期日又は期間については,延長の求められる期日又は期間の最初の満了後18月以内に特許様式45の提出があった場合は,延長の求められる期日又は期間の最初の満了直後に始まる計18月を超えない期間で延長される。
(a)規則18(1),規則19(11),規則26(2),規則28(f),規則34(1A),規則38,規則42(3),規則43,規則47(1),規則86(1),(6),(8)若しくは(8A),又は
(b)規則26(3)(規則26(4)(a)及び(b)に定める書類の提出に関する場合に限る)
(7)(a)登録官から第29(2)条(b)に基づく調査報告を受け取った後、審査請求するための規則43(1)もしくは(2)(どちらか適用可能な方)に規定する期間内に、第29条(3)に基づく審査報告の請求を出願人が行わなかった後、及び
(b)2017年10月30日より前もしくは3か月以内に満了する期間延長の様式45の提出に対する(4)に規定する期間,
その日から6か月、様式提出に関する(4)の期間は延長される。
◆日本の基礎出願について優先権を主張しシンガポールに出願した場合には、以下のようになる。
日本とシンガポールにおける特許審査請求期限の比較
日本 | シンガポール | |
提出期限 | 3年 | ・シンガポールで審査(36か月)
・補充審査(54か月) |
基準日 | 日本の出願日 | 優先権を伴う場合には、シンガポール出願日ではなく、日本の基礎出願日 |
審査請求できる者 | 出願人または第三者 | 出願人のみ |
シンガポールにおける特許出願制度概要
記事本文はこちらをご覧ください。