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シンガポールにおける特許出願の補正の制限

1.特許付与前の補正

シンガポール特許法(以下、「特許法」)の第31条は、特許付与前の出願の補正に関する一般的な権限を規定している。また、特許法第84条(2)には、補正に対する制限が定められている。

 

“特許法第84条(2)

特許出願の第31条に基づくいかなる補正も、その結果、当該出願が出願時での特許出願において開示された事項を超える事項を開示するに至る場合は、認められない。”

 

また、特許付与前の補正が認められない一定の期間があり、そのような期間は、シンガポール特許規則(以下、「規則」)の49(2)および49(3)に規定されている。

 

“規則49(2)

下記第(3)項に従い、出願人は、登録官から別段の要求がない限り、特許付与に係る手数料が支払われる前の任意の時期に、自らの意思により明細書、クレーム、図面および要約を補正することができる。”

 

“規則49(3)

特許法第29B条(2)に従い、以下の期間には本規則(2)項に基づく補正は行われないものとする。

(a)特許法第29条(1)(a)に基づく調査報告の請求が提出された後、出願人が当該報告を受領するまでの期間。

(b)特許法第29条(1)(b)に基づく調査兼審査報告の請求が提出された後の期間。ただし、当該報告に関して規則46(3)に基づき提出された答弁書の中に補正が含まれている場合はこの限りではない。

(c)特許法第29条(1)(c)もしくは(3)に基づく審査報告の請求が提出された後の期間。ただし、当該報告に関して規則46(3)に基づき提出された答弁書の中に補正が含まれている場合はこの限りではない。

(d)特許法第29条(1)(d)に基づく補充審査報告の請求が提出された後の期間。ただし、当該報告に関して規則46(3)に基づき提出された答弁書の中に補正が含まれている場合はこの限りではない。

(e)特許法第29B条(1)に基づくレビューの請求が提出された後の期間。”

 

なお、規則49(3)にいう「報告に対する答弁書」とは、調査兼審査報告、審査報告、または補充審査報告の請求に関連して審査官が発行した「意見書」に対する答弁書のことである。

 

2.特許付与後の補正

(1)特許法

特許法第38条は、特許付与後の明細書の補正(日本特許法の「訂正」に相当)に関する一般的な権限を規定している。また、特許法第83条は、侵害または取消手続における特許の補正について次のように定めており、特許法第84条(3)は、特許明細書の補正に関する2つの制限を定めている。

 

“特許法第83条(1)

特許の有効性を争点として裁判所または登録官の下で行われる手続において、裁判所または登録官は、本法第84条に従うことを条件として、かつ、補正案の公告および費用、経費その他について裁判所または登録官が適切と考える条件に従うことを前提として、裁判所または登録官が適当と考える方法で、当該特許明細書を補正することを特許の所有者に許可することができる。”

 

“特許法第84条(3)

特許明細書の特許法第38条(1)、第81条または第83条に基づく如何なる補正も、次の場合は、認められない。

その補正の結果、

(a)当該明細書において何らかの追加事項が開示されるに至る場合、または

(b)当該特許により与えられる保護が拡張される場合。”

 

(2)審査ガイドライン

2017年10月30日付で改正された審査ガイドラインの第7章E(特許付与後の訂正の許可性)7.36において、特許が明らかに無効である(obviously invalid)場合には、無効の可能性がある(potentially invalid)場合と異なり、新規事項の追加または権利範囲の拡張かどうかを考慮することなく、補正を認めないと規定されている。

 

3.新規事項の追加に関する判断基準

シンガポール控訴裁判所は、FE Global Electronics Pte Ltd and others v Trek Technology(Singapore)Pte Ltd [2006] 1 SLR 874の判決において、英国の判例Bonzel and Schneider(Europe)AG v Intervention Ltd [1991] PRC 553を引用して、特許明細書の補正が新規事項の追加にあたるか否かという問題の判断基準を示している。3段階からなるこの判断基準は以下のとおりである。

(1)当業者の目を通して、特許出願の出願時の開示内容を、明示的および黙示的の両面から確定する。

(2)補正の対象とされる特許について、補正後の開示内容を、同様の確定を行う。

(3)上の2つの開示内容を比較し、削除もしくは追加によって発明に関連する主題が新たに追加されているか否かを判断する。この比較により、補正に含まれる主題が当初の出願において明示的ないし黙示的に明瞭かつ明確に開示されていない限り当該主題が新規事項として追加されたと判断する。

 

4.登録官および裁判所の特許明細書の補正についての権限

登録官(Registrar)および裁判所が特許明細書を補正する権限は、裁量にしたがって行使される。

 

5.補正に対する異議申立

特許法第83条(2)に基づき、何人も、特許の所有者が申し入れた補正に対する異議の申立を裁判所もしくは登録官に対して提出することができる。訴訟が裁判所において係属中である場合、異議の陳述書は補正案が公告されてから所定の期間内に提出されなければならない(Rules of Court(裁判所規則), Order 87A r.11(1)(e))。登録官の下で手続が進行中である場合、異議申立は補正案が公告された日から2か月以内に提出されなければならない。

 

6.補正の効果

特許法第83条(3)によれば、特許法第83条に基づく特許明細書の補正は、常に、特許付与の時点で効果を発生したものとみなされる。

 

シンガポールにおける特許出願の補正の制限

【詳細】

1.特許付与前の補正

シンガポール特許法(以下、「特許法」)の第31条は、特許付与前の出願の補正に関する一般的な権限を規定している。また、特許法第84条(2)には、補正に対する制限が定められている。

 

“特許法第84条(2)

特許出願の第31条に基づくいかなる補正も、その結果、当該出願が出願時での特許出願において開示された事項を超える事項を開示するに至る場合は、認められない。”

 

また、特許付与前の補正が認められない一定の期間があり、そのような期間は、シンガポール特許規則(以下、「規則」)の49(2)および49(3)に規定されている。

 

“規則49(2)

下記第(3)項に従い、出願人は、登録官から別段の要求がない限り、特許付与に係る手数料が支払われる前の任意の時期に、自らの意思により明細書、クレーム、図面および要約を補正することができる。”

 

“規則49(3)

特許法第29B条(2)に従い、以下の期間には本規則(2)項に基づく補正は行われないものとする。

(a)特許法第29条(1)(a)に基づく調査報告の請求が提出された後、出願人が当該報告を受領するまでの期間。

(b)特許法第29条(1)(b)に基づく調査兼審査報告の請求が提出された後の期間。ただし、当該報告に関して規則46(3)に基づき提出された答弁書の中に補正が含まれている場合はこの限りではない。

(c)特許法第29条(1)(c)もしくは(3)に基づく審査報告の請求が提出された後の期間。ただし、当該報告に関して規則46(3)に基づき提出された答弁書の中に補正が含まれている場合はこの限りではない。

(d)特許法第29条(1)(d)に基づく補充審査報告の請求が提出された後の期間。ただし、当該報告に関して規則46(3)に基づき提出された答弁書の中に補正が含まれている場合はこの限りではない。

(e)特許法第29B条(1)に基づくレビューの請求が提出された後の期間。”

 

なお、規則49(3)にいう「報告に対する答弁書」とは、調査兼審査報告、審査報告、または補充審査報告の請求に関連して審査官が発行した「意見書」に対する答弁書のことである。

 

2.特許付与後の補正

特許法第38条は、特許付与後の明細書の補正(日本特許法の「訂正」に相当)に関する一般的な権限を規定している。また、特許法第83条は、侵害または取消手続における特許の補正について次のように定めている。

 

“特許法第83条(1)

特許の有効性を争点として裁判所または登録官の下で行われる手続において、裁判所または登録官は、本法第84条に従うことを条件として、かつ、補正案の公告および費用、経費その他について裁判所または登録官が適切と考える条件に従うことを前提として、裁判所または登録官が適当と考える方法で、当該特許明細書を補正することを特許の所有者に許可することができる。”

 

また、特許法第84条(3)は、特許明細書の補正に関する2つの制限を定めている。

 

“特許法第84条(3)

特許明細書の特許法第38条(1)、第81条または第83条に基づく如何なる補正も、次の場合は、認められない。

その補正の結果、

(a)当該明細書において何らかの追加事項が開示されるに至る場合、または

(b)当該特許により与えられる保護が拡張される場合。”

 

3. 新規事項の追加に関する判断基準

シンガポール控訴裁判所は、FE Global Electronics Pte Ltd and others v Trek Technology (Singapore) Pte Ltd [2006] 1 SLR 874 の判決において、英国の判例Bonzel and Schneider (Europe) AG v Intervention Ltd [1991] PRC 553を引用して、特許明細書の補正が新規事項の追加にあたるか否かという問題の判断基準を示している。3段階からなるこの判断基準は以下のとおりである。

 

(1)当業者の目を通して、特許出願の出願時の開示内容を、明示的および黙示的の両面から確定する。

(2)補正の対象とされる特許について、補正後の開示内容を、同様の確定を行う。

(3)上の2つの開示内容を比較し、削除もしくは追加によって発明に関連する主題が新たに追加されているか否かを判断する。この比較により、補正に含まれる主題が当初の出願において明示的ないし黙示的に明瞭かつ明確に開示されていない限り当該主題が新規事項として追加されたと判断する。

 

4.登録官および裁判所の特許明細書の補正についての権限

登録官(Registrar)および裁判所が特許明細書を補正する権限は、裁量にしたがって行使される。

 

5.補正に対する異議申立

特許法第83条(2)に基づき、あらゆる者は、特許の所有者が申し入れた補正に対する異議の申立を裁判所もしくは登録官に対して提出することができる。訴訟が裁判所において係属中である場合、異議の陳述書は補正案が公告されてから所定の期間内に提出されなければならない(裁判所規則 Rules of Court, Order 87A r.11(1)(e))。登録官の下で手続が進行中である場合、異議申立は補正案が公告された日から2か月以内に提出されなければならない。

 

6.補正の効果

特許法第83条(3)によれば、特許法第83条に基づく特許明細書の補正は、常に、特許付与の時点で効果を発生したものとみなされる。