シンガポールにおける特許出願書類
シンガポール特許法は、特許出願書類として、(1) 願書、(2) 明細書、(3) クレーム、(4) 図面、(5) 要約書を定めている(シンガポール特許法(以下「特許法」という。)第25条(3))。また、出願が配列を開示する場合は、出願書類に含めなければならない(シンガポール特許規則(以下「特許規則」という。)19A、方式審査マニュアル2.2.26)。
1. 願書
願書は、所定のフォーマット(様式1)により作成する。願書の記載事項には、以下のようなものが含まれる。
・発明の名称
・出願人の氏名および住所、国名等
・優先権に関する事項(番号、国、基礎出願日)
・発明者の氏名および住所、国名等
・発明者から出願人への権利譲渡の手段(雇用契約書、発明譲渡証)
・代理人の氏名およびシンガポールにおける送達用あて先
・宣誓書
2. 明細書
明細書は、当業者が発明を実施できるように、明確かつ完全に内容を開示するものでなければならず(特許法第25条(4))、次の順序で記載する(特許規則19(3))。
・発明の名称
・発明の説明
・クレーム
・図面(該当する場合)
このうち、発明の説明には、以下の内容を記載する(特許規則19(5))。
・発明の名称
・発明が関連する技術分野を明示
・発明の理解、調査および審査に有用と考えられる技術的背景を明示
・クレームされた発明の開示(関連する技術的課題および発明による解決方法を理解できるように記載し、技術的背景に関連して発明による有利な効果を述べる必要がある。)
・各図の簡単な説明(該当する場合)
・少なくとも1以上の発明の実施例(あれば図面を引用する。)
・発明の説明または内容から明白でない場合、産業上の利用可能性があることの明確な表示
・配列一覧(該当する場合)(特許規則19A)
発明の説明や説明であると認められる事項に英語以外の言語が含まれている場合は、英語の翻訳文を提出する必要がある。英語の翻訳文が提出されていない場合には、登録官により通知がなされ、当該通知日から2か月以内に提出しなければ当該出願は拒絶されるので(特許規則19(10)~(12))、必要があれば、前もって準備しておくと良い。
3. クレーム
クレーム作成に際しては、主に以下のような点に留意する(特許法第25条(5)、特許規則19(6)~(9))。
(1) クレームは、出願人が保護を求める事項を定義すること、明確かつ簡潔であること、発明の説明により裏付けられていることが求められ、1発明または単一の発明概念を形成するように連結された1群の発明に関わるものである必要がある。
(2) クレームは、発明の技術的特徴に関し、発明の説明または図面の参照に依拠してはならず(当該参照がクレームの理解のために必要である場合、クレームの明確性・簡潔性を高める場合は除く。)、クレームする発明の内容を考慮して適切な数である必要がある(クレームが複数ある場合はアラビア数字で通し番号をつける。)。
(3) クレームにおいて保護を求める事項は、構造的・機能的または数学的用語を用いて表現することができる当該発明の技術的特徴によって特定しなければならない。
(4) シンガポールでは、マルチマルチの従属クレームも認められている(審査ガイドライン2.46)。
例:請求項3.The method of claims 1 or 2, further comprising X.(マルチ)
請求項4.The process of any one of claims 1 to 4…, comprising Y(マルチマルチ)
その他の詳細については特許規則を参照されたい。
4. 図面
図面作成に際しては、主に以下のような点に留意する(特許規則21)。
(1) 図面は、国際A4サイズ(29.7cm×21cm)用紙を使用し、十分な複写ができるように彩色を行わず、かつ耐久性があり、黒色で十分な濃さを有し、均一な太さの鮮明な線および筆致により作成し、少なくとも上端2.5cm、左端2.5cm、右端1.5cm、下端1.0cmの余白を設ける。
(2) 図面上に記載される数字、文字、基準線は、単純かつ明確なものである必要があり、数字と文字については、括弧、丸および引用符は使わない。
(3) 図の各要素は、その図の他の各要素と同じ寸法比率で記載する。ただし、図を明瞭に示すために異なる比率を使用することが不可欠な場合は,この限りでない。
その他の詳細については特許規則を参照されたい。
5. 要約書
(1) 要約書には、明細書に開示されている当該発明の内容の概要を簡潔に記載しなければならない(通常は150語以内)。なお、概要には、発明が属する技術分野、発明が関係する技術的課題、発明による当該課題の解決方法の要旨および当該発明の主たる用途を明確に理解できるように記載する。
(2) 明細書に図面が含まれる場合であって、公表の時点で要約に添付するべきであると考える図面については、当該図(原則1図、例外的に複数とする場合も2を超えてはならない)を要約書で表示する。
(特許規則22)
6. その他の書類
出願人と発明者が完全に一致しない場合は、上記の出願書類のほか、「特許を受ける権利についての陳述書」(様式8)を優先日から16か月以内に提出する必要がある(特許法第24条(2)、特許規則18(1)および(1A))。
優先権主張を伴う特許出願において、優先権証明書は、登録官から提出を要求された場合、通知日から2か月以内に提出する必要がある(特許規則9B(4))。
7. 留意事項
(1) 願書、明細書、要約に記載する発明の名称は、簡潔かつ正確で、当該発明に関係する事項を表示するものである必要がある(特許規則19(4))。
(2) 上記出願書類が英語以外で提出されている場合は、出願人は通知日から2か月以内に英訳文を提出する必要がある(特許方式マニュアル2.2.40 )。
(3) 出願書類に不備があった場合、審査官が指定する期間内に意見を述べるか不備を補うことを求める通知が出される。所定の期間内に補正しなければ、出願は拒絶される(特許法第28条(4)、(5))。
シンガポールにおける特許を受けることができる発明と特許を受けることができない発明
1. ソフトウェア
1-1. 特許法改正の経緯
1995年2月にシンガポール特許法が施行された際に、第13条(2)によって「コンピュータプログラム」は、以下のように「発明」ではないと規定されていた。
シンガポール特許法(1995年2月施行)第13条 特許性のある発明 (1) (2)および(3)に従うことを条件として、特許性のある発明とは、次の条件を満たすものである。 (a) 発明が新規であること (b) 発明に進歩性があること (c) 発明が産業上利用できること (2)次のものから成るものは、本法を目的として、発明ではないことをここに宣言する。 (a) 発見、科学的理論、数学的方法 (b) 言語、戯曲、音楽または芸術作品、もしくはその他あらゆる審美的創作物 (c) 精神活動、ゲームまたはビジネスのためのスキーム、ルールまたは方法、もしくはコンピュータプログラム (d) 情報の提示 ただし、前述の規定は、特許または特許出願に関する範囲内において、あらゆるものが本法における発明として取り扱われることを禁止するものである。 ((3)以下省略) |
しかし、1996年1月1日に施行された改正により、シンガポール特許法第13条(2)は削除された。
1-2.ソフトウェア発明に関連する裁判例
ソフトウェアクレームが特許を受けることができるかどうかを考察するために、First Currency Choice v Main-Line Corporate Holdings Ltd事件([2007] SGCA 50)を説明する。この事件において、クレジットカード取引を処理するために使用される希望通貨を、(データ処理方法を通じて)自動的に特定する通貨換算方法およびシステムに対して特許を付与することが、適切かどうかが争点となった。最高裁判所の高等法廷(High Court)は、この特許は新規性と進歩性を有さないと判示し、この判決は、最高裁判所の上訴法廷(Court of Appeal)によって支持された。
1-3. ソフトウェア発明の発明適格性
シンガポール特許法第13条(2)の削除とFirst Currency Choice v Main-Line Corporate Holdings Ltd事件の判決に基づき、シンガポールにおいてソフトウェアのクレームは特許を受けることができるとの見解を持つ者がいるが、シンガポール知的財産庁は、この見解を認めていない。ソフトウェア発明には、新規性、進歩性、産業上の利用可能性の要件に加えて、技術的特徴も含まれていなければ、特許は付与されない。
シンガポール知的財産庁の特許出願審査ガイドライン(以下「ガイドライン」という。)の8.6および8.7は、ソフトウェア発明の一種であるコンピュータ実装発明の発明適格性について、以下のように規定している。
特許出願審査ガイドライン 8.6 コンピュータ実装発明(computer-implemented inventions:CIIs)に関するクレームの実際の貢献を検討する場合、審査官は、クレームで定義された発明にコンピュータ(またはその他の技術的特徴)がどの程度貢献しているかを判断する必要がある。このようなCIIsの場合、コンピュータ(またはその他の技術的特徴)が実際に貢献するためには、クレームで定義されたコンピュータ(またはその他の技術的特徴)が発明に不可欠であることが証明されなければならない。 8.7 例えば、コンピュータが実装されたビジネス方法に関連するクレームは、さまざまな技術的特徴(サーバー、データベース、ユーザー・デバイスなど)がビジネス方法のステップと(i)重要な程度に、かつ(ii)特定の問題に対処するような方法で相互作用する場合、発明とみなされる。「重要な程度」が意味する例として、クレームは、ビジネス方法を実行するための既知のハードウェアコンポーネントを記載している場合があるが、ハードウェアの全体的な組み合わせが、取引を実行するためのより安全な環境を提供する場合、ハードウェアは特定の問題に対処するためにビジネス方法と重要な程度で相互作用しているとされる。この場合、実際の貢献は、ビジネス方法にそのハードウェアを組み合わせて使用することである可能性が高く、これは発明とみなされる。 ただし、クレームに記載されている技術的特徴が、標準的なオペレーティングシステムの動作に過ぎない場合、特に、純粋なビジネス方法を実行するための汎用コンピュータ、またはコンピュータ・システムの使用である場合、そのような相互作用は重要な程度とはみなされず、特定の問題が解決されないことは明らかである。実際の貢献はビジネス方法である可能性が高く、クレームされた主題は、クレームに「コンピュータの実装」という用語または同様の一般的な用語を単に含めるだけでは「発明」とはみなされない。 |
2. 治療方法
2-1. 特許法の規定
現行のシンガポール特許法(以下「特許法」という。)第16条(2)によって、治療方法は、以下のとおり、産業上利用可能であるとは認められないと規定されている。
シンガポール特許法 第16条 産業上の利用 (2)人もしくは動物の体の外科術若しくは治療術による処置方法または人若しくは動物の体について行う診断方法の発明は、産業上利用可能であるとは認められない。 (3) (2)は、物質または組成物から成る製品が当該方法において用いるために発明されたという理由のみの理由で、当該製品を産業上利用可能として取り扱うことを妨げるものではない。 ((1)は省略) |
しかし、産業上の利用可能性による特許適格性の除外は、人または動物の体について行う外科術、治療術または診断の方法にのみ適用され、特許法第16条(3)は、このような方法で使用する目的で発明された物質または組成物からなる製品については、特許を受けることができると規定している。
また、特許法第16条(3)は、さらに特許法第14条(10)によって補足されている。特許法第14条(10)は、第16条(2)により除外された治療方法において使用される既知の物質または組成物の場合、当該物質または組成物が技術水準の一部を構成するという事実は、当該物質または組成物の当該方法における使用が技術水準の一部を構成しないときは、発明を新規なものと認めることを妨げるものではないと規定している。
シンガポール特許法 第14条 新規性 (10) 人もしくは動物の体の外科術若しくは治療術による処置方法または人もしくは動物の体について行われる診断方法において用いる物質または組成物から成る発明の場合に、当該物質または組成物が技術水準の一部を構成するという事実は、当該物質または組成物の当該方法における使用が技術水準の一部を構成しないときは、発明を新規なものと認めることを妨げるものではない。 ((10) 以外は省略) |
2-2. ガイドラインの解釈による医療用途クレーム
ガイドラインの8.118および8.138において、特許法第16条(2)および第16条(3)の解釈に基づき、次のように説明している。
すなわち、ガイドライン8.118では「これまで医療目的で使用されたことのない既知の物質または組成物は、第一医療用途クレームとして請求項に記載することが可能である」とし、また8.138では「物質または組成物の第二以降の医療用途クレームは、スイスタイプクレームの形式でのみ請求項に記載することができる」としている。
2-2-1. 第一医療用途クレームの具体例
ガイドラインの8.120と8.122において、認められる第一医療用途クレームについて、例が示されている。
(1) 治療において使用される化合物X
(2) 薬品として使用される化合物X
(3) 疾患Yの治療に使用される化合物X
また、ガイドライン8.124には、認められない第一医療用途クレームの例が示されている。
(4) 治療時に使用される化合物X
(5) 疾患Yの治療のための化合物X
2-2-2. 第二医療用途クレームの具体例
ガイドライン8.145には、認められる第二医療用途クレームについて例が示されている。
(1) 疾患Yの治療のための医薬品の製造における化合物Xの使用
(2) 疾患Yの治療のための医薬組成物の製造における化合物Xの使用
ガイドライン8.146では、認められない第二医療用途クレームの例が示されている。
(3) 疾患Yの治療のための化合物Xの使用
(4) 病状Yの治療において使用する化合物X
3. 特許を受けることができないその他の主題
前述のシンガポール特許法(1995年2月施行)第13条(2)は削除されたが、これに替わってガイドラインは8.9から8.34において、特許を受けることができない主題を列記している。例えば、以下のような記載がある。
(1) 発見
多くの発明は発見に基づいているが、発明を構成するには「それ以上の何か」がなければならない。物質の特定の特性を発見すると、その物質に関する知識は蓄積されるがそれ自体は発明ではない。ただし、その特性によってその物質が新しい用途に応用される場合は、発明を構成する可能性がある(ガイドライン8.11)。
(2) 科学的理論および数学的方法
科学的理論や数学的方法それ自体は発明ではないが、その原理を応用することで新しい材料やプロセスが生まれた場合、その結果得られた製品は、発明とみなされる可能性がある(ガイドライン8.17)。
(3) 審美的創作物(言語、戯曲、音楽または芸術作品)
純粋に美的な創作物(文章、写真、絵画、彫刻、音楽、スピーチ、その他の芸術作品を含む)は発明ではない。これには、創作物のアイデアや精神的な側面だけでなく、作品の物理的な表現も含まれる(ガイドライン8.28)。
(4) 精神活動の遂行、ゲームの実行または事業の実施のための計画、規則または方法
精神的な活動や計画とみなされる方法は、一般的には発明ではない。これには、教授法(言語や読書の学習法など)、暗算法、記憶法、製品の設計法などが含まれる(ガイドライン8.31)。
(5) 情報の提示
情報の内容によってのみ特徴付けられる発明は、たとえ物理的な装置がその提示に関係していたとしても、発明ではない(ガイドライン8.33)。
シンガポールにおける知的財産法改正について
記事本文はこちらをご覧ください。
シンガポールにおける知的財産の基礎的情報(全体マップ)-実体編
1. 出願ルート
シンガポールでは、特許権、意匠権、商標権を取得するために、以下のルートにより出願することができる。また、特許、意匠、商標について、国際出願ができる。
[シンガポールにおける出願ルート]
直接出願 | 国際出願 | 広域出願 | |
---|---|---|---|
特許 | 可 | 可 | 不可 |
実用新案 | – | – | – |
意匠 | 可 | 可 | 不可 |
商標 | 可 | 可 | 不可 |
<諸外国・地域・機関の制度概要および法令条約等>
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/mokuji.html
2. 法令・制度等
(1) 主な法律
法域 | 法律・規則(公用語)/(英語) a: 法律・規則等の名称 b: 主な改正内容 URL: | 改正年 (YYYY) | 施行日 (DD/MM/ YYYY) |
---|---|---|---|
特許 | (公用語・英語) a: Singapore Patents Act 1994(シンガポール特許法) b:Intellectual Property (Dispute Resolution) Act 2019(Act 23 of 2019)により、シンガポール特許法が改正された。主な改正点は以下のとおりである。 1. 登録の有効性証明書の付与が裁判所だけでなく登録官も付与可能となった(特許法第72条)。 2. 裁判における示談の徴収金額について上限が定められた(特許法第103条)。 URL: https://sso.agc.gov.sg/Act/PA1994 【参考】Intellectual Property (Dispute Resolution) Act 2019(Act 23 of 2019) https://sso.agc.gov.sg/Acts-Supp/23-2019/Published/20190911?DocDate=20190911 | 2019 | 10/06/2022 (最終施行日) |
(日本語) a: シンガポール特許法 URL: https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaik当oku/document/mokuji/singapore-tokkyo.pdf | |||
(公用語・英語) a: Singapore Patents Act 1994(シンガポール特許法) b: Intellectual Property (Amendment) Act 2022 (Act No. 7 of 2022)により、シンガポール特許法が改正された。主な改正点は以下のとおりである。 1. 実質的な応答の必要がなく、軽微な補正で対処できる場合には、審査官は、見解書に代えて補正指令書を出願人に提供して、補正を求めることができるようになった(特許法第29条(7B))。 2. 再審理の請求時に、すべての未解決の拒絶理由を解消する目的で補正書が提出された場合には、審査官は、従前の審査報告書に同意するか否かを明記する必要がなくなった(特許法第29B条(4A))。 3. シンガポール知的財産庁が調査の最終結果または英語による国際調査報告書を作成し、かつ報告書が事前に出願人に送付されている場合には、出願人は、審査請求時に調査結果の写しを提出する必要がなくなった(特許法第29条(1)(c))。 4. 英語以外の言語で出願された国際出願の国内段階への移行時に、英訳の公開を求める申請書の提出および英訳の公開手数料が廃止された(特許法第86条(6))。 5. 登録官は、第三者からの請求がない場合であっても、裁量によって、公開された出願に関する一切の情報および書類を公開することができるようになった(特許法第108条(1A))。 URL: https://sso.agc.gov.sg/Act/PA1994 【参考】Intellectual Property (Amendment) Act 2022 (Act No. 7 of 2022) https://www.wipo.int/wipolex/en/text/587162 | 2022 | 26/05/2022 | |
(日本語) a: シンガポール特許法 URL: https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaik当oku/document/mokuji/singapore-tokkyo.pdf | |||
(公用語・英語) a: Singapore Patent Rules(シンガポール特許規則) b: 2022年改正特許法が施行され、これにより特許規則が改正された。主な改正点は以下のとおりである。 1. 要約に添付する図の数が2つまでに制限された(特許規則22(6)) 2. 所定の書類の提出義務が削除された(特許規則26(4A))。例えば、特許出願が先の出願を参照する場合、先の出願に関する書類が以前に提出されていれば、先の出願と対応する書類の複写の提出は不要となる。 3. 配列リストを提出する際に、WIPO 標準で要求される配列リストの提出が必要となった(特許規則19A)。 4. 出願が、単一性の要件を満たさない場合、最初の発明のみに審査が制限されることになった(特許規則45(1A))。 URL: https://sso.agc.gov.sg/SL/PA1994-R1 【参考】Patents(Amendment NO. 2) Rules 2022 https://sso.agc.gov.sg/SL-Supp/S399-2022/Published/20220523?DocDate=20220523#pr25- | 2022 | 26/05/2022 | |
(日本語) a: シンガポール特許規則 URL: https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/singapore-tokkyo_kisoku.pdf | |||
関連記事:シンガポールにおける特許制度のまとめ-手続編(2022.12.01) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/27217/ 関連記事:シンガポールにおける特許制度のまとめ-実体編(2020.05.19) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18575/ 関連記事:「シンガポールにおける知的財産法改正について」(2023.03.16) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/34012/ 関連記事:「シンガポールの法令へのアクセス方法―AGCウェブサイト」(2023.11.14) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/37646/ 関連記事:シンガポールにおける特許公報へのアクセス方法(2022.10.25) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/26817/ 関連記事:「シンガポールにおける特許出願制度概要」(2019.07.25) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17577/ 関連記事:「シンガポールの特許関連の法律、規則、審査基準等」(2021.05.11) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/19849/ 関連記事:「シンガポールにおける特許、意匠年金制度の概要」(2022.11.15) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/27089/ 関連記事:シンガポールにおける特許審査迅速化の方法(2023.02.14) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/33773/ | |||
意 匠 | (公用語・英語) a: Singapore Registered Designs Act 2000(シンガポール意匠法) b:Intellectual Property (Dispute Resolution) Act 2019(Act 23 of 2019)により、シンガポール意匠法が改正された。主な改正点は以下のとおりである。 1. 登録の有効性証明書の付与が裁判所だけでなく登録官も付与可能となった(意匠法第43条)。 2. 裁判における示談の徴収金額について上限が定められた(意匠法第68条)。 URL: https://sso.agc.gov.sg/Act/RDA2000 【参考】Intellectual Property (Dispute Resolution) Act 2019(Act 23 of 2019) https://sso.agc.gov.sg/Acts-Supp/23-2019/Published/20190911?DocDate=20190911 | 2019 | 10/06/2022 (最終施行日) |
(日本語) a:シンガポール意匠法 https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/singapore-ishou.pdf | |||
(公用語・英語) a: Singapore Registered Designs Act(シンガポール意匠法) b: Intellectual Property (Amendment) Act 2022 (Act No. 7 of 2022) により、シンガポール意匠法が改正された。主な改正点は以下のとおりである。 1. パリ条約出願の優先権の主張において、組物の意匠も対象とされることが明記された(意匠法第12条(1)(a))。 2. 意匠権の部分放棄が明記された(意匠法第30A条(1))。 3. 登録意匠の虚偽表示に関して組物の意匠が明記された(意匠法第66条(1))。 4. 申請、通知または書類の修正に関して登録官が公開できることが明記された(意匠法74条(2A))。 URL: https://sso.agc.gov.sg/Act/RDA2000 【参考】Intellectual Property (Amendment) Act 2022 (Act No. 7 of 2022) https://www.wipo.int/wipolex/en/text/587162 | 2022 | 26/05/2022 | |
(日本語) a:シンガポール意匠法 https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/singapore-ishou.pdf | |||
(公用語・英語) a: Singapore Registered Designs Rules(シンガポール意匠規則) b: 2022年改正意匠法が施行され、これにより意匠規則が改正された。主な改正点は以下のとおりである。 1. 権利者は、登録された意匠によって付与された特定の特徴に関する権利を自発的に放棄することができるようになった(意匠規則14A)。 2. 失効した権利の回復期間が、6か月から2か月へ短縮された(意匠規則 25(2)(a))。 3. 優先権主張を伴った出願の出願人は、登録官が要求した日から 3 月以内に、優先権基礎出願の出願番号を提出しなければならない(意匠規則19(2AA))。 URL: https://sso.agc.gov.sg/SL/RDA2000-R1 【参考】 Registered Designs (Amendment NO. 2) Rules 2022 (2022年意匠規則改正条項) https://sso.agc.gov.sg/SL-Supp/S402-2022/Published/20220523?DocDate=20220523 | 2022 | 26/05/2022 | |
(日本語) a: シンガポール意匠規則 URL: https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/singapore-ishou_kisoku.pdf | |||
関連記事:「シンガポールにおける意匠登録出願制度概要」(2019.7.30) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17579/ 関連記事:「シンガポールの意匠関連の法律、規則等」(2019.04.02) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16806/ 関連記事:「シンガポールにおける意匠公報へのアクセス方法」(2024.02.06) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/38195/ 関連記事:「シンガポールにおける意匠登録の機能性および視認性」(2018.10.04) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15931/ 関連記事:「シンガポールにおける意匠の公開延期請求について」(2019.09.05) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17676/ 関連記事:「日本とシンガポールの意匠出願における実体審査制度の有無に関する比較」(2015.09.25) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/9296/ 関連記事:「日本とシンガポールにおける意匠権の権利期間および維持に関する比較」(2015.03.31) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8454/ | |||
商標 | (公用語・英語) a: Singapore Trade Marks Act 1998(シンガポール商標法) b:Intellectual Property (Dispute Resolution) Act 2019(Act 23 of 2019)により、シンガポール商標法が改正された。主な改正点は以下のとおりである。 1. 登録の有効性証明書の付与が裁判所だけでなく登録官も付与可能となった(商標法第102条)。 2. 裁判における示談の徴収金額について上限が定められた(商標法第105A条)。 URL: https://sso.agc.gov.sg/Act/TMA1998 【参考】Intellectual Property (Dispute Resolution) Act 2019(Act 23 of 2019) https://sso.agc.gov.sg/Acts-Supp/23-2019/Published/20190911?DocDate=20190911 | 2019 | 10/06/2022 (最終施行日) |
(日本語) a: シンガポール商標法 URL: https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/singapore-shouhyou.pdf | |||
(公用語・英語) a: Singapore Trade Marks Act 1998(シンガポール商標法) (Chapter 332, Revised Edition 2005) b: Intellectual Property (Amendment) Act 2022 (Act No. 7 of 2022) により、シンガポール商標法が改正された。主な改正点は以下のとおりである。 1. 国内の商標出願を対象とした部分登録制度が導入され、拒絶された商品または役務のみが取り下げられるか、拒絶されることになった(第12条(4)(b))。 2. 取下げとされた出願の手続継続に関して規則で制定することができるとされ、商標出願が取り下げられた日から6か月以内に、出願継続の請求をすることができる期間が短縮された(第108条(ia))。 URL: https://sso.agc.gov.sg/Act/TMA1998 【参考】Intellectual Property (Amendment) Act 2022 (Act No. 7 of 2022) https://www.wipo.int/wipolex/en/text/587162 | 2022 | 26/05/2022 | |
(日本語) a: シンガポール商標法 URL: https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/singapore-shouhyou.pdf | |||
(公用語・英語) a: Singapore Trade Marks Rules(シンガポール商標規則) b: 2022年改正商標法が施行され、これにより商標規則が改正された。 1. 出願人は、出願が取り下げられたとみなされた日から 2か月以内に、出願手続を継続するように登録官に請求を行うことができることとされた(商標規則77AA(2),(3)(a))。 2. 拒絶理由通知に対して応答しない場合、従来は出願全体が取り下げられたものとされていたが、改正により拒絶理由通知を受けた商品・役務のみが取下げられたものとして扱われ、残りの商品・役務に関する出願手続は続行されることとなった(商標規則24(2))。 URL: https://sso.agc.gov.sg//SL/332-R1?DocDate=20220523 【参考】 Trade Narks (Amendment NO. 2) Rules 2022 (2022年商標規則改正条項) https://sso.agc.gov.sg/SL-Supp/S403-2022/Published/20220523?DocDate=20220523 | 2022 | 26/05/2022 | |
(日本語) a:シンガポール商標規則 URL: https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/singapore-shouhyou_kisoku.pdf | |||
関連記事:シンガポールにおける商標制度のまとめ-手続編(2020.09.03) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19446/ 関連記事:シンガポールにおける商標制度のまとめ-実体編(2020.06.09) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18623/ 関連記事:シンガポールにおける商標公報へのアクセス方法(2022.10.25) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/26789/ 関連記事:シンガポールにおける商標のコンセント制度について(2023.01.05) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/27455/ 関連記事:シンガポールにおける英語以外の言語を含む商標の出願(2021.06.29) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/20345/ 関連記事:シンガポールにおける顧客に好まれない商標および顧客に好まれる商標(2024.01.25) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/38116/ 関連記事:シンガポールにおける商標の識別性に関する調査(2021.09.02) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/20809/ | |||
著作権法 | (公用語・英語) a: Singapore Copyright Act(シンガポール著作権法) b: 2021年9月に可決され2021年11月21日に施行された改正法 URL: https://sso.agc.gov.sg/Acts-Supp/22-2021/Published/ | 2021 | 21/11/2021 |
(日本語) なし 【参考】https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/asia/2021/sg/20211126.pdf | |||
不正競争 | (公用語・英語) シンガポールには、日本の不正競争防止法のような営業秘密等の 保護を規定する明確な法律は存在せず、営業秘密は判例法により保護されている。 【参考】https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/outreach_r3_singapore.pdf | ― | ― |
(日本語) なし |
(2) 審査基準等
(3) 主な条約・協定(加盟状況)
条約名 | 加盟 | 加盟予定 (YYYY) | 未加盟 |
---|---|---|---|
(1) パリ条約 (工業所有権の保護に関するパリ条約) | ☒ | ☐ ( ) | ☐ |
(2) PCT (特許協力条約) | ☒ | ☐ ( ) | ☐ |
(3) TRIPs (知的所有権の貿易関連の側面に関する協定) | ☒ | ☐ ( ) | ☐ |
(4) PLT (特許法条約) | ☐ | ☐ ( ) | ☒ |
(5) IPC (国際特許分類に関するストラスブール協定) | ☒ | ☐ ( ) | ☐ |
(6) ハーグ協定 (意匠の国際登録に関するハーグ協定) | ☒ | ☐ ( ) | ☐ |
(7) ロカルノ協定 (意匠の国際分類を定めるロカルノ協定) | ☐ | ☐ ( ) | ☒ |
(8) マドリッド協定 (標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書) | ☒ | ☐ ( ) | ☐ |
(9) TLT (商標法条約) | ☐ | ☐ ( ) | ☒ |
(10) STLT (商標法に関するシンガポール条約) | ☒ | ☐ ( ) | ☐ |
(11) ニース協定 (標章の登録のため商品及びサービスの国際分類に関するニース協定) | ☒ | ☐ ( ) | ☐ |
(12) ベルヌ条約 (文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約) | ☒ | ☐ ( ) | ☐ |
(13) WCT (著作権に関する世界知的所有権機関条約) | ☒ | ☐ ( ) | ☐ |
(14) WPPT (実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約) | ☒ | ☐ ( ) | ☐ |
3. 料金表
[情報1]
(公用語・英語) Title: First Schedule (After Rule 120) of the “Patents Rules” URL: https://sso.agc.gov.sg/SL/PA1994-R1 |
(日本語) Title: シンガポール特許規則、附則1「手数料」 URL: https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/singapore-tokkyo_kisoku.pdf |
(公用語・英語) Title: Forms & Fees(様式および手数料) URL: https://www.ipos.gov.sg/about-ip/form-fees |
(日本語) なし |
関連記事:「シンガポールにおける特許、意匠年金制度の概要」(2022.11.15) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/27089/ 関連記事:「シンガポールにおける特許ライセンス」(2018.06.28) https://www.globalipdb.inpit.go.jp/license/15376/ |
シンガポールにおける特許新規性喪失の例外
1. 背景
シンガポールにおいて、発明が新規とみなされるのは、シンガポール特許法(以下、「特許法」という。)の第14条(2)項に定義される「技術水準」の一部を構成しない場合である。
シンガポール特許法 第14条 新規性 (1) 発明は、それが技術水準の一部を構成しない場合は、新規とみなされる。 (2) 発明の場合の技術水準とは、その発明の優先日前の何れかの時点で書面若しくは口述による説明、使用又は他の方法により(シンガポールにおいてか他所においてかを問わず)公衆の利用に供されているすべての事項(製品、方法、その何れかに関する情報又は他の何であるかを問わない)を包含するものと解する。 (3) 特許出願又は特許に係わる発明の場合の技術水準とは、次の条件が満たされるときは、その発明の優先日以後に公開された他の特許出願に含まれる事項をもまた包含するものと解する。 (a) 当該事項が当該他の特許出願に、出願時にも、公開時にも、含まれていたこと、及び (b) 当該事項の優先日が当該発明の優先日よりも早いこと ((4)以下省略) |
一方、特許法第14条(4)項は、シンガポールにおいて発明の新規性評価の際に無視される特定の種類の開示に関して、12か月の猶予期間を規定している。この12か月の猶予期間は、優先日(該当する場合)ではなく、シンガポールにおける特許出願日から起算することに注意すべきである。
2. 新規性評価から除外される開示
2-1. 不法な開示または秘密漏洩による開示
特許法第14条(4)項(a)および(b)は、あらゆる者によるあらゆる不法または不正な開示は新規性評価から除外されると規定している。日本の特許法に基づく要件と同様に、この例外規定に依拠するには、開示が不法または不正なものであった(即ち、不法な方法もしくは秘密漏洩により情報が入手された、または秘密漏洩により情報が開示された)という証拠を示す必要がある。シンガポールの法律は出願の提出後すぐにかかる証拠を提出することを義務づけていないが、IPOS(Intellectual Property Office of Singapore)は、先行開示が実際に不法または不正なものであったと納得できるように(宣誓供述書その他の証拠に基づく)証明を要求する場合がある。したがって、発明者または出願人は、発明に関する情報または文書に「秘密」の表示が確実に付されるように手段を講じることが望ましい。さらに重要な点として、かかる情報または文書(秘密情報)が限定された目的のためだけに提供されるものであって、他の目的への当該秘密情報の使用は不正使用となることを、当該秘密情報の受領者に確実に認識させるための手段を講じるべきである。
2-2. 国際博覧会での開示
特許法第14条(4)項(c)において、国際博覧会で発明者により行われたあらゆる開示は新規性評価の際に無視されると規定されている。「国際博覧会」の範囲は、特許法第2条(1)項において、下記のように狭義に定義されている。
シンガポール特許法 第2条 定義 (1) 本法では、文脈上他に要求されない限り、 (途中省略)「国際博覧会」とは、国際博覧会に関する条約の規定に該当するか又は同条約に代わるその後の条約の規定に該当する公式又は公認の国際博覧会をいう。 (以下省略) |
実際問題として、この例外規定に依拠するのは難しい。なぜなら、「国際博覧会」の狭義の定義に該当する博覧会は、極めて少ないためである。博覧会国際事務局のウェブサイト(https://www.bie-paris.org/site/en)において、「国際博覧会」として指定された博覧会には「万国博覧会」、「専門博覧会」、「園芸博覧会」、「ミラノ・トリエンナーレ装飾芸術・近代建築展」の4種類があり全博覧会が掲載されている。
この例外規定を利用するには、2017年10月の法改正以前は、シンガポール出願の提出時にIPOSに対し手続が必要であったが、現在は、事後の届出で足りることとなった(シンガポール特許出願審査ガイドライン(以下、「ガイドライン」という。)第3章3.113)。出願人は、出願にかかる発明が国際博覧会において開示された旨を述べるとともに、国際博覧会の開会日、開会日が最初の開示を行った日と異なる場合には最初の開示を行った日の特定、そして発明が国際博覧会で展示されたことを示す1件以上の証拠を添付する必要がある(シンガポール特許規則(以下、「特許規則」)という。)8(1)(b))。
2-3. 学会発表における開示
特許法第14条(4)項(d)において、学会(learned society)において、書面による発明に関する解説が発明者により発表された場合、もしくは発明者の同意の下または発明者の代理として他人が発表した場合は、新規性評価の際に無視されると規定されている。特許法の解釈上、「学会」とは次のものを含む。
シンガポール特許出願審査ガイドライン 第3章 3.126 「学会」には、シンガポールまたは他のあらゆる場所で設立されたあらゆる会員制組織または団体であって、その主な目的がいずれかの学問または科学技術の振興であるものが含まれる。 (以下省略) |
さらに、具体的な規定がガイドライン第3章3.126-3.128項に設けられており、一部を抜粋すると「例として政府の部局、大学の部門、または企業の開催する会議は学会に該当しない。その一方、the Royal Society of Chemistry(英国王立化学会)やIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers、米国電気電子学会)の開催する会議は一般的に学会と判断される。」と規定されている。
2-4. 発明者により行われた開示、または発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行うあらゆる開示
2017年10月の法改正により、特許法第14条(4)項(e)において、発明者により行われた開示、または発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行うあらゆる開示について、特許法第14条(6)項および(7)項に該当する場合、新規性喪失の例外規定の適用とする旨、規定されている。
特許法第14条(6)項および(7)項においては、例外規定の適用を受けられる知的財産行政庁による公開類型を規定している。
例えば、
①発明者の同意を得ずに、発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行った出願が公開になった場合
②出願公開前に取下げ、拒絶、放棄になり、シンガポールまたはそれ以外の法律に基づき公開の必要がないにも拘らず、出願が誤って公開になった場合
③シンガポールまたはそれ以外の法律に基づき誤って所定の公開・公告時期よりも早く開示された場合。その場合、所定の公開・公告時期に開示されたものとして取り扱う。
上記②、③の場合であって海外の知的財産行政庁が関わる場合には、誤って公開になったことの確認、および上記③の場合には所定の公開・公告時期に関する情報を含む、海外の知的財産行政庁による確認書面を提出する必要がある(特許規則8(1)(c))。
特許法第14条(4)項(e)は、発明者自身による開示行為、および発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行う開示行為を包括的に例外規定の適用対象としつつ、特許法第14条(6)項および(7)項において、知的財産行政庁(各国の特許庁や国際機関を含む)による公開類型に制限をかけ、例えば、出願人が自ら行った出願が出願公開になった場合に新規性喪失の例外規定の適用とならないようにしている(ガイドライン第3章3.110項)。
3. 新規性喪失の例外規定の適用手続
3-1. 適用申請の時期
以下に示すいずれかの時期に適用申請を行うことができる(ガイドライン第3章3.113)。
①サーチ・審査請求時
②審査請求時
③サーチ・審査報告または審査報告に対する再審理(review)請求時
④審査官の指令に対する応答時
3-2. 適用申請の必要書類
宣誓書/宣誓供述書の形式で必要な証拠を添付して適用申請を行うものとする(特許規則8(1)(a))。
4. 新規性喪失の例外規定の適用対象となる開示行為
2017年10月の法改正点については、新規性喪失に至る開示行為が2017年10月30日以降に行われた場合に適用となる。開示行為が2017年10月30日よりも前に行われた場合には、シンガポールでの特許出願が2017年10月30日以降に行われた場合であっても、改正法に基づく新規性喪失の例外規定は適用されない(ガイドライン第3章3.120)。
【留意点】
シンガポールでは、2017年10月の改正により、発明者により行われた開示、または発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行うあらゆる開示を包括的に対象とすべく、発明の新規性喪失の例外規定の適用範囲が拡大された。IPOSは、発明の新規性喪失の例外規定の拡大は、発明が出願に先立って公知となった場合の限定的なセーフティネットを提供するものに過ぎないとし、公知とする前に出願することを推奨していることに留意されたい。
シンガポールにおける産業財産権の検索データベースの調査2022
「ASEANにおける産業財産権の検索データベースの調査 2022」(2023年3月、日本貿易振興機構 バンコク事務所(知的財産部))
「ASEANにおける産業財産権の検索データベースの調査2022」(2023年3月、日本貿易振興機構 バンコク事務所(知的財産部))第5章 シンガポール
(目次)
第5章 シンガポール P.163
(シンガポール知的財産庁(IPOS)のデータベースであるIPOS Digital Hubシステム上の特許の案件データに基づき、2022年に公開された出願を対象とし算出した「出願から公開までに要した期間」、および2022年に登録された案件を対象とし算出した「出願から登録までに要した期間」について紹介している。また、2004年から2022年に①公開された案件、および②登録された案件について、それぞれ、①出願から公開まで、および②出願から登録までの経過期間の分布を、全案件、出願人国籍別、出願ルート別、技術分野別にグラフで紹介している。加えて、2019年から2021年までの各年の出願を対象とし算出した、全出願人を対象とした出願件数上位ランキング、日本国籍出願人を対象とした出願件数上位ランキング、技術分野別の出願件数上位ランキング、外国出願人のシンガポール第一国出願の出願件数上位ランキングを紹介している。さらに、2003年から2022年までの各年の出願についての2023年1月時点での登録率を紹介している。)
1. 特許 P.163
1.1 産業財産権の権利化期間 P.163
1.2 産業財産権の出願件数上位リスト P.185
1.3 登録率 P.191
シンガポールにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)
1. 記載個所
発明の新規性については、シンガポール特許法第14条に規定されている。
第14条 新規性 (1) 発明は、それが技術水準の一部を構成しない場合は、新規とみなされる。 (2) 発明の場合の技術水準とは、その発明の優先日前の何れかの時点で書面若しくは口述による説明、使用又は他の方法により(シンガポールにおいてか他所においてかを問わず)公衆の利用に供されているすべての事項(製品、方法、その何れかに関する情報又は他の何であるかを問わない)を包含するものと解する。 (3) 特許出願又は特許に係わる発明の場合の技術水準とは、次の条件が満たされるときは、その発明の優先日以後に公開された他の特許出願に含まれる事項をもまた包含するものと解する。 (a) 当該事項が当該他の特許出願に、出願時にも、公開時にも、含まれていたこと、及び (b) 当該事項の優先日が当該発明の優先日よりも早いこと ((4)以下省略) |
新規性に関する審査基準については、シンガポール特許審査ガイドライン(以下、「シンガポール特許審査基準」という。)の「第3章 新規性」に規定があり、その概要(目次)は、以下のとおりである。
第3章 新規性 A. 法廷要件(3.1-3.4) B. 先行技術(3.5-3.10) i. 第三者による自明性(3.11-3.17) C. 先行開示(3.18-3.24) D. 実施可能性(3.25-3.29) E. 公開物(3.30-3.38) F. 黙示的開示(3.39-3.41) G. 必然的な開示(3.42-3.48) H. 誤った引用(3.49-3.53) I. 予測される開示(3.54-3.56) J. 範囲の予測性(3.57-3.59) K. パラメータクレームの予測性(3.60-3.61) L. 用途クレームの予測性(3.62-3.72) M. 先行使用(3.73-3.79) N. 第14条 (3)に基づく先行技術(3.80-3.84) O. 優先日(3.85-3.109) P. 新規性の例外(グレースピリオド)(3.110-3.125) i.学会(3.126-3.128) |
2. 基本的な考え方
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第1節「2. 新規性の判断」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第3章3.1-3.4
(2) 異なる事項または留意点
シンガポール特許審査基準では、日本の審査基準で規定されるような審査官の具体的な審査手順は規定されておらず、裁判例に基づいたクレームや新規性の解釈および考え方が主に述べられている。
シンガポール特許審査基準によれば、発明が、技術水準の一部を形成しない場合は、新規性があると見なされる。具体的な特徴の組み合わせが、先行技術ですでに開示されている場合、クレームで定義された発明は新規性がない(第3章3.1-3.3)。
新規性の判断について、シンガポールの裁判所は一般的に英国の判例に従ってきた。英国のアプローチに関する最新の解説(SmithKline Beecham Plc’s (Paroxetine Methanesulfonate) Patent [2006] RPC 10)では、英国貴族院の判断として、事前開示と実施可能性の2つが予測性の要件とされている。この2つは別々の概念で、独自の規則があり、それぞれに充足する必要がある(第3章3.4)。
3. 請求項に記載された発明の認定
3-1. 請求項に記載された発明の認定
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第一段落に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第2章2.5-2.8、第5章5.45、5.74
(2) 異なる事項または留意点
特許出願が行われたかまたは特許が付与された発明は、文脈上他に要求されない限り、当該出願または場合により特許明細書に含まれる説明および図面により解釈されたクレームにおいて指定された発明であると解され、かつ特許または特許出願により与えられる保護の範囲は、相応に決定される(第2章2.5-2.7)。
審査の過程では、常に目的論的アプローチが取られるべきである。クレーム解釈は、法律問題であって、特許権者自身が実際に言わんとしていることとは関係がない。クレームの文言から、当業者であれば、特許権者の意図をどのように理解するかを判断する目的で、解釈されるべきである(第2章2.8)。
クレームの単語を解釈する際は、まず、それらの単語の意味が、発明の時点で当業者が通常考えたはずの意味を持つと想定すべきである。書き手が特別な意味を与えた用語については、そのことを考慮に入れる必要がある(第2章2.37)。
シンガポール特許法第113条では、与えられる保護の範囲は、特許明細書に含まれる説明および図面によって解釈される出願のクレームに従って決定されると定めている(第5章5.74)。
シンガポールでは、クレーム解釈においては目的論的な手法が取られている。審査官はクレーム解釈において、明細書の本文、図面および技術常識を考慮する。
シンガポール特許法第25条(5)(b)では、クレームは明確かつ簡潔でなければならないと規定している。当業者にとって、使用されている文言を理解するのが難しいかどうかが、明確性の基準である(Strix Ltd v Otter Controls Ltd [1995] RPC 607)。この要件は、クレーム全体にも、個々のクレームにも適用される(第5章5.45)。
明細書の本文、図面および技術常識を考慮しても、クレームが不明確な場合、審査官が調査を実施しない場合もあるので注意が必要である。
3-2. 請求項に記載された発明の認定における留意点
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第二段落に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第2章2.5-2.7、第5章5.76
(2) 異なる事項または留意点
シンガポールでは、クレーム解釈においては目的論的な手法が取られており、審査官は、クレームに焦点を当てて特許の範囲を判断する。クレームと明細書の本文および図面との間に何らかの矛盾があり、保護の範囲に不確実性が生じれば、明確性違反の拒絶理由が通知される。
先に述べたように、特許出願が行われたかまたは特許が付与された発明は、文脈上他に要求されない限り、当該出願または場合により特許明細書に含まれる説明および図面により解釈されたクレームにおいて指定された発明であると解され、かつ特許または特許出願により与えられる保護の範囲は、相応に決定される(第2章2.5-2.7)。
補正の結果として、明細書の本文や図面の中に、クレームと矛盾する具体的な実施例や記載があり、その矛盾が、出願人が求める保護の範囲に疑いを投げかける場合は、明確性違反の拒絶理由を通知すべきである。この拒絶理由を(通知された場合)どのように克服するかは出願人次第であり、一般に最もシンプルな方法は、クレームの範囲に含まれなくなった主題を削除することであるが、その主題が発明の実施例の構成要素でないことが明細書の本文で明らかになっていれば、その主題を保持することもできる(第5章5.76)。
4. 引用発明の認定
4-1. 先行技術
4-1-1. 先行技術になるか
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1 先行技術」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第3章3.2、3.35-3.36
(2) 異なる事項または留意点
発明における技術水準には、当該発明の優先日以前のいずれかの時点で、書面、口頭説明またはその他の方法によって(シンガポールか他国かを問わず)公開されたすべての事項(生産物、方法、そのいずれかまたはそれ以外のものに関する情報)が含まれると解釈される。
特許出願または特許に係る発明における技術水準には、以下の条件を満たす場合、当該発明の優先日以降に公開された別の特許出願に記載された事項も含まれると解されるべきである(第3章3.2)。
(a) 当該事項が、別の特許出願の出願時点と公開時点の両方で記載されていた、
(b) 当該事項の優先日が、発明の優先日よりも早い。
シンガポールでは、時や分に関する基準は定められていないが、時差については、先行技術公開の判断において考慮され、シンガポール時間(GMT +8)が適用される(第3章3.35-3.36)。
4-1-2. 頒布された刊行物に記載された発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節3.1.1「(1)刊行物に記載された発明」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第3章3.30、3.32
(2) 異なる事項または留意点
シンガポールでは、不完全な先行技術に関する具体的な規制はなく、刊行物の記載に基づいて先行技術が認識されるという明確な基準も定められていない。審査基準では、発明の開示は、初めて公開された日に技術水準の一部になると規定されている。したがって、不完全であっても、あるいは刊行物の記載でなくても、公開され次第、先行技術になる。
開示された発明は、初めて公開された日に技術水準の一部になる。特に、開示の期間、場所、種類(紙か電子データか)、刊行物の言語などについて、シンガポール特許法ではいかなる要件も定めていない。文献は、閲覧のために料金が必要であっても、公開されていることになる。また、文献が実際に公衆の一人に読まれたことを証明する必要はなく、公衆による当然の権利として閲覧が可能であれば、その文献は公開されたものと見なされる(第3章 3.30、3.32)。
4-1-3. 刊行物の頒布時期の推定
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節3.1.1「(2) 頒布された時期の取扱い」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第3章3.30、3.33
(2) 異なる事項または留意点
シンガポールには、特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節3.1.1の「(2)頒布された時期の取扱い」で定めているような具体的な基準はない。資料に公開日があれば、その日付が公開日として使用される。ネット上の資料に公開日がなければ、WayBack Machineを使用して公開日を証明する。
時差は、先行技術の公開を判断する際に考慮される。例えば、米国時間の2015年2月7日にUSPTO(GMT -5)に出願された米国出願を基礎とする優先権を主張したシンガポール特許出願について、先行技術がインターネットによってシンガポール時間の2015年2月7日の午前9時に公開されたとすると、この先行技術はシンガポール時間(GMT +8)では、シンガポール特許法第14条(2)に基づいて技術水準となる。なぜなら、先行技術のインターネットによる公開の日は、GMT -5のタイムゾーンでは2015年2月6日であったということになり、米国基礎出願の出願日よりも早いからである(第3章3.33)。
先に述べたように、発明の開示は、初めて公開された日に技術水準の一部になる。特に、開示の期間、場所、種類(紙か電子データか)、刊行物の言語などについて、シンガポール特許法ではいかなる要件も定めていない(第3章3.30)。
公開日が文献に示されている場合(例:特許や公報にある公開日)は、それが公開日と見なされる。この公開日に出願人が異議を唱える場合は、反対の証拠が必要になる。インターネット上の日付は問題をはらんでいるかもしれないが、一般にウェブページと関連していれば、実際の公開日と見なすことができる。一方、ウェブページが明確に公開日を表示していない場合、審査官はWayBack Machineのようなネット上のアーカイブ・データベースを使用して、ウェブページがいつ公開されたについての証拠を提示できる(第3章3.33)。
4-1-4. 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第3章3.30、3.32-3.33
(2) 異なる事項または留意点
シンガポール特許審査基準では、あらゆる公開に関する一般的な基準が示されており、電気通信回線を通じた公開に限定された記載はない。
発明の開示は、初めて公開された日に技術水準の一部になる。特に、開示の期間、場所、種類(紙か電子データか)、刊行物の言語などについて、シンガポール特許法ではいかなる要件も定めていない(第3章3.30)。
文献は、閲覧のために料金が必要であっても、公開されていることになる。また、文献が実際に公衆の一人に読まれたことを証明する必要はなく、公衆による当然の権利として閲覧が可能であれば、その文献は公開されたものと見なされる(第3章3.30、3.32)。
公開日が文献に示されている場合(例:特許や公報の記事にある公開日)は、それが公開日と見なされる(第3章3.33)。
4-1-5. 公然知られた発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第3章3.30-3.31、3.110
(2) 異なる事項または留意点
シンガポールでは、出願日に先立つ12か月の間に、不法にまたは守秘義務に違反してなされた開示は、先行技術から除外される。秘密として保持しようとする発明者の意図にかかわらず「公然知られた発明」になる日本とは異なる。
発明の開示は、初めて公開された日に技術水準の一部になる。公衆の一人に対して、抑制的な束縛なく伝えることで、公開されたとするのに十分である(Bristol-Myers Co.’s Application [1969] RPC 146)。同様にMonsanto (Brignac’s) Application [1971] RPC 153事件の判決では、開示に対する制限なく、同社が販売員に文献を渡したことで、それを公開したと判断されている(第3章3.30-3.31)。
発明を構成する事項の開示は、特許出願日直前の12か月が始まった後に、当該事項が不法にまたは守秘義務に違反して取得された結果として行われた場合は無視される(第3 章3.110)。
4-1-6. 公然実施をされた発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.4 公然実施をされた発明(第29条第1項第2号)」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
対応する記載はない。
(2) 異なる事項または留意点
シンガポールでは、公然実施をされた発明に関する具体的な基準はないが、先使用に関する類似の基準はある。
シンガポール特許法第14条に定める技術水準には、先使用によって公開された事項が含まれる。特に、先使用は公にされる必要があり、秘密の使用は含まれない(秘密の先使用者の権利は、第71条で保護される)。コモンローおよび衡平法に基づき、少なくとも、自由に利用できる立場にある公衆の一人に情報が公開されていなければならない(PLG Research Ltd v Ardon International Ltd [1993] FSR 197)。ただし閲覧者に守秘義務がある場合は、発明が開示されたとは解釈されない(J Lucas (Batteries) Ltd v Gaedor Ltd [1978] RPC 297)(第3章3.73)。
(後編に続く)
シンガポールにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)
(前編から続く)
5. 請求項に係る発明と引用発明との対比
5-1. 対比の一般手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.1 対比の一般手法」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第2章2.12、2.5、第3章3.20、3.26、3.3、3.4
(2) 異なる事項または留意点
シンガポール特許審査基準には、日本の審査基準にあるような審査官の具体的な審査手順は規定されておらず、裁判例に基づいたクレームや新規性の解釈および考え方が主に述べられている。
新規性の判断について、シンガポールの裁判所は英国の判例に従ってきた。英国のアプローチに関する最新の解説(SmithKline Beecham Plc’s (Paroxetine Methanesulfonate) Patent [2006] RPC 10)では、英国貴族院の判断として、事前開示と実施可能性の2つが予測性の要件とされている。この2つは別々の概念で、独自の規則があり、それぞれに充足する必要がある(第3章3.4)。
すなわち、シンガポールでは開示の予測性の要件として、事前開示と実施可能性の2つがあるが、事前開示については、対象となるクレームのすべての特徴が、先行技術で開示されているかを検討する(第3章3.20)。実施可能性については、当業者が当該発明を実施できなければならない(第3章3.26)。
特許出願が行われたかまたは特許が付与された発明は、文脈上他に要求されない限り、当該出願または特許の明細書のクレームにおいて指定された発明であると解される(第2章2.5)。
文献によってクレームの新規性が否定されるのは、クレームのすべての特徴が開示されている場合に限られる。クレームに、同等または追加の特徴が含まれる場合、通常は自明性の問題になる(第2章2.12)。
具体的な特徴の組み合わせが、先行技術ですでに開示されている場合、クレームで定義された発明は新規性がない(第3章3.3)。
したがって、新規性の規定では、対象となるクレームのすべての特徴が、先行技術で開示されているかを検討する。一般に事前開示については、クレームで特定されるすべての特徴が開示されている場合に限って、新規性が否定される。技術的に同等または追加的な特徴がクレームに含まれている場合は、自明の拒絶理由のほうが適切である(第3章3.20)。
5-2. 上位概念または下位概念の引用発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.2 先行技術を示す証拠が上位概念または下位概念で発明を表現している場合の取扱い」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第3章3.54-3.56
(2) 異なる事項または留意点
シンガポールでは、先行技術で下位概念の特徴が開示されると、上位概念のクレームは新規性が否定される。先行技術で上位概念の特徴が開示されても、下位概念のクレームは新規性が否定されない。
クレームは、その範囲に含まれるものの事前開示がある場合に、新規性を欠く。よって、代替物を参照して発明を定義している場合、代替物のうちの一つが既知であれば、クレームは新規性がない。例えば、銅製コイルばねが開示されることで、後の金属製コイルばねのクレームが予測される。このような場合は、権利範囲からの除外によって、新規性喪失の拒絶理由を克服することが可能である。一方、上位概念の先行技術の開示は、一般に、後の下方概念のクレームを予測しない。したがって、金属製コイルばねによって、銅製コイルばねが後にクレームされるとは予測されない(第3章3.54-3.56)。
5-3. 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.2 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
対応する記載はない。
(2) 異なる事項または留意点
シンガポールの特許審査基準には、数値範囲に関しては、類似する基準がある。
パラメータによって発明を数値範囲内に限定するクレームの新規性について考える場合、その範囲内または限界点にある一つの例が既知である場合、クレームに係る範囲は新規性がない。上位概念の範囲内にある下位概念が、先行技術で明確に言及されていない場合に、下位概念の数値範囲を選択することで、クレームに係る発明を特徴づけることもできる。下位概念の範囲の新規性を証明するには、選択された範囲が狭く、例示によって、既知の上位概念の中から十分に特定されるものでなければならない。下位概念の範囲内における特定の技術的効果の有無は、進歩性を判断する際に考慮すべき事項に該当すると思われ、新規性判断の際に考慮されるべきではない(第3章3.57-3.59)。
5-4. 対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.3 対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第2章2.24
(2) 異なる事項または留意点
出願時の技術常識を参酌する手法は、日本と同じ考え方がシンガポールの審査においても適用されていると考えられる。
技術常識を有していることが当業者の最も重要な側面の一つであり、当業者を特徴づけるものであると言っても過言ではない。目的論的な解釈では、当業者が明細書を解釈する際に使用するのがこの技術常識であり、そうした背景や状況を踏まえて、当業者の立場から先行技術を解釈する(第2章2.24)。
6. 特定の表現を有する請求項についての取扱い
6-1. 作用、機能、性質または特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「2. 作用、機能、性質または特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第3章3.39、3.42-3.43
(2) 異なる事項または留意点
シンガポールには、「機能、特性等の記載により、クレームに係る発明と先行技術との対比が困難であり、厳密な対比をすることができない場合、クレームに係る発明の新規性が否定されるとの一応の合理的な疑いを抱いたときに限り、審査官は、新規性が否定される旨の拒絶理由通知をする」のような具体的な基準はない。
先行技術は、当業者の目を通して解釈され、その結果、文献の黙示的な特徴が新規性判断の目的で考慮されることもある。よって、当業者であれば、具体的に言及されていない特徴が、開示に含まれると解釈するであろうと考えられる場合は、開示に含まれる黙示的な特徴と見なされる(第3章3.39)。
General Tire v Firestone事件の判決にあるように、先の公開に含まれる指示を実行すると、必然的にクレームの侵害になる物が作られたり、侵害になる事が行われたりする場合、クレームに係る発明は新規性がない。これは、特にパラメータを参照して発明を定義するクレームと関連する。黙示的な特徴とは区別されるかもしれないが、この場合、当業者は、特徴が先行技術で開示されているとは解釈せず、先行技術の教示を繰り返せば、必然的にその結果が得られることになる。例えば、開示において特定のパラメータが示されていない場合でも、実行すると、必然的にクレームの範囲内に入る場合、その開示によって、方法または生産物が予測される。ただし、先行技術の教示が、クレームに係る発明を必然的にもたらすという判断は、妥当な推論に基づかなければならない(第3章3.42-3.43)。
6-2. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「3. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第2章2.63-2.65、第3章3.62-3.64
(2) 異なる事項または留意点
用途限定がある場合のクレーム解釈は、日本と同じ考え方がシンガポールの審査においても適用されていると考えられる。
特定の用途がある装置または材料のクレームは、通常、その用途に適した装置または材料のクレームと解釈される(Adhesive Dry Mounting Co Ltd v Trapp and Co [1910] 27 RPC 341; G.E.C’s Application [1943] RPC 60)。したがって、「~用の生産物」というクレームでは、特定の装置または材料が、定義された用途に適していることが要求されると解釈される(第2章2.63)。
しかし、特定の用途に適しており、その態様で使用されても、その装置のクレームの範囲は限定されない(L’Air Liquide Societe’s Application 49 RPC 428)。したがって、先行技術文献において、当該発明が有する特徴のすべてが開示され、その用途にも適していると思われる場合は、新規性を否定する開示となる。一方、既知の生産物が、クレームで定義された材料や組成と同じであるが、記載された用途には明らかに適さない形式の場合、クレームの新規性は失われない。同様に、物理的な変更をしなければ、記載された用途では使用できない装置は、特定の用途には適さない(第2章2.64)。
「X、Y、Zの特徴からなる魚釣り用のフック」というクレームに関しては、魚釣りに使用できるX、Y、Zの特徴からなるフックであれば、先行技術において魚釣りに使用すると記載されているか否かにかかわらず、クレームが予測されることになる。「hook for fishing」(魚釣り用のフック)を補正で「fishing hook」(魚釣りのフック)にしても、本質的には同じ意味であり、クレームは救われない。しかし、X、Y、Zの特徴からなるクレーンのフックは、魚釣りのフック(釣り針)としての使用に適さない物理的な制限(寸法や重量)を有しており、クレームの範囲から除外される(第2章2.65)。
既知の装置の新たな使用方法は、新規性があると見なされる場合がある。これはParker J in Flour Oxidizing Co Ltd v Carr and Co Ltd(25 RPC 428)の判決で確立されている。ただし、新たな使用に対する独占を制限するようなクレーム形式にしなければならない。
特定の用途(例:他のクレームの方法を実行するため)の装置に関するクレームは、通常、その用途に適した装置に対するクレームと解釈される。すなわち用途は、その態様で使用されても、装置に対するクレームを制限しない(L’Air Liquide Societe’s Application 49 RPC 428)。よって、クレームで特定される機能をすべて有し、その用途に使用される装置は、異なる用途で使用されても、クレームは予測される。「魚釣りフック」と「魚釣り用のフック」は本質的には同等であり、この用途に適したフックを開示する引用文献では、いずれかの形式を用いたクレームが予測される(第3章3.62-3.64)。
6-3. サブコンビネーションの発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
対応する記載はない。
(2) 異なる事項または留意点
シンガポールでは、「他のサブコンビネーション」に関する具体的な基準はないが、他のサブコンビネーションに関する新規性判断の目的で、黙示的な特徴が考慮される。
先行技術は当業者の目を通して解釈され、その結果、文献の黙示的な特徴が新規性判断の目的で考慮されることもある。よって、当業者であれば、具体的に言及されていない特徴が、開示に含まれると解釈するであろうと考えられる場合は、開示に含まれる黙示的な特徴と見なされる。
例えば、内燃機関の冷却システムの制御装置を開示する場合、システムにあるラジエーターやその他の熱交換器には言及しないかもしれないが、それが必要であることは常識である。したがって、引用文献でこの特徴が特定されない場合でも、新規性違反の拒絶理由は通知され得る。一方、ラジエーターは内燃機関の前方に取り付けるのが一般的な方法であるが、必ずしもそうであるとは限らない。こうした状況では、この特徴を具体的に開示していない引用文献に基づいて、新規性違反の拒絶理由を通知することはできない(第3章3.39-3.41)。
6-4. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「5. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第2章2.73-2.74
(2) 異なる事項または留意点
方法による生産物の特定に関しては、シンガポールの基準は全般的に日本の基準と似ていると言える。
限定的な状況では、方法によって生産物を定義することができる。構造、組成、特性、その他の手段(生産物の構造や組成が不明の場合)を参照して、その生産物を十分に特徴づけることができない場合、プロダクト・バイ・プロセス・クレームを使って生産物をクレームすることが認められるものと思われる。審査において、このようなクレームは、クレームに記載された製造方法に起因する特徴を有する、生産物それ自体に関するクレームと解釈されるべきである。例えば、「鉄のサブパネルとニッケルのサブパネルを溶接することで作られる2層構造のパネル」というクレームでは、先行技術に照らして特許適格性を判断する際に、審査官は「溶接」という方法を考慮に入れるであろう。なぜなら、溶接は、最終的な生産物において、溶接以外の方法で生産された生産物とは異なる物理的特性をもたらすからである。すなわち、生産物は、方法のステップのみで定義され得る(第2章2.74)。
方法によって得られる生産物に関するクレームに関して、「方法Yによって得られるまたは作成される生産物X」は、「得られる」、「得ることができる」、「直接得られる」など、どのような言い回しであるかにかかわらず、生産物それ自体に関するクレームと解釈されるのが普通である(Kirin-Amgen Inc v Hoechst Marion Roussel Ltd [2005] RPC affirming EPO law, i.e., Decision T 150/82 International Flavors and Fragrances Inc. [1984] 7 OJEPO 309)。このようなクレームは、先行技術の生産物が、仮に未開示の方法で作られたとしても、クレームに係る生産物と同じまたは区別がつかないように見える場合は、新規性がない。プロダクト・バイ・プロセス・クレームで定義される生産物の特許適格性は、生産の方法によって左右されない。したがって、生産物は、新たな方法によって生産されたという事実のみによって新規性があるとされるわけではない(第2章2.73)。
6-5. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応するシンガポール特許審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
シンガポール特許審査基準第3章3.57
(2) 異なる事項または留意点
シンガポールでは、範囲が狭いまたは具体的な特徴が先行技術で開示されている場合、より一般的な(上位概念の)クレームの新規性が否定される。一般的な特徴が先行技術で開示されている場合、より範囲が狭いまたは具体的なクレームの新規性は否定されない。
パラメータによって発明を数値範囲内に限定するクレームの新規性について考える場合、その範囲内または限界点にある一つの例が既知である場合、クレームに係る範囲は新規性がない。上位概念の範囲内にある下位概念が、先行技術で明確に言及されていない場合に、下位概念の数値範囲を選択することで、クレームに係る発明を特徴づけることはできる。下位概念の範囲の新規性を証明するには、選択された範囲が狭く、例示によって、既知の上位概念の中から十分に特定されるものでなければならない。下位概念の範囲内における特定の技術的効果の有無は、進歩性を判断する際に考慮すべき事項に該当すると思われ、新規性判断の際に考慮されるべきではない(第3章3.57)。
7. その他
これまでに記載した事項以外で、日本の実務者が理解することが好ましい事項、またはシンガポールの審査基準に特有の事項ついては、以下のとおりである。
7-1. グレースピリオド中の開示
シンガポール特許法第14条(4)~(6)では、ある一定の事項について、一定の条件下で、かつ12か月の「グレースピリオド」中の開示は無視されると規定している(第3章3.110-3.125)。すなわち、特許または特許出願において発明を構成する事項の開示は、当該特許出願の出願日直前の12か月の期間が始まった後に生起し、かつ第14条(4)~(6)の条件を満たす場合は、無視される。