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サウジアラビアにおける商標の使用と使用証拠

1.制定法の規定

 

 サウジアラビアにおいて、商標の出願人または商標権者が、出願、登録または更新の時点で、商標の使用または使用意思を証明しなければならないという規定はない。ただし、サウジアラビアにおいて5年以上にわたり登録商標が使用されていない場合、サウジアラビア商標法25条の規定により、当該登録商標は、不使用を理由とする第三者の取消請求により取消されるおそれがある。

 

2.商標の使用に関して適用される実務

 

 商標の使用に関し適用される実務としては、不使用取消請求がある。サウジアラビアにおける不使用取消請求は、裁判所に提起しなければならず、訴訟手続の時間や費用が大幅に増大する。考慮すべきもう一つの問題は、立証責任である。不使用の立証責任は、原告側が負う。原告側は、商標がどこにおいても使用されていないことを立証しなければならない。この立証作業を伴うこともあり、不使用取消訴訟は高額の費用を要する。

 

3.商標の使用の基準

 

 商標を付した商品の販売(または、商標を用いた役務の提供)により、商標が直接的に使用される必要がある。法律により義務づけられている使用は、商品および役務の識別を目的とした使用である。サウジアラビアにおいて商品または役務が利用可能かどうかも、重要な鍵を握る。

 

 商標の使用の存在を示すとみなされる行為として、下記が挙げられる。

 

(1)雑誌やTVにおける広範囲にわたる当該商標の広告

(2)当該商標が使用されている販売資料に関するグラフィックデザイン準備作業、または、ラベリングの遂行

(3)当該商標が使用されているカタログ、ちらし、および、パンフレットの印刷

(4)国際法域における当該商標の使用

(5)出願時または登録時とは異なる態様による当該商標の使用。ただし、当該商標の識別力が変わらないことを条件とする。

(6)展覧会またはショールームにおける当該商標の展示

(7)当該商標を使用する商品販売または役務の提供に関する非公式の事業計画または市場調査に関する証拠の提出

(8)当該商標を使用する商品販売または役務の提供に関し必要な規制当局の許可の取得

(9)当該商標と対応するドメイン名の取得、またはウェブサイトの開設

(10)インターネットにおける当該商標の使用

(11)事業の発展に貢献する可能性のある個人との連絡

(12)当該商標に関する顧客の関心を調べるための市場調査または意識調査の実施

(13)サウジアラビアにおける当該商標の使用計画について言及する商業通信文の提供

(14)サウジアラビアにおいて当該商標のライセンシーを見つけようとする試み

(15)当該商標を使用する真摯な意思が示されている契約上の合意(ライセンス契約など)に基づく当該商標の使用

(16)当該商標を付す商品の導入を延期する説得力のあるマーケティング上の理由(例:他国からの制裁)

 

 商標権者は、不使用取消訴訟の抗弁において、上記の全てに依拠することができる。なお、不使用取消訴訟において、商標の使用態様が問題となることもある。最も望ましいのは、登録時と同じ態様で商標を使用することであるが、当該商標の同一性に実質的な影響を及ぼさない態様による登録商標の使用は、不使用取消訴訟において適切な使用とみなされる。

 

4.許容可能な不使用

 

 商標権者の力が及ばない事情で生じる不使用は、許容可能な不使用とみなされる場合がある。商標権者の力が及ばないとみなされる事情として、次のものが挙げられる。

(1)当該商標を付した商品の継続的販売に対する法的制限

(2)商標権者の破産または支払い不能

(3)国内の暴動

(4)根本的な商品および役務の需要の欠如

 

5.商標の変更

 

 商標または商標を用いて提供される商品もしくは役務に変更が行われた場合、当該商標は不使用取消の対象となる。ただし、元の商標と変更後の商標が引き続き商取引において同じ印象を与え、これらの商標が同一または実質的に類似の商品または役務に対してまたは関連して使用される場合には、この限りでは無い。元の商標に対する軽微な変更は、新規出願をしなくても許容されるが、主要な言葉の追加や削除、または図案の実質的な変更が行われた場合は、相違する商標とみなされ、権利を望む場合には新規出願を提出する必要がある。

 

6.不使用取消を避けるための再出願

 

 商標出願計画において、事業に当該商標を導入する時点で多数の国々を含むことが多いが、実際の使用は将来ずっと続くとは限らない。不使用取消訴訟の攻撃に対して対抗が難しい場合には、サウジアラビアにおける当該登録商標について再出願することが考えられる。

 

7.ライセンス登録

 

 サウジアラビアでは商標権者とライセンシーとのライセンス契約において、第三者対抗要件を具備するために商標局に登録することが必要である。登録は強制ではない。商標法施行規則は、商標ライセンスの登録を義務づけておらず、登録しなくても処罰を受けることはない。しかし、ライセンス契約を登録しない場合、当事者間における契約の権利義務には影響を受けないものの、第三者による不使用取消訴訟に直面した際に、当該商標のライセンスおよびライセンシーの使用に依拠することができない。また、ライセンスの対象は登録商標に関してのみ登録できる。

サウジアラビアにおける商標異議申立制度

1.異議申立の要件および異議理由

 

 サウジアラビア商標法16条の規定において、公告決定となった商標出願は、異議申立のために公告され、いかなる利害関係者も、異議理由に基づき異議申立書を提出することができる。異議申立期間は、公報における公告日から60日である。異議申立期限の延長を申請することはできない。

 

 異議申立は、商標局の審判部における行政手続である。異議申立手続での審議事項は、登録可能性の有無にほぼ限定され、書面記録に基づいて行われる。サウジアラビアは、先願主義の国であり、異議申立を審理する商標局の審判部は、異議申立人に対して異議申立の根拠である先行登録商標の使用証拠を提出するよう要求することはできない。先行登録商標の使用について論争するためには、出願人は別個に不使用取消訴訟を提起しなければならない。不使用取消訴訟において判決が出されるまでの間、異議申立手続が中断されることはなく、その逆もまた同様である。

 

 サウジアラビアにおいて先行権利が確立されていない場合でも、著名性を根拠に異議申立を提起できる。商標が著名とみなされる程度は通常、周知商標の保護に関する国際基準(パリ条約の第6条の2)に従い、さらに周知商標保護の国内基準に従い判断される。いかなる証明力のある証拠も受け入れられ、次の要因を含む証拠全体に基づいて判断が下される:(i)販売の期間および地理的範囲;(ii)売上高;(iii)広告支出および広告の見本;(iv)表彰、論評および報道;(v)国内の関連する業界および消費者団体における当該商標の評判;ならびに(vi)商標の認知度を評価するための専門家証言および調査。

 

 他に認められる異議理由として、次のものが挙げられる:絶対的拒絶理由;悪意;パリ条約第6条の7(商標所有者の代理人または他の代表者の名義による登録)に基づく権利;パリ条約第8条(商号)に基づく権利;パリ条約第6条の3(国章、公式証明印および政府間機関の紋章に関する禁制)に基づく権利;公序良俗に反するもの。ただし、これらの理由は、網羅的および確定的なものではない。

 

2.異議手続および取下

 

 サウジアラビアにおける業務処理の環境は、現在では、商標の電子出願は可能であるものの、異議申立人は電子的手段により異議申立書を提出することはできない。さらに、商標局の審判部は異議決定を電子的手段で発行することはできない。異議申立を提起するには、書面で提出すると共に、異議申立の公定料金を支払わなければならない。異議申立人は、異議対象の商標がサウジアラビア商標法第3条に基づき登録が認められない、または当該商標を保有し続けることができない理由に関して、有効な根拠があることを立証しなければならない。

 

 異議申立書には、当該商標の登録により異議申立人がどれほどの損害を受けるかについて説明する陳述を含めると共に、異議理由を添付しなければならない。異議申立は、絶対的拒絶理由または相対的拒絶理由に基づいて提起することができる。相対的拒絶理由を根拠とする場合、異議申立人は、当該商標が既存の登録商標と混同を生じるほど類似していること、または先に確立されたコモンロー上の権利と抵触することを明確に論じなければならない。相対的拒絶理由に基づく異議申立を提出できるのは、先行権利の所有者だけである。

 

 異議申立書が提出された場合、当該出願の出願人は、異議申立書を受領後、答弁書を提出できるが、答弁書を提出しない場合、当該出願は却下される。答弁は通常、異議申立書に対する複数の簡潔な否認で構成され、かかる答弁を裏づける証拠を提出する必要はない。

 

 双方の当事者は、異議対象の商標の使用に関する和解契約を締結することが一般的であるが、異議申立の取下条件について出願人または異議申立人が同意しているかどうかにかかわらず、異議申立の取下により、異議手続は自動的に終了する。異議申立手続は、どの時点であっても手続を取り下げることができるが、取下を証明する商標局の公式通知が発行されるまで、有効に存続する。

 

 各当事者により提出された証拠に基づいて、さらに特定の場合にはヒアリングに基づいて、商標局は異議対象の出願に対する異議決定を発行する。異議決定を不服とする場合は、異議決定の通知日から30日以内に行政裁判所(the Board of Grievances)に上訴できる。ただし、更なる上訴はできない。