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ロシアにおける知的財産権訴訟件数

1.ロシアの裁判所制度

 

 ロシアの裁判所制度は、商事裁判所および一般的管轄権を有する普通裁判所で構成されている。裁判所の各支部は、控訴審および破棄審を有する。どちらの支部も最高裁判所を頂点とし、最高裁判所は双方の支部にとって、第二破棄審および監督審となる。知的財産事件が増えるにつれて、より高い権限を有する裁判所が必要となったため、商事裁判所制度に組み込まれた知的財産権裁判所(IPR Court)が2013年に設立された。

 

2.カテゴリー毎の知財事件数

 

 知財訴訟は三つのカテゴリーに分けることができる。即ち、侵害事件(民事、刑事および行政)、不使用商標事件、および特許庁の決定に対する上訴に関連した事件である。

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 上図を見ると、侵害事件が年を追って減少していることが分かる。その理由として、法制度の改善、裁判所の権限強化に加え、処罰を免れることはできないという侵害者側の理解が進んだことが挙げられるだろう。

 

3.侵害事件

 

 知財権の侵害事件には、商事裁判所および普通裁判所において審理される民事事件および行政事件に加えて、普通裁判所において審理される刑事事件も含まれている。

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3-1.民事事件

 

 民事知財権侵害事件の構成を詳しく調べると、商事裁判所により審理された事件の数が、普通裁判所により審理された事件をはるかに凌ぐことが分かる。

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 その理由は、商事裁判所が営利企業または個人事業者の間における事件を審理することにある。普通裁判所は、少なくとも一方の当事者が個人である(事業者ではない)事件を審理する。商標権は事業者ではない個人による所有が認められていないため、実際問題として全ての商標権事件は商事裁判所によって審理される。特許権は法人または個人による所有が可能である。個人が所有する特許権は、法人と比べて数が少なく、そのことが図に反映されている。年数の経過に伴い事件の数が増えているのは、ロシアにおいて知的財産が比較的新しい分野であり(最初の知財法は1992年に民法典に導入された)、知財事件が年々増加してきたことを示している。数年後には事件の数は年間1万から1万5000件あたりで落ち着くと予想される。

 

 上記の統計データを知財権の種類別に再分類する。

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 図から分かるように、著作権の侵害事件が突出しており、次に商標権、その後に特許権が続いている。その理由として、著作権は最も侵害しやすいことが挙げられる。商標もまた、侵害者にとって魅力がある。商標は経済生活の基盤である商取引において活用されており、非常に多くの人たちが商取引に関与しており、商標権を比較的侵害しやすい。特許発明は基本的に、高度な工業設備を必要とする複雑な技術的考案物であるため、特許権侵害に関与できる人は限られている。

 

 知財権の侵害は、侵害が行われた場所の地方裁判所によって審理される。上訴されると、その事件は、より広範な地域を管轄する地方控訴裁判所によって審理される。さらに上訴されると、その事件は知的財産権裁判所により破棄審の立場で審理される。

 

 提起された訴訟数と訴えが認められた訴訟数の関係を下記の図に示す。

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3-2.行政事件

 

 行政事件の大半は、税関および警察により独自に、または知財権所有者の要求に応じて提起される。税関および警察は独自に決定を下す権限はなく、捜査を行い、証拠を集めるだけである。例外として、連邦反独占庁は商標の不正な登録および使用に関する事件を審理し、反独占庁の決定が不服であれば、知的財産権裁判所に上訴することができる。ただし、かかる上訴の件数は無視できるほど極めて少ない。

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 国境地帯または地域市場における知財権侵害が絡む多くの事件において、知財権所有者は民事訴訟より行政訴訟を起こす方を選択する。その主な理由は、法執行機関(税関、警察)により大半の作業が遂行されるため、訴訟費用が安くすむことにある。行政手続は通常、知財権侵害に気づいた知財権所有者の訴状により開始される。訴状に基づいて、法執行機関は侵害の証拠を集めるために必要な措置(販売場所または施設の捜索、押収など)を講じ、捜査を行う。民事事件において証拠を集め、事件を処理する費用の大半は、知財権所有者が負担する。一方、行政事件では、法執行機関が自ら証拠を集めて、事件を裁判所に渡し、原告として訴訟に参加する。知財権所有者は第三者である。

 

 上記の図を見ると、著作権の行政事件の数が減少している。法執行機関の努力の結果として、より多くの人たちが合法的なコンテンツを使用し始めたためである。商標権の行政事件の数が2010年から横ばいを続けているのは、並行輸入に関する司法実務が変更された結果といえる。最高商事裁判所は2010年に、並行輸入事件を行政手続ではなく、民事手続においてのみ審理すべきであると命じた。特許権の行政事件は実質上存在しない。その件数は総じて低く、ほとんどは民事訴訟手続の枠内で審理されている。

 

3-3.刑事事件

 

 知財権侵害が生じた場合、刑事事件を提起することもできる。ロシアでは個人(自然人)に対してのみ刑事責任を問うことができるため、刑事事件は警察および検察庁により処理され、普通裁判所によって審理される。

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 図から分かるように、著作権の刑事事件の数は、著作権の行政事件と同様に推移しており、合法的なコンテンツが選択されるようになってきたことを表わしている。商標権の刑事事件は過去数年で増加しているが、その理由の一つは、刑事訴訟を提起するための最低損害額が法律により150万ルーブルから25万ルーブルに引き下げられたことにある。特許権の刑事事件の数が極端に少ない理由は、全体的に特許権侵害事件の数が少ない上に、民事または行政手続の枠内にあるためである。また、刑事訴訟を提起するための最低損害額は法律により定められておらず、裁判所の裁量に委ねられている。

 

4.不使用商標事件

 

 不使用商標事件は、2012年まで行政手続の枠内でロシア特許庁により審理されていたため、2009年から2011年にかけては特許庁における行政手続の一部として示されている(かかる期間において、特許庁は年間約1,000件の不使用商標事件を審理していた)。2012年に、不使用商標事件はモスクワ市商事裁判所に移管され、その後2013年に業務を開始した知的財産権裁判所に移管された。下記の図は、審理された上訴事件および訴えが(全体的または部分的に)認められた上訴事件の数を示している。

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5.特許庁の決定に対する上訴

 

 特許庁の決定を不服とする上訴事件は、ここ数年にわたりさほど変化していない。知的財産権裁判所が創設される前は、これらの上訴事件はモスクワ市商事裁判所により審理されていた。

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6.知的財産権裁判所

 知的財産権裁判所は第一審としての立場で、不使用商標事件および特許庁の決定に対する上訴事件を審理する。知的財産権裁判所の創設前は、これらの上訴事件はモスクワ市商事裁判所により審理されていた。また、少数ではあるが、特許庁の規制文書に対する上訴事件も知的財産権裁判所において審理されている。

 

6.1.知的財産権裁判所の審理件数

 

 知的財産権裁判所により審理された事件の数を下記の図に示す。知的財産権裁判所は2013年半ばに設立されたため、初年度の件数は少ない。この数字は、翌数年で急速に伸びている。

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6.2.第一審としての知的財産権裁判所

 

 知的財産権裁判所は第一審としての立場で、不使用商標事件、特許権侵害事件、特許庁の決定に対する上訴事件、および知財分野における規範法の有効性について審理する。その内訳の比率は、不使用商標事件60.2%、特許権侵害事件2.2%(どちらも民事訴訟)、特許庁の決定に対する上訴37.2%(公益に関する訴訟)、および規範法に対する上訴0.4%未満(同じく公益に関する訴訟)である。

 

6.3.第二審としての知的財産権裁判所

 

 第一審としての知的財産権裁判所の判決の一部は、同裁判所の破棄審に上訴され、ここでは侵害破棄審事件も審理される。知的財産権裁判所の破棄審により審理される事件には、二つのカテゴリーがある。即ち、地方商事控訴裁判所からの上訴事件と、第一審としての知的財産権裁判所からの上訴事件である。このため、破棄審における事件数は、第一審における事件数よりも多い。

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