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ロシアにおける商標制度のまとめ-実体編

1. 商標制度の特徴
 ロシアにおける商標の法的保護は、民法第76章(第1473条~第1541条)およびロシア連邦が関係する後述の多国間国際協定によって規定されている。
 ロシアにおける商標の保護(排他的権利)は、ロシア特許庁(ロスパテント、Rospatent)への商標登録によって得られる(民法第1479条)。
 商標に関する民法の規定は、サービスマーク、すなわち、法人または個人事業主が行う仕事または提供するサービスを識別するために役立つ標章にも適用される(民法第1477条)。
 ロシアは、以下の多国間国際協定に加盟している。
・工業所有権の保護に関するパリ条約
・標章の国際登録に関するマドリッド協定
・標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書
・標章の登録のための商品およびサービスの国際分類に関するニース協定
・オリンピック・シンボルの保護に関するナイロビ条約
・商標法条約
・商標法に関するシンガポール条約
・WTO TRIPS協定

 商標権は、商標国家登録の日から発生し、ロシア特許庁が発行する登録証によって証明される(民法第1504条)。ロシア特許庁は、出願人が紙による証明書の発行を要求しない限り、電子証明書を発行する(2021年1月17日より発効:2020年7月20日付連邦法第217-FZ号)。
 未登録の商標は、パリ条約第6条の2、および民法第1508条および第1509条に基づき周知商標として認識されない限り、権利は存在しない。
 ロシアの商標登録制度には、以下のような特徴がある。
・多区分出願が許容される。
・国際商品・サービス分類(ニース分類)を用いて出願しなければならない。
・分類を指定しても、その分類に含まれるすべての商品またはサービスを自動的にカバーするわけではない。
・6月以内の最先の外国出願に基づく優先権主張が許容される。
・使用によって獲得された識別力が考慮される。
・出願商標も登録商標も分割することができる。
・商標の実際の使用または使用の意思についての登録要件は存在しない。
・ロシア連邦外に居住する出願人は、ロシア特許庁に正式に登録されたロシアの商標弁護士を代理人に任命しなければならない。
・商標登録は出願日から10年間有効であり、10年間ずつ何度でも更新することができる。

 法人または事業活動を行う自然人(すなわち個人事業主)は、何人も商標出願を行うことができる(民法第1478条)。また、ロシア連邦における商標の保護は、マドリッドシステムに従った国際商標出願によって得ることもできる(民法第1479条)。

 登録された商標の所有者は、その商標を使用する排他的権利を有する。また、その使用が混同のおそれがある場合には、同意なく取引の過程で、同一または類似の商標を第三者が使用するのを防ぐことができる(民法第1484条)。さらに、周知商標の所有者は、その使用がその商品またはサービスと周知商標の所有者との関係を示すことになり、その使用により周知商標の所有者の利益が害される可能性がある場合には、同意なく他の商品について同一または混同を生ずるほど類似した商標を第三者が使用するのを防ぐことができる(民法第1508条第2項、第3項)。ただし、商標権者またはその同意を得た者によりロシア国内市場またはユーラシア経済連合域内に流通されられた商品については、第三者による登録商標の使用を防ぐことはできない(民法第1487条、ユーラシア経済連合条約付属書26「知的財産権の保護と執行に関する議定書」第16項)。

 商標権者は、譲渡契約またはライセンス契約によって、商標に対する排他的権利を譲渡することができる。譲渡は、商品またはその製造者に関して消費者を誤認させる可能性がある場合には、許可されない(民法第1488条および第1489条)。商標権者との契約によらない排他的権利の譲渡は、一般承継(相続、法人の再編)および権利者の財産に対する徴税執行を含む法廷事由に該当する場合に認められる(民法第1241条)。ライセンスの場合、ライセンシーは、ライセンサーの品質要求に対して、製造・販売する商品の品質適合性を保証しなければならない。ライセンサーは、この規定の遵守について管理権を行使する権利を有する。ライセンシーとライセンサーは、商品の製造業者として連帯責任を負う(民法第1489条)。商標権の譲渡およびライセンス供与は、ロシア特許庁への正式な登録が必要である。正式な登録の要件に従わない場合、譲渡またはライセンスは無効となる(民法第1490条)。

 商標権侵害は、侵害の性質と重大性により、行政、民事、刑事責任を生じさせる可能性がる(民法第1515条)。

関連記事:
「ロシアの商標関連の法律、規則、審査基準等」(2019.04.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16891/
「ロシアにおける商標出願制度概要」(2019.09.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17685/
「ロシアにおける商標制度」(2013.09.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/3758/
「ロシアの知的財産関連機関・サイト」(2020.06.18)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/link/18773/
「ロシアにおいて有効な指定商品・役務名の調べ方」(2019.08.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/17638/
「ロシアにおける指定商品または役務に関わる留意事項」(2016.05.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/11152/
「ロシアにおける優先権主張の手続」(2020.12.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19645/
「ロシアを指定した商標国際登録出願手続について」(2013.09.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/4198/
「ロシアにおける技術移転とライセンス」(2017.07.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/license/13920/
「ロシアにおける商標ライセンスの付与方法」(2018.12.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/license/16304/
「ロシアにおける商標のコンセント制度」(2017.02.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/13207/
「ロシアにおける法制度・代理人・知的財産権情報等」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13865/

関連情報:
「連邦法第217-FZ号に署名」(2020年7月20日付)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/07/71f0e2c764099811.html

参考資料:
「ユーラシア経済連合条約(TREATY ON THE EURASIAN ECONOMIC UNION)」(2015.01.01発効)
https://www.wto.org/english/thewto_e/acc_e/kaz_e/wtacckaz85_leg_1.pdf

2. 登録できる商標
 ロシアの法律では、以下の種類の商標が認められる(民法第1482条第1項)。
・文字または文字の組み合わせ
・イメージ
・立体標章
・その他の標章
・これらの組み合わせ

 商標は、出願人の希望により、任意の色または色の組合せで登録することができる(民法第1482条第2項)。法律では、商標として法的に保護される対象のリストは限定されていない。音やアニメーションのマーク、ホログラム、位置のマークも登録できる。においの商標については、関連する法律や十分な実務が存在しない。対象が登録可能か否かの主たる基準は、商品またはサービスを識別する識別性およびその機能である。

 商標は、以下の任意の標章である。
・法人や個人事業主の商品やサービスを表すことができる標章
・識別力がある(場合によっては識別力を獲得することができる)標章
・商品やサービスの説明でない標章
・欺瞞的でない標章
・絶対的な理由で保護から除外されていない(例えば、公共政策や道徳の原則に反していない、またはロシア連邦の国際条約により保護から除外された標章でない)標章
・他の当事者の先の排他的権利に抵触しない標章

関連記事:
「ロシアにおける商標出願制度概要」(2019.09.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17685/
「ロシアにおける物品デザインの商標的保護」(2018.08.07)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15640/
「ロシアにおける小売役務の保護の現状」(2018.06.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15358/

3. 商標を登録するための要件
 法律には、商標出願を拒絶するさまざまな理由が規定されている(民法第1483条)。
 標章は、識別力がない場合や、取引上一般的に使用されている要素のみからなる場合は、商標として登録できない。ただし、このような要素であっても、商標の主要部でない限り、非保護要素として商標に含めることができる。また、標章の使用によって獲得された識別力を考慮することがでる(民法第1483条第1項)。
 国際条約に基づき、標章は、国章、国旗、その他の国家のシンボルおよび標章、国際政府間組織の略称または正式名称、それらの紋章、旗、その他のシンボルおよび標章、公式認証、品質証明、印章、賞、およびそれらと紛らわしいその他の記章または標章を表す要素のみからなる場合には商標として登録できない。これらの要素も、関係当局の同意があれば、商標の非保護要素として組み入れることができる(民法第1483条第2項)。
 商品またはその製造者に関して虚偽または消費者を誤認させる、あるいは公共の利益、人道の原則、道徳に反する要素を含む標章は、登録が認められない(民法第1483条第3項)。
 WTO加盟国の一つにおいて、ワインまたは蒸留酒がその領域を原産とし、特定の品質、評価、または主にその原産によって決定される他の特性を有することを識別する標章として保護されている要素を表すまたは含む標章は、登録が認められない(民法第1483条第5項)。
 ロシア連邦で保護されている他の者の先行商標と同一または混同する標章、または類似の商品に関して登録申請されている標章は、商標として登録できない。類似の商品およびサービスに関して、前述の商標と紛らわしいほど類似した標章の登録は、先の商標の所有者の同意がある場合にのみ許可される(民法第1483条第6項)。
 標章は、先の他人の著作権、先の個人的権利、先の工業デザイン、商号、コンプライアンスマークの権利に類似する場合は、商標として登録できない(民法1483条第8項および第9項)。

関連記事:
「ロシアの知財関連の審査基準へのアクセス方法」(2019.08.22)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17642/
「ロシアにおける商標出願の拒絶理由通知に対する対応策」(2020.04.16)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/18451/
「ロシアにおける商標制度および原産地(地理的)表示の保護」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13862/

4. 商標権の存続期間
 商標の排他的権利は、特許庁への出願日から10年間有効である。商標の排他的権利の存続期間は、商標の存続期間の最後の年に提出された権利者の求めに応じて10年間、毎回延長することができる。
 商標の存続期間が満了した場合でも、権利者は6月の「猶予」期間を有し、「罰金」および更新料を支払うことにより商標を復活させることができる。
 商標の更新は無制限に可能である(民法第1491条)。

以下の場合、商標の保護は終了する(民法1514条第1項)。
・団体商標について、共通の品質またはその他の一般的特性を有しない商品への商標の使用により、知的財産権裁判所が終了を命じた場合
・登録後継続して3年間商標が使用されておらず、利害関係者の申立てにより知的財産権裁判所が終了を命じた場合
・権利者が清算(法人の場合)または事業活動の終了(自然人の場合)により事業を終了する場合
・権利者が商標の独占権を放棄した場合
・商標が特定の商品の示すものとして一般的に使用される表示となり、利害関係者の申立てに基づきロシア特許庁が終了を命じた場合

参考資料:
・工業所有権の保護に関するパリ条約
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/paris/patent/index.html
・標章の国際登録に関するマドリッド協定
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/madrid/ma/index.html
・標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/madrid/mp/index.html
・標章の登録のための商品およびサービスの国際分類に関するニース協定
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/nice_agreement.pdf
・オリンピック・シンボルの保護に関するナイロビ条約
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/nairobi-olympic_symbol.pdf
・商標法条約
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/tlt-shouhyou94.pdf
・商標法に関するシンガポール条約
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000070125.pdf
・WTO TRIPS協定
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/trips/index.html

ロシアにおける商標制度および原産地(地理的)表示の保護

 「模倣対策マニュアル ロシア編」(2016年3月、日本貿易振興機構)第1章第3節、第4節

 

(目次)

第1章 ロシアにおける知的財産権の取得

 第3節 商標 P.46

  (1) 商標制度の概要 P.46

   (a) 管轄官庁及び担当官 P.46

   (b) 最近5年間の統計データ P.46

   (c) ロシア商標制度の特徴 P.48

  (2) 出願人適格 P.49

  (3) 登録要件 P.49

   (a) 商標の定義及び登録可能な対象 P.49

   (b) 商標の先願主義及び先使用 P.49

   (c) 出願拒絶理由、相対的拒絶理由(1483条) P.50

   (d) 絶対的拒絶理由等、登録できない対象 P.50

  (4) 商標出願手続及び審判部 P.51

   (a) 出願の方式審査 P.53

   (b) 実体審査 P.53

   (c) 登録に要する期間 P.53

   (d) 出願手数料 P.53

   (e) 出願の公開又は公告 P.54

   (f) 登録前又は後の出願に対する不服申立て P.54

   (g) 商標の審判 P.54

    1) 出願に対する拒絶査定についての審判 P.54

    2) 商標登録の取消し又は無効についての審判 P.55

    3) 審決に対する不服申立てを扱う裁判所とその手続 P.55

  (5) 商標権 P.55

   (a) 商標権の基本的内容及び範囲 P.55

   (b) 商標登録の存続期間、権利証書の発行及び期間の更新/延長 P.56

   (c) 先使用者の権利をはじめとする登録商標に対する制限 P.56

   (d) 登録商標の譲渡及び使用許諾 P.56

   (e) 商標権と商号権の抵触 P.57

  (6) 商標及び商品/役務の類似性に関する基準 P.57

  (7) 商標の「使用」の定義 P.58

  (8) 周知の商標 P.59

  (9) ユーラシア経済連合の商標登録出願統一窓口 P.60

 第4節 原産地表示(又は地理的表示) P.62

ロシアにおけるマドリッド協定議定書の基礎商標の同一性の認証と商品・役務に関する審査の在り方

 「マドリッド協定議定書の利用促進の観点からの調査研究報告書」(平成28年3月、日本国際知的財産保護協会)4.3.11、6.3.6(4)

 

(目次)

4 基礎商標の同一性の認証に関する文献調査結果

 4.2 調査結果概要

  4.2.3 各国別の調査結果一覧

   表2 各国知的財産権庁からの調査票回答及び文献調査結果一覧表(3) P.38

 4.3 各国の特徴

  4.3.11 ロシア P.176

6 商品・役務の審査について

 6.1 調査方法 P.533

 6.2 調査結果概要 P.535

 6.3 主な指定国における商品・役務の表示に関する審査の傾向

  6.3.6 その他の指定国について

   (4) ロシア P.666

ロシアにおける商標制度の運用実態

【詳細】

 ブラジル・メキシコ・コロンビア・インド・ロシアの産業財産権制度及びその運用実態に関する調査研究報告書(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)第2部-V-E

 

(目次)

第2部 各国の産業財産権制度・運用調査結果

 V ロシア連邦

  E 商標 P.387

   1 産業財産権制度の枠組 P.387

   2 出願・登録の手続 P.396

   3 審査業務 P.398

   4 統計情報 P.399

 参考資料 総括表

  E 商標 P.418