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ロシアにおける特許制度のまとめ-実体編

1. 特許制度の特徴
1-1. 特許と実用新案の同日の出願について
 連邦民法第4法典第1383条2項により、同一の出願人、同一の優先権を有する2つの特許(一方が発明のもので、他方がこれと同一の実用新案のもの)を取得することはできない。第二特許は、出願人が第一特許を放棄した後にのみ付与される。
 先の特許は,連邦民法第4法典第1394条に基づき,他方の出願に基づくその特許付与に関する情報の公告日に終了する。発明または実用新案の特許付与に関する情報と先の特許の終了に関する情報とは,同時に公表されるものとする(連邦民法第4法典第1383条第2項)。

1-2. 出願の補正
 審査中であっても最終的な付与または拒絶の決定がなされる前に、出願人は、発明の本質を変更しない限り(「新規事項」を導入しない限り)、出願内容の手続補正書を提出する権利を有する。
 補正が、当初提出された明細書および請求項に欠けている新規事項を請求項に含んでいる場合には、発明の本質が変更された(「新規事項」が導入された)とみなされる。
 連邦民法第4法典1390条第2項に規定された予備調査機関が認可されていないため、予備調査に基づく実用新案登録出願の自発的な補正は認められない。補正は、審査官の要求があった場合にのみ可能であり、補正は審査官の要求に沿ったものでなければならない(連邦民法第4法典第1378条第1項、第1390条第2項)。加えて、補正は、実用新案の本質を変更しない場合のみ、すなわち、「新規事項」の特徴を導入せず、係属中の独立請求項を他の独立請求項で補充したり、置き換えたりせず、最初に開示された技術的結果に関連しない新しい技術的結果の記載や言及さえもしない場合のみ、認められる(連邦民法第4法典第1378条第2項)。

 オフィスアクションに対して、反論と補正の両方を提出することができるが、自発的な補正は、以下の段階においてのみ提出することができる。

  • 特許協力条約出願のロシア国内段階に入るとき(4月以内に提出可能)。
  • 実体審査請求時
  • 最初のオフィスアクションまたは通知に添付された情報調査報告書を受領したとき。
     補正は、新規事項の有無を確認し、新規事項がある場合は認められない。すべての補正は出願期間中のみ認められ、特許請求の範囲に対する付与後の補正(明らかな誤りやタイプミスの訂正を除く)は認められない。

1-3. 秘密特許の審査
 連邦民法第4法典第1401条第3項により、発明出願の審査の過程で、その出願に秘密情報が含まれていることが判明した場合、その出願は秘密に分類され、秘密発明の出願とみなされることになる。
 ロシアで発案された発明または実用新案の出願に関する秘密保持審査手続は、政府によって承認された規則により定められている。
 外国人または外国法人からの出願を秘密として分類することは認められていない。

参考資料:
「ロシア連邦政府令第928号」(2007.12.24)
https://new.fips.ru/documents/npa-rf/postanovleniya-pravitelstva-rf/postanovlenie-pravitelstva-rf-ot-24-12-2007-g-928.php#pravila

1-4. コンピュータ・プログラムそれ自体の特許性
 コンピュータ・プログラムそれ自体は、特許を受けることができない(連邦民法第4法典第1350条第5項)。しかし、コンピュータ関連発明に用いられる慣例の主題(方法、装置)は、クレームされた事項の具体的実施形態が明らかとなり、独立請求項に記載された構成全体によって奏される技術的効果との因果関係により特徴付けられている場合、潜在的に認められる可能性がある。
 特許出願の審査を規定する特許規則(2016年)には、法定除外(特許を受けることができない発明)をさらに説明するために、いくつかの基準と事例が示されている。特に、同規則には、発明としてクレームされた主題の特許適格性の審査に関する基準が示されている。
「49. クレームされた発明が特許適格性基準に適合しているかどうかの確認は、以下の分析を含むものとする。

  • クレームされた発明の特徴
  • クレームされた発明が解決した問題
  • クレームされた発明が提供する結果
  • 特徴と結果の間の因果関係
    (…中略…)発明の意図を反映した総称(すなわち、発明の名称)または請求項に記載された発明の特徴のすべてが、これらの(除外された)主題の特徴である場合、または発明の特徴のすべてが技術的ではない結果をもたらす場合、請求項に係る発明は発明ではない主題に関連していると認識されなければならない。」

参考資料:
「規則第49項」(2016.05.25)
https://new.fips.ru/documents/npa-rf/prikazy-minekonomrazvitiya-rf/prikaz-ministerstva-ekonomicheskogo-razvitiya-rf-ot-25-maya-2016-g-316.php#I
※2021年3月31日付でリバイスされている。

 さらに、特許出願審査基準(2018年版)には、クレームされた発明の特許適格性および特許保護から除外されるものへの分類を確認するためのさらなる指針および事例が示されている。例えば、同審査基準は以下を示す;
 コンピュータ・プログラム(オペレーティングシステムおよびソフトウェアパッケージを含む)は、任意の言語(プログラミング言語)およびソースコードやオブジェクトコードを含む任意の形態で記述できる。コンピュータ・プログラムは著作権の対象であり、文学の著作物として保護される(…中略…)。
 特許出願においてコンピュータ・プログラムに関する情報を発明と認める形で記載した場合は、連邦民法第4法典第1350条第5項に違反する。この場合、クレームされた主題は特許の保護を受ける資格がないとされ、特許の付与を拒否する根拠が存在することになる。
 しかしながら、特許出願は、技術的効果を得ることを目的とし、コンピュータのハードウェア(物質的手段)を用いて実行される信号(物質的対象)を用いた一連の命令として記述されたコンピュータ・プログラムのアルゴリズムに関連している場合がある。この場合、クレームされた発明の主題は技術的解決手段にあるとして、特許性のさらなる審査(進歩性等の審査)に進む根拠が存在することになる。

参考資料:
「審査基準 第V章 2.4.34-2.4.36」(2018.12.27)
https://new.fips.ru/to-applicants/inventions/ruc-iz.pdf#page=158

関連記事:
「ロシアにおける特許のクレームの変更」(2014.06.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/6179/
「ロシアにおける第一国出願義務」(2016.05.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/11172/
「ロシアにおけるコンピュータ・プログラムの保護」(2014.05.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/5935/
「ロシアにおけるコンピュータソフトウェア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16387/

2. 発明の保護対象
 連邦民法第4法典第1350条によると、製品(特に装置、物質、微生物株、植物または動物の細胞培養)または方法(有形的手段を用いて有形的対象に影響を与えるプロセス)に関するあらゆる分野の技術的解決は、発明として保護されなければならない。
 発見、科学理論、数学的方法、ゲームのルール、知的または事業活動のルール、コンピュータソフトウェア、情報の提示に関するアイデア(各場合とも「それ自体」)は特許されない。
 植物品種、動物品種(育種の成果)、およびそれらの生産のための生物学的方法は、特許の保護から除外される。ただし、微生物学的方法および微生物学的方法により得られた製品は保護される。
 連邦民法第4法典第1351条によると、装置に関する技術的解決策のみが実用新案として保護される。
連邦民法第4法典第1349条4項によると、人間のクローンを作る手段、人間の胚系統の細胞の遺伝的完全性を修正する手段、産業・商業目的での人間の胚の使用、公共の利益や人道・道徳の原則に反する解決策は、特許されない。

関連記事:
「ロシアにおける特許および実用新案登録を受けることができる発明とできない発明」(2020.12.22)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/19643/

3. 特許を受けるための要件
 特許を受けるためには、新規性、進歩性、産業上の利用可能性に関する特許要件に適合する必要がある(連邦民法第4法典第1350条)。
 実用新案については、産業上の利用可能性と新規性の要件のみが適用される。実用新案に進歩性が適用されないこととバランスをとるため、新規性の審査では本質的な特徴のみが考慮される。ロシアの特許実務によれば、本質的な特徴とは、他の本質的な特徴との組み合わせにより実用新案による技術的結果の達成(課題の解決)を保証する特徴であり、本質的な特徴がなければ技術的結果を達成できないものである。請求項に含まれる非本質的特徴は、実用新案の新規性を考慮する際に考慮されない(連邦民法第4法典第1351条)。

関連記事:
「ロシアにおける特許・実用新案出願制度の概要」(2019.11.12)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17907/
「ロシアにおける特許および実用新案の特許事由と不特許事由」(2015.11.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/9166/

4. 職務発明の取扱い
 法律には、発明に関する特許を受ける権利は発明者に帰属するとの一般原則が定められている。ただし、使用者のための労務または特定の仕事を遂行する過程でなされた従業員の発明の場合、従業員と使用者の間の労働契約等の契約に別の定めがない限り、この権利は使用者に帰属することが、法律により定められている(連邦民法第4法典1370条3項)。
 従業員は、両者間の合意により別の定めがある場合を除き、職務発明を発案したことを書面で使用者に通知しなければならない(連邦民法第4法典第1370条第4項)。

 従業員が使用者に通知した日から6月以内(2020.12.22 N456-FZで「4月以内」から「6月以内」に改正された)に、使用者が当該発明についてロシア特許庁に特許出願を行わず、職務発明について特許を受ける権利を第三者に譲渡せず、情報についての秘密保持の要件を従業員に通知しなかった場合、当該発明について特許を受ける権利は、従業員に返還される。この場合、使用者は、単純な通常実施権または契約もしくは紛争が生じた場合には裁判によって合意された報酬を特許権者に支払うことを条件に、特許権の存続期間中、自己の事業で職務発明を使用する権利を有する(連邦民法第4法典1370条4項)。

 職務発明の特許を譲り受けた使用者は、早期に特許を終了することを決定した場合、その旨を従業員に通知し、従業員の求めに応じて特許を無償で譲渡する義務がある。
 使用者が特許の早期終了を発明者に通知しなかった場合、従業員は使用者に対して、使用者の費用負担で特許回復の申立を行うよう強制する訴訟を提起する権利を有する。
 使用者が職務発明の特許を取得した場合、情報を秘密にすることを決定した場合、特許を受ける権利を第三者に譲渡した場合、または自己の管理責任により出願について特許を取得できなかった場合、従業員は報酬を受ける権利を有する。報酬の額およびその支払方法は、従業員と雇用主との間の契約、または紛争の場合には裁判所により定められる(連邦民法第4法典第1370条第4項)。

 職務発明、実用新案、工業意匠に対する報酬の支払い率や手続きを政府が規定できることが法律により定められている。これらの料金および手続きは、使用者と従業員が報酬に関する合意を結んでいない場合に適用される(連邦民法第4法典第1246条第5項)。

 従業員が使用者の財政的、技術的またはその他の物質的資源を利用して創作した発明であるとしても、雇用義務の履行または使用者からの特定の任務の遂行に関連していないものは、職務発明とはならない。そのような発明の特許を受ける権利は、従業員に帰属することになる。この場合、使用者は、ロイヤルティ不要の非独占的ライセンスで必要に応じ発明を使用する権利、または当該発明の創出に関して使用者が負担した費用の補償を要求する権利をオプションとして有する(連邦民法第4法典1370条5項)。

関連記事:
「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13867/
※添付マニュアルの11頁に職務発明について説明が記載されている。

5. 特許権の存続期間
5-1. 存続期間
特許権の保護期間は、連邦民法第4法典第1363条第1項により以下のとおりである:

  • 発明の特許は出願日から20年
  • 実用新案は出願日から10年

5-2. 特許権の存続期間の延長制度
 販売・マーケティングについて規制当局による許可を得る必要がある医薬品または農薬に関連する発明の保護期間は、5年を超えない範囲で延長することができる。このような発明の特許期間の延長は、許可を得た製品の使用を特徴づける特許発明の特徴の組合せを含む請求項を有する補足特許証明書が発行されることで達成される(連邦民法第4法典1363条2項)。
 実用新案特許の延長はできない。

5-3. 審査の遅延による存続期間の延長補償
 そのような補償は存在しない。

関連記事:
「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13867/