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ロシアにおける特許制度のまとめ-手続編

1. 出願に必要な書類 
 発明または実用新案に関する出願は、以下を含まなければならない。 
・権利付与を求める請求書(願書、弁理士が作成する。) 
・クレームされた発明(または実用新案)を実施できるよう十分詳細に開示する明細書 
・発明(または実用新案)の本質的な特徴を記載し、明細書によって完全に裏付けられた特許請求の範囲 
・発明(または実用新案)を理解するために必要な図面、その他の資料 
・要約 
(連邦民法第4法典第1375条、第1376条)

 出願は、1つの発明のみ、または単一の一般的な発明概念を形成するために関連付けられた一群の発明についてのみ行うことができる(発明の単一性の要件)。実用新案登録出願は、1つの実用新案(1つの独立請求項)についてのみ行うことができる。
(連邦民法第4法典第1375条、第1376条)

 出願日は、付与を求める請求書、明細書および明細書に図面の記載がある場合は図面を提出した日に成立するものとする。前述の書類が同時に提出されない場合、出願日は、それらの書類のうち最後のものを受領した日に与えられる。
 優先権書類の認証謄本は、優先日から16月以内にロシア特許庁に提出しなければならない。
(連邦民法第4法典第1375条、第1376条、第1382条)

関連記事: 
「ロシアにおける優先権主張の手続」(2020.12.24) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19645/
「ロシアにおける特許・実用新案出願制度の概要」(2019.11.12) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17907/
「日本とロシアにおける特許出願書類・手続の比較」(2019.09.17) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17715/

2. 記載が認められるクレーム形式 
2-1. クレームの許容される形式 
 以下の請求項が認められる。 
・デバイス(装置・製品)のクレーム 
・組成物(化合物)のクレーム 
・方法(プロセス)クレーム 
・プロダクト・バイ・プロセス・クレーム 
・用途クレーム 

 単一請求項と複数請求項の両方が認められる。請求項は、発明の目的を反映した前文と、発明の特徴を含む本文を含むべきである。本文は、特徴の前提部分と特徴部分から構成されてもよい(義務ではない)。特許請求の範囲は、発明の本質を定義し、明細書によって完全に裏付けられなければならない。発明の単一性の要件を満たせば、複数の独立請求項を記載することができる。 

 独立請求項の数に制限はない。1つの独立請求項は、1つの発明のみを特定すべきである。代替的特徴(マーカッシュ形式による発明特定事項の記載)は、独立請求項と従属請求項の両方で使用することができる。1つの独立請求項は、1文であるべきである。プロダクト・バイ・プロセス・クレームが許容される。 

 先行する独立請求項を引用する従属請求項が認められる。複数の請求項を引用する請求項は、他の複数の請求項を引用する請求項を引用してはならない(マルチ-マルチクレームは許容されない)。従属請求項は、付加的な特徴および/または詳細化した特徴を含むことができ、詳細化した特徴は、独立請求項の一部の特徴および/または特徴の前提部分の特徴を発展させたものである。従属請求項の数には制限はない。 

(2023年2月21日付のロシア連邦経済開発省の命令第107号(以下「命令第107号」という)添付2「発明の特許出願書類の要件」I. 申請書を提出するための一般的な要件、およびIV. 請求項の要件、発明の国家登録と発明特許の付与という公共サービスの提供の枠内での行政手続と行為に関するガイドライン 第5節(発明の単一性))

関連記事: 
「ロシアにおけるプロダクト・バイ・プロセスクレーム解釈のプラクティス」(2017.05.25) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13689/
「ロシアにおける特許の審査基準・審査マニュアル」(2014.11.20) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/7134/

2-2. 認められないクレーム形式 
 複数の請求項を引用する請求項は、他の複数の請求項を引用する請求項を引用してはならない。 
(命令第107号添付2「発明の特許出願書類の要件」IV. 請求項の要件) 

関連記事: 
「ロシアにおける特許および実用新案登録を受けることができる発明とできない発明」(2020.12.22) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/19643/

3. 出願の言語 
 特許出願、実用新案登録出願または意匠登録出願は、外国語で行うことができる。ロシア語の翻訳文は、出願と一緒に提出することができ、正式なオフィスアクションに対応して後から提出することもできる。 
(連邦民法第4法典第1374条、第1384条、命令第107号添付1「発明の国家登録のために法的に重要な措置を講じるための基礎となる文書の作成、提出、検討に関する規則」II. 申請書類の審査(第21条)) 

関連記事: 
「日本とロシアにおける特許出願書類・手続の比較」(2019.09.17) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17715/

4. グレースピリオド 
 出願日の6月前までのグレースピリオドが適用される。発明者、出願人、または発明者もしくは出願人から直接もしくは間接に情報を得た者による発明に関する情報の公開は、その情報が公開されてから6月以内に特許庁に発明が出願されれば、その発明の特許性を喪失させない。立証責任は出願人にある。 
(連邦民法第4法典1350条第3項) 

関連記事: 
「ロシアにおける特許新規性喪失の例外」(2017.05.30) 
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5. 審査 
5-1. 方式審査 
 特許出願は、方式審査の対象となる。方式審査では、以下の要件がチェックされる。 
a) 必要な出願書類がすべて提出されており、すべての書類が方式要件を満たしていること。いずれかの要件が満たされていない場合、出願人に通知され、不備を修正するための3月の期間が与えられる(手数料の支払いで、期間延長を請求することができる)。出願人が期限内に不備を修正できない場合、修正または不足する書類を提出できない場合、出願は取下げられたものとみなされる。 
b) 手数料が正しく支払われていること。 
c) 発明の単一性の要件が満たされていること(発明の内容は確認されず、明らかな矛盾点のみが判断される)。発明の単一性の要件が満たされない場合、出願人は、審査官の要請により3月以内に請求された発明のどれを審査すべきかを示すことができる。この期間内に出願人が審査すべき発明を示さない場合、審査は最初にクレームされた発明に関してのみ行われる。 
d) IPC(国際特許分類)が付されている場合、正しく付されていること(付されていない場合は、審査官が付与する)。 
(連邦民法第4法典第1384条、命令第107号添付1「発明の国家登録のために法的に重要な措置を講じるための基礎となる文書の作成、提出、検討に関する規則」II. 申請書類の審査(第14条、第28条、第29条)およびIII. 規則第3条に基づく請求書の審査(第118条)) 

関連記事: 
「ロシアにおける特許・実用新案出願制度の概要」(2019.11.12) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17907/

5-2. 実体審査 
 出願が方式審査に合格すると、出願人は実体審査請求書を提出し、手数料を支払わなければならない。ロシアでは、発明の繰延べ審査制度がある。 
 審査請求は、出願人または第三者が行う。審査請求は、出願時または出願日(PCTの場合は国際出願日)から3年以内に行わなければならない。審査請求期間は、2月延長することができる。前記期間内に審査請求が行われなかった場合、出願は放棄される。期間徒過は、期間徒過の日から1年間は回復することができる。 
 再審査および異議申立の制度はない。しかし、ロシア特許庁によって出願中の発明に関する情報が公表された後、何人もロシア特許庁に対して発明の特許性に関する意見を提供する権利を有し、意見は出願の実体審査において考慮される。ただし、当該意見の提出は、出願の審査における手続上の権利を当該者に与えるものではない。 
(連邦民法第4法典第1386条、1389条、命令第107号添付1「発明の国家登録のために法的に重要な措置を講じるための基礎となる文書の作成、提出、検討に関する規則」I. 書類の作成と提出(第5条第7)項)) 

関連記事: 
「日本とロシアの特許の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する比較」(2019.08.29) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17659/
「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13867/

5-3. 早期審査(優先審査)
 特許出願から特許権取得までの期間は、短縮される傾向にあるが、案件によって大きく異なる。平均では、1年またはそれ以下となる場合もある。
 ロシアはPPH(特許審査ハイウェイ)制度に加盟している。ロシア特許庁は、オーストリア、カナダ、中国、デンマーク、ドイツ、エストニア、欧州(EPO)、ハンガリー、イスラエル、チリ、ペルー、ポルトガル、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、アイスランド、日本、韓国、ノルウェイ、ポーランド、フィンランド、スウェーデン、コロンビア、スペイン、トルコ、英国、米国の27か国・地域の特許庁と、PPH協定およびPPH-MOTTAINAI協定を締結している。また、上記27か国・地域から中国を除く26か国・地域の特許庁とPCT-PPH協定を、上記27か国・地域から中国、欧州(EPO)、トルコを除き北欧特許庁およびヴィシェグラード特許機構を加えた26か国・地域の特許庁とGlobal PPH協定を締結している。
 しかし、2022年5月10日、日本国特許庁(JPO)は、ロシア特許庁との間の特許審査ハイウェイ(PPH)を一時停止することを決定した。また、米国特許商標庁(USPTO)、欧州特許庁(EPO)もロシア特許庁との間のPPHの申請手続きを中止している。

関連情報: 
「PPHプログラム」(ロシア特許庁の公表、ロシア語)(2021.02.20) 
https://rospatent.gov.ru/ru/activities/inter/bicoop/pph/patent-prosecution-highway
「PCT-PPHプログラム」(ロシア特許庁の公表、ロシア語)(2021.02.20) 
https://rospatent.gov.ru/ru/activities/inter/bicoop/pph/pct-pph
「PPH-MOTTAINAIプログラム」(ロシア特許庁の公表、ロシア語)(2021.02.20) 
https://rospatent.gov.ru/ru/activities/inter/bicoop/pph/pph-mottainai
「グローバルな優先特許手続(Global PPH)」(ロシア特許庁の公表、ロシア語)(2021.02.20) 
https://rospatent.gov.ru/ru/activities/inter/bicoop/pph/gpph
「日露特許審査ハイウェイについて」(JPOの公表、日本語)(2022.05.10) 
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/pph/japan_russia_highway.html
※Global PPH加盟国については次の情報を参照されたい。 
「PCT-特許審査ハイウェイプログラム(PCT-PPHおよびグローバルPPH)」(WIPOの公表、英語)(2024.01.11) 
https://www.wipo.int/pct/en/filing/pct_pph.html

関連記事: 
「ロシアにおける特許権早期取得のテクニック」(2016.06.21) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/11804/
「ロシアにおける特許および実用新案に関する統計」(2018.06.21) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/15360/

6. 出願から登録までのフローチャート 
6-1. 出願から登録までの特許出願のフローチャート 

6-2. フローチャートの簡単な説明 
 発明に対する特許は、発明毎にされた特許出願の審査の肯定的な結果に基づいて、ロシア特許庁により特許証が発行される。特許出願は、一般に、出願に応じて作成された願書、明細書、図、請求の範囲および要約書を含み、願書はすべてロシア語で、その他の出願書類はロシア語または他言語(ロシア語による翻訳文を添付)で作成されなければならない(連邦民法第4法典第1374条)。 
 出願は、ロシア特許庁に直接、郵送またはオンラインで行うことができる。 

 発明の出願がロシア特許庁に受理された後、その出願は審査に付される。審査は、方式審査(連邦民法第4法典第1384条)および実体審査(連邦民法第4法典第1386条)から構成される(上記5.を参照)。 
 発明の出願は、ロシア特許庁への出願日から18月を経過した後に公開される(連邦民法第4法典1385条)。実用新案出願は公開されず、方式審査を通過後、直ちに実体審査に移行する。 
 出願公開後は、誰でも出願書類(審査経過を含む)を閲覧することができ、出願書類の写しを取り寄せることができる。 
 特許審査ハイウェイ(PPH)は、ロシアで利用できる効率的な早期審査の機会であり、よく利用されている。PPHは、実体審査前または実体審査請求時に請求することが望ましい。 

 最終的な決定に先立ち、通常、1~2回のオフィスアクションまたは通知が行われ、最初のオフィスアクションまたは通知(または、それがない場合は、肯定的な決定自体)は、通常、実体審査の開始から6~7月で行われる。前記早期審査を採用した場合、ロシア特許庁からの最初の通知は2~3月でなされる。 
 特許付与または拒絶の最終決定(および出願を取下げたとみなす決定)は、出願に関するそれぞれの決定の送付日から7月以内にロシア特許庁に審判請求することにより争うことができる(連邦民法第4法典第1387条第3項)。 
 ロシアの法律では、実体審査の請求、オフィスアクションに対する応答の提出、またはロシア特許庁の決定に対する審判の提出のための期間を、期間徒過時から1年以内に回復するオプションがある(連邦民法第4法典第1389条第1項、2項)。 
(連邦民法第4法典第1374条、第1384条~第1387条、第1389条) 

関連記事: 
「ロシアにおける特許制度の運用実態」(2015.11.24) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10074/
「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13867/

[権利設定前の争いに関する手続] 
7. 拒絶査定に対する手続 
 審査官の決定に対する不服審判は、決定の日から7月以内にロシア特許庁に提出できる。不服審判は、審判部のメンバーおよびロシア特許庁の対応する審査部の審査官の双方から選ばれた3~5名の審査官/審判官で構成される審判体により審理される。ヒアリングには、出願人および審判請求された決定を出した審査官の双方が参加する。 

 審理の結果、以下のような決定がされる。 
拒絶査定に対して不服がある場合: 
– 請求を認容し、既存の請求項に対し特許の決定を下す。 
– 請求を不成立とし、ロシア特許庁の決定を維持する。 
– 請求を認容し、補正された請求項に対し特許の決定を下す。 

特許査定に対して不服がある場合: 
– 請求を認容し、付与決定を取り消し、出願を追加審査に付す。 
– 請求を不成立とし、ロシア特許庁の決定を維持する。 
– 請求を一部認容し、補正後された請求項に対し特許の決定を下す。 

取り下げ決定に対して不服がある場合: 
– 請求を認容し、出願を回復させる。 
– 請求を不成立とし、ロシア特許庁の決定を維持する。 

 決定は、ヒアリングにおいて審判部によって言い渡され、その後、ロシア特許庁の書面による決定が2月以内に作成されて出願人に送付される。 
(連邦民法第4法典第1387条、第1389条)

8. 権利設定前の異議申立 
 法律には、特許出願に対する異議申立に関する規定はない。しかし、出願公開後、何人もファイルを閲覧し、出願の特許性に関して意見をロシア特許庁に提出することができる。意見書を提出するための手数料はかからない。これらの意見は、審査官が審査手続において考慮する。意見の提出をした者は、出願を審査する際の手続には参加しない。 
(連邦民法第4法典第1386条第5項)

9. 上記7.の判断に対する不服申立 
 審決に対する不服申立は、審決書の受理日から3月以内に知的財産権裁判所(IPR裁判所)に提出することができる。知的財産権裁判所は、審理により、審決を支持するか、破棄することができる。破棄する場合、知的財産権裁判所は通常、ロシア特許庁に各請求を再度審理するよう命ずる。 
(連邦憲法(ロシア連邦の仲裁裁判所について)第43条第4項、ロシア連邦仲裁手続法第198条) 
 なお、上記「仲裁裁判所」(арбитражный суд)および上記「ロシア連邦仲裁手続法」(арбитражный процессуальный кодекс российской федерации)は、英語では、それぞれ「Commercial Court」および「Commercial Procedure Code」と表記される。

[権利設定後の争いに関する手続] 
10. 権利設定後の異議申立 
 ロシアには、付与後の異議申立制度はない。特許付与後、特許無効の申立をすることができる。 

関連記事: 
「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13867/

11. 設定された特許権に対して、権利の無効を申し立てる制度 
 連邦民法第4法典第1398条によれば、発明に対する特許については、以下の場合に、その有効期間中いつでも、全部または一部の無効を申立することができる。 
(a) 特許された主題が特許性の条件を満たさないとき。 
(b) 付与された特許請求の範囲が、当初の明細書および特許請求の範囲に出願日時点で存在しなかった特徴を含んでいる場合。 
(c) 特許が、同一の優先日を有する同一の発明に対する複数の出願に対して付与された場合。 
(d) 発明者または特許権者の表示を誤ったまま特許が付与された場合。 

 (a)、(b)、(c)を理由とする無効の提起は、ロシア特許庁に提出する。 
 (d)の無効の提起は、知的財産権裁判所に提出する。 

 当事者(特許権者、無効申立人)および特許付与決定を行った審査官もヒアリングに参加する。 
 ロシア特許庁は、無効の申立を検討した結果、以下の決定を下すことができる。 
– 無効申立を不成立とし、特許を全て有効なまま残す。 
– 無効申立を認容し、特許を全て無効とする。 
– 無効申立を一部認容し、特許を一部無効とする。特許が一部無効となった場合、新たな特許が付与される。 

 このような無効関連の審理期間の目安は、4~6月である。 
 無効に関するロシア特許庁の決定に対して不服がある場合には、知的財産権裁判所に出訴することができる。審理の結果、知的財産権裁判所は決定を支持するか、破棄することができる。破棄する場合、知的財産権裁判所は通常、ロシア特許庁に申立事由について再度審理するよう命ずる。 
(連邦民法第4法典第1398条) 

関連記事: 
「ロシアにおける権利無効手続の統計データ」(2018.02.15) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/14554/

12. 権利設定後の権利範囲の修正 
 無効申立の審理中(上記11.参照)、特許権者は、請求項により定義された範囲を拡張することなく、請求項を訂正する権利を有する。訂正された請求項が認容されると確認された場合、無効の申立がされた特許の代わりに、上記請求項を有する新たな特許が付与されたものとする。 
(ロシア特許庁による紛争の検討および解決のための規則、パラグラフ40)。 

関連記事: 
「ロシアにおける特許のクレームの変更」(2014.06.27) 
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/6179/

13. その他の制度 
 ロシアで技術的解決策に対して得ることができるもう一つのタイプの法的保護は、実用新案特許(UM)である。この実用新案の有効期間は10年であり、延長することはできない。実用新案として保護されるのは、デバイス/装置のみである(空間的に分散したシステム(例:構造的に一体でない装置)は、実用新案として保護されるデバイス/装置とはならないことに留意されたい)。すべての実用新案登録出願のクレームは、1つの実用新案にのみ関係するものでなければならない(すなわち、代替語句のない1つの独立請求項のみが認められる)。一般的に、実用新案登録の要件は、基本的には特許に関する要件と同様であり、その詳細はすでに述べたとおりである。両者の基本的な違いは、実用新案の審査事項には、進歩性の要件が含まれないことである。 

 ロシアの現行法は以下のようなオプションを提供しており、これらは柔軟に利用することができる。 
– 発明の進歩性に不安がある場合などには、特許出願を実用新案登録出願に変更することができる。 
– ロシア特許庁において特許に対する無効審判請求が審理されている間に、特許権者は所定の基準を満たせば、その特許を実用新案に変更するよう請求することができる。 

 ロシアはユーラシア特許条約(EAPC)およびユーラシア特許条約の工業意匠の保護に関する議定書に加盟しており、ユーラシア特許庁(EAPO)が発行するユーラシア特許およびユーラシア意匠は、国内(RU)の特許および意匠と同様にロシアで有効である。 
(連邦民法第4法典第1351条、第1363条、第1376条、第1379条) 

関連記事: 
「ロシアにおける実用新案制度の運用実態」(2016.01.21) 
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ロシアにおける特許制度のまとめ-実体編

1. 特許制度の特徴
1-1. 特許と実用新案の同日の出願について
 連邦民法第4法典第1383条2項により、同一の出願人、同一の優先権を有する2つの特許(一方が発明のもので、他方がこれと同一の実用新案のもの)を取得することはできない。第二特許は、出願人が第一特許を放棄した後にのみ付与される。
 先の特許は,連邦民法第4法典第1394条に基づき,他方の出願に基づくその特許付与に関する情報の公告日に終了する。発明または実用新案の特許付与に関する情報と先の特許の終了に関する情報とは,同時に公表されるものとする(連邦民法第4法典第1383条第2項)。

1-2. 出願の補正
 審査中であっても最終的な付与または拒絶の決定がなされる前に、出願人は、発明の本質を変更しない限り(「新規事項」を導入しない限り)、出願内容の手続補正書を提出する権利を有する。
 補正が、当初提出された明細書および請求項に欠けている新規事項を請求項に含んでいる場合には、発明の本質が変更された(「新規事項」が導入された)とみなされる。
 連邦民法第4法典1390条第2項に規定された予備調査機関が認可されていないため、予備調査に基づく実用新案登録出願の自発的な補正は認められない。補正は、審査官の要求があった場合にのみ可能であり、補正は審査官の要求に沿ったものでなければならない(連邦民法第4法典第1378条第1項、第1390条第2項)。加えて、補正は、実用新案の本質を変更しない場合のみ、すなわち、「新規事項」の特徴を導入せず、係属中の独立請求項を他の独立請求項で補充したり、置き換えたりせず、最初に開示された技術的結果に関連しない新しい技術的結果の記載や言及さえもしない場合のみ、認められる(連邦民法第4法典第1378条第2項)。

 オフィスアクションに対して、反論と補正の両方を提出することができるが、自発的な補正は、以下の段階においてのみ提出することができる。

  • 特許協力条約出願のロシア国内段階に入るとき(4月以内に提出可能)。
  • 実体審査請求時
  • 最初のオフィスアクションまたは通知に添付された情報調査報告書を受領したとき。
     補正は、新規事項の有無を確認し、新規事項がある場合は認められない。すべての補正は出願期間中のみ認められ、特許請求の範囲に対する付与後の補正(明らかな誤りやタイプミスの訂正を除く)は認められない。

1-3. 秘密特許の審査
 連邦民法第4法典第1401条第3項により、発明出願の審査の過程で、その出願に秘密情報が含まれていることが判明した場合、その出願は秘密に分類され、秘密発明の出願とみなされることになる。
 ロシアで発案された発明または実用新案の出願に関する秘密保持審査手続は、政府によって承認された規則により定められている。
 外国人または外国法人からの出願を秘密として分類することは認められていない。

参考資料:
「ロシア連邦政府令第928号」(2007.12.24)
https://new.fips.ru/documents/npa-rf/postanovleniya-pravitelstva-rf/postanovlenie-pravitelstva-rf-ot-24-12-2007-g-928.php#pravila

1-4. コンピュータ・プログラムそれ自体の特許性
 コンピュータ・プログラムそれ自体は、特許を受けることができない(連邦民法第4法典第1350条第5項)。しかし、コンピュータ関連発明に用いられる慣例の主題(方法、装置)は、クレームされた事項の具体的実施形態が明らかとなり、独立請求項に記載された構成全体によって奏される技術的効果との因果関係により特徴付けられている場合、潜在的に認められる可能性がある。
 特許出願の審査を規定する特許規則(2016年)には、法定除外(特許を受けることができない発明)をさらに説明するために、いくつかの基準と事例が示されている。特に、同規則には、発明としてクレームされた主題の特許適格性の審査に関する基準が示されている。
「49. クレームされた発明が特許適格性基準に適合しているかどうかの確認は、以下の分析を含むものとする。

  • クレームされた発明の特徴
  • クレームされた発明が解決した問題
  • クレームされた発明が提供する結果
  • 特徴と結果の間の因果関係
    (…中略…)発明の意図を反映した総称(すなわち、発明の名称)または請求項に記載された発明の特徴のすべてが、これらの(除外された)主題の特徴である場合、または発明の特徴のすべてが技術的ではない結果をもたらす場合、請求項に係る発明は発明ではない主題に関連していると認識されなければならない。」

参考資料:
「規則第49項」(2016.05.25)
https://new.fips.ru/documents/npa-rf/prikazy-minekonomrazvitiya-rf/prikaz-ministerstva-ekonomicheskogo-razvitiya-rf-ot-25-maya-2016-g-316.php#I
※2021年3月31日付でリバイスされている。

 さらに、特許出願審査基準(2018年版)には、クレームされた発明の特許適格性および特許保護から除外されるものへの分類を確認するためのさらなる指針および事例が示されている。例えば、同審査基準は以下を示す;
 コンピュータ・プログラム(オペレーティングシステムおよびソフトウェアパッケージを含む)は、任意の言語(プログラミング言語)およびソースコードやオブジェクトコードを含む任意の形態で記述できる。コンピュータ・プログラムは著作権の対象であり、文学の著作物として保護される(…中略…)。
 特許出願においてコンピュータ・プログラムに関する情報を発明と認める形で記載した場合は、連邦民法第4法典第1350条第5項に違反する。この場合、クレームされた主題は特許の保護を受ける資格がないとされ、特許の付与を拒否する根拠が存在することになる。
 しかしながら、特許出願は、技術的効果を得ることを目的とし、コンピュータのハードウェア(物質的手段)を用いて実行される信号(物質的対象)を用いた一連の命令として記述されたコンピュータ・プログラムのアルゴリズムに関連している場合がある。この場合、クレームされた発明の主題は技術的解決手段にあるとして、特許性のさらなる審査(進歩性等の審査)に進む根拠が存在することになる。

参考資料:
「審査基準 第V章 2.4.34-2.4.36」(2018.12.27)
https://new.fips.ru/to-applicants/inventions/ruc-iz.pdf#page=158

関連記事:
「ロシアにおける特許のクレームの変更」(2014.06.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/6179/
「ロシアにおける第一国出願義務」(2016.05.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/11172/
「ロシアにおけるコンピュータ・プログラムの保護」(2014.05.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/5935/
「ロシアにおけるコンピュータソフトウェア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16387/

2. 発明の保護対象
 連邦民法第4法典第1350条によると、製品(特に装置、物質、微生物株、植物または動物の細胞培養)または方法(有形的手段を用いて有形的対象に影響を与えるプロセス)に関するあらゆる分野の技術的解決は、発明として保護されなければならない。
 発見、科学理論、数学的方法、ゲームのルール、知的または事業活動のルール、コンピュータソフトウェア、情報の提示に関するアイデア(各場合とも「それ自体」)は特許されない。
 植物品種、動物品種(育種の成果)、およびそれらの生産のための生物学的方法は、特許の保護から除外される。ただし、微生物学的方法および微生物学的方法により得られた製品は保護される。
 連邦民法第4法典第1351条によると、装置に関する技術的解決策のみが実用新案として保護される。
連邦民法第4法典第1349条4項によると、人間のクローンを作る手段、人間の胚系統の細胞の遺伝的完全性を修正する手段、産業・商業目的での人間の胚の使用、公共の利益や人道・道徳の原則に反する解決策は、特許されない。

関連記事:
「ロシアにおける特許および実用新案登録を受けることができる発明とできない発明」(2020.12.22)
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3. 特許を受けるための要件
 特許を受けるためには、新規性、進歩性、産業上の利用可能性に関する特許要件に適合する必要がある(連邦民法第4法典第1350条)。
 実用新案については、産業上の利用可能性と新規性の要件のみが適用される。実用新案に進歩性が適用されないこととバランスをとるため、新規性の審査では本質的な特徴のみが考慮される。ロシアの特許実務によれば、本質的な特徴とは、他の本質的な特徴との組み合わせにより実用新案による技術的結果の達成(課題の解決)を保証する特徴であり、本質的な特徴がなければ技術的結果を達成できないものである。請求項に含まれる非本質的特徴は、実用新案の新規性を考慮する際に考慮されない(連邦民法第4法典第1351条)。

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「ロシアにおける特許および実用新案の特許事由と不特許事由」(2015.11.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/9166/

4. 職務発明の取扱い
 法律には、発明に関する特許を受ける権利は発明者に帰属するとの一般原則が定められている。ただし、使用者のための労務または特定の仕事を遂行する過程でなされた従業員の発明の場合、従業員と使用者の間の労働契約等の契約に別の定めがない限り、この権利は使用者に帰属することが、法律により定められている(連邦民法第4法典1370条3項)。
 従業員は、両者間の合意により別の定めがある場合を除き、職務発明を発案したことを書面で使用者に通知しなければならない(連邦民法第4法典第1370条第4項)。

 従業員が使用者に通知した日から6月以内(2020.12.22 N456-FZで「4月以内」から「6月以内」に改正された)に、使用者が当該発明についてロシア特許庁に特許出願を行わず、職務発明について特許を受ける権利を第三者に譲渡せず、情報についての秘密保持の要件を従業員に通知しなかった場合、当該発明について特許を受ける権利は、従業員に返還される。この場合、使用者は、単純な通常実施権または契約もしくは紛争が生じた場合には裁判によって合意された報酬を特許権者に支払うことを条件に、特許権の存続期間中、自己の事業で職務発明を使用する権利を有する(連邦民法第4法典1370条4項)。

 職務発明の特許を譲り受けた使用者は、早期に特許を終了することを決定した場合、その旨を従業員に通知し、従業員の求めに応じて特許を無償で譲渡する義務がある。
 使用者が特許の早期終了を発明者に通知しなかった場合、従業員は使用者に対して、使用者の費用負担で特許回復の申立を行うよう強制する訴訟を提起する権利を有する。
 使用者が職務発明の特許を取得した場合、情報を秘密にすることを決定した場合、特許を受ける権利を第三者に譲渡した場合、または自己の管理責任により出願について特許を取得できなかった場合、従業員は報酬を受ける権利を有する。報酬の額およびその支払方法は、従業員と雇用主との間の契約、または紛争の場合には裁判所により定められる(連邦民法第4法典第1370条第4項)。

 職務発明、実用新案、工業意匠に対する報酬の支払い率や手続きを政府が規定できることが法律により定められている。これらの料金および手続きは、使用者と従業員が報酬に関する合意を結んでいない場合に適用される(連邦民法第4法典第1246条第5項)。

 従業員が使用者の財政的、技術的またはその他の物質的資源を利用して創作した発明であるとしても、雇用義務の履行または使用者からの特定の任務の遂行に関連していないものは、職務発明とはならない。そのような発明の特許を受ける権利は、従業員に帰属することになる。この場合、使用者は、ロイヤルティ不要の非独占的ライセンスで必要に応じ発明を使用する権利、または当該発明の創出に関して使用者が負担した費用の補償を要求する権利をオプションとして有する(連邦民法第4法典1370条5項)。

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「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13867/
※添付マニュアルの11頁に職務発明について説明が記載されている。

5. 特許権の存続期間
5-1. 存続期間
特許権の保護期間は、連邦民法第4法典第1363条第1項により以下のとおりである:

  • 発明の特許は出願日から20年
  • 実用新案は出願日から10年

5-2. 特許権の存続期間の延長制度
 販売・マーケティングについて規制当局による許可を得る必要がある医薬品または農薬に関連する発明の保護期間は、5年を超えない範囲で延長することができる。このような発明の特許期間の延長は、許可を得た製品の使用を特徴づける特許発明の特徴の組合せを含む請求項を有する補足特許証明書が発行されることで達成される(連邦民法第4法典1363条2項)。
 実用新案特許の延長はできない。

5-3. 審査の遅延による存続期間の延長補償
 そのような補償は存在しない。

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「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04)
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ロシアにおける特許制度のまとめ-手続編

1. 出願に必要な書類

 発明または実用新案に関する出願は、以下を含まなければならない。
・特許付与を求める請求書(願書、弁理士が作成する。)
・クレームされた発明(または実用新案)を実施できるよう十分詳細に開示する明細書
・発明(実用新案)の本質的な特徴を記載し、明細書によって完全に裏付けられた特許請求の範囲
・発明(実用新案)を理解するために必要な図面その他の資料
・要約
(連邦民法第4法典第1375条、第1376条)

 出願は、1つの発明のみ、または単一の一般的な発明概念を形成するために関連付けられた一群の発明についてのみ行うことができる(発明の単一性の要件)。実用新案登録出願は、1つの実用新案(1つの独立請求項)についてのみ行うことができる。
(連邦民法第4法典第1375条、第1376条)

 出願日は、付与を求める請求書、明細書および明細書に図面の記載がある場合は図面を提出した日に成立するものとする。前述の書類が同時に提出されない場合、出願日は、それらの書類のうち最後のものを受領した日に与えられる。
 優先権書類の認証謄本は、優先日から16月以内にロシア特許庁に提出しなければならない。
(連邦民法第4法典第1375条、第1376条、第1382条)

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「ロシアにおける優先権主張の手続」(2020.12.24)
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「ロシアにおける特許・実用新案出願制度の概要」(2019.11.12)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17907/
「日本とロシアにおける特許出願書類・手続の比較」(2019.09.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17715/

2. 記載が認められるクレーム形式

2-1. クレームの許容される形式
 以下の請求項が認められる。
・デバイス(装置・製品)のクレーム
・組成物(化合物)のクレーム
・方法(プロセス)クレーム
・プロダクト・バイ・プロセス・クレーム
・用途クレーム

 単一請求項と複数請求項の両方が認められる。請求項は、発明の目的を反映した前文と、発明の特徴を含む本文を含むべきである。本文は、特徴の前提部分と特徴部分から構成されてもよい(義務ではない)。特許請求の範囲は、発明の本質を定義し、明細書によって完全に裏付けられなければならない。発明の単一性の要件を満たせば、複数の独立請求項を記載することができる。

 独立請求項の数に制限はない。1つの独立請求項は、1つの発明のみを特定すべきである。代替的特徴(マーカッシュ形式による発明特定事項の記載)は、独立請求項と従属請求項の両方で使用することができる。1つの独立請求項は、1文であるべきである。プロダクト・バイ・プロセス・クレームが許容される。
 先行する独立請求項を引用する従属請求項が認められる。複数の請求項を引用する請求項は、他の複数の請求項を引用する請求項を引用してはならない(マルチ-マルチクレームは許容されない)。従属請求項は、付加的な特徴および/または詳細化した特徴を含むことができ、詳細化した特徴は、独立請求項の一部の特徴および/または特徴の前提部分の特徴を発展させたものである。従属請求項の数には制限はない。
(2016年5月25日付のロシア連邦経済開発省の命令第316号(以下「命令第316号」という) I.申請書を提出するための一般的な要件、IV.請求項の要件、発明の国家登録と発明特許の付与という公共サービスの提供の枠内での行政手続と行為に関するガイドライン 第5節(発明の単一性))

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「ロシアにおけるプロダクト・バイ・プロセスクレーム解釈のプラクティス」(2017.05.25)
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「ロシアにおける特許の審査基準・審査マニュアル」(2014.11.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/7134/

2-2. 認められないクレーム形式
 複数の請求項を引用する請求項は、他の複数の請求項を引用する請求項を引用してはならない。
(2016年5月25日付のロシア連邦経済開発省の命令第316号 IV.請求項の要件)

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「ロシアにおける特許および実用新案登録を受けることができる発明とできない発明」(2020.12.22)
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3. 出願の言語

 特許出願は、外国語で行うことができる。ロシア語の翻訳文は、出願と一緒に提出することができ、正式なオフィスアクションに対応して後から提出することもできる。
(連邦民法第4法典第1374条、第1384条、命令第316号 II.申請書類の審査(第28条))

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4. グレースピリオド

 出願日の6月前までのグレースピリオドが適用される。発明者、出願人、または発明者もしくは出願人から直接もしくは間接に情報を得た者による発明に関する情報の公開は、その情報が公開されてから6月以内に特許庁に発明が出願されれば、その発明の特許性を喪失させない。立証責任は出願人にある。
(連邦民法第4法典1350条第3項)

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5. 審査

5-1. 方式審査
 特許出願は、方式審査の対象となる。方式審査では、以下の要件がチェックされる。
a) 必要な出願書類がすべて提出されており、すべての書類が方式要件を満たしていること。いずれかの要件が満たされていない場合、出願人に通知され、不備を修正するための3月の期間が与えられる(手数料の支払いで、期間延長を請求することができる)。出願人が期限内に不備を修正できない場合、修正または不足する書類を提出できない場合、出願は取下げられたものとみなされる。
b) 手数料が正しく支払われていること。
c) 発明の単一性の要件が満たされていること(発明の内容は確認されず、明らかな矛盾点のみが判断される)。発明の単一性の要件が満たされない場合、出願人は、審査官の要請により3月以内に請求された発明のどれを審査すべきかを示すことができる。この期間内に出願人が審査すべき発明を示さない場合、審査は最初にクレームされた発明に関してのみ行われる。
d) IPC(国際特許分類)が付されている場合、正しく付されていること(付されていない場合は、審査官が付与する)。
(連邦民法第4法典第1384条、命令第316号 II.申請書類の審査(第23条、第31条、第32条)およびIII.規則第3条に基づく請求書の審査(第108条))

関連記事:
「ロシアにおける特許・実用新案出願制度の概要」(2019.11.12)
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5-2. 実体審査
 出願が方式審査に合格すると、出願人は実体審査請求書を提出し、手数料を支払わなければならない。ロシアでは、発明の繰延べ審査制度がある。
 審査請求は、出願人または第三者が行う。審査請求は、出願時または出願日(PCTの場合は国際出願日)から3年以内に行わなければならない。審査請求期間は,2月延長することができる。前記期間内に審査請求が行われなかった場合、出願は放棄される。期間徒過は、期間徒過の日から1年間は回復することができる。
 再審査および異議申立は行われない。しかし、ロシア特許庁によって出願中の発明に関する情報が公表された後、何人もロシア特許庁に対して発明の特許性に関する意見を提供する権利を有し、意見は出願の実体審査において考慮される。ただし、当該意見の提出は、出願の審査における手続上の権利を当該者に与えるものではない。
(連邦民法第4法典第1386条、1389条、命令第316号 I.発明の国家登録に関する法的措置の根拠となる文書の作成および提出(第8条))

関連記事:
「日本とロシアの特許の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する比較」(2019.08.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17659/
「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13867/

5-3. 早期審査(優先審査)
 特許出願から特許権取得までの期間は、短縮される傾向にあるが、案件によって大きく異なる。平均では、1年またはそれ以下となる場合もある。
 ロシアはPPH(特許審査ハイウェイ)制度に加盟している。ロシア特許庁は、オーストリア、カナダ、中国、デンマーク、ドイツ、エストニア、欧州(EPO)、ハンガリー、イスラエル、チリ、ペルー、ポルトガル、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、アイスランド、日本、韓国、ノルウェイ、ポーランド、フィンランド、スウェーデン、コロンビア、スペイン、トルコ、英国、米国の27か国・地域の特許庁と、PPH協定およびPPH-MOTTAINAI協定を締結している。また、上記27か国・地域から中国を除く26か国・地域の特許庁とPCT-PPH協定を、上記27か国・地域から中国、欧州(EPO)、トルコを除き北欧特許庁およびヴィシェグラード特許機構を加えた26か国・地域の特許庁とGlobal PPH協定を締結している。

注)2022年5月10日、日本国特許庁(JPO)は、ロシア連邦知的財産・特許・商標庁(ROSPATENT) の間の特許審査ハイウェイ(PPH)を一時停止することを決定いたしました。

参考情報:https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/pph/japan_russia_highway.html

関連情報:
「PPHプログラム」(ロシア特許庁の公表、ロシア語)(2021.02.20)
https://rospatent.gov.ru/ru/activities/inter/bicoop/pph/patent-prosecution-highway
「PCT-PPHプログラム」(ロシア特許庁の公表、ロシア語)(2021.02.20)
https://rospatent.gov.ru/ru/activities/inter/bicoop/pph/pct-pph
「PPH-MOTTAINAIプログラム」(ロシア特許庁の公表、ロシア語)(2021.02.20)
https://rospatent.gov.ru/ru/activities/inter/bicoop/pph/pph-mottainai
「グローバルな優先特許手続(Global PPH)」(ロシア特許庁の公表、ロシア語)(2021.02.20)
https://rospatent.gov.ru/ru/activities/inter/bicoop/pph/gpph
「PPHネットワーク」(JPOの公表、日本語)(日付不明)
https://www.jpo.go.jp/toppage/pph-portal-j/network.html
※Global PPH加盟国については次の情報を参照されたい。
「PCT-特許審査ハイウェイプログラム(PCT-PPHおよびグローバルPPH)」(WIPOの公表、英語)(2022.01.26)
https://www.wipo.int/pct/en/filing/pct_pph.html

関連記事:
「ロシアにおける特許権早期取得のテクニック」(2016.06.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/11804/
「ロシアにおける特許および実用新案に関する統計」(2018.06.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/15360/

6. 出願から登録までのフローチャート

6-1. 出願から登録までの特許出願のフローチャート

フローチャート

6-2. フローチャートの簡単な説明
 発明に対する特許は、発明毎にされた特許出願の審査の肯定的な結果に基づいて、連邦知的財産庁(ロスパテント、ロシア特許庁、RUPTO)により特許証が発行される。特許出願は、一般に、出願に応じて作成された願書、明細書、図、請求の範囲および要約書を含み、願書はすべてロシア語で、その他の出願書類はロシア語または他言語(ロシア語による翻訳文を添付)で作成されなければならない(連邦民法第4法典第1374条)。
 出願は、ロシア特許庁に直接、郵送またはオンラインで行うことができる。

 発明の出願がロシア特許庁に受理された後、その出願は審査に付される。審査は、方式審査(連邦民法第4法典第1384条)および実体審査(連邦民法第4法典第1386条)から構成される(上記5.を参照)。
 発明の出願は、ロシア特許庁への出願日から18月を経過した後に公開される(連邦民法第4法典1385条)。実用新案出願は公開されず、方式審査を通過後、直ちに実体審査に移行する。
 出願公開後は、誰でも出願書類(審査経過を含む)を閲覧することができ、出願書類の写しを取り寄せることができる。
 特許審査ハイウェイ(PPH)は、ロシアで利用できる効率的な早期審査の機会であり、よく利用されている。PPHは、実体審査前または実体審査請求時に請求することが望ましい。

 最終的な決定に先立ち、通常、1~2回のオフィスアクションまたは通知が行われ、最初のオフィスアクションまたは通知(または、それがない場合は、肯定的な決定自体)は、通常、実体審査の開始から6~7月で行われる。前記早期審査を採用した場合、ロシア特許庁からの最初のコミュニケーションは2~3月で行われる。
 特許付与または拒絶の最終決定(および出願を取下げたとみなす決定)は、出願に関するそれぞれの決定の送付日から7月以内にロシア特許庁に審判請求することにより争うことができる(連邦民法第4法典第1387条第3項)。
 ロシアの法律では、実体審査の請求、オフィスアクションに対する応答の提出、またはロシア特許庁の決定に対する審判の提出のための期間を、期間徒過時から1年以内に再び延長するオプションがある(連邦民法第4法典第1389条第1項、2項)。
(連邦民法第4法典第1374条、第1384条~第1387条、第1389条)

関連記事:
「ロシアにおける特許制度の運用実態」(2015.11.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10074/
「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13867/

[権利設定前の争いに関する手続]

7. 拒絶査定に対する手続

 審査官の決定に対する不服審判は、決定の日から7月以内にロシア特許庁に提出できる。不服審判は、審判部のメンバーおよびロシア特許庁の対応する審査部の審査官の双方から選ばれた3~5名の審査官/審判官で構成される審判体により審理される。ヒアリングには、出願人および審判請求された決定を出した審査官の双方が参加する。

 審理の結果、以下のような決定がされる。
拒絶査定に対して不服がある場合:

  • 請求を認容し、既存の請求項に対し特許の決定を下す。
  • 請求を不成立とし、ロシア特許庁の決定を維持する。
  • 請求を認容し、補正された請求項に対し特許の決定を下す。

特許査定に対して不服がある場合:

  • 請求を認容し、付与決定を取り消し、出願を追加審査に付す。
  • 請求を不成立とし、ロシア特許庁の決定を維持する。
  • 請求を一部認容し、補正された請求項に対し特許の決定を下す。

取り下げ決定に対して不服がある場合:

  • 請求を認容し、出願を回復させる。
  • 請求を不成立とし、ロシア特許庁の決定を維持する。

 決定は、ヒアリングにおいて審判部によって言い渡され、その後、ロシア特許庁の書面による決定が2月以内に作成されて出願人に送付される。
(連邦民法第4法典第1387条、第1389条)

8. 権利設定前の異議申立

 法律には、特許出願に対する異議申立に関する規定はない。しかし、出願公開後、何人もファイルを閲覧し、出願の特許性に関して意見をロシア特許庁に提出することができる。意見書を提出するための手数料はかからない。これらの意見は、審査官が審査手続において考慮する。意見の提出をした者は、出願を審査する際の手続には参加しない。
(連邦民法第4法典第1386条第5項)

9. 上記7.の判断に対する不服申立

 審決は、3月以内に知的財産権裁判所(IPR裁判所)で争うことができる。その結果、知的財産権裁判所は決定を支持するか、破棄することができる。破棄する場合、知的財産権裁判所は通常、ロシア特許庁に各請求を再度審理するよう命ずる。
(連邦憲法(ロシア連邦の仲裁裁判所について)第43条第4項、ロシア連邦仲裁手続法第198条)
 なお、上記「仲裁裁判所」(арбитражный суд)および上記「ロシア連邦仲裁手続法」(арбитражный процессуальный кодекс российской федерации)は、英語では、それぞれ「Commercial Court」および「Commercial Procedure Code」と表記される。

[権利設定後の争いに関する手続]

10. 権利設定後の異議申立

 ロシアには、付与後の異議申立制度はない。特許付与後、特許を無効とすることができる。

関連記事:
「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13867/

11. 設定された特許権に対して、権利の無効を申し立てる制度

 連邦民法第4法典第1398条によれば、発明に対する特許は、以下の場合に、その有効期間中いつでも、全部または一部を無効とすることができる。
(a) 特許された主題が特許性の条件を満たさないとき。
(b) 付与された特許請求の範囲が、当初の明細書および特許請求の範囲に出願日時点で存在しなかった特徴を含んでいる場合。
(c) 特許が、同一の優先日を有する同一の発明に対する複数の出願に対して付与された場合。
(d) 発明者または特許権者の表示を誤ったまま特許が付与された場合。

 (a)、(b)、(c)を理由とする無効の提起は、ロシア特許庁に提出する。
 (d)の無効の提起は、知的財産権裁判所に提出する。

 当事者(特許権者、異議申立人)および特許付与決定を行った審査官もヒアリングに参加する。
無効の提起を検討した結果、以下の決定を下すことがでる。

  • 無効の提起を不成立とし、特許を全て有効なまま残す。
  • 無効の提起を認容し、特許を全て無効とする。
  • 無効訴訟を一部認容し、特許を一部無効とする。特許が一部無効となった場合、新たな特許が付与される。  このような無効関連の審理期間の目安は、4~6月である。
     無効に関するロシア特許庁の決定は、知的財産権裁判所に出訴することができる。その結果、知的財産権裁判所は決定を支持するか、破棄することができる。破棄する場合、知的財産権裁判所は通常、ロシア特許庁に各請求を再度審理するよう命ずる。
    (連邦民法第4法典第1398条)

関連記事:
「ロシアにおける権利無効手続の統計データ」(2018.02.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/14554/

12. 権利設定後の権利範囲の修正

 無効の提起の審理中(上記11.参照)、特許権者は、それによって定義された範囲を拡張することなく、請求項を訂正する権利を有する。訂正された請求項が認容されると確認された場合、提起された特許の代わりに、上記請求項を有する新たな特許が付与されたものとする。
(ロシア特許庁による紛争の検討および解決のための規則、パラグラフ40)。

関連記事:
「ロシアにおける特許のクレームの変更」(2014.06.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/6179/

13. その他の制度

 ロシアで技術的解決策に対して得ることができるもう一つのタイプの法的保護は、実用新案特許(UM)である。このような特許の有効期間は10年であり、延長の可能性はない。実用新案として保護されるのは、デバイス/装置のみである(空間的に分散したシステム(例:構造的に一体でない装置)は、実用新案として保護されるデバイス/装置として識別されてはならないことに留意されたい)。すべての実用新案特許出願のクレームは、1つの実用新案にのみ関係するものでなければならない(すなわち、代替語句のない1つの独立請求項のみが認められる)。一般的に、実用新案特許出願と特許は、基本的には発明に関する要件と同様の要件に従い、その詳細はすでに述べたとおりである。両者の根本的な違いは、実用新案の特許性基準には産業上の利用可能性と新規性だけが含まれることであり、すなわち、進歩性がない実用新案特許もあり得る。

 ロシアの現行法は以下のようなオプションを提供しており、これらは柔軟に利用することができる。

  • 未公開の発明の出願を実用新案出願に変更することができる(例:発明の進歩性に疑問がある場合)。
  • ロシア特許庁が発明に対する特許の無効審判を検討している間、所定の基準を満たせば、その特許を実用新案特許に変更するよう請求することができる。

 ロシアはユーラシア特許条約(EAPC)およびユーラシア特許条約の工業意匠の保護に関する議定書に加盟しており、ユーラシア特許庁(EAPO)が発行するユーラシア発明特許およびユーラシア意匠特許は、国内(RU)の発明特許および意匠特許と同様にロシアで有効である。
(連邦民法第4法典第1351条、第1363条、第1376条、第1379条)

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「ロシアにおける実用新案制度の運用実態」(2016.01.12)
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ロシアにおける特許および実用新案登録を受けることができる発明とできない発明

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ロシアにおける実用新案制度の運用実態

【詳細】

 ブラジル・メキシコ・コロンビア・インド・ロシアの産業財産権制度及びその運用実態に関する調査研究報告書(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)第2部-V-C

 

(目次)

第2部 各国の産業財産権制度・運用調査結果

 V ロシア連邦

  C 実用新案 P.356

   1 産業財産権制度の枠組 P.356

   2 出願・登録の手続 P.363

   3 審査業務 P365

   4 統計情報 P.367

 参考資料 総括表

  C 実用新案 P.413

ロシアにおける特許および実用新案の特許事由と不特許事由