ロシアにおける権利無効手続の統計データ
特許、実用新案および意匠は、以下のいずれかに該当する場合には、存続期間中いつでも全体的または部分的に無効にされる可能性がある(ロシア連邦民法第IV部の第1398条1項)。
(a) 権利付与された客体が、民法に定められた所定の要件を満たしてない(特許の場合は新規性、進歩性および産業上の利用可能性、実用新案の場合は新規性および産業上の利用可能性、意匠の場合は新規性および独創性)。
(b) 特許または実用新案のクレームが、出願時の明細書およびクレームに存在していなかった特徴を含む。意匠の視覚的表現物が、出願時の表現物にはなかった本質的特徴を含んでいる、または出願時の表現物にあった本質的特徴を含んでいない。
(c) 同一の発明、実用新案または意匠に関して同一の優先日を有する複数の出願が存在する状況において、ロシア連邦民法第IV部の第1383条の条件に違反して、権利が付与された。
(d) 誤った発明者/考案者/創作者または権利者により権利が付与された。
上記(a)、(b)および(c)の理由に基づく無効審判請求は、ロシア特許庁に提出され、ロシア特許庁における連邦産業財産権機関の審判部によって審理される。双方の当事者(権利者および無効請求人)および権利付与の決定を下した審査官が、この審理に参加できる。審理において審判部により審決が告知された後、2か月以内に審決書が作成され、両当事者に送付される。
上記(d)の理由に基づく無効審判請求は、知的財産権裁判所(IPR Court)に直接提出する。
審判部は2種類の審判請求を審理する。1つ目は、特許、実用新案および意匠出願ならびに商標出願に対する審査官の決定を不服とする出願人の審判請求であり、2つ目は、特許権、実用新案権および意匠権付与ならびに商標登録に対する無効審判請求である。無効審判請求は、審判部に提出される審判請求の30~40%を占めている。特許権に対する無効審判請求は、審判部により審理される無効審判請求全体の12~16%を占めている。
ロシア特許庁は、審判請求に関する年次報告データを公表している。ただし、データ構造は年によってまちまちであり、また、入手できないデータもある点に注意が必要である。例えば、審判請求が提出された理由に関する情報がない。また、審判請求人に関する情報もないため、居住者または非居住者によりそれぞれ提出された審判請求の件数を判断することはできない。
以下の各表は、ロシア特許庁の年次報告、ロシア連邦最高裁判所の司法部門により公表された報告、および知的財産権裁判所の報告から収集したデータに基づくものである。
審判部に提出され、審判部により審理された審判請求の件数
審判部に提出され、審判部により審理された審判請求の件数(続き)
無効審判請求の審理後、ロシア特許庁は以下の審決を下すことができる。
- 無効審判請求を棄却し、権利全体を有効に維持する。
- 無効審判請求を認容し、権利全体を無効にする。
- 無効審判請求を部分的に認容し、権利を一部無効にする。
権利が一部無効にされた場合、有効な部分について新たに権利が付与される。
以下の表は、審判部による無効審判請求の審理結果を示している。
審判部による無効審判請求の審理結果
統計データから、無効審判を請求された権利の半数以上が全体的または部分的に無効にされていることがわかる。
ロシア特許庁における無効審判請求の所要期間は、2015年は12.5か月、2016年は10.3か月、2017年前期は7.1か月であった。
無効審判請求に関する特許庁審決を不服とする場合は、知的財産権裁判所に上訴できる。
特許庁審決に対する上訴の統計データ
上記の表から、知的財産権裁判所は、無効審判請求の特許庁審決を不服とする上訴の17~20%を認容していることが分かる。
知的財産権裁判所の判決に対し、知的財産権裁判所の破棄審に上訴することができ、さらにロシア連邦最高裁判所へ上訴することもできる。特許権、実用新案権および意匠権の無効審判請求に関して知的財産権裁判所の破棄審へ上訴された事件の約11~15%が認容されている。
ロシアにおける特許取得-ユーラシア特許制度
「模倣対策マニュアル ロシア編」(2016年3月、日本貿易振興機構)第1章第1節(2)
(目次)
第1章 ロシアにおける知的財産権の取得
第1節 特許
(2) ユーラシア特許制度 P.26
(a) ユーラシア特許制度の特徴 P.27
(b) 出願人適格及び特許要件 P.30
(c) 出願から特許付与までの手続 P.30
(d) 特許権 P.31
(e) ユーラシア特許の審判 P.32
1) 審判請求 P.32
2) 行政無効手続 P.33
(f) 手数料 P.34
(g) 公告 P.35