フィリピンにおける商標制度のまとめ-手続編
1. 出願に必要な書類
知的財産法第124条、商標規則第400、第402、第405に規定されるように、商標登録出願は、フィリピン語または英語で記載しなければならず、かつ、商標の複製、ニ-ス分類の類に従って群に纏められた登録を求める商品またはサ-ビスの名称およびその商品またはサ-ビスの各群が属するニ-ス分類の類の番号などを含まなければならない。
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「フィリピンにおける商標登録出願制度概要」(2019.07.25)
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「フィリピンの商標等関連の法律、規則、審査基準等」(2019.04.09)
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「フィリピンにおける商標審査基準関連資料」(2016.02.09)
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2. 登録できる商標/登録できない商標
2-1. 登録できる商標
知的財産法第121条第1項に規定されるように、標章とは、企業の商品(商標)またはサ-ビス(サ-ビス・マ-ク)を識別することができる可視標識をいう。例えば、文字商標、図形商標、図形に文字が付された商標、3D商標、刻印または押印された商品の容器が商標登録され得る。
2-2. 登録できない商標
知的財産法第123条第1項において、登録を受けることができない標章が列挙されている。本項によれば、反道徳的、欺瞞的もしくは中傷的な事柄または個人(存命中であるか故人となっているかを問わない)、団体、宗教もしくは国の象徴を傷付け、それらとの関連を誤認させるように示唆しもしくはそれらに侮辱もしくは汚名を与えるおそれがある事柄からなる標章、フィリピン、フィリピンの政治上の分権地もしくは外国の国旗、紋章その他の記章またはそれらに類似したものからなる標章などが登録を受けることができない標章とされている。
2-3. 通常の商標以外の制度
知的財産法第167条に規定されるように、フィリピンにおいては、団体標章も登録され得る。知的財産法第121条第2項に規定されるように、団体標章とは、登録出願においてそのように特定され、かつ、出所その他の共通の特性を識別することができる可視標識をいい、共通の特性には、登録された団体標章の権利者の管理のもとにその標識を使用する個々の企業の商品またはサ-ビスの質を含む。
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「フィリピンにおける商標の識別性に関する調査」(2021.09.02)
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「フィリピンにおける物品デザインの商標的保護とトレードドレス」(2018.08.07)
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3. 出願の言語
知的財産法第124条に規定されるように、商標登録出願は、フィリピン語または英語で記載しなければならない。
「フィリピンにおける商標登録出願制度概要」(2019.07.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17571/
「フィリピンの商標等関連の法律、規則、審査基準等」(2019.04.09)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16877/
4. グレースピリオド
フィリピンの商標制度にグレースピリオドは存在しない。
5. 審査
5-1. 実体審査
知的財産法第132条第2項に規定されるように、知的財産法第127条の要件を満たすことによって出願日が付与された出願は、知的財産法第133条1項に規定されるように、商標の登録性について審査される。
5-2. 早期審査(優先審査)
商標規則第601に規定されるように、以前登録されていた商標の登録人または譲受人による再出願であって更新可能期間が満了した商標についての出願、何れかの国、政府間機関または国際機関の標章、名称もしくは略称またはロゴに係る登録出願などの商標出願は、宣誓に基づく請求があり、手数料を納付し、かつ、審査官の承認がある場合は、優先審査を受けることが認められる。
5-3. 商標の類否判断の概要
知的財産法第第155条第1項に規定されるように、何人も、登録標章の権利者の承諾を得ないで、使用することによって混同を生じさせ、錯誤を生じさせもしくはあざむくおそれがある商品またはサ-ビスの販売等に関連して、登録標章の複製、模造などを行った場合、侵害についての権利者による民事訴訟において責任を負わなければならない。
ここで上記の「使用することによって混同を生じさせる」という類否判断の手法として、全体観察と要部観察の2種類の手法が存在する。要部観察は、競合する商標の主要な特徴を考慮し、それらが紛らわしいほど類似しているかどうかを判断する。全体観察は、ラベルやパッケージングなどの標章の全体を考慮する。主な単語だけでなく、ラベルに表示される他の特徴にも注意を向ける。
最高裁判所は、Kolin Electronics Co. Inc. vs Kolin Philippines International Inc.事件(G.R. 228165、2021年2月9日)において、「使用することによって混同を生じさせる」という類否判断の手法として、全体観察ではなく、要部観察を使用した。具体的には、最高裁判所は、要部観察を使用して、わずかな違いを無視して、登録商標の主要な特徴の採用から生じる製品の外観の類似性をより重視する。このため、最高裁判所は、価格、品質、販売店、市場セグメントなどの要素に殆ど重みを与えずに、商標によって公衆の人々に印象付けられた聴覚的および視覚的な印象をより考慮すると考えられる。
なお、知的財産法第144条第2項に規定されるように、商品またはサ-ビスは、それらが登録または庁による公示においてニ-ス分類の異なる類に属するという理由によっては相互に類似であるとも非類似であるともみなされない。
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「フィリピンにおける商標の重要判例」(2018.08.14)
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関連情報:
「Kolin Electronics Co. Inc. vs Kolin Philippines International Inc」(2021.06.15)
https://elibrary.judiciary.gov.ph/thebookshelf/showdocs/1/67171
6. 出願から登録までのフローチャート
6-1. 出願から登録までの商標出願のフローチャート
6-2. フローチャートに関する簡単な説明
商標登録出願後、まず方式審査が行われて、知的財産法第124条に規定される出願の要件が審査される。出願の要件を満たす場合、出願人によって所定の手数料が納付されると、出願日が付与される。出願の要件を満たさない場合、その旨が出願人に通知され、出願人は出願の要件を満たすための補正を行う。
次に、登録性を判断するための実体審査が行われる。拒絶理由がある場合、審査官はオフィスアクションを発行し、出願人はそれに対応する。拒絶理由がない場合、または拒絶理由に対する出願人の応答を審査官が受け入れた場合、出願は許可され、フィリピン知的財産庁のIPO公報において異議申立のための公告が行われる。異議申立が認められる期間は、公告後30日以内である(知的財産法第133条、第134条)。
異議申立期間が満了した場合、または法律局長が異議申立を却下すべきものとした場合、商標は異議申立期間の満了に後続する次の暦日に登録されたものとみなされる。異議申立が提出された場合、商標は、出願に対して追って付与する決定または最終的な命令が確定的で、かつ、執行力のあるものとなる日に登録されたものとみなされる(商標規則第703)。
その後、登録証が発行される。登録証の発行は、フィリピン知的財産庁のIPO公報において公告され、フィリピン知的財産庁に記録される(知的財産法第136条)。
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「フィリピンにおける商標異議申立制度」(2021.06.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/20350/
「フィリピンにおける商標審査基準関連資料」(2016.02.09)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10274/
7. 拒絶査定不服
商標規則第1302、第1304、第1305に規定されるように、商標または所有権に係るその他の商標の何れの登録出願人も審査官の登録付与の最終拒絶について、局長に不服申立をすることができる。不服申立は、不服申立の対象である処分の郵送日から2月以内に不服申立書を提出することによって行う。不服申立人は、不服申立の日から2月以内に、その不服申立を維持するための論拠および主張の準備書面を提出しなければならない。
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8. 権利設定前の異議申立
知的財産法第134条に規定されるように、ある標章の登録により害されるおそれがあると考える者は、出願の公告の後30日以内に、庁に対し、当該出願に対する異議申立をすることができる。当事者系手続に関する規則7第4条に規定されるように、異議申立期間は延長され得るものの、如何なる場合も、異議申立の対象として標章を公告するIPO公報の発行日から4月を超えないものとされる。
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「フィリピンにおける商標異議申立制度」(2021.06.29)
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9. 上記7の判断に対する不服申立
知的財産法第133条第5項、商標規則第1308に規定されるように、不服申立人は、商標局長による拒絶の最終決定に対して、その写しを受領した後30日の期間内に再審理申立、または長官への不服申立を行うことができる。
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[権利設定後の争いに関する手続]
10. 権利設定後の異議申立
フィリピンにおいては、権利設定後の異議申立制度はない。
11. 設定された商標権に対して、権利の無効を申し立てる制度
知的財産法第151条第1項に規定されるように、標章の登録により損害を受けているまたは損害を受けるであろうと考える者は、法律局に対して当該標章登録の取消の請求をすることができる。ただし、以下の条件に従う。
(a)取消の請求は、本法に基づく当該標章の登録日から5年以内にしなければならない。
(b)取消の請求は、当該登録標章が登録に係る商品もしくはサ-ビスもしくはその一部について一般名称になっているかもしくは放棄されている場合、当該登録が不正に得られたかもしくは本法の規定に反してなされた場合または権利者によりもしくは権利者の承認のもとに当該登録標章が商品もしくはサ-ビスの出所を偽って表示するように使用されている場合は、いつでもすることができる。登録標章が登録に係る商品またはサ-ビスの一部について一般名称になっている場合は、当該一部の商品またはサ-ビスについてのみ取消の請求をすることができる。登録標章は、当該標章がある独特の商品もしくはサ-ビスの名称としてもまたはある独特の商品もしくはサ-ビスを特定するためにも使用されているということのみを理由としては、商品またはサ-ビスの一般名称であるとはみなさない。登録標章が当該標章を使用している商品またはサ-ビスの一般名称になっているか否かを決定するに当たっては、購入者の購入の動機ではなく、関連する公衆にとっての当該標章の主要な意味が基準になる。
(c)取消の請求は、権利者が正当な理由なくして3年以上継続してフィリピンにおいて当該標章を使用しなかったかまたはライセンスによりフィリピンにおいて使用させることをしなかった場合は、いつでもすることができる。
また、知的財産法第154条に規定されるように、法律局は、取消の請求が立証されたと認める場合は、登録の取消を命じる。命令または判決が確定した場合は、記録されている権利者または利害関係人に当該登録により与えられていた権利は消滅する。
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https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16877/
「フィリピンにおける商標とサービスマーク」(2014.12.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/7414/
12. 商標の不使用取消制度
知的財産法第151条第1項(c)に規定されるように、取消の請求は、権利者が正当な理由なくして3年以上継続してフィリピンにおいて当該標章を使用しなかったかまたはライセンスによりフィリピンにおいて使用させることをしなかった場合は、いつでもすることができる。
また、知的財産法第152条では、許される標章の不使用について規定されている。本条によれば、標章の不使用は、その不使用が商標権者の意思にかかわりなく生じる状況によるものである場合は、取消を免れることができる。また、登録された形状とは異なるがその識別性のある特徴を変更しない形状での標章の使用は、標章の取消または登録簿からの除去の理由とはならず、かつ、当該標章に与えられる保護を減じない。
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https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16877/
「フィリピンにおける商標とサービスマーク」(2014.12.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/7414/
13. その他の制度
登録商標の取消は、商標権侵害の申し立てに対する抗弁として、被告によって請求されることがある。