フィリピンにおけるライセンス契約に関する留意点
記事本文はこちらをご覧ください。
フィリピンにおける「商標の使用」と使用証拠
【詳細】
商標の使用の構成要件を直接かつ明瞭な形で定めた具体的な規定は、フィリピン知的財産法には存在しない。だが、知的財産庁長官が2013年に公布した商標規則では、宣言書による使用証拠提出と登録の更新に関連して、フィリピンにおける商標の使用を構成しうる要素を間接的な形で示している。通達13-056号の関連規定は以下のように定めている。
「規則205(c) 以下のものは、商標の実際の使用を示す証拠として認められるものとする。
(1)商標が付されたラベル。
(2)出願人もしくは登録人のウェブサイトからダウンロードされたページであって、フィリピン国内において商品の販売もしくはサービスの提供が行われていることを明らかに証明するもの。
(3)実際に使用されている商標が表示された商品、または商標が付された商品の梱包箱、あるいはサービスが提供されている施設の写真(普通紙に印刷されたデジタル写真を含む)。
(4)実際にフィリピンで販売されている商品もしくは提供されているサービスに商標が使用されていることを示すパンフレットもしくは宣伝資料。
(5)オンライン販売の場合、提供される商品もしくはサービスの売上受領票、またはそれに類似する証拠で、フィリピン国内における商品の出荷の用意もしくはサービスの提供の用意、またはフィリピン国内における取引の実行を証明するもの。
(6)商標の図面もしくは複製のプリントアウトのコピーは、商標使用の証拠としては認容されない。」
上記で引用した規則205(c)の(2)項によれば、フィリピン国内で商品の販売もしくはサービスの提供が行われている場合、商標が使用されているとみなされる。さらに(5)項の規定から、フィリピン国内において商品の出荷の用意もしくはサービスの提供の用意が行われるか、フィリピン国内において取引が実行された場合、当該商品はフィリピン国内で販売されたと考えることができる。
使用の問題が争点となった訴訟として、Pagasa Industrial Corporation vs. Court of Appeals, et .al (G.R. No. L 54158, November 19, 1982)が挙げられる。この訴訟では、販売のためではなく単に販促用のサンプルとして使用するためにフィリピンに輸入された商品に商標が表示されていた。裁判所は以下のような判断を示している。
「フィリピン知的財産法は極めて明瞭である。商標の登録に先立ち、知的財産法は当該商標が実際に商業的に使用されることを要求している。被告の法人が先に商標登録を行ったことに異論の余地はないが、登録された商標をフィリピン国内で取引もしくは事業に使用したという自らの主張を、被告人は十分立証していない。当該商標を排他的かつ継続的に採用するとともに当該商標に投資したことを示す証拠を、被告人は提出していない。その証拠は、同人が初めて当該商標を使用してから今日までの多大な売上実績から成るはずである。被告人が提出したインボイスの日付は1957年に遡るが、フィリピンに送られたジッパーが「サンプル」として使用するためのものであって「商品価値はない」ことを明らかに示している。被告人が提出する証拠は、矛盾のないものでなければならない。「サンプル」は非売品で、それらがフィリピンに輸出されたという事実が法により想定された「使用」に相当するとみなすことはできない。被告人はそれら「サンプル」から収益を得ることを期待していなかった。販売を立証する領収書は存在せず、後日に当該製品がフィリピン国内で販売されたことを示す証拠も提出されていない。」
この訴訟の事例で言えば、使用が認められる要件となる基準は、サンプル製品が輸入された際にフィリピン国内で発生した取引によって商業的価値が得られているかどうかであった。裁判所は、輸入されたサンプル製品の販売収益を輸入者が取得したことを示す証拠の提供を求めたのである。
商標の使用に関連して、第155条では以下の行為は商標侵害に相当すると規定している。
「第155条 救済;侵害
何人も,登録標章の権利者の承諾を得ないで次の行為をした場合は,次条以下に規定する救済のため,侵害についての権利者による民事訴訟において責任を負わなければならない。
155.1使用することによって混同を生じさせ、錯誤を生じさせもしくは欺瞞する虞がある商品またはサ-ビスの販売、販売の申出、頒布、宣伝その他販売を行うために必要な準備段階に関連して、登録標章の複製、模造、模倣もしくは紛らわしい模倣もしくは同一の容器またはそれらの主要な特徴を商業上使用すること
155.2登録標章またはその主要な特徴を複製し、模造し、模倣しまたは紛らわしく模倣し、かつ、使用することによって混同を生じさせ、錯誤を生じさせまたは欺瞞する虞がある商品またはサ-ビスの販売、販売の申出、頒布または宣伝に関連して、商業上使用するための貼紙、標識、印刷物、包装用容器、包装紙、貯蔵用容器または宣伝に、そのような複製、模造、模倣または紛らわしい模倣を適用すること。ただし、当該侵害する物を使用した商品またはサ-ビスの実際の販売があったか否かにかかわらず、本項または前項にいう行為がなされた時に侵害が生じたものとする。」
知的財産法のこの規定は、商品やサービスの販売を実行するために必要な「準備段階」も不正な使用に含まれると定義している。したがって、定義上、販売という語が意味するものはフィリピン領内で実際になされた販売に限定されない。知的財産法155.2条を厳格に解釈すれば、フィリピン国内で販売されていない商品に商標を表示する行為も、同条に基づき侵害として処罰される「準備行為」に相当する可能性があるという結論を導くことができる。商品がフィリピン国内で実際に販売される前段階の使用も商標の使用に該当する場合があるからである。
以上に述べたすべての事柄から、フィリピン法の下での商標の使用とは、商品もしくはサービスに関して実際に使用することだという結論が導かれる。販促サービス用のサンプルに商標を使用しただけで商業用価値が得られないと判断される場合は、商標の使用に相当しない。侵害責任に関して言えば、実際の販売だけでなく、商品の販売もしくはサービスの提供を実行するために必要な準備段階も不正な使用に含まれる。
フィリピンにおける指定商品または役務に関わる留意事項
【詳細】
フィリピン知的財産庁は、指定商品または指定役務に関する一般的なガイドラインとして、「標章の登録のための商品およびサービスの国際分類」(ニース国際分類)の第9版を採用している。
フィリピン知的財産法第124.1条(k)は、商標出願には「ニ-ス国際分類の類に従って群に纏められた登録を求める商品または役務の名称、および、その商品または役務の各郡が属するニ-ス国際分類の類の番号」が含まれていなければならないと規定している。
「商標、サービスマーク、商号およびマーキングされた容器に関する規則」(商標規則、2006年改正)に基づき、フィリピン知的財産庁は、商品または役務の記述に関するガイドラインを定めている。
規則416は、ニース国際分類における商品または役務に関する夫々の分類の類見出し(クラスヘディング)を示したリストを掲げている。
規則417は、商品、事業または役務を特定する際に広義の用語を使用することを禁じている。一方で、外国登録に基づいて出願する出願人は、当該外国登録が商品、事業または役務を特定する際に広義の用語を使用している如何なる場合も、当該外国登録の対象である商品を指定しなければならないと規定している。
それに加えて、規則418は、複数の商品または役務について、これらがニース国際分類のひとつの分類に属するか複数の分類に属するかにかかわらず、1件の出願で扱うことができると規定している。ニース国際分類の複数の分類に属する商品または役務が1件の出願で扱われている場合は、当該出願は、1件の登録を取得することになる。
複数の分類に属する商品または役務が1件の出願に含まれている場合、2件以上の出願に分割(分割出願)することができるという規定も存在する。
1.審査基準
商品または役務の審査は、ニース国際分類に基づいて行われている。フィリピンは、マドリッド・プロトコルに加盟しているため、審査官は加盟以前に比べて商品または役務に関する比較的広義の記述を認めるようになってきている。例えば、「被服、履物および帽子類(clothing, footwear and headgear)」という記述は、現在では認められるようになっている。
ただし、出願がパリ条約による優先権を主張しており、優先権の基礎となる本国出願の指定商品または指定役務が、フィリピン出願の指定商品または指定役務より狭義の記述となっている場合はこの限りではない。その場合、審査官は、フィリピン出願に指定されている広義の商品または役務の記述を補正し、本国出願に指定されている商品または役務の範囲内に限定するよう出願人に要求する。より広義の記述で登録を得るためには、出願人はパリ条約による優先権を主張しないで、フィリピン出願を行なう必要がある。
商品および役務に関する広義の記述は認められておらず、明瞭かつ具体的な商品および役務の記述が要求される。
例えば、「本類に属するその他すべての商品(all other goods in this class)」という記述は、あまりにも広義であるという理由で認められない。
2.公定出願料
商品または役務は、ニース国際分類に従って適正に分類されなければならない。公定出願料は分類の数に基づいて計算され、商標出願に指定された商品または役務の数に基づいて計算されるわけではない。
現在、出願時に支払われる公定出願料は、ひとつの分類につき61米ドルである。フィリピン知的財産庁は、2016年中に公定料金の25%引き上げを実施する予定である。