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フィリピンにおける意匠の審判等手続に関する調査

 「フィリピンにおける知的財産の審判等手続に関する調査」(2021年3月、日本貿易振興機構(JETRO) シンガポール事務所 知的財産部)

目次
A.はじめに P.1
I.目的 P.1
II.調査範囲 P.1
III.調査方法 P.2
IV.調査結果 P.3

B.審理機関と紛争解決手段 P.4
I.審理機関 P.4
(フィリピンの知的財産権に関する審理を行う3つの主要機関(IPOPHL(フィリピン知的財産庁)、裁判所、WIPO仲裁調停センター)の概要および管轄権限ついて紹介している(フィリピン裁判所の審級の構成についてフローチャートあり)。)

II.紛争解決手段 P.10
(知的財産権の紛争は、知的財産権の性質、手続の種類および請求の価値に応じて、IPOPHLまたはフィリピンの裁判所で審理される。各知的財産権訴訟の管轄の概要ならびに管轄機関の2011年から2020年までの申立件数および調停で解決した事件数等の統計情報を紹介している。)

D.意匠 P.27
I.意匠出願手続の概要 P.27
(出願手続の概要をフローチャートで紹介している。)

II.意匠出願の審査手続 P.27
(審査手続について解説している。)

III.異議申立手続 P.28
(フィリピンの意匠出願については、付与前の異議申立制度はない。ただし、公告の日から30日以内に反対意見書を提出することができる。)

IV.取消手続 P.29
(取消手続について解説している。)

V.意匠の有効性を争うその他の手続 P.29
(意匠の侵害訴訟について、関連する規則に基づき解説している。)

VI.統計 P.30
(2011年から2020年までの統計情報(取消および侵害について、法務局によって処理/解決された意匠事件数、長官室によって処理/解決された意匠審判事例件数)について紹介している。)

VII.ケーススタディ P.31
(近年、意匠に関する訴訟は、フィリピン最高裁判所において提起されていないため判例の紹介はない。)

フィリピンにおける知的財産の基礎情報(全体マップ)-関連情報編

1. 特許・実用新案・意匠・商標に関連する文献調査

[DB1](DB=データベース)
(公用語・英語)
(1)DBの名称:
IPOPHIL Patent Search (WIPO Publish)
フィリピン知的財産庁特許検索(WIPO公開)

(2)法域
☒特許 ☒実用新案 ☒意匠 ☐商標

(3)主な機能
(規定値)
出願国、出願番号、出願日、公開番号、公開日、出願国、技術分野
(選択)
国:出願人・発明者・代理人の国籍、優先権の詳細、PCT公開国
出願:法的状態、公開状態、分類、IPC分類
日付:出願日、登録日、優先日、PCT公開日
特許:名称(二か国語、英語)、説明、概要(二か国語、英語)
番号:元の出願番号、登録番号、PCT公開番号、優先番号、元の登録番号
その他:識別子、公開種類コード、出願種別、出願人・発明者・代理人の住所等

(4)DB-URL:
特許:https://onlineservices.ipophil.gov.ph/wopublish-search/public/patents?0
意匠:https://onlineservices.ipophil.gov.ph/wopublish-search/public/designs?0

(5)マニュアル-URL:
なし


[DB2]
(公用語・英語)
(1)DBの名称:
Philippine Trademark Data Base (WIPO IP Portal)
フィリピン商標データベース(WIPO IP ポータル)

(2)法域
☐特許 ☐実用新案 ☐意匠 ☒商標

(3)主な機能
(標識)
テキスト、出願人/権利者、商品/サービス
(名前)
出願人/権利者、代理人
(番号)
登録番号、出願番号
(日付)
登録日、出願日、有効期限
(分類)
ウィーン分類、ニース分類
(フィルター機能)
状態、画像、出願日、権利者国籍、ニース分類、画像分類

(4)DB-URL:
https://branddb.wipo.int/branddb/ph/en/

(5)マニュアル(Global Brand Database – Help)-URL:
https://branddb.wipo.int/branddb/en/branddb-help.jsp


関連記事:
「フィリピン知的財産庁が提供する産業財産権データベースの調査報告」(2018.12.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/16236/
「フィリピンにおける特許/意匠/実用新案公報の調べ方」(2018.08.30)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/15684/
「フィリピンにおける商標公報の調べ方」(2015.03.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/8095/


2. 審決・判例情報

[DB1]
名称:
IPOPHL IP Case Library
フィリピン知的財産庁、IP判例ライブラリ

言語:
☒公用語 ☒英語 ☐その他の言語
URL: https://onlineservices.ipophil.gov.ph/ipcaselibrary/main.html
(IPOPHLの裁定局である法務局(Bureau of Legal Affairs, BLA)による決定、長官室(ODG)の決定、およびフィリピン最高裁判所(SC)の判決を取得に有用である。)

[DB2]
名称:
Court of Appeals – Recent Decisions and Resolutions
控訴裁判所、最近の判決と決議

言語:
☒公用語 ☒英語 ☐その他の言語
URL: https://services.ca.judiciary.gov.ph/recentdecisions/
(フィリピン控訴裁判所(Court of Appeals, CA)の判決と決議を検索することができる。ただし、検索を実行して必要な情報を取得するには、検索者は、決定を下したCAの管轄局と、ケース番号または当事者名を知っている必要がある。CAには、CAマニラ、CAセブ、CAカガヤンデオロの3つの管轄局がある。)

[DB3]
名称:
Supreme Court of the Philippines – Decisions
フィリピン最高裁判所、判決

言語:
☒公用語 ☒英語 ☐その他の言語
URL: https://sc.judiciary.gov.ph/decisions/
(フィリピン最高裁判所の判決を取得するための検索サービス。)

名称:
Supreme Court E-Library
最高裁判所電子図書館

言語:
☒公用語 ☒英語 ☐その他の言語

URL: https://elibrary.judiciary.gov.ph/
(フィリピン最高裁判所の過去12か月より前の事件の決定について、検索者は最高裁判所電子図書館にアクセスすることができ、そこでは検索カテゴリー、各検索カテゴリーの見出しがあるとともに、すべての単語、任意の単語、正確なフレーズと真理値(True/False)による検索が使用できる。ただし、登録が必要である。)


関連記事:
「フィリピンにおける知財訴訟等に関連する情報の取得方法」(2020.12.22)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/19641/
「フィリピンにおける審決・判決へのアクセス方法」(2018.08.28)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/15681/
「フィリピンにおける意匠権関連判例・審決例」(2017.03.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/13274/
「フィリピンにおける商標権関連判例・審決例」(2017.03.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/13262/


3. 統計情報

統計(1)
名称:
2015 to 2019 IPOPHL Intellectual Property Statistics
フィリピン知的財産庁知財統計2015-2019

法域
☒特許 ☒実用新案 ☒意匠 ☒商標
☒審決 ☒侵害 ☒訴訟

言語:
☒公用語 ☒英語 ☐その他の言語( )
URL: https://www.ipophil.gov.ph/reference/statistics/


統計(2)
名称:
2011 to 2020 WIPO Statistical Country Profiles – Philippines
WIPO各国状況統計(フィリピン)2011-2020

法域
☒特許 ☒実用新案 ☒意匠 ☒商標
☐審決 ☐侵害 ☐訴訟

言語:
☒公用語 ☒英語 ☐その他の言語
URL: https://www.wipo.int/ipstats/en/statistics/country_profile/profile.jsp?code=PH


関連記事:
「フィリピンの知的財産権関連統計へのアクセス方法-取締関係」(2021.01.12)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/19673/
「フィリピンにおける特許・実用新案の出願・登録に関する統計へのアクセス方法」(2020.12.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/19639/
「フィリピンにおける意匠出願・登録に関する統計情報へのアクセス方法」(2020.12.08)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/19609/
「フィリピンにおける商標出願・登録に関する統計情報へのアクセス方法」(2020.12.03)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/19605/
「フィリピンにおける特許・実用新案、意匠、商標に関する統計情報」(2020.01.30)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/18203/
「フィリピン知的財産庁が提供する産業財産権データベースの調査報告」(2018.12.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/16236/
「フィリピンにおける特許、実用新案および意匠の無効手続を管轄する組織並びに統計データ」(2018.08.09)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/15646/
「フィリピンにおける特許出願の係属期間に関する統計」(2018.06.12)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/15332/
「フィリピンにおける意匠出願の係属状況に関する統計」(2018.04.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/14816/
「フィリピンにおける知的財産権侵害事案の刑罰制度およびその運用」(2018.01.30)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/14450/


4. 知的財産関係機関

<知財庁>
名称:
Intellectual Property Office of the Philippines(IPOPHL、フィリピン知的財産庁)
URL: https://www.ipophil.gov.ph/

<知財に関係する裁判所>
1.名称:
Special Commercial Courts(SCC、特別商務裁判所)
SCCはフィリピンのRegional Trial Court(RTC、地方裁判所)の一部に指定され、フィリピン国内の12の司法管轄区に147か所設置(2021年5月時点)されており、知的財産紛争の他、サイバー犯罪事件、不競法事件等を扱う。
ホームページは用意されていない(関連情報参照)。
URL: なし

2.名称:
Court of Appeals of the Philippines (フィリピン控訴裁判所)
URL: https://ca2.judiciary.gov.ph

3.名称:
Supreme Court of the Philippines (フィリピン最高裁判所)
URL: https://sc.judiciary.gov.ph/

<その他公的機関>
1.名称:
Department of Trade and Industry(DTI、フィリピン貿易産業省)for Business Names
URL: https://www.dti.gov.ph/
注)DTIは商号を管轄している。

5.名称:
Securities and Exchange Commission(SEC、フィリピン証券取引委員会)for Business Names
URL: https://www.sec.gov.ph
注)SECは法人名および組合名の登録を担当し、登録商標の侵害の可能性のある登録名の変更の申立事件を処理する。

関連記事:
「フィリピンの知的財産関連機関・サイト」(2020.06.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/link/18634/
「フィリピンにおける模倣品の流通によりその知的財産権を侵害された企業に対するアドバイスおよび管轄機関の連絡先」(2020.01.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/18195/
「フィリピンにおける知的財産権保護に関する政策立案や法執行に関わる機関」(2020.01.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/18185/
「フィリピンにおける知的財産にかかわる諸団体等の活動」(2014.11.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/7132/

関連情報:
「More RTCs named special commercial courts to also handle cybercrime, other cases — SC(サイバー犯罪などの事件も扱う特別商務裁判所と名付けられたRTCが増加 – SC)」(2021.05.30)
https://mb.com.ph/2021/05/30/more-rtcs-named-special-commercial-courts-to-also-handle-cybercrime-other-cases-sc/

フィリピンにおける産業財産権データベースから得られる統計情報

 「ASEAN産業財産権データベースから得られる統計情報」(2021年3月、日本貿易振興機構(JETRO)バンコク事務所知的財産部)第4章 フィリピン
注)圧縮版のため画像が粗くなっています。精細な画像を確認したい方は、下記【ソース】のリンクをご利用ください。

(目次)
第4章 フィリピン 
(データベースの案件(特許、実用新案:2002年から2020年の出願/意匠、商標:2001年から2019年の出願を対象)から算出した出願から公開までに要した期間、および出願から登録までに要した期間を全案件、出願人国籍別、出願ルート別(特許、実用新案のみ)、技術分野別(特許、実用新案のみ)に紹介している。また、出願件数上位ランキング(特許、実用新案:2017年から2019年の出願/意匠、商標:2016年から2018年の出願を対象)および登録率(特許、実用新案:2001年から2020年の出願/意匠、商標2001年から2019年の出願を対象)を紹介している。なお、特許、実用新案については、全出願人、技術分野別、日本国籍出願人、外国出願人のフィリピン第一国出願の出願件数上位ランキングも紹介している。)

1.特許 p.114
1.1 産業財産権の権利化期間 p.114
1.2 産業財産権の出願件数上位リスト p.130
1.3 登録率 p.136
2.実用新案 p.137
2.1 産業財産権の権利化期間 p.137
2.2 産業財産権の出願件数上位リスト p.152
2.3 登録率 p.158
3.意匠 p.159
3.1 産業財産権の権利化期間 p.159
3.2 産業財産権の出願件数上位出願人リスト p.161
3.3 登録率 p.162
4.商標 p.163
4.1 産業財産権の権利化期間 p.163
4.2 産業財産権の出願件数上位出願人リスト p.165
4.3 登録率 p.166

フィリピン知的財産庁が提供する産業財産権データベースの調査報告

 「フィリピン知的財産庁が提供する産業財産権データベースの調査報告」(2018年3月、日本貿易振興機構バンコク事務所知的財産部)第2章から第7章

 

(目次)

第2章 フィリピンIPデータベース P.7

 1. 概要 P.7

  1.1 フィリピン知的財産庁ウェブサイト P.7

  1.2 PATENTSCOPE P.8

  1.3 ASEAN PATENTSCOPE P.8

  1.4 欧州連合知的財産庁ウェブサイト P.8

  1.5 WIPO Global Brand Database P.8

  1.6 FOPISER P.8

 2. 直近の主な変更点 P.9

 3. 日本のJ-PlatPatとの相違点 P.9

第3章 特許・実用新案 P.10

 1. 特許・実用新案検索データベースIPOPHL P.10

  1.1 検索データベース仕様一覧 P.10

  1.2 特許・実用新案レコード収録数 P.11

  1.3 特許・実用新案要素収録率 P.17

  1.4 検索データベースIPOPHL取扱い説明 P.23

  1.5 特許・実用新案IPOPHL検索・表示項目留意点 P.33

 2. 考察・まとめ P.39

第4章 意匠 P.40

 1. 意匠検索データベースIPOPH P.L40

  1.1 検索データベース仕様一覧 P.40

  1.2 意匠レコード収録数 P.41

  1.3 検索データベースIPOPHL取扱い説明 P.42

  1.4 意匠データベースIPOPHL検索・表示項目留意点 P.48

 2. 考察・まとめ P.51

第5章 商標 P.52

 1. 商標検索データベースIPOPHL P.52

 2. 考察・まとめ P.53

第6章 公報データベース P.54

 1. 公報データベース仕様一覧 P.54

 2. 公報データベース取扱い説明 P.54

第7章 統計情報 P.60

 1. 産業財産権の権利化期間 P.60

  1.1 出願日から公開日までの期間 P.62

  1.2 出願日から登録日までの期間 P.63

  1.3 考察・まとめ P.64

 2. 産業財産権の出願件数上位リスト P.65

  2.1 全出願人 P.65

  2.2 考察・まとめ P.65

 

フィリピンにおける特許、実用新案および意匠の無効手続を管轄する組織並びに統計データ

1. 無効手続に関する管轄権を有する裁判所

 

 フィリピン知的財産法(改正されたフィリピン共和国法第8293号)に基づき、フィリピン知的財産権局(Intellectual Property Office)は、法務局(Bureau of Legal Affairs)を通じて準司法的権限を有する。法務局は、無効手続などの当事者系事件について管轄権を有する。また、法務局は、商事裁判所とともに、特許権侵害事件について(Regular Commercial Courts)、競合管轄権を有する。特許権侵害事件において、被告は、対象特許の取消を求める反訴請求を行うことができる。

 

 法務局は、フィリピン知的財産法に従い、特許、実用新案および工業意匠の取消について審理し決定を下すという機能を有するため、無効手続に関する第一審裁判所と考えられる。長官室(Office of the Director General)は、法務局が下したすべての決定について専属的上訴管轄権を有する。上訴管轄権を有する長官室の決定に対しては、裁判所規則に従い、控訴裁判所に控訴することができる。

 

 地域事実審裁判所(Regional Trial Courts)は、無効手続に関して、法務局とともに競合管轄権を有する。地域事実審裁判所の判例に対しては、控訴裁判所に控訴することができる。

 

 控訴裁判所は、最高裁判所または他の裁判所の専属的管轄権が及ばない範囲において、地域事実審裁判所、準司法的当局(フィリピン知的財産権局など)、審判廷、委員会または機関のその他すべての判例、決定、決議、命令または裁定について専属的上訴管轄権を有する。

 

 フィリピン最高裁判所は、フィリピンにおける最上位の裁判所である。控訴裁判所の判例に対しては、最高裁判所に上告することができる。

 

2. 法務局における無効手続

 

 法務局に提起された無効手続の根拠のほとんどが、先行技術の一部を構成すること、または先行開示を理由とした、特許発明、実用新案または工業意匠の新規性または進歩性の欠如である。

 

 フィリピン知的財産権局のオンライン事件ライブラリーによると、過去10年において、法務局により決定が下された事件は50件を超える。これら事件のうち少なくとも25件が工業意匠登録の無効手続に関するものであり、そのうちの6件は認容され、14件は棄却されている。一方、残る事件は、当事者が和解したものである。

 

 実用新案登録の無効手続に関する事件は、少なくとも18件あり、そのうちの4件は法務局により認容され、残る事件は、無効を認める十分な根拠がない、または争点に現実的な意味がなく学術的なものであるとして棄却されているか、請願人が無効手続を取下げている。

 

 過去10年において、法務局により決定が下された特許発明関連の事件は10件のみであり、そのうちの6件は認容され、4件は棄却されている。

 

 なお、特許取消を求める反訴請求を伴う特許権侵害事件に関する統計データは存在しない。

 

3. 長官室に上訴された特許発明関連事件

 

 2007年から2017年にかけて、長官室は27件の上訴事件について決定を下し、そのうちの6件については認容している。すなわち、これらの6件について、長官室は、法務局の決定に誤りがあると認定し、法務局の決定を破棄した。残る21件の上訴事件について、長官室は、法務局の認定を支持、または争点に現実的な意味がなく学術的なものとなったことを理由として棄却した。

 

 これら27件の事件のうち、3件は工業意匠登録に関する事件であり、いずれも長官室により棄却された。実用新案関連の事件は10件で、そのうちの5件は認容され、5件は棄却された。特許発明については16件の上訴事件があるが、認容されたのは1件のみであった。なお、16件の特許発明関連の事件のうち、3件の上訴事件が、取下げられた出願の回復請求に関するものであった。

 

 これらのうち、「対象特許出願が、親出願と同じ出願日を与えられるべき継続出願であるか否か」という争点に関する上訴事件についての長官室の注目すべき決定を以下に引用する。

 

 「上訴人が、その対象特許出願が親出願と同じ出願日を与えられるべきであると主張することは適切でない。この規定は、新規性および進歩性を有し、かつ産業上利用可能な、特許を受けることができる発明についてのみ適用される。上訴人の発明は、先行技術の一部を構成するものであるため、もはや新規性を有さない。」(PFIZER Research and Development対Director of the Bureau of Patent、上訴第01-2011-0004号、特許出願番号第1-2002-00753号、2013年10月24日)

 

4. 最高裁判所により判例が下された特許発明関連事件

 

 他の法域とは異なり、最高裁判所まで至った特許発明関連事件はごくわずかしかない。実際、過去10年において、最高裁判所により判例が下された事件は10件に満たない。その中に、無効手続に関するものは1件もない。特許に関する事件はあるが、争点となったのは、発行された差止命令の適否と特許出願回復請求の拒絶に関する検討についてであった。

 

 フィリピン民法の第8条は、法律または憲法を適用または解釈する司法決定は、フィリピンの法制度の一部を形成するものとする旨を定めている。ここでいう司法決定とは、最高裁判所により発布されたものである。過去10年において、最高裁判所は、「侵害されたと主張される特許が既に失効している場合、特許権侵害に基づき差止救済を発行することはできない。特許権者の排他的権利は、特許の存続期間中のみ存在するものである。特許が失効すると、特許権者は、その特許によりカバーされる製品を製造、使用および販売する排他的権利をもはや有さない。」という原則を定めている(Phil Pharmawealth, Inc.対Pfizer, Inc.およびPfizer (Phil.) Inc.、G.R.第167715号、2010年11月17日)。

フィリピンにおける意匠出願の係属状況に関する統計

 フィリピン知的財産庁(IPOPHL)は、1998年から2017年の第3四半期までの意匠に関する知的財産統計を発表した。この統計には、出願年別の意匠登録出願件数、登録年別の意匠登録件数、出願件数が多い出願人別の意匠登録出願件数、出願人の国籍別に出願件数が多い国毎の意匠登録出願件数に関連するデータが含まれている。以下の表1は、1998年から2017年の過去10年間にIPOPHLに提出された意匠登録出願の年別の件数を示す。

 

表1:過去10年間(2007年から2017年)の年別の意匠登録出願件数

29PH12-1

*第3四半期までの件数

 

 上の表1の中で、国外居住者による出願とはフィリピンに居住していない出願人による意匠登録出願を指しており、国内居住者による出願とはフィリピンに居住している出願人による意匠登録出願を指している。

 

 2007年から2017年の過去10年間にIPOPHLに出願された意匠登録出願の各年の平均件数はおよそ1,125件である。特許出願の場合、国外居住者がフィリピンに大量の特許出願を行っているが、意匠登録出願の場合はそれと異なり、平均で見ると意匠登録出願の総件数のうち半分以上が国内居住者による出願である。たとえば2016年の場合、合計1,489件の意匠登録出願のうち969件(およそ65%)が国内居住者による出願であり、国外居住者による出願は520件(およそ35%)に過ぎない。

 

 2016年にIPOPHLに出願された意匠登録出願の出願人の国籍として上位を占める国はフィリピン、日本、アメリカ合衆国である。以下の表2は、出願人の国籍別に2016年の出願件数上位10位までの国毎の意匠登録出願件数を示したものである。

 

表2:2016年の出願件数上位10位の国別の意匠登録出願件数

29PH12-2 

 

 さらに、下の表3は、2016年の出願件数上位10位までの出願人毎の意匠登録出願件数を示したものである。

 

表3:2016年の出願件数上位10位の出願人別の意匠登録出願件数

29PH12-3 

 

 2007年から2017年の過去10年間にIPOPHLに出願された意匠登録出願の各年の平均件数はおよそ1,125件であるが、同過去10年間に登録された意匠の各年の平均件数はおよそ1,020件である。以下の表4は、2007年から2017年の過去10年間に登録された意匠の年別の件数を示す。

 

表4:過去10年間(2007年から2017年)に登録された意匠の年別の件数

29PH12-4

 

 IPOPHLは意匠に関して迅速な登録手続を採用している。公開手数料を含む意匠登録出願に関する所定の手数料が全額支払われ、意匠登録出願に関する規則に定められた形式的要件をすべて満たしていれば、その出願に係る意匠は実体審査なしに登録される。したがって、意匠登録出願に関して審査請求する必要はない。

 

 フィリピンにおける意匠登録出願の係属期間に関してIPOPHLは情報を開示していないが、およそ8か月から12か月程度であることが一般的である。

 

 また、最初の拒絶理由通知(方式審査報告書)が発行される場合は、出願から6~8か月後に発行されることが一般的である。ただし、以下に示す形式的要件をすべて満たす意匠登録出願の書類を提出することによって拒絶理由通知の発行は避けられる。すなわち、提出すべき書類は以下のものを含む。

  • 意匠登録出願の願書
  • 明細書および請求項
  • 出願される意匠を様々な視点から示した正式な図面(透視図、正面図、背面図、右側面図、左側面図、平面図、底面図など(表面に陰影を施したもの))
  • 委任状原本
  • 条約に基づく優先権主張がなされる場合には、当該出願に対応する外国出願の願書原本の真正な認証済みコピーにその英語訳を添えたもの

 

 出願時に形式的要件がすべて満たされている場合、IPOPHLの審査官は当該意匠登録出願の公開および登録の手続へ直接進めることができる。早期の登録のためには、出願時に形式的要件をすべて満たした意匠登録出願の書類を提出することが望ましい。