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フィリピンにおける機能的意匠の取扱い

1.機能性

 

 知的財産法112条は、工業意匠を次のように定義している。

「線もしくは色と関連づけられるか否かを問わず、線もしくは色から成る構図または三次元の形状である。ただし、それら構図または形状は、工業製品もしくは手工芸品に特別の外観を与え、それら物品のための模様として機能することが可能なものでなければならない」

 

 施行規則(IRR)における規則1500では、上記の定義を次のように拡張している。

「工業意匠とは、形、線もしくは色と関連づけられるか否を問わず、形、線、色もしくは以上の結合から成る構図または三次元の形態であって、総体的に、または全体として見た場合に、美的かつ装飾的な効果を生じさせるものをいう。ただし、前記の構図もしくは形態は、工業製品もしくは手工芸品に特別の外観を与え、それら物品のための模様として機能することが可能なものでなければならない。工業意匠には、有用もしくは実用的な技術に属する製造物または(前記製造物の一部が単独で製造販売される場合には)製造物の一部が含まれる」

 

 知的財産法の第113.1条および第113.2条は、保護の実体的要件を以下のように定めている。

(a)新規性または装飾性のある意匠のみが保護されるものとする。

(b)特定の技術的な結果を得るための本質的に技術的もしくは機能的な考察によって決定づけられる意匠、または公の秩序、衛生もしくは善良の風俗に反する意匠は保護されない。

 

 施行規則(IRR)における規則1501は、登録不適格な意匠を以下のように列挙している。

 

(a)特定の技術的な結果を得るための本質的に技術的もしくは機能的な考察によって決定づけられる工業意匠。

(b)工業製品もしくは手工芸品とは別個に存在する表面装飾を配列しただけの工業意匠。

(c)公の秩序、衛生もしくは善良の風俗に反する工業意匠。

 

 以上の知的財産法および施行規則によると、工業意匠が知的財産法に基づく保護を享受するためには、意匠が新規かつ非機能的なものであって、工業製品もしくは手工芸品に特別の外観を与え、かつ、公の秩序、衛生もしくは善良の風俗に反しないものでなければならない。

 

 ほとんどの工業製品は機能的なものであるが、当該物品の機能にとって不可欠ではない外面的特徴は、工業意匠として登録することができる。判例(Conrado de Leon)では、意匠の本質はその全体に――見る者の心裡に何らかの感覚を生じさせる無限定の全体に――宿るという判断が示されている。知的財産法の目的は、単に目を楽しませるだけの装飾芸術および意匠の振興を図ることであり、それが意匠登録の適格な対象となる。工業意匠は、新規で独創的であることに加えて、装飾的でなければならない。装飾とは、暗黙裏に美を指向するものである。すなわち、対象もしくは物品の心地よい外観を与えることが暗黙裏に意図されている。それゆえ、登録可能な意匠は、物品の美しさと魅力的な外観を高め、当該意匠を既知の意匠の特徴もしくは既知の意匠の特徴の組合せとは明らかに異なることを示す差異を明確にするものでなければならない。

 

 フィリピン知的財産庁(以下、「IPPHL」という。)は、意匠出願について、実体審査を行わず、方式審査のみを行う。とはいえ、保護を求められる意匠が機能的なものであると審査官が考えた場合には、審査官は実務上の処分として拒絶理由通知を発行する。これに対する応答書を提出した結果、審査官を納得させることができなかった場合、その出願は拒絶査定を受けることになる。拒絶査定に対しては、以下のような救済手段を利用することができる。

 

(i)出願人は特許局長(Director of Patents)に上訴を提起することができる。

(ii)特許局長が審査官の決定を支持した場合、出願人は知的財産庁長官(Director General)に上訴を提起することができる。

(iii)知的財産庁長官が特許局長の決定を支持した場合、出願人は長官の決定を不服とする上訴を控訴裁判所に提起することができ、最終的には最高裁への上告を行うことができる。

 

 もちろん、機能的な意匠の出願が認められる場合もある。その場合、利害関係者は、登録抹消を求める申立をIPPHLに提起することができる。当該意匠の登録人が意匠特許により保護される物品の製造、使用、販売申し出、販売、輸入等の行為をまったく行っていない場合や、先に他の者に付与された既存の意匠特許が存在する場合、先行意匠特許の特許権者は侵害訴訟を提起し、併せて後続の意匠特許の抹消を求めることができる。この訴訟は民事訴訟として適正な商事地方裁判所(専門のIP裁判所)に提起してもよく、行政訴訟としてIPPHLに提起してもよい。

 

2.視覚性

 

 物品内部のデザインなど、物品使用者が直接視認することができないデザインに関して、知的財産法の工業意匠に関する章は、集積回路のトポグラフィーもしくは回路設計の保護を定めている。同法の第112条は以下のような定義を示している。

 

(d)「集積回路」とは、最終形態または中間形態の回路であって、複数ある素子のうち少なくとも1個は能動素子であり、かつ、相互接続の一部または全体が基板内部また基板表面に集積的に形成され、電子作用を実行させることを目的とするものをいう(改正共和国法律8293号第112条(2))。

(e)「回路配置」とは「トポグラフィー」の同義語であり、どのように表現されるかに関わらず、1個以上の能動素子を含む複数の素子の三次元配置であって集積回路の一部ないし全部が接続されたもの、または製造を目的とした集積回路のために作成された三次元配置図をいう(改正共和国法律8293号第112条(3))。

(f)独創的な回路配置とは、創作者の知的努力の成果であり、かつ当該配置が考案された時点で回路配置設計者もしくは集積回路製造者の間において陳腐ではない回路配置をいう(改正共和国法律8293号第113.3条)。

 

 集積回路の回路設計が登録を認められるためには、独創性を有していなければならない。それ自体としては陳腐な素子および接続の組合せから成る回路設計が登録を認められるのは、その組合せが全体として独創的である場合のみである。(参照:改正共和国法律8293号第113.4条)。集積回路に関する意匠の登録プロセスは、工業意匠の場合と同じである。

 

 ただし、2002年以降に出願された集積回路の回路設計は5件のみであり、いずれの出願も後日になって取下げられ、規則不順守を理由とした権利の喪失が宣告されている。