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フィリピンにおける特許発明の新規性喪失の例外

 ある発明が特許を受けることができると認められるためには、いくつかの基準を満たさなければならず、その重要な基準の1つが新規性である。フィリピン法において、新規性は、実体審査における基本的要件であり、特許性にかかる争いのない条件である。先行技術を構成しない発明は、新規であるとみなされる。「先行技術」とは、一般に、書面による開示か口頭による開示かに関わらず、関連する特許出願の出願日または優先日前に存在する全ての情報を意味する。

 

 フィリピンの知的財産法として知られる共和国法第8293号 改正施行規則(2011年) 規則204(先行技術)において、先行技術は以下のように定義されている。

 

 先行技術は次のものからなる。

 

(a)書面または口頭による開示や実施により、またはその他の方法で、発明を主張する出願の出願日または優先日の前に世界中のどこかで公衆の利用に供されているすべてのもの。情報は、秘密とされない場合または選択されたグループによる実施に制限されていない場合、公衆の利用に供されているものとみなされる。フィリピン内外を問わず、先使用および口頭による開示は、実質的な証拠により立証されなければならない。

(b)フィリピン知的財産庁により公開され、フィリピンにおいて出願されまたは効力を有し、かつ、当該出願の出願日または優先日より前の出願日または優先日を有する先の特許出願、実用新案登録出願または意匠登録出願の全内容。ただし、知的財産法第31条に基づいて先の出願の出願日を正当に主張する出願は、当該先の出願日において有効な先行技術であるものとし、かつ、双方の出願の出願人または発明者が同一でないことを条件とする(知的財産法第24条)。

(c)当該出願の出願日の前に公開された、実質的に同一の発明を開示する対応の外国出願、またはその明細書の全内容。単なる方式上、重要でないまたは自明な変形を除く、全ての重要な特徴の構成が当該発明を定義する場合、発明は実質的に同一であるとみなされる。

(d)2以上の出願が同一の発明に関して独立して出願され、後の出願が最先の出願または先の出願が公開される前に出願された場合は、後の出願の出願日または優先日以後に知的財産法第44条に基づき公開された先のまたは最先の出願の全内容は、後の出願の新規性を損なうものとする。

 

 先行技術文献は、クレームされた発明の主題が文献内に明確に含まれている場合のみ、当該発明の新規性を喪失させる。フィリピンの現在のプラクティスでは、ある出願のクレームで規定された主題は、各公開物の内容と要素ごとに比較することにより実体的に審査される。ある公開物が単独でクレームの全ての特徴を含む場合、すなわち、当該公開物によってクレームの主題が予見される場合に、新規性の喪失が認められる。

 

 発明の新規性喪失の例外について規定した日本国特許法第30条においては、ある発明が特定の条件下で公開され、当該公開日から6ヶ月以内に当該発明の特許出願がなされた場合、当該公開を理由(先行技術)として新規性を喪失しないものとして扱うとされている。フィリピンにおいては、日本とは異なり、新規性喪失の例外に関する明確な法規定はない。

 しかしながら、フィリピンの知的財産法では、不利にならない開示、すなわち、特許出願に対する先行技術として通常認められる特許出願日前の開示が先行技術として不適格とされる場合、または先行技術から除外される場合が規定されている。この「不利にならない開示」として、出願に含まれる情報の出願前の開示が新規性喪失の欠如を理由として出願人を害さない3つの場合が、共和国法第8293号 改正施行規則(2011年) 規則205(不利にならない開示)において以下のように規定されている。

 

 

 出願の出願日または優先日前12ヶ月の間における当該出願に含まれている情報の開示は、当該開示が次の場合に該当するときは、新規性の欠如を理由として出願人を害さないものとする。

(a)発明者、または当該出願の出願日において特許を受ける権利を有していた者によるものである場合

(b)外国の特許庁、または局もしくは庁によってなされた場合であって、当該情報が、(i)発明者が行った別の出願に記載され、当該官庁によって開示されるべきではなかったとき、または(ii)発明者から直接または間接にこれを得た第三者により、当該発明者の認識または同意なく行われた出願に記載されているとき

(c)発明者から直接または間接に当該情報を得た第三者によってなされた場合、ただし、係属中の特許出願を公開する全ての外国特許庁、ならびにPCT経由で出願された特許出願を公開するWIPOは当該第三者から除外される。

 

 規則205は、要件を満たす開示に対して自動的に適用されるため、特段の申請手続は不要である。

 

 フィリピン知的財産庁の特許局発行の実体審査手続マニュアルによると、規則205(a)および(c)に記載された開示とは、公開文書、会議、またはその他の方法により生じ得る。規則205(b)に記載された開示とは、以下の状況で生じ得る。

(1)特許庁が誤って出願を公開した場合(例:出願が明確に取り下げられた後、または、法律で定める日以前の公開)、または、

(2)Aの発明をBが秘密裏に耳にし、Bが当該発明に関する特許出願を行った場合。このBの出願の公開の結果生じた開示は、当該公開前にAが既に出願を行っていた場合、または当該公開後12ヶ月以内に出願する場合には、Aの権利を損なわない。

 

 なお、「不利にならない開示」は、特許出願の出願前に開示された発明に対しては特許が付与されてはならないという原則に対する例外である。しかしながら、上記した開示が、出願の出願日または優先日の前12ヶ月以内のものでなければならないということは必須条件である。したがって、特許出願は可及的速やかに行うことが強く推奨される。

フィリピンにおける特許審査基準関連資料

【詳細】

 ASEAN主要国及び台湾における特許及び商標の審査基準・審査マニュアルに関する調査研究報告書【特許編】(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)第Ⅲ部3

 

(目次)

第Ⅲ部 調査対象国・地域の審査基準関連資料の詳細

 3 フィリピン P.71

参考 調査対象国・地域の知的財産権担当官庁及び、ウェブサイト公開されている関連法規、審査基準関連資料の情報

 3 フィリピン P.211