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フィリピンにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)

1. 記載個所
 発明の新規性については、フィリピン知的財産法第23条に、先行技術については、フィリピン知的財産法第24条に規定されている。

フィリピン知的財産法 
第23条 新規性 
発明は、それが先行技術の一部である場合は新規であるとはみなさない。 
 
第24条 先行技術  
先行技術は、次のものからなる。 
24.1 発明を請求する出願の出願日又は優先日の前に世界の何れかの場所において公衆が利用することができるようにされているすべてのもの 
24.2 本法の規定に従って公開され、フィリピンにおいて出願され又は効力を有し、かつ、当該出願の出願日又は優先日より前の出願日又は優先日を有する特許出願、実用新案登録又は意匠登録の全内容。ただし、第31条の規定に従って先の出願の出願日を有効に請求する出願は、当該先の出願の出願日において有効な先行技術であるものとし、かつ、その両方の出願の出願人又は発明者が同一ではないことを条件とする。 

 新規性に関する審査基準については、フィリピン特許審査マニュアル(以下、「フィリピン特許審査基準」という。)の第II部第7章実体審査第4節特許要件の第5項-第8項に規定があり、その概要(目次)は、以下のとおりである。

フィリピン特許審査基準 
第II部 
 第7章 実体審査 
  第4節 特許要件 
   第5項 新規性;先行技術(5.1-5.5) 
   第6項 他のフィリピン出願との抵触(6.1-6.4) 
   第7項 新規性テスト(7.1-7.6) 
   第8項 不利益とならない開示(8.1-8.4) 

2. 基本的な考え方
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第1節「2. 新規性の判断」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準には、日本の審査基準のように、クレームされた発明と引用した先行技術を比較して、相違点があるか否かを判断する手順については、明確には記載されていないが、審査官による実務としては、同一性テストを採用することが規定されており(第II部第7章第4節第5項5.5)、日本における実務と違いはないと考えられる。

 新規性の評価には、厳格な同一性テストが要求される。新規性を否定するためには、先行技術を開示した一つの文献が、クレームされた発明の各要素を開示していなければならない。均等物は、進歩性の評価においてのみ考慮される。

3. 請求項に記載された発明の認定
3-1. 請求項に記載された発明の認定
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第一段落に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第3節第4項4.2

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準では、日本の審査基準のように、クレームされた発明の認定について、クレームの記載どおりに認定することが規定されており、日本と同じ考え方がフィリピンの審査にも適用されると考えられる。

 各請求項は、明細書において明示的な定義等により特別な意味を付与している場合を除き、関連技術分野において通常有している意味とその意味する範囲内において読むべきである。さらに、そのような特別な意味が適用される場合、審査官は可能な限り、クレームの文言のみからその意味が明確になるよう、クレームの補正を要求すべきである。また、クレームは、技術的な意味を理解するように試みながら読むべきである。このような読み方には、クレームの文言の厳密な字義通りの意味から逸脱することが含まれる場合もあり得る。特許請求の範囲と明細書で使用される用語は、互いに整合していなければならない。

3-2. 請求項に記載された発明の認定における留意点
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第二段落に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン知的財産法第75条第1項の「クレームは、明細書及び図面を考慮して解釈する」という規定を考慮すると、特許請求の範囲と明細書の記載の間の矛盾は避けなければならない。フィリピン特許審査基準には、クレームの記載と明細書が一致しない場合として次の3つの場合が記載されている(第II部第7章第3節第4項4.3)。

(i) 単なる文言上の不一致がある場合
 明細書には、クレームに記載された発明が特定の特徴に限定されることを示唆する記載があるにもかかわらず、特許請求の範囲ではそのように限定がされていない場合がこれに該当する。

(ii) 明らかに本質的な特徴に関する矛盾がある場合
 一般的な技術知識から、あるいは明細書に記載または暗示されている事項から、独立請求項に記載されていないある技術的特徴が発明の実施に不可欠である、言い換えれば発明が関連する課題の解決に必須である、と思われる場合がこれに該当する。

(iii) 明細書および/または図面の主題の一部が、特許請求の範囲に属さない場合
 クレームでは、半導体デバイスを使用した電気回路が規定されているが、明細書および図面の実施形態の一つでは真空管が使用されている場合がこれに該当する。

4. 引用発明の認定
4-1. 先行技術
4-1-1. 先行技術になるか
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「3.1 先行技術」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第5項5.1

(2) 異なる事項または留意点
 先行技術とは、フィリピン知的財産法第24条第1項において、「世界の何れかの場所において公衆が利用することができるようにされているすべてのもの」と定義されており、この定義の幅の広さには注意が必要である。関連する情報が、公衆に提供された地理的場所、言語または方法(書面または口頭による説明、使用またはその他の方法によるもの等)については、何ら制限はない。ただし、外国での先行使用は、印刷文書または有形の形態で開示されなければならない。

 情報が公衆に利用可能であるとみなされるのは、それが秘密情報でない場合、または特定のグループによる利用に限定されていない場合である。フィリピン国内外を問わず、先行使用および口頭開示は、相当な証拠をもって証明されなければならない。

4-1-2. 頒布された刊行物に記載された発明
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節3.1.1「(1)刊行物に記載された発明」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章4節第5項5.2

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準では、頒布された刊行物(書面に記載されたもの、すなわち先行文献)については、該当する日付において公衆がその文献の内容を知ることが可能であり、そのような知識の使用または普及を制限する秘密保持の禁止がなかった場合、公開されたとみなされるべきであるとされている。例えば、ドイツの実用新案は、実用新案登録簿に登録された日に既に公的に利用可能であり、これは特許公報に公表された日に先立つ。

4-1-3. 刊行物の頒布時期の推定
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節3.1.1「(2) 頒布された時期の取扱い」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準には、日本の審査基準のように刊行物の頒布時期の推定については規定がないが、審査における審査官の公開日の推定については以下の規定がある(第II部第7章4節第5項5.2)。

 審査官は、審査において、公開の事実に関する疑念や文献の正確な公開日の真偽に関する疑念が、完全に解消されていない場合であっても、先行文献として引用することがあり得る。この場合に、出願人が、文献の公開可能性または推定される公開日について異議を唱える場合、審査官はその問題をさらに調査するかどうかを検討する必要がある。出願人が、その文献が、「先行技術」の一部となることを疑問とする正当な理由を示し、それ以上の調査によってその疑念を取り除くのに十分な証拠が得られない場合、審査官はその問題をそれ以上追及すべきではない。

4-1-4. 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第5項5.1

(2) 異なる事項または留意点
 4-1-1.に記載したように、関連する情報が、公衆に提供された地理的場所、言語または方法(書面または口頭による説明、使用またはその他の方法によるもの等)については、何ら制限はないから、インターネット等で公開された情報も先行技術に含まれる。

4-1-5. 公然知られた発明
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準では、日本の審査基準のような「公然知られた発明」と「公然実施された発明」の区別はなく、「文献以外の方法による先行技術」として、以下の規定がある(第II部第7章4節第5項5.4a、5.4b、5.4c)

 使用またはその他の方法で公衆に利用可能となった先行技術または情報は、機密でない場合や使用が制限されていない場合に、公衆に利用可能とされたとみなされ、先行技術とされる。フィリピン国内外を問わず、先行使用および口頭による開示は、相当な証拠をもって証明されなければならない。

 その他の方法で利用可能となった先行技術の使用としては、対象物の生産、提供、販売、その他の方法による利用、またはプロセスもしくはその使用法の提供、販売、プロセスの使用が該当する。マーケティングは、例えば、販売や交換によって行われる。また、先行技術は、例えば、専門家養成やテレビにおいて対象物やプロセスを実演することによって、また、他の方法で公衆に提供されることもある。その他の方法による公衆への利用可能化には、技術の進歩がその後、当該先行技術の態様を利用可能にするために提供し得るすべての可能性も含まれる。

 また、例えば、対象物が公衆に無条件で販売される場合、購入者は製品から得られる知識を無制限に所有することになるため、先行技術となる場合があり得る。このような場合、対象物の具体的な特徴が、外見からではなく、さらなる分析によってのみ判明する可能性があるとしても、そのような特徴は、公衆の利用に供されたものとみなすことができる。

 他方で、対象物が所定の場所(例えば、工場)で見ることができ、その場所には、対象物の具体的な特徴を確認するのに十分な技術的知識を有する者を含め、秘密に拘束されない公衆が出入りすることができる場合、専門家が純粋に外部からの検査によって得ることができたすべての知識は、公衆に提供されたとみなされる。ただし、そのような場合、対象物を解体または破壊することによってのみ確認できる隠された特徴は、公衆に利用可能になったとはみなされない。

 採用されるべき基本原則は、秘密保持に関する明示的または黙示的な合意があり、それが破られていない場合、またはそのような秘密保持が善意もしくは信頼関係に由来するような事情がある場合には、対象物は使用またはその他の方法によって公衆に提供されたことにはならないということである。善意または信頼は、契約上または商業上の関係において生じうる条件である。

4-1-6. 公然実施をされた発明
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「3.1.4 公然実施をされた発明(第29条第1項第2号)」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 4-1-5.を参照されたい。

(後編に続く)