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フィリピンにおける特許制度のまとめ-実体編

1. 特許制度の特徴

(1)同日出願の特許および実用新案
 知的財産法第111条に規定されるように、出願人は、同時であるか逐次的であるかを問わず、同一の対象について実用新案登録出願と特許出願の2つの出願をすることはできない。
 また知的財産法第29条に規定されるように、2以上の者が相互に別個にかつ独立して発明をした場合は、特許を受ける権利は、その発明について出願をした者に帰属し、同一の発明について2以上の出願があった場合は、特許を受ける権利は最先の出願日または優先日を有する出願の出願人に帰属する。さらに知的財産法第108条第2項に規定されるように、知的財産法第29条の規定にいう場合において特許を受ける権利が実用新案登録を受ける権利と抵触するときは、同条は、「特許」を「特許または実用新案登録」と読み替えて適用する。したがって、異なる出願人が同一の対象について特許出願または実用新案登録出願を行った場合、特許または実用新案登録を受ける権利は最先の出願日または優先日を有する出願の出願人に帰属する。

(2)出願変更
 知的財産法第110条に規定されるように、特許出願人は、特許の付与または拒絶の前のいつでも所定の手数料を納付することにより特許出願を実用新案登録出願に変更することができ、当該変更された実用新案登録出願には当初の出願の出願日が付与される。また実用新案登録出願人は、実用新案登録の付与または拒絶の前のいつでも所定の手数料を納付することにより実用新案登録出願を特許出願に変更することができ、当該変更された特許出願には当初の出願の出願日が付与される。

(3)守秘義務
 知的財産法第44条第1項に規定されるように、特許出願は、出願日または優先日から18月を経過した後、庁によりまたは庁のために作成された先行技術を記載した文献を引用する調査書とともにIPO公報において公開される。また同条第3項に規定されるように、長官は、通商産業大臣の承認を得ることを条件として、公開することがフィリピン共和国の国家の安全および利益を害することとなると認める場合は、出願の公開を禁止しまたは制限することができる。

(4)コンピュータープログラムの特許性
 知的財産法第22条第2項に規定されるように、コンピュータープログラムそれ自体は、特許を受けることができない。

(5)遺伝資源の出所開示
 発明に関する規則第408に規定されるように、出願が微生物学的方法またはこれにより得られる物に関連し、かつ、微生物の使用を必要とする場合において、その発明を当該技術の熟練者が実施することができるような方法では、その微生物を出願に十分に開示することができず、また、その微生物を公衆の利用に供することができないときは、発明は、次の状況においてのみ開示されたものとみなされる。
(a)微生物の培養体が出願前に寄託機関に寄託されていること。
(b)寄託機関および培養体寄託番号が出願書類に記載されていること。この情報が出願の時点で未だ入手可能でない場合は、当該情報は、審査官の請求から2月以内に提出しなければならない。知的財産法第44条に基づく出願の公開は、当該情報の提出を待って行われる。
(c)なされた出願が、微生物の特性に関して、出願人による入手が可能な関連情報を与えること。
 また発明に関する規則第409に規定されるように、微生物学的方法またはこれにより得られる物に関連し、かつ、微生物の新種の株の使用を必要とする出願は、次の条件が満たされた場合にのみ許可される。
(a)寄託が公認の国際寄託機関になされたこと
(b)当該寄託の証拠および寄託機関が割り当てた適切な識別または寄託番号が提出されたこと、および
(c)寄託機関が、培養体を永続的に保管し、公開された特許出願に関する事項について利害を有する者に当該培養体を分譲する契約上の義務を負っていること

関連記事:
「フィリピンにおける特許および実用新案登録を受けることができる発明とできない発明」(2020.07.30)
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「フィリピンにおける特許出願制度概要」(2019.07.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17565/
「フィリピンにおける実用新案登録出願制度概要」(2019.07.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17567/
「フィリピンの知財関連の法令等へのアクセス方法」(2019.05.07)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17102/
「フィリピンにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16395/
「フィリピン知的財産権庁の特許審査体制」(2018.08.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15666/
「フィリピンにおける実用新案/小特許に関する制度」(2014.11.13)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/7071/
「フィリピンにおける遺伝資源の出所開示に関する制度・運用・実施状況」(2014.10.01)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/6691/

2. 発明の保護対象

 発明に関する規則第201に規定されるように、発明は、有用な機械、物、前記の何れかの方法または改良、微生物、および非生物学的および微生物学的方法のいずれかであるか、これらのものに関連するものとされる。
 また知的財産法第22条に規定されるように、発見、科学の理論および数学の方法並びに薬剤製品に関して、既知物質の新たな形式若しくは性質であって、当該物質の既知の効力の向上をもたらさないものの発見にすぎないもの、既知物質の何らかの新たな性質若しくは新たな用途の発見にすぎないものまたは既知方法の使用にすぎないもの、精神的な行為の遂行、遊戯または事業活動に関する計画、規則および方法並びにコンピュータープログラムそれ自体、手術または治療による人体または動物の体の処置方法および人体または動物の体の診断方法、植物の品種、動物の品種並びに植物および動物の生産の本質的に生物学的な方法、美的創作物、公序良俗に反するものは、特許による保護から除外される。

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3. 特許を受けるための要件

 知的財産法第21条に規定されるように、人間の活動のすべての分野における課題についての、新規であり、進歩性を有し、かつ、産業上の利用可能性を有する如何なる技術的解決も特許を受けることができる。それは、物、方法若しくはその何れかの改良であってもよいしまたはそれらに関連するものであってもよい。
 ここで知的財産法第23条、第24条に規定されるように、発明は、それが先行技術の一部である場合は新規であるとはみなされず、先行技術は、発明を請求する出願の出願日または優先日の前に世界の何れかの場所において公衆が利用することができるようにされているすべてのもの、および、本法の規定に従って公開され、フィリピンにおいて出願されまたは効力を有し、かつ、当該出願の出願日または優先日より前の出願日または優先日を有する特許出願、実用新案登録または意匠登録の全内容を指す。
 また、知的財産法第26条第1項に規定されるように、発明を請求する出願の出願日または優先日において当該発明が先行技術に照らして当該技術の熟練者にとって自明でない場合は、その発明は進歩性を有する。
 また、知的財産法第27条に規定されるように、何れかの産業において製造しおよび使用することができる発明は、産業上の利用可能性があるものとされる。
 なお、知的財産法第25条に規定されるように、当該出願の出願日または優先日の前12月の間における当該出願に含まれている情報の開示は、その開示が当該発明者によってなされた場合、特許庁によってなされ、当該情報が、当該発明者がした別の出願に記載され、かつ、当該庁によって開示されるべきではなかったかまたは当該発明者から直接または間接に当該情報を得た第三者により当該発明者の認識若しくは同意なしになされた出願に記載されている場合、または、その開示が当該発明者から直接または間接に当該情報を得た第三者によってなされた場合に該当するときは新規性の欠如を理由として当該出願人を害さない。

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「フィリピンにおける特許発明の新規性喪失の例外」(2017.06.01)
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「フィリピンにおける特許審査基準関連資料」(2016.02.16)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10272/

4. 職務発明の取り扱い

 知的財産法第30条第2項に規定されるように、従業者がその雇用契約の期間内に発明をした場合、発明行為がその正規の職務の一部ではない場合は、従業者が使用者の時間、設備および材料を使用する場合であっても特許は従業者に帰属し、発明が従業者に正規に課された職務の遂行の結果である場合は、別段の明示のまたは暗黙の合意がない限り特許は使用者に帰属する。

5. 特許権の存続期間

 知的財産法第54条に規定されるように、特許権の存続期間は、出願日から20年である。また、知的財産法第109条第3項に規定されるように、実用新案登録は、出願日から7年目の末日に満了し、更新することはできない。特許権や実用新案権の存続期間を延長する規定は存在しない。

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フィリピンにおける特許発明の新規性喪失の例外

 ある発明が特許を受けることができると認められるためには、いくつかの基準を満たさなければならず、その重要な基準の1つが新規性である。フィリピン法において、新規性は、実体審査における基本的要件であり、特許性にかかる争いのない条件である。先行技術を構成しない発明は、新規であるとみなされる。「先行技術」とは、一般に、書面による開示か口頭による開示かに関わらず、関連する特許出願の出願日または優先日前に存在する全ての情報を意味する。

 

 フィリピンの知的財産法として知られる共和国法第8293号 改正施行規則(2011年) 規則204(先行技術)において、先行技術は以下のように定義されている。

 

 先行技術は次のものからなる。

 

(a)書面または口頭による開示や実施により、またはその他の方法で、発明を主張する出願の出願日または優先日の前に世界中のどこかで公衆の利用に供されているすべてのもの。情報は、秘密とされない場合または選択されたグループによる実施に制限されていない場合、公衆の利用に供されているものとみなされる。フィリピン内外を問わず、先使用および口頭による開示は、実質的な証拠により立証されなければならない。

(b)フィリピン知的財産庁により公開され、フィリピンにおいて出願されまたは効力を有し、かつ、当該出願の出願日または優先日より前の出願日または優先日を有する先の特許出願、実用新案登録出願または意匠登録出願の全内容。ただし、知的財産法第31条に基づいて先の出願の出願日を正当に主張する出願は、当該先の出願日において有効な先行技術であるものとし、かつ、双方の出願の出願人または発明者が同一でないことを条件とする(知的財産法第24条)。

(c)当該出願の出願日の前に公開された、実質的に同一の発明を開示する対応の外国出願、またはその明細書の全内容。単なる方式上、重要でないまたは自明な変形を除く、全ての重要な特徴の構成が当該発明を定義する場合、発明は実質的に同一であるとみなされる。

(d)2以上の出願が同一の発明に関して独立して出願され、後の出願が最先の出願または先の出願が公開される前に出願された場合は、後の出願の出願日または優先日以後に知的財産法第44条に基づき公開された先のまたは最先の出願の全内容は、後の出願の新規性を損なうものとする。

 

 先行技術文献は、クレームされた発明の主題が文献内に明確に含まれている場合のみ、当該発明の新規性を喪失させる。フィリピンの現在のプラクティスでは、ある出願のクレームで規定された主題は、各公開物の内容と要素ごとに比較することにより実体的に審査される。ある公開物が単独でクレームの全ての特徴を含む場合、すなわち、当該公開物によってクレームの主題が予見される場合に、新規性の喪失が認められる。

 

 発明の新規性喪失の例外について規定した日本国特許法第30条においては、ある発明が特定の条件下で公開され、当該公開日から6ヶ月以内に当該発明の特許出願がなされた場合、当該公開を理由(先行技術)として新規性を喪失しないものとして扱うとされている。フィリピンにおいては、日本とは異なり、新規性喪失の例外に関する明確な法規定はない。

 しかしながら、フィリピンの知的財産法では、不利にならない開示、すなわち、特許出願に対する先行技術として通常認められる特許出願日前の開示が先行技術として不適格とされる場合、または先行技術から除外される場合が規定されている。この「不利にならない開示」として、出願に含まれる情報の出願前の開示が新規性喪失の欠如を理由として出願人を害さない3つの場合が、共和国法第8293号 改正施行規則(2011年) 規則205(不利にならない開示)において以下のように規定されている。

 

 

 出願の出願日または優先日前12ヶ月の間における当該出願に含まれている情報の開示は、当該開示が次の場合に該当するときは、新規性の欠如を理由として出願人を害さないものとする。

(a)発明者、または当該出願の出願日において特許を受ける権利を有していた者によるものである場合

(b)外国の特許庁、または局もしくは庁によってなされた場合であって、当該情報が、(i)発明者が行った別の出願に記載され、当該官庁によって開示されるべきではなかったとき、または(ii)発明者から直接または間接にこれを得た第三者により、当該発明者の認識または同意なく行われた出願に記載されているとき

(c)発明者から直接または間接に当該情報を得た第三者によってなされた場合、ただし、係属中の特許出願を公開する全ての外国特許庁、ならびにPCT経由で出願された特許出願を公開するWIPOは当該第三者から除外される。

 

 規則205は、要件を満たす開示に対して自動的に適用されるため、特段の申請手続は不要である。

 

 フィリピン知的財産庁の特許局発行の実体審査手続マニュアルによると、規則205(a)および(c)に記載された開示とは、公開文書、会議、またはその他の方法により生じ得る。規則205(b)に記載された開示とは、以下の状況で生じ得る。

(1)特許庁が誤って出願を公開した場合(例:出願が明確に取り下げられた後、または、法律で定める日以前の公開)、または、

(2)Aの発明をBが秘密裏に耳にし、Bが当該発明に関する特許出願を行った場合。このBの出願の公開の結果生じた開示は、当該公開前にAが既に出願を行っていた場合、または当該公開後12ヶ月以内に出願する場合には、Aの権利を損なわない。

 

 なお、「不利にならない開示」は、特許出願の出願前に開示された発明に対しては特許が付与されてはならないという原則に対する例外である。しかしながら、上記した開示が、出願の出願日または優先日の前12ヶ月以内のものでなければならないということは必須条件である。したがって、特許出願は可及的速やかに行うことが強く推奨される。

フィリピンにおける特許審査基準関連資料

【詳細】

 ASEAN主要国及び台湾における特許及び商標の審査基準・審査マニュアルに関する調査研究報告書【特許編】(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)第Ⅲ部3

 

(目次)

第Ⅲ部 調査対象国・地域の審査基準関連資料の詳細

 3 フィリピン P.71

参考 調査対象国・地域の知的財産権担当官庁及び、ウェブサイト公開されている関連法規、審査基準関連資料の情報

 3 フィリピン P.211