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フィリピンの商標等関連の法律、規則、審査基準等

 フィリピンの商標関連等の法律、規則、審査基準等(英語・日本語)は、以下のとおりである。
 法律、規則等の英語版は、フィリピン知的財産庁ウェブサイトのトップページ(https://www.ipophil.gov.ph/)画面上部の「REFERENCES」から「LAWS & RULES」を選択すれば、個別の法令文等にアクセスすることができる。ただし、フィリピン知的財産庁ウェブサイトへの接続状況は、利用する通信環境によって左右される可能性があり、アクセスエラーとなる場合は、時間帯や利用端末を変えて接続を試みると接続できる場合がある。

No.法令名施行日等法律番号等情報元URL言語
1知的財産法2015年版Republic Act No. 9150, No.9502, No.10372フィリピン知的財産庁https://www.ipophil.gov.ph/intellectual-property-code-implementing-rules-and-regulations/
https://drive.google.com/file/d/0B2or2OrWYpIfN3BnNVNILUFjUmM/view?ts=58057027
日本国特許庁https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/philippines-tizai.pdf
2商標,サービスマーク,商号及びマーキングされた容器に関する規則2017.8.1
施行
Memorandum Circular No.17-010フィリピン知的財産庁https://drive.google.com/file/d/16NnR6JpLGXlKyokKXzWJraSlmt60P_54/view
2023.2.14
施行
Memorandum Circular No.23-001フィリピン知的財産庁https://drive.google.com/file/d/1kfczZkVpKiWuFiRSgG5OIlAKvYvRXsB9/view
日本貿易振興機構(JETRO)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/ph/ip/pdf/philippines-shouhyou_kisoku_2.pdf
3自発的ライセンス許諾に関する規則1998.10.2
公布
フィリピン知的財産庁https://drive.google.com/file/d/1E31FqCko-qHF38LqWQienKpOF-RycQfl/view
日本国特許庁https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/philippines-license.pdf
知的所有権に係わる法律の違反に対する行政不服申立に関する規則2010.12.6
公布
フィリピン知的財産庁
日本国特許庁https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/philippines-gyouseifufuku.pdf
2017.8.1
施行
(改正部分
のみ)
Memorandum Circular No.17-012,17-15(2017)フィリピン知的財産庁https://drive.google.com/file/d/11ncbSL6NSrycAyGMQudo4ehusEJfOYDS/view 
5技術移転についての支払,及び作品の公演又はその他の方法による伝達に対する著作者の権利に関するライセンスの条件に係わる紛争の解決についての改訂規則2001.4.24
公布
フィリピン知的財産庁https://drive.google.com/file/d/1uHOrSXY0WV01uqf8edr1VnNbgunhG9CQ/view 
日本国特許庁https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/philippines-funsoukaiketsu.pdf
6当事者系手続に関する規則(標章,特許,実用新案及び意匠の取消申請,標章登録への異議申立,強制ライセンス許諾)1998.10.2
公布
日本国特許庁https://www.jpo.go.jp/e/system/laws/gaikoku/document/index/philippines-e_toujisya.pdf
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/philippines-toujisya.pdf
2016.7.29
施行
as amended by Office Orders Nos. 18 (1998), 79 (2005), 99 (2011), and 68 (2014), and Memorandum Circular No.7 (2016)フィリピン知的財産庁https://drive.google.com/file/d/18rcsI27FGapGpemhEpmct8Kxdj6FxTXY/view

フィリピンにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)

1. 記載個所
 発明の新規性については、フィリピン知的財産法第23条に、先行技術については、フィリピン知的財産法第24条に規定されている。

フィリピン知的財産法 
第23条 新規性 
発明は、それが先行技術の一部である場合は新規であるとはみなさない。 
 
第24条 先行技術  
先行技術は、次のものからなる。 
24.1 発明を請求する出願の出願日又は優先日の前に世界の何れかの場所において公衆が利用することができるようにされているすべてのもの 
24.2 本法の規定に従って公開され、フィリピンにおいて出願され又は効力を有し、かつ、当該出願の出願日又は優先日より前の出願日又は優先日を有する特許出願、実用新案登録又は意匠登録の全内容。ただし、第31条の規定に従って先の出願の出願日を有効に請求する出願は、当該先の出願の出願日において有効な先行技術であるものとし、かつ、その両方の出願の出願人又は発明者が同一ではないことを条件とする。 

 新規性に関する審査基準については、フィリピン特許審査マニュアル(以下、「フィリピン特許審査基準」という。)の第II部第7章実体審査第4節特許要件の第5項-第8項に規定があり、その概要(目次)は、以下のとおりである。

フィリピン特許審査基準 
第II部 
 第7章 実体審査 
  第4節 特許要件 
   第5項 新規性;先行技術(5.1-5.5) 
   第6項 他のフィリピン出願との抵触(6.1-6.4) 
   第7項 新規性テスト(7.1-7.6) 
   第8項 不利益とならない開示(8.1-8.4) 

2. 基本的な考え方
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第1節「2. 新規性の判断」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準には、日本の審査基準のように、クレームされた発明と引用した先行技術を比較して、相違点があるか否かを判断する手順については、明確には記載されていないが、審査官による実務としては、同一性テストを採用することが規定されており(第II部第7章第4節第5項5.5)、日本における実務と違いはないと考えられる。

 新規性の評価には、厳格な同一性テストが要求される。新規性を否定するためには、先行技術を開示した一つの文献が、クレームされた発明の各要素を開示していなければならない。均等物は、進歩性の評価においてのみ考慮される。

3. 請求項に記載された発明の認定
3-1. 請求項に記載された発明の認定
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第一段落に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第3節第4項4.2

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準では、日本の審査基準のように、クレームされた発明の認定について、クレームの記載どおりに認定することが規定されており、日本と同じ考え方がフィリピンの審査にも適用されると考えられる。

 各請求項は、明細書において明示的な定義等により特別な意味を付与している場合を除き、関連技術分野において通常有している意味とその意味する範囲内において読むべきである。さらに、そのような特別な意味が適用される場合、審査官は可能な限り、クレームの文言のみからその意味が明確になるよう、クレームの補正を要求すべきである。また、クレームは、技術的な意味を理解するように試みながら読むべきである。このような読み方には、クレームの文言の厳密な字義通りの意味から逸脱することが含まれる場合もあり得る。特許請求の範囲と明細書で使用される用語は、互いに整合していなければならない。

3-2. 請求項に記載された発明の認定における留意点
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第二段落に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン知的財産法第75条第1項の「クレームは、明細書及び図面を考慮して解釈する」という規定を考慮すると、特許請求の範囲と明細書の記載の間の矛盾は避けなければならない。フィリピン特許審査基準には、クレームの記載と明細書が一致しない場合として次の3つの場合が記載されている(第II部第7章第3節第4項4.3)。

(i) 単なる文言上の不一致がある場合
 明細書には、クレームに記載された発明が特定の特徴に限定されることを示唆する記載があるにもかかわらず、特許請求の範囲ではそのように限定がされていない場合がこれに該当する。

(ii) 明らかに本質的な特徴に関する矛盾がある場合
 一般的な技術知識から、あるいは明細書に記載または暗示されている事項から、独立請求項に記載されていないある技術的特徴が発明の実施に不可欠である、言い換えれば発明が関連する課題の解決に必須である、と思われる場合がこれに該当する。

(iii) 明細書および/または図面の主題の一部が、特許請求の範囲に属さない場合
 クレームでは、半導体デバイスを使用した電気回路が規定されているが、明細書および図面の実施形態の一つでは真空管が使用されている場合がこれに該当する。

4. 引用発明の認定
4-1. 先行技術
4-1-1. 先行技術になるか
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「3.1 先行技術」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第5項5.1

(2) 異なる事項または留意点
 先行技術とは、フィリピン知的財産法第24条第1項において、「世界の何れかの場所において公衆が利用することができるようにされているすべてのもの」と定義されており、この定義の幅の広さには注意が必要である。関連する情報が、公衆に提供された地理的場所、言語または方法(書面または口頭による説明、使用またはその他の方法によるもの等)については、何ら制限はない。ただし、外国での先行使用は、印刷文書または有形の形態で開示されなければならない。

 情報が公衆に利用可能であるとみなされるのは、それが秘密情報でない場合、または特定のグループによる利用に限定されていない場合である。フィリピン国内外を問わず、先行使用および口頭開示は、相当な証拠をもって証明されなければならない。

4-1-2. 頒布された刊行物に記載された発明
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節3.1.1「(1)刊行物に記載された発明」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章4節第5項5.2

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準では、頒布された刊行物(書面に記載されたもの、すなわち先行文献)については、該当する日付において公衆がその文献の内容を知ることが可能であり、そのような知識の使用または普及を制限する秘密保持の禁止がなかった場合、公開されたとみなされるべきであるとされている。例えば、ドイツの実用新案は、実用新案登録簿に登録された日に既に公的に利用可能であり、これは特許公報に公表された日に先立つ。

4-1-3. 刊行物の頒布時期の推定
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節3.1.1「(2) 頒布された時期の取扱い」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準には、日本の審査基準のように刊行物の頒布時期の推定については規定がないが、審査における審査官の公開日の推定については以下の規定がある(第II部第7章4節第5項5.2)。

 審査官は、審査において、公開の事実に関する疑念や文献の正確な公開日の真偽に関する疑念が、完全に解消されていない場合であっても、先行文献として引用することがあり得る。この場合に、出願人が、文献の公開可能性または推定される公開日について異議を唱える場合、審査官はその問題をさらに調査するかどうかを検討する必要がある。出願人が、その文献が、「先行技術」の一部となることを疑問とする正当な理由を示し、それ以上の調査によってその疑念を取り除くのに十分な証拠が得られない場合、審査官はその問題をそれ以上追及すべきではない。

4-1-4. 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第5項5.1

(2) 異なる事項または留意点
 4-1-1.に記載したように、関連する情報が、公衆に提供された地理的場所、言語または方法(書面または口頭による説明、使用またはその他の方法によるもの等)については、何ら制限はないから、インターネット等で公開された情報も先行技術に含まれる。

4-1-5. 公然知られた発明
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準では、日本の審査基準のような「公然知られた発明」と「公然実施された発明」の区別はなく、「文献以外の方法による先行技術」として、以下の規定がある(第II部第7章4節第5項5.4a、5.4b、5.4c)

 使用またはその他の方法で公衆に利用可能となった先行技術または情報は、機密でない場合や使用が制限されていない場合に、公衆に利用可能とされたとみなされ、先行技術とされる。フィリピン国内外を問わず、先行使用および口頭による開示は、相当な証拠をもって証明されなければならない。

 その他の方法で利用可能となった先行技術の使用としては、対象物の生産、提供、販売、その他の方法による利用、またはプロセスもしくはその使用法の提供、販売、プロセスの使用が該当する。マーケティングは、例えば、販売や交換によって行われる。また、先行技術は、例えば、専門家養成やテレビにおいて対象物やプロセスを実演することによって、また、他の方法で公衆に提供されることもある。その他の方法による公衆への利用可能化には、技術の進歩がその後、当該先行技術の態様を利用可能にするために提供し得るすべての可能性も含まれる。

 また、例えば、対象物が公衆に無条件で販売される場合、購入者は製品から得られる知識を無制限に所有することになるため、先行技術となる場合があり得る。このような場合、対象物の具体的な特徴が、外見からではなく、さらなる分析によってのみ判明する可能性があるとしても、そのような特徴は、公衆の利用に供されたものとみなすことができる。

 他方で、対象物が所定の場所(例えば、工場)で見ることができ、その場所には、対象物の具体的な特徴を確認するのに十分な技術的知識を有する者を含め、秘密に拘束されない公衆が出入りすることができる場合、専門家が純粋に外部からの検査によって得ることができたすべての知識は、公衆に提供されたとみなされる。ただし、そのような場合、対象物を解体または破壊することによってのみ確認できる隠された特徴は、公衆に利用可能になったとはみなされない。

 採用されるべき基本原則は、秘密保持に関する明示的または黙示的な合意があり、それが破られていない場合、またはそのような秘密保持が善意もしくは信頼関係に由来するような事情がある場合には、対象物は使用またはその他の方法によって公衆に提供されたことにはならないということである。善意または信頼は、契約上または商業上の関係において生じうる条件である。

4-1-6. 公然実施をされた発明
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「3.1.4 公然実施をされた発明(第29条第1項第2号)」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 4-1-5.を参照されたい。

(後編に続く)

フィリピンにおける産業財産権の検索データベースの調査2022

「ASEANにおける産業財産権の検索データベースの調査 2022」(2023年3月、日本貿易振興機構 バンコク事務所(知的財産部)) 

「ASEANにおける産業財産権の検索データベースの調査 2022」(2023年3月、日本貿易振興機構 バンコク事務所(知的財産部))第4章 フィリピン

(目次)
第4章 フィリピン
(フィリピン知的財産庁(IPOPHL)のデータベースであるIPOPHLシステム上の案件データに基づき、種別(特許および実用新案)ごとに、2022年に公開された出願を対象とし算出した「出願から公開までに要した期間」、および2022年に登録された案件を対象とし算出した「出願から登録までに要した期間」について紹介している。また、2004年から2022年に①公開された案件、および②登録された案件について、それぞれ、①出願から公開まで、および②出願から登録までの経過期間の分布を、全案件、出願人国籍別、出願ルート別、技術分野別にグラフで紹介している。加えて、2019年から2021年までの各年の出願を対象とし算出した、全出願人を対象とした出願件数上位ランキング、日本国籍出願人を対象とした出願件数上位ランキング、技術分野別の出願件数上位ランキング、外国出願人のフィリピン第一国出願の出願件数上位ランキングを紹介している。さらに、2003年から2022年までの各年の出願についての2023年1月時点での登録率を紹介している。)

1.特許 P.111
1.1 産業財産権の権利化期間 P.111
1.2 産業財産権の出願件数上位リスト P.130
1.3 登録率 P.136

2.実用新案 P.137
2.1 産業財産権の権利化期間 P.137
2.2 産業財産権の出願件数上位リスト P.154
2.3 登録率 P.162

日本とフィリピンにおける特許分割出願に関する時期的要件の比較

1.日本における特許出願の分割出願に係る時期的要件
 日本特許法第44条は、下記の(1)~(3)のいずれかの時または期間内であれば、2以上の発明を包含する特許出願の一部を1または2以上の新たな特許出願とすること(分割出願すること)ができることを規定している。

(1) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面について補正をすることができる時または期間内(第44条第1項第1号)
 なお、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面について、補正をすることができる時または期間は、次の(i)~(iv)である。
 (i) 出願から特許査定の謄本送達前(拒絶理由通知を最初に受けた後を除く)(第17条の2第1項本文)
 (ii) 審査官(審判請求後は審判官も含む。)から拒絶理由通知を受けた場合の、指定応答期間内(第17条の2第1項第1号、第3号)
 (iii) 拒絶理由通知を受けた後第48条の7の規定による通知を受けた場合の、指定応答期間内(第17条の2第1項第2号)
 (iv) 拒絶査定不服審判請求と同時(第17条の2第1項第4号)

(2) 特許査定(次の(i)および(ii)の特許査定を除く)の謄本送達後30日以内(第44条第1項第2号)
 (i) 前置審査における特許査定(第163条第3項において準用する第51条)
 (ii) 審決により、さらに審査に付された場合(第160条第1項)における特許査定
 なお、特許「審決」後は分割出願することはできない。また、上記特許査定の謄本送達後30日以内であっても、特許権の設定登録後は、分割出願することはできない。また、(2)に規定する30日の期間は、第4条または第108条第3項の規定により第108条第1項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間に限り、延長されたものとみなされる(第44条第5項)。

(3) 最初の拒絶査定の謄本送達後3月以内(第44条第1項第3号)
 (3) に規定する3か月の期間は、第4条の規定により第121条第1項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間を限り、延長されたものとみなされる(第44条第6項)。

日本特許法第44条(特許出願の分割)
特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
 一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。
 二 特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。
 三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。
2 前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。ただし、新たな特許出願が第二十九条の二に規定する他の特許出願又は実用新案法第三条の二に規定する特許出願に該当する場合におけるこれらの規定の適用及び第三十条第三項の規定の適用については、この限りでない。
3 第一項に規定する新たな特許出願をする場合における第四十三条第二項(第四十三条の二第二項(前条第三項において準用する場合を含む。)及び前条第三項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、第四十三条第二項中「最先の日から一年四月以内」とあるのは、「最先の日から一年四月又は新たな特許出願の日から三月のいずれか遅い日まで」とする。
4 第一項に規定する新たな特許出願をする場合には、もとの特許出願について提出された書面又は書類であって、新たな特許出願について第三十条第三項、第四十一条第四項又は第四十三条第一項及び第二項(これらの規定を第四十三条の二第二項(前条第三項において準用する場合を含む。)及び前条第三項において準用する場合を含む。)の規定により提出しなければならないものは、当該新たな特許出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす。
5 第一項第二号に規定する三十日の期間は、第四条又は第百八条第三項の規定により同条第一項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間を限り、延長されたものとみなす。
6 第一項第三号に規定する三月の期間は、第四条の規定により第百二十一条第一項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間を限り、延長されたものとみなす。
7 第一項に規定する新たな特許出願をする者がその責めに帰することができない理由により同項第二号又は第三号に規定する期間内にその新たな特許出願をすることができないときは、これらの規定にかかわらず、その理由がなくなった日から十四日(在外者にあっては、二月)以内でこれらの規定に規定する期間の経過後六月以内にその新たな特許出願をすることができる。

2.フィリピンにおける特許出願の分割出願の時期的要件
 フィリピンでは、2022年にフィリピン知的財産施行規則(以下、「施行規則」という。)が改正され、これに伴い、分割出願に関する時期的要件も改正された(2022年9月20日施行)。
 自発的な分割出願は、改正前は、親出願が取り下げられ、放棄されまたは特許を付与される前である係属中の出願について、いつでも行うことができたが、改正後は、親出願が取り下げられ、または特許を付与された日から4か月以内に係属出願について任意の分割出願を行うことができることとされた(施行規則 規則611)。
 単一性違反の指令後の分割(フィリピン知的財産法第38条第2項)は、改正前は、その指令書発行から4か月以内または4か月を超えない範囲で認められる追加の期間内に分割出願ができたが、改正後は、分割の指令が確定した日、または分割指令に対する不服申立の決定があった日から4か月以内に分割出願が可能とされた(施行規則 規則604、610、928b)。分割指令による分割出願の場合は、必要であれば、2か月の期間延長が認められる場合がある。

フィリピン知的財産法 第38条 発明の単一性
38.1 出願は、1の発明または単一の包括的発明概念を形成する一群の発明についてのみ行う。
38.2 単一の包括的発明概念を形成しない複数の独立した発明が1の出願において請求されている場合は、局長は当該出願を単一の発明に限定することを要求することができる。分割する発明についてされる後の出願は、最初の出願と同一の日に出願されたものとみなす。ただし、分割の要求が最終となった後4月以内または4月を超えない範囲で認められる追加の期間内に後の出願がなされることを条件とする。分割出願は、当初の出願における開示を超えてはならない。
38.3 発明の単一性を満たさない出願に特許が付与されたという事実は、特許を取り消す理由とはならない。

フィリピン知的財産施行規則 規則604 発明の単一性
(a) 出願は、1の発明又は単一の一般的発明概念を形成する1群の発明についてのみ行う。(IP法第38条(38.1))
(b) 単一の一般的発明概念を形成しない複数の独立した発明が1の出願においてクレームされている場合は、局長は、当該出願を単一の発明に限定するよう要求することができる。分割した発明についてなされる後の出願は、最初の出願と同一の日に出願されたものとみなす。ただし、分割の要求が確定した後4月以内又は規則928bの下2月を超えない範囲で認められる追加期間内に後の出願がなされることを条件とする。更に、各分割出願が当初の出願における開示の範囲を超えないことを条件とする。(IP法第38条(38.2))

フィリピン知的財産施行規則 規則610 選択されない発明の分離出願・強制分割出願
強制分割出願とは、先の又は親出願の主題を含む特許出願のことで、発明の単一性欠如による拒絶に伴う限定の場合に生じる可能性がある。1の出願が複数の分割出願を生じさせることができ、分割出願はそれ自体で1以上の分割出願を生じさせることができる。分割出願は、先の又は親出願と同様に審査され、先の又は親出願の優先権の利益を享受する。ただし、分割出願は、分割の要求が確定した日又は不服申立が決定された日から4月以内に提出されることを条件とする。4月の所定期間は、当該処分又は不服申立に対する決定の通知の郵送日から起算される。
先の分割出願から生じた後続の強制分割出願で、発明の単一性の拒絶が提起された場合は、4月の所定期間は、選択の日又は分割の要求が確定した日から起算される。
選択されなかった発明又は分割出願は、出願人が署名し作成した出願様式、ある場合は先の出願の要約書、明細書、クレーム及び図面の正確な謄本、関連しないクレーム又はその他の事項を取り消した補正クレーム案、図面に関する規則に従って作成された図面の写し、対応する出願手数料の全額納付とともに提出することができる。
分割の要求が確定した日から4月の所定期間を超えて提出された分割出願は、無効な分割出願として却下される。2月を超えない分割出願のための追加期間は、規則928bの下で認められる。
ただし、先の出願が特許を付与される前又は取り下げられる前に当該分割出願がなされた場合、かつ、それが出願された先の出願と同一である場合は、図面が同一であり、当該書類が、出願人が署名し作成した原文書の正確な謄本を構成するときは、出願人による署名及び作成を省略することができる。当該出願は、出願手数料及び図面に関する規則を遵守する図面の写しで構成することができ、同時に、関連しないクレーム又はその他の事項を取り消した補正案も添付することができる。
親出願と分割出願は、同一の主題をクレームしてはならない。すなわち、それらのクレームは、実質的に同一の範囲にあってはならず、異なる言葉であっても、他方でクレームされた主題をクレームしてはならない。両出願のクレームされた主題の違いは、明確に区別できるものでなければならない。

フィリピン知的財産施行規則 規則611 任意の分割出願
出願人は、親出願が取り下げられ、又は特許を付与された日から4月以内に係属出願について任意の分割出願を行うことができる。ただし、その主題が親出願の内容を超えないことを条件とする。
後続の任意の分割出願は、先の分割出願について出願し、検討することができる。ただし、先の分割出願が取り下げられ、又は特許を付与された日から4月以内に係属出願について後続の分割出願は提出されなければならない。
任意の分割出願は、親出願と同一の出願日が付与され、優先権の利益を得る。出願の様式に関する要件は、規則610に規定する要件と同じものとする。
親出願と分割出願は、同一の主題をクレームしてはならない。すなわち、それらのクレームは、実質的に同一の範囲にあってはならず、異なる言葉であっても、他方でクレームされた主題をクレームしてはならない。両出願のクレームされた主題の違いは、明確に区別できるものでなければならない。

日本とフィリピンにおける特許分割出願に関する時期的要件の比較

日本 フィリピン
分割出願の時期的要件 補正ができる期間 自発的な分割は、親出願が取り下げられ、または特許を付与された日から4か月以内

単一性違反の指令後の分割は、分割の指令が確定した日、または不服申立の決定があった日から4か月以内。2か月の延長が認められる場合あり。

フィリピンにおける判決等へのアクセス方法

1.フィリピン最高裁判所ウェブサイトの利用法(最近12か月の最高裁判決の閲覧方法)
 フィリピン最高裁判所ウェブサイト(https://sc.judiciary.gov.ph/)にアクセスすると、図1に示すトップページが表示される。

      図1. 最高裁判所トップページ

 ここで、上部の選択肢から「DECISIONS AND RESOLUTIONS(決定および決議)」または下部のアイコンの「DECISIONS AND RESOLUTIONS」をクリックすると、図2に示す、最近12か月の「Decisions and Resolutions」の選択画面が表示される。

    図2. 最近12か月の判決等の選択画面

 以下に、図2に示す画面上の選択肢アイコンについて、簡単に説明する。

・Decisions:判決(事件の説明、裁判所の判決、討論を含む)
・Resolution:決議(最高裁判所が下す暫定的な命令)
・Rules of Court:法廷規則(弁護士業務を規定する一連の規則および手続)
・Memorandum Orders:覚書命令(最高裁判所が発行し、下級裁判所に指針を与えるもの)
・Administrative Circulars:行政通達(最高裁判所がその職員に行政事項に関する指針を与えるために発行するもの)
・Administrative Matters:行政案件(最高裁判所の内部業務に関わる案件)
・Administrative Orders:行政命令(行政案件を解決するために最高裁判所が発行する命令)
・OCA Circulars:裁判所管理官室(OCA)通達(下級裁判所および裁判所職員に対し、行政事項に関する指針を提供するもの)

 なお、図2に示す画面の下部の「SC E-Library」をクリックすると、図5に示す画面に移り、1996年以降の判決・決議が、月ごとに表示される。

 判決を閲覧するためには、図2に示す画面上の「Decisions」アイコンをクリックし、図3に示す判決検索画面を表示させる。

    図3. 判決検索画面

 判決検索画面(図3)の入力欄に閲覧したい判決の情報を入力し、検索する。各入力欄、選択肢について、簡単に説明する。

・Title/Keywords:判決のタイトルまたはキーワードを入力し検索する
・Type:判決の種別を指定する(下記の選択肢が表示される)
 G.R. (Great Appeal)、一般的な上告事件
 A.M. (Administrative Matters)、行政案件に関する判決
 A.C. (Administrative Cases)、最高裁の裁判官、職員に関する判決
 UDK (Unpublished Decisions)、未掲載の判決
 OCA IPI (OCA Information Procedure)、裁判所管理官室の情報提供に関する判決
 JIB-FPI (Judicial Information Board-Foreign Judicial Proceedings Information)、外国の裁判所の判決に関する情報提供に関する判決
・Case Number:事件番号
・Promulgation Date:発行日

 なお、画面下部には、最近の判決等が発行日の順に掲載され、「Title/Keywords」または「Case No」をクリックすると、図4.に示すように、その内容が表示される。
 サイト閲覧時点(2023.10.18)で、976件の判決等が閲覧、ダウンロードが可能である。

    図4. 判決文表示例

(Judge Ray Alan t. Drilon and Atty. Corazon P. Romero Vs. Atty. Ariel D. Maglalang)

2.フィリピン最高裁判所ウェブサイトの利用法(1996年以降の判決・決定および控訴裁判所の判決・決定の閲覧方法)
 直近12か月の間に含まれない判決等を閲覧したい場合、図2に示す画面の下部の「SC E-Library」をクリックするか、図3の画面の右上の「For older decisions and further legal research」をクリックすると、図5に示す「Supreme Court E-Library」の画面が表示され、この画面から、1996年以降の判決・決議を月ごとに選択することができる。

    図5. 「Supreme Court E-Library」のページ

 図5に示すの画面の上部「The Bookshelf」には、以下の5つの選択肢が表示されている。

・Supreme Court:最高裁判所
 Decisions/Signed Resolutions(判決・決議)
・Laws:法律(憲法、連邦法等)
・Executive Issuances:執行機関発行物(行政命令、覚書等)
・References:参考資料(憲法制定会議、憲法草案等)
・Treaties:条約(二国間、多国間)

 この画面では、通常、「Decisions/Signed Resolutions」(最高裁判所の判決・決議)がデフォルトで表示されており、各年の青字で表示された月をクリックすると、図6に示すように、その月の判決・決議のリストが表示される。なお、赤字で表示された月は、判決・決議のリストが表示されない。
 また、「Laws, Executive Issuances, References, Treaties」の項目については、判決の閲覧とは無関係なので、ここでの紹介は省略するが、各選択肢をクリックすると、その項目の下位の項目がプルダウンで表示され、さらにそれらをクリックすると、「Decisions/Signed Resolutions」のように年・月が表示される。

    図6. 2023年1月のリスト表示

 リスト中の各案件をクリックすると、図7に示すように判決が表示され、印刷等が可能である。

    図7. 判決文表示例

 図4の画面とは異なり、判決書そのものではなくデータ化されたものが表示される。図7に示す画面の右上の「View printer friendly version」をクリックすると、印刷に適したレイアウトでの表示に切り替えることもできる。
 図5に示す画面の右上の「E-Library Search」アイコンをクリックすると、図8に示す検索画面が表示され、より詳細な検索が可能となる。
 また、図8に示す画面の下部には、図9に示す検索画面の使用方法が掲載されている。

    図8. 詳細検索入力画面

    図9. 検索ガイド

3.フィリピン控訴裁判所ウェブサイトのデータベースの利用法
 フィリピン控訴裁判所のウェブサイト(https://ca.judiciary.gov.ph/)にアクセスすると図10に示すトップ画面が表示されるので、「Case Search」または「Recent Decisions and Resolutions」アイコンをクリックする。

    図10. 控訴裁判所トップページ

 閲覧したいCase Number(事件番号)またはParty Name(当事者名)が分かっている場合、図10に示す画面の「Case Search」アイコンをクリックし、図11に示す検索画面または図12に示す詳細検索画面(図11の右上の「ADVENCED SEARCH」をクリックすると表示される。)から検索事項を入力し、検索を行うことができる。

    図11. 検索画面

    図12. 詳細検索画面

 また、図10に示すトップページから「Recent Decisions and Resolutions」アイコンをクリックすると、図13に示す最近の案件のリストが表示される。

    図13. 最近の案件リスト

 図13に示す画面の上部には、案件リストを絞り込む検索欄「Enter Search Entry Here」が用意されている。案件の右側の「View PDF」アイコンをクリックすると図14に示すように判決が表示され、ダウンロードや印刷が可能となる。

    図14. 判決の表示例

日本とフィリピンにおける特許審査請求期限の比較

1.日本における審査請求期限
 日本においては、特許出願の審査を受けるためには出願審査請求を行う必要がある。出願審査請求は出願の日から3年以内に行うことができ(特許法第48条の3第1項)、この期限内に出願審査請求がされない場合は、その特許出願は取り下げられたものとみなされる(特許法第48条の3第4項)。ただし、所定の期間内に出願審査の請求がなされなかったことにより特許出願が取り下げたものとみなされた場合であっても、当該期間を徒過したことについて「故意によるものでない」ときは、出願審査の請求をすることができるようになった日から2か月以内で、期間経過後1年以内に限り、出願審査の請求を行うことができる(特許法第48条の3第5項)。

 出願が国内優先権の主張を伴う場合や、パリ条約による優先権の主張を伴う場合においても、請求期間の起算日は、優先日(先の出願の出願日)ではなく、優先権主張を伴う出願(後の出願)の実際の出願日である(工業所有権法逐条解説 特許法第48条の3趣旨)。

 PCTルートの場合は、国内書面を提出し、手数料の納付を行った後(外国語特許出願である場合はさらに翻訳文を提出した後)でないと、出願審査請求をすることができない(特許法第184条の17)。この場合の審査請求期限は、国際出願日から3年である。

 また、特許出願の分割に係る新たな特許出願、意匠登録出願または実用新案登録出願の変更に係る特許出願、実用新案登録に基づく特許出願については、原出願から3年の期間経過後であっても、分割または変更による特許出願の日から30日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。
 なお、審査請求は出願人だけでなく、第三者も行うことができる。(特許法第48条の3第1項)。

条文等根拠:特許法第48条の2、第48条の3第1項、第2項、第3項、第4項、第5項、第184条の17

日本国特許法 第48条の2(特許出願の審査)
 特許出願の審査は、その特許出願についての出願審査の請求をまって行なう。

日本国特許法 第48条の3(出願審査の請求)
 特許出願があつたときは、何人も、その日から三年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。

2 第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願又は第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願については、前項の期間の経過後であっても、その特許出願の分割、出願の変更又は実用新案登録に基づく特許出願の日から三十日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。

3 出願審査の請求は、取り下げることができない。

4 第一項または第二項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかつたときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす。

5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定めるところにより、出願審査の請求をすることができる。ただし、故意に、第一項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をしなかつたと認められる場合は、この限りでない。

(第6から第8項省略)

日本国特許法 第184条の17(出願審査の請求の時期の制限)
 国際特許出願の出願人は、日本語特許出願にあつては第百八十四条の五第一項、外国語特許出願にあつては第百八十四条の四第一項又は第四項及び第百八十四条の五第一項の規定による手続をし、かつ、第百九十五条第二項の規定により納付すべき手数料を納付した後、国際特許出願の出願人以外の者は、国内書面提出期間(第百八十四条の四第一項ただし書の外国語特許出願にあつては、翻訳文提出特例期間)の経過後でなければ、国際特許出願についての出願審査の請求をすることができない。

2.フィリピンにおける審査請求期限
 フィリピンにおいては、特許出願の実体審査を受けるためには審査請求を行う必要がある。審査請求はフィリピンにおける公開日(知的財産法第44条第1項)から6か月以内に行うことができる(知的財産法第48条1項、2022 年特許・実用新案・意匠に関する改正施行規則(以下、施行規則という)804)。出願人が実体審査請求を行わない場合および所定の期間内に対応する手数料を納付しない場合は、その特許出願は取り下げられたものとみなされる(知的財産法第48条第1項、施行規則804)。
 なお、出願から公開までの平均期間については、下記資料を参照されたい。
 *JETRO「ASEANにおける産業財産権の検索データベースの調査2022」114頁
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/asean/ip/pdf/report_202303_asean.pdf

 PCTルートの場合は、フィリピン国内段階移行日から6か月以内に審査請求費用を支払わなければその出願は取り下げられたとみなされる(特許審査マニュアル 4.8)。このため、フィリピン国内で出願の公開はされる(特許審査マニュアル4.11)が、フィリピン国内段階出願の公開日は、審査請求期限の起算日ではない。

条文等根拠:知的財産法第44条第1項、知的財産法第48条、施行規則804

第44条 特許出願の公開
44.1 特許出願は、出願日又は優先日から18月を経過した後、庁により又は庁のために作成された先行技術を記載した文献を引用する調査書とともにIPO公報において公開する。

第48条 実体審査の請求
48.1 出願は、第41条の規定による公開の日から6月以内に当該出願が第21条から第27条まで及び第32条から第39条までに規定する要件を満たしているか否かを決定することを求める書面による請求を提出し、かつ、所定の期間内に手数料を納付しない限り、取り下げられたものとみなす。
48.2 審査請求の取下は遡及の効果を有さず、手数料は返還されない。

規則 804 実体審査請求
書面による実体審査請求は、対応する手数料の全額納付とともに、特許出願の公開日から6 月以内に行う。実体審査は、特許出願がIP法に規定する特許性の要件を満たしているか否かを決定するために実施される。出願人が実体審査請求を行わない場合及び所定の期間内に対応する手数料を納付しない場合は、出願は、取り下げられたものとする。実体審査請求は、一度行われると、取消不能である。その手数料は返還されない。

 日本の基礎出願について優先権を主張し、フィリピンに特許出願した場合には、以下のようになる。

日本とフィリピンにおける特許審査請求期限の比較

日本 フィリピン
審査請求期間 3年 6か月
起算日 日本の出願日 フィリピンの出願公開日

日本とフィリピンの特許の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する比較

1.日本の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長

(1) 特許出願に対する拒絶理由通知への応答期間
・出願人が在外者でない場合(国内出願人)は、意見書および補正書の提出期間は60日
・出願人が在外者である場合(外国出願人)は、意見書および補正書の提出期間は3か月

条文等根拠:特許法第50条、第17条の2第1項、方式審査便覧04.10 1.(2)ア、2.(2)ア

日本国特許法 第50条 拒絶理由の通知
審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし、第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあっては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)において、第五十三条第一項の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。

日本国特許法 第17条の2 願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面の補正
特許出願人は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面について補正をすることができる。ただし、第五十条の規定による通知を受けた後は、次に掲げる場合に限り、補正をすることができる。
一 第五十条(第百五十九条第二項(第百七十四条第二項において準用する場合を含む。)および第百六十三条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定による通知(以下この条において「拒絶理由通知」という。)を最初に受けた場合において、第五十条の規定により指定された期間内にするとき。
二 拒絶理由通知を受けた後第四十八条の七の規定による通知を受けた場合において、同条の規定により指定された期間内にするとき。
三 拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る第五十条の規定により指定された期間内にするとき。
四 拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にするとき。

方式審査便覧04.10 法定期間及び指定期間の取扱い
1.手続をする者が在外者でない場合
(2)次に掲げる書類等の提出についての指定期間は、特許及び実用新案に関しては60日、意匠(国際意匠登録出願における拒絶の通報に応答する場合を除く。)及び商標(国際商標登録出願における命令による手続補正書を提出する場合及び暫定的拒絶の通報に応答する場合を除く。)に関しては40日とする。ただし、手続をする者又はその代理人が、別表に掲げる地に居住する場合においては、特許及び実用新案に関しては60日を75日と、意匠及び商標に関しては40日を55日とする。
ア.意見書(特50条、商15条の2、15条の3第1項、商附則7条)
2.手続をする者が在外者である場合
(2)次に掲げる書類等の提出についての指定期間は1.(11)及び(12)を除き、3月とする。ただし、代理人だけでこれらの書類等を作成することができると認める場合には、1.(2)の期間とする。
ア.意見書(1.(2)ア.において同じ。)

(2) 特許出願に対する拒絶理由通知への応答期間の延長
・出願人が在外者でない場合(国内出願人)は、最大2か月まで延長可能
・出願人が在外者である場合(外国出願人)は、最大3か月まで延長可能
 (*特許庁「出願の手続」第二章 第十八節 IV指定期間の延長、https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/document/syutugan_tetuzuki/02_18.pdf

条文等根拠:特許法第5条第1項、方式審査便覧04.10 1.(16)ア、2.(12)ア、イ

日本国特許法第5条 期間の延長等
特許庁長官、審判長または審査官は、この法律の規定により手続をすべき期間を指定したときは、請求により又は職権で、その期間を延長することができる。
2審判長は、この法律の規定により期日を指定したときは、請求により又は職権で、その期日を変更することができる。

日本特許庁 方式審査便覧 04.10 1.(16)ア、2.(12)
1 手続をする者が在外者でない場合
(16) 次に掲げる特許法、実用新案法及び意匠法並びに特許登録令、実用新案登録令及び意匠登録令の手続の指定期間については、指定期間内又は指定期間に2月を加えた期間内の請求により、2月延長することができる。ただし、指定期間内に延長請求した場合には、指定期間経過後の再度の延長請求を行うことはできない。
ア.(2)ア.の意見書(特50条及び意19条の規定によるものに限る。)ただし、当初の指定期間内に意見書を提出した場合又は特許法第17条の2第1項第1号又は第3号に基づく補正を行った場合については、指定期間経過後の延長請求を行うことはできない。
2 手続をする者が在外者である場合
(12) 特許法第50条の規定による意見書の提出についての指定期間は、請求により延長することができる。延長する期間は以下のとおりとする。
ア.指定期間内の延長請求は、1回目の請求により2月延長し、2回目の請求により1月延長することができる。
イ.指定期間経過後の延長請求は、指定期間に2月を加えた期間内の請求により2月延長することができる。ただし、指定期間内に延長請求した場合には、指定期間経過後の再度の延長請求を行うことはできない。
また、当初の指定期間内に意見書を提出した場合又は特許法第17条の2第1項第1号又は第3号に基づく補正を行った場合については、指定期間経過後の延長請求を行うことはできない。

2.フィリピンの実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間延長

(1) 特許出願に対する拒絶理由通知への応答期間
・拒絶理由通知書への応答期間は通常2か月以内

条文等根拠:規則928(a)

規則928. 期限内に応答しなかった場合の申請の取り下げ
(a) 申請者には、特許庁通知の郵送日から最長2か月の応答を提出する期間が与えられる。出願人が本規則に定められた期間内に出願を遂行しなかった場合、出願は取り下げられたものとみなされる。かかる応答がなかった場合には、出願取下げ通知が出願人に郵送されるものとする。

(2) 特許出願に対する拒絶理由通知への応答期間の延長
・拒絶理由通知書への応答期間の延長は、正当な理由が認められた時、最大2か月の延長が認められる。

条文等根拠:規則928(b)

規則928. 期限内に応答しなかった場合の申請の取り下げ
(b) 応答時間は、正当かつ十分な理由があり、指定された合理的な期間に限り延長することができる。かかる延長の申請は、申請者の返答期限日までに提出しなければならない。審査官は、最大2か月の延長申請を1回のみ認めることができる。

日本とフィリピンでの、特許出願の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する比較

日本 フィリピン
応答期間 60日(在外者でない場合)
3か月(在外者の場合)
2か月
応答期間の延長の可否
延長可能期間 最大2か月(在外者でない場合)
最大3か月(在外者の場合)
最大2か月

フィリピンにおける特許、実用新案、および意匠の年金/更新制度の概要

1.特許権
 フィリピンにおける特許権の権利期間は、出願日(PCTに基づく特許出願の場合は国際特許出願日)から20年である(知的財産法第54条)。年金は、PCT出願の場合は国際公開日、フィリピンへの直接出願あるいはパリ条約による優先権を主張した出願の場合はフィリピン国内での公開日を起算日として5年次から発生し、特許出願が登録されたかどうかに関わらず、出願の係属中であれば納付を行う必要がある(知的財産法 第55条、2022年特許・実用新案・意匠に関する改正施行規則(以下、施行規則という)1100、1101)。

 請求項の数が5を超える場合は超過料金を納付する必要がある(施行規則1100および審査マニュアル1.6.1)。年金はフィリピン国内に在住する者のみが支払うことができる(知的財産法第33条)。

 納付期限日までに年金の納付が行われなかった場合、フィリピン知的財産庁よりその旨が電子公報に公告され、出願人、権利者もしくはフィリピン国内に在住する代理人に通知される。当該公告日から6か月以内であれば、年金の追納が可能である。追納期間中に、所定の年金費用、追徴金および公告費用、加えて該当する場合はクレーム超過費用を同時に支払う必要がある(施行規則1102)。

 上記の通り、追納期間経過までに年金を納めない場合、出願または特許権は失効し、回復されない(施行規則1100、1102、知的財産法第55.2条)。特許権を権利放棄したい場合は、所定の宣誓書をフィリピン知的財産庁に提出することにより、放棄手続を行うことも可能である(知的財産法第56.1条、施行規則1206)。また、取下宣言書を提出し出願を取下げることもできるが、任意に取下げられた出願は、回復されず、権利放棄したとみなされる(施行規則930)。

参考:年金納付Form https://drive.google.com/file/d/14W5sbeT2jKFisa0zzBRd274lw5o3Pmtj/view

2.実用新案権
 実用新案権の権利期間は出願日から7年であり、更新することはできない(知的財産法第109.3条、規則1415)。また、特許権のような年金納付は不要であるが、出願時に公告手数料の納付が必要となる(知的財産法第109条、規則1404,1407,1411)。

 実用新案の権利を放棄したい場合は、所定の宣誓書をフィリピン知的財産庁に提出することにより放棄手続が可能である(知的財産法第108条に基づく第56.1条)。また、取下宣言書を提出し出願を取下げることもできるが、任意に取下げられた出願は、回復されず権利放棄したものとみなされる(規則1414)。

3.意匠権
 意匠権の権利期間は出願日から15年である。まず、意匠権が登録になると出願日を起算日として5年の権利期間が与えられる。その後、6年次前と11年次前に更新手数料の納付を行うことで、合計で最長15年の権利期間を得ることができる。更新手数料は登録期間満了前12月以内に納付しなければならない(知的財産法第118条、規則1518、1519)。更新手数料はフィリピンに在住する者のみが支払うことができる(知的財産法第33条)。

 納付期限までに更新手数料の納付が行われなかった場合、納付期限日から6か月以内であれば追納が可能である(知的財産法第118条、規則1519)。追納期間中は、所定の更新手数料と追徴金を同時に支払う必要がある。特許と同様、更新手数料の未納により失効した意匠権の回復制度は存在しないため、注意が必要である。

 上記の通り、追納期間経過までに更新手数料を納付しない場合、意匠権は失効する。権利を放棄したい旨を記した宣誓書をフィリピン知的財産庁に提出することにより、放棄手続を行うことも可能である(知的財産法第119条に基づく第56条)。取下宣言書の提出により、任意に取下げられた出願については、権利の回復を行うことはできない(規則1515、1517)。

参考:更新手数料納付Form https://drive.google.com/file/d/1tdZy_-N4KAPFPONFpdtZ63fLJ3-0y4dJ/view

4.その他
 フィリピン知的財産庁側に過失がなく支払われた全ての料金および超過料金は、返金されない。ただし、フィリピン知的財産庁側に過失がある場合は、納付日から30日以内に、返金を請求することができる。納付を行った日から30日を経過した後や、返金請求の理由が妥当ではない場合は返金されないため、注意が必要である(図1の赤線で囲んであるフィリピン知的財産庁(IPOPHL)サイトの「Online Payment FAQs」(https://www.ipophil.gov.ph/help-and-support/online-payment-faqs/)の「How do I request for reversal of payment, credit card refund or Error or Mistake in Payment?」の項目を参照)。なお、フィリピン知的財産庁(IPOPHL)のHPは、アンチウィルスソフトによっては閲覧不可と表示される場合がある。

図1 IPOPHL 「Online Payment FAQs」画面

フィリピンにおける特許制度のまとめ-手続編

1.特許出願および実用新案登録出願に必要な書類
 知的財産法第32条、第108条第1項に規定されるように、特許出願や実用新案登録出願は、フィリピン語または英語でなければならず、かつ、特許の付与を求める願書、発明の明細書、発明の理解に必要な図面、1以上のクレーム、要約を含まなければならない。

関連記事:
「フィリピンにおける特許出願制度概要」(2019.07.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17565/
「フィリピンにおける実用新案登録出願制度概要」(2019.07.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17567/
「日本とフィリピンにおける特許出願書類の比較」(2015.09.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/9413/

2.記載が認められるクレーム形式
 発明に関する規則415(d)に規定されるように、クレームは、明細書に記載する発明と一致しなければならない。また、クレームで用いる語句については、明細書中に明確な裏付または先例を記載して、当該明細書を参照することによりクレームの用語の意味を確認することができるようにしなければならない。絶対に必要な場合を除き、発明の技術的特徴に関してクレームが明細書または図面を引用することがあってはならない。特に、「明細書第xxx部に記載したように」または「図面第xxx図に例示したように」等の引用をしてはならない。
 また、発明に関する規則415(c)に規定されるように、多項従属クレーム(マルチクレーム)は、他の多項従属クレームの基礎としてはならない。
 また、発明に関する規則416に規定されるように、適切な場合、クレームには次の(a)~ (c)のものを含める。
(a) 発明の主題を指定する記述、およびクレームする主題の定義のために必要とするが、組み合わせると先行技術の一部をなす技術的特徴を示す文言
(b) (a)にいう特徴との組合せで保護を求める技術的特徴を、「を特徴とする」または「によって特徴付けられる」との表現を先行させて記述した特徴付けの部分、および
(c) 出願に図面が含まれる場合に、クレームを理解しやすくするときは、クレームに記載した技術的特徴の後に、これらの特徴と関連付ける参照記号を括弧に入れて付すことが望ましい。これらの参照記号は、クレームを限定するとは解されない。

関連記事:
「フィリピンにおける特許出願制度概要」(2019.07.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17565/
「フィリピンにおける実用新案登録出願制度概要」(2019.07.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17567/
「フィリピンにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16395/
「フィリピンにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈について」(2017.05.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13691/

3.特許出願および実用新案登録出願の言語
 知的財産法第32条、第108条第1項に規定されるように、特許出願や実用新案登録出願は、フィリピン語または英語でなければならない。

関連記事:
「フィリピンにおける特許出願制度概要」(2019.07.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17565/
「フィリピンにおける実用新案登録出願制度概要」(2019.07.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17567/
「日本とフィリピンにおける特許出願書類の比較」(2015.09.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/9413/

4.グレースピリオド
 知的財産法第25条に規定されるように、当該出願の出願日または優先日の前12月の間における当該出願に含まれている情報の開示は、(1) その開示が当該発明者によってなされた場合、(2) 特許庁によってなされ、当該情報が、当該発明者がした別の出願に記載され、かつ、当該庁によって開示されるべきではなかったかまたは当該発明者から直接または間接に当該情報を得た第三者により当該発明者の認識もしくは同意なしになされた出願に記載されている場合、または、(3) その開示が当該発明者から直接または間接に当該情報を得た第三者によってなされた場合に該当するときは新規性を失わないものとする。

関連記事:
「フィリピンにおける特許発明の新規性喪失の例外」(2017.06.01)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/13772/

5.審査および年金制度について
5-1.特許出願の実体審査
 知的財産法第48条に規定されるように、特許出願の実体審査の請求書は、対応する手数料とともに、特許出願の出願公開の日から6月以内に提出されなければならない。

5-2.早期審査(優先審査)
5-2-1.特許審査ハイウェイ
 フィリピン知的財産庁は、日本国特許庁(JPO)、米国特許商標庁(USPTO)、韓国特許庁(KIPO)、欧州特許庁(EPO)と、特許審査ハイウェイプログラムを実施している。
 フィリピン知的財産庁において特許審査ハイウェイを申請するためには、特許審査ハイウェイのリクエストフォーム、当該リクエストフォームに含まれているクレーム対応表、ガイドラインに記載されている他の関連文書を提出する必要がある。

5-2-2. ASEAN特許審査協力プログラム
 ASEAN特許審査協力プログラム(以下「ASPECプログラム」という。)は、参加地域の特許庁間で特許調査および審査結果を共有することによって業務の効率化を図る制度であり、加盟国は、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイおよびベトナムの9か国である。
 ASPECプログラムを申請するためには、ASPECリクエストフォームおよびクレーム対応表と、ASPECプログラムに参加する知財庁の対応する出願における、少なくとも1つのクレームが許可または特許可能であることを示す、特許付与、または、サーチおよび審査の結果を提出する必要がある。

5-3.出願の維持
特許維持年金(Philippine Pesos)
(参照:フィリピン知的財産庁より「SCHEDULE OF FEES ON PATENTS」https://www.ipophil.gov.ph/services/schedule-of-fees/patents/

年度(公開日より) 小規模企業 大規模企業
5 1,550.00 3,240.00
6 2,000.00 4,320.00
7 2,580.00 5,400.00
8 3,100.00 6,480.00
9 4,140.00 8,640.00
10 5,170.00 10,800.00
11 6,670.00 13,920.00
12 8,280.00 17,280.00
13 9,770.00 20,400.00
14 11,900.00 24,840.00
15 13,970.00 29,160.00
16 15,980.00 33,360.00
17 18,050.00 37,680.00
18 21,670.00 45,240.00
19 26,040.00 54,360.00
20 31,222.00 65,160.00
請求項の数が5を超える場合の1請求項毎の追加料金 210.00 420.00

関連記事:
「フィリピンにおける特許審査ハイウェイの実効性に関する調査研究」(2020.03.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18368/
「フィリピンにおける特許出願制度概要」(2019.07.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17565/
「フィリピンにおける特許年金制度の概要」(2018.10.18)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15971/
「フィリピン知的財産権庁の特許審査体制」(2018.08.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15666/
「フィリピンにおける特許権早期取得のテクニック」(2016.05.09)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/11186/
「日本とフィリピンにおける特許審査請求期限の比較」(2015.08.28)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/9372/
「ASEAN特許審査協力(ASPEC)プログラム」(2022.07.26)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/24171/

6.特許出願から登録までのフローチャート
6-1.特許出願から登録までのフローチャート

6-2.フローチャートに関する簡単な説明
 特許出願後、知的財産法第42条および特許審査マニュアル2.1に規定されるように方式審査が行われ出願日が付与される。知的財産法第44条および第47条に規定されるように出願日または優先日から18月後、特許出願は、公衆の人々が発明の特許性についての所見を申し立てることができるようにするために、フィリピン知的財産庁の公報に公開される。特許性についての所見が申し立てられた場合、出願人にはその旨が通知され、出願人は見解を述べることができる。
 次に、知的財産法第48条に規定されるように特許出願の公開から6月以内に、出願人は所定の手数料を納付して審査請求を行う。これにより特許出願が実体審査される。審査官が拒絶理由を発見した場合、拒絶理由が通知される。知的財産法第50条に規定されるように審査官が拒絶理由を発見しないか、拒絶理由通知に対する出願人の応答によって拒絶理由が解消した場合、すべての手数料を所定の期間内に納付することを条件に特許が付与される。知的財産法第52条に規定されるように特許の付与は、他の関連する情報とともに公報によって公示される。

関連記事:
「フィリピンにおける特許出願制度概要」(2019.07.23)
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「フィリピンにおける実用新案登録出願制度概要」(2019.07.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17567/
「フィリピン知的財産権庁の特許審査体制」(2018.08.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15666/

[権利設定前の争いに関する手続]
7.拒絶査定不服申立
 2022 年特許・実用新案・意匠に関する改正施行規則(以下、施行規則という。)913に規定されているように、第2回目またはその後の審査もしくは審理において、審査官は拒絶または異論が確定されたと宣言することができる。その際の出願人の応答は、クレームの拒絶の場合は、局長に対し不服申立を行うことができる。クレームの拒絶を伴わない異論の場合は、局長に申請することができる。
 また、施行規則905に規定されているように、出願人は、拒絶の確定通知の郵送日から2月以内(延長不可)に、特許局長へ不服申立を行うことができる。

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8.権利設定前の異議申立
 施行規則803に規定されるように、特許出願の公開日または出願人が行った実体審査請求の日のいずれか遅い期日から6月以内に、何人も、関連先行技術を引用して、新規性、進歩性、産業上の利用可能性に関する事項を含む、その発明の特許性について、書面により意見を表明することができる。出願人は、当該意見について見解を述べることができる。意見、見解、協議における討議は、当該特許出願の審査において考慮される。

関連記事:
「フィリピンにおける特許出願制度概要」(2019.07.23)
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9.上記7の判断に対する不服申立
 施行規則1308および1309に規定されるように、特許局長の決定が審査官による拒絶を支持する場合、出願人は特許局長の決定を受領してから1月以内であれば長官に不服申立できる。不服申立人は、不服申立の通知の提出日から30日以内に、その不服申立を維持するための論拠および主張の準備書面を提出する。
 また、施行規則1311に規定されるように、特許局長の決定を覆し出願を認める長官の決定は、直ちに確定される。これに対して、知的財産庁長官の決定が出願を拒絶する特許局長の決定を支持する場合、出願人は、15日以内に上訴裁判所へ上訴することができる(不服申立てに関する改正統一法(庁命令No.41/2020年)11条)。

関連記事:
「フィリピンにおける特許出願制度概要」(2019.07.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17565/

[権利設定後の争いに関する手続]
10.権利設定後の異議申立
 権利設定後の異議申立制度はない。

11.設定された特許権に対して権利の無効を申し立てる制度
 当事者系手続に関する規則3第1条(a)に規定されるように、利害関係人は、発明としてクレームされているものが特許性を有していないものであること、特許が当該技術の熟練者が実施することができる程十分に明確かつ完全な方法では当該発明を開示していないこと、特許が公序良俗に反すること、または特許に出願当時の出願に記載された開示の範囲にない事項が含まれていることを理由として、特許またはその何れかのクレームもしくはクレームの一部の取消を申請することができる。
 また、当事者系手続に関する規則3第1条(b)に規定されるように、裁判所の最終命令または決定により特許について権利を有すると宣言された者は、決定が確定した後3月以内に、既に発行されている特許の取消を求めることができる。
 申請書は書面によるものでなければならず、認証され、かつフォーラムショッピング(申請者に有利な管轄地の選択)がないことの証明書(certification of non-forum shopping)が添付されていなければならない。申請者は、記録されている被申請者または代表者/代理人への送達の証明とともに、申請書の原本のみを提出する。申請書には、次のものが記載されている必要がある。
(1) 申請者、および被申請者を含むその他の当事者の氏名および住所
(2) 取消を求められた特許、実用新案の登録番号、登録者の名称、および登録日
(3) 申請者の1つまたは複数の訴因および求められる救済を構成する事実。
 申請者は、フィリピンの弁護士の委任状、および適切にマークされた証拠の宣誓供述書、文書または客観的証拠を申請書に添付しなければならず、英語以外の文書については英語の翻訳を添付する必要がある。フィリピン国外で作成された文書については、アポスティーユ(公的認証)されているか、領事認証されている必要がある。

関連記事:
「フィリピンにおける特許、実用新案および意匠の無効手続を管轄する組織並びに統計データ」(2018.08.09)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/15646/

12.権利設定後の権利範囲の修正
 施行規則1209によると、特許の所有者は、当該特許により与えられている保護の範囲を限定すること、明白な錯誤を訂正しまたは事務的な誤りを訂正すること、および、善意でした錯誤または誤りを訂正することを目的として、特許に変更を施すことを特許局に請求する権利を有する。
 また、施行規則1210によると、特許の補正または訂正は、庁の印章により認証されて特許局長が署名した補正または訂正の証明書を伴わなければならず、その証明書は、当該特許証に添付するものとする。補正または訂正は、IPOPHL 電子公報において公告し、庁が交付する特許の謄本は、補正または訂正の証明書の謄本を含むものとする。

13.その他の制度
 特許権侵害事件において、被告は、特許が無効であるという答弁または反訴を行うことができる。フィリピン知的財産庁より発行された特許証は、矛盾するか、同じものが無効の方法で発行されたことを示す他の証拠によって克服されない限り、有効であると推定される。

関連記事:
「フィリピンにおける知的財産権エンフォースメント」(2020.01.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/18187/
「フィリピンにおける産業財産権侵害対策」(2013.09.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/4462/

フィリピンにおける商標公報の調べ方

1.IPOPHL「Publication」
(1) 図1に示すIPOPHLのhttps://www.ipophil.gov.ph/の画面の「Service」のプルダウンメニューから「Trademark」にポインターをあわせ「Publication」を選択しクリックすると図2の画面が表示される。

図1:フィリピン知的財産庁 トップ画面

(2) 図2の確認したい公報発行日をクリックすると図3の画面が表示される。

図2:e-Gazette Trademarks トップ画面(2023年7月10日現在)

(3) 図3の画面の「Full Data」をクリックすると図4aから図4cの画面が表示される。発行日から該当する公報を閲覧することはできるが、検索機能はない。2023年7月現在、公報の情報は発行日2004年12月17日(図5)から現在まで確認することができる。

図3:TABLE OF CONTENTS画面(発行日2023年7月10日)

図4a:目次画面

図4b:公報リスト画面

図4c:案件詳細画面

図5:e-Gazette Trademarks 最終ページ画面

(4) 発行日が2013年1月7日以降の公報については、図4cの画面のように商標(Image)も確認することができる。発行日が2012年12月3日以前の公報は、「LIST」のみが表示され(図6)、クリックするとリストが表示される(図7a、7b)。

図6:TABLE OF CONTNTS画面(発行日2012年12月3日)

図7a:LIST画面(発行日2012年12月3日)

図7b:LIST画面(発行日2004年12月17日)

2.WIPO「Global Brand Database」
 WIPOが提供する「Global Brand Database」においても、フィリピン知的財産庁の商標に関する情報を検索できる。

(1) 図8に示すIPOPHLのhttps://www.ipophil.gov.ph/の画面の「Service」のプルダウンメニューから「Trademark」にポインターをあわせ「Trademark Search (Global Brand Database)」を選択しクリックすると図9の画面が表示される。
 右上の「DATA COVERRAGE-IPOPHL(PH)」タブをクリックすると、フィリピン商標の収録開始時と、その時点で収録されている件数が表示される(図10)。1900年1月1日からのフィリピン商標が、2023年6月28日時点で624,958件収録されている。

図8:フィリピン知的財産庁 トップ画面

図9:Global Brand Database(IPOPHL) トップ画面

図10:フィリピン商標の収録件数 表示画面

 「Global Brand Database」のトップ画面(図9)の「QUICK SEARCH」、「BY BRAND NAME」、「BY BRAND LOGO」、「BY GOODS AND SERVICE」、「ADVANCED SEARCH」のタブから、各種検索をすることができる。ただし、「ADVANCED SEARCH」は開発中のベータ版とされているので、ここでの説明は省略する。
 なお、この画面からの検索では検索対象とされる商標が、最初からフィリピン商標に限定されるため、対象国をフィリピンに限定する操作をしなくても、検索結果は全てフィリピン商標となる。
 また、トップ画面の「DATA COVERAGE – IPOPHL(PH)」をクリックすると、同データベースに収録されているフィリピン商標の収録件数表示画面(図10)が表示される。

(2) 「QUICK SEARCH」検索
 「QUICK SEARCH」タブをクリックすると図11に示す画面が表示される。検索項目として「Brand Name」、「Owner」、「Number」、「Combined」がある。例えば、「Brand Name」で「APPLE」と検索すると、図12に示す結果が表示される。さらに太字で表示されるブランド名をクリックすると、その商標の詳細な情報が表示される。例えば、最初に表示されている「APPLE AND APPLE」をクリックすると図13に示す結果が表示される。

図11:「QUICK SEARCH」 トップ画面

図12:「Brand Name」を「APPLE」として検索した結果の画面

図13:ブランド名「APPLE AND APPLE」なる商標の詳細情報画面

(3) 「BY BRAND NAME」検索
 「BY BRAND NAME」タブをクリックすると図14に示す画面が表示される。検索項目として「Brand name」、「Owner name」、「Nice classification」、「Goods and services」があり、それぞれ指定することができる。また、「Brand name」は、「Search strategy」のオプションとして「Embedded」(結果にその用語が含まれる検索)、「Fuzzy」(あいまい検索)、「Phonetic」(称呼検索)、「Stemming」(要部抽出検索)のいずれかを指定することができる。例えば、「Brand Name」を「APPLE」とし「Search strategy」を「Fuzzy」で検索すると、図15に示す結果が表示される。

図14:「BY BRAND NAME」 トップ画面

図15:「Brand Name」を「APPLE」、「Search strategy」を「Fuzzy」として検索した結果の画面

(4) 「BY BRAND LOGO」検索
 「BY BRAND LOGO」タブをクリックすると図16に示す画面が表示される。検索項目として「Drag & drop your image here, or Browse」、「Vienna classification」、「US designs classification」、「Owner name」、「Designation country」、「Nice classification」、「Goods and services」があり、それぞれ指定することができる。「Drag & drop your image here, or Browse」ボックスに、検索したいロゴをドラッグして貼り付けるか、またはブラウザからアップロードすると、右横に「Search strategy」が表示され、「Conceptual similarity」(一致する類似概念をAIによって決定する解析)、「Shape similarity」(色彩を無視した、類似した輪郭の解析)、「Color similarity」(類似した色彩分布の解析)、「Composite similarity」(色彩と輪郭情報に基づいた複合解析)のいずれかを指定することができる。
 例えば、ヒヨコのロゴをアップデートすると図17の画面が表示され、「Search strategy」を「Conceptual similarity」として検索すると、図18に示す結果が表示される。

図16:「BY BRAND LOGO」 トップ画面

図17:「BY BRAND LOGO」においてヒヨコのロゴをアップロードした画面

図18:「Drag & drop your image here, or Browse」」の欄にヒヨコのロゴをアップロードして検索した結果の画面

(5) 「BY GOODS AND SERVICES」検索
 「BY GOODS AND SERVICES」タブをクリックすると図19に示す画面が表示される。「Goods and services」ボックスに商品・役務を入力し、必要に応じて「Match exact expression」ボックスで完全一致とすること、また「Only records younger than …」ボックスで検索期間を指定することができる。例えば、「Goods and services」ボックスに商品名称として「Beer」を入力して検索すると、図20に示す結果が表示される。

図19:「BY GOODS AND SERVICES」 トップ画面

図20:「Goods and services」を「Beer」とした検索結果の画面