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ペルーにおける商標制度概要

1. 商標に関する法令
 ペルーにおける商標保護は、2000年12月1日に発効した「アンデス共同体決議第486号(産業財産に関する一般規定(以下「決議486」という。))」に加え、2009年2月2日に発効した「アンデス共同体決議第486号の補足規定を承認する法令第1075号(産業財産法)」の規定に従って付与される。なお、同法は「法令第1397号」による改正が2018年9月7日に施行されたことから、本稿では、同改正後の産業財産法(以下「法」という。)(稿末記載の【ソース】(3))に基づき説明する。
 さらにペルーは、多国間条約として、1929年一般米州商標・商業保護ワシントン条約(1937年3月25日加盟)、パリ条約(1995年1月11日加盟)、商標法条約(TLT)(2009年11月6日加盟)、環太平洋パートナーシップ協定(2021年9月19日発効)、ニース協定(2022年10月18日加盟)の加盟国であり、前記アンデス共同体の1996年創設メンバーである。なお、マドリッド・プロトコールには、執筆時点では加盟していない。

 ペルーは「先願主義」を採用している(決議486第136条(a)および第154条、法第6条)。なお、商標の登録を得ることは、いかなる商品または役務に関しても法的義務ではない。

 「Marca Registrada」(スペイン語で登録商標を意味する)、または他の登録商標を表す略語等の表示は、登録していない商標とともに使用することが禁じられている(法「最終補足規定」第2)。

2. 商標の種類
2.1. 保護可能な商標の種類
 決議486には「市場において商品や役務を識別することができる標章は、商標の構成要素となる。図的表現が可能な標章は商標として登録ができる。」と定義され(決議486第134条)、伝統的商標はもちろん、非伝統的商標も、概ね産業財産法上の保護対象として認められる。具体的には、言葉、図案などの伝統的商標の例示に加え、音、匂い、立体、色彩および色彩の組み合わせが例示され、アンデス共同体商標審査便覧(以下「便覧」という。)には、位置商標(便覧1.2.2.3)、動き商標(便覧1.2.2.4)、触感の商標(便覧1.2.2.7)の非伝統的商標も、商標として登録可能であるとされている。

 通常の商標(商品、役務)に加えて、団体商標(決議486、題目VIII)、証明商標(決議486、題目IX)も登録可能である。

2.2. 登録できない商標
 決議486第135条には、登録できない商標として以下が規定されている。公序良俗に反する商標(同条(p)項)、一般名称(同条(f)項)、使用により獲得された識別力を証明できない識別力のない商標(同条(b)項、同条最終段落)、保護されている原産地名称を複製・模倣・包含し、需要者にそれを混同・連想させ、または、その評判を悪用する商標(同条(j)項)。
 また、決議486第136条には、登録できない商標として、使用により第三者の権利を不当に害する商標が列挙されており、例えば、同一の商品・役務またはその使用が混同もしくは連想を生じさせるおそれがある商品・役務について、第三者により先に出願もしくは登録された商標と同一または類似している商標(同条(a)項)、伝統的識別標識(同条(g)項:先住民等の名称、商品名等)などが規定されている。

3. 分類について
 分類については、商品および役務にニース国際分類の最新版を採用することが規定されている(決議486第151条)。

 ペルーは1つの出願に複数分類(多区分)を指定することのできる、一出願多区分制を採用しており、同一商標に関して、異なる商品・役務を対象とすることを条件に新たな出願を提出することも可能である(法第58条、便覧1.4.5.1)。

 登録前のあらゆる時点において、出願人またはその代理人が請求することにより、料金の納付をもって、1つの出願を複数の出願に分割することができる(法第59条)。また、登録商標が複数の商品・役務を含む場合、当該商品・役務を分割して、2以上の複数の登録にすることができる(法第70条)。

4. 出願時に要求される情報および書類
 以下の情報および書類が出願時に求められる(法第50条および第51条)。
・出願人の名称および住所
・出願人の国籍または居所。出願人が法人の場合は、その所在地。
・指定商品または役務および国際分類
・商標見本(5×5cm、出願商標が立体の場合は、正面図、背面図、側面図、平面図および底面図。音商標の場合は、楽譜などの写実的表現およびその音を収録したCD。)
・法定出願料
・代理人委任状(公証人等による認証は必要ない。出願の提出時には必須ではないが、特許庁から指令を受領した日から60就業日以内に提出しなければならない。)

 優先権が主張されている場合は、下記も必要となる。
・外国基礎出願の出願番号および出願日。優先権証明書は、外国基礎出願の出願日から9ヵ月以内に提出しなければならない(便覧1.5.5)。
・出願人の本国がパリ条約の加盟国である場合、優先権主張により、自己の本国出願の出願日はペルーにおける出願日とみなされる。ただし、当該本国出願が、ペルーにおける出願より前6ヵ月以内に提出されていることを条件とする(法第19条(b))。

 商標出願は、書面またはオンラインにより提出することができる。

5. 審査手続
 代理人委任状とともに商標出願書が提出された後、特許庁は最初の15就業日間に方式審査を行い、すべてが適正である場合(代理人委任状、指定商品または指定役務、分類等)、当該出願は異議申立のために公告される。方式審査が不適正である場合は、出願人に通知され、通知日から60就業日以内に補正しなければならない。依然として不適正な場合は、10就業日(10就業日を1回延長可能)以内に補正または説明を求める通知が発せられる(決議486第144条、法第52A条、法第52B条)。

 正当な利害関係者は、公告日から30就業日以内に異議申立を提出することができ、理由についてはさらに30就業日以内に補充することができる(決議486第146条)。

 異議申立がなければ、当該出願は実体審査に回され、絶対的拒絶理由および相対的拒絶理由に関して審査される(決議486第150条)。実体審査には1ヵ月前後を要する。出願が実体審査を通過した場合、権利付与日から10年間にわたる登録が与えられる。現在、すべてが適正である場合、ペルーで商標登録を取得するまでの期間は、出願日から最短で45就業日(約2ヵ月)である。

6. 登録証の発行
 すべての要件が適正である場合、特許庁が当該商標の登録を認可する決定を下した後、デジタル署名を付したデジタル登録証が発行される。また、当該登録証は、出願人またはその現地代理人が印刷できるようになる(法第7条)。
 デジタル登録証の発行に関して、手数料納付は不要である。なお、追加手数料を納付することで、従来の紙の登録証が交付される。

7. 登録および更新
 商標登録は、権利付与日から10年間にわたり有効である。登録はさらに10年間毎に更新できる(決議486第152条)。

 更新出願は、満了前の6ヵ月の法定期間内に、または満了日後の6ヵ月の法定猶予期間内に提出することができる(決議486第153条)。商標登録を更新するために、登録対象の指定商品または指定役務に関して、当該商標の使用を証明する必要はない。

 代理人委任状(コピーでもよい)を更新出願に添付する必要がある。なお、先行する5年以内に他の申請において提出された代理人委任状を援用することができる。

 さらに、特許庁より発行された更新料の支払いを証明する受領書を更新出願に添付しなければならない。更新出願が6ヵ月の猶予期間内に提出される場合、追加料金を支払う必要はない。

8. 商標の使用
 登録商標に対し取消手続が開始され、その開始日に先立って継続して3年間(ただし、権利付与の決定が出願人またはその現地代理人に通知された日から3年が経過するまでは取消手続を開始することはできない。)、当該商標が正当な理由なくアンデス共同体加盟国(ボリビア、コロンビア、エクアドルまたはペルー)のいずれの国においても、登録対象のすべての商品または役務に関して使用されなかった場合、当該商標登録は、利害関係者から不使用取消請求により取り消されるおそれがある(決議486第165条)。

 なお、次に示す行為も使用とみなされる(決議486第165条、第166条)。
・当該商標の識別性には影響を及ぼさない範囲で異なる形態による登録商標の使用
・アンデス共同体加盟国からの輸出のみを目的とした商品またはそのパッケージへの当該商標の使用
・商標権者の同意を得た当該商標の使用

 上記の期間内に、上記のいずれかのアンデス共同体加盟国内において、一部の商品または役務に関してのみ当該商標が使用されていた場合には、当該商標登録は第三者の不使用取消請求により不使用の商品または役務は取り消され、実際に使用された商品または役務のみが維持される(決議486第165条)。

9. 登録の無効
 商標登録の全部または一部に対し、無効宣告がなされる場合がある。

 商標登録が商標を構成しない標章、または商標とはみなされない標章に対して付与された場合には、特許庁は、職権によりまたは当事者の請求により、いつでも当該登録の絶対的無効(公序良俗違反などのような当事者以外の者でも主張できる)を宣告することができる(決議486第172条)。

 商標登録が第三者の権利を不当に害する標章に対して付与された場合、または悪意により取得された場合には、特許庁は、職権によりまたは当事者の請求により、当該登録の相対的無効(類似商標の所有者などの当事者以外の者では主張できない)を宣告することができる。この措置は、問題となる登録の権利付与日から5年が経過した後は禁止される(決議486第172条第2段落)。

 上記の措置により、登録が無効とされた場合においても、国内法に基づき損害賠償請求を提起することは可能である(決議486第172条第3段落)。

 商標の登録対象である商品または役務の一部だけに、無効理由が該当する場合には、当該商品または役務に関してのみ無効が宣告され、当該商品または役務が当該商標登録から削除される(決議486第172条最終段落)。

10. 委任状について
 ペルー特許庁が求める委任状は、原則、公証のない私的証書が認められる。ただし、法人の場合は、署名者の地位または権原が記録されていなければならない。また、登録放棄の場合、委任状の署名は公証されなければならない(法第15条)。日本でなされた公証は、ハーグ条約に基づくアポスティーユを付さなければならない。