ニュージーランド商標制度概要
ニュージーランドにおける商標保護は、2003年8月20日に施行された2002年商標法(2002年第49号)および2003年商標規則(2003/187)(以下、規則)の規定にしたがって付与される。
2002年商標法は、2003年商標改正法(2003年第100号)、2005年商標改正法(2005年第116号)、2011年商標改正法(2011年第71号)、2012年商標改正法(2012年第20号)、2013年特許法2013による改正(2013年第68号)、2016年環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定2018(the Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership Amendment Act 2018)による改正(2016年第90号)、2017年電子相互作用改革法2017(Electronic Interactions Reform Act 2017)による改正(2017年第50号)、2018年税関物品税法208(Customs and Excise Act 2018)による改正(2018年第4号)、2019年規制システム(経済開発)改正法2019(the Regulatory Systems (Economic Development) Amendment Act 2019)による改正(2019年第62号)などにより商標法が改正されている。このうち、2011年商標改正法により、マドリッドプロトコル(標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書)が2012年12月10日に、ニース協定が2013年10月16日に発効している。また、2019年改正により(2020年1月13日施行)、2020 年 1 月 13 日もしくはその後に商標権の存続期間が満了する商標権については商標登録更新期限の猶予期間が6か月に変更された。
ニュージーランドでは、2022年9月現在、2017年1月1日に発効したニース分類第11版を採用している。
ニュージーランドは「先使用主義」である。市場における商標の最初の使用者が、商標の真正な「所有者」または「所有権者」とみなされる。未登録商標の先使用者は、第三者により当該商標の出願がなされた場合には、当該出願の登録を阻止する、または既存の第三者の商標登録を取り消すことができる。
ニュージーランドにおいて、商標に関して準拠すべき他の法規範には、ニュージーランドの裁判所の判決および商標局長の決定が含まれる。その他の商標に影響を及ぼす法律としては、詐称通用および消費者保護に関する1986年公正取引法(The Fair Trading Act)
や2008年刑事情報開示法( the Criminal Disclosure Act)が挙げられる(「Enforcing」https://www.iponz.govt.nz/about-ip/trade-marks/enforcing/)。
1.保護可能な商標の種類
写実的に表現可能であり、商品または役務を他者のものと識別可能なあらゆる標識は、登録することができる(商標法第5条「商標」)。このようなものには、下記が含まれる(商標法第5条「標識」、Practice guidelines「Examination of trade mark applications」(https://www.iponz.govt.nz/about-ip/trade-marks/practice-guidelines/current/examination-of-trade-mark-applications/#fn:15))。
・ブランド
・色彩:識別性のある色彩であることを条件とする(商標法第19条)。出願人は願書とともに、色彩見本、または広く認知され容易に入手可能な色標準(Pantone®カラーシステムの色見本帳など)による色彩の説明のうち、いずれか一方を提出しなければならない(規則42(b)、Practice guidelines「Examination of trade mark applications」「3.4.1 Colour marks」)。
・図形
・見出し
・ラベル
・文字:外国文字の場合は字訳の提出が必要である(規則44(e))。
・名称:標識が人の名称または表示を含んでいる場合、名前を含む本人またはその代理人からの同意書を提出する必要がある(商標法第23条、Practice guidelines「Names and Representations of Persons」「2.The name or representation of a person」)
・数字
・形状(立体商標も登録可能):出願人は願書とともに、当該商標のすべての特徴を明確に示す見本を提出しなければならない。この要件は通常、その形状の複数の角度からの図を提出することで満たされる(Practice guidelines「Examination of trade mark applications」「4.3.2 Shape marks」
・署名
・におい
・音:楽譜は、音商標を写実的に表現する手段として受け入れられる。その音を生み出すために使用された楽器が音商標の一部を構成する場合、その旨を明示しなければならない(規則42(b)、Practice guidelines「Examination of trade mark applications」4.3.3 Sound marks)。
・味
・チケット
・単語:外国語句の場合は翻訳の提出が必要である(規則44(f))。
・証明商標、団体商標およびシリーズ商標
・アニメーション、動画:動画を表示するには、一連の静止画像とともに、当該商標の内容およびその使用時の配列に関する説明書を提出する必要がある(規則42(b)、Practice guidelines「Examination of trade mark applications」「4.3.4 Animation or moving images」)。
ニュージーランド知的財産庁(IPONZ)が受領したすべての商標出願は、ニュージーランドの先住民であるマオリ人の標識を含んでいるかどうか、またはマオリ人の標識から派生したものかどうかが判断される(商標法第条17条(1)(c)、Practice guidelines「Examination of trade mark applications」「2.4 Māori trade marks」(https://www.iponz.govt.nz/about-ip/trade-marks/practice-guidelines/current/examination-of-trade-mark-applications/#jumpto-2__002e-examination1))。
2.採用分類
ニュージーランドは、世界知的所有権機関(WIPO)により公表されている2017年1月1日に発効した商品およびサービスに関する国際分類が詳述されたニース分類第11版を採用している(「Eleventh edition of the Nice Classification」https://www.iponz.govt.nz/news/eleventh-edition-of-the-nice-classification/)。
3.複数分類出願
単一の出願に1つまたはそれ以上の商品およびサービスに関する分類を含めることができる(規則43(1))。
4.出願時の必要書類および情報
出願は,出願時において次の情報を含んでいなければならない(規則42)。
(1) 出願人の名前および住所;共同出願の場合は、各出願人の名前および住所
(2) 商標の明瞭な表示
(3) 連続商標(1出願に商標のバリエーションが複数含まれるもの)の場合、その連続における各商標の明瞭な表示
(4) 求める登録の対象である商標およびサービス
(5) 出願人宛先に関する情報(電話番号、ファックス番号、eメールアドレス、代替宛先(代理人を選任している場合は、代理人の名前(ニュージーランドにおける送達先住所が必要である))。
5.優先権
ニュージーランドは、工業所有権の保護に関するパリ条約の加盟国である。パリ条約の第4条に従い、出願人は第一国出願の優先日を主張できるが、かかる後の出願が第一国出願から6か月以内に提出されることを条件とする(商標法第36条)。
優先権主張は、出願時または出願後2就業日以内に行われなければならず、その後の優先権主張は認められない(規則46)。
6.審査手続
すべての商標出願は、下記に示す商標法の要件を満たしているかどうか審査される(商標法第39条、規則41、Practice guidelines「Examination of trade mark applications」「2. Examination」https://www.iponz.govt.nz/about-ip/trade-marks/practice-guidelines/current/examination-of-trade-mark-applications/)。
(a) 出願が商標法の規定に従って行われている(商標法第13(2)(a))。
(b) 出願が必須の書類および情報を満たしている(規則41(1)(b)、規則44)。
(c) 優先権主張が要件にしたがって行われている(規則46、規則47)。
(d) 出願に関する所定の料金が支払われている(規則41(1)(a))。
(e) 絶対的拒絶理由*1または相対的拒絶理由*2が存在しない(商標法第13条(2)(c))。
*1:絶対的拒絶理由は、商標法第17条から第21条に規定されている。
*2:相対的拒絶理由は、商標法第22から第30条に規定されている。
審査は通常、出願日から40日以内に行われる(「Timeframes」Trade Marks「Correspondence」(https://www.iponz.govt.nz/support/timeframes/#jumpto-trade-marks1))。
商標法の要件を満たしていないと判断されたときは、拒絶理由通知(Compliance report)を発行し、出願人に応答または補正の機会が与えられる(商標法第41条、規則69(1))。なお、拒絶理由に対する応答期間は出願日から12か月以上の期限が与えられる(延長可)(規則61、規則62)。応答しない場合は放棄されたものとみなされる(商標法第44条(1))。
7.認可および異議申立
出願が商標法の要件を満たしている場合、その出願は許可される(商標法第40条)。許可された出願は、毎月1回、オンラインIPONZ商標公報において公告される(商標法第46条、「The Journal」(https://www.iponz.govt.nz/about-iponz/the-journal/))。
何人も、公告日から3か月以内に異議申立を行うことができる(規則75(1))。
異議申立書が提出された場合、出願人はその後2か月以内に答弁書を提出する(規則79)か、自己の商標出願を取り下げなければならない。異議申立の期限は出願人の同意なしに1か月および出願人の同意を得て2か月まで延長することができる(規則75(2))。出願人が当該2か月以内またはその延長期間内に答弁書を提出しない場合、その出願は取り下げられたものとみなされる(商標法第48条(2))。
異議申立手続が開始された場合、各当事者は証拠を提出することができ、かかる証拠は宣誓書とともに提出しなければならない(規則82、規則84、商標法第160条(1))。すべての証拠が提出され、正式なヒアリングが行われた後に、異議決定が下される(商標法第49条)。
ヒアリングの代わりに、提出された証拠のみに基づく異議決定を要求することができる(規則122、「Trade Mark Hearings」Opposition to registration of a trade mark「10. Hearing」(a)(https://www.iponz.govt.nz/about-ip/trade-marks/hearings/current-hearings/opposition/)。
費用の支払い命令を含む異議決定書が発行される(規則162、「Trade Mark Hearings」「Opposition to registration of a trade mark」「11. Assistant Commissioner’s written decision」(https://www.iponz.govt.nz/about-ip/trade-marks/hearings/current-hearings/opposition/))。異議決定を不服とする場合は、その決定の日から20就業日以内に不服申立を高等裁判所に提起することができる(商標法第5条「裁判所」(a)、第170条、第171条、「Trade Mark Hearings」「Opposition to registration of a trade mark」「12. Appeal」(https://www.iponz.govt.nz/about-ip/trade-marks/hearings/current-hearings/opposition/))。
8.登録および更新
商標登録存続期間は10年間である(商標法第57条(1))。存続期間は更新申請により延長できる。期限までに更新申請されない場合、その商標は登録簿から削除される(商標法第59条(6))。商標登録は、期限の12か月前以降および期限日6か月後まで更新することができる(商標法第59条(2)(a))。
9.商標の使用
登録日から連続する3年間にわたり使用されなかった場合、商標登録は取り消される可能性がある(商標法第66条(1)(a))。商標権者による商標の使用には、商標権者以外のライセンシーその他の者による使用も含まれる(規則96(1))*1。
*1:規則96(1)に「不使用を理由とする取消申請の対象である商標の所有者又はライセンシー(中略)当該申請に異議を申し立てることができる。」と記載されていることより使用者に含まれていると解すことができる。
10.取消
商標権者は、登録商標の取消通知を提出することにより商品またはサービスの全部または一部について抹消することができる(商標法第61条、規則113)。
このような自発取消は、紛争または不使用取消請求の後、和解の条件として行われる場合がある。
商標権者は、登録日後は登録商標の態様は、いかなる方法によっても変更することはできないが、登録簿における商標権者の名義または住所は変更することができる(商標法第77条、第78条(a))。
ニュージーランドにおけるマドリッド協定議定書の基礎商標の同一性の認証と商品・役務に関する審査の在り方
「マドリッド協定議定書の利用促進の観点からの調査研究報告書」(平成28年3月、日本国際知的財産保護協会)4.3.19、6.3.6(12)イ
(目次)
4 基礎商標の同一性の認証に関する文献調査結果
4.2 調査結果概要
4.2.3 各国別の調査結果一覧
表2 各国知的財産権庁からの調査票回答及び文献調査結果一覧表(5) P.40
4.3 各国の特徴
4.3.19 ニュージーランド P.241
6 商品・役務の審査について
6.1 調査方法 P.533
6.2 調査結果概要 P.535
6.3 主な指定国における商品・役務の表示に関する審査の傾向
6.3.6 その他の指定国について
(12) その他の国の例
イ ニュージーランド P.708