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マレーシアにおける「商標の使用」と使用証拠

1. 商標の使用
 マレーシア商標法(以下、「商標法」という。)は、「先使用主義」の原則を採用しており、商標の使用は、重要な意味を持っている。すなわち、業として使用されている未登録商標の使用者には、先の権利(商標法第24条(5))が与えられ、当該権利に基づき、後の第三者の出願商標に対して、登録拒絶(商標法第24条(4))、異議申立(商標法第24条(6))、裁判所への無効請求(商標法第47条(3)(b))が認められる。また、業として継続的に使用されている未登録商標が、登録商標の侵害を構成しない場合がある。(商標法第55条(2))

第24条 相対的登録拒絶理由
(4) (6)に従うことを条件として、マレーシアにおける出願に係る商標の使用が次のものにより妨げられる場合又はその範囲において、登録官は、当該商標の登録を拒絶する。
(a) 詐称通用の法令に基づく場合を含め、業として使用される登録されていない商標又はその他の標識を保護する法規範により、・・・
(5) 商標の使用を妨げる権利を有する者は、本法において、(4)にいう商標に関する「先の権利」の所有者という。
(6) 先の権利の所有者が、第35条に基づく登録に対する異議申立の手続において(4)に基づく理由を提起した場合は、登録官は、当該理由により商標の登録を拒絶することができる。
第47条 裁判所による登録の無効
(3) 裁判所は、被害者から申請があったときは、次の理由により、商標登録を無効と宣言することができる。
(b) 第24条(4)に基づく先の権利が存在すること
第55条 侵害とならない行為
(2) ・・・ある者又はある者及びその事業の前主が、登録商標と同一又は類似の登録されていない商標を、登録商標の登録に係る商品又はサービスと同一又は類似の商品又はサービスに関して、次の何れか早い方の日前の時点から業として継続的に使用している場合は、その者は、当該登録されていない商標をそれらの商品又はサービスに関して使用することにより、登録商標を侵害しない。
(a) 登録商標の登録日
(b) 登録所有者、事業の前主又は廃止法に基づく登録使用者であった者が、当該商標を最初 に使用した日

 ただし、未登録商標の侵害防止措置およびその損害賠償が認められるのは、詐称通用※1に対する措置に限られるので(商標法第159条)、商標を実質的に保護するためには出願および登録しておくことが重要である。
 ※1 詐称通用(パッシングオフ)とは、英国慣習法に起源を有し、被告の商品を原告の商品と偽って通用させる不法行為をいう。

第159条 登録されていない商標
(1) 何人も、登録されていない商標の侵害を防止し又はそれに対して損害賠償を受けるために訴訟を提起する権利を有さない。

 出願人が、特定の商標の登録を出願するためには、当該出願人が、当該商標を業として使用するか、または使用予定であるか、あるいは業として使用することを他人に許諾しているか、または許諾する予定である必要がある(商標法第17条(1))。ただし、出願時に使用証明を提出する必要はなく、登録商標を維持するために使用宣言書を提出する必要もない(JETRO報告書「マレーシアにおける商標制度・運用に係る実態調査」p.15 3.6)。

第17条 商標登録出願
(1) 次の場合は、商標の誠実な所有者であることを主張する者は、当該商標の登録を出願することができる。
(a) その者が、当該商標を業として使用しているか又は使用する予定である場合、又は
(b) その者が、当該商標を業として使用することを他人に許諾しているか又は許諾する予定である場合
JETRO報告書「マレーシアにおける商標制度・運用に係る実態調査」
3.コモンロー及びその他の法上の権利を踏まえたマレーシアにおける商標制度の理解
3.6 登録商標については、保護の対象は商標の使用そのものである。登録商標の所有者に与えられる権利は、登録された商品又はサービスについて商標を独占的に使用する権利又は他人に使用を許可する権利である(第48条)。登録商標の所有者として与えられる権利により、侵害とされる行為(第54条)を証明することにより侵害からの救済を得ることができる。(中略)商標登録のために、商標の使用又は使用意思に基づき出願(第17条)する場合でも出願時に使用証明を提出する必要はない。また、登録商標を維持するために使用宣誓書を提出する必要もない。

2. 商標法に規定された使用の態様
 使用の態様について、商標法第7条は以下のように規定している。

第7条 商標の使用への言及
(1) 商標の使用への言及は、当該商標の印刷その他の視覚的又は非視覚的表示の使用への言及と解釈される。
(2) 商品に関する商標の使用への言及は、商品自体への又は商品との物理的その他の関係における当該商標の使用への言及と解釈される。
(3) サービスに関する商標の使用への言及は、サービスに関する記述又は記述の一部としての当該商標の使用への言及と解釈される。
(4) 商標の聴覚表示は、当該商標の使用への言及と解釈される。
(5) ある者が追加又は変更を施した商標を使用した場合は、登録官又は裁判所は、当該追加又は変更が登録官又は裁判所が適当と考える商標の同一性に実質的に影響を及ぼさない場合は、その者が当該商標を使用したと決定することができる。

 商品またはサービス「に関する」の句は、商標が商品又はサービス自体に接して使用されることを必要としないことを示している。たとえば、商品に添付されたタグでの使用又は広告における使用は商品そのものにおける使用ではないが、商品に関する使用である(商標審査マニュアル4.26、4.28)。

商標審査マニュアル 4.26
商品又はサービス「に関する」の句は、商標が商品又はサービス自体に接して使用されることを必要としないことを示している。これは、「商品に関する標章の使用というときは、商品そのものへの又は商品との物理的関係における当該標章の使用をいうものと解する」旨を明示的に述べる第3条(2)(*)(a)により一層明確にされている。たとえば、商品に添付されたタグでの使用又は広告における使用は商品そのものにおける使用ではないが、商品に関する使用である。販売のための商品を現実に有さない広告が使用を構成するか否かの問題は、第13章で検討される。
商標審査マニュアル 4.28
第3条(2)(*)(c)は、サービスに関する標章の使用の要件を定めている。使用とは、サービスの利用可能性又は実行についての陳述又は陳述の一部であると解されている。これには、広告又はレターヘッド、業務用名刺若しくはパンフレット、リーフレット及び類似のものにおける使用が含まれる。
(*):旧商標法の条項番号(新商標法(2019年商標法)第7条に相当)

 商標のインターネット上の使用については、「インターネット上の標章及びその他の標識に係る工業所有権の保護規定に関する共同勧告(Joint Recommendation Concerning Provisions on the Protection of Marks, and Other Industrial Property Rights in Signs, on the Internet)」の規定を考慮することが定められている(商標規則6、JETRO報告書「マレーシアにおける商標制度・運用に係る実態調査」p.77-p.79 10.1.1)。

規則6 インターネット上の商標の使用
(1) インターネット上の標識又は商標の使用に関して、登録官又は裁判所は、商標法、本規則及び共同勧告の規定を考慮する。
(2) 本条規則において、「共同勧告」とは、2001年9月24日から10月3日までの第36回世界知的所有権機関加盟国総会で採択された、インターネット上の標章及びその他の標識に係る工業所有権の保護規定に関する共同勧告を意味する。

3. 不使用に伴う取消のリスク
 登録商標は、登録通知の交付日後に継続的に3年間使用されなかったことを理由として登録を取り消されることがある。不使用取消請求は、裁判所に提訴しなければならない。裁判所は、不服を有する者の申請により、商標登録を取り消すことができる。(商標法第46条(1)項、JETRO報告書「マレーシアにおける知的財産の審判等手続に関する調査」B. 審理機関と紛争解決手段 II. 紛争解決手段 2.1.1)。
 なお、商標の所有者が当該商標を使用することで取消は免れるが、当該所有者による、取消請求前の3か月以内の使用では、通常、取消は免れない(商標法第46条(2)、(3))。

第46条 商標の不使用に関する裁判所による登録の取消
(1) 裁判所は、被害者から申請があったときは、次の何れかの理由により、商標登録を取り消すことができる。(a) 登録通知の交付日から3年の期間内に、商標が、登録所有者により又はその同意を得て、商標の登録に係る商品又はサービスに関して、マレーシアにおいて誠実に使用されておらず、かつ、不使用の適切な理由が存在しない場合
(b) (a)に基づく商品又はサービスの使用が継続して3年の期間中断されており、かつ、不使用の適切な理由が存在しない場合
(中略)
(2) (3)に従うことを条件として、商標登録は、(1)(a)又は(b)にいう使用が、3年の期間の満了後であって取消申請が行われる前に開始又は再開された場合は、同号に基づく理由により取り消してはならない。
(3) 3年の期間の満了後であって取消申請が行われる前3月の期間内に開始又は再開された(1)(a)又は(b)にいう使用は、取消申請が行われる可能性があることを所有者が認識する前に当該使用の準備が開始されていない限り、考慮されない。
(以下、省略)

 登録商標に対する不使用取消訴訟を提起する場合、立証責任は申立人に課される。すなわち、登録の取消を求める者が、当該不使用に関する証拠を提出する責任を負う。証拠が提出された後、被申立人に商標の使用証拠を提出する責任が課される(マレーシア商標規則51、審査マニュアル25.53)。提出された証拠の法廷での認定基準や証拠をどの程度重視するかについては、事件を担当する裁判官の判断に委ねられている。指定商品に関わる市場において行われた調査報告書などが不使用に関する証拠として提出されている。

規則51 裁判所への申請
 商標法第43条(5)に基づいて登録簿の訂正を裁判所において申請する者、商標法第46条に基づいて不使用を理由とする裁判所による取消を裁判所において申請する被害者及び商標法第47条に基づいて登録の無効を裁判所において申請する被害者は、裁判所から申請書の有印謄本を受領した後実施可能な限り速やかに、所定の手数料の納付とともに、裁判所における当該申請に関する次の詳細を登録官に提出する。
 (a) 商標の登録番号
 (b) 申請により影響を受ける商品又はサービス
 (c) 取消又は無効の申請の対象である商標の登録所有者の名称
 (d) 召喚状又は手続開始申立書の番号
 (e) 裁判所における申請の提出日
 (f) 審理する裁判所
 (g) 申請の当事者、及び
 (h) 申請を理由づける事実
商標審査マニュアル 25.53
不使用の理由に基づく訂正請求人は、登録使用者による使用がなかったことを証明しなければならない。(以下、省略)

4. 商標の使用証拠
 商標の使用を証明する為の使用証拠は、商品および役務に関係するものでなければならない。
以下のようなものへの商標の表示は使用の証拠として有用であるが、商標法第7条が公的な判断基準である。
 (a)ラベル、チケット、パンフレット、レターヘッドまたは印刷媒体もしくは容器、包装材。
 (b)その他の視覚的表示(商品にエンボス加工や刺繍で表現された表示等)。
 (c)電子画像の形態をとった表示(映画、テレビ画面、コンピュータ画面の画像等)

 商標が商品又はサービス自体に接して使用されることは必要とされず、たとえば、商品に添付されたタグでの使用または広告における使用の証拠なども商品に関する使用証拠となる(商標法第7条、商標審査マニュアル4.26および4.28)(前記「2. 商標法に規定された使用の態様」参照)。

 出願、登録または更新の時において使用の証拠としての使用宣言書の提出の必要はない。なお、使用宣言書は、審査中に出された商標が識別性なしという暫定的拒絶に対して応答する場合や登録官の拒絶決定に対して裁判所に出訴する場合に有効である(商標規則第17条(1)(c)、商標法第29条(8)、第154条(2))。

規則17 審査中における出願人の応答
(1) 登録官が商標の登録を拒絶した場合は、登録官は、書面による通知による暫定的拒絶を発するものとし、これには、暫定的拒絶の理由もまた記載するものとし、出願人は、次の何れかによりこれに応答することができる。
(a)(省略)
(b)(省略)
(c) 法定宣言書により又は法定宣言書の代わりに若しくはこれに加えて口頭により、追加の又はその他の情報又は証拠を提出すること
第 29 条 出願の審査
(1) 登録官は、商標登録出願が本法に基づく登録の要件を満たしているか否かを審査する。
(2) から(4)(省略)
(5) 商標登録出願が商標登録の要件を満たしていない場合は、登録官は、暫定的拒絶の理由を書面による通知により出願人に通知するものとし、出願人は、次のことを行う機会を有する。
(a) から (c)(省略)
(6) (5)の適用上、
(a) (省略)
(b) 出願人の応答により、当該要件が満たされたことに登録官が納得しない場合は、登録官は、当該出願を拒絶する。また、登録官は、出願人から請求があったときは、全部の暫定的拒絶の理由を書面で述べる。
(7) (省略)
(8) (6)(b)に基づく全部暫定的拒絶に関する登録官の決定に対して裁判所に上訴する場合は、
(a) 当該上訴は、所定の方法により行う。
(以下、省略)
第154条 証拠提出の方法
(1) (省略)
(2) かかる法定宣言書は、上訴の場合は、裁判所に対して宣誓供述書による証拠の代わりに使用することができる。ただし、そのように使用される場合は、法定宣言書は、宣誓供述書による証拠の一切の付随事項及び結果を有する。