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マレーシア商標出願における指定商品・役務の記載に関する留意事項

(1)指定商品・指定役務について
 マレーシアにおいて商標登録出願を行う際、指定商品・指定役務は、商品・サービスの国際分類に関するニース協定に基づく分類一覧等に従う必要がある。

 マレーシアにおいても、登録商標の権利範囲は指定商品・指定役務によって特定されるため、指定商品・指定役務の特定は非常に重要である。

 また、商標の識別性の有無の判断も、指定商品・指定役務との関係で行われることから、指定商品・指定役務の特定の重要性は高い。

 指定商品・役務の特定が曖昧であれば、出願した商標の登録可能性が正確に審査されず、広範すぎると同一または類似商標の存在を指摘される可能性も高まる。

(2)1出願多区分制

 旧法下では、区分ごとに出願しなければならない1出願1区分制であったが、2019年の改正により現行法では、1出願で多区分にわたる商品・役務を指定することができる1出願多区分制が導入された(マレーシア商標法第18条)。多区分出願は、ニース協定等に基づく商品・役務の分類から2以上の商品・役務の類に関して行うことができる。そして、各類については、1区分出願と同様に、商品・役務の指定が当該類に適当であり、かつ、商品・役務の性質がニース協定等に基づく商品・役務の分類に従い明確に表示される方法で記載される必要がある(マレーシア商標規則11)。
 このように、多区分出願が認められるようになった結果、旧法下においては1商標で多区分を指定したい場合2個目以降の区分については別途の商標登録出願が必要となり登録も複数生じていたが、現行法の1出願多区分制の下では登録も1つとなる。

(3)クラスヘディング
 マレーシアでは、指定商品・指定役務を広範囲にわたって指定している場合、登録官は、当該商標の使用状況または使用予定に照らして正当であると認められない限り、当該商標出願を拒絶することができる(マレーシア商標規則11(4))。

 クラスヘディングによる商品・役務の指定は、ニース国際分類にあるクラスヘディングをそのまま商品・役務として記載するものであるから、この規定に抵触すると解釈される。このような指定があった場合、登録官は拒絶理由通知を発する。
 登録官は、願書の記載がニース協定等に基づく商品および役務の分類に記載されている商品・役務に該当しないと判断した場合は、出願人に対し、あらかじめ承認されていない商品・役務として出願することを要請する(2022年1月マレーシア知的財産局(MyIPO)の登録官に確認)。
 クラスヘディングによる指定は、第6類や第7類のような出願数が比較的少ない区分においては例外的に認められることがあったが、MyIPOの登録官によると現在(2022年1月調べ)は、ニース分類のクラスヘディングによる出願は認められていない。

(4)留意事項
 出願人は、クラスヘディングによる指定のみならず、“equipment, machinery, peripheral, media, system, perfumery, kits, accessories and the like”のような文言による商品・役務の指定は、(1)で述べた事項を考慮して、その必要性について検討するのが望ましい。また、‘particularly’や‘including’といった文言も、不必要に広範すぎるとみなされることがしばしばあるため、同様に必要性を検討すべきである。

 部品等は、その部品等が使用される製品の分類に区分されるが、部品に汎用性がある場合、別途該当する分類で登録され得る。例えば、自動車は第12類であるが、エンジン部品、窓、車内装飾、ラジオ、ワイヤー、ランプ、プラグ等は第12類以外に区分される。法改正により、1出願多区分制が採用されたため、部品等を製品本体と異なる区分に指定して出願することが可能となった。MyIPOの登録官によると旧法の1出願1区分制の下では、部品等については“;parts and fittings included in (区分番号) of the aforesaid goods”のように記載することが実務上行われていた。1出願多区分制を採用する現在でも、部品等についても製品本体と同じ区分で指定して出願することも可能である。

マレーシアにおける商標の識別性に関する調査

 「ASEAN主要国における商標の識別性に関する調査」(2020年3月、日本貿易振興機構(JETRO)バンコク事務所知的財産部)

(目次)
第2章 各国の商標審査制度
Ⅲ.マレーシア p.25
(所管庁の概要、出願から登録までの審査手続について説明(フローチャートあり)、商標の識別性に関する関連法規、商標の識別性に関するガイドライン、制度・運用に関する留意点(ローマ字以外の文字からなる商標あるいは外国語からなる商標は、英語あるいはマレー語と同じ基準で審査される、他)、識別性に係る審査判断に対する反論手段、ディスクレーム制度(審査官の裁量)、商標権の効力範囲について紹介している。)

第3章 事例紹介及び考察
Ⅲ.マレーシア p.94
(裁判所による判決(高等裁判所7件、控訴裁判所2件)の概要を紹介している。)

マレーシアにおける連続商標

【詳細】

 1976年商標法(Trade Marks Act 1976:TMA)第24条および1997年商標規則(Trade Marks Regulations 1997:TMR)第22条は、連続商標の登録出願について規定している。

 

 マレーシア商標法(TMA)第24条(1)項によると、同一の類における同一の商品もしくは類似の商品または同一の類における同一の役務もしくは類似の役務についての複数の商標が、重要な特徴においては相互に類似するが、同項(a)~(d)に定める基準について異なる場合は、それら商標は、1つの登録をもって連続したものとして登録することができる。これは各商標において複数の出願を行う必要性をなくすためである。

 

マレーシア商標法第24条 連続商標

(1)単一の類における同一の商品もしくは同一種類の商品または単一の類における同一のサービスもしくは同一種類のサービスについての数個の商標が、重要な特徴においては相互に類似するが、

 (a)それら商標が使用され、もしくは使用を予定される商品または役務についての陳述または表示

 (b)数量、価格、品質もしくは場所の名称に関する陳述または表示

 (c)その他の事項で識別性がなく、かつ、それら商標の同一性に本質的な影響を及ぼさないもの

 (d)色彩

について異なり、かつ、それら商標の所有者であることを主張する者がそれら商標の登録を出願するときは、それら商標は、1の登録をもって連続したものとして登録することができる。

(2)連続したものとして登録されたすべての商標は、連合商標とみなされ、かつ、連合商標として登録されるものとする。

 

 連続商標は一件の登録で保護され、連合商標とみなされる(TMA第24条(2))。連合商標は全体を一体としてのみ譲渡または移転可能であり、個別に譲渡または移転することはできない。これは、類似の商品またはサービスに使用される類似の商標が、異なる権利者の名義で登録されることを防ぐためである。

 

1.連続商標の概要

 連続商標の出願は、実質的には同一であるが重大でない相違点を含む数個の商標で構成される。例えば、イタリック体の大文字と小文字からなる同じ文字商標の場合や、同じ商品を記述する複数の商標で、重要な特徴においては類似するが、色彩が異なる場合は、連続商標として登録することができる。

 

 連続商標は、特定の言葉の要素がすべての連続商標の中で繰り返される。例えばMcDonaldの連続商標には「McDONALD’S」、「McCHICKEN」、「McNUGGETS」、「McCAFE」等が含まれる。連続商標はまた、一つの要素が同じロゴ等の図形商標の場合もある。

 

2.連続商標の詳細

第24条(1)(a)に基づく出願

 TMA第24条(1)(a)に基づき、連続商標所有者は通常、連続商標を構成する商標のうち代表的な一つの商標について登録出願を行い、かつその登録出願の願書において、連続商標を構成する商標の数を記載する。一つの連続商標として登録できる商標の数に制限はない。連続商標として25個の商標が登録された例もある。しかしながら、この規定に基づく連続商標の登録は多くない。

 

第24条(1)(b)に基づく出願

 第24条(1)(b)に基づく出願については、連続商標の中で共通でない部分についての権利の放棄を伴う。権利放棄に際しては、放棄される部分が、連続商標を構成する各商標に含まれるが、各商標に共通するものではなく、連続商標の特徴ではない旨を言及する。例えば、異なる地名が各商標に含まれている場合の適切な権利放棄は「これら商標にかかる登録は、連続商標中に表示される地名を独占的に使用する権利を付与するものではない」となる。

 

第24条(1)(c) に基づく出願

 多くの連続商標出願はTMA第24条(1)(c)に基づくものである。この規定に基づき登録されるべきは、必要不可欠かつ識別力のある商標としての特徴部分が、連続商標を構成するすべての商標において事実上同一である場合に限る。

 

 例)以下の例では、「LEVALL」および「AFIP」の部分が、それぞれ必要不可欠かつ識別力のある商標としての特徴部分である。

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第24条(1)(d) に基づく出願

 TMA第24条(1)(d)に基づく規定は、色彩が異なることにより、連続商標を構成する場合である。TMA第13条(2)が、色彩の限定なく登録された商標はあらゆる色で登録されたとみなすと規定しているものの、複数の色彩を表示しておくべき場合もある。さらに、色彩を組み合わせたものと色彩なしのものを組み合わせて登録することもできる。

 

 例)

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3.連続商標の出願

 TMA第24条(2)は、連続商標として登録されたすべての商標は連合商標として登録されたものととみなす旨を規定している。連続商標はもともと単一の商標登録として登録されるものであるため、登録簿に連合の事実を記載する必要はない。

 

 手続上、連続商標の出願は通常の商標出願と同じである。ただし、連続商標を構成する各商標の表示を所定の書面に添付しなければならない。出願人はこの表示と、連続商標を構成する各商標のコピーを五部提出しなければならない。連続商標を構成する各商標に対して、マレーシア知的財産公社商標登録局が必要であると考える場合には、出願人またはその代理人が、各商標が互いにどのような点で異なるかについて記載した書面が添付されなければならない。通常、相違点は明白であり、書面は不要であることが多い。

 

 マレーシアでは2015年1月時点で、商標登録のオンライン出願の費用は330.00リンギット(紙媒体等による出願の場合は370.00リンギット)であり、二つを超える連続商標の出願は、商標一つごとに50.00リンギットの追加費用を要する。連続商標の数も明記しなければならない。

 

4.連続商標登録の利点

 連続商標登録の利点の一つは、商標の一形態にかかる商標登録により得ることができる保護範囲に代えて、連続商標の所有者は、当該商標のわずかなバリエーションをその保護範囲に含めることができ、したがって、通常の商標と比べて、その保護範囲を拡張することができる。

 

 もう一つの利点は、連続商標の登録によって、複数の商標出願に必要な手数料を支払うことなく、様々な態様でより広範な保護を効果的に受けられることである。すべての商標を個別に登録するより費用を抑えることができる。

 

5.連続商標とは認められない商標

 連続商標を構成しない商標が含まれる出願については、出願が登録される前に連続商標とならない商標を削除する必要がある。出願人は削除した商標を、通常の商標出願にすることもできる。

 

 マレーシア知的財産公社商標登録局が商標出願を拒絶した場合、また条件付きで登録した場合、出願人は書面にて意見書を提出することができる。