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マレーシアにおける修正実体審査請求

1.修正実体審査請求

 マレーシア出願においてクレームされている発明と同一または実質的に同一の発明について、所定の国で、出願人に対して(ただし、権利の移転により当該所定国での出願人とマレーシア出願の出願人が異なる場合、その当該国の出願人に対して)特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与されている場合、特許法第29条A(1)に基づき、修正実体審査を請求することができる。修正実体審査の請求は所定のFormの提出により行う。(Form 5A)

 

 修正実体審査の請求は、パリルートによる出願の場合にはマレーシア出願日から18か月以内(規則27(1))、PCTルートによる出願の場合には国際出願日から4年以内(規則27A(1A))に行わなければならない。

修正実体審査では以下の書類を添付しなければならない。(規則27A(3))

所定の国において、または所定の条約を基に出願人または前権利者に対して付与された特許またはその他の工業所有権保護の権利についての認証謄本。かかる特許またはその他の工業所有権保護の権利が英語でない場合には、英語による認証翻訳文。

所定の国による、または所定の条約に基づく特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与された発明の明細書、クレームまたは図面が、形式的事項は別として、マレーシア出願でクレームされている発明の明細書、クレームまたは図面と実質的に同一でない場合には、それらを一致させるための補正。

ここで、「所定の国」とは、オーストラリア、日本、韓国、英国または米国を意味し、「所定の条約」とは欧州特許条約を意味する(規則27A(5))。

 

 つまり、修正実体審査においては、外国で(所定の国でまたは所定の条約に基づいて)付与された特許が英語による場合には、その特許を発行した特許庁が証明した特許を証明する書類と、もし必要なら補正を提出すればよい。外国で付与された特許が英語によらない場合には、その特許を発行した特許庁が証明した外国語の特許を証明する書類とは別に、特許を証明する書類の英訳を翻訳者の証明書(宣誓書)とともに提出することが必要である。

 

 日本国特許庁の審査結果に基づきマレーシアにおいて修正実体審査を請求する場合には、日本国特許庁が認証した特許公報とその英訳、翻訳者による宣言書、および出願人による宣言書を提出することが必要である(ただし、出願人による宣言書は提出を求められない場合もある。)。

 

 修正実体審査の請求はその猶予の申立をすることができる。申立は修正実体審査を請求すべき期間内に行わなければならない。(特許法第29条A(6))

 認められる猶予期間は出願日(PCTルートの場合には国際出願日)から最大5年である。(規則27B(2))

 修正実体審査請求の猶予の申立は、請求の基礎とする所定の国での出願が特許になっていない場合や、認証書類が入手できない場合に行うことができる。(Form 5B)

 猶予期間内に修正実体審査の請求ができない場合には、猶予期間満了後から3か月以内に通常の実体審査請求を行うことができる。(規則27B(3))

 

2.通常の実体審査請求と修正実体審査請求との比較

 

通常の実体審査請求

修正実体審査請求

(1)特許庁費用

RM1100(約USD275)

RM640(約USD160)

(2)請求時に提出すべき書類

a)マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国および米国において出願された出願、並びにEPCおよびPCTの下に出願された出願の出願日と出願番号の情報

(規則27(3)(a))

マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国、若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許を証明する書類の認証謄本と、その特許を証明する書類が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27A(3)(a))

b) マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許の番号

(規則27(3)(b))

c) マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州の特許庁(特許協力条約に基づく国際調査機関または国際予備審査機関の場合も含む)による、調査または審査結果と、その調査または審査結果が英語でない場合にはその証明付英語訳

(規則27(3)(c))

(3) 補正要否

補正は必須ではないが、審査促進のためには上記(2)で述べた特許のクレームに、マレーシア出願のクレームを一致させる補正を自発的に行うのが望ましい。

マレーシア出願のクレームを上記(2)で述べた特許のクレームに一致させる補正が必要である。(規則27A(3)(b))

 

 外国(所定の国)の出願が特許されていることがその発明の主題に特許性があることの一応の証拠となるので、修正実体審査を請求することにより審査が促進される。修正実体審査においては、審査官は、原則、マレーシア出願と外国で特許された出願とが一致しているかどうかについての審査を行い、(特別な状況の例外を除いて)先行技術調査を行わず、また、進歩性、単一性、明細書の記載要件、クレームの明確性等について審査は行わない。

 

 ただし、注意すべき点として、発明の主題が対応国で特許性があったとしても、マレーシアで特許を受けることができない主題であってはならない。特許法第13条によれば、人間または動物の進退についての治療または診断方法、ビジネス方法、発見、科学理論、数学的方法、植物若しくは動物の品種、植物若しくは動物を生産するための本質的に生物学的な生産方法などは、特許を受けることができない。

 

3.特許審査ハイウェイ(PPH)

 マレーシアと日本との間のPPH試行プログラムは2014年10月1日より始まり、2017年9月30日まで実施された。その後3年間延長され2017年10月1日から2020年9月30日まで実施される。また、マレーシア知的財産公社(MyIPO)と日本特許庁(JPO)は同プログラムを必要に応じて延長していく予定である。

 

 PPHは、通常の実体審査請求と同時またはその後に申請する。MyIPOがその出願の実体審査に着手していないときに限ってPPHの対象候補となる。

マレーシア出願においてPPHを申請するための要件は以下のa~eである。

 a. PPHを申請するマレーシア出願およびPPHの基礎とする日本出願において、優先日あるいは出願日のうち、最先の日付が同一であること。

 b. 対応する日本出願があり、JPOにより特許可能とされたまたは特許されたクレームが一つ以上あること。

 c. PPHの下で審査される全てのクレーム(出願時のクレームあるいは補正されたクレーム)がJPOにより特許可能とされたクレームの一つ以上と十分に対応していること。

 d. PPHの申請時に、MyIPOがその出願の審査を始めていないこと。

 e. PPHの申請時またはそれ以前に、通常の実体審査請求が行われていること。

 

 PPHの申請時には、以下の(a)~(d)の書類を添付して提出する必要がある。

(a)対応する日本出願に対してJPOから発行された(JPOにおける特許性の実体審査に関連する)全てのオフィスアクションの写し、およびその翻訳

 マレー語または英語が翻訳言語として利用可能である。JPOのオフィスアクションとその翻訳がAIPN(JPOの「ドシエ・アクセス・システム」:各国特許庁が有する審査関連情報を照会するシステム)により提供されている場合には、MyIPOの審査官はAIPNによりオフィスアクションの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりオフィスアクションおよびその翻訳を得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

 

(b)対応する日本出願で特許可能と判断されたすべてのクレームの写し、およびその翻訳

 マレー語または英語が翻訳言語として利用可能である。JPOにおいて特許可能と判断されたクレームがAIPNにより提供されている場合に、MyIPOの審査官はAIPNによりクレームの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりクレームを得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

 

(c)JPOの審査官が引用した引用文献の写し

 引用文献が特許文献の場合、MyIPOが通常所有しているため、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOが特許文献を所有していない場合には、出願人は審査官から要求に応じてその特許文献を提出する必要がある。非特許文献は必ず提出しなければならない。引用文献の翻訳は不要である。

 

(d)クレーム対応表

 PPHを申請する出願人は、マレーシア出願の全てのクレームが、対応する日本出願で特許可能とされたまたは特許となったクレームと十分に対応していることを示すクレーム対応表を提出しなければならない。クレームが直訳である場合、出願人は対応表において「それらは同一である」と記載することができる。クレームが直訳でない場合には、互いに十分に対応していることを説明する必要がある。

 

 上記(a)および(b)における翻訳は機械翻訳でも認められる。ただし、翻訳が不十分のため翻訳されたオフィスアクションやクレームを審査官が理解できない場合には、審査官は出願人に翻訳の再提出を求めることができる。

 最近の傾向では、PPH申請より3~4か月で審査報告書が発行される。

 

4.修正実体審査請求とPPH申請との比較

 

修正実体審査請求

PPH申請

請求または申請の基礎とする対応国(その条件)

オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州特許条約の下(いずれかにおいて特許が付与された場合)

日本(対応する日本出願においてクレームが特許可能または特許となった場合)

提出書類の条件

外国で付与された特許を証明する書類は、その特許を発行した特許庁による認証謄本でなければならない。

対応する日本出願の特許可能または特許となったクレームは単なる写しでよい。

審査促進の効果

請求から9か月~1年で審査報告書

請求から3~4か月で審査報告書

マレーシアにおける修正実体審査

1. 修正実体審査(Modified Substantive Examination:MSE)

マレーシア出願においてクレームされている発明と同一または実質的に同一の発明について、所定の国で、出願人に対して(ただし、権利の移転により当該所定国での出願人とマレーシア出願の出願人が異なる場合、その当該国の出願人に対して)特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与されている場合、特許法第29条A(1)に基づき、修正実体審査を請求することができる。修正実体審査の請求は所定のForm(Form5A)の提出により行う。

修正実体審査の請求は、パリルートによる出願の場合にはマレーシア出願日から18か月以内(規則27(1))、PCTルートによる出願の場合には国際出願日から4年以内(規則27A(1A))に行わなければならない。

修正実体審査では以下の書類を添付しなければならない(規則27A(3))。

a.所定の国において、または所定の条約を基に出願人または前権利者に対して付与され

た特許またはその他の工業所有権保護の権利についての認証謄本。かかる特許または

その他の工業所有権保護の権利が英語でない場合には、英語による認証翻訳文。

b.所定の国による、または所定の条約に基づく特許またはその他の工業所有権保護の

権利が付与された発明の明細書、クレームまたは図面が、形式的事項は別として、

マレーシア出願でクレームされている発明の明細書、クレームまたは図面と実質的に

同一でない場合には、それらを一致させるための補正。

ここで、「所定の国」とは、オーストラリア、日本、韓国、英国または米国を意味し、「所定の条約」とは欧州特許条約を意味する(規則27A(5))。

つまり、修正実体審査においては、外国で(所定の国でまたは所定の条約に基づいて)付与された特許が英語による場合には、その特許を発行した特許庁が証明した特許を証明する書類と、もし必要なら補正を提出すればよい。外国で付与された特許が英語によらない場合には、その特許を発行した特許庁が証明した外国語の特許を証明する書類とは別に、特許を証明する書類の英訳を翻訳者の証明書(宣誓書)とともに提出することが必要である。

日本国特許庁(JPO)の審査結果に基づきマレーシアにおいてMSEを請求する場合には、JPOが認証した特許公報とその英訳、翻訳者による宣言書、および出願人による宣言書を提出することが必要である(ただし、出願人による宣言書は提出を求められない場合もある。)。

 

修正実体審査の請求はその猶予の申立をすることができる。申立は修正実体審査を請求すべき期間内に行わなければならない(特許法第29条A(6))。認められる猶予期間は出願日(PCTルートの場合には国際出願日)から最大5年である(規則27B(2))。修正実体審査請求の猶予の申立は、請求の基礎とする所定の国での出願が特許になっていない場合や認証書類が入手できない場合に、所定のForm(Form5B)を提出することで行うことができる。

猶予期間内に修正実体審査の請求ができない場合には、猶予期間満了後から3か月以内に通常の実体審査請求を行うことができる(規則27B(3))。

 

2. 通常の実体審査請求と修正実体審査との比較

  通常の実体審査請求 修正実体審査
(1)特許庁費用

単位:RM(リンギット)

RM1100(約USD275) RM640(約USD160)
(2)請求時に提出すべき書類 マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、

 

a)オーストラリア、日本、韓国、英国および米国において出願された出願、並びにEPCおよびPCTの下に出願された出願の出願日と出願番号の情報(規則27(3)(a))

 

b)オーストラリア、日本、韓国、英国若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許の番号(規則27(3)(b))

 

c)オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州の特許庁(特許協力条約に基づく国際調査機関または国際予備審査機関の場合も含む)による、調査または審査結果と、その調査または審査結果が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27(3)(c))

マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国、若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許を証明する書類の認証謄本と、その特許を証明する書類が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27A(3)(a))
(3)補正要否 補正は必須ではないが、審査促進のためには上記(2)で述べた特許のクレームに、マレーシア出願のクレームを一致させる補正を自発的に行うのが望ましい。 マレーシア出願のクレームを上記(2)で述べた特許のクレームに一致させる補正が必要である。(規則27A(3)(b))

 

外国(所定の国)の出願が特許されていることがその発明の主題に特許性があることの一応の証拠となるので、修正実体審査を請求することにより審査が促進される。修正実体審査においては、審査官は、原則、マレーシア出願と外国で特許された出願とが一致しているかどうかについての審査を行い、(特別な状況の例外を除いて)先行技術調査を行わず、また、進歩性、単一性、明細書の記載要件、クレームの明確性等について審査は行わない。

ただし、注意すべき点として、発明の主題が対応国で特許性があったとしても、マレーシアで特許を受けることができない主題であってはならない。特許法第13条によれば、人間または動物の身体についての治療または診断方法、ビジネス方法、発見、科学理論、数学的方法、植物若しくは動物の品種、植物若しくは動物を生産するための本質的に生物学的な生産方法などは、特許を受けることができない。

 

3. 特許審査ハイウェイ(PPH)

マレーシアと日本との間のPPH試行プログラムは2014年10月1日より始まり、2017年10月1日に試行期間が3年間延長されている。新しい試行期間は2020年9月30日で終了予定となるが、必要に応じて延長される予定である。

PPHは、通常の実体審査請求と同時またはその後に申請する。MyIPOがその出願の実体審査に着手していないときに限ってPPHの対象候補となる。

マレーシア出願においてPPHを申請するための要件は以下のa~eである。

a.PPHを申請するマレーシア出願およびPPHの基礎とする日本出願において、

優先日あるいは出願日のうち、最先の日付が同一であること。

  b.対応する日本出願があり、JPOにより特許可能とされたまたは特許されたクレームが

一つ以上あること。

c.PPHの下で審査される全てのクレーム(出願時のクレームあるいは補正された

クレーム)がJPOにより特許可能とされたクレームの一つ以上と十分に対応

していること。

d.PPHの申請時に、MyIPOがその出願の審査を始めていないこと。

e.PPHの申請時またはそれ以前に、通常の実体審査請求が行われていること。

 

PPHの申請時には、以下の(a)~(d)の書類を添付して提出する必要がある。

 

(a)対応する日本出願に対してJPOから発行された(JPOにおける特許性の実体審査に関連する)全てのオフィスアクションの写し、およびその翻訳

マレー語または英語が翻訳言語として使用できる。JPOのオフィスアクションとその翻訳がAIPN(JPOの「ドシエ・アクセス・システム」:各国特許庁が有する審査関連情報を照会するシステム)により提供されている場合には、MyIPOの審査官はAIPNによりオフィスアクションの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりオフィスアクションおよびその翻訳を得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

 

(b)対応する日本出願で特許可能と判断されたすべてのクレームの写し、およびその翻訳

マレー語または英語が翻訳言語として使用できる。JPOにおいて特許可能と判断されたクレームがAIPNにより提供されている場合に、MyIPOの審査官はAIPNによりクレームの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりクレームを得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

 

(c)JPOの審査官が引用した引用文献の写し

引用文献が特許文献の場合、MyIPOが通常所有しているため、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOが特許文献を所有していない場合には、出願人は審査官から要求に応じてその特許文献を提出する必要がある。非特許文献は必ず提出しなければならない。引用文献の翻訳は不要である。

 

(d)クレーム対応表

PPHを申請する出願人は、マレーシア出願の全てのクレームが、対応する日本出願で特許可能とされたまたは特許となったクレームと十分に対応していることを示すクレーム対応表を提出しなければならない。クレームが直訳である場合、出願人は対応表において「それらは同一である」と記載することができる。クレームが直訳でない場合には、互いに十分に対応していることを説明する必要がある。

 

上記(a)および(b)における翻訳は機械翻訳でも認められる。ただし、翻訳が不十分のため翻訳されたオフィスアクションやクレームを審査官が理解できない場合には、審査官は出願人に翻訳の再提出を求めることができる。

最近の傾向では、PPH申請により、請求から3~4か月で審査報告書が発行される。

 

4. 修正実体審査とPPHとの比較

  修正実体審査 PPH
請求または申請の

基礎とする対応国

(その条件)

オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州特許条約の下(いずれかにおいて特許が付与された場合) 日本(対応する日本出願においてクレームが特許可能または特許となった場合)
提出書類の条件 外国で付与された特許を証明する書類は、その特許を発行した特許庁による認証謄本でなければならない。 対応する日本出願の特許可能または特許となったクレームは単なる写しでよい。
審査の体制 出願日の順に審査される(審査請求順ではない)ため審査までの待ち時間がPPHよりも長い。 PPH申請を専門に扱う審査官のグループがあるため修正実体審査よりも早期に権利化が可能。
審査促進の効果 請求から9か月~1年で審査報告書 請求から3~4か月で審査報告書

マレーシアにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状

 「各国における近年の判例等を踏まえたコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状に関する調査研究報告書」(平成29年11月、日本国際知的財産保護協会)第2部S

 

(目次)

第2部 各国におけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状

 A. 総括

  1 各国・地域の制度・運用の概要一覧表 P.11

 

 S. マレーシア P.329

  1 法律、審査基準 P.329

   1.1 発明の定義及び/又は特許可能な発明の定義 P.329

   1.2 発明が特許されるための要件 P.330

   1.3 CS関連発明等の定義 P.331

    1.3.1 CS関連発明の定義 P.331

    1.3.2 BM関連発明の定義 P.331

   1.4 CS関連発明等が特許可能な発明として認められるか P.331

    1.4.1 CS関連発明 P.331

    1.4.2 BM関連発明 P.331

   1.5 CS関連発明等の特許性の審査基準 P.332

    1.5.1 保護適格性の審査基準 P.332

    1.5.2 進歩性の審査基準 P.333

   1.6 CS関連発明等の審査基準における特記事項 P.333

   1.7 保護対象として認められる可能性のあるCS関連発明等のクレーム形式 P.333

  2 歴史的変遷 P.334

マレーシアにおける医薬用途発明保護

記事本文はこちらをご覧ください。

マレーシアにおける微生物寄託に係る実務

記事本文はこちらをご覧ください。

マレーシアにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務

1. 審査段階(特許取得時)

 

 マレーシア知的財産公社(MyIPO)発行の特許審査ガイドラインによれば、マレーシアにおいて、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、一定の状況下、例えばクレームされている製品が、特定の方法によって得られる製品として特徴づけられる化合物である場合等に認められ、またクレームされている製品が新規性および進歩性(かつ、おそらくは産業上の利用可能性)の要件を満たす場合にのみ認められる。

 

 なお、上記ガイドラインによれば、新たな方法で製造されたことのみをもって新規の製品であるとはみなされない。プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、クレームに記載された方法が新規性、進歩性ならびに産業上の利用可能性を有するか否かにかかわらず、クレームに記載された製品自体が新規性、進歩性ならびに産業上の利用可能性を有する場合にのみ認められることが、ガイドラインから明らかである。

 

 製造方法によって規定される製品のクレームは、「製品」のクレームとして解釈され、当該クレームは、好ましくは、「方法Yにより得られる製品X(Product X obtained by process Y)」ではなく、「方法Yにより得ることができる製品X(Product X obtainable by process Y)」またはこれと同等の文言から成る形式を取るべきである。

 

 

2. 権利行使段階(特許取得後)

 

 権利行使段階におけるプロダクト・バイ・プロセスクレームの解釈については、1983年マレーシア特許法にも1986年マレーシア特許規則にも規定がないため、裁判所がプロダクト・バイ・プロセスクレームを審査段階と同様に製品自体の特徴にのみ基づいて解釈するのか、あるいは、クレームに記載された方法によって製造された製品であるかどうかという点も考慮して解釈するのか、いまだ裁判所の判断基準は確立されていないというのが現状である。

マレーシアにおける修正実体審査請求

1. 修正実体審査請求

マレーシア出願においてクレームされている発明と同一または実質的に同一の発明について、所定の国で、出願人に対して(ただし、権利の移転により当該所定国での出願人とマレーシア出願の出願人が異なる場合、その当該国の出願人に対して)特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与されている場合、特許法第29条A(1)に基づき、修正実体審査を請求することができる。修正実体審査の請求は所定のFormの提出により行う。(Form 5A)

修正実体審査の請求は、パリルートによる出願の場合にはマレーシア出願日から18ヵ月以内(規則27(1))、PCTルートによる出願の場合には国際出願日から4年以内(規則27A(1A))に行わなければならない。

修正実体審査では以下の書類を添付しなければならない。(規則27A(3))

  1. 所定の国において、または所定の条約を基に出願人または前権利者に対して付与された特許またはその他の工業所有権保護の権利についての認証謄本。かかる特許またはその他の工業所有権保護の権利が英語でない場合には、英語による認証翻訳文。 
  2. 所定の国による、または所定の条約に基づく特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与された発明の明細書、クレームまたは図面が、形式的事項は別として、マレーシア出願でクレームされている発明の明細書、クレームまたは図面と実質的に同一でない場合には、それらを一致させるための補正。

ここで、「所定の国」とは、オーストラリア、日本、韓国、英国または米国を意味し、「所定の条約」とは欧州特許条約を意味する。(規則27A(5))

つまり、修正実体審査においては、外国で(所定の国でまたは所定の条約に基づいて)付与された特許が英語による場合には、その特許を発行した特許庁が証明した特許を証明する書類と、もし必要なら補正を提出すればよい。外国で付与された特許が英語によらない場合には、その特許を発行した特許庁が証明した外国語の特許を証明する書類とは別に、特許を証明する書類の英訳を翻訳者の証明書(宣誓書)とともに提出することが必要である。

日本国特許庁の審査結果に基づきマレーシアにおいてMSEを請求する場合には、日本国特許庁が認証した特許公報とその英訳、翻訳者による宣言書、及び出願人による宣言書を提出することが必要である(ただし、出願人による宣言書は提出を求められない場合もある。)。

 

修正実体審査の請求はその猶予の申立をすることができる。申立は修正実体審査を請求すべき期間内に行わなければならない。(特許法第29条A(6)) 認められる猶予期間は出願日(PCTルートの場合には国際出願日)から最大5年である。(規則27B(2)) 修正実体審査請求の猶予の申立は、請求の基礎とする所定の国での出願が特許になっていない場合や、認証書類が入手できない場合に行うことができる。(Form 5B)

猶予期間内に修正実体審査の請求ができない場合には、猶予期間満了後から3ヵ月以内に通常の実体審査請求を行うことができる。(規則27B(3))

 

2. 通常の実体審査請求と修正実体審査請求との比較

  通常の実体審査請求 修正実体審査請求
(1) 特許庁費用 RM1100(約 USD275) RM640 (約USD160)
(2) 請求時に提出すべき書類 マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、

 

a) オーストラリア、日本、韓国、英国及び米国において出願された出願、並びにEPC及びPCTの下に出願された出願の出願日と出願番号の情報(規則27(3)(a))

 

b) オーストラリア、日本、韓国、英国若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許の番号(規則27(3)(b))

 

c) オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州の特許庁(特許協力条約に基づく国際調査機関または国際予備審査機関の場合も含む)による、調査または審査結果と、その調査または審査結果が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27(3)(c))

 

マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国、若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許を証明する書類の認証謄本と、その特許を証明する書類が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27A(3)(a))

 

(3) 補正要否 補正は必須ではないが、審査促進のためには上記(2)で述べた特許のクレームに、マレーシア出願のクレームを一致させる補正を自発的に行うのが望ましい。 マレーシア出願のクレームを上記(2)で述べた特許のクレームに一致させる補正が必要である。(規則27A(3)(b))

 

外国(所定の国)の出願が特許されていることがその発明の主題に特許性があることの一応の証拠となるので、修正実体審査を請求することにより審査が促進される。修正実体審査においては、審査官は、原則、マレーシア出願と外国で特許された出願とが一致しているかどうかについての審査を行い、(特別な状況の例外を除いて)先行技術調査を行わず、また、進歩性、単一性、明細書の記載要件、クレームの明確性等について審査は行わない。

ただし、注意すべき点として、発明の主題が対応国で特許性があったとしても、マレーシアで特許を受けることができない主題であってはならない。特許法第13条によれば、人間または動物の進退についての治療または診断方法、ビジネス方法、発見、科学理論、数学的方法、植物若しくは動物の品種、植物若しくは動物を生産するための本質的に生物学的な生産方法などは、特許を受けることができない。

 

3. 特許審査ハイウェイ(PPH)

マレーシアと日本との間のPPHプログラムは2014年10月1日より始まり、3年間の試行期間行われる。マレーシア知的財産公社(MyIPO)と日本特許庁(JPO)はこの試行プログラムの結果を評価し、試行期間後に本格実施すべきかまたどのように実施すべきかを決定する。

PPHは、通常の実体審査請求と同時またはその後に申請する。MyIPOがその出願の実体審査に着手していないときに限ってPPHの対象候補となる。

マレーシア出願においてPPHを申請するための要件は以下のa~eである。

  1. PPHを申請するマレーシア出願及びPPHの基礎とする日本出願において、優先日あるいは出願日のうち、最先の日付が同一であること。
  2. 対応する日本出願があり、JPOにより特許可能とされたまたは特許されたクレームが一つ以上あること。
  3. PPHの下で審査される全てのクレーム(出願時のクレームあるいは補正されたクレーム)がJPOにより特許可能とされたクレームの一つ以上と十分に対応していること。
  4. PPHの申請時に、MyIPOがその出願の審査を始めていないこと。
  5. PPHの申請時またはそれ以前に、通常の実体審査請求が行われていること。

 

PPHの申請時には、以下の(a)~(d)の書類を添付して提出する必要がある。

(a)対応する日本出願に対してJPOから発行された(JPOにおける特許性の実体審査に関連する)全てのオフィスアクションの写し、及びその翻訳

マレー語または英語が翻訳言語として利用可能である。JPOのオフィスアクションとその翻訳がAIPN(JPOの「ドシエ・アクセス・システム」:各国特許庁が有する審査関連情報を照会するシステム)により提供されている場合には、MyIPOの審査官はAIPNによりオフィスアクションの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりオフィスアクション及びその翻訳を得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

(b)対応する日本出願で特許可能と判断されたすべてのクレームの写し、及びその翻訳

マレー語または英語が翻訳言語として利用可能である。JPOにおいて特許可能と判断されたクレームがAIPNにより提供されている場合に、MyIPOの審査官はAIPNによりクレームの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりクレームを得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

(c)JPOの審査官が引用した引用文献の写し

引用文献が特許文献の場合、MyIPOが通常所有しているため、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOが特許文献を所有していない場合には、出願人は審査官から要求に応じてその特許文献を提出する必要がある。非特許文献は必ず提出しなければならない。引用文献の翻訳は不要である。

(d)クレーム対応表

PPHを申請する出願人は、マレーシア出願の全てのクレームが、対応する日本出願で特許可能とされたまたは特許となったクレームと十分に対応していることを示すクレーム対応表を提出しなければならない。クレームが直訳である場合、出願人は対応表において「それらは同一である」と記載することができる。クレームが直訳でない場合には、互いに十分に対応していることを説明する必要がある。

上記(a)及び(b)における翻訳は機械翻訳でも認められる。ただし、翻訳が不十分のため翻訳されたオフィスアクションやクレームを審査官が理解できない場合には、審査官は出願人に翻訳の再提出を求めることができる。

最近の傾向では、PPH申請より3~4ヶ月で審査報告書が発行される。

 

4. 修正実体審査請求とPPH申請との比較

  修正実体審査請求 PPH申請
請求または申請の基礎とする対応国(その条件) オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州特許条約の下(いずれかにおいて特許が付与された場合)

 

日本(対応する日本出願においてクレームが特許可能または特許となった場合)

 

提出書類の条件 外国で付与された特許を証明する書類は、その特許を発行した特許庁による認証謄本でなければならない。

 

対応する日本出願の特許可能または特許となったクレームは単なる写しでよい。
審査促進の効果 請求から9ヶ月~1年で審査報告書

 

請求から3~4ヶ月で審査報告書

 

 

マレーシアにおける特許審査基準関連資料

【詳細】

 ASEAN主要国及び台湾における特許及び商標の審査基準・審査マニュアルに関する調査研究報告書【特許編】(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)第Ⅲ部6

 

(目次)

第Ⅲ部 調査対象国・地域の審査基準関連資料の詳細

 6 マレーシア P.151

参考 調査対象国・地域の知的財産権担当官庁及び、ウェブサイト公開されている関連法規、審査基準関連資料の情報

 6 マレーシア P.215