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マレーシアにおける特許・実用新案・意匠年金制度の概要

1. 特許権
1-1. 存続期間
 マレーシアにおける特許権の権利期間は、特許出願が行われた日によって次のように異なっている。出願日が2001年8月1日を含み同日以降の場合、権利期間は出願日(PCT条約に基づく特許出願の場合は国際特許出願日)から20年である。出願日が2001年8月1日より前の場合は、権利期間は出願日から20年もしくは特許付与日から15年のいずれか長い方となる。権利期間の延長に関する規定はない(マレーシア特許法第35条(1)、(1B)、(1C))。

1-2. 年金の納付期限
 年金の納付義務は、特許の登録後、登録日(特許付与日)を起算日として第2年度分から発生し、特許付与日から2 年およびその後各年の満了日前12か月の間に所定の年金を納付しなければならない (マレーシア特許法第35条 (2))。

1-3. 納付期限を徒過した場合(追納制度)
 納付期限日までに年金納付が行われなかった場合、納付期限日から6か月以内であれば年金の追納が可能である。その場合、所定の年金金額に加えて割増手数料を同時に納付しなければならない(マレーシア特許法第35条(2))。

1-4. 権利回復制度
 追納期間を超えて年金が納付されなかった場合や割増手数料の納付漏れがあった場合、権利は消滅する(マレーシア特許法第35条(3))。年金の未納により権利が消滅した場合は、公報にその旨が掲載されるが、公報に公告された日から12か月以内であれば権利回復の請求を行うことが可能である(マレーシア特許法(2022年改正法)第35条A(1))。権利を回復するには、未納分の年金と割増手数料に加えて回復手数料を納付すること、および登録官に対し、登録官が定めた様式に期限内に年金を納付することができなかった理由等を記しし申請し認定されなければならない(マレーシア特許法(2022年改正法)第35条A(2)、マレーシア特許規則(2022年改正規則) 規則33A(1)およびマレーシア特許規則 規則33A(2))。

1-5. 年金の誤納
 意図しない特許権に対して誤って年金を納付した場合や、所定の納付金額を超えて納付した場合など、納付された年金は返金されない(マレーシア特許規則 規則33(3))。

1-6. その他
 マレーシア国内に居所を有していない者は、マレーシアの特許代理人に年金の納付手続を委任する必要がある。代理人に納付を委任する場合、委任状の提出と手数料の納付が必要となる(マレーシア特許法(2022年改正法)第86条(5)、マレーシア特許規則 規則45Bおよび45C、マレーシア知的財産公社HP 特許料金表 https://www.myipo.gov.my/en/patent-forms-and-fees/)。

2. 実用新案権
2-1. 存続期間
 実用新案権の権利期間は、出願日から10年である(マレーシア特許法第2附則[第17A条]で適用される第35条(1))。なお、期間の満了前に5年の追加期間を求める延長申請を2回提出することができる(マレーシア特許法第2附則[第17A条]で適用される第35条(2))。すなわち、10年および15年の権利期間満了前に、それぞれ5年分の権利期間の延長手続(延長申請および年金納付)を行うことで、最長20年の権利期間を得ることができる。

2-2. 年金の納付期限
 年金の納付義務は、実用新案の登録後、登録日(実用新案証発行日)を起算日として第3年度分から発生し、登録日から3年およびその後各年の満了日前12か月の間に所定の年金を納付しなければならない(マレーシア特許法第2附則[第17A条]で適用される第35条(1A)、(4))。
 延長手続には、権利者の宣誓供述書、当該実用新案が商業上もしくは工業上使用されていることを示すもの、または不使用の事情を十分に説明するものをマレーシア知的財産公社に提出し、延長手数料(年金)を納付しなければならない(マレーシア特許法第2附則[第17A条]で適用される第35条(3))。年金納付期限日は登録応当日である一方、延長手続の期限日は出願応当日である点に注意が必要である。

2-3. 納付期限を徒過した場合(追納制度)
 特許権と同様に、追納制度がある(マレーシア特許法第2附則[第17A条]で適用される第35条(4)、(5))。

2-4. 権利回復制度
 特許権と同様に回復制度がある(マレーシア特許法第17A条で適用されるマレーシア特許法(2022年改正法)第35条A(1))。

2-5. 年金の誤納
 意図しない実用新案権に対して年金を誤って納付してしまった場合や、所定の納付金額を超えて納付を行った場合など、納付された年金は返金されない(マレーシア特許規則 規則45(3)で適用される規則33(3))。

2-6. その他
 マレーシア国内に本拠も居所も有していない者は、マレーシアの特許代理人に年金の納付手続を委任する必要がある。代理人に納付を委任する場合、委任状の提出と手数料の納付が必要となる(マレーシア特許法第17条A(1)で適用される第86条(5)、マレーシア特許規則 規則45(3)で適用される規則45Bおよび45C、マレーシア知的財産公社HP 特許料金表 https://www.myipo.gov.my/en/patent-forms-and-fees/)。

3. 意匠権
3-1. 存続期間
 意匠権の権利期間は出願日もしくは優先権を主張している場合は優先権主張日から5年である(マレーシア意匠法第25条(1)および第17条)。なお、権利期間の満了前に5年の追加期間を求める延長申請を4回提出することができる(マレーシア意匠法(英語)第25条(2))。すなわち、5年、10年、15年、20年の権利期間満了前にそれぞれ5年分の権利期間の延長手続(延長申請および年金納付)を行うことで、出願日(優先権主張がある場合は優先日)から最長25年の権利期間を得ることができる。

3-2. 年金の納付期限
 年金は延長手続を行う場合に発生する。年金納付期限の起算日は、出願日もしくは優先権を主張している場合は優先権主張日である(マレーシア意匠法第25条(1)および第17条)。延長手続を行う場合は、起算日から5年、10年、15年、20年の権利期間満了前にそれぞれ5年分の権利期間の延長手数料(年金)を支払う必要がある(マレーシア意匠法(英語)第25条(2))。

3-3. 納付期限を徒過した場合(追納制度)
 納付期限日までに延長手数料(年金)納付が行われなかった場合、納付期限日から6か月以内であれば延長手数料(年金)の追納が可能である。その場合、未納の延長手数料(年金)に加えて所定の追徴金を同時に納付しなければならない(マレーシア意匠法第25条(3))。追徴金は納付期限日から時間が経過するにしたがって増額する(マレーシア意匠規則 附則1 手数料 第1部 番号2 (規則23)の項目)。

3-4. 権利回復制度
 追納期間を超えて延長申請がされなかった場合または延長手数料が納付されない場合、権利は失効する。年金の未納により権利が失効した場合は、公報にその旨が掲載されるが、公報掲載日から1年以内であれば権利回復の請求を行うことが可能である。権利を回復するためには、延長手続できなかった事情を記した陳述書を提出し、未納分の年金に加えて回復費用、追徴金を納付し、登録官に認定される必要がある(マレーシア意匠法第25条(4)、第26条(1)、マレーシア意匠規則 規則24(1)、マレーシア意匠規則 附則1 手数料 第1部 番号3の項目)。

3-5. 年金の誤納
 意図しない意匠権に対して延長手数料(年金)を誤って納付してしまった場合や、所定の納付金額を超えて納付を行った場合など、納付された延長手数料(年金)は返金されない(マレーシア意匠規則23(5))。

3-6. その他
 延長手数料(年金)の金額は、意匠の数によって変動する(マレーシア意匠規則 附則1 手数料 第1部2の項目)。出願人がマレーシア国内に居住または主要事業所を有しない場合は、代理人を選任し、年金納付手続を委任する必要がある(マレーシア意匠法第14条(2))。延長手数料(年金)の納付はマレーシア国内の法曹資格を有する者であれば可能であるが、代理人に納付を委任する場合、委任状の提出と手数料の納付が必要となる(マレーシア意匠規則 規則32、規則33、マレーシア知的財産公社HP 意匠料金表 https://www.myipo.gov.my/en/industrial-design-form-fees/?lang=en)。

マレーシアにおける「商標の使用」と使用証拠

1. 商標の使用
 マレーシア商標法(以下、「商標法」という。)は、「先使用主義」の原則を採用しており、商標の使用は、重要な意味を持っている。すなわち、業として使用されている未登録商標の使用者には、先の権利(商標法第24条(5))が与えられ、当該権利に基づき、後の第三者の出願商標に対して、登録拒絶(商標法第24条(4))、異議申立(商標法第24条(6))、裁判所への無効請求(商標法第47条(3)(b))が認められる。また、業として継続的に使用されている未登録商標が、登録商標の侵害を構成しない場合がある。(商標法第55条(2))

第24条 相対的登録拒絶理由
(4) (6)に従うことを条件として、マレーシアにおける出願に係る商標の使用が次のものにより妨げられる場合又はその範囲において、登録官は、当該商標の登録を拒絶する。
(a) 詐称通用の法令に基づく場合を含め、業として使用される登録されていない商標又はその他の標識を保護する法規範により、・・・
(5) 商標の使用を妨げる権利を有する者は、本法において、(4)にいう商標に関する「先の権利」の所有者という。
(6) 先の権利の所有者が、第35条に基づく登録に対する異議申立の手続において(4)に基づく理由を提起した場合は、登録官は、当該理由により商標の登録を拒絶することができる。
第47条 裁判所による登録の無効
(3) 裁判所は、被害者から申請があったときは、次の理由により、商標登録を無効と宣言することができる。
(b) 第24条(4)に基づく先の権利が存在すること
第55条 侵害とならない行為
(2) ・・・ある者又はある者及びその事業の前主が、登録商標と同一又は類似の登録されていない商標を、登録商標の登録に係る商品又はサービスと同一又は類似の商品又はサービスに関して、次の何れか早い方の日前の時点から業として継続的に使用している場合は、その者は、当該登録されていない商標をそれらの商品又はサービスに関して使用することにより、登録商標を侵害しない。
(a) 登録商標の登録日
(b) 登録所有者、事業の前主又は廃止法に基づく登録使用者であった者が、当該商標を最初 に使用した日

 ただし、未登録商標の侵害防止措置およびその損害賠償が認められるのは、詐称通用※1に対する措置に限られるので(商標法第159条)、商標を実質的に保護するためには出願および登録しておくことが重要である。
 ※1 詐称通用(パッシングオフ)とは、英国慣習法に起源を有し、被告の商品を原告の商品と偽って通用させる不法行為をいう。

第159条 登録されていない商標
(1) 何人も、登録されていない商標の侵害を防止し又はそれに対して損害賠償を受けるために訴訟を提起する権利を有さない。

 出願人が、特定の商標の登録を出願するためには、当該出願人が、当該商標を業として使用するか、または使用予定であるか、あるいは業として使用することを他人に許諾しているか、または許諾する予定である必要がある(商標法第17条(1))。ただし、出願時に使用証明を提出する必要はなく、登録商標を維持するために使用宣言書を提出する必要もない(JETRO報告書「マレーシアにおける商標制度・運用に係る実態調査」p.15 3.6)。

第17条 商標登録出願
(1) 次の場合は、商標の誠実な所有者であることを主張する者は、当該商標の登録を出願することができる。
(a) その者が、当該商標を業として使用しているか又は使用する予定である場合、又は
(b) その者が、当該商標を業として使用することを他人に許諾しているか又は許諾する予定である場合
JETRO報告書「マレーシアにおける商標制度・運用に係る実態調査」
3.コモンロー及びその他の法上の権利を踏まえたマレーシアにおける商標制度の理解
3.6 登録商標については、保護の対象は商標の使用そのものである。登録商標の所有者に与えられる権利は、登録された商品又はサービスについて商標を独占的に使用する権利又は他人に使用を許可する権利である(第48条)。登録商標の所有者として与えられる権利により、侵害とされる行為(第54条)を証明することにより侵害からの救済を得ることができる。(中略)商標登録のために、商標の使用又は使用意思に基づき出願(第17条)する場合でも出願時に使用証明を提出する必要はない。また、登録商標を維持するために使用宣誓書を提出する必要もない。

2. 商標法に規定された使用の態様
 使用の態様について、商標法第7条は以下のように規定している。

第7条 商標の使用への言及
(1) 商標の使用への言及は、当該商標の印刷その他の視覚的又は非視覚的表示の使用への言及と解釈される。
(2) 商品に関する商標の使用への言及は、商品自体への又は商品との物理的その他の関係における当該商標の使用への言及と解釈される。
(3) サービスに関する商標の使用への言及は、サービスに関する記述又は記述の一部としての当該商標の使用への言及と解釈される。
(4) 商標の聴覚表示は、当該商標の使用への言及と解釈される。
(5) ある者が追加又は変更を施した商標を使用した場合は、登録官又は裁判所は、当該追加又は変更が登録官又は裁判所が適当と考える商標の同一性に実質的に影響を及ぼさない場合は、その者が当該商標を使用したと決定することができる。

 商品またはサービス「に関する」の句は、商標が商品又はサービス自体に接して使用されることを必要としないことを示している。たとえば、商品に添付されたタグでの使用又は広告における使用は商品そのものにおける使用ではないが、商品に関する使用である(商標審査マニュアル4.26、4.28)。

商標審査マニュアル 4.26
商品又はサービス「に関する」の句は、商標が商品又はサービス自体に接して使用されることを必要としないことを示している。これは、「商品に関する標章の使用というときは、商品そのものへの又は商品との物理的関係における当該標章の使用をいうものと解する」旨を明示的に述べる第3条(2)(*)(a)により一層明確にされている。たとえば、商品に添付されたタグでの使用又は広告における使用は商品そのものにおける使用ではないが、商品に関する使用である。販売のための商品を現実に有さない広告が使用を構成するか否かの問題は、第13章で検討される。
商標審査マニュアル 4.28
第3条(2)(*)(c)は、サービスに関する標章の使用の要件を定めている。使用とは、サービスの利用可能性又は実行についての陳述又は陳述の一部であると解されている。これには、広告又はレターヘッド、業務用名刺若しくはパンフレット、リーフレット及び類似のものにおける使用が含まれる。
(*):旧商標法の条項番号(新商標法(2019年商標法)第7条に相当)

 商標のインターネット上の使用については、「インターネット上の標章及びその他の標識に係る工業所有権の保護規定に関する共同勧告(Joint Recommendation Concerning Provisions on the Protection of Marks, and Other Industrial Property Rights in Signs, on the Internet)」の規定を考慮することが定められている(商標規則6、JETRO報告書「マレーシアにおける商標制度・運用に係る実態調査」p.77-p.79 10.1.1)。

規則6 インターネット上の商標の使用
(1) インターネット上の標識又は商標の使用に関して、登録官又は裁判所は、商標法、本規則及び共同勧告の規定を考慮する。
(2) 本条規則において、「共同勧告」とは、2001年9月24日から10月3日までの第36回世界知的所有権機関加盟国総会で採択された、インターネット上の標章及びその他の標識に係る工業所有権の保護規定に関する共同勧告を意味する。

3. 不使用に伴う取消のリスク
 登録商標は、登録通知の交付日後に継続的に3年間使用されなかったことを理由として登録を取り消されることがある。不使用取消請求は、裁判所に提訴しなければならない。裁判所は、不服を有する者の申請により、商標登録を取り消すことができる。(商標法第46条(1)項、JETRO報告書「マレーシアにおける知的財産の審判等手続に関する調査」B. 審理機関と紛争解決手段 II. 紛争解決手段 2.1.1)。
 なお、商標の所有者が当該商標を使用することで取消は免れるが、当該所有者による、取消請求前の3か月以内の使用では、通常、取消は免れない(商標法第46条(2)、(3))。

第46条 商標の不使用に関する裁判所による登録の取消
(1) 裁判所は、被害者から申請があったときは、次の何れかの理由により、商標登録を取り消すことができる。(a) 登録通知の交付日から3年の期間内に、商標が、登録所有者により又はその同意を得て、商標の登録に係る商品又はサービスに関して、マレーシアにおいて誠実に使用されておらず、かつ、不使用の適切な理由が存在しない場合
(b) (a)に基づく商品又はサービスの使用が継続して3年の期間中断されており、かつ、不使用の適切な理由が存在しない場合
(中略)
(2) (3)に従うことを条件として、商標登録は、(1)(a)又は(b)にいう使用が、3年の期間の満了後であって取消申請が行われる前に開始又は再開された場合は、同号に基づく理由により取り消してはならない。
(3) 3年の期間の満了後であって取消申請が行われる前3月の期間内に開始又は再開された(1)(a)又は(b)にいう使用は、取消申請が行われる可能性があることを所有者が認識する前に当該使用の準備が開始されていない限り、考慮されない。
(以下、省略)

 登録商標に対する不使用取消訴訟を提起する場合、立証責任は申立人に課される。すなわち、登録の取消を求める者が、当該不使用に関する証拠を提出する責任を負う。証拠が提出された後、被申立人に商標の使用証拠を提出する責任が課される(マレーシア商標規則51、審査マニュアル25.53)。提出された証拠の法廷での認定基準や証拠をどの程度重視するかについては、事件を担当する裁判官の判断に委ねられている。指定商品に関わる市場において行われた調査報告書などが不使用に関する証拠として提出されている。

規則51 裁判所への申請
 商標法第43条(5)に基づいて登録簿の訂正を裁判所において申請する者、商標法第46条に基づいて不使用を理由とする裁判所による取消を裁判所において申請する被害者及び商標法第47条に基づいて登録の無効を裁判所において申請する被害者は、裁判所から申請書の有印謄本を受領した後実施可能な限り速やかに、所定の手数料の納付とともに、裁判所における当該申請に関する次の詳細を登録官に提出する。
 (a) 商標の登録番号
 (b) 申請により影響を受ける商品又はサービス
 (c) 取消又は無効の申請の対象である商標の登録所有者の名称
 (d) 召喚状又は手続開始申立書の番号
 (e) 裁判所における申請の提出日
 (f) 審理する裁判所
 (g) 申請の当事者、及び
 (h) 申請を理由づける事実
商標審査マニュアル 25.53
不使用の理由に基づく訂正請求人は、登録使用者による使用がなかったことを証明しなければならない。(以下、省略)

4. 商標の使用証拠
 商標の使用を証明する為の使用証拠は、商品および役務に関係するものでなければならない。
以下のようなものへの商標の表示は使用の証拠として有用であるが、商標法第7条が公的な判断基準である。
 (a)ラベル、チケット、パンフレット、レターヘッドまたは印刷媒体もしくは容器、包装材。
 (b)その他の視覚的表示(商品にエンボス加工や刺繍で表現された表示等)。
 (c)電子画像の形態をとった表示(映画、テレビ画面、コンピュータ画面の画像等)

 商標が商品又はサービス自体に接して使用されることは必要とされず、たとえば、商品に添付されたタグでの使用または広告における使用の証拠なども商品に関する使用証拠となる(商標法第7条、商標審査マニュアル4.26および4.28)(前記「2. 商標法に規定された使用の態様」参照)。

 出願、登録または更新の時において使用の証拠としての使用宣言書の提出の必要はない。なお、使用宣言書は、審査中に出された商標が識別性なしという暫定的拒絶に対して応答する場合や登録官の拒絶決定に対して裁判所に出訴する場合に有効である(商標規則第17条(1)(c)、商標法第29条(8)、第154条(2))。

規則17 審査中における出願人の応答
(1) 登録官が商標の登録を拒絶した場合は、登録官は、書面による通知による暫定的拒絶を発するものとし、これには、暫定的拒絶の理由もまた記載するものとし、出願人は、次の何れかによりこれに応答することができる。
(a)(省略)
(b)(省略)
(c) 法定宣言書により又は法定宣言書の代わりに若しくはこれに加えて口頭により、追加の又はその他の情報又は証拠を提出すること
第 29 条 出願の審査
(1) 登録官は、商標登録出願が本法に基づく登録の要件を満たしているか否かを審査する。
(2) から(4)(省略)
(5) 商標登録出願が商標登録の要件を満たしていない場合は、登録官は、暫定的拒絶の理由を書面による通知により出願人に通知するものとし、出願人は、次のことを行う機会を有する。
(a) から (c)(省略)
(6) (5)の適用上、
(a) (省略)
(b) 出願人の応答により、当該要件が満たされたことに登録官が納得しない場合は、登録官は、当該出願を拒絶する。また、登録官は、出願人から請求があったときは、全部の暫定的拒絶の理由を書面で述べる。
(7) (省略)
(8) (6)(b)に基づく全部暫定的拒絶に関する登録官の決定に対して裁判所に上訴する場合は、
(a) 当該上訴は、所定の方法により行う。
(以下、省略)
第154条 証拠提出の方法
(1) (省略)
(2) かかる法定宣言書は、上訴の場合は、裁判所に対して宣誓供述書による証拠の代わりに使用することができる。ただし、そのように使用される場合は、法定宣言書は、宣誓供述書による証拠の一切の付随事項及び結果を有する。

マレーシアにおいてOIモデル契約書ver2.0共同研究開発契約書(新素材編、AI編)を活用するに際しての留意点

記事本文はこちらをご覧ください。

マレーシアにおいてOIモデル契約書ver2.0ライセンス契約書(新素材編)、利用契約書(AI編)を活用するに際しての留意点

記事本文はこちらをご覧ください。

マレーシアにおける産業財産権の検索データベースの調査2022

「ASEANにおける産業財産権の検索データベースの調査 2022」(2023年3月、日本貿易振興機構(JETRO)バンコク事務所(知的財産部))

 「ASEANにおける産業財産権の検索データベースの調査 2022」(2023年3月、日本貿易振興機構バンコク事務所(知的財産部))第3章 マレーシア

(目次)

第3章 マレーシア
(マレーシア知的財産公社(MyIPO)が提供するデータベースであるMyIPOシステム上の案件データに基づき、種別(特許および実用新案)ごとに、2022年に公開された出願を対象とし算出した「出願から公開までに要した期間」、および2022年に登録された案件を対象とし算出した「出願から登録までに要した期間」について紹介している。また、2004年から2022年に①公開された案件、および②登録された案件について、それぞれ、①出願から公開まで、および②出願から登録までの経過期間の分布を、全案件、出願人国籍別、出願ルート別、技術分野別にグラフで紹介している。加えて、2019年から2021年までの各年の出願を対象とし算出した、全出願人を対象とした出願件数上位ランキング、日本国籍出願人を対象とした出願上位ランキング、技術分野別の出願上位ランキング、外国出願人のマレーシア第一国出願の出願件数上位ランキングを紹介している。さらに、2003年から2022年までの各年の出願についての2023年1月時点での登録率を紹介している。)

1.特許 P.61
1.1 産業財産権の権利化期間 P.61
1.2 産業財産権の出願件数上位リスト P.80
1.3 登録率 P.86

2.実用新案 P.87
2.1 産業財産権の権利化期間 P.87
2.2 産業財産権の出願件数上位リスト P.104
2.3 登録率 P.110

マレーシアにおける特許の単一性要件と分割出願

(1) 特許出願の単一性要件
 マレーシアにおいて、特許出願は、発明の単一性の要件を満たさなければならない(マレーシア特許法第26条)。

 次の場合は、発明の単一性の要件を満たしているとされる。
・対象となる製品に関する独立クレームに加えて、その製品の製造のために特に採用される方法についての独立クレーム、およびその製品の使用に関する独立クレーム(マレーシア特許規則19(1)(a))。

・対象となる方法に関する独立クレームに加えて、その方法を実施するために特に工夫された装置または手段に関する独立クレーム(マレーシア特許規則19(1)(b))。

・対象となる製品に関する独立クレームに加えて、その製品の製造のために特に採用された方法に関する独立クレーム、およびそのような方法を実施するために特に工夫された装置または手段に関する独立クレーム(マレーシア特許規則19条(1)(c))。

(2) 単一性要件の不備を是正するための分割出願
 単一性要件を満たさない出願については分割出願によって、その不備を是正できる(マレーシア特許法第26B条(1))。
 実体審査において、出願された特許が単一性の要件を満たしていないと判断された場合、単一性要件を満たしていない旨の報告書が審査官から発せられ(マレーシア特許法第30条(1)(2)に基づく報告書)、その報告書について意見書を提出するため、およびこれらの要件を遵守するために、出願を補正するための機会を与えられる。出願人は、この報告書の発行日から3か月以内(*1)に当該特許の分割出願を行うことができる(マレーシア特許規則19A(1)(a))。
 ただし、原出願が特許付与、拒絶、みなし取下げ、取下げ、または、放棄された場合、分割出願は認められない(マレーシア特許法第26B条(1A))。
単一性要件の不備を補うための分割出願を行う場合、分割出願について実体審査(または修正実体審査)を求める請求は、出願の分割を申し立てるときに行わなければならない。なお、分割出願時に実体審査(または修正実体審査)請求を申請しない場合、分割出願は取り下げたものとみなされる(マレーシア特許規則27(2)、(2A)、および同規則27A(2)、(2A))。

(3) 自発的な分割出願
 上記(2)記載の、単一性要件の不備を是正するための分割出願のほか、出願人は自発的に分割出願することもできる。この場合、審査官から最初に送付される報告書(マレーシア特許法第30条(1)(2)に基づく報告書)の発行日から3か月以内(*1)に分割の申立てをしなければならない(マレーシア特許規則19A(b))。なお、分割出願期限を延長することはできない(マレーシア特許法第26B条(1B))。
 自発的な分割出願を行う場合も、分割出願について実体審査(または修正実体審査)を求める請求は、出願の分割を申し立てるときに行わなければならない。なお、分割出願時に実体審査(または修正実体審査)請求を申請しない場合、分割出願は取り下げたものとみなされる(マレーシア特許規則27(2)、(2A)、および同規則27A(2)、(2A))。

*1: 2016年6月1日発行のPractice Direction No. 2/2016により分割出願期限の起算日が、「the date of mailing」から「the date of examination report」に改正された。

(4) 分割出願の範囲
 分割出願においては、原出願の明細書に記載された範囲を超えてはならない(マレーシア特許法第26B条(1))。分割出願に新規事項が含まれていると判断され、出願人が当該新規事項を除外することを拒んだ場合には、分割出願は拒絶される。

(5) 分割出願の出願日
 分割出願は、原出願の出願日に出願したものとして取り扱われる。(マレーシア特許法第26B条(2))。

(6) 分割出願の手数料
 分割出願に係る手数料は、通常の特許出願と同じく、オンラインで行う場合には260マレーシアリンギット、オンライン以外の提出の場合には290マレーシアリンギットである。

(7) 留意事項
 一般的に、出願と関連する競業他社の製品を市場で発見し、他社製品を技術的範囲に含むようにクレームを構成したい場合、他社製品の構成が含まれるように親出願のクレームを補正しつつ、自社製品との関係でより広い特許を取得するべく分割出願を行う等の方法で分割出願を戦略的に利用し得る。
 ただし、マレーシアにおいて、特許出願の分割を行うことができる時期は、上述の通り、限定的であるため、このような戦略的な分割出願が活用できる場面は限定的になる。

マレーシアにおける特許の新規性について

1.新規性の判断基準
 マレーシアでは、発明が先行技術により予測されないものである時は、その発明は新規性を有すると判断される。ここでいう先行技術とは、具体的には、以下の(a)、(b)により構成されるものをいう(マレーシア特許法第14条第1項、第2項)。

(a)刊行物、口頭の開示、使用または他の方法によって、出願日もしくは優先日前に、世界のいずれかの場所において開示されたもの。
(b) 先行する出願日または優先日を有する国内特許出願に記載されている内容であって、マレーシア特許法第33Ð条に基づいて公開される特許出願に包含されているもの。

マレーシア特許法
第14条 新規性
(1) 発明が先行技術により予測されないものであるときは,その発明は新規性を有する。

(2) 先行技術は,次に掲げるものによって構成されるものとする。
(a) その発明をクレームする特許出願の優先日前に,世界の何れかの場所において,書面による発表,口頭の開示,使用その他の方法で公衆に開示されたすべてのもの
(b) (a)にいう特許出願より先の優先日を有する国内特許出願の内容であって,その内容が前記の国内特許出願に基づいて33D条に基づいて公開される特許出願に包含されている場合のもの[法律A1649:5による改正]

2.特許の新規性喪失の例外(グレースピリオド)
 先行技術の開示が、次に掲げる事情(a)、(b)、(c)に該当している場合は、その開示は無視するものとされ(a disclosure・・・shall be disregarded)、その開示により特許出願は新規性を失わない(マレーシア特許法第14条第3項)。

(a) その開示が、その特許の出願日前1年以内に生じており、かつ、その開示が、出願人またはその前権利者の行為を理由とするものであったかまたはその行為の結果であったこと。
(b) その開示が、その特許の出願日前1年以内に生じており、かつ、その開示が、出願人またはその前権利者の権利に対する濫用を理由とするものであったかまたはその濫用の結果であったこと。
(c) その開示が、本法の施行日に、英国特許庁に係属している特許登録出願によるものであること。

マレーシア特許法
第14条 新規性
(3) (2)(a)に基づいてなされた開示が次に掲げる事情に該当している場合は,その開示は無視するものとする。
(a) その開示がその特許の出願日前1年以内に生じており,かつ,その開示が出願人又はその前権利者の行為を理由とするものであったか又はその行為の結果であったこと
(b) その開示がその特許の出願日前1年以内に生じており,かつ,その開示が出願人又はその前権利者の権利に対する濫用を理由とするものであったか又はその濫用の結果であったこと
(c) その開示が,本法の施行日に,英国特許庁に係属している特許登録出願によるものであること

(4) (2)の規定は,先行技術に含まれる物質又は組成物の,第13条(1)(d)にいう方法における使用に関する特許性を排除するものではない。ただし,そのような方法におけるその使用が先行技術に含まれていないことを条件とする。

 上述のグレースピリオドの適用を主張する場合、出願人は、出願時にまたはその他いつでも、上記の各理由によって先行技術としては無視されるべきと考える事項を、付属の陳述書(an accompanying statement)において明らかにしなければならない(マレーシア特許規則20)。

 なお、証拠書類を陳述書と併せて提出する必要はなく、証拠の提出に関する具体的な日数制限があるわけでもないが、実務においては、拒絶理由通知を受けた後に補充することが行われている。

マレーシア特許規則
規則20 先行技術との関係で無視されるべき開示
出願人は,出願時に又はその他の何時であれ,自己が認識しかつ特許法第14条(3)に基づき先行技術としては無視されるべきと考える開示事項を述べるものとし,その事実を付属の陳述書において明らかにするものとする。

3.審査基準
 マレーシア特許審査基準では、新規性に関して、D 7.0「新規性」に記載されている。
 審査基準D 7.0冒頭に、前記特許法第14条第1項の条文を引用し、先行技術により予測されない発明は新規性を有する、と記載されている。
 なお、先行技術とは、審査基準D 5.1において、マレーシア特許出願の出願日(または優先日)より前に、書面または口頭による説明、使用、またはその他の方法によって公衆に利用可能になったすべてのもの、と定義されている。
 以下、審査基準D 7.1~7.9の各項における主な記載内容を紹介する。

3-1. マレーシア特許法第14条第2項に基づく先行技術(審査基準 D 7.1)
 新規性の検討において、先行技術文献に記載された先行技術、または異なる実施形態の別個の項目を組み合わせることは認められない。文献内で明示的に否認されている事項や明示的に記載されている先行技術は、その文献に含まれているとみなされ、その範囲や意味を解釈し理解する際に考慮されるべきである。
 新規性を評価する際、文献の教示に周知の同等物が含まれていると解釈することは不適切である。つまり、特許請求範囲に従来技術にはないマイナーな特徴(周知の同等物)が含まれている場合、その請求項は新規性があるとみなすことができる。先行技術からの発展が、技術的な問題を解決しない周知の同等物を代用するものである場合、既知のもの、または先行技術からの非発明的な発展については、独占を認めるべきではない。

3-2. 暗黙の特徴またはよく知られた同等物(審査基準 D 7.2)
 発明または実用新案の新規性を評価するために先行技術が引用される場合、先行技術に記載された明示的な技術内容と、当業者が開示内容から直接的かつ曖昧さなく推測できる暗黙的な技術内容の両方が含まれる技術内容が使用される。先行技術に明示的または黙示的に開示されている特徴の周知同等物は、先行技術から「直接かつ曖昧さなく導出可能」とはみなされず、したがって、進歩性の評価のためにのみ考慮される。

3-3. 先行技術文献の関連日(審査基準 D 7.3)
 新規性を判断するために、先行技術文献は、関連日において当業者によって読まれ理解されたであろうように読まれ考慮される。先行技術の検討における関連日とは、当該先行技術が公開された日を意味する。ただし、関連する先行技術が先の出願である場合を除く。この場合、関連する日は、当該先の出願の出願日、または特許法第14条第2項に該当する場合には優先日となる。

3-4. 先行技術文献における実施可能な開示(審査基準 D 7.4)
 実施可能な開示を提供する先行技術文献は、その時点における当該分野の一般的な知識を考慮して、当業者が請求項に係る発明を実施することを可能にするのに十分な詳細さで請求項に係る発明を記載している場合、請求項に係る発明を予見させるものである。先行技術に名称または式が記載されている化学化合物は、先行技術に記載された情報と、先行技術の関連日において利用可能であった追加的な一般知識とによって、当該化合物の調製または天然に存在する化合物の場合には分離が可能とならない限り、自動的に公知とはならない。

3-5. 一般的な開示と具体例(審査基準 D 7.5)
 請求項の範囲に含まれる内容が先に開示されている場合、請求項は新規性を欠く。従って、発明を代替案の観点から定義した請求項は、その代替案の一つが既に公知であれば新規性を欠くことになる。対照的に、先行技術の一般的な開示は、通常、より具体的な請求項を予見させることはない。

3-6. 暗黙の開示とパラメータ(審査基準 D 7.6)
 新規性の欠如は、通常、先行技術の明示的な開示から明確に明白でなければならない。しかしながら、先行技術が、先行技術の内容およびその教示の実際的な効果に関して審査官に何の疑いも残さない暗黙的な方法でクレームされた主題を開示している場合、審査官は新規性の欠如に関する異議を提起することができる。
 このような状況は、特許請求の範囲において、発明やその特徴を定義するためにパラメータが使用されている場合に起こり得る。関連する先行技術では、異なるパラメータが記載されているか、パラメータが全く記載されていない可能性がある。公知製品と特許請求の範囲に記載された製品が他の全ての側面において同一である場合、新規性欠如の異議を生じる可能性がある。しかし、出願人がパラメータの相違について立証可能な証拠を提出できる場合、請求項に係る発明が、指定されたパラメータを有する製品を製造するために必要なすべての必須特徴を十分に開示しているかどうか、を評価する必要がある。

3-7. 新規性の審査(審査基準 D 7.7)
 新規性を評価するために請求項を解釈する場合、特定の意図された用途の非特徴的な特徴は無視されるべきである。他方、たとえ明示的に記載されていなくても、特定の用途によって暗示される特徴的な特性は考慮されるべきである。
 異なる純度の公知化合物を有するだけでは、その純度が従来の方法によって達成可能である場合、新規性は付与されない。出願人は、新規性を克服するためには、請求項に係る発明の純度は、従来のプロセスでは得られないことを示すのではなく、その代わりに従来公知のプロセスや方法では達成不可能な結果であることを示す必要がある。

3-8. 選択発明(審査基準 D 7.8)
 選択発明には、従来技術におけるより大きな既知の範囲では明確に言及されていない個々の要素、サブセット、または部分範囲を主張する発明が含まれる。これらの発明は、先行技術の開示の範囲内、またはそれをオーバーラップするものである。
 請求項に係る発明が、具体的に開示された1つの要素リストから要素を選択したものであっても、新規性は立証されない。しかし、2つ以上のリストから選択された要素を、その組み合わせを明示的に開示することなく組み合わせることは、新規性があるとみなされる可能性がある。
 従来技術のより広い数値範囲から選択された請求項に係る発明の部分範囲は、以下の場合に新規である。
 - 既知の範囲と比較して狭い。そして
 - 従来技術に開示されている特定の例および既知の範囲の終点から十分に離れている。
 選択発明は、例えば、請求される主題と先行技術の数値範囲や化学式など、オーバーラップする範囲を含むこともできる。数値範囲がオーバーラップする物理パラメータの場合、既知の範囲の終点、中間値、またはオーバーラップする先行技術の具体例が明示されていれば、請求された主題は新規ではない。
 先行技術の範囲から新規性を否定する特定の値を除外するだけでは、新規性の立証には不十分である。また、当該分野の当業者が、オーバーラップする領域内での作業を真剣に検討するかどうかも考慮する必要がある。
 化学式がオーバーラップする場合、請求された主題が、新たな技術要素または技術的教示によって、オーバーラップする範囲において先行技術と区別されれば、新規性が立証される。

3-9. 数値の誤差範囲(審査基準 D 7.8.1)
 関連分野の当業者であれば、測定に関連する数値は、その精度を限定する誤差の影響を受けることを考慮しなければならない。このため、科学技術文献における標準的な慣行が適用され、数値の最後の小数位がその精度のレベルを示す。他の誤差が指定されていない状況では、最後の小数位を四捨五入して最大誤差を決定すべきである。

3-10. リーチスルークレームの新規性(審査基準 D 7.9)
 「リーチスルー(Reach-through)」クレームは、生物学的標的に対する製品の作用を機能的に定義することにより、化学製品、組成物または用途の保護を求めることを目的として策定される。これらのクレームは、基本的に明細書の開示事項を超えて拡張され、明示的に記載されていないが、本発明を使用して開発される可能性のある主題を包含する。
 多くの場合、出願人は新たに同定された生物学的標的に基づいて化合物を定義する。しかし、これらの化合物が作用する生物学的標的が新しいからといって、必ずしも新しいとは限らない。実際、出願人は、既知の化合物が新しい生物学的標的に対して同じ作用を発揮することを示す試験結果を提示することが多い。その結果、このように定義された化合物に関するリーチスルークレームは、新規性を欠くことになる。

マレーシアにおけるモデル契約書(秘密保持契約書・技術検証契約書)を活用するに際しての留意点

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マレーシアにおける特許出願書類

〔詳細〕
 マレーシアにおいて特許出願を行う場合、出願人は、マレーシア知的財産公社に対し、特許出願書類として、願書、明細書(必要な場合は配列表を含む)、クレーム、図面、要約書を提出する必要がある(特許法第28条、マレーシア特許規則(以下「特許規則」という。)5、10、12~16)。また、併せて所定の手数料を納付しなければならない(特許法第24条、特許規則7)。

 出願人の氏名および住所、発明者の氏名および住所、明細書、クレームが含まれている要件を満たせば、登録官は出願書類受領の日を出願日として記録する(特許法第28条(1))。これらの要件を満たさないと判断したときは、登録官は訂正を要求する(特許法第28条(2))。出願人が訂正を行った場合にはその受領日を新たな出願日とし、行わなかった場合には出願は放棄されたものとして処理される(特許法第28条(3))。

 マレーシアの居住者でない外国人による出願の場合は、マレーシアの代理人を通じて出願手続を行う必要がある(特許法第86条(5))。出願に際し、願書および付属の陳述書その他の書類は、マレー語または英語で作成する必要がある(特許規則18(11))。

1.願書
 願書は所定のフォーマット(様式1)により作成する。願書の記載事項には、以下のようなものが含まれる。
・発明の名称
・出願人の氏名および住所
・代理人に関する事項
・優先権に関する事項(基礎となる出願の番号が不明な場合は、当該番号は出願日から3か月以内に通知すれば良い(特許規則21(2))。)
・出願人が発明者であるか否かの記載
・出願人と発明者が異なる場合は発明者の氏名および住所

2.明細書
 出願の明細書には、次の事項を記載する(特許規則12)。
・願書に記載されている発明の名称
・発明が関連する技術分野
・発明の理解、調査および審査に有用と考えられる技術的背景の表示
・クレームされた発明の明示(技術的背景に対し、有利な効果を述べる)
・各図の簡単な説明
・実施例
・発明の説明または本質から自明でない場合、産業上の利用可能性があることの説明
・配列を開示する場合は、配列表を含めなければならない(特許規則12A)。

3.クレーム
 クレームは、発明の技術的特徴を表現して発明を定義するものでなければならず、明確かつ簡潔であり、発明の説明により裏付けられていなければならない。また、クレームには図面を含んではならず、必要な場合を除いて発明の技術的特徴に関して明細書または図面の引用に依存してはならない(特許規則13)。
 なお、マレーシアではマルチマルチの従属クレーム(複数クレームを引用する多項従属クレームが、他の複数クレームを引用する多項従属クレームを引用すること)が認められている(特許規則14)。

4.図面
 図面は、発明の理解に必要な場合に要求されるため、クレームされた発明を正確に理解できるよう、明確に記載しなければならない。また、耐久性および十分な緻密性のある黒色で、一様な厚みで明確な線と筆法により、着色せずに作成する必要がある(特許規則15、18(10))。フローシート(フローチャート)やダイアグラムは、図面とみなされる(特許規則15(3))。

5.要約書
 要約書の作成に際しては、以下のような点に留意する(特許規則16)。
(1) 最初に発明の名称を記載する。明細書、クレーム、図面に含まれる開示事項の概要を記載する。発明が属する技術分野を記載し、技術的課題、当該発明による課題解決の骨子、当該発明の1もしくは複数の主な用途を明確に理解させるように作成する必要がある。
(2) 要約書には、明細書に開示されている発明の内容を簡潔に(通常は150語以内で)記載しなければならない。
(3) 適当と認められる場合は、出願に含まれる全ての化学式のうち、当該発明を最も良く特徴付けるものを記載する。
(4) 要約書には図面を含んではならない。ただし、出願人が提出した図面のうち、当該発明を最も良く説明するものは添付しなければならない。

6.その他の書類
 出願人と発明者が完全に一致しない場合、上記出願書類のほか、出願人が特許を受ける権利を有することを証明する書面の提出が求められる(特許規則10、様式22)。証拠資料の提出までは求められていない。
 優先権主張を伴う特許出願の場合、優先権証明書(基礎出願の認証された謄本)の提出も求められる(特許法第27条(2)、特許規則22)。詳細は、本データベース掲載「マレーシアにおける優先権主張を伴う特許出願」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/5717/)をご参照いただきたい。

〔留意事項〕
 方式審査において書類の不備が見つかった場合、出願人に対し、所定の期間内に当該認定に対する意見書の提出および/または当該出願の補正の機会が与えられ、その旨が通知される(特許法第29条(2))。ここでいう「所定の期間」とは、当該通知受領日から3か月である(特許規則26(2))。出願人が所定の期間内に意見書の提出、補正を行わなかった場合には、当該出願は拒絶され得る。

マレーシアにおける特許出願の補正の制限

1.出願人による特許出願の補正(自発補正)
 2022年の特許法改正により、出願人による特許出願の補正に関する規定(特許法第26A条)は削除された。代わりに、特許出願の補正に関する登録官の権限に関する特許法第79A条に補正に関する条文が加えられた。
 改正後の特許法第79A条の規定は以下のとおりである(下線部改正部分)。

(1) 登録官(*)は、本法に基づいて制定される規則に従って特許所有者がする請求に基づき、誤記若しくは明白な錯誤を訂正する目的で、又は登録官が受け入れることができる他の理由で、その特許の明細書、クレーム又は図面を補正すること、又はその特許に関連する他の書類を補正することができる。
(1a) 第(1)項に基づく補正の請求が審査官による特許の再審査を必要とすると登録官が認めた場合、特許権者は、登録官の定める様式による再審査請求書を所定の期間内に所定の手数料の支払いとともに提出しなければならない。
(1b) (1a)に関わらず、出願人は自らの意思で、登録官が定める様式により、所定の手数料の支払いとともに特許の再審査を請求することができる。

(2) 登録官は、補正が補正前に開示されていた事項を超える事項を開示する効果を有する場合又はその特許の付与の時に与えられた保護を拡大する効果を有する場合は、本条に基づく補正を行ってはならない。
(3) 登録官は、以下の場合には、本条に基づく補正を行ってはならない。
(a) 裁判所において特許の有効性が争点となり得る手続が係属中である場合;又は
(b) 登録官に対し、第55a条に基づく異議申立手続が係属中である場合。

(4) (1)に基づくすべての請求には、所定の手数料が添付されなければならない。
(5) (4)に拘らず、特許所有者は、特許登録局が発行した書類における錯誤又は誤記を訂正するための請求に関しては、当該所有者がその錯誤又は誤記を発生させたか又は起こしたものである場合を除き、手数料を納付する義務を負わないものとする。

(*) 特許法第79A条でいう「登録官」については、特許法第8条(1)に「公社の総裁は、特許登録官とする。」と規定されており、日本国特許庁における特許庁長官に相当する。

 出願人は、特許の再審査を請求することができ(特許法第79A条(1b))、また、登録官は、登録官が受け入れることができる理由(裁量)により、明細書、クレーム又は図面の補正を受け入れることができる(特許法第79A条(1))。さらに、登録官は、誤記若しくは明白な錯誤を訂正する目的においても、明細書、クレーム又は図面の補正を認めることができる(特許法第79A条(1))。登録官がどのような場合に出願人による特許出願の補正(自発補正)を受け入れるのかについて確実なことはいえないが、マレーシア知的財産公社(MyIPO)の意図は、審査中の明細書(クレーム)をより明確なものとして提出させようとすることと考えられている(次の記事を参照)。

・マレーシアにおける2022年特許法改正の概要(前編)(2023.2.2)
URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/27703/

 出願人は補正書を、登録官により指定された書式を使用して、規定の手数料の納付と共に提出しなければならない(特許規則46)。
 なお、補正は、原出願における開示範囲を超えてはならない(特許法第30条(3a))。
 
2.登録官の権限による登録特許の補正
 特許付与後の登録特許の補正(日本特許法での「訂正」に相当)は、特許法第79A条に定められている。出願人は補正書を、登録官により指定された書式にて、規定の手数料の納付と共に提出しなければならない(特許規則46A(1))。
 特許付与後の登録特許の補正については、時期的な制限がある。すなわち、裁判所において特許の有効性が争点となり得る手続が係属中である場合や、異議申立手続が係属中である場合は、補正をすることができない(特許法第79A条(3))。また、補正は、原出願における開示範囲を超えてはならない(特許法第30条(3a))。