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メキシコ商標制度概要

 メキシコにおける商標制度は、産業財産法およびその施行規則に準拠している。さらにメキシコは様々な国または地域との間で協定および条約を締結している。知的財産に関する規定を含む複数の自由貿易協定(FTA)に加え、1995年に知的所有権の貿易関連側面に関する協定(TRIPS協定)、2013年にマドリッド協定議定書に加盟している。なお、NAFTA(北米自由貿易協定)は廃止され、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)が2020年7月に発効した。商標については第II部第20章第C節第20.17条~第20.27条に記載されている。また、1976年に工業所有権の保護に関するパリ条約、1900年にメキシコ‐フランス間の工業所有権の相互保護に関する条約にも署名している。

1.未登録商標
(1) 未登録商標の保護
 メキシコにおいて、商標の使用は登録を得るための要件ではないが、未登録商標の使用は商標権侵害を提起されたときに先使用権の抗弁としての権利をもたらす(産業財産法第175条、第258条)。

(2) 未登録商標の使用の要件
 未登録商標の使用が、先使用権として商標権侵害への抗弁として認められるためには、未登録商標が継続的に善意で使用されていなければならない(産業財産法第175条(1))。産業財産法は、要求される使用期間について定めていないが、かかる使用が通常の取引慣行にしたがって行われており、抵触する登録商標の出願日または主張された使用開始日より前の少なくとも3から6か月間にわたり使用されていることが望ましい。

 未登録商標を根拠として第三者の登録商標の有効性を争う場合、その未登録商標の所有者は、登録商標の出願日または主張された使用開始日より前に、その未登録商標を継続的に使用していたことを立証しなければならない(産業財産法第258条(2))。この場合、当該所有者はその未登録商標の善意の使用を立証する必要はない。

2.登録商標
(1) 商標出願
 何人もメキシコにおいて商標出願することができる(産業財産法第170条)。ただし、メキシコでは一商標多区分出願(複数分類をカバーする出願)が認められていないため、同一商標を複数の分類に出願する場合は、各々の分類ごとに別々の出願をしなければならない(産業財産規則第57条)。

 メキシコで商標出願に必要な書類および情報は、以下のとおりである(産業財産法第31条、第214条、第219条)。

(a) 出願人の名前、国籍および住所
(b) 商標名およびカラーの商標見本(該当する場合)
(c) 指定商品または役務(ニース国際分類に準拠)
(d) メキシコにおける商標の使用開始日(該当する場合)
(e) 優先権を主張する場合、優先権情報(優先権の基礎となる出願番号および原出願国)
(f) 委任状

(2) 保護の範囲
 2018年の改正法までは、文字商標・図形商標・結合商標・立体商標という伝統的な商標以外は保護を受けることが困難であった。しかし、改正後、非伝統的商標(新しいタイプの商標)の保護について、従来の視覚による認識可能性(つまり、商標権の保護対象は目に見えるものでなければならない)という要件がなくなった。改正法には、視覚により認識可能なもの(ホログラムの図を含む)、音、匂い、トレードドレスが商標として登録されることが可能であることが明記された(産業財産法第172条第5項、第6項、第7項)。

 商標としての保護が認められない標章に関して、産業財産法第173条には、商標出願を拒絶する法律上の理由が規定されている。以下に拒絶理由の一部を示す。

・標章がその商品または役務の品質、原材料、効能、用途、数量等を表す記述的語句または一般名称である場合(第4項)
・標章が特定の商品の製造と関連する地理的表示または地名を含んでいる場合(第11項)
・標章が一般に使用されている形状・標識、または商品の性質もしくは機能から生じる形状のみからなる場合(第2項)

 ただし、多くの拒絶理由は、先行する類似商標(同一または密接に関連した商品または役務をカバーしている商標)の登録または出願による混同の虞に基づくものである(産業財産法第173条第18項)。

 特定の商標が先行商標と混同を生じるほど類似しているかどうかを判断する基準は、連邦裁判所の判例に示されている。したがって、審査官は判例に基づいた下記の6項目を考慮に入れなければならない。

 ・商標の外観上、称呼上および観念上の類似点
 ・全体として考慮した場合における商標の類似点
 ・指定商品または指定役務の類似点
 ・商品または役務と関連する分野の需要者
 ・流通経路
 ・図案と文字の組み合わせ商標の場合、図案より文字部分を重要な識別要素として考慮すること

 さらに、メキシコにおいて有名な商標は、認知度が高いレベルの「著名商標」と「著名商標」より認知度が低いレベルの「周知商標」のうち、いずれか一方のレベルで保護を受けることができる(産業財産法第190条)。メキシコにおいて一般的に有名な商標は、著名商標とみなされる。周知商標は、より限定された範囲で有名な商標であって、例えば特定の分野の需要者または取引業界においてのみ有名な商標が挙げられる。

 メキシコ産業財産庁(Instituto Mexicano de la Propiedad Industrial (IMPI))は、商標が著名または周知である旨の証明書を発行する権限を与えられている(産業財産法第191条)。

3.審査手続
 商標出願されると、審査官は最初に方式審査を行うが、その際に指定商品または役務の分類についても審査する。産業財産法では分類に関する最終決定権はIMPIにあるとしている。

 方式審査後、出願の公告が行われる。異議申立期間は、出願公告の翌日から1か月以内であり、利害関係人は異議を申し立てることができる(産業財産法第221条)。

 異議申立がなく異議申立期間が満了した場合、実体審査が開始される(産業財産法第225条)。実体審査において拒絶理由が見つかると、審査官は拒絶理由通知を送達し、出願人には応答書を提出するための期間が与えられる(産業財産法第225条)。

 IMPIは応答書を審査し、最終的に登録証または拒絶査定書を送達する(産業財産法第230条)。拒絶査定に対して不服がある場合、出願人はIMPIまたは裁判所のいずれかに不服申立を提起することができる(産業財産法第329条、第407条)。

 特筆すべき重要な点として、IMPIは可能な限り拒絶理由通知の送達回数を抑えようとしているものの、産業財産法には特段制限が設けられていないため、方式審査と実体審査のいずれの段階において何度も拒絶理由通知が送達される可能性がある。

4.異議申立
 出願の公告後、利害関係人は公告日から1か月以内に異議申立書を提出することができる(産業財産法第221条)。
 
 異議申立があった場合、出願人が妥当とみなす証拠を述べ、かつ、提示することができるように、異議申立について出願人にも通知される。出願人に、異議申立に関して出願人の権利が妥当なものであることを明示するために、出願人に2か月の期間が付与される(産業財産法第225条)。
 異議申立手続は、単独では審理されない。異議申立を受けた出願は、通常の審査手続が保留されることなく、異議申立人の異議理由および出願人の答弁に関しては通常の実体審査の中で検討される(産業財産法第224条、第225条)。

 当該出願が拒絶された場合、産業財産庁は異議申立人に対して当該出願の拒絶を通知する(産業財産法第230条)。当該出願が登録された場合も、産業財産庁は異議申立人に対して当該出願の登録を通知する。

5.登録
 商標出願に対して異議申立がなく異議申立期間が満了し、その後の実体審査において拒絶理由が発見されなかった場合、または出願に対して異議申立が行われたが出願が承認された場合、IMPIは、当該商標出願の出願日の日付で商標を登録し,登録証を出願人に交付する(産業財産法第230条、第231条)。商標出願に対する拒絶理由通知が送達されなかった場合、出願日から6か月以内に登録証が交付される。

 商標登録は登録日から10年間有効に存続し、10年毎に更新することができる(産業財産法第178条)。商標登録の更新出願は、満了日の6か月前から6か月後までの間に申請することができる(産業財産法第237条)。この期間内での申請であれば、満了日を過ぎていても公費の追加発生は無い。更新出願するには、更新出願時にメキシコにおいて当該商標が使用されていなければならない。

6.使用の宣誓
 商標の権利者は、IMPIに対して、商標が使用されている指定商品又は役務を示して、その実際かつ有効な使用を宣言し、この宣言には、所要な手数料の納付を伴わなければならない(産業財産法第233条)。宣言は、登録が付与された時点から第3年目の終了後、3か月以内に、IMPIに提出されなければならない。
 登録の保護範囲は、使用が宣言されている商品又は役務に限って存続し、権利者が使用の宣言を行わない場合、登録は、IMPIの処分を必要とすることなく法律により失効する。

7.登録の抹消
(1) 放棄
 商標権者は、IMPIに申請書を提出することにより、自己の商標登録を自発的に抹消することができる(産業財産法第262条)。

(2) 取消
 指定商品または指定役務に関して商標が継続して3年間使用されていない場合、下記の場合を除き、その登録は不使用を理由に取り消され、商標登録簿から抹消される(産業財産法第260条)。

・正式な使用許諾を受けた使用者(専用使用権者や通常使用権者)が、取消請求の提起日の直前の継続する3年間に当該商標を使用していた場合(産業財産法第235条)

・商標権者に不使用の正当な理由がある場合(例えば、当該商標の指定商品または指定役務に適用される輸入制限その他の行政規制)(産業財産法第235条)

・実際かつ有効な使用の宣言が、第233条の条件に基づいてなされていない場合(産業財産法第260条)

(3) 無効
 商標登録は、下記のいずれかの無効理由に基づき、商標登録簿から抹消される(産業財産法第258条)。

・登録商標が、当該商標の出願日より前にメキシコまたは外国において同一または類似の商品または役務に関して使用されていた別の商標と同一または混同を生じるほど類似している場合。ただし、先使用の権利を主張する当事者は、登録商標の出願日または主張された使用開始日より前にメキシコまたは外国において継続的に自己の商標を使用していたことを立証しなければならない(産業財産法第258条(2))。かかる訴訟の出訴期限は、当該登録の公告日から5年以内である。

・願書に宣言された最初の使用日の信憑性を登録の権利者が証明せず、出願書類に記載された虚偽の情報に基づいて登録が付与された場合(産業財産法第258条(3))。かかる訴訟の出訴期限は、当該登録の公告日から5年以内である。

・既に同一または類似の商標が、同一または類似の商品または役務に関して登録されていた場合(産業財産法第258条(4))。かかる訴訟の出訴期限は、当該登録の公告日から5年以内である。

・外国で登録されている商標の商標権者から同意を得ていない代理人、代表者、使用者または販売業者により、当該商標の登録が取得された場合(産業財産法第258条(5))。かかる訴訟に適用される出訴期限はない。

・産業財産法または登録付与時に有効な法律に違反して、登録が付与された場合は、当該登録を取り消す一般的根拠が存在するので、かかる訴訟に適用される出訴期限はない。

・2018年の改正は、商標登録の無効化の原因として、「不誠実に得られた商標出願」を理由の1つに加えた(産業財産法第258条(6))。どのような場合に、登録を失効させる原因としての「不誠実」とみなされるのかはまだ明確ではない。同一または類似の商品またはサービスに使用された同一または混同の虞のある商標の、メキシコまたは海外での早期および継続的使用に起因する無効化訴訟を提起する制限条項に規定されている期間は、メキシコの商標登録の官報の発行日から「3年以内」であったものが「5年以内」に延長された。期間の延長に起因する失効は、出願日に関係なく、2018年8月10日以降に官報が発行された商標登録にのみ影響する。

8.未登録商標の権利
 商標登録は、当該登録商標の出願日または宣誓された使用開始日より前に同一または類似の商標を継続的に善意で使用していた第三者に対しては、対抗力を有しない(産業財産法第175条(1))。

 第三者による無許可の使用に対して、未登録の権利を直接行使することはできない。ただし、トレードドレスなどの識別性のある標識に対する権利は、登録を得ずとも、不正競争行為を理由に、権利行使することができる。

9.所有権の変更
 メキシコにおいて、商標の所有権の変更を登録する場合、所有権の変更を証明する書類を提出する必要がある(産業財産法第250条)。

 メキシコで作成された書類については認証の必要はないが、外国で作成された書類や外国知的財産官庁において作成された書類は、当該国のメキシコ領事による認証またはアポスティーユによる認証が必要となる。ハーグ条約締約国で作成された書類の場合は、「外国公文書の認証を不要とする条約(略称:認証不要条約)」(1961年10月5日のハーグ条約)に基づく付箋(=アポスティーユ)による外務省の証明を以って、当該国にある大使館・(総)領事館の領事認証があるものと同等のものとして、提出先国で使用することができる。

 公的ではない私的な所有権の変更が記されたライセンス契約書および譲渡契約書のような書類は、形式を問わず有効である。ただし、外国で作成された場合は、公証人による認証のみならず、さらに当該国のメキシコ領事による領事認証またはアポスティーユによる認証が必要となる。

 所有権の変更の登録は、IMPIによる変更申請書類の受領通知から約2か月を要する。

メキシコ商標制度概要

メキシコにおける商標制度は、1991年産業財産法(改正)およびその施行規則に準拠している。さらにメキシコは様々な国または地域との間で、知的財産に関する規定を含む複数の自由貿易協定(FTA)に加え、1995年に知的所有権の貿易関連側面に関する協定(TRIPS協定)、1976年に工業所有権の保護に関するパリ条約、1900年にメキシコ‐フランス間の工業所有権の相互保護に関する条約にも署名している。

 

1. 未登録商標

1-1. 未登録商標の保護

メキシコにおいて、商標の使用は登録を得るための要件ではないが、未登録商標の使用は、第三者に対して権利行使可能な権利、および商標権侵害を提起されたときに先使用権の抗弁としての権利をもたらす。

 

1-2. 未登録商標の使用の要件

未登録商標の使用が、先使用権として商標権侵害への抗弁として認められるためには、未登録商標が継続的に善意で使用されていなければならない。産業財産法は、要求される使用期間について定めていないが、かかる使用が通常の取引慣行にしたがって行われており、抵触する登録商標の出願日または主張された使用開始日より前の少なくとも3から6か月間にわたり使用されていることが望ましい。

未登録商標を根拠として第三者の登録商標の有効性を争う場合、その未登録商標の所有者は、登録商標の出願日または主張された使用開始日より前に、その未登録商標を継続的に使用していたことを立証しなければならない(先使用権)。この場合、当該所有者はその未登録商標の善意の使用を立証する必要はない。

 

2. 登録商標

2-1. 商標出願

何人もメキシコにおいて商標出願することができる。ただし、メキシコでは一商標多区分出願(複数分類をカバーする出願)は認められていないため、同一商標を複数の分類に出願する場合は、各々の分類ごとに別々の出願をしなければならない。

メキシコで商標出願に必要な書類および情報は、以下のとおりである。

(a)出願人の名前、国籍および住所

(b)商標名およびカラーの商標見本(該当する場合)

(c)指定商品または役務(ニース国際分類に準拠)

(d)メキシコにおける商標の使用開始日(該当する場合)

(e)優先権主張する場合、優先権情報(優先権の基礎となる出願番号および基礎出願国)

(f)委任状

 

2-2. 保護の範囲

2018年の改正法までは、文字商標・図形商標・結合商標・立体商標という伝統的な商標以外は保護を受けることが困難であった。しかし、改正後、非伝統的商標(新しいタイプの商標)の保護について、従来の視覚による認識可能性(つまり、商標権の保護対象は目に見えるものでなければならない)という要件がなくなった。改正法には、視覚による認識可能なもの(ホログラフィックの図を含む)、音、匂い、トレードドレスが商標として登録されることが可能であることが明記された(産業財産法第89条第5項、第6項、第7項)。改正法の規則や審査基準がまだ公開されていないため、登録可能となる新しいタイプの商標の出願方法については未定である。しかし、近年、世界的に新しいタイプの商標を認める国がますます増えてきている。メキシコが保護を認めるようになったことで、ラテンアメリカ諸国の中で保護を明確に認めていないのはブラジルだけとなった。

 

商標としての保護が認められない標章に関して、産業財産法第90条には、商標出願を拒絶する法律上の理由が規定されている。以下に拒絶理由の一部を示す。

・標章がその商品または役務の品質、原材料、効能、用途、数量等を表す記述的語句または一般名称である場合

・標章が特定の商品の製造と関連する地理的表示または地名を含んでいる場合

・標章が一般に使用されている形状・標識、または商品の性質もしくは機能から生じる形状のみからなる場合

ただし、多くの拒絶理由は、先行する類似商標(同一または密接に関連した商品または役務をカバーしている商標)の登録または出願による混同の虞に基づくものである。

 

特定の商標が先行商標と混同を生じるほど類似しているかどうかを判断する基準は、連邦裁判所の判例に示されている。したがって、審査官は判例に基づいた下記の6項目を考慮に入れなければならない。

・商標の外観上、称呼上および観念上の類似点

・全体として考慮した場合における商標の類似点

・指定商品または指定役務の類似点

・商品または役務と関連する分野の需要者

・流通経路

・図案と文字の組み合わせ商標の場合、図案より文字部分を重要な識別要素として考慮すること

 

さらに、メキシコにおいて有名な商標は、認知度が高いレベルの「著名商標」と「著名商標」より認知度が低いレベルの「周知商標」のうち、いずれか一方のレベルで保護を受けることができる。メキシコにおいて一般的に有名な商標は、著名商標とみなされる。周知商標は、より限定された範囲で有名な商標であって、例えば特定の分野の需要者または取引業界においてのみ有名な商標が挙げられる。

 

メキシコ産業財産庁(Instituto Mexicano de la Propiedad Industrial (IMPI))は、商標が著名または周知である旨の証明書を発行する権限を与えられている。

 

3. 審査手続

商標出願されると、審査官は最初に方式審査を行うが、その際には指定商品または役務の分類についても審査する。産業財産法では分類に関する最終決定権はIMPIにあるとしている。

方式審査後、出願の公告が行われる。異議申立期間は、出願公告の翌日から1か月以内であり、何人でも異議を申し立てることができる。

異議申立がなしに異議申立期間が満了した場合、実体審査が開始される。実体審査において拒絶理由が見つかると、審査官は拒絶理由通知を送達し、出願人には応答書を提出するための期間が与えられる。

IMPIは応答書を審査し、最終的に登録証または拒絶査定書を送達する。拒絶査定に対して不服がある場合、出願人はIMPIまたは裁判所のいずれかに不服申立を提起することができる。

特筆すべき重要な点として、IMPIは可能な限り拒絶理由通知の送達回数を抑えようとしているものの、産業財産法には特段制限が設けられていないため、方式審査と実体審査のいずれの段階において何度も拒絶理由通知が送達される可能性がある。

 

4. 異議申立

出願の公告後、何人も公告日から1か月以内に異議申立書を提出することができる。1か月の異議申立期間の満了後に、異議申立を受けた出願は、10営業日以内に公報に公告され、当該出願人は、当該公告日から1か月以内に異議申立に対する答弁書を提出することができる。答弁書を提出しなかった場合でも、異議申立の理由を認めたとみなされることはない。

異議申立手続は、単独では審理されない。異議申立を受けた出願は、通常の審査手続が保留されることなく、異議申立人の異議理由および出願人の答弁に関しては通常の実体審査の中で検討される。

当該出願が拒絶された場合、産業財産庁は異議申立人に対して当該出願の拒絶を通知する。当該出願が登録された場合も、産業財産庁は異議申立人に対して当該出願の登録を通知する。

 

5. 登録

商標出願に対して異議申立がなく異議申立期間が満了した場合、または出願に対して異議申立が行われたが出願が承認された場合、IMPIは、当該商標出願の出願日の日付で商標を登録し,登録証を出願人に交付する。商標出願に対する拒絶理由通知が送達されなかった場合、出願日から6か月以内に登録証が交付される。

商標登録は出願日から10年間有効に存続し、10年毎に更新することができる。商標登録の更新出願は、満了日の6か月前から6か月後までの間に申請することができる。この期間内での申請であれば、満了日を過ぎていても公費の追加発生は無い。更新出願するには、更新出願時にメキシコにおいて当該商標が使用されていなければならない。

 

6. 登録の抹消

6-1. 放棄

商標権者は、IMPIに申請書を提出することにより、自己の商標登録を自発的に抹消することができる。

 

6-2. 取消

産業財産法第130条および第152条(II)の規定に従い、指定商品または指定役務に関して商標が継続して3年間使用されていない場合、下記の場合を除き、その登録は不使用を理由に取り消され、商標登録簿から抹消される。

・正式な使用許諾を受けた使用者(専用実施権者や通常実施権者)が、取消請求の提起日の直前の継続する3年間に当該商標を使用していた場合

・商標権者に不使用の正当な理由がある場合(例えば、当該商標の指定商品または指定役務に適用される輸入制限その他の行政規制)

 

6-3. 無効

商標登録は、産業財産法第151条に定められた下記のいずれかの無効理由に基づき、商標登録簿から抹消される。

・登録商標が、当該商標の出願日より前にメキシコまたは外国において同一または類似の商品または役務に関して使用されていた別の商標と同一または混同を生じるほど類似している場合。ただし、先使用の権利を主張する当事者は、登録商標の出願日または主張された使用開始日より前にメキシコまたは外国において継続的に自己の商標を使用していたことを立証しなければならない。かかる訴訟の出訴期限は、当該登録の公告日から3年以内である。

・メキシコにおける商標の使用開始日等、出願書類に記載された虚偽の情報に基づいて登録が付与された場合。かかる訴訟の出訴期限は、当該登録の公告日から5年以内である。

・既に同一または類似の商標が、同一または類似の商品または役務に関して登録されていた場合。かかる訴訟の出訴期限は、当該登録の公告日から5年以内である。

・外国で登録されている商標の商標権者から同意を得ていない代理人、代表者、使用者または販売業者により、当該商標の登録が取得された場合。かかる訴訟に適用される出訴期限はない。

・産業財産法または登録付与時に有効な法律に違反して、登録が付与された場合は、当該登録を取り消す一般的根拠が存在する。かかる訴訟に適用される出訴期限はない。

・2018年の改正案は、商標登録の無効化の原因として、悪意の商標出願を理由とした。どのような場合に、登録を失効させる原因としての「悪意」とみなされるのかはまだ明確ではない。同一または類似の商品またはサービスに適用された同一または混同の虞のある商標の、メキシコまたは海外での早期および継続的使用に起因する無効化訴訟を提起する制限条項に規定されている期間は、メキシコの商標登録の官報の発行日から「3年以内」であったものが「5年以内」に延長された。期間の延長に起因する失効は、出願日に関係なく、2018年8月10日以降に官報が発行された商標登録にのみ影響する。

 

7. 未登録商標の権利

産業財産法第92条(I)の規定に基づき、商標登録は、当該登録商標の出願日または主張された使用開始日より前に同一または類似の商標を継続的に善意で使用していた第三者に対しては、対抗力を有しない。

第三者による無許可の使用に対して、未登録の権利を直接行使することはできない。ただし、トレードドレスなどの識別性のある標識に対する権利は、登録を得ずとも、産業財産法第213条(I)および(IX)に定められた不正競争行為を理由に、権利行使することができる。

 

8. 所有権の変更

メキシコにおいて、商標の所有権の変更を登録する場合、所有権の変更を証明する書類を提出する必要がある。

メキシコで作成された書類については認証の必要はないが、外国で作成された書類や外国知的財産官庁において作成された書類は、当該国のメキシコ領事による認証またはアポスティーユによる認証が必要となる。ハーグ条約締約国で作成された書類の場合は、「外国公文書の認証を不要とする条約(略称:認証不要条約)」(1961年10月5日のハーグ条約)に基づく付箋(=アポスティーユ)による外務省の証明を以って、当該国にある大使館・(総)領事館の領事認証があるものと同等のものとして、提出先国で使用することができる。

公的ではない私的な所有権の変更が記されたライセンス契約書および譲渡契約書のような書類は、形式を問わず有効である。ただし、外国で作成された場合は、公証人による認証のみならず、さらに当該国のメキシコ領事による領事認証またはアポスティーユによる認証が必要となる。

所有権の変更の登録は、IMPIによる変更申請書類の受領通知から約2か月を要する。

 

メキシコにおける「商標の使用」と使用証拠

 出願をする際に、メキシコにおける使用開始日を主張することは、主に次の二つの効果を有する。

(1)出願した商標が、第三者名義の登録商標の存在を根拠として拒絶された場合であって、当該引用商標が登録後3年を経過していない際には、拒絶された商標の出願人は、拒絶された商標が当該引用商標より先に使用していた場合には、先使用を根拠として当該引用商標を取消すことができる。

(2)使用開始日を主張している登録商標に対して登録の取消を意図している第三者は、当該登録商標の使用開始日以前に使用していることを立証しなければならない。

 

 使用開始日を主張するには、単に願書に記載するだけで十分であり、使用証拠を提出する必要はない。しかし、使用開始日に対する疑義が生ずる場合に備え、使用開始日が真実である証拠(送り状等の書類)を保管しておくことが重要である。ただし、使用開始日が虚偽であった場合、登録商標の無効理由となる。したがって、商標が出願日前にメキシコで使用されている場合、書類で証明できる最も早い使用開始日を主張することを推奨する。

 

 また、2018年8月10日以降に登録された商標の商標権者は、商標登録証の発行から3年目の日から3か月以内にメキシコ国内において当該商標を実際に効果的に使用した旨の宣誓を手数料とともに提出しなければならない(産業財産法第128条)。使用宣誓書を提出しないと、商標登録が失効する可能性がある(同第152条)。おそらく、本制度は商標の保護を目的として出願されたものの、メキシコで使用されていない商標登録の存在を防ぐために制定された条文であると考えられる。

 

 なお、商標登録を更新するときも、商標権者自身または正式な代理店により当該商標を実際に使用していることを宣誓しなければならない。さらに重要なのは、登録商標を更新するときに区分ごとに商標の使用が必要になることである。すなわち、メキシコでは一商標多区分出願(複数分類をカバーする出願)は認められていないため、指定商品の異なる同一商標が各区分毎に登録されることになる。そして、複数の区分に商品・役務がある登録商標の場合、1つの区分の商品またはサービスで登録商標の使用があった場合でも、当該区分での使用が他の区分の同一商標の登録更新のための使用として認められない。つまり、区分毎に使用されていなければ、登録商標の更新ができなくなる。一方、1つの区分に複数の指定商品・役務が登録されている登録商標の場合、登録に指定されている商品または役務の1つが使用されていれば、その登録商標に指定されているすべての商品または役務の更新をサポートできるようである。登録商標の更新に関する新規則は、2018年8月10日以降に行われる登録商標の更新に適用され、更に、2018年8月10日以降に登録となった登録商標の全てに適用される。

 

 その関係で、産業財産法第130条により、登録商標がメキシコにおいて3年間継続して使用されない場合は、当該登録商標は不使用を理由とする取消の対象となる。したがって、第三者により不使用取消請求を受けた場合、商標権者は、当該登録商標の指定商品または役務に関して、取消請求日前3年以内に、商標権者または登録された使用権者により当該登録商標をメキシコにおいて継続して使用していたことを立証しなければならない。

 

 上記の使用の立証が不可能な場合、不使用が商標権者の意思や制御の及ばない状況によって生じたこと、およびそのような状況が登録商標の使用の妨げとなったことを立証すれば、不使用取消を免れることができる。このような状況の具体例としては、登録商標の指定商品または役務に対して適用された輸入制限その他の行政規制が挙げられる。

 

 商標の使用証拠として、法はあらゆる種類の書類を認めている。しかし、メキシコ産業財産庁(Instituto Mexicano de la Propiedad Industrial:IMPI)によって推奨されている使用証拠は、メキシコでの商品販売または役務提供を示す送り状である。メキシコで発行された送り状には、商標権者名または使用権者名または代理店名、商標、商品または役務が表示されていることが必要である。

 

 販売されている商品または提供されている役務に関して、送り状にNo.305というような品番を使用した場合、品番だけでは商品や役務を特定できないため、不使用取消請求人からの攻撃の根拠となるため、送り状には具体的な商品名を表示すべきである。

 

 また、商標権者と商標権者の業務提携先との間で、商標権使用許諾契約書または代理店契約書を締結しておくことが極めて重要である。

 

 送り状とは別に、広告、新聞記事または雑誌記事といった資料も、使用証拠として利用できる。ただし、これらの資料は、第三者により発行され、かつ日付が特定できることが必要である。例えば、商標権者によって発行されたカタログは、発行日が真実か改ざんされているかを確認することが不可能であるという理由で、証拠として認められない可能性がある。しかし、第三者によって発行された雑誌記事であれば、発行日が改ざんされないため、証拠として採用される。

 

 以上のように、不使用取消請求を受けた場合は、商標権者は当該登録商標を維持するために、メキシコで使用されていることを立証しなければならない。

 

【留意事項】

 登録商標がメキシコにおいて3年間継続して使用されていない場合、商標権者が依然として当該商標を保護したいのであれば、当該登録商標が有効に存続している場合であっても、当該商標を再出願することが推奨される。なぜなら、再出願が登録されれば、当該商標の使用開始まで新たに3年間の猶予が発生するからである。ただし、再出願を行う場合は、有効に存続している当該登録商標によって拒絶を受けるため、当該登録商標を自発的に抹消する必要がある。

 また、2018年改正法前までは、更新時に使用宣誓書を提出する義務があるだけであったが、2018年改正法により、登録後3年目の日から3月以内にも、使用宣誓書を提出しなければならなくなった。使用宣誓書を提出しない場合、当該登録は自動的に失効することとなる。この新たに要求された使用宣誓書の提出期限は、登録後3年目の日から3月という短い期間であるため、登録維持管理には十分な注意が必要である。