メキシコにおける指令書への応答期間と期間延長
すべてのメキシコ特許出願は、方式審査と実体審査を受ける(メキシコ産業財産法第106条、第110条)。
最初に受ける方式審査は、出願書類の方式的な面、例えば、譲渡証、翻訳文、優先権証明書、委任状等の出願に必要な書類の有無、ならびに、余白、書体、文字の大きさおよび図面等の書面の書式・体裁に関わる。方式要件が満たされていない場合には、出願人に対し指令書によりその不備が通知される(メキシコ産業財産法第106条、メキシコ産業財産規則第5条、特許、実用新案ガイドライン4.2)。
方式審査段階においては、メキシコ産業財産庁により指摘された方式に関する拒絶理由のすべてを解消するために、出願人には、最大で2回の指令書が送付される。ただし、2回目の指令書への応答においても、方式要件を満さないと判断された場合、その出願は、さらなる応答の機会を与えられることなく、放棄されたものとみなされる(メキシコ産業財産法第106条、第117条、特許、実用新案ガイドライン4.2.13)。
方式審査指令書に対する応答書の提出には、出願人に、その指令書の通知日の翌就業日から通常2か月の応答期間が与えられる。その応答期間は、さらに2か月の期間延長が可能である。その2か月の追加期間は自動的に与えられ、延長取得について事前の申請は必要としない(メキシコ産業財産法第106条、第117条、メキシコ産業財産規則第5条)。なお、その延長に関する庁費用は、実務上、応答書を提出する際に納付することになる。
すなわち、メキシコにおいては、方式審査指令書に対する応答書を提出することができる期間は、最大で、指令書の通知日の翌就業日からから4か月である。
出願が方式的な要件をすべて満たし、出願日から18か月が経過した後、その出願は官報において公開される。公開から2か月以内の第三者からの情報提供期間の満了後、出願は実体審査に入る。(メキシコ産業財産法第107条、第109条、メキシコ産業財産規則第39条)。
実体審査においては、メキシコ産業財産庁により指摘される拒絶理由すべてを解消するために、出願人には、最大で4回の指令書が送付される。第4回の最後の指令書への応答においても、特許要件を満たさないと判断された場合には、拒絶査定が発行される。拒絶査定に対して不服の場合、更なる手続は、連邦行政裁判所(TFJA)に対して行うこととなる(特許、実用新案ガイドライン4.2.13、メキシコ産業財産法第111条および第407条、連邦行政手続法第83条から第86条)。
方式審査指令書と同様、実体審査指令書に対する応答書の提出には、出願人に対し、その指令書の通知日の翌就業日から通常2か月の応答期間が与えられる。さらに、その応答書を提出するため、1回のみ2か月の期間延長が可能である。その2か月の延長期間は、自動的に与えられ、その延長取得について事前の申請は不要である(メキシコ産業財産法第111条、第117条、メキシコ産業財産規則第5条、第45条)。なお、その延長に関する庁費用は、実務上、応答書を提出する際に納付することになる。
方式審査指令書と同様、実体審査指令書に対する応答書を提出することができる期間は最大でその指令書の通知日の翌就業日から4か月であり、これ以上は延長することができない。応答最終期限日が、祝日あるいは休日であった場合には、応答期限日は、次の開庁日とみなされる(メキシコ産業財産法第21条、メキシコ産業財産規則第4条)。
出願人からの応答書の提出に対して、メキシコ産業財産庁は、次の指令書(次の実体審査指令書、特許査定あるいは拒絶査定)を、その応答書の受領から4か月以内に発行する(メキシコ産業財産庁に対する諸手続の回答期限を定める覚書第12条)。したがって、通常、出願人は、応答書を提出してから4か月以内に次の指令書を受領するものと想定することができる。ただし、世界5大特許庁(日本、米国、欧州、中国、韓国)の審査手順に準じるメキシコ産業財産庁の審査基準に基づいて、審査官は、対応する外国出願の審査経過を参照することができ、対応外国出願でのさらなる審査結果を待って、次の指令書を発行することもできる。したがって、上記の4か月以内という期間は、対応外国出願の審査状況によって延びる場合もある。
方式審査指令書および実体審査指令書と同様、特許査定を受領すると、認可費用の納付を行うため、出願人は、その通知の日の翌就業日から通常2か月の納付期間が与えられる。さらに、認可費用の納付のため、1回のみ2か月の期間延長が可能である。その2か月の延長期間は自動的に与えられ、延長取得について事前の申請は不要である(メキシコ産業財産法第111条、第117条、メキシコ産業財産規則第5条)。なお、その延長に関する庁費用は、実務上、認可費用を納付する際に同時に納付することになる。
上述のとおり、現在の応答期間に関連する規定によれば、出願人は、延長費用を前もって負担する必要がなく、最終期限日まで指令書への対応の是非を決定することができる。
メキシコにおける特許の分割出願についての留意点
1.分割出願についての基本的な要件
2020年11月5日施行の改正産業財産法では、特許の分割出願について、その基本的な要件が第100条に定められている。
メキシコ産業財産法 第100条 自発的又は本庁の要請により分割出願を行う場合、出願人は以下の要件を充足しなければならない。 (1) 各出願に必要な、明細書、クレーム及び図面を提出する。ただし、原出願にすでに含まれている優先権主張に関する書類とその翻訳文、および、該当する場合は、権利の譲渡書ならびに代理人委任状は省略できる。 提出された図面及び明細書において、原出願で意図された発明を修正するような変更をしてはならない。 (2) 分割出願においては、追加の発明主題や最初に提出された範囲を超えた発明主題を含むことなく、原出願とは異なる発明をクレームしなければならない。 分割出願においてクレームされず、原出願にも分割出願にも含まれなくなった発明又はそのような一群の発明は、原出願又は当該分割出願において再びクレームすることはできない。 (3) 分割出願は、本法第111条に定める期間内、または自発的な分割の場合は本法第102条に定める期間内に提出しなければならない。 本法第113条の期間内において、本庁の意見で分割出願が適切であると認められるか、または出願人が要求するかのいずれかでない限り、分割出願に基づいて分割出願をすることはできない。 本法第105条に基づいて出願日とみなされる原出願日の利益は、分割出願が本条に定められた要件を充足しない場合には享受することができない。 |
※引用条文にいう「本庁」とは、「メキシコ産業財産庁」のことである。
産業財産法第100条の分割要件を満たしていない場合は、産業財産法第105条の出願日の認定要件を満たして認められた原出願の出願日の利益を享受できないことになるので、注意が必要である。
2.分割出願の方式要件
分割出願では、明細書、クレームおよび図面を提出する必要がある(産業財産法第100条(1))。ここで、明細書および図面において、原出願で意図された発明を修正するような変更をしてはならないことに留意しなければならない。
原出願にすでに含まれている優先権主張に関する書類とその翻訳文、権利の譲渡書ならびに代理人委任状は省略できる(産業財産法第100条(1))。
また、通常の出願において必要とされる要約(産業財産法第106条(6)(c))は、分割出願では必須ではないものと解される。
3.分割出願の時期的要件
3-1.自発的に提出される分割出願
従来から、特許出願の手続中および特許の付与まで、いつでも自発的な分割出願を提出できたものの、その明文規定がなかったところ、改正により自発的な分割出願が可能であること、および提出期限が明確に規定された(産業財産法第100条(3)、第102条)。
メキシコ産業財産法 第102条 出願人は、本法第100条の規定に従い、必要に応じて、優先権主張して原出願日を各分割出願の出願日として、係属中の原出願を自発的に分割することができる。 前項の目的のために、原出願が不受理、拒絶、放棄又は取下の査定発行前、若しくは、特許協力条約に基づく国際出願の取下とみなされる前、までは原出願は係属中であるとみなす。 出願人は、特許査定又は登録査定を通知された場合でも、本法第110条に規定されている2月以内に原出願を自主的に分割することができる。 |
出願人は、原出願が係属中は分割出願することができ、特許査定や登録処理が通知された場合でも、特許許可の通知から2か月以内であれば分割することができる。この2か月は、産業財産法第110条に規定されている、登録のために公報発行の料金および初年度の年金の支払証明を提出することができる期間である。
3-2.単一性欠如の拒絶に対する応答時に提出される分割出願
改正前の産業財産法第44条には、出願が発明の単一性を満たしていない場合に、分割出願の通知が出願人になされる旨が規定されていたが、改正された産業財産法では、当該規定は第113条に規定されている。
メキシコ産業財産法 第113条 本法第111条記載の拒絶理由が、発明の単一性要件を満たさない場合、本庁はクレームの第1クレーム記載の発明のみを主発明とみなし、それから、本法で定められた他の要件の充足性を評価する。 この場合、本庁は出願人に主発明のクレームに限定することを要求し、必要があれば、本法第111条に記載の期限内に対応する分割出願を要求する。 分割出願は、本法に定められた要件に準拠している場合、当初の出願日及び必要な場合には適切な優先権主張日を保持する。 |
産業財産法第111条に記載の期限とは、いわゆる拒絶理由通知の応答期限のことである。実体審査の結果、請求された特許の付与に対する拒絶理由が発見された場合、メキシコ産業財産庁は出願人に対して、2か月の期間内に応答することを要求することができる(産業財産法第111条)。
メキシコ産業財産法 第111条 実体審査の結果、請求された特許の付与に対する拒絶理由が発見された場合、本庁はその権限により、出願人に対して、2月の期間内に、応答すること、情報又は書類を提示することを要求することができ、必要な場合には、該当する補正箇所を示して補正することを要求することができる。(以下省略) |
また、産業財産法第113条に規定される単一性違反の拒絶理由通知を受けた場合にのみ、分割出願からさらに分割出願をすることが可能になった点に注意する必要がある(産業財産法第100条(3))。これは、分割出願を親出願とする分割は、自発的には行うことができなくなったことを意味し、分割出願の実務における大きな変更点の一つである。
4.分割出願のクレームに関する要件
従来から、分割出願は、原出願にて開示された事項のみを含むものでなければならず、さらに、分割出願でクレームされる発明は親出願でクレームされる発明とは異なるものでなければならないとされていた。この点が改正法では明確にされ、分割出願においては、追加の発明主題や最初に提出された範囲を超えた発明主題を含むことなく、原出願とは異なる発明をクレームしなければならないとされた(産業財産法第100条(2))。
さらに、分割出願のクレームに関する実務における留意点は、分割出願においてクレームされず、原出願にも分割出願にも含まれなくなった発明またはそのような一群の発明は、原出願または当該分割出願において再びクレームすることはできないと条文に明記されたことである(産業財産法第100条(2))。したがって、例えば、発明の単一性違反の拒絶理由通知を受けて分割出願を検討する際に、事業との関連で発明の保護を求める範囲が変動する可能性のある場合は、分割出願において必要なクレームを全て記載しておくことが望ましい。
5.分割出願の公開
分割出願の公開は、方式審査が承認された後、出願日または場合によっては優先日から18か月の期間が経過した後に行われる(産業財産法第107条)。
6.分割出願と無効理由
分割出願の結果、産業財産法第100条の規定に違反して行われた事項に対応するクレームを含む場合、特許は無効とされる(産業財産法第154条(4))。無効審判は、公報で特許が公示された日からいつでも請求することができる。
メキシコにおける特許の補正の制限
1.パリ条約優先権出願およびPCT出願の国内移行前の内容変更
メキシコでは、産業財産法および同規則に、先に提出された出願(パリ条約優先権出願またはPCT出願)の修正・内容変更に関する規定がなく、メキシコは、PCT出願の国内移行に際して、国際出願から内容を変更して移行手続をすることが認められる中南米では数少ない国の一つである。メキシコの実務では、対応する国際出願の国際公開から明細書およびクレームの内容を変更した出願書類の提出が認められる。つまり、パリ条約優先権出願およびPCT出願のメキシコ国内移行に際して、明細書およびクレームとして、優先権出願時またはPCT出願時の明細書およびクレームに基づいて手続できるだけでなく、優先権の基礎となる出願(日本企業の多くの場合は日本出願)の明細書およびクレーム、または、それらの内容に変更を加えた書面で移行手続を行うことも可能である。ただし、メキシコへの国内移行手続時の内容の変更は、優先権の基礎となる出願の当初の開示範囲を超えてはならず、優先権出願またはPCT出願に対して追加された場合、追加された事項については優先権の恩恵は受けられない。
2.特許付与前の補正
出願が提出された後、自発的に、あるいは、IMPIからの庁指令に応じて特許要件を満たすため、特許付与前に補正を行うことができる。自発補正の場合も、庁指令に対する補正の場合も、特許付与通知が発行される前であれば、出願の係属中はいつでも、特許出願における明細書、クレーム、図面または配列表などのあらゆる特許付与前補正を行うことができる。ただし、原出願の全体に含まれる開示範囲を拡大するような新規事項の追加や、クレームの追加は認められない。これらの制限は、産業財産法第116条に規定されている
2-1.自発補正
自発補正は、主として出願の本文もしくはデータにおける誤りを訂正するために、または出願を特許可能な状態にする目的でクレームを減縮するために、出願人により自発的に行われる補正である。この自発補正は特許査定または拒絶査定が発せられる前までに限り、行うことができる(産業財産法第116条)。一方、特許の存続期間中のあらゆる時点で、修正または訂正を申請することが可能である(産業財産法第121条)。
出願を早期に権利化するための手続として、PPH申請の他、自発補正の活用が挙げられる。前述のとおり、出願人は出願係属中、いつでも自発補正を提出することができる。審査開始前に、出願の本文もしくはデータの誤りの訂正や、出願を特許可能な状態にする目的でクレームを減縮する補正を行うことが、出願の早期権利化に有効な場合が多い。
2-2.IMPIからの庁指令に対する補正
補正は通常、IMPIにより行われた方式および実体審査の結果として生じる庁指令に応じて出願人が提出する。メキシコの実務によれば、方式要件に関する庁指令は最大で2回、実体要件を満たすための庁指令は最大4回発行され、その応答として出願を補正する機会が与えられる。かかる庁指令への応答期限は2か月であり、2か月の延長が可能である。これらの期限は、産業財産法第106条および第117条に規定されている。
自発補正の場合と同様に、IMPIからの要求に対する明細書、図面またはクレームの補正は、出願当初の開示の範囲を拡大するような新規事項を含めてはならない(産業財産法第116条)。つまり補正後の記載内容が、優先権の基礎となる出願当初の明細書によって完全に裏づけられていなければならない。
2-3.PPH申請時の補正
出願の早期権利化を目的として提出される特許審査ハイウェイ(Patent Prosecution Highway:PPH)での補正は、基本的に出願クレームを優先権の基礎となる出願のクレームと一致させるために行われるものであり、PPHプログラム参加国の特許庁により認められている。なお、メキシコは、JPO(日本特許庁)の他、USPTO(米国特許商標庁)、EPO(欧州特許庁)、KIPO(韓国特許庁)、CNIPA(中国国家知識産権局)、CIPO(カナダ知的財産局)およびIPOS(シンガポール知的財産庁)などとPPH協定を結んでいる。
IMPIに出願し、さらにPPH申請により国外へ出願する場合に適用される要件の概略は、以下のとおりである。
・メキシコ出願の審査が始まっていてはならない。つまり、実体審査に対応する庁指令がIMPIにより発行された後は、PPH申請は認められない。
・メキシコ特許出願の公開日から2か月の第三者情報提供期間(observation period)の後に、PPH申請しなければならない。
・ビジネス方法、コンピュータプログラムまたは手術、診断もしくは治療方法といった、メキシコ特許法上では特許されない主題が、クレームに含まれていてはならない。
関連情報:特許審査ハイウェイのガイドライン(JPO、メキシコ編)
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/pph/document/guideline/mexico_impi_ja.pdf
3.特許付与後の訂正および減縮
特許付与後の訂正および減縮は、特許権が付与された後に提出するものであり、明白な誤りもしくは方式上の誤りの訂正、または特許付与された主題の範囲の減縮のみに制限されている。これらの制限は、産業財産法第121条、第122条および第123条に規定されている。
第121条 特許又は登録の所有者は,その権利の存続期間内であれば,本法の施行規則に定める条件で,本庁宛の申請書及び対応する手数料証明書とともに,権利について,放棄,訂正及び減縮を申請することができる。 申請が受理されれば,本庁は申請者に通知し,対応する権利の,放棄,訂正及び減縮を公報に掲載する。 本庁が申請書に不備があると認めた場合,所有者に必要とみなすものを特定又は明確にして不備の解消を求めることができる。申請者が上記不備を2月以内に解消しない場合,申請は却下される。 |
第122条 本法第119条に規定されている,特許又は登録における正式な名称の誤記を訂正することは承認される。 訂正がクレーム又はそれらを解釈するために供される要素に関連する場合,誤記は当該技術の熟練者にとって明白でなければならない。 名称の訂正は,与える保護を拡張するような方法であってはならない。 |
第123条 特許又は実用新案登録によって付与される権利の減縮が次のような場合,承認される。 (1) 1つ以上のクレームの削除,又は (2) 独立クレームに従属するように1以上の従属クレームを含めること。 減縮案が特許又は登録によって付与された保護を拡張する場合,当該減縮案は認められない。減縮の前に発せられた,特許又は実用新案登録の侵害に関する強制力のある処分は,減縮によって損なわれることはない。 |
特許出願に対して特許付与通知が発行された後、特許登録料の納付とともに、特許付与前に訂正および減縮を提出したとしても、この段階での訂正および減縮は、特許付与後の訂正および減縮と同様に取り扱われる。すなわち、この段階の訂正および減縮は、明白な誤りもしくは方式上の誤りの訂正、または特許付与された主題の範囲の減縮のみに制限される。特許権存続期間中は、特許付与後の訂正および減縮を提出することができる。
ただし、特許の無効手続が係属中の場合、付与後の訂正および減縮は認められない(産業財産法第125条)。
第125条 本節に関する如何なる申請書も,次の場合は拒絶される。 (1) 特許又は登録の有効性に関する手続の審査が係属中である場合。 本節に基づく申請書の提出後に行政処分手続が開始された場合,それぞれの申請書に係わる許容性に関する審査が決定されるまで,当該手続は一時停止される。 (2) 特許又は登録の名称の訂正に関する申請を除き,特許若しくは登録の所有権又はそれらに対する他の権利の承認を主張する訴訟がある場合。 |
【留意事項】
産業財産法等に明文規定は無いが、メキシコにおいて特許出願の補正を行う際には、補正の提出書面、または発行された庁指令に対する応答書において、特許出願の補正を裏づける明確な正当性および根拠を明示することが必要である。特許出願の補正が、優先権基礎出願の明細書(パリルートおよびPCTルートの場合いずれも)により適正に裏づけられていることは、修正案が承認される可能性を最大化するためには、重要である。その他の内容的な制限は、その提出時期によっても異なるので注意が必要である。
メキシコにおける特許出願の早期審査および審査の迅速化
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メキシコにおける特許の補正の制限
【詳細】
1.出願提出前の内容変更
メキシコでは、PCT出願の国内移行に際して、国際出願から内容を変更して移行手続きをすることが認められる中南米では数少ない国の一つである。メキシコの実務では、対応する国際出願の国際公開から明細書およびクレームの内容を変更した出願書類の提出が認められる。つまり、メキシコ国内移行に際して、明細書およびクレームとして、PCT出願時の明細書およびクレームに基づいて手続きできるだけでなく、優先権の基礎となる出願(日本企業の多くの場合は日本出願)の明細書およびクレーム、または、それらの内容に変更を加えた書面で移行手続きを行うことも可能である。ただし、メキシコへの国内移行手続き時の内容の変更は、優先権の基礎となる出願の当初の開示の範囲を超えてはならない。
一方、メキシコ特許法に明文規定はないものの、メキシコでの実務では、パリルート出願は優先権の基礎となる出願と実質同一でなければならない。メキシコ出願の内容を基礎となる出願から変更する場合には、明細書およびクレームの補正として出願後に提出しなければならない。原出願から修正を加えた明細書およびクレームに基づき提出されたパリルート出願の場合、IMPIは拒絶理由通知を発行し、メキシコ出願の出願書類を優先権の基礎となる出願と一致するよう要求することが実務となっている。
2.特許付与前の補正
出願が提出された後、自発的に、あるいは、IMPIからの庁指令に応じて特許要件を満たすため、特許付与前に補正を行うことができる。自発補正の場合も、庁指令に対する補正の場合も、特許出願における明細書、図面またはクレームのあらゆる特許付与前補正は、特許付与通知が発行される前であれば、出願の係属中はいつでも行うことができる。ただし、原出願の全体に含まれる開示の範囲を拡大するような新規事項の追加や、クレームの追加は認められない。これらの制限は、産業財産法第55条の2に定められている。
2-1.自発補正
自発補正は、主として出願の本文もしくはデータにおける誤りを訂正するために、または出願を特許可能な状態にする目的でクレームを減縮するために、出願人により自発的に行われる補正である。特許の存続期間中のあらゆる時点で、自発補正を提出することが可能である。
出願を早期に権利化するための手続きとして、PPH申請の他、自発補正の活用が挙げられる。前述のとおり、出願人は出願係属中、いつでも自発補正を提出することができる。審査開始前で、出願の本文もしくはデータの誤りの訂正や、出願を特許可能な状態にする目的でクレームを減縮する補正を行うことが、出願の早期権利化に有効な場合が多い。
2-2. IMPIからの庁指令に対する補正
補正は通常、IMPIにより行われた方式および実体審査の結果として生じる庁指令に応じて出願人が提出する。メキシコの実務によれば、方式要件に関する庁指令は最大で2回、実体要件を満たすための庁指令は最大4回発行され、その応答として出願を補正する機会が与えられる。かかる庁指令への応答期限は2か月であり、2か月の延長が可能である。これらの期限は、産業財産法第55条および第58条に定められている。
自発補正の場合と同様に、IMPIからの要求に対する明細書、図面またはクレームの補正は、出願当初の開示の範囲を拡大するような新規事項を含めてはならない(産業財産法第55条の2)。つまり補正後の記載内容が、優先権の基礎となる出願当初の明細書によって完全に裏づけられていなければならない。
2-3. PPH申請時の補正
出願の早期権利化を目的として提出される特許審査ハイウェイ(Patent Prosecution Highway:PPH)での補正は、基本的に出願クレームを優先権の基礎となる出願のクレームと一致させるために行われるものであり、PPHプログラム参加国の特許庁により認められている。なお、メキシコは、JPO(日本特許庁)の他、USPTO(米国特許商標庁)、EPO(欧州特許庁)、KIPO(韓国特許庁)、SIPO(中国特許庁)、CIPO(カナダ知的財産局)およびIPOS(シンガポール知的財産事務局)などとPPH協定を結んでいる。
PPH申請に適用される一般的な補正の制限は、概略以下のとおりである。
・メキシコ出願の審査が始まっていてはならない。つまり、実体審査に対応する庁指令がIMPIにより発行された後は、PPH申請は認められない。
・メキシコ特許出願の公開日から6か月の第三者情報提供期間(observation period)の後に、PPH申請しなければならない。
・ビジネス方法、コンピュータプログラムまたは手術、診断もしくは治療方法といった、メキシコ特許法上では特許されない主題が、クレームに含まれていてはならない。
3.特許付与後補正
特許付与後補正は、特許権が付与された後に提出するものであり、明白な誤りもしくは方式上の誤りの訂正、または特許付与された主題の範囲の減縮のみに制限されている。これらの制限は、産業財産法第61条に定められている。
特許出願に対して特許付与通知が発行された後、特許登録料を納付とともに、特許付与前に補正を提出したとしても、この段階での補正は、特許付与後の補正と同様に取り扱われる。すなわち、この段階の補正は、明白な誤りもしくは方式上の誤りの訂正、または特許付与された主題の範囲の減縮のみに制限される。特許権存続期間中は、特許付与後補正を提出することができる。
【留意事項】
メキシコにおいて特許または特許出願の補正を行う際には、補正の提出書面、または発行された庁指令に対する応答書において、特許の補正を裏づける明確な正当性および根拠をはっきりと示すことが必要である。特許または特許出願の補正は、原出願の明細書(パリルートおよびPCTルートの場合いずれも)により適正に裏づけられていることは必須の要件であり、その他の内容的な制限は、その提出時期によっても異なるので注意が必要である。
メキシコにおける特許の分割出願についての留意点
【詳細】
メキシコ産業財産法には、特許の分割出願に関して詳細な規定はない。実務上、出願の分割の根拠として言及されるのは、以下に示す第43条および第44条のみである。
・第43条 特許出願は、単一の発明に関するもの、または相互に関連して単一の発明概念を構成する複数の発明に関するものでなければならない。
・第44条 出願が第43条の要件を満たさない場合、産業財産庁は、出願人が2ヶ月以内に当該出願を複数の出願に分割し、分割された各出願の出願日および優先日として当初の出願日および優先日を維持できることを、出願人に書面により通知する。この2ヶ月の期間内に出願人が出願を分割しなかった場合、当該出願は放棄されたものとみなされる。
1. 分割出願の提出期限
メキシコにおける分割出願は、下記の期間内に提出することができる。
・単一性欠如の拒絶理由が指摘された庁指令への応答時に提出できる。期限は、庁指令の受領から2か月以内であり、出願人からの申請により、さらに2か月の延長が可能である。
・メキシコ特許出願の手続中および特許の付与までいつでも、自発的な分割出願を提出できる。
自発的な分割出願の提出期限について、メキシコ産業財産法に明文規定はないものの、現行のメキシコ特許実務では、元のメキシコ特許出願の最終的な特許料納付まで、すなわち、特許認可通知の発行後、特許料納付の期間として与えられる2ヶ月の期間内に、分割出願を提出することができるとされている。
2. 単一性欠如の拒絶に対する応答時に提出される分割出願
出願が発明の単一性の要件を満たしていない場合、メキシコ産業財産法第44条の規定に基づき、審査官は、出願に含められている複数の発明を特定し、単一性欠如の拒絶理由に基づく庁指令を発行する。出願人は、審査官により特定された発明について、当該出願から、1つあるいは複数の分割出願を提出する判断が求められる。
メキシコ産業財産法第44条によれば、単一性欠如の拒絶を含む庁指令への応答の際に、または当該庁指令への応答期間内に、出願人は1つあるいは複数の分割出願を提出しなければならない。分割出願を提出しなければならない時期に関して、この第44条の規定には、複数の解釈が可能である。第44条を最も厳格に解釈した場合には、庁指令の応答時に、親出願で選択されない発明を、その数に応じてそれぞれ、1つあるいは複数の分割出願として提出しなければならない。
しかしながら、現在のメキシコ産業財産庁の運用は、上記よりは寛容な解釈に基づくものとなっている。例えば、3つ以上の発明が含まれているという単一性欠如の拒絶理由に基づく庁指令の場合には、庁指令への応答時に、選択されなかったその他複数の発明に関するクレームをすべて含めて一つの分割出願として提出することを認めている。その後、分割出願の審査において、複数の発明が含まれていると認められる場合は、単一性欠如の拒絶理由に基づく庁指令が新たに発行され、更なる分割出願の提出期限が設定される。この時点で、出願人が複数の発明の保護を望む場合には、庁指令への応答として再び発明のうちの1つを本分割出願の発明として選択し、選択しなかったその他発明に関して更なる分割出願を提出することができる。
3. 分割出願での審査対象クレームと重複特許の問題
メキシコにおいて、分割出願は、原出願にて開示された事項のみを含むものでなければならないが、さらに、分割出願でクレームされる発明は親出願でクレームされる発明とは異なるものでなければならない。すなわち、分割出願は、原出願に含まれていた1以上のクレームにより提出することも可能であるが、既に実体審査の対象とされたクレーム(親出願または先の分割出願のクレーム)と同一のクレームを含む分割出願を提出した場合には、出願人は、後の審査において、既に審査されたクレームとは異なる発明を記載するようにクレームの補正を要求されることとなる。最近の審査では、分割出願における発明が親出願または先の分割出願で既に審査されたものと同じ発明である場合には、新たな審査を行わない審査官もいる。しかし、出願人は、他の出願(親出願または先の分割出願)において未審査のクレーム(既に親出願または分割出願において削除されたクレームを含む)に記載された発明の権利化を分割出願で求めることができる。
したがって、メキシコにおいて特許の分割出願を提出する際、出願人は、親出願または先の分割出願において既に審査された発明を考慮して、分割出願として提出すべきクレームを検討することが望ましい。一方、出願人は、原出願時に提出したすべてのクレームを単一の分割出願として提出した後、手続中または庁指令への応答時に自発的にクレームを補正することも、手続き上は可能である。
4. 分割出願の提出要件
分割出願を提出するには、下記の書類が必要である。
・明細書、図面(必要な場合)、塩基配列またはアミノ酸配列に関する配列表(必要な場合)
・1つ以上のクレーム
・正式に署名された譲渡証および委任状(出願人が特許出願に関する権利を第三者に譲渡または移転した場合のみ)
5. 分割出願の審査および公開
分割出願は、通常提出日の古い順に審査されるが、親出願で行われた審査の影響を受け、分割出願が比較的早く審査されることがある。
なお、分割出願は、特許付与まで公開されることはない。そのため、メキシコの実務上、出願から分割出願が提出されているかどうかを、第三者が出願公開の情報から知ることはできない。