韓国における進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)
1.記載個所
進歩性(韓国特許法第29条第2項)については、「特許・実用新案 審査基準」の第3部第3章に記載されている。その概要(目次)は以下のとおり。
第3章 進歩性 1. 関連規定 2. 特許法第29条第2項の趣旨 3. 関連用語の定義 3.1 特許出願前 3.2 通常の技術者 3.3 容易に発明をすることができること 4. 進歩性の判断の基本原則 5. 進歩性の判断方法 5.1 進歩性の判断手順 5.2 引用発明の選択 6. 容易性判断の根拠 6.1 発明に至るような動機の有無 6.1.1 引用発明の内容中の示唆 6.1.2 課題の共通性 6.1.3 機能・作用の共通性 6.1.4 技術分野の関連性 6.2 通常の技術者が有する通常の創作能力の発揮に該当すること 6.2.1 均等物による置換 6.2.2 技術の具体的適用による単純な設計変更 6.2.3 一部の構成要素の省略 6.2.4 単純な用途の変更・限定 6.2.5 公知技術の一般的な適用 6.3 より良い効果の考慮 6.4 発明の類型による進歩性の判断 6.4.1 選択発明の進歩性の判断 6.4.2 数値限定発明の進歩性の判断 6.4.3 パラメータ発明の進歩性の判断 6.4.4 製造方法により特定された物の発明の進歩性の判断 7. 結合発明の進歩性の判断 8. 進歩性の判断時に考慮すべきその他の要素 9. 進歩性の判断時の留意事項 |
2.基本的な考え方
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」第一段落に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章5
(2) 異なる事項または留意点
審査官は、出願当時に通常の技術者が直面していた技術水準全体を考えるよう努力すると同時に、発明の説明および図面を勘案し、出願人が提出した意見を参酌し、出願発明の目的、技術的構成、作用効果を総合的に検討するが、技術的構成の困難性を中心に目的の特異性および効果の顕著性を参酌し、総合的に進歩性が否定されるかの可否を判断する(大法院2007フ1527等)。
進歩性が否定されるかの可否は、通常の技術者の立場で、[1] 引用発明の内容に請求項に記載された発明に至る動機があるか、または、[2] 引用発明と請求項に記載された発明の違いが通常の技術者が有する通常の創作能力発揮に該当するかの可否を主な観点として、[3] 引用発明に比べてより良い効果があるかを参酌して判断する。
3.用語の定義
3-1.当業者
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「当業者」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章3.2
(2) 異なる事項または留意点
韓国では、進歩性有無の判断において基準となる者を特許法第29条第2項において「その発明が属する技術分野で通常の知識を有する者」と記載しており、これを略して「通常の技術者」とする。
通常の技術者とは、出願前の該当技術分野の技術常識を保有しており、出願発明の課題と関連する出願前の技術水準にあるすべてのことを入手して自身の知識としてできる者であり、実験、分析、製造等を含む研究または開発のために通常の手段を利用することができ、公知の材料の中から適合した材料を選択したり、数値範囲を最適化したり、均等物に置き換える等、通常の創作能力を発揮できる特許法上の想像の人物である(特許法院2008ホ8150)。
3-2.技術常識及び技術水準
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「技術常識」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章3.2
(2) 異なる事項または留意点
「技術水準」とは、特許法第29条第1項各号に規定された発明(特許出願前に国内または国外で公知されたり公然に実施された発明、特許出願前に国内または国外で頒布された刊行物に掲載されたり電気通信回線を介して公衆が利用できる発明)以外にも、当該発明が属する技術分野の技術常識等を含む技術的知識により構成される技術の水準をいう。また、日常的な業務および実験のための普通手段等、請求項に記載された発明の技術分野に関連するすべての種類の情報に関係するものである。
3-3.周知技術及び慣用技術
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「周知技術」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章7(2)(注)書き
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明、その他の留意点については「韓国における進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(後編))をご覧ください。
韓国における進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)
進歩性に関する審査基準の記載個所、基本的な考え方、用語の定義については「韓国における進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)をご覧ください。
4.進歩性の具体的な判断
4-1.具体的な判断手順
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3. 進歩性の具体的な判断」に記載された「(1)から(4)までの手順」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章5.1
(2) 異なる事項または留意点
発明の進歩性は、以下の手順により判断する。
(i) 請求項に記載された発明を特定する。
(ii) 引用発明を特定する。複数の引用発明を特定することも可能である。引用発明を特定するときは、請求項に記載された発明と共通する技術分野および技術的課題を前提に通常の技術者の視覚で特定しなければならない。
(iii) 請求項に記載された発明と「最も近い引用発明」を選択し両者を対比し、その差異点を明確にする。差異点を確認する際には発明の構成要素間の有機的結合性を勘案しなければならない。より具体的には、発明をなす構成要素のうち有機的に結合しているもの同士は構成要素を分解せず結合された一体として引用発明の対応する構成要素と対比する。
(iv) 請求項に記載された発明が最も近い引用発明と差異があるにもかかわらず、最も近い引用発明から請求項に記載された発明に至ることが通常の技術者に容易か、容易でないかを他の引用発明と出願前の技術常識および経験則等に照らして判断する。
4-2.進歩性が否定される方向に働く要素
4-2-1.課題の共通性
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(2) 課題の共通性」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章6.1.2
(2) 異なる事項または留意点
引用発明と請求項に記載された発明の課題が共通した場合に、それは通常の技術者が引用発明によって請求項に記載された発明を容易に発明できるという有力な根拠となる(大法院2007フ5024)。
もし、引用発明が請求項に記載された発明と技術的課題が共通しない場合には、出願発明の課題が該当技術分野で自明な課題なのか、技術常識に照らして容易に考えられる課題なのかについて、より綿密に検討して進歩性を否定できる根拠にすることはできないか判断する。
引用発明が請求項に記載された発明とその課題が互いに異なる場合にも、通常の技術者が引用発明から通常の創作能力を発揮し、請求項に記載された発明と同一の構成を導出することができたという事実が自明な場合には進歩性を否定することができる。
4-2-2.作用、機能の共通性
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(3) 作用、機能の共通性」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章6.1.3
(2) 異なる事項または留意点
引用発明と請求項に記載された発明の機能または作用が共通する場合に、それは通常の技術者が引用発明によって請求項に記載された発明を容易に発明できるという有力な根拠となる。
4-2-3.引用発明の内容中の示唆
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(4) 引用発明の内容中の示唆」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章6.1.1
(2) 異なる事項または留意点
引用発明の内容中に請求項に記載された発明に対する示唆があれば通常の技術者が引用発明により請求項に記載された発明を容易に発明できるという有力な根拠となる(大法院2006フ3724)。
4-2-4.技術分野の関連性
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(1) 技術分野の関連性」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章6.1.4
(2) 異なる事項または留意点
出願発明に関連する技術分野の公知技術中に技術的課題解決に関係する技術手段が存在するという事実は、通常の技術者が引用発明によって請求項に記載された発明を容易に発明できるという有力な根拠となる(大法院2005フ3321等)。
4-2-5.設計変更
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」の「(1) 設計変更等」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章6.2.2
(2) 異なる事項または留意点
請求項に記載された発明が引用発明の技術思想をそのまま用いて単純に適用上の具体的な環境変化にしたがい設計変更したものであり、そのためにより良い効果があると認められないときには特別な事情がない限り通常の技術者の通常の創作能力の発揮に該当して進歩性が認められない(大法院2004フ1137)。
例えば、請求項に記載された発明と引用発明との差異が公知された技術構成の具体的な適用により発生したもので、単純に構成要素の大きさ、比率、相対寸法または量にだけある場合には通常の技術者が有する通常の創作能力の発揮に該当するものとみて進歩性を否定する。ただし、そのような差異によって動作や機能等が異なる効果があり、そのような効果が通常の技術者の有する通常的の予測可能範囲を外れるより良い効果と認められる場合には進歩性を認めることができる(大法院2000フ2088、大法院2000フ3623)。
4-2-6.先行技術の単なる寄せ集め
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」の「(2) 先行技術の単なる寄せ集め」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章6.2.5
(2) 異なる事項または留意点
先行技術に記載され、その構成および機能が既に知られている公知の技術を出願発明の技術的課題解決のため必要により付加してその機能通りに使用することで予測可能な効果のみを得た場合には進歩性が認められない。ただし、出願時の技術常識を参酌する際に公知の技術が適用され、他の構成要素と有機的結合関係が形成されることにより先行技術に比べてより良い効果が得られる場合には進歩性を認めることができる(大法院2005フ2991等)。
4-2-7.その他
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」と異なる特許・実用新案審査基準(韓国)の該当する記載は、以下のとおりである。
(1) 該当する事項が記載された審査基準の場所
(i)特許・実用新案審査基準 第3部第3章6.2.1(均等物による置換)
(ii)特許・実用新案審査基準 第3部第3章6.2.3(一部構成要素の省略)
(2) 異なる事項または留意点
(i) 均等物による置換
発明の構成の一部と同一の機能を成し遂げるため、互換性のある公知の構成に置換することは、より良い効果を有する等の特別な事情がない限り通常の技術者の通常の創作能力の発揮に該当して進歩性が認められない(大法院2002フ2099等)。
ここで、均等物による置換が通常の技術者が有する通常の創作能力の発揮に該当するというためには置換された公知の構成要素が均等物として機能するという事実だけでは十分でなく、その置換が出願時に通常の技術者に自明でなければならない。このとき、置換された構成要素が均等物として機能するという事実が出願前に知られている等、その均等性が該当技術分野において既に知られている場合、その置換が通常の技術者に自明であるという証拠となり得る。
(ii) 一部の構成要素の省略
先行技術に開示された公知の発明の一部の構成要素を省略した結果、関連する機能が失われる、または品質(発明の効果を含む)が劣化した場合には、そのような省略は通常の技術者に自明なこととみなされ進歩性が否定される。
4-3.進歩性が肯定される方向に働く要素
4-3-1.引用発明と比較した有利な効果
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.2.1 引用発明と比較した有利な効果」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章6.3
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
4-3-2.意見書等で主張された効果の参酌
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.2.1 引用発明と比較した有利な効果」の「(2) 意見書等で主張された効果の参酌」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章6.3(3)
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
4-3-3.阻害要因
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.2.2 阻害要因」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章8.(1)
(2) 異なる事項または留意点
先行技術文献がその先行技術を参酌しないように教示している(例えば、先行技術文献において、その先行技術の結合により先行技術文献内の発明が否定的な効果を有することが記載されている)のであれば、すなわち通常の技術者をして出願発明にいたらないよう阻害するならば、その先行技術が出願発明と類似していても、その先行技術文献により当該出願発明の進歩性が否定されない。このとき先行技術文献において、その先行技術が劣ったものと表現したという事実のみでは阻害要因とはいえない。
4-3-4.その他
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.2 進歩性が肯定される方向に働く要素」と異なる特許・実用新案審査基準(韓国)の該当する記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章8.(3)~(6)
(2) 異なる事項または留意点
(i) 出願発明が長期間に通常の技術者が解決しようとした技術的課題を解決する、または長期間要望された必要性を満たしたという事実は、出願発明が進歩性を有するという証拠となり得る。
(ii) 発明が当該技術分野において特定の技術課題に対する研究および開発を妨害する技術的偏見により、通常の技術者が放棄した技術的手段を採用することにより作られたものであり、これによりその技術課題を解決したならば、進歩性判断の指標のうちの一つとして考慮できる。
(iii) 出願発明が他の者が解決しようとして失敗した技術的困難を克服する方法を提示する、または課題を解決する方法を提示したものであれば、発明の進歩性を認める有利な証拠となり得る(大法院2006フ3052)。
(iv) 出願発明が新しい先端技術分野に属しており、関連する先行技術が全くない場合、または最も近い先行技術が出願発明と差異がかけ離れている場合、進歩性が存在する可能性が高い。
4-4.その他の留意事項
4-4-1.後知恵
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(1)でいう「後知恵」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章9.(1)
(2) 異なる事項または留意点
審査の対象となる出願の明細書に記載された事項により得た知識を前提として進歩性を判断する場合には、通常の技術者が引用発明から請求項に記載された発明を容易に発明できるものと認めやすい傾向があるので注意を要する。
4-4-2.主引用発明の選択
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(2)でいう「主引用発明」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
「主引用発明」について、韓国の特許・実用新案審査基準では、最も近い概念として、「最も近い引用発明」と記載しており、以下のとおりの内容が記載されている。
請求項に記載された発明と「最も近い引用発明」を選択し両者を対比し、その差異点を明確にする(特許・実用新案審査基準 第3部第3章5.1(3))。
「最も近い引用発明」は選定された引用発明のうち通常の技術者が利用できる最も有力な先行技術を意味し、出願発明の技術的特徴を最も多く含んでいるもので、できる限り請求項に記載された発明の技術分野と近接している、または同一もしくは類似した技術的課題、効果または用途を有する引用発明の中から選択することが望ましい(特許・実用新案審査基準 第3部第3章5.2(2))。
4-4-3.周知技術と論理付け
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(3)でいう「周知技術と論理付け」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
「周知技術と論理付け」について、特に記載されていないが、「7.結合発明の進歩性判断」の部分で、「結合発明の進歩性は2以上の先行技術(周知慣用技術含む)を相互結合させて判断できるが、その結合は当該発明の出願時に通常の技術者が容易にできると認められる場合に限る。」(特許・実用新案審査基準 第3部第3章7(2))と記載しており、周知慣用技術についても他の引用発明と同一に論理付けをすることができるのかを検討するものと思われる。
4-4-4.従来技術
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(4)でいう「従来技術」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章5.2(4)。
(2) 異なる事項または留意点
特別な点はないが、韓国では「背景技術」の用語を用いている。
4-4-5.物の発明と製造方法・用途の発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の「(5) 物自体の発明が進歩性を有している場合には、その物の製造方法及びその物の用途の発明は、原則として、進歩性を有している」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章9.(3)
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
4-4-6.商業的成功などの考慮
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(6)でいう「商業的成功」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章8.(2)
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
5.数値限定
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章6.4.2
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
6.選択発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「7. 選択発明」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章6.4.1
(2) 異なる事項または留意点
日本の審査基準の該当項目に対応する記載はないが、選択発明の進歩性について以下のように記載されている。
公知技術から実験的に最適また好適したものを選択することは、一般的に通常の技術者の通常の創作能力の発揮に該当し進歩性が認められない。ただし、選択発明が引用発明に比べてより良い効果を有する場合には、その選択発明は進歩性が認められ得る。このとき、選択発明に含まれる下位概念の全てが引用発明の有する効果と質的に異なる効果を有している、または質的な差異がなくても量的に顕著な差異がなければならない(大法院2008フ736等)。
7.留意点
7-1.請求項に記載された発明の認定
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章5.1(1)
(2) 説明
請求項に記載された発明の特定方法は新規性の場合と同一である。
7-2.引用発明の認定
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章5.1(2)
(2) 説明
引用発明の特定方法は新規性の場合と同一である。
7-3.請求項に記載された発明と引用発明の対比
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章5.1(3)
(2) 説明
請求項に記載された発明と「最も近い引用発明」を選択し両者を対比して、その差異点を明確にする。差異点を確認する際には発明の構成要素間の有機的結合性を勘案しなければならない。
7-4.その他
1)有機的結合性の勘案
進歩性判断の手順(特許・実用新案審査基準 第3部第3章5.1)において、請求項に記載された発明と引用発明を対比して差異点を確認する際に、発明の構成要素間の有機的結合性を勘案するようにしている。具体的に、発明をなす構成要素のうち有機的に結合されているものどうしは構成要素を分解せず結合された一体として引用発明の対応する構成要素と対比するようにしている。
これは請求項に記載された発明が個別の構成要素ではなく、個別の構成要素が有機的に結合された全体での技術思想だからである。また、両発明の個別構成要素の共通点・差異点のみを確認するにとどめることはできず、個別構成要素の有機的結合を通じて示す発明の効果および技術的課題の差異も確認しなければならない(特許・実用新案審査基準 第3部第3章5.1)。
2)他国の審査例
発明の進歩性は特許出願された具体的発明によって個別的に判断されるものであり、他の発明の審査例にこだわるものではないため、法制と慣習を異にする他の国の審査例は参考事項となり得るが特許性の判断に直接的な影響を及ぼさない(特許・実用新案審査基準 第3部第3章9.(7))。
韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)
1.記載個所
新規性(韓国特許法第29条第1項)については、「特許・実用新案 審査基準」の第3部第2章に記載されている。その概要(目次)は以下のとおり。
1. 関連規定 2. 特許法第29条第1項の趣旨 3. 規定の理解 3.1 公知になった発明 3.2 公然実施をされた発明 3.3 頒布された刊行物に掲載された発明 3.4 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明 4. 新規性の判断 4.1 請求項に記載された発明の特定 4.2 引用発明の特定 4.3 新規性の判断方法 4.4 新規性の判断時の留意事項 |
2.新規性の判断の基本的な考え方
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第1節「2. 新規性の判断」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.3 新規性の判断方法」
(2) 異なる事項または留意点
請求項に記載された発明と引用発明が実質的に同一の場合にも新規性がない発明と判断する。
ここにおける発明が実質的に同一の場合とは、課題解決のための具体的な手段において、周知技術・慣用技術の単純な付加、転換、削除等に過ぎなく、新たな効果発生がなく、発明間の差異が発明の思想に実質的な影響を及ぼさない非本質的な事項に過ぎない場合をいう(大法院2001フ1624(*))。
(*) 大法院の判決は、以下のリンク先で「2001후1624」(「フ」を「후」に置き換えた番号)を入力して検索できる(韓国語で表示される。)。以下、同様である。
http://glaw.scourt.go.kr/
関連記事:「韓国の判例の調べ方」(2017.07.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/13872/
3.請求項に記載された発明の認定
3-1.請求項に記載された発明の認定
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第一段落に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.1.1 発明の特定の一般原則」
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
3-2.請求項に記載された発明の認定における留意点
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第二段落に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.1.1 発明の特定の一般原則」の(2)
(2) 異なる事項または留意点
請求項記載発明の技術構成が明確に理解できる場合、発明の技術内容を特定することにおいて請求項の記載を基礎としなければならないのみならず、発明の説明や図面の記載により制限解釈してはならない(大法院2005フ520、2006フ3625、2006フ848、2004フ509)。
例えば、請求項にブラシローラの回転方向についての記載がなく、図面のみにブラシローラが回転体の方向に回転するという内容が開示されている場合、請求項の記載のみで発明が明確であるので、ブラシローラの回転方向を図面に表示された回転方向に制限解釈してはならない。
4.引用発明の認定
4-1.先行技術
4-1-1.先行技術になるか
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1 先行技術」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「3. 既定の理解」
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
4-1-2.頒布された刊行物に記載された発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「3.3 頒布された刊行物に掲載された発明」
(2) 異なる事項または留意点
未完成発明について、引用発明となり得るか否かは特許・実用新案審査基準の進歩性パート(第3部第3章5.2(5))に記載されているが、判例では以下のように新規性についても未完成発明が先行技術になりうるとしており、未完成発明であっても通常の技術者が出願当時の技術常識を参酌して技術内容を容易に把握することができるならば、引用発明になると見ている。
発明の新規性または進歩性判断に提供される対比発明は、その技術的構成全体が明確に表現されただけでなく、未完成発明または資料の不足で表現が不十分であったり、一部の内容に誤りがあったりしても、その技術分野で通常の知識を有する者が発明出願当時の技術常識を参酌して、技術内容を容易に把握することができるならば先行技術となることもある(大法院2004フ2307)。
4-1-3.刊行物の頒布時期の推定
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節3.1.1「(2) 頒布された時期の取扱い」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「3.3.3 刊行物の頒布時期」
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
4-1-4.電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「3.4 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
4-1-5.公然知られた発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「3.1 公知になった発明」
(2) 異なる事項または留意点
特許・実用新案審査基準(韓国)において「公知された発明」とは、特許出願前に国内または国外で、その内容が秘密状態に維持されず、不特定人に知られた、または知られ得る状態にある発明と定義している。
特許・実用新案審査基準(韓国)において、例えば、登録公告がなくても出願が登録されれば誰でもその出願書を閲覧できるので、特許法第29条第1項第1号の先行技術資料として使用できると記載している。
これについて、特許法院判例(特許法院99ホ1027)では、意匠が登録になれば特許庁職員の意匠に対する秘密維持の義務が消滅するため、たとえ意匠登録公報に掲載される前でも意匠の設定登録日を基準とし不特定人が登録意匠の内容を客観的に認識できる状態にあると見なければならないので公知されたといえると判示している。
なお、「ホ」に対応する事件記録符号は「허」である。
4-1-6.公然実施をされた発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.4 公然実施された発明(第29条第1項第2号)」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「3.2 公然実施をされた発明」
(2) 異なる事項または留意点
不特定多数の人が認識できる状態で実施されたとしても必ずしもその技術の内容まで正確に認識できるわけではないので、共用により新規性が否認されるためには再び「当該技術分野で通常の知識を有する者がその技術思想を補充、または付け加えて発展させることなく、その実施されたところにより直接容易に繰り返し実施できる程度で公開されること」が要求される(大法院94フ1688)。
不特定多数の人が認識できる状態で実施されたとしても、通常の技術者が発明の内容を容易に知ることができる状態で実施することを要求している。
請求項に係る発明と引用発明との対比、特定の表現を有する請求項についての取扱い、その他の留意事項については「韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」をご覧ください。
韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)
新規性に関する審査基準の記載個所、基本的な考え方、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定については「韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点((前編)」をご覧ください。
5.請求項に係る発明と引用発明との対比
5-1.対比の一般手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.1 対比の一般手法」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.3 新規性の判断方法」
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
5-2.上位概念または下位概念の引用発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.2 先行技術を示す証拠が上位概念又は下位概念で発明を表現している場合の取扱い」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.4 新規性の判断時の留意事項」(1)
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
5-3.請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.2 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
請求項に記載された事項が実施例より包括的な場合、発明の説明に記載された特定の実施例に制限解釈して新規性、進歩性等を判断してはならない(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.1(2))。
すなわち、上位概念である請求項に記載された事項と引用発明を対比して新規性を判断することになる(**)。
機能・特性等を利用して物を特定する場合と数値限定発明の新規性判断においても、請求項に記載された事項で発明を特定して引用発明と対比する。
(**) 請求項に記載された発明が包括的であり上位概念で表現され、引用発明が下位概念で表現されている場合に、請求項に記載された発明の新規性が否定される点は、韓国においても同様である(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.4 新規性の判断時の留意事項」(1)①)。
5-4.対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.3 対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
対比時に本願の出願時の技術常識を参酌する方法に関して、特許・実用新案審査基準(韓国)に対応する記載はないが、数値限定発明の新規性の判断について、特許・実用新案審査基準(韓国)には、「出願時の技術常識を参酌したとき、数値限定事項が通常の技術者にとって任意的に選択可能な水準に過ぎない、又は引用発明中に暗示されているとみなされる場合には、新規性が否定されることがある」と記載されている(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.3.1(1))。また、請求項に記載された発明が下位概念で表現されており引用発明が上位概念で表現されている場合、「出願時の技術常識を参酌して判断した結果、上位概念で表現された引用発明から下位概念で表現された発明を自明に導き出すことができる場合には、下位概念で表現された発明を引用発明に特定して、請求項に記載された発明の新規性を否定することができる。このとき、単に概念上、下位概念が上位概念に含まれる、又は上位概念の用語から下位概念の要素を列挙することができるという事実だけでは、下位概念で表現された発明を自明に導き出すことができるとはいえない」と記載されている(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(1)②)。
以上のとおり、新規性判断時に出願時の技術常識を参酌していることを、特別な場合に適用している。
6.特定の表現を有する請求項についての取扱い
6-1.作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「2. 作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
発明の特定については、特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.2「(1) 作用、機能、性質又は特性(以下、「機能・特性など」という)を利用して物を特定する場合」において、「請求項に記載された機能・特性などが発明の内容を限定する事項として含まれている以上、これを発明の構成から除外して解釈することはできない。請求項に機能・特性などを用いて物を特定しようとする記載がある場合、発明の説明において特定の意味を有するよう、明示的に定義している場合を除き、原則としてその記載はそのような機能・特性などを有するすべての物を意味していると解釈する」と記載されているが、新規性の判断については、特別な方法は記載されていない。
機能・特性等を利用して物を特定する場合にも、新規性判断の原則に従って審査される。
6-2.物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「3. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.2「(2) 用途を限定して物を特定する場合」
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
6-3.サブコンビネーションの発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
特許・実用新案審査基準(韓国)では、発明の単一性判断時にサブコンビネーションの発明について説明しているが、新規性についてはその記載がなく、一般的な新規性の判断方法により審査している。
6-4.製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「5. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.2「(3) 製造方法により物を特定する場合」
(2) 異なる事項または留意点
製法限定物発明において、製造方法が物の構造や性質等に影響を与える場合には、製造方法により特定される構造や性質等を持つ物で新規性を判断し、物発明の請求項のうちに製造方法による記載があっても製造方法が物の構造や性質等に影響を与えないならば、製造方法を除いて最終的に得られた物自体を新規性判断対象と解釈する。
例えば、アルミニウム合金形状物を請求しながら請求項には上記合金形状物が特定の工程を経て形成されると記載する場合、技術常識を参酌する際に結合構造や形状または強度等に対して上記特定工程により特定される構造や性質等を持つ形状物は他の工程では得られないために製造方法により特定される形状物を出願前に公知された先行技術と比較して新規性等を判断する。
6-5.数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.3.1 数値限定発明の新規性の判断」
(2) 異なる事項または留意点
数値限定事項を除いた残りの技術的特徴のみで引用発明と比べたときに、同一でなければ新規性のある発明である。また、数値限定事項を除いた残りの技術的特徴のみで請求項と引用発明が同一の場合は、以下のように判断する。
(a) 引用発明に数値限定がなく請求項に記載された発明が新たに数値限定を含む場合には原則的に新規性が認められるが、出願時の技術常識を参酌するときに数値限定事項が通常の技術者が任意に選択可能な水準にすぎなかったり、引用発明中に暗示されたと見なされる場合に新規性が否定されることがある。
(b) 請求項に記載された発明の数値範囲が引用発明の記載している数値範囲に含まれる場合、数値限定の臨界的意義により新規性が認められる。
(c) 請求項に記載された発明の数値範囲が引用発明の数値範囲を含んでいる場合には、直ちに新規性を否定できる。
(d) 請求項に記載された発明と引用発明の数値範囲が互いに異なる場合には、通常、新規性が認められる。
7.その他
7-1.特殊パラメータ発明
特許・実用新案審査基準(日本)には特殊パラメータ発明に関する記載はないが、特許・実用新案審査基準(韓国)には以下のとおり、特殊パラメータ発明に関する記載がある。
(1) 特殊パラメータ発明について記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.3.2 パラメータ発明の新規性の判断」
(2) 説明
(a) パラメータ発明の新規性は発明の説明または図面および出願時の技術常識を参酌して発明が明確に把握できる場合に限り判断する(大法院2007ホ81(*))。
(*) 大法院の判決は、以下のリンク先で検索できる。(「ホ」は「허」に変更)
http://glaw.scourt.go.kr/
関連記事:「韓国の判例の調べ方」(2017.07.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/13872/
(b) パラメータ発明はパラメータ自体を請求項の一部として新規性を判断するが、請求項に記載されたパラメータが新規だとして、その発明の新規性が認められるものではない。パラメータによる限定が公知された物に内在された本来の性質または特性等を試験的に確認したことにすぎなかったり、パラメータを使用して表現方式のみ異なったものであれば請求項に記載された発明の新規性は否定される。
(c) パラメータ発明は一般的に先行技術と新規性判断のための構成の対比が困難であるために両者が同一の発明という「合理的な疑い」がある場合には先行技術と厳密に対比せず新規性がないという拒絶理由を通知した後、出願人の意見書および実験成績書等の提出を待つことができる。出願人の反論により拒絶理由を維持できない場合には拒絶理由が解消されるが、合理的な疑いが解消されない場合には新規性がないという理由で拒絶決定(拒絶査定)する。
合理的な疑いがある場合は、
1)請求項に記載された発明に含まれたパラメータを他の定義または試験・測定方法に換算してみると、引用発明と同一となる場合、
2)引用発明のパラメータを発明の説明に記載された測定・評価方法に従って評価したら、請求項に記載された発明が限定するものと同一の事項が得られると予想される場合、
3)発明の説明に記載された出願発明の実施形態と引用発明の実施形態が同一の場合である。
7-2.留意点
特許・実用新案審査基準(韓国)のうち新規性に関する事項について、その他留意すべき点として以下の事項がある。
(a) 新規性の判断時には請求項に記載された発明を一つの引用発明と対比しなければならず、複数の引用発明を結合して対比してはならないが、引用発明が再び別個の刊行物等を引用している場合には、別個の刊行物は引用発明に含まれるものとして扱い新規性判断に引用することができる。
また、引用発明に使用された特別な用語を解釈する目的で辞典または参考文献を引用する場合にも、辞典または参考文献は引用発明に含まれるものと扱い、新規性判断に引用できる(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(2)) 。
(b) 1つの引用文献に2以上の実施例が開示されている場合、2以上の実施例を引用発明でそれぞれ特定し相互結合して請求項に記載された発明の新規性を判断してはならない(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(4))。
(c) 審査の対象となる出願の明細書中に背景技術として記載された技術の場合、出願人がその明細書または意見書等においてその技術が出願前に公知されたことを認めている場合には、その技術の公知性を事実上推定し、請求項に記載された発明の新規性を判断することができる(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(5))。