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韓国における特許請求の範囲の「実質的に成る(consisting essentially of)」という記載が明確でないと判断された事例

 「癌関連抗原をコードする単離核酸分子、その抗原およびこれらの用途」という発明の名称を有する本件出願発明(PCT出願の国内移行出願、韓国特許出願10-1999-7002853)の請求項第1項は、拒絶査定前は「・・・ヌクレオチド54~593に列挙されたヌクレオチドの配列を『含む』(韓国語「포함하는」)単離された核酸分子・・・」とされていたが、審査官による拒絶査定の後、原告は、不服審判を提起しながら上記の第1項の「含む」を「필수적으로 이루어지는(consisting essentially of)」(日本語の意味「実質的に成る」)」に補正した。前置審査官は、上記の補正内容も不明確であるという趣旨の意見提出通知をさらに出したが、原告はこれについて追加の補正を行なわず、その後、拒絶査定に対する審判(特許審判院審決2006年5月30日付2004원2564)および訴訟手続きが開始された(特許法院判決2007年3月22日付判決2006허5751)。特許法院が原告の主張を認容し特許すべきとの決定を下すや、被告特許庁側はこれを不服として大法院に上告した。

 大法院は、米国の場合、特許発明の請求範囲解釈において特許請求項のうち、前提部と本体部などを連結する転換部用語を3種類に分けているところ、その3種類の連結部は開放形式(請求項に記載された構成要素とその他の追加構成要素を有することを権利範囲に含む記載形式)と解釈される「comprising」と、閉鎖形式(請求項に記載された構成要素以外の他の構成要素を含まない記載形式)と解釈される「consisting of」、その中間の「consisting essentially of」に区分していることを認めつつ、「韓国語部分の記載の場合、本来必須構成要素でのみ記載することになっている請求項に上記のように『成る』という表現に『実質的に』という単語を付加・維持することにより、『その構成要素が実質的にその請求項に記載された塩基配列だけから成る』という意味であるのか、それとも『その請求項に記載された構成要素が実質的に含まれ、その他の別の構成要素追加を許容する』という意味であるかが不明である」と判示した。

 また、大法院は、追加で、「本件出願発明の用途などの内容、本件拒絶査定を前後に行われた何回かの意見提出通知およびその補正過程で示された出願人の考え方などに照らしてみれば、本件出願発明の請求範囲解釈と関連した第1項発明の係争部分は、米国式の特許クレームの開放形式か、少なくとも半開放形式である「consisting essentially of」を念頭に置いたものと見られるが、原告は、原審においてこれとは異なり単純に「成る」の意味に過ぎないと主張しているところ、本件係争部分の英文部分として、このような原審における原告の主張と一見相反する米国式の特許請求項の半開放形式として理解される「consisting essentially of」が括弧して併記されており、むしろ塩基配列に対する本件出願発明の請求範囲に関して不明瞭な韓国語部分の意味を、さらに不明瞭にしているという理由で、旧特許法第42条第4項第2号の明細書記載要件を具備しておらず、記載不備に該当する」と判示した。

韓国における特許権存続期間の延長制度

記事本文はこちらをご覧ください。

韓国における審判制度概要

1. 審判の流れ

図1. 審判の流れ

2. 審判請求
2-1. 査定系の審判請求
 査定系審判は、拒絶査定不服審判(特許法第132条の17、実用新案法第33条、デザイン保護法第120条、商標法第116条)、取消査定不服審判(デザイン保護法第120条)、訂正審判(特許法第136条、実用新案法第33条)等がある(審判便覧第1編第3章第1節)。

 拒絶査定不服審判は、韓国特許庁の審査で拒絶査定を受けた場合、拒絶査定書謄本の送達日から3か月以内に特許審判院に請求することができる(特許法第132条の17、実用新案法第33条、デザイン保護法第120条、商標法第116条)。

 取消査定不服審判は、意匠登録取消査定を受けた場合、その査定謄本の送達を受けた日から3か月以内に請求することができる(デザイン保護法第120条)。
 
※ 意匠登録取消査定とは、意匠一部審査登録出願の異議申立(デザイン保護法第68条)においてなされる取消査定をいう。詳しくは下記の関連記事を参照されたい。
関連記事:韓国における意匠(韓国語「デザイン」)出願制度概要(2020年3月19日)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/18372/

 訂正審判は、特許権者または実用新案権者が、特許権または実用新案権が設定登録された後に、特許請求範囲を減縮する場合、間違って記載されたものを訂正する場合、または発明でないように記載されたものを明確にする場合、明細書または図面の訂正を請求することができる(特許法第136条、実用新案法第33条)。

 なお、「3.方式審査」以降では、代表的な査定系審判である拒絶査定不服審判の手続について説明する。図1のフローチャートも同様とする。

2-2. 当事者系の審判請求
 当事者系の審判は、無効審判(特許法第133条、実用新案法第31条、デザイン保護法第121条、商標法第117条)、権利範囲確認審判(特許法第135条、実用新案法第33条、デザイン保護法第122条、商標法第121条)、取消審判(商標法第119条)等がある(審判便覧第1編第3章第2節)。

 審判を請求しようとする者は、審判請求書に請求の趣旨および理由を記載して特許審判院に提出しなければならない(特許法第140条、実用新案法第33条、意匠法第126条、商標法第125条)。

2-3. 特許・実用新案登録取消申請
 何人も、特許権または実用新案権の設定登録日から登録公告日後の6か月になる日まで、その特許または実用新案登録が取消理由に該当する場合に、特許審判院に取消申請をすることができる(特許法第132条の2、実用新案法第30条の2)。

 特許取消申請は、公衆に特許の見直しを求める機会を与え、瑕疵ある特許を早期に是正することにより権利の安定を図るための制度であり、日本の特許異議申立制度に近い。詳しくは下記の関連記事を参照されたい。

関連記事:韓国における特許取消申請について(2020年11月12日)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19558/

3. 方式審査
 特許審判院の審判部は、審判請求時に記載要件および指定書類等の形式的な要件を審査し、瑕疵がある場合には、補正命令がなされる。瑕疵を指定期間(通常1か月。延長可能)内に補正しない場合には、決定により審判請求は却下される。ただし、補正する事項が軽微で明確な場合には、職権で補正される(特許法第141条、実用新案法第33条、デザイン保護法第128条、商標法第127条、審判便覧第3編第3章第2節)。

 不適法な審判請求としてその欠陥を補正することができないときは、審判請求は審決により却下される(特許法第142条、実用新案法第33条、デザイン保護法第129条、商標法第128条、審判便覧第3編第3章第3節)。

4. 本案審理
 方式審査で瑕疵がなければ本案審理段階に入り、3人または5人の審判官で構成される合議体により審理される(特許法第143条から146条、実用新案法第33条、デザイン保護法第130から133条、商標法第129条から第132条、審判便覧第4編第1章参照)。

4-1. 査定系の場合
 審判部は、審判請求書の記載事項を把握し、拒絶査定不服審判では拒絶理由および不服理由を把握し、訂正審判では提出された訂正後の明細書または図面を一体不可分の一つの訂正事項として把握し、争点を整理する。査定系では、書面審理がなされるが、当事者が口頭審理を要請する場合は、書面審理のみで決定が可能な場合を除いて、口頭審理を行わなければならない(特許法第154条第1項、実用新案法第33条、デザイン保護法第142条第1項、商標法第141条第1項、審判便覧第16編第4章、第21編第7章第1節、第24編第7章第1節)。請求人が、審判官に拒絶査定の争点等の技術、意匠あるいは商標を説明したい場合は、説明会の開催を要請することができる(審判事件説明会等運営規定第5条第3項)。

4-2. 当事者系の場合
 審判部は、審判が請求されると、審判請求書の副本を被請求人に送達する(特許法第147条、実用新案法第33条、デザイン保護法第134条、商標法第133条、審判便覧第2編第2章第9節)。審判部は、まず書面審理を行い、審判請求の理由および答弁や証拠資料を調べ、争点を整理する。審判請求の理由に対する答弁の指定期間は1か月である(審判事務取扱規定第22条第1項)。当事者系は原則的に、口頭審理を行わなければならない。ただし、(i) 審判請求書副本送達後の答弁書が未提出である事件、(ii) 口述審理期日前の審判請求が取下、却下等の事由で終結が予定された事件、(iii) 当事者が提出した審判書類のみで事実認定および判断が容易であると審判長が認めた事件は、書面審理により行うことができる(審判事務取扱規定第39条の2第1項)。

5. 審理終結通知
 本案審理が終わり審決段階に入ると、審判の当事者へ、審理が成熟して審理が終結に近く、追加の審判書類の提出は定められた期限までのみ可能であるということを審理進行状況案内通知により案内する(審判便覧第11編第2章第1節)。同通知により審判請求理由に対する追加意見を提出する最後の機会が与えられるので、この機会を上手く活用することが望ましい。

 その後、審理終結通知がなされる。審理終結通知書には、審決を行う日(審決予定日)を記載し、該当日に審決しなければならない。これは2023年に韓国特許庁の運用変更によって導入された「審決日予告制」であり、当事者に審決予定日を知らせることによって、審決日に対する不確実性を解消し、訴訟提起の要否など今後の紛争に備えた計画を可能にするなど、当事者の利便性向上を図るものである。

 審決予定日が変更された場合、審決予定日変更案内通知書を発送しなければならず、審決予定日変更案内通知書の予定日は、審理終結通知書の発送日を基準として20日を超えてはならない(審判便覧第11編第2章第2節)。

6. 審決
 審理終結通知をした日から20日以内に審決をすることが原則とされている(特許法第162条、実用新案法第33条、デザイン保護法第150条、商標法第149条)。

6-1. 査定系の場合
 原決定を取り消して審査部に差し戻す(認容)もしくは原査定を維持する(棄却)のいずれかの内容の審決がなされる。なお、原決定を取り消す場合は、審判部で特許査定または登録査定をすることはなく、必ず審査部に差し戻される(審判便覧第12編第4章)。

6-2. 当事者系の場合
 請求棄却あるいは請求認容により審決する(審判便覧第12編第5章参照)。

韓国における特許明細書等の補正ができる時期

 韓国においては、特許出願後、特許査定書が送達される前までは、明細書、特許請求の範囲、図面を補正することができる。ただし、拒絶理由通知書を受けた後は、補正をすることができる時期は下記のとおり制限される(特許法第47条第1項)。

(1) 審査請求後、審査が着手され、拒絶理由通知書を受けた場合は、意見書を提出することができる期間内(2か月の指定期間)に補正書を提出することができる(特許法第47条第1項第1号、特許法施行規則(以下「施行規則」という。)第16条第1項)。補正は、願書に最初に添付した明細書または図面に記載された事項の範囲内においてしなければならない(特許法第47条第2項)。

(2) 拒絶理由通知書を受け、意見書と補正書を提出した後、審査官が当該補正書による補正の中に拒絶理由を発見した場合には、最後の拒絶理由通知書を送付する。このときにも意見書を提出することができる期間(2か月の指定期間)内に補正書を提出することができる(特許法第47条第1項第2号、施行規則第16条第1項)。ただし、この場合に特許請求の範囲についてする補正は、請求項の限定または削除等による請求範囲減縮、誤記の訂正、不明確な部分の明確化等のみ可能である(特許法第47条第3項)。

(3) 特許査定の謄本の送達日から設定登録までの期間、または拒絶査定の謄本の送達日から3か月以内に明細書等の補正とともに再審査を請求することができる。なお、再審査請求時には、明細書または図面を補正しなくてはならない(特許法第67条の2第1項)。

(4) 上記(1)、(2)での意見書を提出できる期間は、1か月ずつ4回、最長で4か月まで延長が可能であり(特許・実用新案審査事務取扱規定第23条第3項)、(3)の査定を受けた後の再審査の請求期間は、30日の延長を1回行うことができる(特許法第67条の2第1項、第15条第1項)。ただし、遠隔または交通不便の地域の場合は、追加でさらに30日の延長が可能となる(特許法第15条第1項、施行規則第16条第4条)。また、補正書提出期間も、請求期間が延長された期間だけ延長されるが、再審査請求の場合は、再審査請求期間およびその延長期間が残っていても、補正ができるのは請求時とされているので(特許法第47条第1項第3号)、再審査請求日に補正できる期間は終了する。

(5) 既に再審査による特許可否の決定がある場合は、再審査を請求することができないので(特許法第67条の2第1項第1号)、再度査定を受けた後には明細書等の補正の機会はない。

【留意事項】
(1) 特許出願後(審査請求までの間)に補正が必要であることに気づいた場合、補正すべき事項を見つける度に補正書を提出すれば、そのたびに費用がかかるので、費用節減のためにも、補正すべき事項を別途整理しておいて、審査請求と同時に一度にまとめて補正書を提出することが望ましい。

(2) 意見書提出期間に複数回の補正書を提出する場合、最後の補正前にした全ての補正は、取下げされたものとみなされるので、補正する度に前回の補正までを全て補正しなければならない(特許法第47条第4項)。

韓国の判例の調べ方

(1) 総合法律情報のウェブサイト(https://glaw.scourt.go.kr/wsjo/intesrch/sjo022.do)にアクセスする。総合法律情報のウェブサイトを開くと、下記のトップ画面(図1)が表示される。

図1 総合法律情報トップページ

(2) 次に、トップ画面(図1)の上部にある「검색(検索)」ボックス(図2)に、キーワード、事件名、法令名、条文番号、事件番号、当事者名等を数字または韓国語で入力し、検索ボックスの上の左から2番目のチェックボックス「판례(判例)」にチェックを入れて右側の「검색(検索)」ボタンをクリックする。(初期画面では「☑전체(全体)」が選択されている。)
なお、チェックボックス欄は左から順に、「검색대상(検索対象)」、「전체(全体)」、「판례(判例)」、「법령(法令)」、「조약(条約)」、「문헌(文献)」、「규칙/예규/선례(規則/例規/先例)」となっているので、判例以外について絞り込み検索をすることも可能である。

図2 検索ボックス

 また、この画面で、総合検索以外の検索も可能である。トップ画面(図1)最上部(図3.)の「통합검색(統合検索)」、「판례(判例)」、「법령(法令)」、「조약(条約)」、「문헌(文献)」、「규칙/예규/선례(規則/例規/先例)」のうち、左から2番目の「판례(判例)」にマウスポインタを合わせると、下方に「단순검색(単純検索)」、「상세검색(詳細検索)」、「디렉토리검색(ディレクトリ検索)」が表示される。

図3 トップページ画面最上部

(3) まず、「단순검색(単純検索)」から説明する。図3の「단순검색(単純検索)」をクリックして、検索ボックスにキーワード等を入力してから、「검색(検索)」ボタンをクリックすると、該当する判例を見ることができる。例えば、「大法院2007年10月11日付言渡2007フ1422拒絶決定(特)」の原文詳細を確認したい場合、事件番号部分を韓国語に翻訳し、「2007후1442」と入力して検索ボタンをクリックすると、下記の検索結果が表示され(図4)、表示されている番号をクリックすると判決全文を見ることができる(図5)※1

※1 使用しているブラウザによっては、新しいタブで判決全文画面(図5)が自動的に開くことがある。

図4 単純検索結果
図5 判決全文画面

 なお、韓国総合法律情報ウェブサイト検索結果の判決全文は、印刷および保存することができ、判決全文を印刷する場合は、以下の要領で行う。

 まず、図5の画面右上にある「본문출력(本文出力)」(図6)をクリックすると、印刷範囲を指定するウィンドウ(図7)が表示されるので、「본문(本文)」(すべて印刷の場合)、「일부출력(一部出力)」(部分的に印刷したい場合)、「판시사항(判示事項)」、「판결요지(判決要旨)」、「참조조문(参照条文)」、「참조판례(参照判例)」、「전문(全文)」、「관련자료(関係資料)」、「옵션(オプション)」の「□큰글씨출력(大きい文字で出力)」を適宜チェックして、その下の「출력하기(出力する)」をクリックし、必要な範囲を印刷する。

図6 判決全文画面(画面右上拡大)
図7 印刷範囲を指定する画面

 また、判決全文の保存をしたい場合は、以下の要領で行う。
 まず、図5の画面右上の「본문저장(本文保存)」(図6)をクリックすると、ファイル形式の選択および保存範囲を指定するウィンドウ(図8)が表示されるので、「파일형식(ファイル形式)」でPDFを選択し※2、下にある「저장(保存)」をクリックすることで、必要な範囲をPDFファイルとして保存することができる。

※2 図8.の「HWP」とは、韓国の代表的なワープロソフトのドキュメントファイルである。

図8 ファイル形式や保存範囲を指定する画面

(4) 次に、「상세검색(詳細検索)」について説明する。
 図3で表示された「상세검색(詳細検索)」をクリックすると、下記の図9が表示されるので、各々の検索ボックスにキーワードを入力したり、チェックボックスに✔(チェック)を入れたりして、検索することができる。

図9 詳細検索画面

(5) 最後に、「디렉토리검색(ディレクトリ検索)」を説明する。図3で表示された「디렉토리검색(ディレクトリ検索)」をクリックすると、下記の図10が表示される。ここでは判例を法条文別または法律名別に検索することができる。

図10 ディレクトリ検索画面

 左段の該当する分野別ディレクトリ(図10の青枠内)で希望の項目を選択すると、結果が表示される。例えば、図11のように法分野別ディレクトリで「제30편 공업소유권(第30編 工業所有権)」を選択するとその下に、「제1장 행정조직·통칙(第1章 行政組織・通則)」、「제2장 특허·실용신안(第2章 特許・実用新案)」、「제3장 의장·상표(第3章 意匠・商標)」の項目が表示され、関連する判例等を法条文別または法律名別で検索することができる。

図11 法分野別ディレクトリから「제30편 공업소유권(第30編 工業所有権)」の「제3장 의장·상표(第3章 意匠・商標)」を選択した検索結果画面

 さらに、図11の検索結果の中から希望の法律名等を選択すると別ウィンドウが開くので、左段から希望の項目を選択すると、図12のように判例リストが表示される。

図12 検索結果(図11)から「상표법(商標法)」を選択し、現れた別ウィンドウの左段から「제42조 보정의 격하(第42条 補正の却下)」(青枠)をクリックした画面

 判例リストの中から表示されている件名(図12の黄色枠)をクリックすると、図5のような判決全文を確認することができる。

韓国における関連意匠制度

1. 制度の趣旨
 意匠は、模倣や変形により比較的簡単に他人の権利を侵害することができるため、意匠権の効力が登録意匠、またはこれに類似する意匠にまで及ぶように規定している(デザイン保護法第92条)。しかし、類似する意匠の範囲は抽象的かつ明確でないため、類似する意匠を別途関連意匠として登録し、模倣と侵害を未然に防止し、侵害に対して迅速な措置ができるように、関連意匠制度を設けている。一方、関連意匠制度は、意匠登録出願後に改良・変形した類似意匠が別途権利として登録を受けることができるようにすることにより、出願人の権利保護を強化する役割も果たしている(デザイン保護法第35条、韓国デザイン審査基準(以下「デザイン審査基準」という。)第2部第6章1.)。

2. 登録要件
(1) 関連意匠は、自己の登録意匠または出願意匠(基本意匠)とのみ類似した意匠でなければならない(デザイン保護法第35条第1項、デザイン審査基準第2部第6章2.1、3.1)。

(2) 関連意匠は、基本意匠の意匠登録出願日から3年以内に出願しなければならない。また、関連意匠の意匠権を設定登録する際に、基本意匠の意匠権が設定登録されていない場合、基本意匠の意匠権が取消、放棄または無効審決等で消滅した場合は、関連意匠の登録を受けることができない(デザイン保護法第35条第1項、デザイン審査基準第2部第6章3.2)。
 従来、関連意匠の出願期間は、基本意匠の意匠登録出願日から1年以内であったが、2023年のデザイン保護法の改正(2023年6月20日改正、2023年12月21日施行、以下「改正デザイン保護法」という。)によって、3年以内に拡大された。ただし、経過措置によって、この改正は2023年12月21日以降に出願された基本意匠に対して適用されることに注意する必要がある。また、関連意匠の登録の際に基本意匠が存続していなければならないという要件も、改正デザイン保護法によって追加された。

(3) 登録を受けた関連意匠または出願された関連意匠とのみ類似する(基本意匠とは類似しない)意匠は、意匠登録を受けることができない(デザイン保護法第35条第2項、デザイン審査基準第2部第6章3.4)。

(4) 関連意匠登録出願を単独の意匠登録出願に、単独の意匠登録出願を関連意匠登録出願に変更する補正が可能である(デザイン保護法第48条第2項、デザイン審査基準第4部第1章3.2.1)。

(5) 基本意匠の意匠権に専用実施権が設定されている場合は、関連意匠登録を受けることができない(デザイン保護法第35条第3項、デザイン審査基準第2部第6章3.5)。

(6) 関連意匠登録出願は、その意匠が基本意匠とだけ類似する複数の自己の先行関連意匠に類似するとしても、新規性(デザイン保護法第33条第1項各号)、および先後願の規定(デザイン保護法第46条第1項、第2項)によって拒絶されることはない(デザイン保護法第35条第4項、デザイン審査基準第2部第6章4.1、4.2)。これらは、以前、運用によって対応されていたが、改正デザイン保護法によって法律として明文化された。

(7) 関連意匠登録を受けることができる物品の範囲は、基本意匠と同一であるか、類似の物品である。類似の物品とは、用途が同一で機能が異なる物品、または用途は異なっても混用可能性のある物品(デザイン審査基準第2部第6章4.3)。

3. 権利事項
(1) 関連意匠は、基本意匠と別の独自の権利範囲を有する(デザイン保護法第35条第1項、第92条)。すなわち、基本意匠に類似しない意匠であっても、関連意匠に類似する意匠は、関連意匠の権利範囲に含まれる。

(2) 関連意匠は、基本意匠が消滅しても消滅せず、独自の権利として存続する。ただし、関連意匠として登録された意匠権の存続期間満了日は、その基本意匠の意匠権の存続期間満了日となる(デザイン保護法第91条第1項)。

(3) 意匠権を移転する場合、基本意匠の意匠権と関連意匠の意匠権は、同じ者に共に移転しなければならない(デザイン保護法第96条第1項)。また、基本意匠の意匠権が取消、放棄または無効審決等で消滅した場合、その基本意匠に関する2以上の関連意匠の意匠権を移転しようとするならば、同じ者に共に移転しなければならない(デザイン保護法第96条第6項)。

(4) 基本意匠の意匠権に係る専用実施権と関連意匠の意匠権に係る専用実施権は、同じ者に同時に設定しなければならない(デザイン保護法第97条第1項)。また、基本意匠の意匠権が取消、放棄または無効審決等で消滅した場合、その基本意匠に関する 2 以上の関連意匠の専用実施権を設定するためには、同じ者に共に設定しなければならない(デザイン保護法第97条第6項)。

4. 留意事項
(1) 改正デザイン保護法によって、関連意匠は、基本意匠の意匠登録出願日から3年以内に出願することが可能となった。ただし、経過措置によって、この改正は2023年12月21日以降に出願された基本意匠に対して適用されることに注意する必要がある。

(2) 関連意匠の権利は、基本意匠の権利とは別の独自の権利として存続するが、その存続期間は基本意匠の存続期間と同一である点に注意する必要がある。

韓国における商標出願制度概要


図1 商標の出願手続フローチャート(再審査請求は2023年2月4日から施行)

1. 商標登録出願
・韓国では、通常の商標(商品標章、役務標章)以外に、団体標章、地理的表示団体標章、証明標章、地理的表示証明標章、業務標章も登録出願可能である(商標法第36条)。
・出願に必要な書類は、出願書(出願人の住所および名称、商標見本、指定商品・役務ならびに区分を含む)および委任状等である(商標法第36条第1項)。パリ条約等に基づく優先権主張が可能となるのは、第一国の出願日から6か月以内である(商標法第46条第1項、第2項)。
・1出願多区分制度を採っており、出願料は1区分追加ごとに料金が追加される。また、1区分につき指定商品・役務が10を超える場合は、超過の1商品・役務ごとに追加手数料が発生する(商標法第38条第1項、特許料等の徴収規則第5条第1項)。なお、登録料および更新登録料も同様の徴収規則が規定されている(登録料:特許料等の徴収規則第5条第2項第1号、更新登録料:同規則第5条第2項第3号)。

2. 方式審査
・出願書類等に不備がある場合、手続補完命令が発付される。これに応じなければ、出願は不受理となる(商標法第37条第2項および第5項、商標法施行規則第31条)。

3. 実体審査
3-1. 拒絶理由通知、意見書提出通知書
・出願商標は、審査で拒絶理由が発見されれば、拒絶理由通知(韓国語「의견제출통지서(意見提出通知書)」)が発付され、2か月以内に意見書、補正書を提出することができる(商標法第55条、商標法施行規則第32条第2項、同規則第50条第2項)。なお、提出期限の延長申請は1か月ずつ4回まで可能であり、また、2回以上を一度に延長申請することもできる(商標審査基準第1部第4章3.1.2)。

3-2. 商標共存同意制度(いわゆるコンセント制度)
・出願商標が、先に出願された他人の登録商標と同一・類似した商標で、かつ、その指定商品と同一・類似した商品に使用する商標であれば、登録されない。ただし、最近の法改正により、商標登録同意書(以下「同意書」という。)があれば、商標登録を受けることができる場合がある(商標法第34条第1項第7号)。つまり、韓国には商標共存同意制度があり、先の登録商標と同一または類似の出願商標であっても、その商標および指定商品の少なくとも一方が登録商標と同一ではなく類似であり、かつ、先の登録商標権者からの同意書があれば登録が可能である。
・同意書は、商標登録出願書、意見書、異議申立の答弁書または審判に対する意見書に添付して提出できる(商標法施行規則第26条の2第1項)。

3-3. 公告決定または拒絶査定
・拒絶理由が発見されない場合には、出願公告が決定される(商標法第57条)。
・提出された意見書によっても拒絶理由が解消されない場合は、拒絶査定(韓国語「거절결정(拒絶決定)」)となる(商標法第54条)。
・拒絶理由が指定商品の一部にのみある場合は、その指定商品のみ拒絶査定となり、拒絶理由が発見されない商品は公告決定となる(商標法第54条、商標法第57条)。

4. 再審査請求および拒絶査定不服審判
・商標登録拒絶査定を受けた者は、その決定謄本の送達を受けた日から3か月以内に指定商品または商標を補正して当該商標登録出願に関する再審査を請求できる。なお、既に再審査による拒絶査定を受けているとき、または後述する拒絶査定不服審判を請求しているときは、再審査を請求することはできない(商標法第55条の2)。
・審査官の拒絶査定に対して不服がある場合には、拒絶査定の謄本の送達を受けた日から3か月以内に特許審判院に拒絶査定不服審判を請求することができる(商標法第116条)。
・特許審判院の審決に不服があれば、特許法院に審決取消訴訟を提起することができる。また、特許法院の判決に対しては、大法院に上告することができる(商標法第162条)。

5. 異議申立
・公告日から2か月以内であれば、誰でも公告された商標に対して異議申立をすることができる。異議申立書は、所定の様式に基づいて作成し、異議申立の理由および必要な証拠を添付しなければならない(商標法第60条)。異議申立期間の経過後30日以内に異議申立の理由または証拠を提出しなかった場合、異議申立は却下される(商標法第66条第4項)。
・審査官合議体は、異議申立に関して出願人や異議申立人が主張しない理由に関しても審査することができる。この場合、出願人または異議申立人に対し、期間を定めて意見陳述の機会を与えなければならない(商標法第63条)。

6. 登録査定および存続期間
・公告期間中、商標登録出願に対して拒絶理由を発見できなければ登録査定(韓国語「등록결정(登録決定)」)となり、2か月以内に登録料を納付すれば、登録証が発行される(商標法第68条、特許料等の徴収規則第8条第7項第1号)。
・商標権の存続期間は設定登録日から10年間である(商標法第83条第1項)。

7. 商標更新登録申請
・商標更新登録申請は、存続期間満了の1年前から満了日まで申請することができる。また、商標権の存続期間が満了した後においても、満了日から6か月以内であれば更新登録申請が可能であるが、追加費用がかかる(商標法第84条第2項、特許料等の徴収規則第5条第2項第3号(ロ))。
・更新登録申請により、10年ずつ更新することができる(商標法第83条第2項)。

韓国における特許・実用新案・意匠年金制度の概要

1. 特許権
1-1. 存続期間
 韓国における特許権の存続期間は、出願日(PCT条約に基づく特許出願の場合は国際特許出願日)から20年である(韓国特許法(以下「特許法」という。)第88条第1項)。年金の納付義務は、特許査定が発行された場合に発生し、審査係属中は発生しない(特許法第79条第1項)。
 特許権の存続期間の延長制度として、特許出願に係る発明の実施にあたって他の法令による許可が必要であり、当該許可を受けるまでに特許発明の実施をすることができない期間がある場合には、実施をすることができない期間に対して最長5年の期間まで存続期間延長出願を行う制度がある(特許法第89条第1項)。

1-2. 年金の納付期限
 特許査定が発行されると、特許査定を受領した日から3か月以内に初回の年金納付として、1年度から3年度の3年分の年金の納付が求められる(特許法第79条1項、特許料等の徴収規則第8条第5項)。なお、韓国では、2回目以降、すなわち4年度以降の年金は、設定登録日に該当する日を基準として毎年1年分ずつ、その前年度に納付しなければならず(特許法79条第1項、特許料等の徴収規則第8条第8項)、毎年の設定登録日に対応する日が納付期限となる。4年度以降の年金は1年ごとの納付、および複数年分の一括納付どちらも可能である(特許法第79条第2項)。

※ ここでの年度とは、設定登録日を基準とした年金納付の年度をいう。期間の計算において初日は算入しないので(特許法第14条第1項第1号)、各年度の最終日は設定登録日に対応する日となる。

 年金の納付金額は、年度が上がるに従って増額し、また請求項数により変動する(特許料等の徴収規則第2条第2項第1号 別表1)。年金は、特許権者もしくは利害関係人であれば納付することができる(特許法第80条第1項)。

 年金納付額に不足がある場合、韓国特許庁より補填命令が下され、補填命令を受けた日から1か月以内であれば不足分の年金を納付することができる(特許法第81条の2)。

1-3. 納付期限を徒過した場合(追納制度)
 納付期限日までに年金が納付されなかった場合、納付期限日から6か月以内であれば年金の追納が可能である(特許法第81条第1項)。年金の一部が追納期間内に納付されていない場合は、前述のように韓国特許庁より補填命令が下され、補填命令を受けた日から1か月以内であれば年金を納付することができる(特許法第81条の2)。追納期間中や補填期間中は、所定の年金金額に加えて追徴金を同時に納付する必要がある(特許法第81条第2項、第81条の2第3項)。

1-4. 権利回復制度
 6か月の追納期間を超えて年金および追徴金が納付されなかった場合、または、1か月の補填期間を超えて不足分の年金および追徴金が納付されなかった場合、特許権は消滅したものとみなされる(特許法第81条第3項)。ただし、追納期間の最終日もしくは補填期間の最終日から3か月以内であれば、権利回復の申請が可能である(特許法第81条の3第3項)。権利回復の申請の際には、当初の年金と追徴金に加え、回復費用を納付する必要がある。

 上記の通り、追納期間経過までに年金を納付しない場合、特許権は消滅するが、権利を放棄したい旨を記した書面を韓国特許庁に提出することにより積極的に放棄する手続もある。なお、特許権の放棄は、請求項ごとに行うことができる(特許法第215条の2第1項)。

1-5. 年金の誤納
 所定の年金よりも多く納付した場合、韓国特許庁に過払い金の返還請求を行えば返金される(特許法第84条第1項第1号)。ただし、韓国特許庁から返還事例に該当する旨の通知を受領した日から5年を経過した後は、返還請求をすることができない(特許法第84条第3項)。

2. 実用新案権
2-1. 存続期間
 実用新案権の存続期間は、出願日(PCT条約に基づく実用新案出願の場合は国際特許出願日)から10年である(韓国実用新案法(以下「実用新案法」という。)第22条第1項)。出願日から4年、あるいは出願審査請求日から3年のうちどちらか遅い日よりも後に実用新案の設定登録がされた場合、遅延した期間分の延長登録出願を行うことができる(実用新案法第22条の2第1項、第22条の3)。

2-2. 年金の納付期限
 年金の納付義務は、出願が登録査定を受けてから発生し、審査係属中は発生しない(実用新案法第16条第1項、特許料等の徴収規則第8条第5項)。特許権と同様、出願が登録査定を受けると、登録査定を受領した日から3か月以内に初回の年金納付として1年度から3年度の3年分の年金の納付が求められる(実用新案法第16条第1項、特許料等の徴収規則第8条第8項)。2回目以降、すなわち4年度以降の年金は、設定登録日が該当する日を基準として毎年1年分ずつ、その前年度に納付しなければならず、毎年の設定登録日に対応する日が納付期限となる。4年度以降の年金は一年ごとの納付および複数年分の一括納付どちらも可能である(実用新案法第16条第2項)。

 年金の納付金額は、年度が上がるに従って増額し、請求項数により変動する(特許料等の徴収規則第3条第2項第1号 別表2)。年金は、実用新案権者もしくは利害関係人であれば納付することができる(実用新案法第20条で準用する特許法第80条第1項)。

2-3. 納付期限を徒過した場合(追納制度)
 年金の追納制度は、特許と同じである(実用新案法第20条で準用する特許法第81条第1項、第81条の2)。

2-4. 権利回復制度
 追納期間を徒過した場合の権利回復制度は、特許と同じである(実用新案法第20条で準用する特許法第81条の3第3項)。

 追納期間経過までに年金を納めない場合、実用新案権は消滅するが、権利を放棄したい旨を記した書面を韓国特許庁に提出することにより積極的に放棄する手続もある(実用新案法第44条で準用する特許法第215号の2第1項)。

2-5. 年金の誤納
 年金の誤納返還に関する制度も特許と同じである(実用新案法第20条で準用する特許法第84条)

3. 意匠権
3-1. 存続期間
 意匠権の存続期間は、出願日から20年である(韓国デザイン保護法(以下「デザイン保護法」という。)第91条第1項)。存続期間の延長制度は存在しない。

3-2. 年金の納付期限
 年金の納付義務は、出願が登録査定を受けてから発生し、審査係属中は発生しない(デザイン保護法第79条第1項、特許料等の徴収規則第8条第5項)。特許と同様、出願が登録査定を受けると、登録査定を受領した日から3か月以内に初回の年金納付として1年度から3年度の3年分の年金の納付が求められる(デザイン保護法第79条第1項、特許料等の徴収規則第8条第8項)。2回目以降、すなわち4年度以降の年金は、設定登録日が該当する日を基準として毎年1年分ずつ、その前年度に納付しなければならず、毎年の設定登録日に対応する日が納付期限となる。なお、4年度以降の年金は一年ごとの納付および複数年分の一括納付どちらも可能である(デザイン保護法第79条第2項)。

 年金の納付金額は、年度が上がるに従って増額し、また意匠の数により変動する(特許料等の徴収規則第4条第2項第1号 別表3)。年金は、意匠権者もしくは利害関係人であれば納付することができる(デザイン保護法第81条第1項)。

3-3. 納付期限を徒過した場合(追納制度)
 年金の追納については、特許と同様の制度がある(デザイン保護法第82条、第83条)。

3-4. 権利回復制度
 追納期間を徒過した場合の権利回復については、特許と同様の制度がある(デザイン保護法第84条)。追納期間経過までに年金を納めない場合、意匠権は消滅するが、権利を放棄したい旨を記した書面を韓国特許庁に提出することにより積極的に放棄する手続もある(デザイン保護法第105条)。なお、複数の意匠が登録された意匠権は、意匠権ごとに分離して放棄することができる(デザイン保護法第105条)。

3-5. 年金の誤納
 年金の誤納返還についても、特許と同様の制度がある(デザイン保護法第87条)。

韓国の不正競争防止法について

1.「不正競争行為」の定義
 不正競争防止法で定める「不正競争行為」とは、次のようなものをいう(不正競争防止法第2条第1項)。なお、以下の説明は規定内容の把握を容易にするために簡略化した記載としており、また、法律改正で条文が変わる可能性もあるため、最新情報は【ソース】記載の「韓国不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律」(日本語)を参照されたい。

(イ) 正当な事由なく国内に広く認識された他人の氏名、商号、商標、商品の容器・包装、その他に他人の商品であることを表示した標識と同一もしくは類似するものを使用し、またはこのようなものを使用した商品を販売・頒布、または輸入・輸出して他人の商品と混同させる行為

(ロ) 正当な事由なく国内に広く認識された他人の氏名、商号、標章、その他に他人の営業であることを表示する標識と同一または類似するものを使用して、他人の営業上の施設または活動と混同させる行為(上記、営業であることを表示する標識は、商品販売・サービス提供方法または看板・外観・室内装飾等の営業提供場所の全体的な外観も含む。)

(ハ) (イ)または(ロ)に規定する混同させる行為の外に非商業的使用等、大統領令で定める正当な事由なしに国内に広く認識された他人の氏名、商号、商標、商品の容器・包装、その他に他人の商品または営業であることを表示した標識と同一か、または類似するものを使用し、もしくはこのようなものを使用した商品を販売・頒布、または輸入・輸出して他人の標識の識別力や名声を損傷する行為

(ニ) 商品やその広告によって、または公衆が分かり得る方法で取引上の書類、または通信に偽りの原産地を標識し、このような標識をした商品を販売・頒布、または輸入・輸出して原産地を誤認させる行為

(ホ) 商品やその広告によって、または公衆が分かり得る方法で取引上の書類、または通信にその商品が生産・製造、または加工された地域外の所で生産、または加工されたように誤認させる標識をし、このような標識をした商品を販売・頒布、または輸入・輸出する行為

(ヘ) 他人の商品を詐称し、または商品もしくはその広告に商品の品質、内容、製造方法、用途、または数量を誤認させる宣伝、または標識、このような方法や標識として商品を販売・頒布、または輸入・輸出する行為

(ト) パリ条約同盟国、世界貿易機構加盟国、商標法条約締約国のうち、いずれか一つの国に登録された商標、またはこれと類似する商標に関する権利を有する者の代理人や代表者、またはその行為日前1年以内に代理人や代表者だった者が、正当な事由なしに該当の商標をその商標の指定商品と同一か類似する商品に使用し、その商標を使用した商品を販売・頒布または輸入・輸出する行為

(チ) 正当な権原がない者が、正当な権原がある者、または第三者に販売し、商業的利益を得る目的等で国内に広く認識された他人の氏名、商号、商標、その他の標識と同一か類似するドメイン名を登録・保有・移転または使用する行為

(リ) 他人が製作した商品の形態(形状・模様・色彩・光沢、またはこれらを結合したことをいい、試作品または商品紹介書上の形態を含む。)を模倣した商品を譲渡・貸与、またはこのための展示をしたり輸入・輸出する行為(ただし、商品の試作品製作など商品の形態が備えられた日から3年が過ぎた商品の形態、または他人が製作した商品と同種の商品が通常的に有する形態を模倣した商品を譲渡・貸与、または、このための展示をしたり輸入・輸出する行為は除外される。)

(ヌ) 事業提案、入札、公募等の取引交渉、または取引過程で経済的価値を有する他人の技術的、または営業上のアイディアが含まれた情報をその提供目的に違反して自身、または第三者の営業上の利益のために不正に使用したり、他人に提供して使用するような行為(ただし、アイディアの提供を受けた者が提供を受ける当時に既にそのアイディアを知っていたり、そのアイディアが同種業界で広く知られていた場合には、この限りでない。)

(ル) データ、つまり「データ産業振興および利用促進に関する基本法」第2条第1号によるデータのうち、業として特定人または特定多数に提供されるもので、電子的方法で相当量の蓄積・管理されており、秘密として管理されていない技術上または営業上の情報を不正に使用する行為

(ヲ) 国内に広く認識され経済的価値を持つ他人の声明、肖像、音声、署名等、その他人を識別できる表示を公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法で自身の営業のために無断で使用することにより、他人の経済的利益を侵害する行為

(ワ) その他に、他人の多額の投資や努力で作られた成果等を公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法で自己の営業のために無断で使用することにより、他人の経済的利益を侵害する行為

2.「営業秘密」の定義
 「営業秘密」とは、「公然と知られておらず、独立した経済的価値を有するものであって、秘密に管理された生産方法、販売方法、その他営業活動に有用な技術上または経営上の情報をいう」と定めている(不正競争防止法第2条第2項)。

3.「営業秘密侵害行為」の定義
 営業秘密の「侵害行為」とは、次のような行為をいう(不正競争防止法第2条第3項)。

(イ) 窃取、欺罔、脅迫、その他不正な手段で営業秘密を取得する行為、またはその取得した営業秘密を使用し、もしくは公開する行為

(ロ) 営業秘密に対して不正取得行為が介入された事実を知り、もしくは重大な過失により知らずにその営業秘密を取得する行為、またはその取得した営業秘密を使用し、公開する行為

(ハ) 営業秘密を取得した後にその営業秘密に対して不正取得行為が介入された事実を知り、または重大な過失により知らずにその営業秘密を使用し、公開する行為

(ニ) 契約関係等によって営業秘密を秘密として維持すべき義務がある者が、不正な利益を得たりその営業秘密の保有者に損害を与える目的でその営業秘密を使用したり公開する行為

(ホ) 営業秘密が上記(ニ)によって公開された事実、もしくはそういう公開行為が介入された事実を知り、または重大な過失により知らずにその営業秘密を取得する行為、またはその取得した営業秘密を使用し公開する行為

(ヘ) 営業秘密を取得した後に、その営業秘密が上記(二)によって公開された事実、もしくはそういう公開行為が介入された事実を知り、または重大な過失により知らずにその営業秘密を使用し公開する行為

4. 不正競争行為及び営業秘密侵害行為の民事上救済手段
(1) 侵害禁止請求権
・不正競争行為等の禁止請求権等
 不正競争行為や「自由貿易協定により保護する地理的表示の使用禁止等」(第3条の2第1項または第2項)に違反する行為により自身の営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある者は、違反する行為をしようとする者に対して、裁判所にその行為の禁止または予防を請求できる(不正競争防止法第4条)。

・営業秘密侵害行為に対する禁止請求権等
 営業秘密の保有者は、営業秘密の侵害行為をしようとする者に対して、その行為によって営業上の利益が侵害され、または侵害されるおそれがある場合には、裁判所に侵害行為を造成した物の廃棄、侵害行為に提供された設備の除去、その他侵害行為の禁止または予防のために必要な処置とともに請求できる。(不正競争防止法第10条)
 ただし、不正競争行為および営業秘密侵害行為の禁止または予防を請求できる権利は、その不正競争行為を行った者を知った日から3年間行使しなければ時効の成立により消滅し、その不正競争行為が始まった日から10年が過ぎたときも同じである(不正競争防止法第4条第3項、第14条)。

(2) 損害賠償責任
・不正競争行為等に対する損害賠償責任
 故意または過失による不正競争行為や第3条の2第1項または第2項に違反した行為(第2条第1号ハの場合は、故意による不正競争行為のみをいう。)として他人の営業上の利益を侵害し、損害を被らせる者は、その損害を賠償する責任を負わなければならない(不正競争防止法第5条)。

・営業秘密侵害に対する損害賠償責任
 故意または過失による営業秘密侵害行為で営業秘密保有者の営業上の利益を侵害し、損害を被らせる者は、その損害を賠償する責任を負わなければならない(不正競争防止法第11条)。
 裁判所は、第2条第1号ヌの行為および営業秘密侵害行為が故意によるものと認められる場合には、損害として認められた金額の3倍を超えない範囲で賠償額が決められる(不正競争防止法第14条の2第6項)。

(3) 信用の回復
・不正競争行為等で失墜された信用の回復
 裁判所は、故意(または過失)による不正競争行為や自由貿易協定により保護する地理的名称等(不正競争防止法第3条の2第1項または第2項)に違反した行為により他人の営業上の信用を失墜させた者には、不正競争行為等違反した行為により、自身の営業上の利益が侵害された者の請求による損害賠償に代え、または損害賠償とともに営業上の信用を回復するのに必要な措置を命じることができる(不正競争防止法第6条)。

・営業秘密保有者の信用回復
 裁判所は、故意または過失による営業秘密侵害行為で営業秘密保有者の営業上の信用を失墜させた者には、営業秘密保有者の請求により損害賠償に代え、または損害賠償とともに営業上の信用を回復するのに必要な措置を命じることができる(不正競争防止法第12条)。

5. 不正競争行為及び営業秘密の刑事上処罰
(1) 不正競争行為(ドメインネーム等一部除外)を行なった者、または国旗・国章等の使用禁止(不正競争防止法第3条)の規定に違反してパリ条約同盟国、世界貿易機構加盟国、または商標法条約締約国の国旗・国章その他の徽章、国際機構の標識と同一であるか類似するものを商標として使用した者は、3年以下の懲役または3千万ウォン以下の罰金に処する(不正競争防止法第18条第4項)。

(2) 営業秘密を無断で流出する行為、不正な手段で取得使用する行為をした者は、10年以下の懲役または5億ウォン以下の罰金に処する。または、営業秘密を外国で使用し、外国で使用されるものであることを知りながら上記の該当する行為をした者は、15年以下の懲役または15億ウォン以下の罰金に処する。ただし、罰金刑に処する場合、違反行為による財産上の利益額の10倍に該当する金額が5億ウォンを超過する場合は、その財産上の利益額の2倍以上10倍以下の罰金に処する(不正競争防止法第18条第1項、第2項)。

(3) 法人の代表者、法人または個人の代理人、使用人、その他の従業員が、その法人または個人の業務に関して法則(第18条第1項から第4項)のうちいずれか一つに該当する違反行為を行ったときば、その行為者を罰するほかに、その法人または個人にも該当条文の罰金刑を科する。ただし、法人または個人がその違反行為を防止するために該当業務に関して相当な注意と監督を怠らなかった場合には、この限りでない(不正競争防止法第19条)。

6. 裁判例紹介
 日本企業が韓国でビジネスを行おうとする際に、第三者の侵害行為の排除、あるいは他人の権利に対する侵害を回避する観点から参考になると考えられる近年の裁判例を以下に紹介する。

(1) デザイン権侵害禁止等
[特許法院2020.12.11.宣告、2020ナ1018判決:(確定)]
 デザイン権者の甲が乙株式会社等を相手に、甲の製品形態を模倣した製品を輸入・販売し、不正競争防止法第2条第1号リで定める不正競争行為をしたとして、製品の生産禁止、廃棄等と損害賠償を求めた事案である。登録デザインの登録を無効にするという審決が確定したため、甲のデザイン権は、デザイン保護法第121条第3項本文により最初から無かったものと見なければならず、甲の製品は、その形態的特徴が同種商品において従来から採用されてきた形態あるいは同種の商品であれば、多くある個性がない形態等に該当するので、不正競争防止法第2条第1号リによって保護される商品形態に該当すると見ることはできないという理由で、裁判所は甲の主張を全て排斥した。

(2) 標章使用禁止請求
[ソウル高法2020.6.18.宣告、2019ナ2047941判決:(確定)]
 登録商標権者である甲会社が、乙会社を相手に、登録商標の「VIVID」部分が分離観察・認識が可能な要素であり、乙会社が甲会社の登録商標と同一の標章を使用して商品を販売した行為が不正競争防止法第2条第1項イで定める不正競争行為に該当するという理由から標章使用禁止を求めた事案において、「VIVID」が甲会社の商品標識として独自の周知性を獲得したとみなし難いため、乙会社の行為が不正競争行為に該当しないとした事例である。

(3) 標章使用禁止等
[特許法院2018.10.26.宣告、2017ナ2677判決:(上告取下げ)]
 乙会社が、国内に広く知られた標識である登録商標と類似した標章を紅参製品に表示して製造・販売する行為は、需要者や取引者にとって甲会社の商品と混同させる行為として、不正競争防止法第2条第1号イに定める不正競争行為に該当するとした事例である。

(4) 産業技術の流出防止及び保護に関する法律違反・業務上の背任
[大法院2018.7.12.宣告、2015ド464判決]
 旧不正競争防止および営業秘密保護に関する法律(2013.7.30.法律第11963号に改正される前のもので、以下、「旧不正競争防止法」という。)違反に対する上告理由において、旧不正競争防止法第18条第1項違反の罪は、故意の他に「不正な利益を得て企業に損害を加える目的」を犯罪成立要件とする目的犯であることが主張された。裁判所は、その目的があったかどうかは、被告人の職業、経歴、行為の動機及び経緯と手段、方法、そして営業秘密保有企業と営業秘密を取得した第三者との関係等、様々な事情を総合して社会通念に照らし合理的に判断しなければならないとした(大法院2007.4.26.宣告、2006ド5080判決、大法院2017.11.14.宣告、2014ド8710判決等参照)。

(5) 不正競争行為禁止請求の訴え
[大法院2016.10.27.宣告、2015ダ240454判決]
 透明なカップまたはコーンに盛られたソフトアイスクリームの上に蜂巣蜜(蜂の巣そのままの状態である蜜)を乗せたかたちをした甲株式会社の製品が、不正競争防止法第2条第1号リによる保護対象であるのかが問題になった事案において、裁判所は、甲会社の製品は、個別製品ごとに商品形態が異なり一定の商品形態を常に有していると見るのが難しく、上記規定による保護対象になり得ないとした事例である。
 不正競争防止法第2条第1号リに規定する模倣の対象としての「商品の形態」の意味、およびこれを備えるための要件/商品の形態を構成するアイディアや着想または特徴的模様や機能等の同一性はあるが、商品に一貫した定型性がない場合、「商品の形態」を模倣した不正競争行為の保護対象に該当できないと裁判所は判断した。

7. 留意事項
(1) 商標法、意匠法等によって登録を受けていない知的財産が不正に使用された場合には、本法を用いて対応することが考えられる。例えば、商標法により登録を受けていない標章が他人に不正に使用された場合や、商品を製作して3年以内に当該商品の形状を第三者が模倣して販売し、輸出入した場合等である。しかしながら、「国内での広い認識」、「他人の商標との誤認混同」などの要件を満たしていることを立証することが難しいことが多い。したがって、確実に自己の権利を守り、行使するためには、不正競争防止法のみに頼るのではなく、商標法、意匠法等により権利を取得することが重要である。

(2) ここでは、韓国の不正競争防止法における不正競争行為と営業秘密行為の定義を扱い、これらの行為への対応のみを簡単に紹介したもので、内容の詳細については、【ソース】に掲載した「営業秘密管理マニュアル(JETRO)」(下記の関連記事も参照)を参考にされたい。

関連記事:「韓国における営業秘密管理マニュアル」(2023.08.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/34706/

韓国における仮想空間に関する知的財産の保護の状況に関する調査

「仮想空間に関する知的財産の保護の状況に関する調査研究報告書」(令和5年3月、知的財産研究教育財団 知的財産研究所)

(目次) 
第3部.調査結果 
第1章.公開情報調査 
(仮想事例(仮想事例1(仮想空間の靴)、仮想事例2(仮想空間の椅子))を設定し、韓国における仮想空間に関する知的財産について関連する法律(デザイン保護法、商標法、著作権法、不正競争防止法、特許法)で保護される対象、保護が及ばない対象、権利制限/適用除外/効力が及ばないとされる範囲について、分析した結果を示している。) 

第4節.海外調査 
(4)韓国 P.75 

第2章.ヒアリング調査
(仮想事例1および2に対するヒアリング項目について、韓国の企業や有識者の回答を紹介している。) 

第2節.海外ヒアリング調査 
第4項 韓国 P.160 
(1)仮想空間を用いたビジネスの現状と展望について 
(2)仮想空間における知的財産権の保護の状況・課題・ニーズについての認識について 
①仮想事例1 
②仮想事例2-A、仮想事例2-B 
③仮想事例1、仮想事例2-A、仮想事例2-B以外のビジネス上での知的財産に関する課題および懸念事項 
④韓国における法改正又はガイドライン制定等に向けた議論の内容や状況等、議論の状況についての有識者の考え 
⑤日本の現行法下でビジネスを行うと仮定した場合のビジネス上の課題や望ましい解決手段の考え方 
(3)仮想空間における知的財産権に関する横断的な課題の認識について 
①プラットフォーマー等の責任について 
②越境取引における法の適用について 
③複数の仮想空間に跨った権利やライセンスの効力範囲について 

第4部.まとめ 
(韓国における仮想空間に関する知的財産権について、現行の知的財産権各法で保護される対象、保護が及ばない対象の整理、および仮想空間でビジネスを行う企業や有識者等へのヒアリングを行い、法制や議論の状況についての調査結果を総括している。) 

第5章.韓国 
第1節.デザイン保護法 P.189 
第2節.商標法 P.190 
第3節.著作権法 P.190 
第4節.不正競争防止法 P.191 
第5節.特許法 P.191 

資料編 
資料III 
10.ヒアリング調査の質問票(韓国有識者) P.266 
11.ヒアリング調査の参考資料(韓国有識者) P.268 

資料IV 
10.韓国有識者 P.307