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韓国における商標出願の拒絶理由通知に対する対応

 商標出願に対する審査官の拒絶理由の内容は、主に次のように分類することができる。
(1) 性質表示標章に該当(商標法第33条第1項第3号)
(2) 引用商標と同一または類似(商標法第34条第1項第7号、第35条第1項)
(3) 指定商品が包括名称または不明確(商標法第38条)

以下、順に詳述する。

(1) 性質表示標章に該当(商標法第33条第1項第3号)
 出願商標が性質表示標章に該当する、という拒絶理由通知を受ける場合がある。この場合、出願商標の意味が、指定商品の性質の直接的な表示に該当するのか、単に指定商品の性質を暗示または強調するものに過ぎないのか等を把握して対応しなければならない。上記に関連し、最高裁判所(韓国語「대법원」(大法院))の判例では、「その商標が指定商品の品質、効能、形状等を暗示、強調するものとみえるとしても、全体的な商標の構成からみる時、一般取引者や需要者らが指定商品の単純な品質、効能、形状等を表示するものであると認識することができないものは、これに該当しない」(大法院 1987.3.10 宣告 86フ18判決)と判断している。

 意見書提出時には、参考資料として類似の商標の登録事例および判例、日本等外国での登録事例等を提出して対応する場合が多い。しかし、実際には、性質表示ではないとの客観的な立証を行うのは難しいため、拒絶理由の解消は困難といえる。

(2) 引用商標と同一または類似(商標法第34条第1項第7号、第35条第1項)
 引用商標と同一または類似するという拒絶理由通知を受ける場合がある。この場合は、まず、引用商標と抵触する指定商品が削除可能であるかを確認し、可能な場合には削除する。特許庁は、商品の類否を判断するために類似群コードを運用しており、ニース分類による商品区分と関係なく類似群コードが同一であれば、原則的に類似の商品と推定する(類似商品審査基準(ニース第12版基準))。

 引用商標に係る拒絶理由において、出願商標と引用商標が外観、称呼、観念が同一または類似していて拒絶理由の解消が難しい場合がある。そのときは、引用商標について使用の有無を調査し、不使用と判断できる場合には不使用取消審判を請求する方法をとることが多い(不使用取消審判については、関連記事「韓国における商標の不使用取消審判制度」を参照)。引用商標について不使用取消審判を請求して取消が確定した場合、拒絶理由が解消され、出願は維持される。

 なお、引用商標と同一または類似であっても、商標登録同意書(以下「同意書」という。)があれば、商標登録を受けることができる場合がある(商標法第34条第1項第7号)。つまり、韓国には商標共存同意制度(いわゆるコンセント制度)があり、先の登録商標と同一または類似の出願商標であっても、その商標および指定商品の少なくとも一方が登録商標と同一ではなく類似であり、かつ、先の登録商標権者からの同意書があれば登録が可能である。ただし、「先登録商標と標章および指定商品が同一の出願商標の共存同意書」、「条件付きの共存同意書」および「包括的共存同意書」は認められない。また、子会社等の関係会社であっても法律上は他人に該当するため、商標共存同意書を提出しなければならない。共存同意で登録された後、出願商標を不正な目的で使用することで需要者に誤認・混同を起こした場合は、取消審判請求の対象になるので注意しなければならない(商標法第119条第1項5の2)。

(3) 指定商品が包括名称または不明確(商標法第38条)
 指定商品が不明確または包括名称に該当するという拒絶理由通知を受ける場合がある。これに対しては、商標法施行規則で定める商品区分表に例示された商品名に準じて、商品の用途および材料等を限定または特定するのがよい。

 専門的な用語を用いて詳細かつ細密に説明した指定商品は、むしろ不明確であるとの理由で拒絶理由通知が出される傾向がある。この場合は、可能であれば当該業界で一般的に使用されている名称に補正するのがよい。例えば、「ぜんまい式卓上時計」は認められるが、「ぜんまいを巻いて針が周り、時間を知らせる機械」と書いた場合に、指定商品不明確として拒絶理由通知が出されるようなケースもある。

(4) 一部指定商品等が拒絶理由に該当する場合
 拒絶理由通知書を受けた際に、拒絶理由の対象が商標登録出願の指定商品すべてではなくその一部にのみ該当する場合、拒絶理由に該当しない指定商品は商標登録を受けることができるが(いわゆる「部分拒絶制度」)、拒絶理由がない商品の商標登録を早く受けようとする場合は、補正書を提出(商標法第40条および第41条)するか、または分割出願(商標法第45条)をすることが望ましい。

(5) 商標の類否判断
 従来、韓国では、部分観察(分離観察)の傾向が強かったが、現在は全体観察へと移行している。外観、称呼および観念等を客観的、全体的、離隔的に観察して、該当指定商品の取引で一般需要者や取引者が商標に対して感じる直観的認識を基準として商品の出所に対する誤認、混同を起こす恐れがあるか否かによって判断されるべきとする最高裁判決(大法院 2000.4.25宣告 99フ1096)もあり、審査基準の記載も部分観察からやや全体観察へ移行しているように見受けられる(商標審査基準第5部第7章「補充基準:商標の同一・類似」2.2.3「類否判断のための観察方法」(P50709))。しかし、必ずしも全体観察の原則が採られているわけではないので出願に際しては十分な検討が必要である。例えば、識別力が弱い文字と識別力のある図形の結合商標で、全体として識別力があるように見受けられる場合は、登録される可能性はあるが、分離観察され、拒絶される可能性も否定できないので、文字部分と図形部分の分離が不可能な程度に密接させる等の工夫が必要である。

(6) 拒絶理由通知への対応の期限
 拒絶理由通知を受けた場合、通知書の発送日から2か月の期間内に意見書および補正書を提出しなければならない。ただし、提出期間の延長を申請すれば、審査官は延長を1か月ずつ4回まで認める。また、2回以上の延長を一度に申請することも認められる(商標審査基準第1部第4章3.1.2)。
 さらに、延長を含め、審査官が認めた提出期間内に意見書を提出できなかった場合、当該提出期間の満了日から2か月以内に商標に関する手続を継続して進行することを申請し、拒絶理由に対する意見書を提出することができる(商標法第55条第3項、商標審査基準第1部第4章「期間」4.3「手続継続申請及び意見書提出の方法」P10408~P10409)。

(7) 再審査請求制度
 拒絶決定を受けた場合でも、商品の削除補正等で簡単に拒絶理由が解消できる場合には、拒絶決定の謄本の送達を受けた日から3か月以内に当該補正書の提出とともに審査官に再審査を請求することができる(商標法第55条の2)。
 なお、再審査請求制度を利用すれば小額の費用で拒絶決定を解消できる。詳細は「特許料等の徴収規則第5条第1項7の2」の規定を参照されたい。

【留意事項】
 拒絶理由に該当する引用商標が不使用を理由により取消されれば、拒絶理由は解消される。したがって、引用商標と同一または類似するという拒絶理由を受けた場合の対応の一つとして、引用商標に対して不使用取消審判を請求することが挙げられる。
 商標共存同意制度は、引用商標の権利者から同意書を得ることができれば、引用商標と類似する商標でも登録の可能性があることから、今後の活用が期待される。

韓国における商標の一出願多区分制度

 (1) 商標出願は一商標ごとに行わなければならない(一商標一出願)。しかし、一出願に含める商品または役務の区分の数については、制限されない(商標法第38条)。

 (2) 特許庁に納付する印紙代は、多区分出願の場合でも一区分ごとに計算される(一区分あたり52,000ウォン)。また、指定する商品または役務が10を超過する場合、11個目から超過商品または役務1つあたり2,000ウォンを追加納付しなければならない(特許料等の徴収規則第5条第1項)。10の数え方は1区分ごとに行うので、例えば、2区分出願で、1区分目が5個の商品、2区分目が10個の役務を含んでいる場合、何れの区分も10個以下の商品または役務で構成されているため、超過商品および超過役務は存在しないことになる(特許料等の徴収規則第5条第1項第1号)。

 (3) 区分は商品の区分と役務の区分に分けられているが、複数区分の出願である場合、1つの出願に商品区分と役務区分を同時に含めることができる。

 (4) 指定する商品または役務は、ハングルで表記しなければならない。ただし、指定する商品または役務が理解しにくい場合には、括弧書きで漢字または外国語を併記して表示することができる(商標審査基準第2部第4章1.2)。

 (5) 出願書に記載した区分が、指定商品または指定役務に照らして、ニース国際分類に従っているとはいえず、不適切である場合は、拒絶理由が通知され、補正の機会が与えられる(商標審査基準第2部第4章1.3)。

 (6) 指定商品または指定役務が明確ではない場合にも、拒絶理由が通知され、補正の機会が与えられる。その際には、要旨変更にならない範囲の補正をすれば、認められる(商標審査基準第2部第4章1.3)。

 (7) 商品および役務の記載について、韓国は日本に比べて具体的表記を求める傾向があり、日本で認められている商品をそのまま記載すると包括的な記載であるとして拒絶されることもある。しかしながら、2007年1月以降、随時、一部商品で包括名称が認められるようになっているので、全ての商品または役務において具体的な記載が必要なわけではない。例えば、2012年1月1日からは、デパート業、スーパーマーケット業、コンビニエンスストア業といった総合小売業の記述が認められるようになったため、それ以前のように対象商品を具体的に指定する必要はなくなっている。商品表示や役務表示については、「類似商品・役務審査基準」の商品・役務表示分類名称目録に羅列される例示のように具体的に表示することが求められる。

 (8) 拒絶理由通知書を受けた際に、拒絶理由の対象が商標登録出願の指定商品すべてではなく一部にのみ該当する場合、拒絶理由に該当しない指定商品は商標登録を受けることができる(商標法第54条、第57条、第68条)。

 (9) 拒絶理由に該当する区分を分割する場合、新規出願料に該当する金額(52,000ウォン)を納付しなければならない。ただし、多区分出願の分割出願が次のいずれかに該当する場合は、その分割される出願毎に1万ウォンを納付すればよい(特許料等の徴収規則第5条第1項第3号)。
・同一商品類区分に属する指定商品の変更なく商品類区分のみを分割出願する場合
・同一商品類区分に属する指定商品を削除しながら商品類区分のみを分割出願する場合

 (10) 拒絶決定を受けた場合でも、商品の削除補正などの簡単に拒絶理由が解消できる場合には、拒絶決定の謄本の送達を受けた日から3か月以内に当該補正書の提出とともに審査官に再審査を請求することができる(商標法第55条の2)。

【留意事項】
 (1) 一出願において多区分を指定して拒絶理由通知書を受けた際に、拒絶理由の対象が商標登録出願の指定商品すべてではなく一部にのみ該当する場合、拒絶理由に該当しない指定商品は商標登録を受けることができることから、拒絶理由がない商品の商標登録を速やかに受けるために補正書の提出(商標法第40条および第41条)または分割出願(商標法第45条)をすることが望ましい。

 (2) 多区分の商品または役務を指定する場合、使用意思確認制度の適用を受けることもあり得るので(使用意思確認制度については、本データベース内コンテンツ「韓国における商標の使用意思確認制度(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/17242/)」参照)、使用する意思のない商品等を指定することは避けるなど、指定する商品または役務について、よく吟味する必要がある。

 (3) 「日中韓類似群コード対応表」が作成、公開されており、日本語商品名から韓国の特許庁が受理可能な商品名及び役務名を簡便・確実に選択することができるため、活用されることをお勧めする。

韓国における特許権侵害の判例

 「韓国の知的財産権侵害判例・事例集」(2024年3月、日本貿易振興機構)

 本判例集中、特許法の章では、計17件の韓国における特許権侵害についての判例を紹介している。以下、目次に沿って簡単にその内容を紹介するが、各判例の事件番号等の書誌事項および事件の概要は、それぞれ、本判例集の各該当ページの最初に記載されており、続いて、事実関係、判決内容、専門家からのアドバイスも掲載されている。詳細は上記リンクより本文を参照されたい。

(目次)
特許法 p.1

1. 確認対象発明のプロドラッグエステル化合物が物質特許の権利範囲に属するとした大法院判決 p.1
(経口用糖尿病治療剤として使用されるダパグリフロジン化合物をカバーする物質発明の均等論適用範囲の判断についての大法院の判決を紹介している。均等論の積極的要件である「変更の容易性」および、均等侵害の消極的要件である「意識的除外」に該当するかが争点となった判例である。)

2. 物の発明の請求項と対比する確認対象発明の説明書に記載されたその物の製造方法は、確認対象発明の理解を促進するに追加した敷衍に過ぎない p.6
(物の発明と対比する確認対象発明の説明書に物の構成とともにその物の製造方法も記載した場合の判断方法を示した大法院判決を紹介している。製造方法に記載があるにしても、物の構造や性質に影響を及ぼすとは言えないと判断された判例である。)

3. 各構成成分及びその含量で限定されたモルタル組成物発明の進歩性が否定されると判断された特許法院判決 p.10
(コンクリート補修モルタルに関する発明の進歩性判断についての特許法院の判決を紹介している。組成物の各構成成分およびその含量に特徴がある発明について進歩性判断を示した判例である。)

4. 先行発明に対して構成の格別な相違点なしに用途や設置位置の違いだけでは、進歩性を認めることができないとした事例 p.15
(機械装置や機構に係る物の発明の進歩性の判断についての特許法院の判決を紹介している。用途や設置位置に関する事項が特許請求の範囲に構成上の特徴として認められない場合には、進歩性が認められないと判断した判例である。)

5. COVID-19遺伝子ワクチン用DNA断片に関する発明の進歩性が先行発明の結合により否定された事例 p.18
(COVID-19遺伝子ワクチン用DNA断片に関する発明の進歩性の判断についての特許法院の判決を紹介している。タンパク質のアミノ酸置換体に関する発明の具体的な進歩性判断を示した判例である。)

6. 訂正審判の結果が出るまで差戻無効審判の手続中止をする要請が認められなかったことが違法ではないとした事例 p.24
(特許審判院の手続の違法性についての特許法院の判決を紹介している。)

7. 単純な数値限定発明として進歩性が否定されると判断された大法院判決 p.27
(ポリエチレングリコールとアスコルベート成分を構成要素とする腸洗浄組成物に関する発明の進歩性の判断についての大法院の判決を紹介している。特許発明を単純な数値限定発明であるとして、原審の判決は違法ではないと判断した判例である。)

8. 先行発明の明細書に記載された従来技術の構成を参酌して発明の進歩性を否定した事例 p.31
(山の傾斜面の崩壊の予防および緑化工事に使用されるコンクリートブロックに関する発明の進歩性の判断についての特許法院の判決を紹介している。特許発明と主先行発明との相違点に該当する構成が主先行発明の明細書に従来技術として言及されている場合における進歩性判断の方法について判示した判例である。)

9. 使用者の勤務規定に基づいて、職務発明が完成した時点に特許を受ける権利が使用者に当然承継されないと判断された事例 p.34
(職務発明において特許を受ける権利が発明完成の時点で使用者に当然承継されるかについての特許法院の判決を紹介している。韓国での職務発明の権利関係に関する法理の解釈を示した判例である。)

10. 出願発明の組成物の特性値による数値限定発明において、その特性値の臨界的意義がないこと等を理由として進歩性を否定しなかった事例 p.39
(容器栓(Cap)に用いられる「ポリマー組成物」に関する発明の進歩性判断についての特許法院の判決を紹介している。数値限定発明において、原告が当該発明の「構成の困難性」、「効果の顕著性」を立証し、進歩性が否定されなかった判例である。)

11. 特許発明の粒径の範囲から逸脱した確認対象発明が、均等範囲において特許発明の権利範囲に属さないと判断された事例 p.43
(化合物の結晶多形の粒子に関する発明の均等論の適用判断についての特許法院の判決を紹介している。特許発明の数値範囲を逸脱した確認対象発明は特許発明と課題の解決原理が異なるため均等範囲において特許発明の権利範囲に属さないと判断した判例である。)

12. 請求項に記載の「~によって」という文言を、明細書の記載を参酌して「~によってのみ」と解釈して進歩性を認めた事例 p.48
(曲面表示領域を含む携帯電話の表示装置の保護フィルムに関する発明の進歩性判断についての特許法院の判決を紹介している。発明の進歩性判断において請求項に記載された文言の解釈が問題となった判例である。)

13. 「低融点ポリオレフィン」等の成分及び溶融点等の物性で特定された特許発明に対して容易実施要件及びサポート要件を満たすとした特許法院判決 p.52
(熱反応接着強化フィルム付着型アスファルト繊維補強材に関する発明の容易実施要件の違反および進歩性の判断についての特許法院の判決を紹介している。高分子関連の発明において頻繁に使用されるポリオレフィン、コポリマーという用語について記載要件の判断がなされている判例である。)

14. 出願過程での具体的な構造への補正により侵害品が権利範囲から意識的に除外されたという主張を排斥して均等侵害を認定した事例 p.57
(真っ直ぐな根植物の栽培に使用される板状部材に関する発明の均等侵害の判断についての特許法院の判決を紹介している。補正をして特許された発明に対し、補正された構造と相違する構造に変更した確認対象発明が均等侵害の消極的要件である「意識的除外」に該当するかが争点となった判例である。)

15. 補正下着に関する特許発明において容易実施要件及び進歩性が認められた特許法院判決 p.63
(女性用補正下着に関する発明の容易実施要件および進歩性の判断についての特許法院の判決を紹介している。明細書に生地の素材、特性、配置等全てを記載していなくても特許発明を容易に実施することができるとされ、また、特許発明の構成に進歩性が認められた判例である。)

16. パラメータ発明における工程変数の測定方法が明細書に記載されていないため、実施要件違反と判断された事例 p.69
(多結晶シリコンの製造方法における工程変数間の相関関係を限定したパラメータ発明の実施要件の判断についての大法院の判決を紹介している。反応中の各工程変数の測定方法が明細書に記載されていないため実施可能要件違反と判断された判例である。)

17. 積極的権利範囲確認審判において、確認対象発明の説明書及び図面を総合的に考慮して、確認対象発明が特定されているものと判断した大法院判決 p.73
(「広告提供システム及びその方法」に対する積極的権利範囲確認審判の審決についての大法院の判決を紹介している。日本にはない「権利範囲確認審判」の制度の理解に役立つ判例である。)

韓国における知的財産基礎情報について

 「韓国知的財産基礎情報」(2024年2月、日本貿易振興機構 ソウル事務所)

1. 知的財産保護体制 P.2
(知的財産保護に関連する法律名の一覧を紹介している。また、知識財産基本法、特許法、実用新案法、デザイン保護法および商標法の最新公布日、法律の概要、ならびに知的財産関連の国際条約の韓国国内での発効日および関係機関を紹介している。)

(1) 関連法 P.2
(2) 韓国産業財産権基礎情報 P.2
 ①知識財産基本法
 ②特許法
 ③実用新案法
 ④デザイン保護法
 ⑤商標法
 ⑥韓国の知的財産権加盟条約
(3) 関係機関 P.3

2. 出願、審査、登録、審判などの統計 P.5
(特許、実用新案、デザイン(意匠)および商標について、出願件数(2010年から2022年まで)、外国からの出願件数(2015年から2022年まで)および審査処理件数(2014年から2022年まで)を紹介するとともに、特許および実用新案の出願、審査請求、審査終結、一次審査処理および審査未処理の件数比較(2017年から2022年まで)ならびに特許、商標およびデザイン(意匠)の一次審査処理期間(2017年から2022年まで)を紹介している。また、特許、実用新案、デザイン(意匠)および商標の登録件数(2014年から2022年まで)ならびに審判院(2017年から2022年まで)、特許法院(2011年から2022年まで)および上告(2011年から2022年まで)について、請求件数および処理件数の統計情報を紹介している。)

(1) 出願件数 P.5
(2) 外国からの出願件数 P.6
(3) 審査処理件数 P.7
(4) 特許、実用新案の出願、審査請求、審査処理件数の比較 P.7
(5) 1次審査処理期間 P.8
(6) 登録件数 P.8
(7) 審判種類別請求及び処理件数 P.9
 ①審判院
 ②特許法院(決定系+当事者系)
 ③上告

3. 取締り/権利紛争状況 P.11
(特許庁(2017年から2022年まで)、検察庁(2017年から2022年まで)、税関(2019年から2022年まで)の取締り実績、知的財産訴訟(民事)新受件数(2018年から2022年まで)、特許法院の処理件数と上告率等(2010年から2022年まで)、各調停委員会の受付件数(2017年から2022年まで)の統計情報を紹介している。)

(1) 特許庁による2020年度の取締り実績 P.11
(2) 検察庁による類型別取締り実績 P.11
(3) 税関における通関後の知財権侵害物品取締り状況 P.12
(4) 知的財産訴訟(民事)新受件数 P.12
(5) 特許法院の年度別の処理件数と上告率など P.13
(6) 各調停委員会の受付件数 P.13

4. その他 P.14
(韓国特許庁職員数および組織図、知的財産権関連法律体系、関連機関および団体ならびに代理人に関する情報が図や一覧表等で紹介されている。)

(1) 韓国特許庁職員数及び組織図 P.14
(2) 知的財産権関連法律体系表 P.15
(3) 関連機関及び団体一覧 P.16
(4) 代理人 P.19

韓国における職務発明制度

 職務発明について定めている韓国の発明振興法(韓国語「발명진흥법」)の主たる内容について紹介する(以下、特に断らない限り条文番号は「発明振興法」を指す。)。

1. 職務発明の定義
 職務発明とは、「従業員、法人の役員または公務員(以下「従業員等」という。)がその職務に関して発明したものが、性質上、使用者・法人または国家若しくは地方自治体(以下「使用者等」という。)の業務範囲に属し、その発明をするようになった行為が、従業員等の現在または過去の職務に属する発明をいう」(第2条)と定められている。これは職務発明とされるための成立要件と言われる。

2. 職務発明の対象
 特許・実用新案・デザイン(意匠)が対象(第10条)であり、商標は対象とされていない。

3. 職務発明に対する使用者等の通常実施権
 職務発明に対して従業員等が特許、実用新案登録、デザイン登録(以下「特許等」という。)を受けたり、特許等を受けることができる権利を承継した者が特許等を受けたりすると、使用者等はその特許権、実用新案権、デザイン権(以下「特許権等」という。)に対して通常実施権を有する(第10条第1項本文)。ただし、中小企業でない企業が職務発明に関する所定の契約・勤務規定を締結していない場合には、使用者等は通常実施権を有することができない(第10条第1項ただし書)。

4. 職務発明完成事実通知および権利承継
(1) 従業員等が職務発明を完成した場合には、遅滞なくその事実を使用者等に書面で知らせなければならない(第12条)。

(2) 職務発明の完成事実通知を受けた使用者等が、従業員等の職務発明に対してあらかじめ使用者等に特許等を受けることができる権利や特許権等を承継させる契約または勤務規定を定めていた場合には、その権利は発明を完成したときから使用者等へ承継される(第13条第1項本文)。
 使用者等が通知を受けた日から4か月内にその発明に対する権利を承継しないことで従業員等に通知する場合には、その権利は使用者等へ承継されない(第13条第1項ただし書、発明振興法施行令第7条)。

(3) 上記契約または勤務規定が全てない使用者等(国家や地方自治団体は除く)が職務発明完成事実通知を受けた場合には、通知を受けた日から4か月内にその発明に対する権利の承継可否を従業員等へ書面で知らせなければならない(第13条第2項、発明振興法施行令第7条)。この場合、使用者等は、従業員等の意思と異なって、その発明に対する権利の承継を主張することができない。
 使用者等が上記期間内に承継可否を知らせない場合には、使用者等はその発明に対する権利の承継を放棄したものとみなす。この場合、使用者等はその発明をした従業員等の同意を受けなければ通常実施権を有することができない(第13条第3項)。

5. 職務発明に対する補償
 従業員等は、職務発明に関する権利を使用者等に承継した場合、または専用実施権を設定した場合には、正当な補償を受ける権利を有する(第15条第1項)。

 下記の(ⅰ)から(iii)に従い、従業員等に補償した場合には正当な補償をしたものとみなす(第15条第6項)。補償額は職務発明による使用者等が得る利益とその発明の完成に使用者等と従業員等が貢献した程度を考慮しなければならない。

(i) 使用者等は補償に対して補償形態と補償額を決定するための基準、支給方法等が明示された補償規程を作成し従業員等に文書で知らせなければならない(第15条第2項)。

(ii) 使用者等は補償規程の作成または変更に関して従業員等と協議しなければならない。ただし、補償規程を従業員等に不利に変更する場合には、該当契約または規程の適用を受ける従業員等の過半数の同意を得なければならない(第15条第3項)。

(iii) 使用者等は補償を受ける従業員等に補償規程に基づいて決定された補償額等の補償の具体的事項を文書で知らせなければならない(第15条第4項)。

6. 出願保留時の補償
 使用者等が職務発明を承継した後、出願せず、または出願を放棄もしくは取下げた場合にも、従業員等が受けることができた経済的利益を考慮して正当な補償をしなければならない(第16条)。

7. 承継した権利の放棄および従業員等の譲受け
 「技術の移転および事業化の促進に関する法律」に定める公共研究機関が、国内または海外で職務発明に対して特許等を受けることができる権利または特許権等を従業員等から承継した後、これを放棄する場合、該当職務発明を完成した全ての従業員等は、その職務発明に対する権利を譲り受けることができる(第16条の2第1項)。
 ただし、公共研究機関の長は大統領令で定めるところにより、公共の利益のために特別に職務発明に対する権利を放棄する必要があると認める場合には、その権利を従業員等に譲渡しないことができる(第16条の2第2項)。職務発明に対する権利を従業員等に譲渡しようとしない場合には、職務発明審議委員会の審議を経なければならない(発明振興法施行令第7条の3第1項)。

8. 職務発明の審議機構
 使用者等は、職務発明に関して必要な事項を審議するために、職務発明審議委員会を設置、運営することができる(第17条)。審議委員会は使用者委員と従業員委員の各々3名以上で構成されなければならない(ただし、常時勤務する従業数が30名未満である場合は各々1名以上。)(発明振興法施行令第7条の4~第7条の5)。

9. 職務発明関連の紛争解決
 従業員等は職務発明に対する権利および補償等に関して使用者等に異議がある場合に、使用者等に審議委員会を構成し、審議するよう要求することができる(第18条第1項)。上記権利は事由が発生した日から30日以内に行使しなければならず、使用者等は要求を受けた場合に60日以内に審議委員会を構成し審議しなければならず、審議委員会は審議の結果を使用者等と従業員等に遅滞なく書面で通知しなければならない(第18条第2項~第4項)。審議委員会の審議の結果を不服とする使用者等または従業員等は産業財産権紛争調停委員会(韓国語「산업재산권분쟁조정위원회」)に調停を申請することができる(第18条第6項)。

10. 留意事項
 韓国の現地法人等に職務発明規程を設けていない場合や、日本の職務発明規定をそのまま用いた場合、そこで発生した知的財産権を会社が取得できなくなる、または従業員等から高額の報奨・報酬の請求を受ける等のリスクが高まるおそれがある。また、職務発明に対する補償は、技術流出の防止や優秀な人材の確保、技術革新の創出のための重要な要素である。したがって、韓国の法令を熟知して、適切な職務発明規定(特に、権利の承継や補償・報奨等の定め)を整えることが望ましい。

韓国における商標制度のまとめ―手続編

1. 出願に必要な書類
 商標登録出願人は、次の事項を記載した商標登録出願書を提出しなければならない(商標法第36条)。
・出願人の氏名および住所
・出願人の代理人がいる場合には、その代理人の氏名および住所もしくは営業所の所在地
・商標
・指定商品および商品類区分
・その他必要な事項

関連記事:「韓国における商標出願制度概要」(2023.01.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/27493/
(注:上記記事は、本稿作成後、2024年10月31日付で更新されています。
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/40124/

2. 登録できる商標/登録できない商標
 商標法第2条に用語の定義が記載されており、これによると、韓国において登録を受けることができる/できない商標は、以下のとおりとなる。
2-1. 登録を受けることができる商標
 記号、文字、図形、音、におい、立体的形状、ホログラム・動作または色彩商標

2-2. 通常の商標(商品標章・サービス標章)以外の下記の標章も登録可能
 団体標章、地理的表示団体標章、証明標章、地理的表示証明標章、業務標章

2-3. 登録を受けることができない商標
 味、触感

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3. 出願の言語
 韓国特許庁に提出する書類は、ハングルで記載しなければならない(商標法施行規則第15条第1項)。

 外国語からなる委任状、国籍証明書および優先権証明書類等の書類は、ハングル翻訳文とともに提出しなければならない(商標法施行規則第15条第2項)。

4. グレースピリオド
 韓国政府または地方自治体が開催または承認した博覧会に出品した商品に使用した商標を、その商品を指定商品として、その出品日から6か月以内に商標登録出願をした場合には、その出品をした時に出願したものとみなす(商標法第47条)。

5. 審査
5-1. 審査官による審査および情報提供
 商標登録出願は、審査官によって審査される(商標法第50条)。また商標登録出願が拒絶理由に該当する場合には、誰でもその情報を証拠とともに特許庁長に提供して、審査官が審査の参考にすることができる情報提供制度を採用している(商標法第49条)。
 審査官は、一部でも指定商品に対する拒絶理由が存在する場合は、拒絶査定をしなければならない。なお、拒絶理由が指定商品の一部にのみに該当する場合は、その指定商品に対してのみ拒絶査定がなされる(商標法第54条)。

5-2. 優先審査(日本の「早期審査」に相当)
 優先審査は、⼀定の要件を備えた商標登録出願について、他の出願より優先的に審査を受けることができる制度である。商標登録出願後、出願人ではない者が商標登録出願された商標と同一・類似した商標を同一・類似した指定商品に正当な事由なしに業として使用していると認められる場合、または出願人が商標登録出願した商標を指定商品の全部に使用しているなど、大統領令で定める商標登録出願として緊急な処理が必要であると認められる場合には、出願人は優先審査を請求することができる(商標法第53条第2項)。

 優先審査を請求した場合、平均して2~3か月以内に審査結果を受けることができる。

5-3. 商標の類否判断の概要
(1) 商標の類似判断の観察方法は、全体的、客観的、離隔的観察を原則とするが、商標構成の中で印象的な部分(要部)について重点的に比較するものとする。また、商標の類似判断について、原則的に商標の称呼、外観、観念のうちいずれか一つが類似して、取引上、商品出所の誤認、混同のおそれがある商標は、類似のものとみなされる。ただし、称呼、外観、観念の中でいずれか一つが類似するとしても、全体的に顕著な差があって、取引上、商品の出所の誤認、混同を起こすおそれがないときには、この限りでない(商標審査基準 第5部 第7章「補充基準:商標の同一・類似」2.2.1 類否判断の一般原則)。

(2) 指定商品の同一類似の判断は、原則的に特許庁例規である「類似商品審査基準」による類似群コードを参考にするが、商品の属性である品質、形状、用途と生産部門、販売部門、需要者の範囲等、取引の実情等を考慮して一般取引の通念によって判断する(商標審査基準 第5部 第7章「補充基準:商標の同一・類似」4. 1 一般原則)。

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6. 出願から登録までのフローチャート
6-1. 出願から登録までの商標出願のフローチャート(図1)

図1 フローチャート

6-2. フローチャートに関する簡単な説明
・商標登録出願をすると、実務上、方式審査後6か月~1年程度で審査が開始される。
・拒絶理由がなければ、公告決定され、その後2か月間に異議申立がなければ登録査定される(商標法第57条、第60条、第68条)。
・登録査定日から2か月以内に登録料を納付すれば、実務上、10日以内に登録証が発行される(特許料等の徴収規則第8条第7項第1号)。
・拒絶理由がある場合には、審査官から意見提出通知書を受ける。2か月(延長可能)以内に意見書および補正書を提出することができる(商標法第55条、商標法施行規則第50条第2項)。
・審査の結果、拒絶理由が解消されれば出願公告決定される(商標法第57条)が、拒絶理由が解消されない場合は拒絶査定を受ける。拒絶査定を受ける場合、拒絶理由が指定商品の一部にのみに該当する場合は、その指定商品に対してのみ拒絶査定となる(商標法第54条)。
・商標登録拒絶査定の謄本の送達を受けた日から3か月以内に指定商品または商標を補正して該当商標登録出願に関する再審査を請求できる。再審査が請求された場合、当該拒絶査定は取り消されたとみなされる(商標法第55条の2)。

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7. 特許審判院による審判について
 審査官の拒絶査定(前記の再審査請求後の拒絶査定および後述する異議申立に基づく審査官合議体の拒絶査定を含む)に対して不服がある場合には、拒絶査定謄本の送達を受けた日から3か月以内に特許審判院に拒絶査定不服審判を請求することができる(商標法第116条)。

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8. 権利設定前の異議申立
 商標出願が出願公告されると、誰でも出願公告日から2か月以内(延長不可)に異議申立をすることができる。異議申立書は、所定の様式に基づいて作成し、異議申立の理由と必要な証拠を添付しなければならない(商標法第60条)。すでに提出した異議申立に対する理由や証拠を補正しようとする場合には、異議申立期間の経過後30日以内にしなければならない(商標法第61条)。
 異議申立は、審査官3名で構成される審査官合議体で審査され(商標法第62条)、審査官合議体は、出願人に答弁提出の機会をあたえなければならない(商標法第66条第1項)。審査官合議体の決定に不服がある場合、出願人は審査官合議体からの拒絶査定に対する不服審判を、異議申立人は無効審判を、特許審判院に請求することができる(商標法第66条第6項)。

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9. 審決に対する訴訟の提起
 特許審判院の審決(後述する無効審判請求および不使用取消審判等の審決を含む。商標法第125条第1項)に対して不服がある場合、審決謄本を受け取った日から30日以内に特許法院に審決取消訴訟を提起することができる(商標法第162条第3項)。
・特許法院の判決に不服がある場合には、大法院に上告することができる(商標法第162条第7項)。

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10. 権利設定後の異議申立
 なし

11. 設定された商標権に対して、権利の無効を申し立てる制度
 利害関係人または審査官は、誤って登録された商標登録等に対して無効審判を請求することができる(商標法第117条第1項)。無効審決が確定した場合、該当商標権は最初からなかったものとみなされる(商標法第117条第3項)。

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12. 商標の不使用取消制度
 商標権者・専用使用権者・通常使用権者のうち誰も、正当な理由なく登録商標をその指定商品に対して継続して3年以上国内で使用していない場合には、商標登録取消審判によってその登録が取消されることがある(商標法第119条第1項第3号)。

 不使用取消審判は誰でも請求することができ、商標登録を取消す旨の審決が確定した場合、該当商標権はその審判請求日に溯及して消滅したものとみなされる(商標法第119条5項および6項)

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13. その他の制度
・指定商品追加登録出願
 商標登録出願人は、商標登録出願時に1または2個以上の商品を指定することができるが、商標登録出願後または商標登録後に指定商品を追加する必要がある場合、別途に指定商品の追加登録出願書を提出して指定商品を追加することができる(商標法第86条)。

 指定商品の追加登録の要件は、次のとおりである。①原商標権または原商標登録出願が存在しなければならない。②追加登録出願の出願人は、登録商標の商標権者または商標登録出願の出願人と同一人ではなければならない。③指定商品の追加登録の商標は、当該登録商標または商標登録出願の商標と同一でなければならず、通常の商標登録出願に関する拒絶理由に該当してはならない(商標法第87条、商標審査基準 第6部 第5章「指定商品追加登録出願に対する審査」1.および2.)。

 指定商品の追加登録がされると、その追加登録された指定商品は原商標権に統合されて一体となり、原商標権が消滅すれば追加登録も一緒に消滅する。しかし、無効事由の存在の有無や商標権侵害当否の判断においては、最初に登録されたものから独立した存在として判断される(商標審査基準 第6部 第5章「指定商品追加登録出願に対する審査」)。

関連記事:「韓国における指定商品追加登録制度」(2018.10.30)
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韓国における特許請求の範囲の「実質的に成る(consisting essentially of)」という記載が明確でないと判断された事例

 「癌関連抗原をコードする単離核酸分子、その抗原およびこれらの用途」という発明の名称を有する本件出願発明(PCT出願の国内移行出願、韓国特許出願10-1999-7002853)の請求項第1項は、拒絶査定前は「・・・ヌクレオチド54~593に列挙されたヌクレオチドの配列を『含む』(韓国語「포함하는」)単離された核酸分子・・・」とされていたが、審査官による拒絶査定の後、原告は、不服審判を提起しながら上記の第1項の「含む」を「필수적으로 이루어지는(consisting essentially of)」(日本語の意味「実質的に成る」)」に補正した。前置審査官は、上記の補正内容も不明確であるという趣旨の意見提出通知をさらに出したが、原告はこれについて追加の補正を行なわず、その後、拒絶査定に対する審判(特許審判院審決2006年5月30日付2004원2564)および訴訟手続きが開始された(特許法院判決2007年3月22日付判決2006허5751)。特許法院が原告の主張を認容し特許すべきとの決定を下すや、被告特許庁側はこれを不服として大法院に上告した。

 大法院は、米国の場合、特許発明の請求範囲解釈において特許請求項のうち、前提部と本体部などを連結する転換部用語を3種類に分けているところ、その3種類の連結部は開放形式(請求項に記載された構成要素とその他の追加構成要素を有することを権利範囲に含む記載形式)と解釈される「comprising」と、閉鎖形式(請求項に記載された構成要素以外の他の構成要素を含まない記載形式)と解釈される「consisting of」、その中間の「consisting essentially of」に区分していることを認めつつ、「韓国語部分の記載の場合、本来必須構成要素でのみ記載することになっている請求項に上記のように『成る』という表現に『実質的に』という単語を付加・維持することにより、『その構成要素が実質的にその請求項に記載された塩基配列だけから成る』という意味であるのか、それとも『その請求項に記載された構成要素が実質的に含まれ、その他の別の構成要素追加を許容する』という意味であるかが不明である」と判示した。

 また、大法院は、追加で、「本件出願発明の用途などの内容、本件拒絶査定を前後に行われた何回かの意見提出通知およびその補正過程で示された出願人の考え方などに照らしてみれば、本件出願発明の請求範囲解釈と関連した第1項発明の係争部分は、米国式の特許クレームの開放形式か、少なくとも半開放形式である「consisting essentially of」を念頭に置いたものと見られるが、原告は、原審においてこれとは異なり単純に「成る」の意味に過ぎないと主張しているところ、本件係争部分の英文部分として、このような原審における原告の主張と一見相反する米国式の特許請求項の半開放形式として理解される「consisting essentially of」が括弧して併記されており、むしろ塩基配列に対する本件出願発明の請求範囲に関して不明瞭な韓国語部分の意味を、さらに不明瞭にしているという理由で、旧特許法第42条第4項第2号の明細書記載要件を具備しておらず、記載不備に該当する」と判示した。

韓国における特許権存続期間の延長制度

記事本文はこちらをご覧ください。

韓国における審判制度概要

1. 審判の流れ

図1. 審判の流れ

2. 審判請求
2-1. 査定系の審判請求
 査定系審判は、拒絶査定不服審判(特許法第132条の17、実用新案法第33条、デザイン保護法第120条、商標法第116条)、取消査定不服審判(デザイン保護法第120条)、訂正審判(特許法第136条、実用新案法第33条)等がある(審判便覧第1編第3章第1節)。

 拒絶査定不服審判は、韓国特許庁の審査で拒絶査定を受けた場合、拒絶査定書謄本の送達日から3か月以内に特許審判院に請求することができる(特許法第132条の17、実用新案法第33条、デザイン保護法第120条、商標法第116条)。

 取消査定不服審判は、意匠登録取消査定を受けた場合、その査定謄本の送達を受けた日から3か月以内に請求することができる(デザイン保護法第120条)。
 
※ 意匠登録取消査定とは、意匠一部審査登録出願の異議申立(デザイン保護法第68条)においてなされる取消査定をいう。詳しくは下記の関連記事を参照されたい。
関連記事:韓国における意匠(韓国語「デザイン」)出願制度概要(2020年3月19日)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/18372/

 訂正審判は、特許権者または実用新案権者が、特許権または実用新案権が設定登録された後に、特許請求範囲を減縮する場合、間違って記載されたものを訂正する場合、または発明でないように記載されたものを明確にする場合、明細書または図面の訂正を請求することができる(特許法第136条、実用新案法第33条)。

 なお、「3.方式審査」以降では、代表的な査定系審判である拒絶査定不服審判の手続について説明する。図1のフローチャートも同様とする。

2-2. 当事者系の審判請求
 当事者系の審判は、無効審判(特許法第133条、実用新案法第31条、デザイン保護法第121条、商標法第117条)、権利範囲確認審判(特許法第135条、実用新案法第33条、デザイン保護法第122条、商標法第121条)、取消審判(商標法第119条)等がある(審判便覧第1編第3章第2節)。

 審判を請求しようとする者は、審判請求書に請求の趣旨および理由を記載して特許審判院に提出しなければならない(特許法第140条、実用新案法第33条、意匠法第126条、商標法第125条)。

2-3. 特許・実用新案登録取消申請
 何人も、特許権または実用新案権の設定登録日から登録公告日後の6か月になる日まで、その特許または実用新案登録が取消理由に該当する場合に、特許審判院に取消申請をすることができる(特許法第132条の2、実用新案法第30条の2)。

 特許取消申請は、公衆に特許の見直しを求める機会を与え、瑕疵ある特許を早期に是正することにより権利の安定を図るための制度であり、日本の特許異議申立制度に近い。詳しくは下記の関連記事を参照されたい。

関連記事:韓国における特許取消申請について(2020年11月12日)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19558/

3. 方式審査
 特許審判院の審判部は、審判請求時に記載要件および指定書類等の形式的な要件を審査し、瑕疵がある場合には、補正命令がなされる。瑕疵を指定期間(通常1か月。延長可能)内に補正しない場合には、決定により審判請求は却下される。ただし、補正する事項が軽微で明確な場合には、職権で補正される(特許法第141条、実用新案法第33条、デザイン保護法第128条、商標法第127条、審判便覧第3編第3章第2節)。

 不適法な審判請求としてその欠陥を補正することができないときは、審判請求は審決により却下される(特許法第142条、実用新案法第33条、デザイン保護法第129条、商標法第128条、審判便覧第3編第3章第3節)。

4. 本案審理
 方式審査で瑕疵がなければ本案審理段階に入り、3人または5人の審判官で構成される合議体により審理される(特許法第143条から146条、実用新案法第33条、デザイン保護法第130から133条、商標法第129条から第132条、審判便覧第4編第1章参照)。

4-1. 査定系の場合
 審判部は、審判請求書の記載事項を把握し、拒絶査定不服審判では拒絶理由および不服理由を把握し、訂正審判では提出された訂正後の明細書または図面を一体不可分の一つの訂正事項として把握し、争点を整理する。査定系では、書面審理がなされるが、当事者が口頭審理を要請する場合は、書面審理のみで決定が可能な場合を除いて、口頭審理を行わなければならない(特許法第154条第1項、実用新案法第33条、デザイン保護法第142条第1項、商標法第141条第1項、審判便覧第16編第4章、第21編第7章第1節、第24編第7章第1節)。請求人が、審判官に拒絶査定の争点等の技術、意匠あるいは商標を説明したい場合は、説明会の開催を要請することができる(審判事件説明会等運営規定第5条第3項)。

4-2. 当事者系の場合
 審判部は、審判が請求されると、審判請求書の副本を被請求人に送達する(特許法第147条、実用新案法第33条、デザイン保護法第134条、商標法第133条、審判便覧第2編第2章第9節)。審判部は、まず書面審理を行い、審判請求の理由および答弁や証拠資料を調べ、争点を整理する。審判請求の理由に対する答弁の指定期間は1か月である(審判事務取扱規定第22条第1項)。当事者系は原則的に、口頭審理を行わなければならない。ただし、(i) 審判請求書副本送達後の答弁書が未提出である事件、(ii) 口述審理期日前の審判請求が取下、却下等の事由で終結が予定された事件、(iii) 当事者が提出した審判書類のみで事実認定および判断が容易であると審判長が認めた事件は、書面審理により行うことができる(審判事務取扱規定第39条の2第1項)。

5. 審理終結通知
 本案審理が終わり審決段階に入ると、審判の当事者へ、審理が成熟して審理が終結に近く、追加の審判書類の提出は定められた期限までのみ可能であるということを審理進行状況案内通知により案内する(審判便覧第11編第2章第1節)。同通知により審判請求理由に対する追加意見を提出する最後の機会が与えられるので、この機会を上手く活用することが望ましい。

 その後、審理終結通知がなされる。審理終結通知書には、審決を行う日(審決予定日)を記載し、該当日に審決しなければならない。これは2023年に韓国特許庁の運用変更によって導入された「審決日予告制」であり、当事者に審決予定日を知らせることによって、審決日に対する不確実性を解消し、訴訟提起の要否など今後の紛争に備えた計画を可能にするなど、当事者の利便性向上を図るものである。

 審決予定日が変更された場合、審決予定日変更案内通知書を発送しなければならず、審決予定日変更案内通知書の予定日は、審理終結通知書の発送日を基準として20日を超えてはならない(審判便覧第11編第2章第2節)。

6. 審決
 審理終結通知をした日から20日以内に審決をすることが原則とされている(特許法第162条、実用新案法第33条、デザイン保護法第150条、商標法第149条)。

6-1. 査定系の場合
 原決定を取り消して審査部に差し戻す(認容)もしくは原査定を維持する(棄却)のいずれかの内容の審決がなされる。なお、原決定を取り消す場合は、審判部で特許査定または登録査定をすることはなく、必ず審査部に差し戻される(審判便覧第12編第4章)。

6-2. 当事者系の場合
 請求棄却あるいは請求認容により審決する(審判便覧第12編第5章参照)。

韓国における特許明細書等の補正ができる時期

 韓国においては、特許出願後、特許査定書が送達される前までは、明細書、特許請求の範囲、図面を補正することができる。ただし、拒絶理由通知書を受けた後は、補正をすることができる時期は下記のとおり制限される(特許法第47条第1項)。

(1) 審査請求後、審査が着手され、拒絶理由通知書を受けた場合は、意見書を提出することができる期間内(2か月の指定期間)に補正書を提出することができる(特許法第47条第1項第1号、特許法施行規則(以下「施行規則」という。)第16条第1項)。補正は、願書に最初に添付した明細書または図面に記載された事項の範囲内においてしなければならない(特許法第47条第2項)。

(2) 拒絶理由通知書を受け、意見書と補正書を提出した後、審査官が当該補正書による補正の中に拒絶理由を発見した場合には、最後の拒絶理由通知書を送付する。このときにも意見書を提出することができる期間(2か月の指定期間)内に補正書を提出することができる(特許法第47条第1項第2号、施行規則第16条第1項)。ただし、この場合に特許請求の範囲についてする補正は、請求項の限定または削除等による請求範囲減縮、誤記の訂正、不明確な部分の明確化等のみ可能である(特許法第47条第3項)。

(3) 特許査定の謄本の送達日から設定登録までの期間、または拒絶査定の謄本の送達日から3か月以内に明細書等の補正とともに再審査を請求することができる。なお、再審査請求時には、明細書または図面を補正しなくてはならない(特許法第67条の2第1項)。

(4) 上記(1)、(2)での意見書を提出できる期間は、1か月ずつ4回、最長で4か月まで延長が可能であり(特許・実用新案審査事務取扱規定第23条第3項)、(3)の査定を受けた後の再審査の請求期間は、30日の延長を1回行うことができる(特許法第67条の2第1項、第15条第1項)。ただし、遠隔または交通不便の地域の場合は、追加でさらに30日の延長が可能となる(特許法第15条第1項、施行規則第16条第4条)。また、補正書提出期間も、請求期間が延長された期間だけ延長されるが、再審査請求の場合は、再審査請求期間およびその延長期間が残っていても、補正ができるのは請求時とされているので(特許法第47条第1項第3号)、再審査請求日に補正できる期間は終了する。

(5) 既に再審査による特許可否の決定がある場合は、再審査を請求することができないので(特許法第67条の2第1項第1号)、再度査定を受けた後には明細書等の補正の機会はない。

【留意事項】
(1) 特許出願後(審査請求までの間)に補正が必要であることに気づいた場合、補正すべき事項を見つける度に補正書を提出すれば、そのたびに費用がかかるので、費用節減のためにも、補正すべき事項を別途整理しておいて、審査請求と同時に一度にまとめて補正書を提出することが望ましい。

(2) 意見書提出期間に複数回の補正書を提出する場合、最後の補正前にした全ての補正は、取下げされたものとみなされるので、補正する度に前回の補正までを全て補正しなければならない(特許法第47条第4項)。