インドにおける商品・役務の類否判断について
1.はじめに
インドにおける商標審査は、主に1999年商標法(Trade Marks Act, 1999)および2017年商標規則(Trade Marks Rules, 2017)によって規定されている。特許意匠商標庁(Office of the Controller General of Patents, Designs, and Trade Marks:CGPDTM)がインドにおける商標登録を管理している。審査プロセスにおいて、商標が特定の基準に準拠していることを確認し、公正性、識別性を担保している。
1999年商標法は、同法に基づく商標登録拒絶の絶対的および相対的要件を定めている。商標出願は、「商標法第9条および第11条」に基づき、絶対的または相対的要件を理由として拒絶されることがある。
現在、インドでは日本の審査基準のような書面によるガイドラインは存在しない。著者は、判決例および商標の権利化業務等の実務を通じて得られた知見を総合し、インドの商標審査における基本原則と基準について、重要な点を紹介する。
2.相対的要件
相対的要件とは、既存の商標、周知商標、その他の法的要因との抵触により商標登録が拒絶される可能性がある要件を指す。これらの要件は、既存の商標権者の利益を保護し、市場における明確性と識別性を維持するために設けられている。以下に、インドにおける商標登録を拒絶する際の相対的要件を説明する。
2-1.先行商標と後行商標との類似性について
主な相対的要件の一つは、後に出願または使用された商標(以下、後行商標)と、先に出願または登録された商標(以下、先行商標)とが、同一または類似の商品または役務に関して、同一または類似の商標である、とする後行商標の出願に対する拒絶理由の要件である。このような類似性は、需要者の混同を招く可能性があり、有効な拒絶理由とされる。
例:「ABCエレクトロニクス」が既に電子機器に関する登録商標である場合、同一または類似商品について「ABCエレクトロニクス」を新規出願すると、原則、拒絶される。
2-2.類似性の評価要素
インドでは、日本の審査基準のような書面によるガイドラインは存在しない。商標審査官や当局が商標出願を評価する際に考慮するいくつかの要素について、実務上の経験に基づいて以下に紹介する。
a.外観類似:商標の形状、デザイン、全体的な外観を比較することにより、外観類似性が評価される。外観が視覚的にほぼ同一または類似している商標は、外観が類似しているとみなされる。
b.称呼類似:称呼類似は、商標の発音に着目したものである。2つの商標を声に出して発音したとき、類似または同一に聞こえる場合、称呼類似とみなされる。
例:「Peak」と「Peek」は称呼類似と考えられる。
c.観念類似:観念類似は、商標によって伝達される基本的な概念またはアイデアなどの観念が類似しているかどうかを評価する。これは、外観または称呼が類似していなくても、観念が共通する商標は類似しているとみなされる。
例:自動車の「Swift」と自動車の「Speedy」は、外観・称呼は異なるが、速さを表すという点で、観念類似と考えられる。
d.総合的類似性: 総合的類似性は、外観、称呼、観念の複合的な影響を考慮する評価要素である。全体として見た場合、2つの商標が消費者の混同を引き起こす可能性があるかどうかを評価する。
例:2つの商標が外観、称呼があまり類似していなくても、同じ業界において類似の観念を伝える場合、総合的類似性が混同を引き起こす可能性があると考えられる。
e.商品または役務:商標の指定商品または指定役務の分類も類似性の評価要素であり、同一区分であって、類似する商標は登録が拒絶される可能性が高い。つまり、先行商標と後行商標とが同じ衣料用である場合、類似とされる可能性がある。商品・役務の類否判断については「3. 商品・役務の類否判断について」において詳述する。
f.先行登録:既に登録されている先行商標は保護レベルが高い。登録された先行商標に抵触する新規出願は拒絶される可能性が高い。
例:「ABC」が既にソフトウェア商標として登録されている場合、「ABC」をソフトウェア商標として新規出願すると、原則、拒絶される。
g.識別要素:商標において、特徴的または独自な部分を識別要素といい、類似性の評価において非常に重要な要素である。この識別要素が共通する場合、類似とされる可能性がある。
例:「Sunrise Electronics」と「Sunrise Clothing」の2つの商標は、「Sunrise」が識別要素であり、類似とみなされる可能性がある。
h.消費者の認識:消費者の認識は類似性の評価の重要な要素である。審査では、平均的な消費者が商標を目にしたとき、商品または役務の出所について混同または欺罔される可能性があるかどうかが考慮される。
例1:類似の標識を見て、消費者があるブランドを別のブランドと間違える可能性が高い場合、類似とされる。
例2:衣料品について提案された商標「コカ・コーラ」は、著名な飲料用の商標「コカ・コーラ」に基づき拒絶される可能性が高いと考えられる。
i.外国語商標:外国語商標は、当該外国語における発音と意味に基づいて評価される。
例:英語商標とヒンディー語商標は外観が全く相違していたとしても、称呼および観念が類似している場合、類似とみなされる。
3.商品・役務の類否判断について
3-1.商品・役務の類否判断の原則
インドの商標審査官は、前述の類似性の評価要素を組み合わせて商標の類似性を評価する。商標が類似していると判断された場合、審査官は商品・役務の類似性を検討し、商品・役務だけでなく商標の標識(mark)も類似している場合は、一般公衆や取引関係者の間で類似の可能性があるとして、欺瞞的類似と判断する。
具体的には、商品・役務の類否は、消費者間の混同の可能性を考慮する様々な要因の有無を判断することが基本原則である。この原則は、CGPDTM、裁判所、法律専門家が商標の登録、保護、侵害について十分な情報に基づき判断しているかを吟味する際に有効とされる。考慮すべき点は以下のとおり:
a.混同の可能性:商標法上の包括的な原則は、消費者間の混同を防止することにある。商品または役務の類似性を判断する際、後行商標が先行商標と混同される可能性がある場合、後行商標は登録を拒絶されるか、その使用が侵害とみなされることが原則である。
b.平均的消費者の認識:商品または役務に接する平均的消費者の知覚がこの認識の中心である。消費者は通常、合理的な情報を持ち、観察力があり、慎重である。類似性の評価は、消費者が商標に接したときに知覚するであろう認識に基づいて行われる。
c.性質と目的:商品または役務の性質、目的、特徴が評価される。つまり、機能、使用目的、商業目的などが類似していれば、類似とみなされる可能性が高い。
d.流通経路: 商品または役務が商業上で使用される流通経路について評価される。流通経路が同一または類似している場合、混同の可能性が高い。
e.商品と役務の関連性:商品と役務とが互いに、関連性が高いか補完的であるならば、類似しているとみなされる可能性が高い。この考慮には、商品と役務とが一般的に一緒に使用されているか否かまたは論理的なつながりを共有しているか否かが含まれる。
f.識別力:識別力の高い商標は、商品または役務の類似の程度によっては混同されにくいと考えられている。問題となる商標の識別力が、混同の可能性を総合的に判断する要素として影響する。
g.外観、称呼、観念の類似性:「2-2. 類似性の評価要素」で説明した商標間の外観、称呼、観念の類似性も、混同の可能性を総合的に判断する要素として影響する。
h.消費者層:関連する消費者層または対象となる公衆が考慮される。類似性の評価は、商品または役務の対象が一般大衆か、専門家かによって判断が異なる場合がある。
i.言語と文化的要因:言語の相違および文化的な考慮は、類似性の判断に影響を与える可能性がある。例えば、ある言語で類似している商標が、別の言語では、文化的に知覚されないことから類似とみなされない場合がある。
j.技術および業界の専門知識:専門の業界および技術的製品に関係する商標については、その商品または役務の類似性を判断するために専門家の意見を求めることがある。
k.実際の使用と市場慣行:商標が指定された商品または役務において、市場で実際にどのように使用されているかの市場慣行、および、消費者が商品をどのように認識し、識別しているかの実際の使用を、証拠に基づいて評価することが、類似性を判断する上で極めて重要である。
l.消費者の記憶と想起:消費者が商標をどの程度記憶し、想起するかを考慮する。消費者がある商標を覚えていて、別の商標と間違える可能性が高ければ、類似性は高くなる。
m.グローバルな視点とローカルな視点:グローバルな評価(国際的な商標を考慮する)か、特定の領域内での評価かによって視点が異なる。
3-2.商品と役務の関連性
商品と役務の関連性について、実務上の経験に基づき具体例を以下に紹介する。
例1:衣料品(第25類)と履物(第25類)
評価 これらは一緒に購入されることが多く、小売を含めて流通経路が共通し、同様の消費者層を対象としているため、類似と考えられる。
例2:コーヒー(第30類)と紅茶(第30類)
評価 これらの商品は、消費者が自ら交換して使用することが可能であり、流通経路が共通し、同様の消費者層を有することから、類似と考えられる。
例3:テレビ(第9類)と家具(第20類)
評価 これらの商品は、全く異なる目的を持ち、異なる消費者層を有するため、一般的には非類似である。ただし、家具にテレビ台や架台が組み込まれている場合は、類似性が主張される可能性がある。
例4:レストラン(第43類)と衣料品(第25類)
評価 これらは商品と役務で異なる区分に属し、異なるニーズに応えるものであるため、一般的には非類似である。しかし、レストランが同じ商標の衣料品を販売しているなど、具体的な関連性を示す証拠があれば、類似性が主張されるかもしれない。
例5:会計サービス(第35類)と法律サービス(第45類)
評価 これらは異なる区分に属し、異なるニーズに対応しているため、一般的には非類似である。ただし、会計事務所が同じ商標を法律サービスで提供するなど、具体的な関連性を示す証拠があれば、類似性が主張される可能性がある。
例6:ヘアケア製品(第3類)と歯科サービス(第44類)
評価 現物の商品と専門的な医療サービスという全く異なるカテゴリーに関わるものであるため、一般的には非類似である。
例7:ソフトウェア(第9類)と電気通信サービス(第38類)
評価 いずれも技術関連ではあるが、ソフトウェアは商品であり、電気通信サービスは役務である。一般的には非類似である。
例8:医薬品(第5類)および医療サービス(第44類)
評価 商品と役務とで異なり、一般的には非類似である。ただし、例えば、製薬会社が商品に関連した医療相談サービスも提供している場合など、類似性が主張される可能性がある。
例9:時計(第14類)と衣料品(第25類)
評価 両者は区分および性質が異なる商品であるが、時計と衣料品は小売店で一緒に販売されることが多く、補完的な関係にある。したがって、両者は類似していると考えられる。
例10:玩具(第28類)と教育サービス(第41類)
評価 玩具は現物の商品であり、教育サービスは無形の役務であるため、一般的には非類似である。しかし、教育サービスが玩具を教材として使用する場合など、類似性が認められる可能性がある。
3-3.商品・役務の類否判断の基準となった判決例
以下の判決例は、インドにおける商品・役務の類否判断における複雑さと微妙さを示している。これらの判決例は、消費者の認識、商品・役務の性質、流通経路、混同の可能性といった要素の重要性を強調している点に留意する必要がある。もちろん、これらの判決例の解釈は時とともに変化する可能性があり、各事例の具体的な事情に基づいて異なる可能性がある。
判決例1:Cadila Health Care Ltd. Vs. Cadila Pharmaceuticals Ltd. [2001 (2) PTC 541 SC]
商号商標「Cadila Health Care」を登録、使用していたところ、商号商標「Cadila Pharmaceuticals」が出願されたことから争われた事件。ボンベイ高等裁判所は、消費者を混同から保護することの重要性を強調し、密接に関連する商品の類似商標は混同を引き起こす可能性があるとした。
判決例2:Kaira District Cooperative Milk Producers Union Ltd and Anr. Vs. Maa Tara Trading Co. and Ors. [G.A./1/2020 in CS./107/2020]
登録商標「Amul」(第29類他(商品「ロウソク」の属する第4類の商品は含まない))を所有する牛乳製造会社の原告が、一見類似した書体の「Amul」をキャンドルに付して販売していた被告に使用差止の仮処分を求めた事件。原告らは、「Amul」商標はCGPDTMによって周知商標として認められており、被告の商品はケーキ店や菓子店で販売されているため、消費者が原告商品を連想する可能性が高いとして侵害を主張し、カルカッタ高等裁判所が認めた事例。
判決例3:Sulphur Mills Limited Vs. Virendra Kumar Saini, decided by the Bombay High Court on 14 June, 2021
原告は「FERTIS」(第1類)の商標を登録し、硫黄90%含有品の販売に使用していたところ、被告が商標「Fortis Royal WDG」(Fortisのみ大きく他の2語は小さい)を硫黄80%含有品に使用した。ボンベイ高等裁判所は、包装を比較した結果、被告が包装に原告の商標表示を使用したとの結論に達し、母音を1つ変えただけでは被告による非侵害の主張を認めることはできないと指摘して仮差止命令を認めた。
Ltd判決例4:Himalaya Drug Company Vs. S.B.L Ltd. [2013 (53) PTC 1 [2013 (53) PTC 1 (Del.) (DB)]
登録商標「LIV.52」(医薬品)に基づき、「LIV-T」をハーブ製品に使用することの差止を認めた。裁判所は、消費者の認識と混同の可能性の原則について議論し、商品と役務を全体的に評価し、それらが提供される文脈を評価することの重要性を強調した。
判決例5:Daimler Benz Aktiegesellschaft & Anr. Vs. Hybo Hindustan 1994 PTC 28
被告が、「BENZ」の文字と三方に手足が伸びる下着のみの人間のデザインとを含む商標(下図参照)を下着に使用することが争点となった。裁判所は、商品および役務の性質と混同の可能性を検討した。裁判所は、原告の有名な商標「BENZ」と関連性のない分野で使用したとしても、消費者の混同を招く可能性があると判断した。
【まとめ】
本記事では商品・役務の類否判断を中心にまとめた。インドでは、日本とは異なり、絶対的要件と相対的要件および商標における標識の類否と商品・役務の類否をそれぞれ別個に判断することなく、総合的に判断していることに留意しなくてはならない。つまり、平均的な知識と不完全な記憶を有する消費者の観点から、特定の商品・役務のマーケットにおいて、2つの商標の間で混同の可能性が有るか否かを確認する必要がある。
インドにおける非アルファベット文字を含む商標の取扱いについて
1.記載個所
非アルファベット文字の類否判断方法に係る商標法、商標規則および商標審査基準を以下に挙げる。
1999年商標法(以下、商標法)
第2条 定義及び解釈 (1) 本法において,文脈上他の意味を有する場合を除き, (中略) (m) 「標章」とは,図形,ブランド,見出し,ラベル,チケット,名称,署名,語,文字,数字,商品の形状,包装若しくは色彩の組合せ又はそれらの組合せを含む。 (後略) |
第9条 登録拒絶の絶対的理由 (1) 次の商標は,登録することができない。 (a) 識別性を欠く商標,すなわち,ある者の商品若しくはサービスを他人の商品若しくはサービスから識別できないもの (b) 取引上,商品の種類,品質,数量,意図する目的,価格,原産地,当該商品生産の時期若しくはサービス提供の時期又は当該商品若しくはサービスの他の特性を指定するのに役立つ標章又は表示から専ら構成されている商標 (中略) (2) 標章は,次のときは,商標として登録されない。 (a) 公衆を誤認させるか又は混同を生じさせる内容のものであるとき (後略) |
商標規則2017(以下、商標規則)
規則28 翻字及び翻訳 商標がヒンディー語又は英語以外の文字による1又は2以上の語又は数字を含む場合は,出願人は,願書において,英語又はヒンディー語による各当該語及び数字の正確な翻字及び翻訳を提示し,かつ,当該1又は複数の語又は数字が属する言語名を記載しなければならない。 |
商標審査基準 第2章
12 登録申請却下の絶対的理由についての審査(Examination of application as to absolute grounds for refusal of application for registration) 12.2.5 各種商標における識別性(Distinctiveness in various types of trademarks) 外国語/あまり知られていない言語の記述的な語句(Descriptive words in foreign languages/little known languages) 外国語が、インドの公衆の大部分に知られている可能性が低い言語である場合、標章が説明的であるという異議の根拠は存在しない。しかし、単語がインド出願人の現地語で説明的である場合、商品はその地域で販売/サービスが提供されるため、商標法第9条に基づく異議を申し立てる必要がある。 |
2.インドにおける特殊文字商標の登録について
インドにおいてカタカナおよびひらがなに関する特別な規定はない。これらは後述するように文字商標として取り扱われる可能性が高く、これら1文字の標章は、「@」、「&」、「#」、「!」の特殊文字1文字と同様に取り扱われ、拒絶される可能性があるので、参考に特殊文字商標の登録に関して述べる。
特殊文字についても特に規定はない。しかしながら、特殊文字は識別力がないと考えられ、特殊文字のみの標章も識別力がないとされる。調査した結果、特殊文字1文字からなる標章は商標法第9条1(a)に基づく拒絶を受けていた。
表1. 拒絶された1文字からなる標章例
特殊文字からなる標章を長期的かつ継続的に使用したこととの主張を行って登録を得た例もある。例えば、インドのエンターテイメント会社の「&」という標章は、最終的に登録に至った。このように、出願人が特殊文字の保護を独占的に主張したい場合、公衆がその商標とその下で提供される商品・役務を独占的に連想するようになったことを証明する必要がある。
インド商標庁は、単一の文字からなる商標について、そのいかなる使用態様も保護されることから、基本的に、単一の文字からなる商標の登録を拒否する。これは、将来、他の出願人が、当該文字のいかなる使用態様も、それがどんなに特徴的であっても保護することができなくなるためである。
さらに、インド商標庁のデータベースを使用した経験から、複数の特殊文字のみからなる図形商標(device mark)の登録可能性が、複数の文字商標(word mark)の登録可能性より高い傾向があると思われる。また、実務上の経験から、文字商標(word mark)に特殊文字1文字であっても付加した商標やデザイン化された文字商標の方が登録可能性は向上する傾向がある。
そうしてみると、インドではカタカナであっても1文字の標章は、使用による識別性を獲得する以外の登録は容易ではなく、少なくとも複数のカタカナからなる商標であって、さらに特殊文字を加える、またはデザイン化することで登録は容易になると考えられる。
3.ヒンディー語または英語以外の外国語商標について
商標規則、規則28に示したように、カタカナやひらがなのような外国語商標はその意味と称呼を記載することから文字商標として取り扱われ、さらに、審査基準では、記述的として拒絶してはならない旨が定められていることから、外国語であることを理由にただちに識別力欠如で拒絶されることはない。例えば、日本語の「映画館」という標章を金銭取引のためのモバイルアプリに使用した場合、第1に需要者はその観念を認識せず、第2に商標は無関係の商品に使用されるため、拒絶理由は生じないと考えられる。一方、日本映画のみを上映するインドのmovie theaterに「映画館」という標章を使用する場合、需要者はその観念を認識し、記述的として拒絶される可能性がある。
もちろん、非英語の語句が一般的な取引に使用される場合、拒絶理由となる可能性がある。
4.非アルファベット文字の商標に関する判決例
非アルファベット文字の商標として数字を含む商標に関する判決例(Mona Aggarwal & Anr. vs. Glossy Colour & Paints Pvt. Ltd. & … on 2 February, 2016)を紹介する。登録商標「1001」(出願番号423202)と出願商標「6004」(出願番号2579387)について、裁判官は、使用されている色調、構成、レイアウト、特徴の配置を比較すると、「6004」は「1001」と類似し、読み書きのできない人や半識字の人が商品を購入する際に混乱する恐れがあると判断した。しかし、不服申立された、裁判官の合議体(Division Bench)において、「ある当事者がその製品の商標として数字を採用したからといって、他の当事者が同様の商品の商標の一部として異なる数字を採用することができないとはいえない。このような状況では、全体としてとらえた場合、つまり、数字の組み合わせ、配色、装飾、レイアウトが欺瞞的に類似しているかどうかを確認する必要がある」と判断した。
したがって、このような非アルファベットの標章を商標として使用する場合、裁判所は文字だけでなく、標章の全体的な表現に注目すると考えられる。全体的に比較して、登録商標と係争対象の商標の特徴が非常に似ていて、需要者が混同する場合、侵害は認められる可能性が高い。このような分析が行われるのは、標準的な文字の独占を防ぐためと考えられる。
5.留意点
以上の議論を踏まえると、以下の留意点が挙げられる。
1.数字や特殊文字などの非アルファベット文字は、識別性欠如を理由として、しばしば商標法第9条(1)(a)の規定に基づく拒絶を受ける場合が多いことから、カタカナ等についても、出願人に釈明を求めるため拒絶理由通知を出す可能性がある。審査基準を引用して、カタカナを理由に識別力欠如の判断をすべきではないこと、インドの需要者はカタカナの観念を認識せず、標章は日本語の意味においても指定商品・役務を直接的に記述したものではない旨の主張ができることが重要である。
2.非アルファベット文字の商標登録を希望する出願人は、その登録可能性を高めるために、例えば、カタカナでも2以上の文字を使う、標章をデザイン化する、他の特徴的な要素を加えるなどして、商標の全体的な印象が他の先行商標と相違すると、登録可能性が高くなる。
3.リスクはあるものの、インドで商業的使用が開始された後に登録申請することは、その商標の登録可能性を高くする。