インドにおける商標制度のまとめ-実体編
1.商標制度の特徴
・商標出願を受け付ける窓口(商標登録局)がムンバイ、チェンナイ、コルカタ、ニューデリー、アーメダバードの5か所に設けられており、ムンバイ商標登録局が本局となっている。現在、商標の審査はムンバイ商標登録局でのみ行われている。本局および支局はそれぞれ管轄する地域が定められており、インドに居住する出願人の場合は出願人の住所、外国に居住する出願人の場合はインドの現地代理人の住所により出願の管轄局が決まる。
・インドでは登録主義とともに先使用主義を採用している。先使用権は明文規定で認められている。使用は商標出願の条件ではないが、出願商標が競合する場合、登録が認められるのは最先に使用を開始した出願人である。
・商標制度はコモンローの影響が大きい。そのため、先に使用されている未登録商標も保護され、この未登録商標の侵害者を相手に詐称通用(Passing off)に基づいて訴訟を提起できる。
・1商標1出願とされ、1出願に複数の指定商品ないし指定役務の区分を含むこともできる。庁料金は1区分ごとに計算される。
関連記事:「インドにおける商標出願制度概要」(2019.07.09)
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関連記事:「インドにおける悪意(Bad-faith)の商標出願に関する法制度および運用」(2019.02.07)
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関連記事:「インドの知財関連の法令等へのアクセス方法」(2019.04.11)
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関連記事:「インドにおける連続(シリーズ)商標制度」(2018.09.18)
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関連記事:「インドにおける知的財産権侵害事案の刑罰制度およびその運用」(2018.01.25)
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関連記事:「インドにおける商標のコンセント制度」(2017.02.28)
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関連記事:「インドにおける商標制度の運用実態」(2016.01.15)
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関連記事:「インドにおける証明商標制度」(2015.11.10)
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2.登録できる商標
・「商標」とは、図形的に表現でき、かつ、ある者の商品またはサービスを他人の商品またはサービスから識別できる標章をいい、商品の形状、その包装および色彩の組合せを含み、次のものをいう(商標法2条(1)(zb))。
(i)第XII章(第107条を除く)の規定に関しては、商品または場合に応じてサービスと、所有者としてその標章を使用する権利を有する者との間に存する取引上の結合関係について、表示しまたは表示しようとする目的をもって、商品またはサービスに関して使用する登録商標または標章、および
(ii)本法の他の規定に関しては、商品または場合に応じてサービスと、所有者としてまたは許諾使用の方法により当該標章を使用する権利を有する者との間に存する取引上の結合関係について、その者の同一性の表示の有無に拘らず、表示しまたは表示しようとする目的をもって、商品またはサービスに関して使用しまたは使用しようとする標章であって、証明商標または団体標章を含む。
・文字商標、図形商標、立体商標に加えて、位置、ホログラム、味、音の商標、色彩商標、香り商標等の非従来型の商標も保護の対象になっている(商標法2条(1)(zb)、2条(1)(m))。
・証明商標(商標法2条(1)(e))、団体商標(商標法2条(1)(g))、連合商標(商標法2条(1)(c))、連続商標(商標法15条)も登録できる。
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3.商標を登録するための要件
・商標は写実的に表現でき、識別性を有する必要がある(商標法2条(1)(zb))。
・非従来型の商標に関して、商標法に明文化されていないが、商標マニュアル(Manual of Trade Marks, 10/3/2015)に記載がある。ただし、同マニュアルは公開以来ドラフトのままとなっている。
関連記事:「インドの商標関連の法律、規則、審査マニュアル」(2019.03.26)
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4.拒絶理由
実体審査では、商標出願にかかる商標が以下のすべての拒絶理由に該当しないことを判断する。
(a) 絶対的拒絶理由(商標法9条)
i) 識別性を欠く
ii) 記述的
iii) 慣用的
iv) 公衆を誤認、混同させる
v) 宗教的感情を害するおそれがある
vi) 抽象的または卑猥
vii) 使用が禁止されている紋章や名称
viii)商品の内容に由来する形状
ix) 技術的効果を得るための形状
x) 商品に実質的な価値を付与する形状
(b) 相対的拒絶理由(商標法11条)
i) 出願商標と同一であり、商品またはサービスが類似する先の商標があり、混同の可能性がある(商標法11条(1)(a))。
ii) 出願商標と類似し、商品またはサービスが同一である先の商標があり、混同の可能性がある(商標法11条(1)(b))。
iii)出願商標と同一または類似し、商品またはサービスが類似しない先の周知商標がある。
5.商標の類否判断の概要
ある商標が他の商標と類似するため誤認または混同が生じる場合、それらの商標が類似するという(商標法2条(1)(h))。類似の判断にインドの裁判は英国の裁判所の判例を用いている。それによると、文字商標の場合は、①文字商標自体を比較し、外観および称呼について検討し、②当該商標が使用されている商品について検討し、③当該商品を購入する需要者について検討し、④当該商標について全事情を斟酌し、⑤両商標が各所有者の扱う商品に通常の方法で使用された場合に生じる実態について検討する。
6.商標権の存続期間
・商標権の存続期間は出願日から10年である(商標法25条(1))。
・存続期間は、更新手数料を納付することにより、10年ごとに半永久的に延長できる。
インドにおける商標制度のまとめ-手続編
1. 出願に必要な書類
商標権を受けようとする者は、英語またはヒンディー語で作成した以下の書類および手数料を所轄庁に提出しなければならない。
(1) 有効出願日を確保するために必要な書類
・願書(FORM TM-A)(商標規則23(1))
・手数料
(2) 願書に記載する情報
・送達宛先住所(現地代理人の住所)、有効な電子メールアドレス、インドにおける携帯番号(商標規則17)
・出願人を特定するための情報
・出願商標の表記(8cm×8cm以下のサイズ)(商標規則26(1))
・区分(1出願多区分可)(商標法18条(2))
・指定商品・サービス
・インド国内における使用の有無(「使用に基づく出願」か「使用意思に基づく出願」)
・色彩や色彩の組み合わせの主張の有無(商標規則23(2)(d))
(3) 必要に応じて提出する書類
・出願権の証拠(出願人が商標の所有者ではない場合)
・委任状(現地代理人に代理権を与える場合)(FORM TM-M)
・優先権書類(優先権を主張する場合)と、その翻訳文(優先権書類が英語以外の言葉で記載されている場合)
・形状商標の場合(商標規則23(2)(c))、それぞれ3方向から見た表記(図面または写真)(商標規則26(3)(i))
・音声商標の場合、30秒を超えないMP3形式のファイル(商標規則26(5))
・使用に基づく出願の場合、最先の使用開始日(年月日)と使用期間(商標規則25(1))、使用の詳細を記載した嘆願書(affidavit)および使用の証拠(商標規則25(2))
・出願商標がヒンディー語と英語以外の言葉を含む場合、出願商標のヒンディー語または英語での読み方(transliteration)およびそのヒンディー語または英語での意味(translation)(商標規則28)
関連記事:「インドにおける商標出願制度概要」(2019.7.9)
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2. 出願の言語
・商標権を受けようとする者は、英語またはヒンディー語で作成した以下の書類および手数料を所轄庁に提出しなければならない(商標規則12)。
・出願商標がヒンディー語と英語以外の言葉を含む場合、出願商標のヒンディー語または英語での読み方(transliteration)およびそのヒンディー語または英語での意味(translation)(商標規則28)
関連記事:「インドにおける外国語(日本語)商標の取扱い」(2018.8.14)
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3. グレースピリオド
グレースピリオド制度はない。
4. 審査
(1) 方式審査、実体審査
・所轄庁に商標出願にかかる書類を提出し庁料金を納付すると、出願番号が付与され、方式審査および実体審査が行われる。
(2) 早期審査
・出願後、申請および追加費用の納付により早期審査を要求することができる。登録官は早期審査を認める案件を制限することができる。早期審査が認められた場合、申請から3か月以内に審査が開始される。また、その後のヒアリングや異議申立も早期に処理される。
関連記事:「インドの商標関連の法律、規則、審査マニュアル」(2019.3.26)
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5. 出願から登録までのフローチャート
(1) 出願から登録までの商標出願のフローチャート
(2) フローチャートに関する簡単な説明
・所轄庁に商標出願にかかる書類を提出し庁料金を納付すると、出願番号が付与され、方式審査および実体審査が行われる(商標法9条、11条)。
・審査の結果、拒絶の理由があると判断された場合、拒絶の理由を記載した審査報告(日本の拒絶理由通知に相当)が出願人(現地代理人)に発送される(商標法18条(5))。出願人は審査報告の受領日から所定の応答期間(1か月)内にすべての拒絶理由を解消するような応答書(意見書、補正書)を提出しなければならない。
・出願人が応答書を提出した場合、もう一度審査が行われる。拒絶理由がある場合で、出願人から聴聞(ヒアリング)申請があれば、商標登録局は出願人に聴聞通知を発送する(商標法19条)。商標登録局は、聴聞(商標法50条(3))を実施し、聴聞の実施後に、出願人に応答書(意見書、補正書)を提出する機会を与える。出願人が応答書を提出した場合、もう一度審査が行われる。
・審査および聴聞の結果、拒絶の理由がないと判断された場合、商標登録局は出願承認(accepted)し、商標登録局が発行する官報(ジャーナル)にその旨を公告する(商標法20条)。公告日から4か月の期間に異議申立がなされない場合、商標登録局は商標権を付与し、登録証を発行する。拒絶理由が残っている場合、商標登録局は出願人へ拒絶査定を通知する。
[権利設定前の争いに関する手続]
6. 拒絶査定に対する不服申立て
・商標登録局の指示または指令、例えば、商標を登録しない旨の指令、に対して不服がある者は知的財産審判委員会(IPAB: Intellectual Property Appellate Board)に不服申立てを行うことができる(商標法91条(1))。
・不服申立ては商標登録局の指示または指令の日から3か月以内に行わなければならない。
・知的財産審判委員会の審決に対する不服申立ては、商標法に明定されていない。しかし、事実もしくは証拠について正しく理解されなかった、または合理的な判断がなされなかったことから生じる法律問題に対して高等裁判所へ裁量不服申立て」の削除、を行うことができる。また、最高裁判所へ特別許可申立てを行うことができる。
7. 権利設定前の異議申立て
・何人も、商標出願の公告または再公告のあった日から4か月以内に、書面により商標権の登録に対して異議申立てを行うことができる(商標法21条)。異議申立人は、商標法および商標規則に従って異議理由を自由に構築することができる。
関連記事:「インドにおける商標異議申立制度」(2017.6.8)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13786/
[権利設定後の争いに関する手続]
8. 権利設定後の異議申立て
・制度がない。
9. 設定された商標権に対して、権利の無効を申し立てる制度
・利害関係人は、登録簿に記載されている登録商標に関する条件の違反または不履行を理由に、商標登録局または知的財産審判委員会に対して、商標登録の取消または変更を申請することができる(商標法57条)。
10. 商標の不使用取消制度
・登録商標が所定の期間インドで善意の使用がなかったことを理由に、利害関係人が、商標登録局または知的財産審判委員会に対して、商標登録の不使用取消を請求することができる(商標法47条(1))。
インドにおける商標制度のまとめ-実体編
1. 商標制度の特徴
・商標出願を受け付ける窓口(商標登録局)がムンバイ、チェンナイ、コルカタ、ニューデリー、アーメダバードの5か所に設けられており、ムンバイ商標登録局が本局となっている。現在、商標の審査はムンバイ商標登録局でのみ行われている。本局および支局はそれぞれ管轄する地域が定められており、インドに居住する出願人の場合は出願人の住所、外国に居住する出願人の場合はインドの現地代理人の住所により出願の管轄局が決まる。
・インドでは登録主義とともに先使用主義を採用している。先使用権は明文規定で認められている。使用は商標出願の条件ではないが、出願商標が競合する場合、登録が認められるのは最先に使用を開始した出願人である。
・商標制度はコモンローの影響が大きい。そのため、先に使用されている未登録商標も保護され、この未登録商標の侵害者を相手に詐称通用(Passing off)に基づいて訴訟を提起できる。
・1商標1出願とされ、1出願に複数の指定商品ないし指定役務の区分を含むこともできる。庁料金は1区分ごとに計算される。
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2. 登録できる商標
・「商標」とは、図形的に表現でき、かつ、ある者の商品またはサービスを他人の商品またはサービスから識別できる標章をいい、商品の形状、その包装および色彩の組合せを含み、次のものをいう(商標法2条(1)(zb))。
(i)第XII章(第107条を除く)の規定に関しては、商品または場合に応じてサービスと、所有者としてその標章を使用する権利を有する者との間に存する取引上の結合関係について、表示しまたは表示しようとする目的をもって、商品またはサービスに関して使用する登録商標または標章、および
(ii)本法の他の規定に関しては、商品または場合に応じてサービスと、所有者としてまたは許諾使用の方法により当該標章を使用する権利を有する者との間に存する取引上の結合関係について、その者の同一性の表示の有無に拘らず、表示しまたは表示しようとする目的をもって、商品またはサービスに関して使用しまたは使用しようとする標章であって、証明商標または団体標章を含む。
・文字商標、図形商標、立体商標に加えて、位置、ホログラム、味、音の商標、色彩商標、香り商標等の非従来型の商標も保護の対象になっている(商標法2条(1)(zb)、2条(1)(m))。
・証明商標(商標法2条(1)(e))、団体商標(商標法2条(1)(g))、連合商標(商標法2条(1)(c))、連続商標(商標法15条)も登録できる。
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関連記事:「インドにおけるブランド保護」(2015.3.31)
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3. 商標を登録するための要件
・商標は写実的に表現でき、識別性を有する必要がある(商標法2条(1)(zb))。
・非従来型の商標に関して、商標法に明文化されていないが、商標マニュアル(Manual of Trade Marks, 10/3/2015)に記載がある。ただし、同マニュアルは公開以来ドラフトのままとなっており、また、記事作成時点で非従来型商標の登録事例もない。
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4. 拒絶理由
実体審査では、商標出願にかかる商標が以下のすべての拒絶理由に該当しないことを判断する。
(a) 絶対的拒絶理由(商標法9条)
i)識別性を欠く
ii)記述的
iii)慣用的
iv)公衆を誤認、混同させる
v)宗教的感情を害するおそれがある
vi)抽象的または卑猥
vii)使用が禁止されている紋章や名称
viii)商品の内容に由来する形状
ix)技術的効果を得るための形状
x)商品に実質的な価値を付与する形状
(b) 相対的拒絶理由(商標法11条)
i)出願商標と同一であり、商品またはサービスが類似する先の商標があり、混同の可能性がある(商標法11条(1)(a))。
ii)出願商標と類似し、商品またはサービスが同一である先の商標があり、混同の可能性がある(商標法11条(1)(b))。
iii)出願商標と同一または類似し、商品またはサービスが類似しない先の周知商標がある。
5.商標の類否判断の概要
ある商標が他の商標と類似するため誤認または混同が生じる場合、それらの商標が類似するという(商標法2条(1)(h))。類似の判断にインドの裁判は英国の裁判所の判例を用いている。それによると、文字商標の場合は、①文字商標自体を比較し、外観および称呼について検討し、②当該商標が使用されている商品について検討し、③当該商品を購入する需要者について検討し、④当該商標について全事情を斟酌し、⑤両商標が各所有者の扱う商品に通常の方法で使用された場合に生じる実態について検討する。
6. 商標権の存続期間
・商標権の存続期間は出願日から10年である(商標法25条(1))。
・存続期間は、更新手数料を納付することにより、10年ごとに半永久的に延長できる。
インドにおける商標出願制度概要
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