日本とインドにおける意匠の新規性喪失の例外に関する比較
<日本における意匠出願の新規性喪失の例外>
日本においては、新規性を喪失した意匠の救済措置として、新規性喪失の例外規定が定められている。新規性喪失の例外規定の適用要件は以下のとおりである。
1 出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の意に反して公開されたこと(第4条第1項)または
2 出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の行為に基づいて公開されたこと(第4条第2項)
上記いずれの場合についても、以下の要件を満たす必要がある*)。
(1)権利者の行為に起因して公開された意匠の公開日から1年以内に意匠登録出願すること
(2)意匠登録出願時に意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けようとする旨を記載した
書面を提出すること(願書に【特記事項】の欄を加え、当該規定を受けようとする出願である旨を明記することで代用可能。)
(3)意匠登録出願の日から30日以内に、意匠の新規性喪失の例外規定の適用の要件を満たすことを証明する書面(証明書)を提出すること
*)意匠の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集(https://www.jpo.go.jp/system/design/shutugan/tetuzuki/ishou-reigai-tetsuduki/document/index/ishou-reigai-qa.pdf)
「証明書」には、意匠が公開された事実(公開日、公開場所、公開者、公開意匠の内容等)とともに、その事実を証明する者の署名、捺印等を記載することが必要である。なお、第三者によらず、出願人自身が署名・捺印したものであっても一定の証明力があるものとして許容される**)。
**)「意匠審査基準の改訂」、p115脚注(https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/document/isho_text_h29/shiryou_02.pdf)
条文等根拠:意匠法第4条
・日本意匠法 第4条(意匠の新規性の喪失の例外)
1 意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠は、その該当するに至った日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、同条第一項第一号又は第二号に該当するに至らなかったものとみなす。
2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項第一号又は第二号に該当するに至ったものを除く。)も、その該当するに至った日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、前項と同様とする。
3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。
4 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなった日から十四日(在外者にあっては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。
<インドにおける意匠出願の新規性喪失の例外>
インドにおける意匠の新規性喪失の例外規定については、以下の規定がある。中央政府に承認された博覧会での開示や意匠権者の意に反する開示について、新規性喪失の例外が認められている。博覧会での開示に関しては、開示日から6月以内に意匠出願する必要がある。インド意匠法第6条では、ある分類で既に登録された先行意匠登録と同一分類中であれば、(先登録意匠の物品とは)別の物品に関しても、一定条件のもと、意匠登録を取得できる特有の例外規定も存在する。
条文等根拠:意匠法第21条、第16条、第6条
注)インド意匠法原文(英語)ではdesign rightの代わりにcopyrightという用語が使用されているが、「登録された区分における物品に意匠を適用する排他的権利」と定義されている。
・インド意匠法 第21条(博覧会に係る規定)
官報の告示により中央政府によって本条が適用される産業その他の博覧会における博覧会開催期間中若しくはその後の意匠若しくは意匠適用物品の展示又は意匠表示の公開,又は何人かによる他の場所における博覧会開催期間中若しくはその後の意匠若しくは物品の展示又は意匠表示の公開であって,意匠所有者の黙認若しくは同意を得ないものは,当該意匠が登録されることを妨げるものではなく,又は,その登録を無効にするものではない。
ただし,次に掲げる事項を前提とする。
(a) 当該意匠若しくは物品を展示し,又は意匠表示を公開する展示者が,長官に対し所定の様式で事前通知をすること,及び
(b) 登録出願が,意匠若しくは物品の最初の展示日又は意匠表示の最初の公開日から6月以内にされること
・インド意匠法 第16条(開示の意匠権への影響)
意匠所有者による他人への意匠の開示であっても,当該他人が当該意匠を使用又は公開すれば誠意に反するような状況での開示,及び意匠所有者以外の者による誠意に反する意匠の開示,及び登録を意図する新規性又は創作性のある織物意匠を帯びる物品に対する最初のかつ非公開の受注については,当該意匠の登録が当該開示又は受注の後で得られるときは,当該意匠権を無効にする程の意匠の公開とはみなさない。
・インド意匠法 第6条 第3項(特定物品に関する登録)
(3) 意匠が,1物品区分に含まれた物品に関して既に登録されている場合は,当該物品区分に含まれた1又は2以上の他の物品に関する意匠所有者の登録出願は,次に掲げる理由で拒絶されることはなく,またその登録が無効にされることもない。
(a) 当該意匠がそのように先に登録された事実のみによって,当該意匠が新規性若しくは創作性を有する意匠でないとする理由,又は
(b) 当該意匠がそのように先に登録された物品に適用されている事実のみによって,当該意匠がインド若しくは何れかの外国において先に公開されているとする理由
ただし,そのように後にする登録は,当該意匠権期間が先の登録から発生する意匠権期間を超えないことを条件とする。
日本とインドにおける意匠の新規性喪失の例外に関する比較
|
日本 |
インド |
新規性喪失の例外の有無 |
有 |
有 |
例外期間 |
公開日から1年 |
公開日から6月 |
公知行為の限定 |
無 |
有 |
公知行為とは見做されない公開 |
1.出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の意に反して公開されたこと 2.出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の行為に基づいて公開されたこと |
1.創作者・意匠権者の意に反する、第三者による公開、および登録を意図する織物意匠を帯びる物品に対する最初のかつ非公開の受注について、意匠の登録が当該開示又は受注の後で得られるとき 2.中央政府による博覧会での公開 |
証明する書面(証明書) |
公開の事実等を記載した証明書を提出する必要がある |
博覧会での公開については長官に対する事前通知が必要である |
インドにおける意匠の表現に関する制度・運用
【詳細】
各国における意匠の表現に関する調査研究報告書(平成25年2月、日本国際知的財産保護協会)第II部、第III部、第Ⅳ部
(目次)
第II部 各国おける意匠の表現に関する制度・運用調査
インド p.101
第III部 海外アンケート調査
海外アンケート調査の目的と手法 p.193
海外アンケート調査の結果(一覧表及び別添資料) p.195
第Ⅳ部 海外ヒアリング調査
海外ヒアリング調査の目的と手法 p.213
海外ヒアリング調査の結果 p.215